(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
含酸素官能基を有する活性炭であり、該含酸素官能基を有する活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上であり、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある含酸素官能基を有する活性炭に、シラノール化合物を含有する被処理空気を接触させて、シラノール化合物を二量化させ、生成した該シラノール化合物の二量体を、該含酸素官能基を有する活性炭に吸着させることにより、該被処理空気中の該シラノール化合物を除去することを特徴とするシラノール化合物の除去方法。
前記細孔容積分布において、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合が、70〜100%であることを特徴とする請求項1記載のシラノール化合物の除去方法。
前記含酸素官能基を有する活性炭は、前記含酸素官能基として、少なくとも、カルボニル基、水酸基、ラクトン基及びカルボキシル基のうちの1種又は2種以上を有することを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のシラノール化合物の除去方法。
含酸素官能基を有する活性炭であり、該含酸素官能基を有する活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上であり、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある含酸素官能基を有する活性炭が用いられていることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のシラノール化合物の除去方法を実施するためのケミカルフィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のシラノール化合物の除去方法は、含酸素官能基を有する活性炭であり、該含酸素官能基を有する活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上であり、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある含酸素官能基を有する活性炭に、シラノール化合物を含有する被処理空気を接触させて、シラノール化合物を二量化させ、生成した該シラノール化合物の二量体を、該含酸素官能基を有する活性炭に吸着させることにより、該被処理空気中の該シラノール化合物を除去することを特徴とするシラノール化合物の除去方法である。
【0020】
本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭は、含酸素官能基が導入されている活性炭である。つまり、含酸素官能基を有する活性炭とは、活性炭の炭素原子に、含酸素官能基が結合している活性炭である。言い換えると、本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭は、酸化処理された活性炭であり、酸化処理により含酸素官能基が導入された活性炭である。
【0021】
含酸素官能基としては、カルボニル基、水酸基、ラクトン基、カルボキシル基、キノン基、無水カルボン酸基等が挙げられる。そして、含酸素官能基を有する活性炭は、含酸素官能基として、少なくとも、カルボニル基、水酸基、ラクトン基及びカルボキシル基のうちの1種又は2種以上を有することが好ましく、少なくとも、カルボニル基、水酸基、ラクトン基及びカルボキシル基を有することが特に好ましい。
【0022】
含酸素官能基を有する活性炭の1g当たりの含酸素官能基の量は、0.5mmol/g以上、好ましくは0.8〜3.0mmol/g、特に好ましくは1.0〜2.5mmol/gである。含酸素官能基を有する活性炭の1g当たりの含酸素官能基の量が、上記範囲にあることにより、シラノール化合物の除去効果が高くなる。
【0023】
なお、含酸素官能基を有する活性炭の1g当たりの含酸素官能基の量及び各官能基の量は、以下のようにして求められる。先ず、含酸素官能基を有する活性炭を、115℃に調節した恒温乾燥器で8〜10時間真空乾燥後、乾燥剤としてシリカゲルを入れたデシケータ中で放冷する。次いで、4個の50ml共栓三角フラスコ(A、B、C、D)を用意し、各三角フラスコに、冷却した活性炭1gを0.1mgまで正確に量り取る。次いで、三角フラスコ(D)にN/10炭酸水素ナトリウム水溶液を、三角フラスコ(C)にN/10炭酸ナトリウム水溶液を、三角フラスコ(B)にN/10水酸化ナトリウム水溶液を、三角フラスコ(A)にN/10ナトリウムエトキシドエタノール溶液を、25ml加え、160rpm、25℃にて24時間振盪する。振盪後、遠心分離にて上澄みと沈殿に分離し、上澄み液10mlを20mlビーカーに正確に量り、pH計を用いてpHが4になるまで、N/10塩酸で滴定する。次いで、塩酸滴定量から、次式により、活性炭1g当たりの各塩基の消費量を算出する。
塩基消費量(mmol/g)=(0.1×(10−HCl滴定量)×25)/10
滴定の結果、炭酸水素ナトリウムの消費量がD(mmol/g)、炭酸ナトリウムの消費量がC(mmol/g)、水酸化ナトリウムの消費量がB(mmol/g)、ナトリウムエトキシドの消費量がA(mmol/g)であった場合、活性炭1g当たりの含酸素官能基の量は「A(mmol/g)」であり、また、カルボニル基の量は「A−B(mmol/g)」、水酸基の量は「B−C(mmol/g)」、ラクトン基の量は「C−D(mmol/g)」、カルボキシル基の量は「D(mmol/g)」となる。
【0024】
本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭は、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが、0.8〜1.1nm、好ましくは0.9〜1.0nmにある。含酸素官能基を有する活性炭の微分細孔容積分布におけるマイクロ孔のピークのピークトップが上記範囲にあることにより、シラノール化合物の除去効果が高く、且つ、被被処理空気の相対湿度が50〜55%であっても、45%程度以下の場合と比べたときのシラノール化合物の除去効果の低下を小さくすることができるという効果を奏する。
【0025】
窒素吸着等温線とは、窒素ガス吸着法により、材料を一定温度にし、圧力と吸着量の変化を測定したものである。MP法とは、吸着剤(多孔質炭素材料)に窒素を吸着させることにより、吸着等温線を求め、そして、この吸着等温線を吸着層の厚さtに対する細孔容積に変換し(tプロットする)、そして、このプロットの曲率(吸着層の厚さtの変化量に対する細孔容積の変化量)に基づき細孔分布曲線を得るものである。窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布とは、窒素吸着等温線からMP法により算出される細孔径とその体積の関係を示すものであり、
図1に示すように、横軸に細孔径(nm)を、縦軸にdV/dD(細孔径D(nm)の変化量に対する細孔容積V(cm
3/g)の変化割合)をプロットして得られる細孔容積に関する分布図である。なお、
図1は、活性炭の微分細孔容積分布を示す模式的なグラフである。
【0026】
そして、微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにあるとは、微分細孔容積分布図のマイクロ孔の範囲に見られるピークのピークトップの位置が、0.8〜1.1nmの範囲にあることを指す。なお、マイクロ孔とは、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔を指す。よって、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある活性炭では、マイクロ孔である0nmより大きく2nm以下の細孔について、窒素吸着等温線からMP法により、細孔径に対するdV/dDの値を求めたときに、dV/dDの最大値となるときの細孔径の値が、0.8〜1.1nmの範囲にある。
【0027】
図1中、符号Xの微分細孔容積分布は、0nmより大きく2nm以下の範囲では、細孔径が0.9nmの位置にピークトップがある。よって、符号Xの微分細孔容積分布を有する活性炭では、微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.9nmにある。また、
図1中、符号Yの微分細孔容積分布は、0nmより大きく2nm以下の範囲では、細孔径が0.7nmの位置にピークトップがある。よって、符号Yの微分細孔容積分布を有する活性炭では、微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.7nmにある。
【0028】
本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭は、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合((細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の総和(cm
3/g)/細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積の総和(cm
3/g))×100)が、好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%、更に好ましくは90〜100%である。含酸素官能基を有する活性炭の微分細孔容積分布における細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合が上記範囲にあることにより、シラノール化合物の除去効果が高く、且つ、被処理空気の相対湿度が50〜55%であっても、45%程度以下の場合と比べたときのシラノール化合物の除去効果の低下を小さくすることができるという効果が高まる。
【0029】
本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭のBET比表面積は、好ましくは1700m
2/g以上、特に好ましくは1900〜2600m
2/gである。含酸素官能基を有する活性炭のBET比表面積が上記範囲にあることにより、シラノール化合物の除去効果が高く、且つ、被処理空気の相対湿度が50〜55%であっても、45%程度以下の場合と比べたときのシラノール化合物の除去効果の低下を小さくすることができるという効果が高まる。
【0030】
本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭のマイクロ孔容積は、好ましくは1.0cm
3/g以上、特に好ましくは1.05〜1.25cm
3/gである。なお、マイクロ孔容積とは、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積の総和を指す。含酸素官能基を有する活性炭のマイクロ孔容積が上記範囲にあることにより、シラノール化合物の除去効果が高く、且つ、被処理空気の相対湿度が50〜55%であっても、45%程度以下の場合と比べたときのシラノール化合物の除去効果の低下を小さくすることができるという効果が高まる。
【0031】
本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭は、マイクロ孔以外に、細孔径が2nmを超え50nm以下であるメソ孔、及び細孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する。
【0032】
含酸素官能基を有する活性炭を製造する方法としては、活性炭を気相又は液相で酸化する方法が挙げられる。
【0033】
含酸素官能基を有する活性炭の製造の原料となる活性炭としては、特に制限されないが、ヤシ殻系活性炭、木質炭系活性炭、ピッチ系活性炭、フェノール樹脂系活性炭が挙げられる。原料活性炭の物性又は性状は、製造目的とする含酸素官能基を有する活性炭の物性又は性状に合わせて、適宜選択される。
【0034】
活性炭を気相で酸化する方法としては、活性炭を、オゾンガスで酸化する方法、塩素ガスで酸化する方法、空気中で加熱することにより空気酸化する方法、酸素処理と窒素酸化物処理の併用、酸素ガス又は空気による低温プラズマ処理等が挙げられる。
【0035】
また、活性炭を液相で酸化する方法としては、活性炭を、オゾン水溶液、硝酸水溶液、過酸化水素水溶液、硫酸溶液、塩素酸溶液、ヨウ素酸溶液、次亜塩素酸溶液、臭素水溶液、過マンガン酸カリウム溶液等に浸漬する方法が挙げられる。液相での活性炭の酸化を行った後は、酸化処理された活性炭を、純水で十分に洗浄し、80〜120℃程度で乾燥する。
【0036】
活性炭の酸化条件は、適宜選択されるが、活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が、0.5mmol/g以上となる条件、好ましくは0.8〜3.0mmol/gとなる条件、特に好ましくは1.0〜2.5mmol/gとなる条件が選択される。
【0037】
そして、活性炭を酸化することにより、活性炭の炭素の一部が酸化されて、含酸素官能基へと変換され、含酸素官能基を有する活性炭が得られる。
【0038】
本発明のシラノール化合物の除去方法では、含酸素官能基を有する活性炭には、シラノール化合物を含有する被処理空気を接触させる。
【0039】
被処理空気は、特に制限されないが、例えば、半導体製造用の露光装置の光学系設置空間の空気等のシラノール化合物を含有する空気である。
【0040】
被処理空気に含有されているシラノール化合物は、シラノール基(−Si−OH)を有する化合物である。シラノール化合物としては、分子量が300以下のシラノール化合物が好ましく、分子量が200以下のシラノール化合物が特に好ましい。更に好ましくは、シラノール化合物としては、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール等が挙げられる。そして、本発明のシラノール化合物の除去方法では、被処理空気がトリメチルシラノールを含有する場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0041】
被処理空気中のシラノール化合物の含有量は、特に制限されないが、例えば、半導体製造用の露光装置の光学系設置空間の空気の場合、通常、0.3〜8.0ppbである。
【0042】
含酸素官能基を有する活性炭に被処理空気を接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、含酸素官能基を有する活性炭を充填容器に充填して、含酸素官能基を有する活性炭層を形成し、その活性炭層に被処理空気を通過させる方法、含酸素官能基を有する活性炭を担体に担持し、その担体内に被処理空気を通過させる方法等が挙げられる。
【0043】
含酸素官能基を有する活性炭に被処理空気を接触させるときの温度は、5〜40℃、好ましくは10〜30℃である。
【0044】
含酸素官能基を有する活性炭に被処理空気を接触させるときの被処理空気の供給は、被処理空気中のシラノール化合物の含有量、含酸素官能基を有する活性炭の使用量等により、適宜選択される。
【0045】
本発明のシラノール化合物の除去方法では、含酸素官能基を有する活性炭にシラノール化合物を含有する被処理空気を接触させることにより、下記式(1)に示すように、含酸素官能基を有する活性炭中の含酸素官能基の酸素原子の非共有電子対と、シラノール化合物中のシラノール基の水素原子とが結合し、次いで、近隣に存在している含酸素官能基の酸素原子の非共有電子対にシラノール基の水素原子が結合している2つのシラノール化合物が、脱水縮合して、二量化するものと考えられる。二量化反応は、「2R
3SiOH→R
3SiOSiR
3+H
2O」である。
式(1):
【0047】
本発明者らは、活性炭に導入されている含酸素官能基の作用により、5〜40℃、好ましくは10〜30℃の低温でも、シラノール化合物の二量化が起こること、及びシラノール化合物を二量化することにより、除去対象物の分子量を大きくすることができるので、活性炭に吸着され易くすることができること、活性炭中の含酸素官能基の量を特定の範囲とすることにより、シラノール化合物の除去効果が高くなることを見出した。そして、含酸素官能基を有する活性炭の1g当たりの含酸素官能基の量を、0.5mmol/g以上、好ましくは0.8〜3.0mmol/g、特に好ましくは1.0〜2.5mmol/gとすることにより、シラノール化合物の除去効果が高くなることを見出した。そのため、本発明のシラノール化合物の除去方法によれば、従来、分子量が小さいために、活性炭では吸着除去し難いと考えられていたトリメチルシラノール等の低分子量のシラノール化合物であっても、活性炭に吸着させて除去することができる。また、本発明のシラノール化合物の除去方法によれば、5〜40℃、好ましくは10〜30℃と低温で、被処理空気中のシラノール化合物の除去を行うことができる。
【0048】
更に、本発明者らは、含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上、好ましくは0.8〜3.0mmol/g、特に好ましくは1.0〜2.5mmol/gである含酸素官能基を有する活性炭であっても、細孔径が小さいマイクロ孔を多く有する活性炭は、被処理空気の相対湿度が50〜55%になると、45%程度以下の場合に比べ、シラノール化合物の除去性能が低くなってしまうことを見出した。そして、相対湿度と活性炭の水分吸着量との関係について検討を重ねたところ、微分細孔容積分布におけるマイクロ孔のピークのピークトップが0.8nm未満にある活性炭は、相対湿度を低湿度から高湿度に変化させた場合、相対湿度が45%程度以下では、空気中の水分を殆ど吸収しないが、相対湿度が45%程度より高くなると水分を吸収し始め、相対湿度が50%程度より高くなると水分の吸収量が多くなること、それに対して、微分細孔容積分布におけるマイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある活性炭は、相対湿度を低湿度から高湿度に変化させた場合、相対湿度が55%程度以下では、空気中の水分を殆ど吸収せず、水分を吸収し始めるのは相対湿度55%程度より高くなったときであり、水分の吸収量が多くなり始めるのは相対湿度60%程度より高くなったときであることを見出した。これらのことから、1g当たりの含酸素官能基の量が、0.5mmol/g以上、好ましくは0.8〜3.0mmol/g、特に好ましくは1.0〜2.5mmol/gである含酸素官能基を有する活性炭について、その細孔分布を調節して、微分細孔容積分布におけるマイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにあるようにすることにより、被処理空気の相対湿度が45%より高く55%以下であっても、更には、50〜55%であっても、45%以下の場合と比べたときのシラノール化合物の除去性能の低下を小さくすることができることを見出した。
【0049】
このことから、本発明のシラノール化合物の除去方法では、被処理空気の相対湿度を45%より高く55%以下としても、更に、50〜55%としても、相対湿度を45%以下とした場合と比べたときのシラノール化合物の除去効果の低下が小さく、シラノール化合物の除去効果が高いという効果を示す。そのため、被処理空気の相対湿度が45%より高く55%以下である場合、更に、50〜55%である場合には、本発明のシラノール化合物の除去方法は、含酸素官能基の量が0.5mmol/g未満である含酸素官能基を有する活性炭を用いるシラノール化合物の除去方法に比べ、シラノール化合物の除去効果が高くなるという効果を有する。そして、更に、含酸素官能基を有する活性炭の微分細孔容積分布における細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合を上記範囲とすること、含酸素官能基を有する活性炭のBET比表面積を上記範囲とすること、含酸素官能基を有する活性炭のマイクロ孔容積を上記範囲とすること等により、効果が高くなる。
【0050】
また、本発明のシラノール化合物の除去方法では、被処理空気の相対湿度を45%より高く55%以下としても、更に、50〜55%としても、相対湿度を45%以下とした場合と比べたときのシラノール化合物の除去性能の低下を小さくすることができるので、被処理空気の相対湿度が30〜55%の範囲で、シラノール化合物の除去効果が高く且つ安定しているという効果を有する。そして、更に、含酸素官能基を有する活性炭の微分細孔容積分布における細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合を上記範囲とすること、含酸素官能基を有する活性炭のBET比表面積を上記範囲とすること、含酸素官能基を有する活性炭のマイクロ孔容積を上記範囲とすること等により、効果が高くなる。
【0051】
なお、本発明のシラノール化合物の除去方法は、被処理空気の相対湿度が45%以下である場合にも、含酸素官能基の量が0.5mmol/g未満である含酸素官能基を有する活性炭を用いるシラノール化合物の除去方法に比べ、シラノール化合物の除去効果が高くなるという効果を有する。そして、更に、含酸素官能基を有する活性炭の微分細孔容積分布における細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合を上記範囲とすること、含酸素官能基を有する活性炭のBET比表面積を上記範囲とすること、含酸素官能基を有する活性炭のマイクロ孔容積を上記範囲とすること等により、効果が高くなる。
【0052】
本発明のケミカルフィルタは、本発明のシラノール化合物の除去方法を実施するためのケミカルフィルタであり、含酸素官能基を有する活性炭であり、該含酸素官能基を有する活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上であり、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある含酸素官能基を有する活性炭が用いられていることを特徴とするケミカルフィルタである。
【0053】
本発明のケミカルフィルタに係る含酸素官能基を有する活性炭は、本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭と同様である。つまり、本発明のケミカルフィルタは、本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭が用いられている。
【0054】
本発明のケミカルフィルタとしては、含酸素官能基を有する活性炭であり、該含酸素官能基を有する活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上であり、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある含酸素官能基を有する活性炭が、通気性を有する充填容器に充填され、活性炭層が形成されているケミカルフィルタが挙げられる。
【0055】
また、本発明のケミカルフィルタとしては、含酸素官能基を有する活性炭であり、該含酸素官能基を有する活性炭1g当たりの含酸素官能基の量が0.5mmol/g以上であり、窒素吸着等温線からMP法により求められる微分細孔容積分布において、マイクロ孔のピークのピークトップが0.8〜1.1nmにある含酸素官能基を有する活性炭が、担体に担持されているケミカルフィルタが挙げられる。
【0056】
担体に含酸素官能基を有する活性炭が担持されている本発明のケミカルフィルタにおいて、含酸素官能基を有する活性炭が担持される担体としては、特に制限されず、ケミカルフィルタの担体として用いられるものであればよく、例えば、無機繊維で構成される無機繊維質基材(ペーパー)をハニカム構造やプリーツ構造に成形した無機繊維質担体、有機繊維で構成される有機繊維質基材(ペーパー)をハニカム構造やプリーツ構造に成形した有機繊維質担体等が挙げられる。これらのうち、担体としては、プリーツ構造が、単位体積あたりの活性炭量を増やせること、低圧力損失であることから、好ましい。
【0057】
担体に含酸素官能基を有する活性炭が担持されている本発明のケミカルフィルタでは、含酸素官能基を有する活性炭の担持方法は特に制限されない。例えば、担体に含酸素官能基を有する活性炭が担持されている本発明のケミカルフィルタにおいて、含酸素官能基を有する活性炭は、担体にバインダーを用いて担持されていてもよいし、また、無機繊維質又は有機繊維質のシートにより、含酸素官能基を有する活性炭が挟み込むまれることにより、担持されていてもよい。
【0058】
そして、本発明のケミカルフィルタ内に、シラノール化合物を含有する被処理空気、例えば、半導体製造用の露光装置の光学系設置空間の空気を導入し、ケミカルフィルタ内に被処理空気を通過させて、担体に担持されている含酸素官能基を有する活性炭に、被処理空気を接触させることにより、本発明のケミカルフィルタを用いて、本発明のシラノール化合物の除去方法を実施することができる。
【0059】
上述したように、本発明のシラノール化合物の除去方法に係る含酸素官能基を有する活性炭は、被処理空気の相対湿度が45%より高く55%以下、更には、50〜55%であっても、相対湿度が45%以下である場合と比べたときのシラノール化合物の除去性能の低下が小さく、シラノール化合物の除去性能が高いので、そのような活性炭が用いられている本発明のケミカルフィルタは、被処理空気の相対湿度が45%より高く55%以下である場合、更に、50〜55%である場合に、含酸素官能基の量が0.5mmol/g未満である含酸素官能基を有する活性炭を用いるケミカルフィルタに比べ、シラノール化合物の除去性能が高くなるという効果を有する。また、本発明のケミカルフィルタは、被処理空気の相対湿度が30〜55%の範囲で、シラノール化合物の除去性能が高く且つ安定しているという効果を有する。また、本発明のケミカルフィルタは、被処理空気の相対湿度が45%以下である場合にも、含酸素官能基の量が0.5mmol/g未満である含酸素官能基を有する活性炭を用いるケミカルフィルタに比べ、シラノール化合物の除去性能が高くなるという効果を有する。
【0060】
本発明の露光装置は、本発明のケミカルフィルタを有する露光装置である。
【0061】
本発明の露光装置に係るケミカルフィルタは、本発明のケミカルフィルタと同様である。
【0062】
本発明の露光装置の構造は、特に制限されず、通常、半導体の製造に用いられている露光装置であればよい。
【0063】
本発明の露光装置には、光学系部材と露光対象物が設置され外部空気とは遮断可能な光学系設置空間が設けられている。また、本発明の露光装置は、光学系設置空間内の空気を抜き出し、再び、光学系設置空間内に戻す光学系設置空間内の空気の循環経路と、クリーンルーム内の空気を光学系設置空間内に取り込む外部空気取り込み経路と、を有する。そして、本発明の露光装置では、循環経路中及び外部空気取り込み経路中のそれぞれに、本発明のケミカルフィルタが設置される。
【0064】
本発明の露光装置は、リレーレンズ系、コンデンサーレンズ系及び投影光学系レンズ(以下、光学系部材とも記載する。)並びに露光対象物の設置部を有する。そして、本発明の露光装置では、外部空気とは遮断可能な小室内に、光学系部材及び露光対象物が設置されることにより、光学系部材及び露光対象物が設置される設置部の空間(以下、光学系設置空間とも記載する。)は、外部空気とは遮断されている。
【0065】
本発明の露光装置は、光学系設置空間内の空気を抜き出し、再び、光学系設置空間内に戻す光学系設置空間内の空気の循環経路と、クリーンルーム内の空気を光学系設置空間内に取り込む外部空気取り込み経路と、を有し、その循環経路中と外部空気取り込み経路中のそれぞれに、本発明のケミカルフィルタが設置されている。そして、本発明の露光装置では、循環経路において、光学系設置空間から抜き出された光学系設置空間内の空気が、循環経路内に設置されているケミカルフィルタを通過することにより、抜き出された光学系設置空間内の空気中のシラノール化合物、特に、トリメチルシラノールが除去される。トリメチルシラノール等のシラノール化合物が除去された空気は、再び、光学系設置空間に戻される。また、本発明の露光装置では、外部空気取り込み経路において、クリーンルームから取り込こまれる空気が、外部空気取り込み経路内に設置されているケミカルフィルタを通過することにより、取り込まれたクリーンルーム内の空気中のシラノール化合物、特に、トリメチルシラノールが除去される。トリメチルシラノール等のシラノール化合物が除去された空気は、光学系設置空間に供給される。
【実施例】
【0066】
(分析方法及び評価方法)
<含酸素官能基量の測定方法>
測定対象の活性炭を、115℃に調節した恒温乾燥器で8〜10時間真空乾燥後、乾燥剤としてシリカゲルを入れたデシケータ中で放冷した。次いで、4個の50ml共栓三角フラスコ(A、B、C、D)を用意し、各三角フラスコに、冷却した活性炭1gを0.1mgまで正確に量り取った。次いで、三角フラスコ(D)にN/10炭酸水素ナトリウム水溶液を、三角フラスコ(C)にN/10炭酸ナトリウム水溶液を、三角フラスコ(B)にN/10水酸化ナトリウム水溶液を、三角フラスコ(A)にN/10ナトリウムエトキシドエタノール溶液を、25ml加え、160rpm、25℃にて24時間振盪した。振盪後、遠心分離にて上澄みと沈殿に分離し、上澄み液10mlを20mlビーカーに正確に量り、pH計を用いてpHが4になるまで、N/10塩酸で滴定した。次いで、塩酸滴定量から、次式により、活性炭1g当たりの各塩基の消費量を算出した。
塩基消費量(mmol/g)=(0.1×(10−HCl滴定量)×25)/10
炭酸水素ナトリウムの消費量がD(mmol/g)、炭酸ナトリウムの消費量がC(mmol/g)、水酸化ナトリウム水溶液の消費量がB(mmol/g)、ナトリウムエトキシドの消費量がA(mmol/g)であった場合、活性炭1g当たりの含酸素官能基量は「A(mmol/g)」であり、また、カルボニル基の量は「A−B(mmol/g)」、水酸基の量は「B−C(mmol/g)」、ラクトン基の量は「C−D(mmol/g)」、カルボキシル基の量は「D(mmol/g)」である。
【0067】
<微分細孔容積分布の測定>
測定対象の活性炭を、日本ベル株式会社製ベルソープminiで測定し、窒素吸着等温線を求めた。次いで、得られた窒素吸着等温線からMP法により、微分細孔容積分布を求めた。
【0068】
<トリメチルシラノールの除去試験>
図1に示すように、内径20mm、長さ300mmの中空ガラス管2内に、支持部材4で試験試料を挟み込むようにして、厚さ5mm又は7mm(被処理空気の通気方向の長さ)の試験試料層(活性炭層)3を形成させて、トリメチルシラノール除去試験装置1を作製した。
次いで、150ppbのトリメチルシラノール含有空気(温度:23℃、所定の相対湿度)を、ガス入口21から供給し、ガス出口22から排出して、試験試料層3に被処理空気を風速0.3m/秒で通気した。所定時間が経過する毎に、通気時のガス入口21側のトリメチルシラノール含有空気と、ガス出口22側のトリメチルシラノール含有空気を、専用の分析用炭素系吸着管にて捕集し、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析し、各捕集空気のトリメチルシラノール濃度を分析した。下記式により、各経時時間のトリメチルシラノール除去率を求めた。
トリメチルシラノール除去率(%)=((入口側のトリメチルシラノール濃度−出口側のトリメチルシラノール濃度)/入口側のトリメチルシラノール濃度)×100
【0069】
<90%除去寿命>
上記トリメチルシラノールの除去試験で求めたトリメチルシラノールの除去率の経時変化から、トリメチルシラノールの除去率が90%に達する時間を、90%除去寿命(時間)とした。
【0070】
(実施例1)
破砕形状の平均粒径が32/60メッシュ(0.25〜0.50mm)、比表面積が2400m
2/gである活性炭a 20gを、1%オゾン雰囲気に8時間曝露して、酸化を行った。得られた含酸素官能基を有する活性炭Aの含酸素官能基量を測定したところ、含酸素官能基量は1.25mmol/g、カルボニル基量は0.41mmol/g、水酸基量は0.45mmol/g、ラクトン基量は0.23mmol/g、カルボキシル基量は0.16mmol/gであった。また、含酸素官能基を有する活性炭Aの微分細孔容積分布を求めたところ、マイクロ孔のピークのピークトップの位置は、0.9nmであり、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合は、94%であった。また、含酸素官能基を有する活性炭Aの比表面積は2400m
2/gであり、細孔径0nmより大きく2nm以下のマイクロ孔容積は1.12cm
3/gであった。
次いで、
図1に示すトリメチルシラノール除去試験装置1に、含酸素官能基を有する活性炭Aを充填し、150ppbのトリメチルシラノール含有空気として、温度が23℃、相対湿度が表1に示す相対湿度の150ppbのトリメチルシラノール含有空気を用いて、トリメチルシラノールの除去試験を行った。その結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
(比較例1)
破砕形状の平均粒径が32/60メッシュ(0.25〜0.50mm)、比表面積が1500m
2/gである活性炭b 20gを、1%オゾン雰囲気に8時間曝露して、酸化を行った。得られた含酸素官能基を有する活性炭cの含酸素官能基量を測定したところ、含酸素官能基量は1.57mmol/g、カルボニル基量は0.35mmol/g、水酸基量は0.59mmol/g、ラクトン基量は0.33mmol/g、カルボキシル基量は0.30mmol/gであった。また、含酸素官能基を有する活性炭cの微分細孔容積分布を求めたところ、マイクロ孔のピークのピークトップの位置は、0.7nmであり、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合は、43%であった。また、含酸素官能基を有する活性炭cの比表面積は1500m
2/gであり、細孔径0nmより大きく2nm以下のマイクロ孔容積は0.65cm
3/gであった。
次いで、
図1に示すトリメチルシラノール除去試験装置1に、含酸素官能基を有する活性炭cを充填し、150ppbのトリメチルシラノール含有空気として、温度が23℃、相対湿度が表2に示す相対湿度の150ppbのトリメチルシラノール含有空気を用いて、トリメチルシラノールの除去試験を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
(比較例2)
破砕形状の平均粒径が32/60メッシュ(0.25〜0.50mm)、比表面積が1500m
2/gである活性炭bの含酸素官能基量を測定したところ、含酸素官能基量は0.39mmol/g、カルボニル基量は0.14mmol/g、水酸基量は0.20mmol/g、ラクトン基量は0.02mmol/g、カルボキシル基量は0.03mmol/gであった。また、活性炭bの微分細孔容積分布を求めたところ、マイクロ孔のピークのピークトップの位置は、0.7nmであり、細孔径が0nmより大きく2nm以下の細孔の細孔容積に対する細孔径が0.7〜1.2nmの細孔の細孔容積の割合は、43%であった。また、活性炭bの比表面積は1500m
2/gであり、細孔径0nmより大きく2nm以下のマイクロ孔容積は0.65cm
3/gであった。
次いで、
図1に示すトリメチルシラノール除去試験装置1に、含酸素官能基を有する活性炭bを充填し、150ppbのトリメチルシラノール含有空気として、温度が23℃、相対湿度が表3に示す相対湿度の150ppbのトリメチルシラノール含有空気を用いて、トリメチルシラノールの除去試験を行った。その結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
実施例1、比較例1及び比較例2の活性炭の90%除去寿命と被処理空気の相対湿度の関係を、
図3に示す。この結果から分かるように、実施例1の活性炭Aは、相対湿度が35〜55%の全範囲で、比較例2の活性炭bに比べ、除去寿命特性が高くなり、また、相対湿度50〜55%での除去寿命特性は、相対湿度が45%以下の場合と比べたときの除去寿命特性の低下が小さく、相対湿度が35〜55%で安定した除去性能を有することが分かった。一方、比較例1の活性炭cは、相対湿度が45%以下だと、比較例2の活性炭bに比べ、非常に高い除去寿命特性を示すものの、相対湿度が50%以上になると、相対湿度が45%以下の場合に比べて、除去寿命特性が大きく低下し、相対湿度が55%の場合には、比較例2の活性体bよりも除去寿命特性が低くなってしまった。
【0077】
(シラノール化合物の二量体の吸着量の分析)
実施例1−A、比較例1−B及び比較例2−Bにおいて、トリメチルシラノール除去試験を行った後の活性炭(実施例1では217.3時間試験後のもの、比較例1では234.1時間試験後のもの、比較例2では99.3時間試験後のもの)を、それぞれ、バイアル瓶に0.1g採取した。次いで、バイアル瓶に、ジクロロメタン2mLを加えてから振とうし、抽出を行った。次いで、抽出液を、GC−MSにて定量分析し、活性炭に吸着されていた物質中のトリメチルシラノールとトリメチルシラノールの二量体の比率を求めた。その結果、実施例1−Aでは、トリメチルシラノールが5質量%、トリメチルシラノールの二量体が95質量%であった。また、比較例1−Bでは、トリメチルシラノールが12質量%、トリメチルシラノールの二量体が88質量%であった。また、比較例2−Bでは、トリメチルシラノールが76質量%、トリメチルシラノールの二量体が24質量%であった。