特許第6156501号(P6156501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156501
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】クロマトグラムデータ処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20170626BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   G01N30/86 J
   G01N30/86 D
   G01N30/74 E
   G01N30/86 G
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-534023(P2015-534023)
(86)(22)【出願日】2014年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2014063364
(87)【国際公開番号】WO2015029508
(87)【国際公開日】20150305
【審査請求日】2015年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-181306(P2013-181306)
(32)【優先日】2013年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 悦輔
(72)【発明者】
【氏名】三浦 宏
(72)【発明者】
【氏名】水戸 康敬
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 年伸
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−184166(JP,A)
【文献】 特開2005−106537(JP,A)
【文献】 特開2000−266738(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035639(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0080073(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0201085(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 時間、波長、及び吸光度をディメンジョンとする3次元クロマトグラムデータを記憶する3次元データ記憶部と、
b) 前記3次元クロマトグラムデータの中から、目的成分の吸収波長である特定波長におけるデータを抽出し、該特定波長における時間と吸光度との関係を示す波長クロマトグラムを作成する波長クロマトグラム作成部と、
c) 作成された前記波長クロマトグラムのピークを検出するピーク検出部と、
d) 検出された前記ピークにおける不純物の有無を、前記3次元クロマトグラムデータに基づく2つ以上の検出方法により検出する不純物検出部と、
e) 前記2つ以上の検出方法によって得られた不純物検出のためのグラフを、前記波長クロマトグラムに重ねて表示する表示部と
を備えることを特徴とするクロマトグラムデータ処理装置。
【請求項2】
さらに、
f) 前記不純物検出部で用いる前記2つ以上の検出方法を選択し、又は前記2つ以上の検出方法において設定されるパラメータを入力するための入力部
を備えることを特徴とする請求項1に記載のクロマトグラムデータ処理装置。
【請求項3】
前記2つ以上の検出方法は、前記波長クロマトグラムにおける目的ピークのピーク頂点に対応した時間T0での吸光度スペクトルと、その前後の任意の時間Tでの吸光度スペクトルとの一致度を算出する一致度判定法、吸光度スペクトルについて目的成分の極大又は極小吸収波長における波長方向の微分係数を求め、該微分係数の時間変化を表す微分クロマトグラムの波形にピークが現れた場合不純物を含むと判定する微分スペクトル法、及び前記目的ピーク上のスペクトルとリファレンススペクトルの類似度と、ノイズ成分を考慮した両スペクトルの類似度を比較することにより不純物の有無を判定するピュリティ判定法から成る群から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載のクロマトグラムデータ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ、特に液体クロマトグラフ(LC)のカラムで分離された成分を含む試料やフローインジェクション法により導入された試料を分光分析して得られたクロマトグラムのピークに不純物が含まれるか否かを判定した結果を表示するデータ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検出器としてPDA(Photo Diode Array)検出器等のマルチチャンネル型検出器を用いた液体クロマトグラフでは、移動相への試料の注入時点を基点とし、カラムからの溶出液に対して吸光度スペクトルを繰り返し取得することで、時間、波長、及び吸光度という三つのディメンジョンを持つ3次元クロマトグラムデータを得ることができる。図9はこのような3次元クロマトグラムデータの模式図である。この3次元クロマトグラムデータの中から特定の波長における時間−吸光度データを抽出することで、その特定波長におけるクロマトグラム(波長クロマトグラム)を作成することができる。また、上記3次元クロマトグラムデータの中から特定の時点における波長−吸光度データを抽出することで、該時点における吸光度スペクトルを作成することもできる。
【0003】
こうした液体クロマトグラフにおいて、既知である目的成分の定量分析を行う場合には、その目的成分に対応した吸収波長における波長クロマトグラムを求め、そのクロマトグラムに現れる目的成分由来のピークの面積(又は高さ)を検量線に照らして定量値を算出するのが一般的である。
【0004】
このように目的成分を定量する際に、波長クロマトグラムに現れているピークがその目的成分のみに由来するものであれば問題はない。しかし、ピークは必ずしも単一成分(目的成分)によるものとは限らず分析者が意図しない不純物(すなわち、目的成分以外の成分)を含んでいる場合がよくある。そこで従来より、クロマトグラムに現れている或るピークが目的成分のみに由来するのか、或いは不純物を含んでいるのかを調べる、ピーク純度判定処理が行われている。
【0005】
例えば特許文献1及び2には、時間、波長、及び吸光度という三つのディメンジョンを持つ3次元クロマトグラムデータから得られるクロマトグラムにおけるピーク純度判定処理の手法が開示されている。
特許文献1に開示の手法では、目的成分に対応した吸収波長における波長クロマトグラムにおける目的ピークのピーク頂点に対応した時間T0での吸光度スペクトルをS0(λ)、その前後の任意の時間Tでの吸光度スペクトルをS(λ)とし、次の(1)式により、S0(λ)とS(λ)との一致度Pを算出する。
【数1】
そして、図10に示すように、一致度Pが1.0〜0.8であれば緑色、0.8〜0.6であれば黄色、0.6以下であれば橙色というように、目的ピークをそのピーク頂点との一致度Pに応じた色(図中では網掛けで表現している)によって時間軸方向に分割表示する。目的ピークが目的成分のみに由来する場合、図10(a)に示すように、一致度Pはピーク頂点付近で高く、ピーク頂点から遠ざかるほど低くなり、その分割表示された形状はピークの中心軸を挟んで概ね左右対称となる。これに対し、目的ピークのピーク頂点の前又は後に別のピークが存在する場合(即ち、目的ピークが不純物を含んでいる場合)には、別のピークが含まれる時間範囲の一致度Pが低下するため、目的ピークのピーク頂点の前又は後で一致度Pが異なる。例えば図10(b)に示した例では、ピーク頂点を挟んで、左側に比べて右側(時間的に後ろ側)の一致度Pが低くなり、分割表示された形状は左右非対称となる。これにより、この付近の時間範囲において不純物が含まれる可能性が高いと判断することができる(以下、この方法を「一致度判定法」という)。
【0006】
特許文献2に開示の手法では、3次元クロマトグラムデータから目的成分に対応した吸収波長における波長クロマトグラムを作成し、該波長クロマトグラムにおける目的成分に由来する目的ピークの始点から終点までの時間範囲において、各時点の吸光度スペクトルについて目的成分の吸光度スペクトルの極大又は極小吸収波長における微分係数を求める。目的ピークに目的成分しか含まれない場合は該微分係数はゼロであるが、目的ピークに不純物が含まれる場合は該微分係数はゼロ以外の値となる。そこで、該微分係数の時間変化を表すクロマトグラム(以下、このクロマトグラムを「微分クロマトグラム」という)を作成し、この波形にピークが現れた場合(図11の点線)に不純物が含まれると判定する方法が開示されている(以下、この方法を「微分スペクトル法」という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2936700号公報
【特許文献2】国際公開WO2013/035639号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】水戸 康敬,北岡 光夫著「島津HPLC用フォトダイオードアレイ UVーVIS検出器SPDーM6A」島津評論,Vol.46 No.1,pp.21-28,1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の一致度判定法では、目的ピークのピーク頂点に対応した時間Tでの吸光度スペクトルを基準にして、ピーク頂点の前後の吸光度スペクトルとの一致度Pを算出する。このため、ピーク頂点のすぐ近傍に不純物ピークが存在する場合は、不純物の存在を正しく判定することができない。
【0010】
一方、特許文献2に記載の微分スペクトル法では、目的成分の吸光度スペクトルの微分値がゼロとなる波長において不純物の吸光度スペクトルの微分値もゼロとなる場合、微分クロマトグラムに不純物のピークが現れないため、不純物を検出することができない。
【0011】
このように、目的ピークに不純物が含まれるか否かを判定する方法がいくつか提案されているが、目的成分の吸収波長と不純物の吸収波長の関係によっては不純物の存在を正しく検出できない場合がある。
なお、ここでは、一方を目的成分、他方を不純物とする場合を例に挙げて説明したが、二つ以上の目的成分を含む試料のクロマトグラムにおいて、目的ピークに含まれる成分が単一成分であるか複数成分であるかを判定する場合に置き換えることもできる。
【0012】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的は、目的成分に由来する目的ピークに不純物が含まれているか否かを容易に判定することができるクロマトグラムデータ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラムデータ処理装置は、
a) 時間、波長、及び吸光度をディメンジョンとする3次元クロマトグラムデータを記憶する3次元データ記憶部と、
b) 前記3次元クロマトグラムデータの中から、目的成分の吸収波長である特定波長におけるデータを抽出し、該特定波長における時間と吸光度との関係を示す波長クロマトグラムを作成する波長クロマトグラム作成部と、
c) 作成された前記波長クロマトグラムのピークを検出するピーク検出部と、
d) 検出された前記ピークにおける不純物の有無を、前記3次元クロマトグラムデータに基づく2つ以上の検出方法により検出する不純物検出部と、
e) 前記2つ以上の検出方法によって得られた不純物検出のためのグラフを、前記波長クロマトグラムに重ねて表示する表示部と
を備えることを特徴とする。
【0014】
なお、ここでいう「2つ以上の検出方法」には、検出原理は同じであるが使用するパラメータが異なる場合を含む。具体的には例えば、後述するように、微分スペクトル法において使用する波長(微分波長)が異なる場合、異なる検出方法として扱う。
【0015】
本発明に係るクロマトグラムデータ処理装置によると、目的成分の吸収波長である特定波長におけるピークにおける不純物の有無は、記憶された3次元クロマトグラムデータを2つ以上の検出方法でデータ解析することにより検出され、その結果作成された2つ以上の不純物検出のためのグラフが、該特定波長におけるクロマトグラムに重ねて表示部に表示される。ここで、この2つ以上のグラフは、全て同時に特定波長クロマトグラムに重畳表示してもよいし、オペレータの指定により任意の2つ以上のグラフを重畳表示させるようにしてもよい。
【0016】
本発明に係るクロマトグラムデータ処理装置は、さらに、
f) 前記不純物検出部で用いる前記2つ以上の検出方法を選択し、又は前記2つ以上の検出方法において設定されるパラメータ(以下、「設定パラメータ」という)を入力するための入力部
を備えることが望ましい。
【0017】
前記2つ以上の検出方法は、一致度判定法、微分スペクトル法、ピュリティ判定法から成る群から選択されることが望ましい。前述のように、一致度判定法は、前記波長クロマトグラムにおける目的ピークのピーク頂点に対応した時間T0での吸光度スペクトルと、その前後の任意の時間Tでの吸光度スペクトルとの一致度を算出するものである。微分スペクトル法は、吸光度スペクトルについて目的成分の極大又は極小吸収波長における波長方向の微分係数を求め、該微分係数の時間変化を表す微分クロマトグラムの波形にピークが現れた場合不純物を含むと判定するものである。ピュリティ判定法は、詳細は後述するが、前記目的ピーク上のスペクトルとリファレンススペクトルの類似度と、ノイズ成分を考慮した、類似度のしきい値を比較することにより不純物の有無を判定するものである。
また、設定パラメータは、例えば、波長クロマトグラムを作成するための目的成分の吸収波長の一つである特定波長や、微分スペクトル法で必要な目的成分の極大又は極小吸収波長などである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るクロマトグラムデータ処理装置によれば、不純物の有無は2つ以上の検出方法により検出され、その結果得られた2つ以上の不純物の有無を検出するためのグラフが、目的成分の吸収波長である特定波長の波長クロマトグラムに重ねて表示部に表示される。1つの検出方法では不純物の存在が検出されない場合でも、他の検出方法によれば不純物の存在を認識できることがあるため、目的クロマトグラムピークにおける不純物の存否の判断をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施例のクロマトグラムデータ処理装置を備えた液体クロマトグラフの概略構成図。
図2】同実施例のクロマトグラムデータ処理装置におけるピーク純度判定処理動作を示すフローチャート。
図3】同実施例のクロマトグラムデータ処理装置における不純物検出のためのグラフを作成する動作を示すフローチャート。
図4】ピュリティ判定法における不純物の有無を検出するためのグラフ(ピュリティ曲線)の一例を示す図。
図5】第1実施例のクロマトグラムデータ処理装置による処理が終了した後の表示部の表示の一例を示す図。
図6】第2実施例のクロマトグラムデータ処理装置におけるピーク純度判定処理動作を示すフローチャート。
図7】同実施例のクロマトグラムデータ処理装置における不純物検出のためのグラフを作成する動作を示すフローチャート。
図8】同実施例のクロマトグラムデータ処理装置による処理が終了した後の表示部の表示の一例を示す図。
図9】3次元クロマトグラムデータ、及び該3次元クロマトグラムデータから作成される極大又は極小吸収波長クロマトグラムを示す模式図。
図10】一致度判定法により得られる結果の表示例であり、(a)は不純物を含まないピークの例、(b)は不純物を含むピークの例。
図11】微分スペクトル法により得られる結果である微分クロマトグラムの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るクロマトグラムデータ処理装置のいくつかの実施例について図面を参照して説明する。まず、本実施例において用いる、ピーク純度を判定するための方法について以下に説明する。
[ピーク純度を判定するための方法]
本実施例では、一致度判定法、微分スペクトル法、及びピュリティ判定法を用いる。一致度判定法と微分スペクトル法については「背景技術」の欄で説明したため、ここではピュリティ判定法による不純物の有無の判定原理を簡単に説明する。なお、ピュリティ判定法については、例えば非特許文献1に説明されている。
ピュリティ判定法では、クロマトグラムピーク内のスペクトル(実測スペクトル)とリファレンススペクトルの類似度(SI)を計算し、その値と、ノイズ成分を勘案した、類似度のしきい値(t)を比較する。実測スペクトルとリファレンススペクトルの類似度(SI)が該しきい値(t)以上である場合、両者はほぼ同一成分に由来するものと判断される。逆に、両者の類似度(SI)がしきい値(t)よりも小さい場合、該クロマトグラムピークには不純物が存在すると判断される。
ここで2つのスペクトルの類似度SIは、次のように計算される。1つのスペクトルは、各波長における強度の値の並びとして考えることができるため、各波長における強度の値を要素とするベクトルで表すことができる。具体的には、波長λiにおける強度をa(λi)とすると、2つのスペクトルのベクトルS1、S2は次のように表される。
S1=(a1(λ1),a1(λ2),・・・,a1(λn))
S2=(a2(λ1),a2(λ2),・・・,a2(λn))
これら2つのベクトルS1、S2が近い(すなわち、両者の間の角度が小さい)ほど、両スペクトルは類似していると考えられるため、両ベクトルS1、S2の成す角度θの余弦の値(cosθ)を両スペクトルの類似度の指標として用いることができる。
2つのスペクトルの形状が全く同じであれば、両ベクトルS1、S2の間の角度θはゼロになり、cosθは1となる。しかし実際は、例えば吸光度スペクトルの場合、検出器本体のバックグランドノイズや移動相の吸収に伴うノイズなどの不確定分により、両ベクトルのなす角度θはゼロよりも大きくなる。そこで、ノイズの不確定分に起因する両ベクトルのなす角度の最大値をθthとし、両ベクトルS1、S2の成す角θがθthより小さいときは、その差異はノイズ等によるものと判断して両ベクトルは同じ吸光度スペクトル(すなわち、同じ成分)によるものと判定し、両ベクトルS1、S2の成す角θがθthより大きいとき、つまりcosθがcosθthよりも小さいときは不純物を含むと判定することができる。つまり、cosθthがしきい値(t)となる。類似度SIからこのしきい値tを減じた値をピュリティ指数と呼ぶ。
【0021】
図4に、横軸をピークの保持時間とし、縦軸にピュリティ指数(=SI−t)をプロットしたピュリティ曲線を示す。ここで、図4中の「通常クロマトグラム」とは、目的成分の吸収波長である特定波長における波長クロマトグラムを指す。この図4では、時間Tにおいてピュリティ曲線が、ピュリティ指数がゼロとなるゼロ補助線を下回る部分が現れている。この部分ではピュリティ指数(=SI−t)がゼロを下回り、類似度がしきい値を下回っているため、この部分には不純物が含まれると判断される。
このように、ピュリティ判定法では、ピュリティ曲線から目的ピークに不純物が含まれるか否かを判定することができる。
【0022】
[第1実施例]
本発明に係るクロマトグラムデータ処理装置の第1実施例について、図1を参照して説明する。図1は、本実施例におけるクロマトグラムデータ処理装置(以下、単に「データ処理装置」という)を備える液体クロマトグラフシステムの概略構成図である。
【0023】
3次元クロマトグラムデータを収集するためのLC部1では、送液ポンプ12が移動相容器11から移動相を吸引し、一定の流量で試料注入部13へと送給する。試料注入部13は所定のタイミングで試料を移動相中に注入する。試料は移動相によってカラム14に送られ、カラム14を通過する間に試料中の各成分が時間方向に分離され、カラム14から溶出する。
【0024】
カラム14の出口には、カラム14からの溶出液中の試料成分を検出するための検出器として、マルチチャンネル型検出器の一種であるPDA検出器15が設けられている。PDA検出器15は、図示しない光源からの光を溶出液に照射し、溶出液を透過した光を波長分散させて各波長の光の強度をPDAリニアセンサによってほぼ同時に検出する。このPDA検出器15により繰り返し得られた検出信号はA/D変換器16によってデジタル信号に変換された後、3次元クロマトグラムデータとしてデータ処理装置2へ出力される。
【0025】
データ処理装置2は、A/D変換器16から出力された3次元クロマトグラムデータを格納するための3次元データ記憶部21と、所定の波長における吸光度の時間変化を表す波長クロマトグラムを3次元クロマトグラムデータから作成する波長クロマトグラム作成部22と、該波長クロマトグラム中のピークを検出するピーク検出部23と、検出されたピークの中でオペレータにより指定された目的ピーク中の不純物を検出する不純物検出部24と、を含む。なお、本実施例では、波長クロマトグラム作成部22は、目的成分の極大又は極小の吸収波長λS0での吸光度の時間変化を表す極大又は極小吸収波長クロマトグラムを作成する。
【0026】
不純物検出部24は、3次元クロマトグラムデータをデータ処理して不純物検出のためのグラフを作成する、微分クロマトグラム作成部25aとピュリティ曲線作成部25bとを含む。微分クロマトグラム作成部25aは、3次元クロマトグラムデータ及び目的成分の極大又は極小吸収波長λS0に基づいて、微分クロマトグラムを作成する。ピュリティ曲線作成部25bは、3次元クロマトグラムデータ及び目的成分の極大又は極小吸収波長λS0に基づいて、目的ピーク上のスペクトルとリファレンススペクトルの類似度とノイズ成分のみを考慮した場合の類似度からピュリティ曲線を作成する。さらに、不純物検出部24は、微分クロマトグラムの形状又はピュリティ曲線の形状に基づいて目的ピーク中の不純物の有無を判定する判定部26を含む。これら各部の動作については後述する。
【0027】
表示部3は、目的成分の極大又は極小吸収波長λS0の波長クロマトグラム、吸光度スペクトル、微分クロマトグラム、ピュリティ曲線及び判定結果等の各種情報を表示するためのものである。操作部4は、不純物の有無の判定方法の選択や、目的成分の極大又は極小吸収波長λS0、微分スペクトル法で必要な最大又は最小吸収波長など、データ解析に必要な情報等をオペレータが入力設定するために操作される。
なお、データ処理装置2の機能の一部又は全部は、パーソナルコンピュータやワークステーションにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより達成することができる。また、表示部3は一般的な液晶モニタ等であり、操作部4はパーソナルコンピュータやワークステーションの標準的な装備であるキーボードやマウス等のポインティングなどとすることができる。
【0028】
次に、この第1実施例の液体クロマトグラフシステムにおける特徴的なデータ処理動作について、図2及び図3のフローチャートを参照して説明する。
まず、LC部1において目的試料に対するクロマトグラフ分析が実行され、所定の波長範囲における吸光度スペクトルの時間変化を表す3次元クロマトグラムデータ(図9(a)参照)がPDA検出器15から3次元データ記憶部21へと出力され、該3次元データ記憶部21に格納される(ステップS1)。
【0029】
次に、オペレータは、試料に含まれる目的成分の極大又は極小吸収波長λS0の波長値を操作部4により入力する(ステップS2)。これを受けて、波長クロマトグラム作成部22は、入力された極大又は極小吸収波長λS0及び3次元データ記憶部21に格納されている3次元クロマトグラムデータに基づいて、横軸に時間、縦軸に極大又は極小吸収波長λS0における吸光度をプロットした極大又は極小吸収波長クロマトグラムを作成し、表示部3に表示する(ステップS3)。図9(a)に示した3次元クロマトグラムデータに基づいて作成される極大吸収波長クロマトグラムの一例を図9(b)に示す。
【0030】
ピーク検出部23は、波長クロマトグラム作成部22により作成された極大又は極小吸収波長クロマトグラムの曲線の傾斜量を時間方向に順次調べ、その傾斜量が所定値以上になったときにピークの始点TSであると判断し、傾斜量が正からゼロになりさらに負に転じたときにピーク頂点T0であると判断し、傾斜量の絶対値が所定値以下になったときにピークの終点TEであると判断して、ピークを検出する(ステップS4)。ピークは、試料に複数の成分が含まれる場合には、通常、複数検出される。検出されたピークの情報は表示部3の画面上に表示され、オペレータは、それら複数のピークの中から目的成分に由来する目的ピークを操作部4により選択する(ステップS5)。
【0031】
目的ピークが選択されると、微分クロマトグラム作成部25aとピュリティ曲線作成部25bは、順次、目的ピークに不純物が含まれるか否かを示すグラフを作成する(ステップS6)。各機能ブロック25a、25bでのデータ処理動作は以下の通りである。
【0032】
微分クロマトグラム作成部25aは、目的ピークの始点TSから終点TEまでの時間範囲における吸光度スペクトルを3次元データ記憶部21から取得し、各吸光度スペクトルについてそれぞれ、極大又は極小吸収波長λS0における吸光度を波長方向に微分することにより波長微分係数を求める(ステップS6a−1)。そして、横軸に時間、縦軸に算出された波長微分係数をプロットした微分クロマトグラムを作成する(ステップS6a−2)。図11に微分クロマトグラムの一例を示す。
【0033】
ピュリティ曲線作成部25bは、目的ピークの始点TSから終点TEまでの時間範囲における吸光度スペクトルを3次元データ記憶部21から取得し、各吸光度スペクトルについてそれぞれ、類似度としきい値の差であるピュリティ指数を求める(ステップS6b−1)。そして、横軸に時間、縦軸に算出されたピュリティ指数をプロットしたピュリティ曲線を作成する(ステップS6b−2)。
【0034】
以上のようにして得られた各判定方法における不純物の有無を判定するためのグラフ(微分クロマトグラムとピュリティ曲線)は、ステップS3で表示された波長クロマトグラムに重ねて、表示部3に表示される(ステップS7)。
【0035】
図5は、本実施例のクロマトグラムデータ処理装置による処理が終了した後の表示部の表示の一例である。ここで、「通常クロマトグラム」とは、目的成分の極大又は極小吸収波長λS0における波長クロマトグラムをいう。この第1実施例に係るデータ処理装置2では、微分スペクトル法に基づいて作成された微分クロマトグラムと、ピュリティ判定法に基づいて作成されたピュリティ曲線とが、通常クロマトグラムに重ねて表示されている。この通常クロマトグラムでは、時間Tに試料の目的成分のピーク、時間T、Tに不純物のピークがあるが、波長クロマトグラムでは不純物のピークは見えない。図5から、時間Tにおける不純物の存在は、微分クロマトグラムでは示されているが、ピュリティ曲線では示されていない。また、時間Tにおける不純物の存在は、微分クロマトグラムでは示されていないが、ピュリティ曲線では示されている。仮に、不純物判定を微分スペクトル法又はピュリティ判定法のいずれか一方のみで行っていた場合、微分スペクトル法からは時間Tにおける不純物の存在のみが示され、時間Tにおける不純物の存在は認識されず、一方、ピュリティ判定法からは時間Tにおける不純物の存在のみが示され、時間Tにおける不純物の存在は認識されない。しかし、本実施例に係るデータ処理装置2では、微分スペクトル法から時間Tの不純物の存在が示され、ピュリティ判定法から時間Tに不純物の存在が示されており、一方の不純物判定法のみでは検出できなかった不純物が全て検出される。すなわち、より確実に不純物存否を判断することができる。
【0036】
[第2実施例]
第1実施例では、微分クロマトグラム作成部25aとピュリティ曲線作成部25bが、それぞれ、微分クロマトグラムとピュリティ曲線を作成した(ステップS6)。目的成分の吸光度スペクトルに複数の極大、極小が存在することが分かっている場合は、変形例として、微分クロマトグラム作成部25aが、目的成分の1つの極大又は極小吸収波長λS0に加えて、さらに、他の極大又は極小吸収波長(例えば、λ、λ)の微分クロマトグラムを作成し、表示するようにすることができる。
【0037】
図6及び図7は、この第2実施例のクロマトグラムデータ処理装置におけるピーク純度判定処理動作を示すフローチャートである。図6及び図7を参照しながら、第2実施例でのデータ処理動作のうち第1実施例と異なる点を以下に説明する。
【0038】
本実施例では、上述のステップS2において、オペレータは、試料に含まれる目的成分の極大又は極小吸収波長の波長値を複数、操作部4より入力する(ステップS2’)。この時、波長クロマトグラムを作成するための目的成分の吸収波長λS0をオペレータが指定する。
上述のステップS5において、目的成分に由来する目的ピークの選択は、選択された全てのピーク吸収波長λS0、λ、λについてそれぞれ行う(ステップS5’)。
上述のステップS6において、微分クロマトグラム作成部25aが、ピーク吸収波長λS0、λ、λのそれぞれの目的ピークに不純物が含まれるか否かを示すグラフ(微分クロマトグラム)を作成する(ステップS6’)。すなわち、これらの波長λS0、λ、λにおける波長クロマトグラムに関して、順次、それぞれのピークの始点TSから終点TEまでの時間範囲における吸光度スペクトルを3次元データ記憶部21から取得し、各吸光度スペクトルについてそれぞれ、極大又は極小吸収波長λS0、λ、λにおける吸光度を波長方向に微分することにより波長微分係数を求める(ステップS6’a−1)。そして、横軸に時間、縦軸に算出された波長微分係数をプロットした微分クロマトグラム1、2、3を作成する(ステップS6’a−2)。
【0039】
さらに、本実施例では、判定部26が、作成された不純物検出のためのグラフに基づいて、不純物の有無を判定し、その結果を表示部3に表示する(ステップS7’)。具体的には、本実施例で作成された微分クロマトグラムが、目的ピークの始点TSから終点TEまでの時間範囲内において平坦か否かが判定され、微分クロマトグラムが平坦であれば、判定部26は、目的ピークは不純物を含まないと判定する。一方、微分クロマトグラムが平坦でなければ、判定部26は、目的ピークは不純物を含んでいると判定する。微分クロマトグラムが平坦であるか否かの判定は、例えば、ベースラインのノイズ強度の平均のN倍又は所定のピーク面積以上であるピークが存在するか否か判定することで行うようにすればよい。また、それ以外の判定方法でもよい。
なお、不純物検出のために作成されたグラフがピュリティ曲線である場合は、ピュリティ曲線が、目的ピークの始点TSから終点TEまでの時間範囲内においてゼロ補助線を下回るか否かが判定され、下回らなければ、判定部26は、目的ピークは不純物を含まないと判定し、下回れば、不純物を含んでいると判定する。
判定部26は、いずれかの検出方法において不純物を含んでいると判定された場合は、不純物を含んでいると最終的に判定し、表示部3には「不純物:有」と表示される。いずれの検出方法においても不純物を含まないと判定された場合は、不純物を含んでいないと最終的に判定し、表示部3には「不純物:無」と表示される。
その他のステップは第1実施例と同様である。
【0040】
図8は、同実施例のクロマトグラムデータ処理装置による処理が終了した後の表示部の表示の一例である。図8において、目的ピークの波長λS0の波長クロマトグラム(図8では、「通常クロマトグラム」という)では、時間Tに試料の目的成分のピーク、時間T、Tに不純物A、Bのピークがあるが、前記波長クロマトグラム上は不純物のピークは見えないものとする。不純物A、Bは、λS0において不純物の微分値もゼロとなるものとする。また、不純物A、Bは、それぞれ、λ、λで不純物のスペクトルの微分値もゼロとなるものとする。
目的成分のピーク波長λS0の微分クロマトグラム1では、不純物のスペクトルの微分値がゼロであるため、不純物のピークがノイズに埋もれており、時間Tでの不純物の存在も時間Tでの不純物の存在も検出されていない。波長λの微分クロマトグラム2では、時間Tの不純物Aの存在は検出されているが、時間Tでの不純物Bの存在は検出されていない。目的成分の極小吸収波長λの微分クロマトグラム3では、時間Tの不純物Bの存在は検出されているが、時間Tでの不純物Aの存在は検出されていない。
このように、目的成分のピーク波長λS0において、試料に含まれる不純物のスペクトルの微分値がゼロである場合、目的ピークであるλS0の微分クロマトグラムはゼロのまま変化しないため、検出されない。しかし、目的成分の他の極大又は極小吸収波長λ、λでも不純物のスペクトルの微分値がゼロであることは殆ど考えられない。そこで、目的成分の複数の極大又は極小吸収波長における微分クロマトグラムを複数表示することによって、不純物の存否の判断をより確実に行うことが可能となる。
【0041】
本発明は上記第1実施例、第2実施例に限らず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、追加、修正を加えることができる。
例えば、微分スペクトル法を用いる場合において、目的成分のスペクトルを画面に表示し、そこからオペレータが微分波長として用いる極大又は極小吸収波長を適宜選択することができるようになっていてもよい。このような構成とすることで、不純物検出のための判断に、オペレータの経験を反映させることが可能となる。更に、ピュリティ判定法等の他の不純物判定法も画面表示に加え、それらの中からオペレータが任意に選択できるようにしてもよい。
また、最終的に表示部に表示される波長クロマトグラム(図5図8中の「通常クロマトグラム」)の取得波長は、上記実施例では目的成分の極大又は極小吸収波長λS0としたが、厳密に極大又は極小吸収波長である必要はなく、目的成分の目的ピーク内の波長であればよい。
【符号の説明】
【0042】
1…LC部
11…移動相容器
12…送液ポンプ
13…試料注入部
14…カラム
15…PDA検出器
16…A/D変換器
2…データ処理装置
21…3次元データ記憶部
22…波長クロマトグラム作成部
23…ピーク検出部
24…不純物検出部
25a…微分クロマトグラム作成部
25b…ピュリティ曲線作成部
26…判定部
3…表示部
4…操作部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11