(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0014】
[セルロースアシレートの製造方法]
本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、硫酸、及び酸解離指数pKaが−7以上1以下の有機酸(以下「特定有機酸」とも称する)の存在下で、セルロースをアシル化する工程(以下「アシル化工程」とも称する)を有する。
【0015】
本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、上記工程を有することで、熱流動性の高いセルロースアシレートの製造が実現される。その理由は、次の通り推測される。
【0016】
まず、従来、セルロースをアシル化するとき、一般的に触媒(以下「アシル化触媒」とも称する)として硫酸が用いられている。しかし、得られるセルロースアシレート(アシル化セルロース)の熱流動性が低下したり、透明性が低下することがある。これは、アシル化触媒である硫酸がセルロースの内部へ浸み込み難く、アシル化の反応がセルロースの表面から徐々に進行するためである。つまり、セルロースの表面と内部においてアシル化の反応速度に違いが生じ、得られるセルロースアシレートの置換度(アシル基の置換度)が不均質化する(置換度の分布が広がる)ためである。置換度の分布が広がると置換度が高いセルロース、低いセルロースが混在し、特に置換度が低いセルロースの存在によって水素結合の効果により相互作用が強固に働き、熱流動性を低下させる原因となる。
【0017】
それに対して、アシル化触媒として、硫酸と共に特定有機酸(酸解離指数pKaが−7以上1以下の有機酸)を併用すると、特定有機酸と共に硫酸がセルロースの内部に浸み込み易くなると考えられる。このため、アシル化の反応がセルロースの表面及び内部で同等に短時間で進行し易くなり、つまり、セルロースの表面と内部においてアシル化の反応速度の差が低減される。その結果、得られるセルロースアシレートの置換度(アシル基の置換度)が均質化し(置換度の分布が狭くなり)、熱流動性が高いセルロースアシレートが得られ易くなる。
【0018】
以上から、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、熱流動性の高いセルロースアシレートの製造が実現されると推測される。そして、このセルロースアシレートは透明性も高いため、樹脂成形体に使用すると、得られる樹脂成形体の透明性も高くなる。
【0019】
なお、得られるセルロースアシレートの熱流動性の低下又は透明性の低下(セルロースアシレートの置換度の不均質化)を抑制するために、硫酸の量を増加させると、過度にセルロースの分子量が低下することがある。このように、硫酸の量の制御だけでは適切な物性(均質に近い置換度で、かつ狙った分子量)のセルロースアシレートを獲得することは難しい。
しかし、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、硫酸の量を増加させなくても、置換度の均質化が図れるため、適切な物性の(均質に近い置換度で、かつ狙った分子量)セルロースアシレートの製造も実現される。
【0020】
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法の詳細について説明する。
【0021】
(第1実施形態)
第1実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、例えば、
硫酸、及び酸解離指数pKaが−7以上1以下の有機酸(特定有機酸)の存在下で、セルロースをアシル化する工程(以下「第1アシル化工程」とも称する)と、
塩酸の存在下で、アシル化したセルロースを脱アシル化及び解重合する工程(以下「第1脱アシル化工程」とも称する)と、
を有する。
【0022】
第1実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、低分子量で熱流動性の高いセルロースアシレートが得られる。その理由は、次の通り推測される。
上述のように、アシル化工程において、アシル化触媒として、硫酸と共に特定有機酸を併用すると、特定有機酸と共に硫酸がセルロースの内部に浸み込み易くなると考えられる。一方で、浸み込んだ有機酸及び硫酸は脱アシル化工程でもセルロース内部に残存する。この状態、かつ塩酸の存在下で、脱アシル化(加水分解又はケン化)及び解重合を行うと、これら反応が均質化して進行するものと考えられる。これにより、熱流動性の低下の原因となる置換度の不均質化(置換度の分布の広がり)、分子量分布の広がりを抑え、置換度が均質に近く、かつ分子量分布が狭いセルロースアシレートが得られる。
【0023】
そのため、第1実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、低分子量で熱流動性の高いセルロースアシレートが得られると推測される。得られるセルロースアシレートは、低分子量で、置換度が均質に近く、かつ分子量分布が狭いため、溶融温度も低くなる。
そして、このセルロースエステルは、成形性(例えば射出成形性)と共に透明性も高く、樹脂成形体に使用すると、得られる樹脂成形体の透明性も高くなる。また、得られる樹脂成形体の強度も確保される。
【0024】
(第1アシル化工程)
第1アシル化工程では、アシル化触媒(硫酸、及び特定有機酸(酸解離指数pKaが−7以上1以下の有機酸))の存在下で、セルロースをアシル化する。
具体的には、第1アシル化工程では、例えば、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させた状態で、攪拌しながら、セルロースをアシル化する。なお、アシル化触媒(又はアシル化触媒水溶液)、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させてもよいし、アシル化溶媒にセルロースを浸漬又は分散させた溶液に、アシル化触媒(又はアシル化触媒水溶液)及びアシル化剤を添加してもよい。
【0025】
アシル化の対象となるセルロースとしては、高分子量のセルロース(例えば重合度1000以上1万以下のセルロース)である。高分子量のセルロースとしては、例えば、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプ等の種々の原料セルロースを使用する。また、高分子量のセルロースとしては、市販のセルロースを使用してもよい。高分子量のセルロースの市販品としては、例えば、日本製紙社製のKCフロックW50、W100、W200、W300G、W400G、W−100F、W60MG、W−50GK、W−100GK、NDPT、NDPS、LNDP、NSPP−HR等が挙げられる。
なお、アシル化の対象となるセルロースには、通常、原料(パルプ)を由来とするヘミセルロース等の異成分も含むことがある。このため、本願明細書では、用語「セルロース」は、ヘミセルロース等の異成分を含むことも意味する。
【0026】
アシル化の対象となるセルロースには、活性化処理を施してもよい。活性化処理は、例えば、水を含む活性化剤を用いて、セルロースを処理する方法(活性化剤をセルロースに噴霧する方法、セルロースを活性化剤に浸漬する方法等)である。活性化剤はアシル化溶媒を使用してもよい。具体的には、活性化処理としては、1)セルロースと水とを混合し、セルロースを濾過した後、セルロースとアシル化溶媒とを混合し、セルロースを濾過する方法、2)水及びセルロースの混合液(例えば水量が0超え50質量%以下の混合液)とセルロースとを混合し、セルロースを濾過する方法等が挙げられる。
【0027】
なお、活性化処理の温度は、例えば、0℃〜100℃(好ましくは10℃〜40℃)である。
活性化処理の時間(2回処理するときは合計の時間)は、例えば、0.1時間以上20時間以下(好ましくは1時間以上15時間以下)である。
【0028】
アシル化触媒としては、硫酸、及び特定有機酸(酸解離定数pKaが−7以上1以下の有機酸)が適用される。
特定有機酸の酸解離定数pKaは、置換度の均質化及び分子量分布の狭分布化の観点から、−7以上1以下が好ましく、−6.5以上−1以下が好ましい。
特定有機酸としては、例えば、アルキルスルホン酸(例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、10−カンファースルホン酸、2−アミノエタンスルホン酸、3−アミノプロパンスルホン酸等の炭素数1以上10以下のアルキルスルホン酸)、
アリールスルホン酸(例えば、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、4−エチルベンゼンスルホン酸、4−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸等の炭素数6以上10以下のアリールスルホン酸)、フッ化アルキルカルボン酸(例えば、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、ヘプタフルオロ酪酸等の炭素数1以上4以下のアルキルスルホン酸)等が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、特定有機酸としては、置換度の均質化及び分子量分布の狭分布化の観点から、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸が好ましい。
なお、特定有機酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0030】
ここで、特定有機酸の酸解離定数pKaは、溶媒を水とした電位差滴定法によって測定される。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基で中和滴定を行い、滴定曲線から特定有機酸の解離定数を求めることでpKaを算出する。
【0031】
アシル化触媒としての硫酸量は、置換度の均質化及び分子量分布の狭分布化の観点から、セルロースに対する質量比で、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
アシル化触媒としての特定有機酸量は、置換度の均質化及び分子量分布の狭分布化の観点から、セルロースに対する質量比で、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
ここで、硫酸と特定有機酸との質量比(硫酸/特定有機酸)は、置換度の均質化及び分子量分布の狭分布化の観点から、5/95以上95/5以下が好ましく、10/90以上90/10以下がより好ましい。
【0032】
アシル化剤としては、アシル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、アシル化剤としては、アルキルカルボン酸無水物(例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸等の直鎖状又は分岐鎖状で炭素数2以上6以下のアルキルカルボン酸無水物)、有機酸ハライド(例えば、酢酸クロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド等)が好適に挙げられる。ただし、通常、アシル化剤としては、アルキルカルボン酸無水物を使用する。
アシル化剤としては、アシル化で得たいセルロースアシレートの種類に応じて選択される。例えば、セルロースアセテートを得る場合は、アシル化剤として無水酢酸を適用する。また、セルロースアセテートプロピオネートを得る場合は、アシル化剤として、無水酢酸および無水プロピオン酸の2種を適用する。
なお、アシル化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0033】
アシル化剤量は、アシル化で得たいセルロースアシレートの置換度に応じて選択される。通常、第1アシル化工程では、置換度3のセルロースアシレート(セルローストリアシレート)を得ることが多い。この場合、アシル化剤量は、セルロースの水酸基に対するモル比で、3倍以上10倍以下が好ましく、4倍以上8倍以下がより好ましい。
【0034】
アシル化溶媒としては、アルキルカルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸等の直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1以上6以下のアルキルカルボン酸)が好適に挙げられる。
これらの中でも、置換度の均質化及び分子量分布の狭分布化の観点から、アシル化溶媒としては、ギ酸、酢酸が好ましく、酢酸が特に好ましい。
なお、アシル化剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0035】
アシル化溶媒量は、置換度の均質化の観点から、セルロースに対する質量比で、5倍以上30倍以下が好ましく、10倍以上25倍以下がより好ましい。
【0036】
アシル化溶媒は、アルキルカルボン酸と共に水も併用してもよい。ただし、水量は、アルキルカルボン酸に対して10質量%以下とする。
【0037】
第1アシル化工程の好適な条件としては、例えば、次の通りである。
温度:例えば、18℃以上100℃以下(好ましくは20℃以上80℃以下)
時間:例えば、0.5時間以上20時間以下(好ましくは1時間以上10時間以下)である。
【0038】
(第1脱アシル化工程)
第1脱アシル化工程では、塩酸の存在下で、アシル化したセルロース(以下「一次セルロースアシレート」とも称する)を脱アシル化及び解重合する。第1脱アシル化工程は、脱アシル化(加水分解又はケン化)により、一次セルロースアシレートの置換度を調整すると共に、解重合により一次セルロースアシレートの低分子量化を行い、目的とする置換度及び重合度のセルロースアシレート(以下「二次セルロースアシレート」とも称する)を得る工程である。
【0039】
具体的には、第1脱アシル化工程では、例えば、第1アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)に、塩酸水溶液を加えた後、攪拌する。つまり、生産性の観点から、第1アシル化工程と第1脱アシル化工程とは、同じ容器内で連続して実施することがよい。
【0040】
なお、塩酸水溶液を加える前に、残存したアシル化剤を失活させるため、水、または、水とアシル化溶媒(アルキルカルボン酸)及び中和剤から選択された少なくとも一種とを含む混合液等の失活剤を溶液に加えることよい。
中和剤は、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(水酸化カルシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;酢酸カルシウム等の有機酸塩など)などの塩基が挙げられる。
【0041】
第1脱アシル化工程において、塩酸量は、置換度の均質化及び分子量分布の広がり抑制の観点から、一次セルロースアシレート(第1アシル化工程でアシル化したセルロース)に対する質量比で、10質量%以上200質量%以下が好ましく、30質量%以上150質量%以下がより好ましい。
【0042】
第1脱アシル化工程の好適な条件としては、得たい二次セルロースアシレートの置換度及び重合度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、18℃以上100℃以下(好ましくは20℃以上80℃以下)
時間:例えば、0.5時間以上30時間以下(好ましくは1時間以上25時間以下)である。
【0043】
なお、第1脱アシル化工程は、第1アシル化工程後、例えば、一次セルロースアシレートを析出及び濾過して得た(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して得た)、粉末状の一次セルロースアシレートを使用してもよい。ここで、一次セルロースアシレートの析出は、例えば、一次セルロースアシレートを含む溶液と多量の水とを混合することで実施する。
この場合、第1脱アシル化工程では、塩酸、及び脱アシル化溶媒(アシル化溶媒と同じ溶媒、具体的には、アルキルカルボン酸、又はアルキルカルボン酸及び水の混合溶媒)を含む溶液に粉末状の一次セルロースアシレートを溶解させた状態で、一次セルロースアシレートを脱アシル化及び解重合する。なお、塩酸及び溶媒を含む溶液に粉末状の一次セルロースアシレートを溶解させてもよいし、溶媒に粉末状の一次セルロースアシレートを溶解させた溶液に、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0044】
第1脱アシル化工程後、二次セルロースアシレートを含む溶液に水を加え、二次セルロースアシレートを析出、濾過した後、乾燥することで、目的とする粉末状のセルロースアシレートが得られる。
【0045】
また、濾過した二次セルロースアシレートを中和処理する工程、中和処理した二次セルロースアシレートを水等で洗浄する工程等を実施した後、乾燥して、目的とする粉末状のセルロースアシレートを得ることがよい。
ここで、中和処理は、例えば、アルキルカルボン酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸等の直鎖状又は分岐鎖状で炭素数1以上6以下のアルキルカルボン酸)の金属塩(Na等の周期律表第1族元素、Ca等の周期律表第2族元素等の金属塩)を用いて実施することがよい。
【0046】
(第2実施形態)
第2実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法は、例えば、硫酸、及び酸解離指数pKaが−7以上1以下の有機酸(特定有機酸)の存在下で、重合度が100以上350以下のセルロースをアシル化する工程(以下「第2アシル化工程」とも称する)を有する。
【0047】
第2実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、セルロースとして重合度が100以上350以下のセルロースをアシル化する以外は、第2アシル化工程を第1実施形態の第1アシル化工程と同様に実施する。
このため、第2実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法でも、均質化した置換度を有し、低分子量で熱流動性が高いセルロースアシレートが得られる。
【0048】
なお、第2アシル化工程後、セルロースアシレートを含む溶液に水を加え、セルロースアシレートを析出、濾過した後、乾燥することで、目的とする粉末状のセルロースアシレートが得られる。
また、濾過したセルロースアシレートを中和処理する工程、中和処理したセルロースアシレートを水等で洗浄する工程等を実施した後、乾燥して、目的とする粉末状のセルロースアシレートを得ることがよい。
【0049】
ここで、第2実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、必要に応じて、第2アシル化工程前に、塩酸の存在下で、高分子量のセルロース、重合度が100以上350以下のセルロースを得る工程(以下「解重合工程」とも称する)、第2アシル化工程後に、アシル化したセルロースを脱アシル化する工程(以下「第2脱アシル化工程」とも称する)等を実施してもよい。
【0050】
(解重合工程)
解重合工程は、解重合により高分子量のセルロースを低分子量化し、目的とする分子量のセルロース(重合度が100以上350以下のセルロース)を得る工程である。
具体的には、解重合工程では、例えば、塩酸、溶媒(水、ギ酸、酢酸等の溶媒)を含む溶液に高分子量のセルロースを浸漬又は分散させた状態で、攪拌しながら、高分子量のセルロースを解重合する。なお、塩酸及び溶媒を含む溶液(例えば塩酸水溶液)にセルロースを浸漬又は分散させてもよいし、溶媒を含む溶液にセルロースを浸漬又は分散させた後、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0051】
高分子量のセルロースは、例えば、重合度1000以上1万以下のセルロースであり、第1実施形態の第1アシル化工程で説明したセルロースが挙げられる。
【0052】
解重合工程において、塩酸量は、分子量分布の広がり抑制の観点から、高分子量のセルロースに対する質量比で、10質量%以上200質量%以下が好ましく、30質量%以上150質量%以下がより好ましい。
【0053】
解重合工程の好適な条件としては、得たいセルロースの重合度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、18℃以上100℃以下(好ましくは20℃以上80℃以下)
時間:例えば、0.5時間以上30時間以下(好ましくは1時間以上25時間以下)である。
【0054】
解重合工程後、目的とする重合度のセルロースを含む溶液に、析出及び濾過して(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して)得た、粉末状のセルロースを得る。
【0055】
(第2脱アシル化工程)
第2脱アシル化工程は、脱アシル化(加水分解又はケン化)により、第2アシル化工程でアシル化したセルロース(以下「一次セルロースアシレート」とも称する)の置換度を調整し、目的とする置換度のセルロースアシレート(以下「二次セルロースアシレート」とも称する)を得る工程である。
【0056】
具体的には、第2脱アシル工程では、例えば、塩酸、及び脱アシル化溶媒を含む溶液に一次セルロースアシレートを溶解させた状態で、一次セルロースアシレートを脱アシル化する。なお、塩酸、及び溶媒を含む溶液に一次セルロースアシレートを溶解させてもよいし、溶媒に一次セルロースアシレートを溶解させた溶液に、塩酸水溶液を添加してもよい。
【0057】
ここで、一次セルロースアシレートは、第2アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)から、一次セルロースアシレートを析出及び濾過して得た(必要に応じて、洗浄、乾燥等も実施して得た)、粉末状の一次セルロースアシレートを使用する。
【0058】
また、脱アシル化溶媒は、第2アシル化工程で使用するアシル化溶媒と同じ溶媒が挙げられる。つまり、脱アシル化溶媒は、アルキルカルボン酸、又はアルキルカルボン酸及び水の混合溶媒が挙げられる。
【0059】
第2脱アシル工程において、塩酸量は、置換度の均質化の観点から、一次セルロースアシレート(第2アシル化工程でアシル化したセルロース)に対する質量比で、10質量%以上200質量%以下が好ましく、30質量%以上150質量%以下がより好ましい。
【0060】
第2脱アシル化工程の好適な条件としては、得たい二次セルロースアシレートの置換度に応じて選択されるが、例えば、次の通りである。
温度:例えば、18℃以上100℃以下(好ましくは20℃以上80℃以下)
時間:例えば、0.5時間以上30時間以下(好ましくは1時間以上25時間以下)である。
【0061】
なお、第2脱アシル化工程では、例えば、第2アシル化工程を経た溶液(一次セルロースアシレート、アシル化触媒、アシル化剤、及びアシル化溶媒を含む溶液)に、塩酸水溶液を加えて実施してもよい。
この場合、塩酸水溶液を加える前に、残存したアシル化剤を失活させるため、水、または、水とアシル化溶媒(アルキルカルボン酸)及び中和剤から選択された少なくとも一種とを含む混合液等の失活剤を溶液に加えることよい。
中和剤は、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の有機酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(水酸化カルシウム等の水酸化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;酢酸カルシウム等の有機酸塩など)などの塩基が挙げられる。
【0062】
第2脱アシル化工程後、二次セルロースアシレートを含む溶液に水を加え、二次セルロースアシレートを析出、濾過した後、乾燥することで、目的とする粉末状のセルロースアシレートが得られる。
【0063】
なお、濾過した二次セルロースアシレートを中和処理する工程、中和処理した二次セルロースアシレートを水等で洗浄する工程等を実施した後、乾燥して、目的とする粉末状のセルロースアシレートを得ることがよい。
【0064】
以上説明した本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法では、アシル化剤の種類に応じて、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の種々のセルロースアシレートが得られる。
なお、第2アシル化工程は、NMR(Nuclear Magnetic Resonance、核磁気共鳴法)等により置換度をモニターしながら行い、目的の置換度に到達したところで終了してもよい。この場合、第2脱アシル化工程は不要となる。
【0065】
(セルロースアシレート)
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートの製造方法で製造されるセルロースアシレート(以下「本実施形態に係るセルロースアシレート」とも称する)の好適な特性について説明する。
【0066】
本実施形態に係るセルロースアシレートは、重合度100以上350以下、置換度2.1以上2.6以下、及び分子量分布2以上5以下のセルロースアシレート(特に、セルロースジアセテート)であることがよい。この特性を持つセルロースアシレート(特に、セルロースジアセテート)は、溶融温度が低く、熱流動性が高い。そして、特性を持つセルロースエステルは、成形性(例えば射出成形性)と共に透明性も高く、樹脂成形体に使用すると、得られる樹脂成形体の透明性も高くなる。また、得られる樹脂成形体の強度も確保される。
ただし、本実施形態に係るセルロースアシレートの特性は、上記特性に限られず、セルロースアシレートの使用目的に応じて選択される。
【0067】
本実施形態に係るセルロースアシレートの重合度は、溶融温度の低減(成形性の向上)、得られる樹脂組成物の強度向上の観点から、100以上350以下が好ましく、150以上300以下がより好ましい。
【0068】
ここで、重合度は、以下の手順で重量平均分子量から求める。
まず、セルロースアシレートの重量平均分子量を、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー社製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にてポリスチレン換算で測定する。
次いで、セルロースアシレートの構成単位分子量で割ることで、セルロースアシレートの重合度を求める。なお、例えば、セルロースアシレートの置換基がアセチル基の場合、構成単位分子量は、置換度が2.4のとき263、置換度が2.9のとき287となる
【0069】
本実施形態に係るセルロースアシレートの置換度は、溶融温度の低減(成形性の向上)、得られる樹脂組成物の強度向上の観点から、2.1以上2.6以下が好ましく、2.1以上2.5以下がより好ましい。
【0070】
ここで、置換度とは、セルロースが有する水酸基がアシル基により置換されている程度を示す指標である。つまり、置換度は、セルロースアシレートのアシル化の程度を示す指標となる。具体的には、置換度は、セルロースアシレートのD−グルコピラノース単位に3個ある水酸基がアシル基で置換された置換個数の分子内平均を意味する。
そして、置換度は、H
1−NMR(JMN−ECA/JEOL RESONANCE社製)にて、セルロース由来水素とアシル基由来ピークの積分比から測定する。
【0071】
本実施形態に係るセルロースアシレートの分子量分布は、透明性の向上、溶融温度の低減(成形性の向上)の観点から、2以上4以下が好ましく、2.5以上3.5以下がより好ましい。
【0072】
ここで、分子量分布は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比(Mw/Mn)である。
そして、重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnは、ジメチルアセトアミド/塩化リチウム=90/10溶液を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置(GPC装置:東ソー社製、HLC−8320GPC、カラム:TSKgelα−M)にてポリスチレン換算で測定する。
【0073】
本実施形態に係るセルロースアシレートは、樹脂成形体形成用の樹脂等に利用される。
【0074】
[樹脂組成物]
以下、本実施形態に係るセルロースアシレートを使用した樹脂組成物(以下「本実施形態に係る樹脂組成物」とも称する)について説明する。
【0075】
本実施形態に係る樹脂組成物は、本実施形態に係るセルロースアシレートを含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、可塑剤、その他の成分等を含んでもよい。
【0076】
なお、可塑剤の含有量は、樹脂組成物全体に占めるセルロースアシレートの比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。より具体的には、樹脂組成物全体に占める可塑剤の比率は15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。可塑剤の比率が上記範囲であることにより、弾性率がより高くなり、耐熱性もより高くなる。また、可塑剤のブリードも抑制される。
【0077】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物、セバシン酸エステル化合物、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。
これらの中でも、アジピン酸エステル含有化合物、ポリエーテルエステル化合物が好ましく、アジピン酸エステル含有化合物がより好ましい。
【0078】
−アジピン酸エステル含有化合物−
アジピン酸エステル含有化合物(アジピン酸エステルを含む化合物)とは、アジピン酸エステル単独の化合物、又は、アジピン酸エステルとアジピン酸エステル以外の成分(アジピン酸エステルとは異なる化合物)との混合物であることを示す。但し、アジピン酸エステル含有化合物は、アジピン酸エステルを全成分に対して50質量%以上で含むことがよい。
【0079】
アジピン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジエステル、アジピン酸ポリエステルが挙げられる。具体的には、下記一般式(AE−1)で示されるアジピン酸ジエステル、及び下記一般式(AE−2)で示されるアジピン酸ポリエステル等が挙げられる。
【0081】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、R
AE1及びR
AE2は、それぞれ独立に、アルキル基、又はポリオキシアルキル基[−(C
xH
2X−O)
y−R
A1](但し、R
A1はアルキル基を、xは1以上10以下の整数を、yは1以上10以下の整数を、表す。)を表す。
R
AE3は、アルキレン基を表す。
m1は、1以上20以下の整数を表す。
m2は、1以上10以下の整数を表す。
【0082】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、R
AE1及びR
AE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。R
AE1及びR
AE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、R
AE1及びR
AE2が表すポリオキシアルキル基[−(C
xH
2X−O)
y−R
A1]において、R
A1が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。R
A1が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0083】
一般式(AE−2)中、R
AE3が表すアルキレン基は、炭素数1以上6以下のアルキレン基が好ましく、炭素数1以上4以下のアルキレン基がより好ましい。アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐状が好ましい。
【0084】
一般式(AE−1)及び(AE−2)中、各符号が表す基は、置換基で置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
【0085】
アジピン酸エステルの分子量(又は重量平均分子量)は、200以上5000以下が好ましく、300以上2000以下がより好ましい。なお、重量平均分子量は、前述のセルロースアシレートの重量平均分子量の測定方法に準拠して測定された値である。
【0086】
以下、アジピン酸エステル含有化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0088】
−ポリエーテルエステル化合物−
ポリエーテルエステル化合物として具体的には、例えば、一般式(EE)で表されるポリエーテルエステル化合物が挙げられる。
【0090】
一般式(EE)中、R
EE1、及びR
EE2は、それぞれ独立に、炭素数2以上10以下のアルキレン基を表す。A
EE1、及びA
EE2はそれぞれ独立に、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数6以上12以下のアリール基、又は炭素数7以上18以下のアラルキル基を表す。mは、1以上の整数を表す。
【0091】
一般式(EE)中、R
EE1が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。R
EE1が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
R
EE1が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の熱流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。R
EE1が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はR
EE1が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、R
EE1が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、R
EE1が表すアルキレン基は、n−ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、R
EE1としてn−ヘキシレン基(−(CH
2)
6−)を表す化合物であることが好ましい。
【0092】
一般式(EE)中、R
EE2が表すアルキレン基としては、炭素数3以上10以下のアルキレン基が好ましく、炭素数3以上6以下のアルキレン基がより好ましい。R
EE2が表すアルキレン基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
R
EE2が表すアルキレン基の炭素数を3以上にすると、樹脂組成物の熱流動性の低下が抑制され、熱可塑性が発現しやすくなる。R
EE2が表すアルキレン基の炭素数を10以下又はR
EE2が表すアルキレン基を直鎖状にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、R
EE2が表すアルキレン基を直鎖状とし、且つ炭素数を上記範囲とすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
これら観点から、特に、R
EE2が表すアルキレン基は、n−ブチレン基(−(CH
2)
4−)が好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、R
EE2としてn−ブチレン基(−(CH
2)
4−)を表す化合物であることが好ましい。
【0093】
一般式(EE)中、A
EE1、及びA
EE2が表すアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、炭素数2以上4以下のアルキル基がより好ましい。A
EE1、及びA
EE2が表すアルキル基は、直鎖状、分岐状、及び環式のいずれであってもよいが、分岐状が好ましい。
A
EE1、及びA
EE2が表すアリール基は、炭素数6以上12以下のアリール基であり、フェニル基、ナフチル基等の無置換アリール基、又はt−ブチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基等の置換フェニル基が挙げられる。
A
EE1、及びA
EE2が表すアラルキル基としては、−R
A−Phで示される基である。R
Aは、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上4以下)のアルキレン基を表す。Phは、無置換フェニル基、又は直鎖状若しくは分岐状の炭素数1以上6以下(好ましくは炭素数2以上6以下)のアルキル基で置換された置換フェニル基を表す。アラルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基、フェニルメチル基(フェネチル基)、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等の無置換アラルキル基、又はメチルベンジル基、ジメチルベンジル基、メチルフェネチル基等の置換アラルキル基が挙げられる。
【0094】
A
EE1、及びA
EE2の少なくとも一方は、アリール基又はアラルキル基を表すことが好ましい。つまり、ポリエーテルエステル化合物は、A
EE1、及びA
EE2の少なくとも一方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましく、A
EE1、及びA
EE2の双方としてアリール基(好ましくはフェニル基)又はアラルキル基を表す化合物であることが好ましい。
【0095】
次に、ポリエーテルエステル化合物の特性について説明する。
【0096】
ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、450以上650以下が好ましく、500以上600以下がより好ましい。
重量平均分子量(Mw)を450以上にすると、ブリード(析出する現象)し難くなる。重量平均分子量(Mw)を650以下にすると、セルロースアシレートとの親和性が高まりやすくなる。このため、重量平均分子量(Mw)を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、ポリエーテルエステル化合物の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定される値である。具体的には、GPCによる分子量測定は、測定装置として東ソー社製、HPLC1100を用い、東ソー製カラム・TSKgel GMHHR−M+TSKgel GMHHR−M(7.8mmI.D.30cm)を使用し、クロロホルム溶媒で行う。そして、重量平均分子量は、この測定結果から単分散ポリスチレン標準試料により作成した分子量校正曲線を使用して算出する。
【0097】
ポリエーテルエステル化合物の25℃における粘度は、35mPa・s以上50mPa・s以下が好ましく、40mPa・s以上45mPa・s以下がより好ましい。
粘度を35mPa・s以上にすると、セルロースアシレートへの分散性が向上しやすくなる。粘度を50mPa・s以下にすると、ポリエーテルエステル化合物の分散の異方性が出現し難くなる。このため、粘度を上記範囲にすると、樹脂組成物の成形性が向上する。
なお、粘度は、E型粘度計により測定される値である。
【0098】
ポリエーテルエステル化合物の溶解度パラメータ(SP値)が、9.5以上9.9以下が好ましく、9.6以上9.8以下がより好ましい。
溶解度パラメータ(SP値)を9.5以上9.9以下にすると、セルロースアシレートへの分散性が向上しやすくなる。
溶解度パラメータ(SP値)は、Fedorの方法により算出された値である、具体的には、溶解度パラメータ(SP値)は、例えば、Polym.Eng.Sci.,vol.14,p.147(1974)の記載に準拠し、下記式によりSP値を算出する。
式:SP値=√(Ev/v)=√(ΣΔei/ΣΔvi)
(式中、Ev:蒸発エネルギー(cal/mol)、v:モル体積(cm
3/mol)、Δei:それぞれの原子又は原子団の蒸発エネルギー、Δvi:それぞれの原子又は原子団のモル体積)
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、単位として(cal/cm
3)
1/2を採用するが、慣行に従い単位を省略し、無次元で表記する。
【0099】
以下、ポリエーテルエステル化合物の具体例を示すが、これに限られるわけではない。
【0101】
(その他の成分)
その他の成分としては、例えば、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)などが挙げられる。これらの成分の含有量は、樹脂組成物全体に対してそれぞれ、0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する。
【0102】
(他の樹脂)
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記セルロースアシレート以外の他の樹脂を含有していてもよい。但し、他の樹脂は、樹脂組成物全体に占めるセルロースアシレートの比率が前述の範囲となる量とすることが好ましい。
他の樹脂としては、例えば、従来公知の熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリカーボネート樹脂;ポリプロピレン樹脂;ポリエステル樹脂;ポリオレフィン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリーレン樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリビニルアセタール樹脂;ポリケトン樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリアリールケトン樹脂;ポリエーテルニトリル樹脂;液晶樹脂;ポリベンズイミダゾール樹脂;ポリパラバン酸樹脂;芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を、重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂;ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;シアン化ビニル−ジエン−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;芳香族アルケニル化合物−ジエン−シアン化ビニル−N−フェニルマレイミド共重合体樹脂;シアン化ビニル−(エチレン−ジエン−プロピレン(EPDM))−芳香族アルケニル化合物共重合体樹脂;塩化ビニル樹脂;塩素化塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。これら樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0103】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、セルロースアシレートと、必要に応じて、可塑剤、その他の成分等と、を少なくとも含む混合物を溶融混練することにより製造される。ほかに、本実施形態に係る樹脂組成物は、例えば、上記成分を溶剤に溶解することによっても製造される。
溶融混練の手段としては公知の手段が挙げられ、具体的には例えば、二軸押出機、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等が挙げられる。
なお、混練の際の温度は、使用するセルロースアシレートの溶融温度に応じて決定すればよいが、熱分解と熱流動性の点から、例えば、140℃以上240℃以下が好ましく、160℃以上200℃以下がより好ましい。
【0104】
[樹脂成形体]
以下、本実施形態に係る樹脂組成物を使用した樹脂成形体(以下「本実施形態に係る樹脂成形体」とも称する)について説明する。
【0105】
本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を含む。つまり、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物と同じ組成で構成されている。
具体的には、本実施形態に係る樹脂成形体は、本実施形態に係る樹脂組成物を成形して得られる。成形方法は、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形、カレンダ成形、コーティング成形、キャスト成形、ディッピング成形、真空成形、トランスファ成形などを適用してよい。
【0106】
本実施形態に係る樹脂成形体の成形方法は、形状の自由度が高い点で、射出成形が好ましい。射出成形については、樹脂組成物を加熱溶融し、金型に流し込み、固化させることで成形体が得られる。射出圧縮成形によって成形してもよい。
射出成形のシリンダ温度は、例えば140℃以上240℃以下であり、好ましくは150℃以上220℃以下であり、より好ましくは160℃以上200℃以下である。射出成形の金型温度は、例えば30℃以上120℃以下であり、40℃以上80℃以下がより好ましい。射出成形は、例えば、日精樹脂工業製NEX500、日精樹脂工業製NEX150、日精樹脂工業製NEX70000、東芝機械製SE50D等の市販の装置を用いて行ってもよい。
【0107】
本実施形態に係る樹脂成形体は、電子・電気機器、事務機器、家電製品、自動車内装材、エンジンカバー、車体、容器などの用途に好適に用いられる。より具体的には、電子・電気機器や家電製品の筐体;電子・電気機器や家電製品の各種部品;自動車の内装部品;CD−ROMやDVD等の収納ケース;食器;飲料ボトル;食品トレイ;ラップ材;フィルム;シート;などである。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り「部」は「質量部」を表す。
【0109】
<セルロースアセテート(化合物1)の調製>
(活性化処理工程)
セルロース(日本製紙社製KCフロックW50、重合度=1020)1kgを16kgのイオン交換水に12時間浸漬した。その後、ろ過して取り出した膨潤セルロースを酢酸15kgに投入し、3h撹拌を行った後、ろ過を行い、活性化処理されたセルロースを取り出した。
【0110】
(アシル化工程)
上記活性化処理されたセルロースに酢酸20kg、無水酢酸5kg、メタンスルホン酸(pKa=−1.9)40g、及び濃硫酸水溶液(硫酸濃度=96%)40g(硫酸量=38.4g)を投入し、40℃以下の温度で撹拌混合しながら、アシル化処理(トリアセチル化処理)を行った。1.5時間で繊維片は無くなり、アシル化が終了した。これにより、セルローストリアセテートを生成した。
【0111】
(脱アセチル化工程)
次に、アシル化したセルロース(セルローストリアセテート)を含む溶液に、イオン交換水600g投入し、残存する無水酢酸を失活させた後、さらに0.2M塩酸水溶液を800g投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これにより、セルローストリアセテートの脱アシル化と共に解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。これにより、セルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。そして、取り出したセルロースジアセテートを2〜3回の水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0112】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテートを調製した。表1に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0113】
<セルロースアセテート(化合物2〜10)の調製>
表1に示す条件(濃硫酸水溶液、有機酸、濃硫酸水溶液、処理条件)としたこと以外はセルロース誘導体(化合物1)と同様の方法で活性化処理工程、アシル化工程、脱アセチル化工程、中和工程を行ってセルロースアセテート(化合物2〜10)の調製を行った。
【0114】
<セルロースアセテート(比較化合物1)の調製>
(アシル化工程)
セルロースアセテート(化合物1)と同様の方法で活性化処理されたセルロースに濃硫酸水溶液(硫酸濃度=96%)80g(硫酸量=76.8g)を投入し、40℃以下の温度で撹拌混合しながら、アシル化処理を行った。繊維片が無くなるまで4時間を要し、アシル化を終了した。これにより、セルローストリアセテートを生成した。
【0115】
(脱アセチル化工程)
次に、アシル化したセルロース(セルローストリアセテート)を含む溶液に、イオン交換水600g投入し、残存する無水酢酸を失活させた後、さらに0.2M塩酸水溶液を800g投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これにより、セルローストリアセテートの脱アシル化と共に解重合を進行させ、目的の分子量(重合度)に到達するまでに5時間を要し、加熱撹拌を停止した。これにより、セルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。取り出したセルロースジアセテートを2〜3回水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0116】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテート(比較化合物1)を調製した。表1に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0117】
<セルロースアセテート(化合物11)の調製>
(活性化処理工程)
セルロース(日本製紙社製KCフロックW50、重合度=1020)1kgを16kgのイオン交換水に12時間浸漬した。その後、ろ過して取り出した膨潤セルロースを酢酸15kgに投入し、3h撹拌を行った後、ろ過を行い、活性化処理されたセルロースを取り出した。
【0118】
(解重合工程)
上記活性化処理されたセルロースに酢酸20kg、0.2M塩酸水溶液800gを投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これによりセルロースの解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。
【0119】
(アシル化工程)
上記解重合したセルロースに無水酢酸5kg、メタンスルホン酸(pKa=−1.9)40g、及び濃硫酸水溶液(96%)40g(硫酸量=38.4g)を投入し、40℃以下の濃度で撹拌混合しながら、アシル化処理を行った。NMRにより置換度をモニターしながら目的の置換度に到達したところで撹拌を停止した。これによりセルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。そして、取り出したセルロースジアセテートを2〜3回の水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0120】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテートを調製した。表2に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0121】
<セルロースアセテート(化合物12、13)の調製>
表2に示す条件(濃硫酸水溶液、有機酸、濃硫酸水溶液、処理条件)としたこと以外はセルロース誘導体(化合物11)と同様の方法で活性化処理工程、アシル化工程、脱アセチル化工程、中和工程を行ってセルロースアセテート(化合物12、13)の調製を行った。
【0122】
<セルロースアセテート(比較化合物2)の調製>
(解重合工程)
セルロースアセテート(化合物11)と同様の方法で活性化処理されたセルロースに酢酸20kg、0.2M塩酸水溶液800gを投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これによりセルロースの解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。
【0123】
(アシル化工程)
上記解重合したセルロースに無水酢酸5Kg、及び濃硫酸水溶液(96%)80g(硫酸量=76.8g)を投入し、40℃以下の濃度で撹拌混合しながら、アシル化処理を行った。NMRにより置換度をモニターしながら目的の置換度に到達したところで撹拌を停止した。これによりセルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。そして、取り出したセルロースジアセテートを2〜3回の水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0124】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテートを調製した。表2に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0125】
<セルロースアセテート(比較化合物3)の調製>
表1に示す条件(濃硫酸水溶液、有機酸、濃硫酸水溶液、処理条件)としたこと以外はセルロース誘導体(化合物1)と同様の方法で活性化処理工程、アシル化工程、脱アセチル化工程、中和工程を行ってセルロースアセテート(比較化合物3)の調製を行った。
【0126】
<セルロースアセテート(化合物14)の調製>
(活性化処理工程)
セルロース(日本製紙社製KCフロックW50、重合度=1020)1kgを16kgのイオン交換水に12時間浸漬した。その後、ろ過して取り出した膨潤セルロースを酢酸15kgに投入し、3h撹拌を行った後、ろ過を行い、活性化処理されたセルロースを取り出した。
【0127】
(解重合工程)
上記活性化処理されたセルロースに酢酸20kg、メタンスルホン酸(pKa=−1.9)40g、0.2M塩酸水溶液800gを投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これによりセルロースの解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。
【0128】
(アシル化工程)
上記解重合したセルロースに無水酢酸5kg、及び濃硫酸水溶液(96%)40g(硫酸量=38.4g)を投入し、40℃以下の濃度で撹拌混合しながら、アシル化処理を行った。NMRにより置換度をモニターしながら目的の置換度に到達したところで撹拌を停止した。これによりセルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。そして、取り出したセルロースジアセテートを2〜3回の水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0129】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテートを調製した。表2に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0130】
<セルロースアセテート(化合物15)の調製>
(活性化処理工程)
セルロース(日本製紙社製KCフロックW50、重合度=1020)1kgを16kgのイオン交換水に12時間浸漬した。その後、ろ過して取り出した膨潤セルロースを酢酸15kgに投入し、3h撹拌を行った後、ろ過を行い、活性化処理されたセルロースを取り出した。
【0131】
(解重合工程)
上記活性化処理されたセルロースに酢酸20kg、0.2M塩酸水溶液800gを投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これによりセルロースの解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30Kgのイオン交換水中に投入し、セルロースを析出させた。そして、取り出したセルロースを2〜3回の水洗浄し、次のアシル化工程に進んだ。
【0132】
(アシル化工程)
上記解重合されたセルロースに酢酸20Kg、無水酢酸5Kg、メタンスルホン酸(pKa=−1.9)40g、及び濃硫酸水溶液(硫酸濃度=96%)40g(硫酸量=38.4g)を投入し、40℃以下の温度で撹拌混合しながら、アシル化処理(トリアセチル化処理)を行った。1.5時間で繊維片は無くなり、アシル化が終了した。これにより、セルローストリアセテートを生成した。
【0133】
(脱アセチル化工程)
次に、アシル化したセルロース(セルローストリアセテート)を含む溶液に、イオン交換水600g投入し、残存する無水酢酸を失活させた後、さらに0.2M塩酸水溶液を800g投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これにより、セルローストリアセテートの脱アシル化と共に解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。これにより、セルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。そして、取り出したセルロースジアセテートを2〜3回の水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0134】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテートを調製した。表2に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0135】
<セルロースアセテート(化合物16)の調製>
(活性化処理工程)
セルロース(日本製紙社製KCフロックW50、重合度=1020)1kgを16kgのイオン交換水に12時間浸漬した。その後、ろ過して取り出した膨潤セルロースを酢酸15kgに投入し、3h撹拌を行った後、ろ過を行い、活性化処理されたセルロースを取り出した。
【0136】
(解重合工程)
上記活性化処理されたセルロースに酢酸20kg、メタンスルホン酸(pKa=−1.9)40g、0.2M塩酸水溶液800gを投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これによりセルロースの解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30Kgのイオン交換水中に投入し、セルロースを析出させた。そして、取り出したセルロースを2〜3回の水洗浄し、次のアシル化工程に進んだ。
【0137】
(アシル化工程)
上記解重合されたセルロースに酢酸20Kg、無水酢酸5Kg、メタンスルホン酸(pKa=−1.9)40g、及び濃硫酸水溶液(硫酸濃度=96%)40g(硫酸量=38.4g)を投入し、40℃以下の温度で撹拌混合しながら、アシル化処理(トリアセチル化処理)を行った。1.5時間で繊維片は無くなり、アシル化が終了した。これにより、セルローストリアセテートを生成した。
【0138】
(脱アセチル化工程)
次に、アシル化したセルロース(セルローストリアセテート)を含む溶液に、イオン交換水600g投入し、残存する無水酢酸を失活させた後、さらに0.2M塩酸水溶液を800g投入し、撹拌混合しながら70℃まで昇温した。これにより、セルローストリアセテートの脱アシル化と共に解重合を進行させ、GPCにより分子量をモニターしながら目的の分子量(重合度)に到達したところで加熱撹拌を停止した。これにより、セルロースジアセテートを生成した。
次に、溶液を室温(25℃)まで冷却後、30kgのイオン交換水中に投入し、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を析出させた。そして、取り出したセルロースジアセテートを2〜3回の水洗浄し、次の中和工程に進んだ。
【0139】
(中和工程)
イオン交換水1.5kg、酢酸カルシウム1g中に、セルロースジアセテート(脱アセチル化セルロース)を投入し、室温(25℃)にて12時間撹拌した。その後、ろ過、水洗浄、乾燥処理を行い、セルロースジアセテートを調製した。表2に、得られたセルロースジアセテートの置換度、重合度、分子量分布を示す。
【0140】
以下、各セルロースアセテートの製造条件を表1〜表2に一覧にして示す。
なお、表2中、化合物15〜16の製造条件において、塩酸水溶液の濃度及び質量の欄の上段の値は解重合工程で添加した塩酸水溶液の濃度及び質量を示し、下段の値は脱アセチル化工程で塩酸水溶液の濃度及び質量を示す。また、化合物16の製造条件において、有機酸の質量の欄の上段の値は解重合工程で添加した有機酸の質量を示し、下段の値はアシル化工程で添加した有機酸の質量を示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
<ペレットの作製>
表3に示すセルロースアシレートと可塑剤の仕込み比と混練温度で、2軸混練装置(東芝機械社製、TEX41SS)にて混練を実施し、樹脂組成物ペレットを得た。
【0144】
【表3】
【0145】
表3中、可塑剤の種類の詳細は次の通りである。
・アジピン酸エステル混合物A:大八化学工業社製、ダイファニティー101
・アジピン酸エステル混合物B:アデカ社製、アデカサイザーRS−107
【0146】
<射出成形>
得られたペレットを用いて、射出成形機(日精樹脂工業社製、PNX40)により、表4に示すシリンダ温度及び金型温度で、ISO多目的ダンベル試験片(試験部長さ100mm、幅10mm、厚み4mm)を作製した。
【0147】
<曲げ弾性率>
得られたダンベル試験片について、万能試験装置(島津製作所、オートグラフAG−XPlus)を用いて、ISO−75に準拠した方法で、1.8MPa荷重条件での荷重たわみ温度を測定した。結果を表4に示す。
【0148】
<熱流動性評価>
ペレットの熱流動性を、メルトインデックサ(東洋精機社製、MI3)にて、荷重10kg、温度200℃でのメルトボリュームレート(MVR)を測定した。結果を表4に示す。
【0149】
<透明性>
得られたダンベル試験片の全光透過率を分光ヘイズメータ「SH7000(日本電色工業社製)」により測定し、透明性につて評価した。結果を表4に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
以上結果から、本実施例では、比較例に比べ、透明性が高い成形体が得られたことがわかる。これにより、樹脂成分である「セルロースアセテート」の透明性が高いこともわかる。
また、本実施例である「セルロースアセテートの化合物1〜16」を使用したペレット(樹脂組成物)により、溶融温度が低く、成形性(射出成形性)が高く、強度(曲げ弾性率)が高い成形体が得られることがわかる。