(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いの歯の配置を半ピッチずらして配置した一対のラック及びラック噛合用ギアの組同士は、接合装置本体の移動に伴う摩擦撹拌接合用ツールのツール移動経路の真下位置を対象軸とする対称位置に配置する請求項1記載の摩擦撹拌接合装置。
摩擦撹拌接合用ツールのプローブをn回対称の回転対称形状とし、摩擦撹拌接合施工時の摩擦撹拌接合用ツールの回転数のx[rpm]と、摩擦撹拌接合施工時の摩擦撹拌接合用ツールの移動速度v[mm/s]を基に、ラックにおけるギア噛合部材のピッチt[mm]を、t>(600・v)/(n×x)の式を満たすように設定した請求項1記載の摩擦撹拌接合装置。
摩擦撹拌接合用ツールのプローブをn回対称の回転対称形状とし、摩擦撹拌接合施工時の摩擦撹拌接合用ツールの回転数のx[rpm]と、摩擦撹拌接合施工時の摩擦撹拌接合用ツールの移動速度v[mm/s]を基に、ラックにおけるギア噛合部材のピッチt[mm]を、t>(600・v)/(n×x)の式を満たすように設定した請求項2記載の摩擦撹拌接合装置。
【背景技術】
【0002】
摩擦撹拌接合は、摩擦撹拌接合用ツールのプローブ(ピンとも称する)を、回転させながらワーク同士の接合部に挿入して、この回転するプローブをワーク間の接合線の全長に亘り移動させて接合する手法である。これにより、このワークの接合部は、回転するプローブとワークとの接触により発生する摩擦熱により昇温され、この接合部の周辺が軟化し、この軟化した接合部の周辺がこのプローブの回転に伴う塑性流動により撹拌混合されることで、このプローブの後方でワークの接合部が一体に接合される。
【0003】
近年、この摩擦撹拌接合は、たとえば、薄板のアルミ材によるワークの接合を中心に実際に適用されている。
【0004】
摩擦撹拌接合装置の一つの形式としては、ワークを接合する接合線の長さよりも長い架構と、この架構の上側にこのワーク間の接合線に沿って延びる隙間を形成させて設置された一対のワーク定盤とを備え、且つこの一対のワーク定盤間の隙間の下方には、この隙間から上方に突出する摩擦撹拌接合用ツールを上端部に取り付ける主軸と、この主軸を回転する駆動装置とを備える接合装置本体が配置され、更に、この接合装置本体をこの隙間に沿って移動可能に支持するリニアガイド機構と、この接合装置本体をこの隙間に沿って移動させる移動装置が備えられた構成が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
ところで、摩擦撹拌接合の施工中は、回転する摩擦撹拌接合用ツールのプローブを接合すべきワークの接合部に挿入させた状態で接合線に沿って移動させるため、接合装置本体には、摩擦撹拌接合用ツールの移動方向と逆方向に作用する反力と、この摩擦撹拌接合用ツールの回転方向と逆の回転方向の反力とからなる大きな接合反力が作用する。
【0006】
この大きな接合反力の影響を受けて、この摩擦撹拌接合用ツールの移動速度が不均一になったり、回転方向の揺れが生じたりすると、ワーク間の接合線に沿う摩擦撹拌接合では、この接合線の長手方向の全長に亘って均一な接合品質を得ることが難しくなる。
【0007】
そのため、接合装置本体の移動装置は、この接合装置本体の移動方向の剛性が高いことが望まれると共に、摩擦撹拌接合用ツールを中心とする回転方向の剛性も高いことが望まれる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1乃至
図5A,
図5Bは本発明の摩擦撹拌接合装置の一実施形態を示す。
【0018】
本発明の摩擦撹拌接合装置は、
図1に符号1で示され、特許文献1に示された摩擦撹拌接合装置と同様に、2つのワークWを接合する接合線Jの長さよりも長い架構2の上側に、一対のワーク定盤4が、ワークW間の接合線Jに沿って延びる隙間3が形成された状態で設置されている。
【0019】
一つのワーク定盤4の隙間3が形成された部位の下方には、
図1乃至
図4に示すように、隙間3から上方に突出する摩擦撹拌接合用ツール6を上端部に取り付けている主軸7と、主軸7を回転させて主軸7に回転力を発生させる駆動装置8と、駆動装置8からの回転力を主軸7に伝達する動力伝達機構9とを備えた接合装置本体5が配置されている。
【0020】
接合装置本体5は、隙間3に沿う方向(
図1、
図2、
図3における矢印xに沿う方向)と直交する水平方向(以下、幅方向と云う)の両側部が、それぞれ隙間3と平行に延びるリニアガイド機構10を介して架構2に支持されている。これにより、接合装置本体5は、各リニアガイド機構10を介して、隙間3と平行に移動できる。
【0021】
更に、本発明の摩擦撹拌接合装置1は、接合装置本体5を隙間3に沿って移動させるための移動装置11を備える。
【0022】
移動装置11には、架構2の内底部における隙間3の直下位置を挟む幅方向の2個所に、隙間3と平行な方向に延びる2条のラック(ピンラック)12が平行に設けられている。この2条のピンラック12の配置位置は、接合装置本体5の移動に伴い摩擦撹拌接合用ツール6が移動するツール移動経路の真下位置を対称軸として、ツール移動経路の真下位置より幅方向に等距離離れた対称位置である。
【0023】
更に、2条のピンラック12は、
図5A,
図5Bに示すように、長手方向に配列されたギア噛合部材として機能するピン13の位置を、一方のピンラック12と他方のピンラック12とで互いに半ピッチずらして設置してある。
【0024】
一方、接合装置本体5には、ワークW間の接合線Jの一端側から他端側へ摩擦撹拌接合を進行させる接合進行方向(矢印x方向)の上流側の端部に、水平方向に突出するフレーム14が設けてある。フレーム14には、ギアボックス15(減速機)が取り付けられている。
【0025】
ギアボックス15は、接合進行方向の上流側の面に入力軸15aを備えている。入力軸15aには、フレーム14の突出端部に接合進行方向の下流側に向けて取り付けた走行用モータ16の出力軸16aが、継手17を介して接続されている。
【0026】
ギアボックス15の幅方向の両側には、同期して回転する一対の出力軸15bが設けてある。各出力軸15bは、各ピンラック12に噛み合う歯形状を有するラック噛合用ギア(ピンギア)18が取り付けられている。なお、各ピンギア18は、
図5A,
図5Bに示すように、対応するピンラック12のピン13の配置に応じて、周方向の歯の配置を互いに半ピッチずらした姿勢で、各出力軸15bに取り付けられている。
【0027】
以上の構成を有する移動装置11によれば、走行用モータ16を駆動させてギアボックス15を介して各ピンギア18を、
図3における反時計回り方向へ回転させることにより、接合装置本体5を、2条のピンラック12に沿い接合進行方向(矢印x方向)に走行させることができる。
【0028】
この際、各ピンギア18は、
図5Aに示すように、対応する一方のピンラック12に対しては歯底部で接していて噛み合わせが強い姿勢と、
図5Bに示すように、対応する他方のピンラック12に対しては歯先部で接していて噛み合わせが弱い姿勢を交互にとる。
【0029】
しかし、移動装置11の幅方向一方のピンギア18と、幅方向他方のピンギア18は、周方向の歯の配置が半ピッチ分ずれているため、たとえば、幅方向一方のピンギア18が
図5Bのように対応するピンラック12に対して噛み合わせが弱くなる姿勢のときには、幅方向他方のピンギア18は
図5Aのように対応するピンラック12に対して噛み合わせが強い姿勢となる。
【0030】
この状態から、各ピンギア18が周方向の歯の配置の半ピッチ分の角度で回転すると、幅方向他方のピンギア18は、対応するピンラック12に対して
図5Bのように噛み合わせが弱い姿勢となるのに対し、幅方向一方のピンギア18は、対応するピンラック12に対して
図5Aのように噛み合わせが強い姿勢となる。
【0031】
その後、移動装置11では、幅方向の両側に設けてある各ピンギア18を同期して回転させることにより、幅方向一方と他方の各ピンギア18が、対応するピンラック12に対して噛み合わせが強い状態と噛み合わせが弱い状態を、交互にとる。
【0032】
したがって、移動装置11は、2つのピンギア18がピンラック12に対して同時に噛み合わせが弱い状態になることはない。よって、この移動装置11は、摩擦撹拌接合の施工のために接合装置本体5を接合進行方向(矢印x方向)に移動させるときに、この接合進行方向に関する剛性を高めることができる。
【0033】
更に、各ピンギア18が対応するピンラック12に交互に噛み合わせが強い状態で噛み合う位置は、ツール移動経路の真下位置を対象軸とする対象位置であるため、接合装置本体5に装備してある摩擦撹拌接合用ツール6からの距離は等しい。このため、移動装置11は、摩擦撹拌接合の施工時に回転させた摩擦撹拌接合用ツール6がワークWより受ける回転方向の反力を、各ピンギア18が対応するピンラック12に交互に噛み合わせが強い状態で噛み合う位置で、順次、同様のモーメントで受けることができるので、回転方向の反力を受ける剛性の変動を抑えることができる。
【0034】
したがって、移動装置11は、摩擦撹拌接合用ツール6を中心とする回転方向の力に対する剛性も高めることができる。
【0035】
なお、本発明者等は、本発明の摩擦撹拌接合装置1の開発の過程で、摩擦撹拌接合に関して以下の知見を得ている。
【0036】
摩擦撹拌接合用ツール6が、
図6A、
図6B、
図6Cに示されるように、軸心を中心とするn回対称(nは2以上の整数)の回転対称形状のプローブ19を備えている場合は、摩擦撹拌接合用ツール6の回転数をx[rpm]に設定して摩擦撹拌接合を施工すると、摩擦撹拌接合用ツール6のプローブ19全体がワークW内に没入している状態であっても、接合装置本体5には、(n×x)/60[Hz]の振動が発生することが判明した。
【0037】
すなわち、たとえば、摩擦撹拌接合用ツール6のプローブ19が
図6Aに示される円柱の外周面の三方を面取りした形状であって、3回対称(n=3)の回転対称形状の場合、摩擦撹拌接合用ツール6の回転数をx[rpm]に設定して、摩擦撹拌接合を施工すると、接合装置本体5には、3x/60[Hz]の振動が発生する。
【0038】
図6Bと
図6Cは、2回対称(n=2)の回転対称形状と、4回対称の(n=4)の回転対称形状の例をそれぞれ示す。
【0039】
一方、接合装置本体5の移動装置11では、
図5Aに示されるように、移動装置11の各ピンラック12におけるピン13の配列ピッチがt[mm]の場合、摩擦撹拌接合の施工の際の摩擦撹拌接合用ツール6の接合進行方向への移動速度がv[mm/s]に設定されると、移動装置11にて、v/t[Hz]の振動が発生しやすい。
【0040】
これらの知見に基づき、本発明の摩擦撹拌接合装置1では、摩擦撹拌接合の施工時に移動装置11で発生する振動の周期(v/t[Hz])に対し、摩擦撹拌接合用ツール6の回転対称形状に起因して接合装置本体5で発生する振動の周期((n×x)/60[Hz])が10倍以上のオーダーでずれるように、移動装置11の各ピンラック12におけるピン13の配列ピッチt[mm]は、以下の式で示す条件を満たすように選定されている。
(v/t)×10<(n×x)/60
∴t>(10・v)×{60/(n×x)}=(600・v)/(n×x)
【0041】
かかる構成を採用することにより、本発明の摩擦撹拌接合装置1は、接合装置本体5で生じる振動に対し、移動装置11で生じる振動が共振することを抑制して、これらの振動による前述した移動装置11の接合進行方向に関する剛性、及び、摩擦撹拌接合用ツール6を中心とする回転方向の剛性への影響を低減させる。
【0042】
更に、上記共振をより確実に防止して、移動装置11の接合進行方向に関する剛性、及び、摩擦撹拌接合用ツール6を中心とする回転方向の剛性への影響を更に低減するためには、接合装置本体5で発生する振動の周期((n×x)/60[Hz])が、移動装置11で発生する振動の周期(v/t[Hz])の定数倍にならないように、以下の式で示される条件も満たす設定とすることが好ましい。
(v/t)×m≠(n×x)/60 (mは正の整数)
【0043】
ワークWの摩擦撹拌接合の施工が終了した後は、移動装置11にて、走行用モータ16の逆方向への運転によりギアボックス15を介して各ピンギア18を、
図3における時計回り方向へ回転駆動させることにより、接合装置本体5を、接合進行方向(矢印x方向)の上流側へ戻すことができる。
【0044】
このように、本発明の摩擦撹拌接合装置1では、接合装置本体5の移動装置11について、接合進行方向に関する剛性、及び、摩擦撹拌接合用ツール6を中心とする回転方向の剛性を高めることができる。
【0045】
このため、摩擦撹拌接合の施工時には、接合装置本体5が、接合進行方向と逆方向と、摩擦撹拌接合用ツール6の回転方向と逆の回転方向に作用する大きな接合反力を受けても、接合装置本体5及び摩擦撹拌接合用ツール6の接合進行方向への移動速度が不均一になったり、回転方向の揺れが生じる可能性を防止することができる。したがって、ワークW間の接合線Jに沿う摩擦撹拌接合の施工では、接合線Jの長手方向の全長に亘って均一な接合品質を得ることができる。
ここで、
図7Aに示される本発明の摩擦撹拌接合により形成された接合部と、
図7Bに示される従来技術の摩擦撹拌接合により形成された接合部を比較する。
図7Aでは、
図7Aの右から左に向かって摩擦撹拌接合が施行されている。
図7Bでは、
図7Bの左から右に向かって摩擦撹拌接合が施行されている。従って、
図7A、
図7B共に、摩擦撹拌接合の開始点付近を示している。
図7Bの摩擦撹拌接合の開始点付近(
図7Bの左端付近)の接合部が乱れている。これは、従来技術による摩擦撹拌接合により形成された接合部では、摩擦撹拌接合の開始時に、接合反力の変動の影響を受けるためである。これに対し、
図7Aの摩擦撹拌接合の開始点付近(
図7Aの右端付近)の接合部は安定している。従って、本発明による摩擦撹拌接合により形成された接合部は、従来に比べて優れた接合品質が得られることが、
図7A、
図7Bにより確認することができる。
【0046】
又、移動装置11は、ラックとしてギア噛合部材としてのピン13を有するピンラック12と、ラック噛合用ギアとしてのピンギア18の組み合わせを用いるので、大きな推進力を得ることができると共に、噛み合いの精度を容易に高めることができる。
【0047】
更に、移動装置11は、ピンギア18を、接合装置本体5に対して接合進行方向の上流側に配してあるので、摩擦撹拌接合の施工時には、回転されるピンギア18により発生させる推進力を、接合装置本体5に対して押す方向に作用させて、接合装置本体5の接合進行方向への走行(移動)を行うことができる。これにより、摩擦撹拌接合の施工時には、摩擦撹拌接合用ツール6のプローブ19をワークWに没入させた状態で接合進行方向へ移動させるために必要とされる大きな推進力を、接合装置本体5へ容易に付与することができる。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態にのみ限定されず、移動装置11は、架構2に3条以上のピンラック12を設け、接合装置本体5側に、それぞれのピンラック12と噛合する3個以上のピンギア18を回転可能に備えてもよい。この場合、少なくとも2条一組のピンラック12が、摩擦撹拌接合用ツール6のツール移動経路の真下位置を対象軸として、このツール移動経路より幅方向に等距離ずつ離れた対称位置に配置されていればよい。
【0049】
移動装置11は、大きな推進力を得ると共に、噛み合いの精度を容易に高めるために、ピンラック12とピンギア18の組み合わせを用いることが望ましいが、ギア噛合部材としての歯を有するラックと、このラックに噛み合う歯形状を有するラック噛合用ギアとしてピニオンギアを用いてもよい。
【0050】
接合装置本体5を一対のワーク定盤4の間に設けた隙間3に沿って移動自在に案内可能であれば、接合装置本体5と架構2との間に介在させるリニアガイド機構10の配置や数は適宜変更してもよい。
【0051】
摩擦撹拌接合装置1は、各ワーク定盤4の上側に、各ワーク定盤4に載置されるワークWを位置固定するためのワーク固定装置を備えてもよい。
【0052】
摩擦撹拌接合用ツール6のプローブ19は、
図6A、
図6B、
図6Cに例示した以外に、1回対称の回転対称形状や、5回対称以上のn回対称の回転対称形状でもよい。
【0053】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加えてもよい。