【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発のうちチタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、最終製品のチタン板の表層部のみを合金化することにより、目標特性を発現する特定の合金元素の使用量を低減し、かつ、チタン材の製造コストを抑制するべく、鋭意検討を行った結果、チタン合金材からなる筐体中に、比較的安価なスポンジチタンなどの材料を減圧下で充填・封入しておき、このチタン材を熱間加工してチタン複合材とする方法を見出した。
【0022】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明に係るチタン複合材およびその熱間加工用のチタン材を、図面を参照しながら説明する。なお、以降の説明では、各元素の含有量に関する「%」は特にことわりがない限り「質量%」を意味する。
【0023】
1.チタン複合材
1−1.全体構成
図1に示すように、本発明に係るチタン複合材1は、第一表層部2と、内層部4と、第二表層部3とを備えるチタン複合材1であって、第一表層部2および第二表層部3がチタン合金からなり、内層部4が、空隙が存在する工業用純チタンからなる。このように、このチタン複合材における耐疲労性は、外部環境に接する表層部(第一表層部2、第二表層部3)によって担保される。そして、第一表層部2および第二表層部3は、工業用純チタンよりも各種性能に優れるチタン合金で構成されている。
【0024】
このチタン複合材1全体が同一のチタン合金からなるチタン材と比較して、同等の特性を有するが、安価に製造することができる。
【0025】
1−2.第一表層部および第二表層部
(厚さ)
第一表層部2および第二表層部3のうち外部環境に接する表層部の厚さが薄過ぎると、耐疲労性が十分に得られない。第一表層部2および第二表層部3の厚さは製造に用いる素材の厚さ、またはその後の加工率によって変化するが、5μm以上あれば十分効果を発揮する。そのため、第一表層部2および第二表層部3の少なくとも一方(少なくとも外部環境に接する表層部)の厚さは、5μm以上であることが望ましく、10μm以上であることがより望ましい。また、チタン複合材1の全厚さに対する第一表層部2および第二表層部3の厚さは、それぞれ1%以上であることが望ましい。
【0026】
一方、第一表層部2および第二表層部3が厚い場合には耐疲労性には問題はないが、成形性が低下する。また、チタン複合材全体に占めるチタン合金の割合が増すため、コストメリットが小さくなる。このため、第一表層部2および第二表層部3の厚さは、それぞれ100μm以下であることが望ましく、50μm以下であることがより望ましい。また、チタン複合材1の全厚さに対する第一表層部2および第二表層部3の厚さは、それぞれ20%以下であることが望ましく、10%以下であることがより望ましい。
【0027】
(化学成分)
本発明に係るチタン複合材1では、第一表層部2および第二表層部3の少なくとも一方(少なくとも外部環境に接する表層部)の耐疲労性を高めるために、以下に掲げる各種合金元素を含有させる必要がある。
【0028】
Fe、Cr、Ni、AlおよびZrから選択される1種以上:0.08〜1.0%
疲労破壊の起点は板材の表面であることから、成形性を維持したまま高い耐疲労性を得るためには、α相の結晶粒径を15μm以下とすることが好ましい。α相の結晶粒径は10μm以下とするのがより好ましく、5μm以下とするのがさらに好ましい。
【0029】
α相の結晶粒径を15μm以下とし、高い耐疲労性を得るためには、Fe、Cr、Ni、AlおよびZrの合計含有量を0.08%以上とする。一方、これらの元素の合計含有量が1.0%を超えると伸びまたは成形性などの延性を大きく低下させる場合がある。そのため、Fe、Cr、Ni、AlおよびZrから選択される1種以上の合計含有量を0.08〜1.0%とする。
【0030】
上記以外の残部は、Tiおよび不純物である。不純物としては、目標特性を阻害しない範囲で含有することができ、その他の不純物は主にスクラップから混入する不純物元素としてSn、Mo、V、Mn、Nb、Si、Cu、Co、Pd、Ru、Ta、Y、LaおよびCe等があり、一般的な不純物元素であるC、N、OおよびHと併せて、総量で5%以下であれば許容される。
【0031】
(機械特性)
チタン複合材1は、優れた成形性を維持したまま高い疲労強度を兼ね備え、疲労強度比(10
7回疲労強度/引張強度)が0.65以上である。疲労強度比が高いほど疲労特性に優れる材料であり、チタン材は一般的にこの数値が0.5〜0.6であることから、0.65以上であれば一般的なチタン材と比較して疲労特性が優れているといえ、0.70以上であればさらに優れているといえる。
【0032】
加えて、チタン複合材1は、圧延方向に垂直方向の破断伸びが25%以上である。成形加工では伸びが大きく影響し、伸びが大きいほど優れた成形性を示す。
【0033】
1−3.内層部
(化学成分)
チタン複合材1の内層部4の純チタンの成分は、後述するように、製造する際に使用するスポンジチタンの成分に依存する。本発明に係るチタン複合材1では、JISに規定される純チタンのうち、JIS1種、JIS2種、JIS3種またはJIS4種の工業用純チタンを用いることができる。すなわち、0.1%以下のC、0.015%以下のH、0.4%以下のO、0.07%以下のN、0.5%以下のFeを含有し、残部がTiである工業用純チタンである。
【0034】
これらJIS1〜4種の工業用純チタンを使用すれば、十分な加工性を有しており、割れなどが発生せず、熱間加工後に表面のチタン合金と一体化したチタン材が得られる。ただし、チタンは活性な金属であるため、スポンジチタンの平均粒径が0.1mm以下の微粉になると質量当たりの表面積が大きくなり、実操業下においてOのキャッチアップ(濃化)が不可避となることに留意が必要である。
【0035】
チタン複合材の内層部のO含有率は所望の機械的特性に応じて調整することが可能であり、高い強度を必要とする場合には最大0.4%まで含有してもよい。O含有量が0.4%を超えると、割れなどが発生し、熱間加工後に表面のチタン合金と一体化したチタン材が得られなくなるおそれがある。一方、強度よりも延性が要求される場合には、O含有量をより低くすることが好ましく、0.1%以下であるのが好ましく、0.05%以下であるのがより好ましい。
【0036】
(空隙率)
本発明に係るチタン複合材1は、後述するチタン材5を素材として、熱間加工および冷間加工により製造される。この際、チタン材5中の純チタン部分に形成される空隙は、熱間加工および冷間加工にともない圧着されていくが、完全には除去されず一部は内層部4中に残存する。この内層部4中の空隙が多すぎると、バルク金属としての機械的特性(強度および延性)が低下するため、空隙は少ないほど望ましい。
【0037】
ただし、空隙を完全に圧着させるためには大圧下が必要となり、製造されるチタン複合材1の形状(厚さ)が制限され、さらには、製造コスト高騰の要因となりうる。一方、チタン複合材1としての構造を維持するのに十分な機械的特性(強度および延性など)を有する程度に空隙が含有される場合には、内部チタンの密度が低くなるため、製造されるチタン複合材1の軽量化が期待できる。
【0038】
この際、内層部4中の空隙率が30%以下であれば、内層部4と第一表層部2および第二表層部3とが一体化したチタン複合材1として製造される。チタン複合材1を効率的に製造するためには、一定量を超えて熱間および冷間加工することが望ましく、この際の空隙率は10%以下となる。
【0039】
以上のように、バルク金属としての機械的特性が重要な場合には空隙率を低くし、素材の軽量化を優先する場合には空隙率を高くするなど、用途に応じて、空隙率を選択することが可能である。この際の内層部4中の空隙率は0%超30%以下であることが望ましく、より望ましくは、0%超10%以下である。
【0040】
(空隙率の算出方法)
チタン複合材1の内層部4中に残存する空隙の割合(空隙率)は、次のように算出される。チタン材の断面が観察できるように樹脂に埋め込んだ後、ダイヤモンドまたはアルミナ研濁液を用いて観察面をバフ研磨して鏡面化仕上げする。この鏡面化仕上げした観察用試料を用いて、倍率500倍で板厚中心部の光学顕微写真を撮影する。撮影した光学顕微鏡写真にて観察される空隙の面積割合を測定し、20枚の測定結果を平均して、空隙率として算出する。観察に用いる顕微鏡は、通常の光学顕微鏡でも問題ないが、偏光観察が可能な微分干渉顕微鏡を用いることでより明瞭に観察できるため、使用することが望ましい。
【0041】
2.チタン複合材の熱間加工用素材
図2は、チタン複合材1の熱間加工用素材である熱間加工用チタン材5の構造を示す説明図である。第一表層部2および第二表層部3がチタン合金からなるとともに、内層部4が純チタンからなるチタン複合材1は、例えば、
図2に示すような、各種の特性を有するチタン合金材で全周を密封して筐体6とし、筐体6の内部にチタン塊7を充填し、筐体6の内部を減圧してチタン材5とし、このチタン材5を熱間加工用素材として熱間加工することにより、製造される。以下で、素材の各構成の詳細を説明する。
【0042】
2−1.チタン塊
(化学成分)
本発明に係る熱間加工用チタン材5に充填するチタン塊7は、従来のクロール法等の製錬工程で製造された通常のチタン塊であり、その成分は、JIS1種、JIS2種、JIS3種またはJIS4種に相当する工業用純チタンを用いることができる。
【0043】
(形状)
チタン塊7は、スポンジチタン、スポンジチタンを圧縮したブリケットおよび工業用純チタンスクラップから選択される1種以上を含むものである。チタン塊7の大きさは、平均粒径で30mm以下が好ましい。平均粒径が30mmより大きいと、搬送する際に取り扱いにくい、チタン材に入れにくいなどハンドリング時に問題があり、その結果、作業効率が悪くなる。また、筐体6中に充填した際の充填率が低くなる可能性があり、熱間加工により製造されるチタン複合材1の密度が低くなって、延性などの特性低下を招く要因となり得る。
【0044】
一方、チタン塊7の大きさが小さすぎると、筐体6中に充填する際に粉塵が問題となって作業に支障をきたすおそれがあるだけでなく、質量当たりの表面積が大きくなり、ハンドリング中にOの濃化が生じるおそれがある。このため、チタン塊7の平均粒径は0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。
【0045】
なお、平均粒径が0.1mm以下の非常に細かい粉末として、MM(Mechanical Milling)処理を施した純チタン粉末を用いることが考えられる。MM処理とは、粉末および硬質ボールをポット内に入れて封入し、ポットミルを振動させることによって、粉末を微細化する処理である。MM処理後の微粉末の表面は活性な状態となっているため、ポット内から純チタン粉末を回収する際に大気中のOおよびNを吸収しないよう、不活性ガス化で取り扱う必要がある。
【0046】
また、OおよびNの濃度の低い純チタンをMM処理すると、高延性であるため粉末同士が圧着したり、硬質ボールまたはポット表面に純チタンが圧着したりする。そのため、MM処理して得られる純チタン粉末の歩留が悪いという問題が生じる。このような理由により、MM処理による純チタン粉末の作製は多大な労力と費用とを必要とし、大量生産には不向きである。
【0047】
チタン微粉末をスポンジチタンから水素化脱水素法で製造する方法もある。しかし、質量あたりの表面積が増加し、表面酸化によりO濃度が上昇しやすくなるため、材質の制御が難しくなる。したがって、スポンジチタンをそのまま使用する本発明の方が、品質・コストの面で優れている。
【0048】
なお、スポンジチタンをプレス成形によりブリケットとして使用する場合には、スポンジチタンの一部または全てを、スクラップ(純チタンスクラップ)またはチタン粉末で代替してもよい。
【0049】
2−2.筐体
(化学成分)
最終製品であるチタン複合材1の第一表層部2および第二表層部3のチタン合金をなすように、上述した合金成分のチタン合金を用いる。
【0050】
(形状)
筐体6として用いるチタン合金材の形状は、熱間加工用素材として用いられるチタン材5の形状に依存するため、特に定形はなく、板材または管材などを用いることができる。ただし、熱間加工、冷間加工および焼鈍などの製造工程を経て製造されるチタン複合材1に、表層の合金化による高機能化および優れた表面性状を具備させるためには、筐体6に用いるチタン合金材の厚さが重要となる。
【0051】
厚さが1mm未満と薄い場合、塑性変形に伴い熱間加工の途中で筐体6が破断して真空が破れて、内部のチタン塊7の酸化を招く。また、チタン材5の内部に充填されたチタン塊7の起伏がチタン材5の表面に転写されて、熱間加工中にチタン材5の表面で大きな表面起伏を生じる。これらの結果、製造されるチタン複合材1の表面性状および延性などの機械的特性、さらには耐疲労性に悪影響を及ぼす。
【0052】
また、仮に、熱間加工および冷間加工中に表面欠陥が発生しない場合においても、製造されるチタン複合材1中でチタン合金部分の厚みが局所的に薄くなって十分な耐疲労性を発揮できない可能性がある。また、筐体6が過度に薄くなると内部に充填したチタン塊7の重量を支え切れないため、室温または熱間での保持中または加工中にチタン材5の剛性が不足して変形してしまう。
【0053】
筐体6に用いるチタン合金材の厚さが1mm以上であれば、これら問題が発生することなく熱間加工を行うことができ、優れた表面性状と耐疲労性を具備したチタン複合材1を製造できる。なお、チタン合金材の厚さを2mm以上とするとより好ましい。
【0054】
一方、チタン合金材の厚さが厚くなり過ぎると、製造される熱間加工用チタン材5に占める筐体6の割合が増大し、相対的に、チタン材5に占めるチタン塊7の割合が低下するため、歩留りが低下してコスト高になる。
【0055】
2−3.熱間加工用チタン材
次に、前記のチタン塊7と筐体6とを用いて製造される、チタン材5について説明する。
【0056】
(形状)
チタン材5の形状は、特定の形状に限られるものではないが、製造されるチタン複合材1の形状によって決められる。板材の製造を目的とする場合は直方体形状のチタン材5が製造され、丸棒、線材または押出材の製造を目的とする場合には円柱形または八角柱等多角柱形状のチタン材5が製造される。チタン材5の大きさは、製品の大きさ(厚さ、幅、長さ)および製造量(重量)により決められる。
【0057】
(内部)
筐体6で全周を密封して囲まれたチタン材5の内部には、チタン塊7が充填される。チタン塊7は塊状の粒であるため、粒と粒との間には空間(隙間)がある。チタン塊7のハンドリング性向上およびこれら隙間を少なくするために、予めチタン塊7を圧縮成形してからチタン材5に入れてもよい。チタン材5内の隙間に空気が残存していると、熱間加工前の加熱時にチタン塊7が酸化・窒化してしまい、製造されるチタン複合材1の延性が低下する。このため、チタン材5内を減圧して高真空度とする。
【0058】
(真空度)
熱間加工時のチタン塊7の酸化・窒化を防止するためには、チタン材5の内部の真空度を10Pa以下、好ましくは1Pa以下にする。チタン材5の内部圧力(絶対圧)が10Paより大きいと、残留している空気によりチタン塊7が酸化または窒化してしまう。下限は特に定めるものではないものの、真空度を極端に小さくするには、装置の気密性向上および真空排気装置の増強など製造コストの上昇に繋がるため、1×10
−3Pa未満にする必要はない。
【0059】
(溶接)
筐体6を溶接する方法としては、TIG溶接もしくはMIG溶接等のアーク溶接、電子ビーム溶接またはレーザー溶接等を用いることができ、特に限定されない。ただし、チタン塊7および筐体6の面が酸化または窒化されないように、溶接雰囲気は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気とする。筐体6のつなぎ目を最後に溶接する場合は、チタン材5を真空雰囲気の容器(チャンバー)に入れて溶接を行い、チタン材5の内部を真空に保つのが好ましい。
【0060】
3.チタン複合材の製造方法
次に、上記本発明のチタン材5を熱間加工用素材として熱間加工を行うチタン複合材1の製造方法について説明する。
【0061】
チタン複合材(製品)1は、チタン材5を熱間加工用素材として、熱間加工を施して形成される。熱間加工の方法は、製品の形状によって選択することができる。
【0062】
板材を製造する場合は、直方体形状(スラブ)のチタン材5を加熱して、熱間圧延を行いチタン板とする。必要に応じて、従来工程と同様に、熱間圧延後に表面の酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延を行い、さらに薄く加工してもよい。
【0063】
丸棒または線材を製造する場合は、円柱または多角形形状(ビレット)のチタン材5を加熱して、熱間圧延または熱間押出を行い、チタン丸棒または線材とする。また、必要に応じて、従来工程と同様に、熱間加工後に酸化層を酸洗などで除去した後、冷間圧延を行い、さらに細く加工してもよい。
【0064】
さらに、押出形材を製造する場合は、円柱または多角形形状(ビレット)のチタン材5を加熱して、熱間押出を行い、種々の断面形状のチタン形材とする。
【0065】
熱間加工前の加熱温度としては、通常のチタンスラブまたはビレットを熱間加工する場合と同様の加熱温度とすればよい。チタン材5の大きさまたは熱間加工の度合い(加工率)によって異なるが、600℃以上1200℃以下とすることが好ましい。加熱温度が低過ぎるとチタン材5の高温強度が高くなり過ぎるため、熱間加工中に割れの原因となり、また、チタン塊7および筐体(チタン合金部)6の接合が不十分となる。一方、加熱温度が高過ぎると得られたチタン複合材1の組織が粗くなるため、十分な材料特性が得られず、また、酸化により表面の筐体(チタン合金部)6が減肉されてしまう。加熱温度を600〜1200℃とすればこのような問題が発生することなく熱間加工を行うことができる。
【0066】
熱間加工の際の加工の度合い、すなわち加工率は、チタン複合材1の内部の空隙率を制御するために選択することができる。ここでいう加工率は、チタン材5の断面積と熱間加工後のチタン複合材1の断面積の差を、チタン材5の断面積で除した割合(百分率)である。
【0067】
加工率が低い場合には、チタン材5の内部のチタン塊7間の隙間が十分に圧着されないため、熱間加工後に空隙として残存する。このような空隙を多く含むチタン複合材1は、含有する空隙の分だけ、軽量となる。ただし、内部に存在する空隙が多いため、機械的特性が十分に発揮されない。一方、加工率が増大するとともに、空隙率は低下して機械的特性が向上する。このため、製造されるチタン複合材1の機械的特性が重要視される場合には、加工率は高い方が好ましい。
【0068】
具体的には、加工率が90%以上では、チタン材5の内部のチタン塊7の粒界の隙間を十分に圧着することができ、チタン複合材1の空隙を少なくすることができる。加工率は高いほど、チタン複合材1の空隙を確実に消滅させるために好ましいものの、チタン材5の断面積を大きくしなければならず、また、熱間加工を繰り返して何回も行わなければならなくなる。その結果、長い製造時間を要するなどの問題が生じるため、加工率は99.9%以下にすることが好ましい。
【0069】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
図1および2に示すように、チタン合金板の筐体6の内部にチタン塊7を充填してチタン材5とし、このチタン材5を圧延する方法を行い、試験片作製を行った。
【0071】
なお、チタン材5の全体の厚みを125mm、筐体6のFe、Cr、Ni、Al、Zrの合計含有量が0.03〜1.12%、内部のチタン塊7の化学成分は、O:0.043〜0.301%、Fe:0.028〜0.088%の範囲で、C:0.01%以下、H:0.003以下、N:0.006%以下である。一部、熱間圧延率の影響を比較するために、全体の厚みが25mm、50mmのチタン材5も作製した。
【0072】
具体的には、外周に、Fe、Cr、Ni、Al、Zr濃度および厚さを調整したチタン合金板を使用して筐体6を作製し、この筐体6の内部にスポンジチタンを圧縮成形した圧縮体(ブリケット)を充填し、その後、チタン材5の蓋を溶接した。
【0073】
一部、ブリケットを形成せずスポンジチタンのままで充填したチタン材5、スポンジチタンと組成が同等の純チタン板を約25mm角にカットしたスクラップを10%または30%混合したブリケットを作製して充填したチタン材5を作製した。
【0074】
溶接方法は、熱間加工時のチタン塊7の酸化・窒化を防止するためには、チタン材5の内部の真空度が10Pa以下となる真空雰囲気で、電子ビーム溶接した。
【0075】
その後、厚さ5mmまで熱間圧延した後、脱スケール(ショットブラストと酸洗)、冷間圧延および焼鈍を施して、チタン複合材1とした。なお、元素濃化領域(チタン合金)をなす第一表層部2および第二表層部3の厚みは、外側のチタン合金板6の厚みと脱スケール時の表面除去量とによって、調整した。
【0076】
チタン複合材1である各試験材について、各位置でのα相結晶粒径、引張強度、伸び、疲労強度、成形性を以下に示す条件で評価した。
【0077】
(α相結晶粒径)
第一表層部2および第二表層部3の厚みはEPMAで測定した。光学顕微鏡により撮影した組織写真において、JIS G 0551(2005)に準拠した切断法により、内層部および表層部において、板厚1〜10%の位置のα相の平均結晶粒径を算出した。
【0078】
(引張強度、伸び)
平行部6.25×32mm、標点間25mm、チャック部10mm幅、全長80mmの引張試験材(JIS13−B引張試験材の半分のサイズ)を作製し、0.2%耐力測定までは標点間0.5%/minで、耐力以降は30%/minの引張速度で引張試験を行った。ここでは、圧延方向に垂直方向の引張強度、全伸びを評価した。
【0079】
(疲労強度)
図3に示す平面曲げ疲労試験材と、東京衡機製平面曲げ試験機を用いて、応力比R=−1、周波数25Hzの条件で疲労試験を行った。ここでは各応力振幅における破断までの繰り返し数を求めて応力疲労曲線を作成し、10
7回繰り返し曲げを行っても破断しない疲労限度(疲労強度)を評価した。
【0080】
(成形性)
東京試験機製、型番SAS−350Dの深絞り試験機にてφ40mmの球頭ポンチを用いて、90mm×90m×0.5mmの形状に加工したチタン板に対して球頭張出し試験を行った。張出し試験は、日本工作油(株)製高粘性油(#660)を塗布し、この上にポリシートを乗せ、ポンチとチタン板が直接触れないようにし、試験材が破断した時の張出し高さを比較することで評価した。
【0081】
球頭張出し試験での張出し高さは、酸素濃度の影響を強く受けることから、JIS1種では21.0mm以上、JIS2種では19.0mm以上、JIS3種では13.0mm以上を成形性が良好(表中の○印)と判定した。これ未満の場合には不芳(表中の×印)とした。
【0082】
(金属組織)
図4に、上記の方法で作製した場合の組織写真の一例を示す。
図4(a)は試験No.1(比較例、一般的なチタン材料)の組織写真であり、
図4(b)は試験No.9(本発明例)の組織写真であり、
図4(c)は試験No.16(本発明例)の組織写真であり、
図4(d)は試験No.22(本発明例)の組織写真である。
【0083】
なお、
図4(b)〜
図4(d)は、本発明例であり、第一表層部2および第二表層部3の厚さが異なっている。
【0084】
試験結果を表1および2にまとめて示す。表1はチタン塊7としてJIS1種に相当する工業用純チタンを用いた場合であり、表2はチタン塊7としてJIS2,3種に相当する工業用純チタンを用いた場合である。また、表1および2における「筐体内部に使用した素材形態の水準」の欄の記号N1〜N4は、以下の種類と比率を示す。
N1:スポンジチタンを100%使用したブリケット
N2:スポンジチタンままを100%
N3:スポンジチタン90%と組成が同等のスクラップ10%を混合したブリケット
N4:スポンジチタン70%と組成が同等のスクラップ30%を混合したブリケット
【0085】
【表1】
【0086】
表1における試験No.7〜19、21〜24、26〜30および33〜40は本発明で規定する条件を全て満足する本発明例であり、試験No.1〜6、20、25、31および32は本発明で規定する条件を満足しない比較例である。
【0087】
試験No.1〜3は、JIS1種相当のチタン合金板であり、本発明例の成形性および疲労強度を評価する際の基準となる成形性および疲労強度を有する。試験No.1〜3の疲労強度比はそれぞれ0.63、0.63および0.55であり、一般的な値である。
【0088】
試験No.7〜19、21〜24、26〜30および33〜40は、伸び:30〜46%、引張強さ:295〜341MPa、疲労強度:197〜251MPa、疲労強度比:0.67〜0.78、張出し高さ:21.0〜21.7mmの機械特性を得られており、成形性と疲労強度との双方に優れることがわかる。
【0089】
これに対し、試験No.4は、第一表層部2および第二表層部3のFe含有量が本発明の範囲を下回るため、疲労強度比が0.63と不芳である。
【0090】
試験No.5および6は、第一表層部2および第二表層部3のFe含有量が本発明の範囲を上回るため、伸びがそれぞれ20%および18%と不芳である。
【0091】
試験No.20は、第一表層部2および第二表層部3の厚さが、3μm、厚さ/全板厚×100が0.5%と本発明の範囲を下回るため、疲労強度比が0.63と不芳である。
【0092】
試験No.25は、第一表層部2および第二表層部3の厚さが、128μm、厚さ/全板厚×100が25.6%と本発明の範囲を上回るため、製造コストが高い。
【0093】
試験No.31は、第一表層部2および第二表層部3のAl含有量が本発明の範囲を下回るため、疲労強度比が0.62と不芳である。
【0094】
さらに、試験No.32は、第一表層部2および第二表層部3のAl含有量が本発明の範囲を上回るため、伸びが22%と不芳である。
【0095】
【表2】
【0096】
表2における試験No.46〜51、53、54および59〜66は本発明で規定する条件を全て満足する本発明例であり、試験No.41〜45、52および55〜58は本発明で規定する条件を満足しない比較例である。
【0097】
試験No.41および42は、JIS2種相当のチタン合金板であり、試験No.55および56は、JIS3種相当のチタン合金板である。試験No.41、42、55および56は、いずれも、本発明例の成形性および疲労強度を評価する際の基準となる成形性および疲労強度を有する。試験No.41および42の疲労強度比はそれぞれ0.58および0.59であり、試験No.55および56の疲労強度比はそれぞれ0.59および0.58である。いずれも、一般的な値である。
【0098】
試験No.47〜51、53、54および59〜65は、伸び:25〜33%、引張強さ:341〜614MPa、疲労強度:255〜421MPa、疲労強度比:0.65〜0.77、張出し高さ:10.0〜20.6mmの機械特性を得られており、成形性と疲労強度との双方に優れることがわかる。
【0099】
これに対し、試験No.43は、第一表層部2および第二表層部3のFe含有量が本発明の範囲を下回るため、疲労強度比が0.57と不芳である。
【0100】
試験No.44および45は、第一表層部2および第二表層部3のFe含有量が本発明の範囲を上回るため、伸びがそれぞれ20%および16%と不芳である。
【0101】
試験No.52は、第一表層部2および第二表層部3の厚さが、160μmと本発明の範囲を上回るため、製造コストが高い。
【0102】
試験No.57は、第一表層部2および第二表層部3のFe含有量が本発明の範囲を下回るため、疲労強度比が0.59と不芳である。
【0103】
試験No.58は、第一表層部2および第二表層部3のFe含有量が本発明の範囲を上回るため、伸びが19%と不芳である。