【実施例】
【0021】
[実施例1]
板厚0.185mmのティンフリースチール材(SR材:1回冷間圧延材)の両面に、厚み0.017mmの透明PETフィルムと酸化チタンから成る白色顔料を含有する厚み0.013mmのホワイトPETフィルムをそれぞれラミネートして樹脂被覆金属板を得た。
この樹脂被覆金属板を用いて、下記皺押さえ工具、成形条件で前記透明PETフィルムが内面となるように深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
1.[評価方法]
○:絞り成形可能、△:カップ側壁皺、×底抜け、
※:カップ開口端のフィルム剥離。
2.皺押さえ工具(
図3の実施例1参照)
テーパ角度θ:0°1′38″、段差h2:0.007mm、テーパ開始径r2:80.7mm、外縁フラット面開始径r3:136.6mm、内外フラット面段差h1:0.007mm、外縁フラット面積:1405mm
2
3.成形条件
ブランク径:143.0mm、絞り比:2.0、絞りカップ径(ドローパンチ径):73mm、ドローパンチラジアスRp:6.0mm、
ドローダイラジアスRd:2.0mm、絞りクリアランスCL:0.350mm、
成形速度:10spm、皺押さえ荷重(kN):23〜50
【0022】
[比較例1]
皺押さえ面がフラット面である従来の皺押さえ工具30(皺押さえ全平面積:11319mm
2)(
図3の比較例1参照)を使用し、皺押さえ工具以外は実施例1と同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0023】
[実施例2]
実施例1において、0.240mmのティンフリースチール材(SR材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0024】
[比較例2]
比較例1において、0.240mmのティンフリースチール材(SR材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0025】
[実施例3]
実施例1において、絞り比:1.8、絞りカップ径:78mmとした以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0026】
[比較例3]
比較例1において、絞り比:1.8、絞りカップ径:78mmとした以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0027】
[実施例4]
実施例3において、0.240mmのティンフリースチール材(SR材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0028】
[比較例4]
比較例3において、0.240mmのティンフリースチール材(SR材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0029】
[参考例]
皺押さえ工具40を、テーパ面41の最深部から平坦面42となって外周面まで続き、テーパ角度θ:0°2′18″、テーパ開始径r2:96.3mm、段差h2:0.010mmの外縁フラット面が無い形状とし、上面が前記皺押さえ工具40の皺押さえ面と略対称的な形状のドローダイ45を使用し、実施例1と同様に深絞り成形をした。(
図3の参考例参照)
【0030】
そして、前記実施例1、比較例1及び参考例による深絞り成形の経過による皺の発生状況を観察した結果を
図3に示す。
その結果、実施例1は、絞り成形開始時に皺が発生するが発展せず、絞り成形完了時に皺が消滅した。
一方、比較例1は、絞りが進行して、ブランクの皺押さえ領域の厚みが変化すると、皺押さえ面とブランクの間で空隙のできる内側で皺が発生して、絞り成形完了時にカップ側壁皺が確認された。
また、参考例は、絞り成形の進行に伴って外縁部の皺が発達して、完全には消滅しないで残り、比較例1と同様に絞り成形完了時にカップ側壁皺が確認された。
【0031】
[比較例5]
皺押さえ面形状を、
図4aに示した内縁フラット面51、該内縁フラット面から外側に向けて深くなるテーパ面52、テーパ面の最深部から外周縁まで延びる平坦面53からなる皺押さえ面形状とし、テーパ角度θ:0°2′18″、テーパ開始径r2:96.3mm、内縁フラット面51と平坦面53の段差h2:0.010mmの皺押さえ工具50を使用して、実施例1と同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0032】
[比較例6]
比較例5において、テーパ角度θ:0°3′32″、テーパ開始径r2:90.3mm、内縁フラット面51と平坦面53の段差h2:0.015mmとした以外は同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0033】
[比較例7]
皺押さえ面形状を、
図4bに示した内側フラット面から所定の距離を隔てビード深さが0.10mmのビード(凹部)62を同心状に4重に形成した皺押さえ工具60を用いた。一方、ドローダイ65を、内周縁の成形作用面(コーナ部)から水平に延びる所定幅の環状平端部66を形成すると共に、外側下方に向けてテーパ角度θ:0゜2′18″のテーパ面67を形成し、その最深部から外周面に向けて平坦面68を有する形状とした。
この皺押さえ工具60とドローダイ65を使用して、実施例1と同様の樹脂被覆金属板を用いて同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0034】
[実施例5]
前述した実施例1おいて、板厚0.185mmのティンフリースチール材(DR材:2回冷間圧延材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0035】
[比較例8]
比較例5において、板厚0.185mmのティンフリースチール材(DR材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0036】
[比較例9]
比較例8において、板厚0.185mmのティンフリースチール材(DR材)を用いた以外は、同様に深絞り成形を行い、成形可能な皺押さえ荷重の範囲を確認した。
【0037】
そして、実施例1〜4、5及び比較例1〜9の成形可能な皺押さえ荷重の範囲を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
この結果、実施例1〜4と、その実施例に対応する比較例1〜4を比較すると、それぞれ実施例において成形可能な皺押さえ荷重の範囲が広く、金属板の元板厚が薄く、及び/又は絞り比が高くなると、深絞り成形における前記皺押さえ荷重の範囲が狭いことが判る。例えば、実施例1と比較例1とを比較すると、同一成形条件で実施例1に係る成形金型によれば0.185mmSR材を絞り比2.0での良好な成形が皺押さえ荷重39〜50kNの範囲で可能であったが、比較例1の成形金型によれば当該条件での良好な深絞り成形は皺押さえ荷重を変えても達成することができなかった。
また、皺押さえ工具の形状に関して、実施例1と比較例5〜7及び実施例5と比較例8、9の成形可能な皺押さえ荷重の範囲の比較から、実施例の皺押さえ形状が深絞り成形性に優れていることが判る。
尚、比較例7は、皺押さえ荷重が33〜45kNにおいて、カップ開口端のフィルム剥離が生じた。
また、本実施例における成形可能な皺押さえ荷重の範囲の確認により、DR材はSR材よりもカップ側壁皺、底抜けを抑制して絞り成形を行う難易度が高いことが判明した。
【0040】
次いで、前記実施例の結果を踏まえ、皺押さえ工具の好ましい形状を検討するための実験を行った。