特許第6156747号(P6156747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156747
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】静電エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/245 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
   G01D5/245 C
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-255350(P2014-255350)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-114559(P2016-114559A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2016年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103792
【氏名又は名称】オリエンタルモーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091915
【弁理士】
【氏名又は名称】本城 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100099106
【弁理士】
【氏名又は名称】本城 吉子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大生
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−164553(JP,A)
【文献】 特開2005−61964(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第714171(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2絶縁部材の相対向する表面上に配置される電極により形成される静電容量を用いて、前記第1絶縁部材の測定方向の変位を計測する静電エンコーダにおいて、前記電極は、
前記第1絶縁部材に予め定める第1電極周期で前記測定方向に等間隔で配置される複数の中継電極と、
前記第2絶縁部材に予め定める第2電極周期で前記測定方向に等間隔で配置される複数の送信電極及び検出電極であって、前記複数の送信電極及び前記検出電極は、前記測定方向に交互に配置される、複数の送信電極及び検出電極と、
から構成されることを特徴とする静電エンコーダ。
【請求項2】
前記第1絶縁部材は円板状の固定子であり、かつ前記第2絶縁部材は円板状の回転子であることを特徴とする請求項1記載の静電エンコーダ。
【請求項3】
前記第2電極周期は、前記第1電極周期とは異なる予め定める電極周期に設定され、前記複数の送信電極に高周波信号及び前記高周波信号を反転した反転高周波信号を前記円周方向に交互に与えると、隣接する前記検出電極間で検出される検出信号が90°の位相差を有することを特徴とする請求項2記載の静電エンコーダ。
【請求項4】
前記検出電極で検出される90°の位相差を有する検出信号に基づいて、前記回転子の回転角を求めることを特徴とする請求項3記載の静電エンコーダ。
【請求項5】
前記複数の中継電極は、前記回転子の中心から放射状に広がる略台形の形状であり、かつ前記送信電極及び前記検出電極は、前記固定子の中心から放射状に広がる略台形の形状であることを特徴とする請求項2記載の静電エンコーダ。
【請求項6】
前記固定子に4nm個の前記送信電極及び前記検出電極をそれぞれ配置し、かつ前記回転子にX個の前記中継電極を配置する場合、
X/4n=m±0.25
の関係を満たし、
n及びmは、1以上の自然数である、
ことを特徴とする請求項2記載の静電エンコーダ。
【請求項7】
前記検出電極の内の第1の検出電極で検出された検出信号と前記第1の検出電極から円周方向にm個離れた第2の検出電極で検出された検出信号とに基づいて、前記回転子の回転角を求めることを特徴とする請求項6記載の静電エンコーダ。
【請求項8】
円板状の回転子及び固定子の相対向する表面上に配置される電極により形成される静電容量を用いて前記回転子の回転角を計測する静電エンコーダにおいて、前記電極は、
前記回転子の円周方向に形成される外層及び内層のそれぞれに前記円周方向に等間隔で配置される複数の中継電極と、
前記固定子の円周方向に形成される外層及び内層のそれぞれに前記円周方向に等間隔で配置される複数の送信電極及び検出電極であって、前記複数の送信電極及び前記検出電極は、前記円周方向に交互に配置される、複数の送信電極及び検出電極と、
から構成されることを特徴とする静電エンコーダ。
【請求項9】
前記固定子の外層に配置される前記複数の送信電極及び検出電極は、前記回転子の外層に配置される前記複数の中継電極と同一の電極周期で配置され、かつ前記固定子の内層に配置される前記複数の送信電極及び検出電極は、前記回転子の内層に配置される前記複数の中継電極と同一の電極周期で配置されることを特徴とする請求項8記載の静電エンコーダ。
【請求項10】
前記固定子の内層に配置される前記複数の送信電極及び検出電極は、前記固定子の外層に配置される前記複数の送信電極及び検出電極に対して円周方向の予め定める角度だけずれて配置されることを特徴とする請求項8記載の静電エンコーダ。
【請求項11】
前記複数の送信電極に高周波信号及び前記高周波信号を反転した反転高周波信号を前記円周方向に交互に与えると、前記外層の前記検出電極と前記内層の前記検出電極と間で90°の位相差を有する検出信号が検出されることを特徴とする請求項8記載の静電エンコーダ。
【請求項12】
前記外層の検出電極及び前記内層の検出電極で検出される90°の位相差を有する検出信号に基づいて、前記回転子の回転角を求めることを特徴とする請求項11記載の静電エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電エンコーダに関し、さらに詳しくは、静電エンコーダの固定子及び回転子に形成された電極の配置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示されるように、静電エンコーダ10は、固定子11上に送信電極12と検出電極13を、またそれらの電極に対向する位置に配置される移動子14上に中継電極15を有する。高周波信号16が送信電極12に印加されると、高周波信号16は、送信電極12と中継電極15との間に形成される静電容量Ctc及び中継電極15と検出電極13との間に形成される静電容量Ccsを介して検出電極13に伝達される。静電容量Ctc及び静電容量Ccsは、移動子14の移動による送信電極12、中継電極15、及び検出電極13の対向関係により変化するため、検出電極13に現れる高周波信号を信号処理回路17で処理して、移動子14の位置を検出することができる。静電エンコーダを用いて、移動子の位置を検出する原理は、以下のとおりである。
【0003】
図2を参照して、静電エンコーダ10の送信電極12に高周波信号16が印加される。高周波信号16は、送信電極12と中継電極15との間に形成される静電容量Ctcにより中継電極15に静電誘導による電位を生成させ、さらにその誘導電位は、中継電極15と検出電極13との間に形成される静電容量Ccsにより検出電極13に検出信号18を生成させる。送信電極12と中継電極15との間の静電容量Ctcは固定され、変化がないと仮定すると、移動子14の移動により静電容量Ccsが変化し、検出信号18は、高周波信号21を振幅変調した波形となる。信号処理回路17は、この振幅変調した信号成分を検出することにより、移動子の位置を算出することができる。
【0004】
上述した静電エンコーダによる位置検出の基本原理に基づいて、米国特許第4,429,307号(特許文献1)は、送信要素56,58、受信要素60、及び導電要素50,52を円板状の固定ディスク48及び移動ディスク46上にそれぞれ配置した静電エンコーダを開示する(特許文献1のFIG.7及びFIG.8参照)。図3に前記米国特許のFIG.8に描かれた円板状の固定ディスク48を示す。前記米国特許に開示された静電エンコーダでは、固定ディスク48の送信要素56,58から送信された送信信号(Asinωt,−Asinωt)は、導電要素50,52で中継され、受信要素60で検出される。移動ディスク46が回転することで、導電要素50,52と受信要素60との間の静電容量は、変化する。この容量の変化が電位の変化として検出され、2つの互いに90°の位相差を有する正弦波状に変調された出力信号を得ることができる。これらの出力信号の包絡線(振幅変調)成分から移動ディスク46の回転変位量を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,429,307号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3に示す従来の静電エンコーダでは、送信要素56,58と受信要素60の形状が異なるため、送信要素56,58と導電要素50,52との間の静電エンコーダの動作上好ましくない寄生容量、あるいは導電要素50,52と受信要素60との間の寄生容量の大きさが送信要素及び受信要素毎に異なる。その結果、受信要素60からの出力信号の振幅変調の電圧が正負のいずれかに偏るという課題があった。特に、移動ディスク46及び固定ディスク48の間隔が広くなると、出力信号における振幅変調の電圧の偏りが増加する。また、受信要素60の数が多いため、固定ディスク48を小型化にすることが構造上難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1及び第2絶縁部材の相対向する表面上に配置される電極により形成される静電容量を用いて絶縁部材間の測定方向の変位を計測する静電エンコーダに関わり、第1絶縁部材に予め定める第1電極周期で測定方向に2又はそれ以上の中継電極が配置され、かつ第2絶縁部材に第1電極周期とは異なる予め定める第2電極周期で測定方向に送信電極及び検出電極が交互に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、送信電極及び検出電極を測定方向に交互に配置する電極配置を採用する結果、全ての電極の形状が等しくなるため、出力信号の振幅変調の電圧が正負のいずれかに偏るという課題を低減することができるとともに、第1及び第2絶縁部材間の間隔の変動に対して、出力信号における振幅変調の電圧変動の偏りをさらに低減することが可能となる。さらに、検出電極の数を低減することで、放射状に配置した電極の数を低減することができ、静電エンコーダの小型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】静電エンコーダの基本原理を説明する図である。
図2図1に示される構成の静電エンコーダの動作を説明するための図である。
図3】従来の静電エンコーダの電極配置の一例を示す図である。
図4】本発明の第1の実施例に係る静電エンコーダの基本原理を説明する図である。
図5図4に示される静電エンコーダの固定子の電極と回転子の電極との間に形成される静電容量の関係を示す図である。
図6】電極の配置と検出信号との関係を説明するための図を示す。
図7】本発明の第2の実施例に係る静電エンコーダの結線図を示す。
図8】回転子の回転による中継電極と送信電極及び検出電極との対向関係を示す図である。
図9】回転子の回転による対向面積の変化を示す波形図である。
図10】回転子の回転に応答して出力される変調信号を示すグラフである。
図11】中継電極の電極数がX(2から50)の場合の送信電極、検出電極、及び、中継電極の電極数の組み合わせを示す表である。
図12】本発明に係る第3の実施例に係る静電エンコーダの結線図を示す。
図13】内層に配置された電極間の相対的な位置関係、及び、回転子の回転による対向面積の変化に基づく差動出力(A相系統)の変化を表す波形図を示す。
図14】外層に配置された電極間の相対的な位置関係、及び、回転子の回転による対向面積の変化に基づく差動出力(B相系統)の変化を表す波形図を示す
図15】回転子の回転に応答して出力される変調信号を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図4は、本発明の第1の実施例に係る回転型静電エンコーダ40の出力信号を得る基本原理を説明する図である。静電エンコーダ40は、固定子41と回転子42上に形成された電極面を対向して配置され、回転子42は中心軸43に回転可能に結合される。固定子41は、検出電極44a〜44d、及び、送信電極45a〜45dを中心軸46から放射状の形状で配置する。検出電極44a〜44dと送信電極45a〜45dは、固定子41の円周方向に交互にかつ等間隔に配置される。回転子42は、中継電極47a〜47eを中心軸43から放射状の形状で、かつ等間隔に配置する。固定子41及び回転子42は、例えば直径40ミリメートル、厚さ2ミリメートルのガラスエポキシ基材のプリント基板で作成され、その上に銅箔の電極パターンがエッチングにより形成されが、他の材料あるいは他の方法で形成されてもよい(以下述べる他の実施例も同様である)。固定子41及び回転子42は、電極面が約0.1ミリメートルの間隙で対向するように配置される。以上のように、図4に示される静電エンコーダ40は、4極の検出電極及び4極の送信電極を配置する固定子41、及び、5極の中継電極を配置する回転子42からなる実施例である。
【0011】
高周波信号(Vsinωt)48aは、送信電極45a,45cに、また高周波信号48aの位相を反転させた高周波信号(−Vsinωt)48bは、送信電極45b,45dに与えられる。ここで、Vは電圧、ωは角速度、tは時間をそれぞれ表す。検出電極44a,44cは、差動演算増幅回路49aの非反転入力及び反転入力にそれぞれ結合され、また検出電極44b,44dは、差動演算増幅回路49bの非反転入力及び反転入力にそれぞれ結合される。
【0012】
上述のように配置された静電エンコーダ40の回転子42が中心軸43を中心に回転すると、演算増幅回路49aは、検出電極44aで検出されたA相の検出信号と検出電極44cで検出された/A相の検出信号との差分を取り、振幅変調された出力信号Vaを出力する。また、演算増幅回路49bは、検出電極44bで検出されたB相の検出信号と検出電極44dで検出された/B相の検出信号との差分を取り、振幅変調された出力信号Vbを出力する。これらの出力信号Va,Vbは、高周波信号48a,48bが固定子41上の電極と回転子42上の電極との間に形成された静電容量を介して伝達された信号から得られた信号であり、回転子42の回転により生じる静電容量の変化に基づいて振幅変調されている。高周波信号48a,48bがその静電容量を経由して演算増幅回路49aに伝達する経路を図5に模式的に示す。
【0013】
図5は、回転子42の基準点(図4)が固定子41の基準位置(0°)から回転角θ1だけ回転するときに、検出電極44a,44cが中継電極47a〜47eを介して送信電極45a〜45dと形成する静電容量を説明するための図である。固定子41及び回転子42上の電極は円周状に配置されているが、図5は、電極間に形成された静電容量を説明するために、送信電極、検出電極、及び、中継電極を便宜的に直線状に描く。
【0014】
図5に示される電極の位置関係では、送信電極45dは、中継電極47eと対向し、それらの間に静電容量C1を形成する。また、送信電極45aは、中継電極47aと対向し、それらの間に静電容量C4を形成する。さらに、検出電極44aは、中継電極47e及び中継電極47aとの間にそれぞれ静電容量C2,C3を形成する。送信電極45b,45cは、中継電極47cとそれぞれ静電容量C5,C7を形成する。また、検出電極44cは、中継電極47cと静電容量C6を形成する。
【0015】
図5に示される静電容量の分布状態において、A相に関する検出信号に関して、送信電極45aに印加された高周波信号(Vsinωt)48aは、静電容量C4を介して中継電極47aに高周波信号を誘導し、その誘導された高周波信号は、さらに静電容量C3を経由して検出電極44aに伝達される。また、送信電極45dに印加された反転高周波信号(−Vsinωt)48bは、静電容量C1を介して中継電極47eに高周波信号を誘導し、その誘導された高周波信号は、さらに静電容量C2を経由して検出電極44aに伝達される。/A相に関する検出信号に関して、送信電極45bに印加された反転高周波信号48bは、静電容量C5を介して中継電極47cに高周波信号を誘導し、その誘導された高周波信号は、さらに静電容量C6を経由して検出電極44cに伝達される。また、送信電極45cに印加された高周波信号48aは、静電容量C7を介して中継電極47cに高周波信号を誘導し、その誘導された高周波信号は、さらに静電容量C6を経由して検出電極44cに伝達される。なお、B相及び/B相に関する検出信号(図4)に関しても、上述と同様に、電極間に分布する静電容量を経由して高周波信号が検出電極に伝達される。
【0016】
上述した電極間の静電容量を経由して、検出電極44a及び検出電極44cに伝達される高周波信号は、演算増幅回路49aの非反転入力及び反転入力に印加され、それらの入力信号に対する差動増幅演算を実行することにより、出力信号Vaが得られる。図5は、A系統(A相,/A相の検出信号を導く系統)の静電容量の分布を示すが、B系統(B相,/B相の検出信号を導く系統)の静電容量の分布は示されていない。しかしながら、A系統と同様の回路によりB系統からの出力信号Vbを得ることができる。出力信号Va,Vbを復調することにより、出力信号Va,Vbの振幅変調成分である変調信号V1,V2が得られる。変調信号V2は、変調信号V1に対して90°の位相差を有するため、変調信号V1及び出力電圧V2に対して周知のレゾルバデジタル(RD)変換処理を適用して、回転子42の回転角を求めることができる。
【0017】
図4に示される固定子41及び回転子42に配置された検出電極44a〜44dから90°の位相差を有する検出信号が出力される原理について説明する。図6(1)は、中継電極、検出電極、及び、送信電極を同じ電極周期(同じ電極数)で配置する構成を示す。図6(1)に示される配置では、送信電極(+送信a1,−送信b1,・・・)に高周波信号(Asinωt)及び反転高周波信号(−Asinωt)が交互に与えられる。その結果、検出電極(a1,b1,・・・)は、高周波信号(Asinωt)(A相)と、反転高周波信号(−Asinωt)(/A相)を交互に出力する。これに対して、図6(2)に示される配置は、中継電極を配置する電極周期を検出電極及び送信電極を配置する電極周期と異ならせているので、隣接する検出電極間で検出される検出信号に位相差が生じる。隣接検出信号間に90°の位相差が生じるように、中継電極の電極周期に対する検出電極及び送信電極の電極周期を調整する。その結果、検出電極(a2,b2,・・・)は、A相(Asinωt)、B相(Acosωt)、/A相(−Asinωt)、/B相(−Acosωt)の順に検出信号を出力する。
【0018】
前述のように、送信電極に印加された高周波信号は、中継電極を経由して検出電極に伝達され、その検出電極で検出された検出信号から出力信号が求められる。固定子及び回転子に形成された電極間の静電容量は、回転子の回転に応じて変化し、その変化により出力信号の振幅が変化する。固定子及び回転子は密接しているので、電極間の静電容量は、中継電極の表面から直角方向の送信電極及び検出電極の表面の面積(対向面積)にほぼ対応すると考えられる。すなわち、出力信号の振幅の変化は、回転子の回転による対向面積の変化に対応する。従って、回転子の回転による対向面積の変化は、出力信号の波形を導出するために重要となる。
【0019】
図7は、本発明の第2の実施例に係る回転型静電エンコーダ70の結線図を示す。図7に示される静電エンコーダ70は、固定子71が8極の検出電極及び8極の送信電極を、また回転子72が10極の中継電極を有する実施例を示す。静電エンコーダ70は、固定子71と回転子72上に形成された電極面が対向して配置され、回転子72は中心軸73に回転可能に結合される。固定子71は、検出電極74a〜74h、及び、送信電極75a〜75hを固定子71の中心軸76から放射状の形状で配置する。検出電極74a〜74hと送信電極75a〜75hは、固定子41の円周方向に交互に等間隔で配置される。回転子72は、中継電極77a〜77jを回転子72の中心軸73から放射状の形状でかつ等間隔で配置する。高周波信号(Vsinωt)78aは、送信電極75a,75c,75e,75gに接続される(配線は図示せず)。また、高周波信号78aの位相を反転させた高周波信号(−Vsinωt)78bは、送信電極75b,75d,75f,75hに接続される。ここで、Vは電圧、ωは角速度、tは時間をそれぞれ表す。検出電極74a,74e(A相)は、演算増幅回路79aの非反転入力に、検出電極74c,74g(/A相)は、演算増幅回路79aの反転入力にそれぞれ結合される。また、検出電極74b,74f(B相)は、演算増幅回路79bの非反転入力に、検出電極74d,74h(/B相)は、演算増幅回路79bの反転入力にそれぞれ結合される。
【0020】
上述のように配置された静電エンコーダ70の回転子72が中心軸73を中心に回転すると、演算増幅回路79a,79bは、振幅変調された出力信号Va,Vbを出力する。これらの出力信号Va,Vbは、高周波信号48a及び反転高周波信号48bが固定子71上の電極と回転子72上の電極との間に形成された静電容量を介して伝達された信号から得られた信号である。そこで、送信電極と中継電極との間の対向面積、及び、中継電極と検出電極との間の対向面積が回転子の回転によりどのように変化するかを、以下検討する。
【0021】
図8は、回転子72が回転するときの中継電極77a〜77jと検出電極74a〜74h及び送信電極75a〜75hとの対向関係を示す図である。検出電極、送信電極、及び、中継電極は、固定子及び回転子上を円周状に配置されるが、図8は、対向関係を明確にするために直線上に描く。回転子72の基準点(図6)が固定子の基準位置(0°)から回転すると想定し、回転子72が9°,18°,27°,36°,・・・,351°,360°回転するときの中継電極77a〜77jのそれぞれの位置を図示する。
【0022】
図9は、回転子72が回転するときの対向面積の変化を示す波形図である。図8を参照して、送信電極と中継電極との間の対向面積の変化を説明する。まず、図9(1)は、送信電極75aと中継電極との間の対向面積の変化を示す。回転子72の基準点が固定子71の0°の位置にある場合(回転角θ=0°)、図7を参照すれば、送信電極75aは中継電極77aと部分的に(送信電極75aの半分と)対向する。回転子72の回転が進行すると、中継電極77aは、送信電極75aに対する対向面積を増加させ、回転角が0°と9°の中間(回転角θ=4.5°)で、送信電極75aの全面が中継電極77aと対向する。この時点で対向面積は最大となり、回転子72が18°と27°の中間の回転角(回転角θ=22.5°)になるまで、最大の対向面積が維持される。回転子72が回転角22.5°を越えると、中継電極77aとの対向面積は減少に転じ、回転子72の回転角が27°と36°の中間(回転角θ=31.5°)で、送信電極75aと中継電極77aとの間の対向関係はなくなり、対向面積はゼロとなる。回転子72の回転角が31.5°を越えると、中継電極77jが送信電極75aと対向関係を開始する。回転子72の回転角が36°に達すると、送信電極75aと中継電極77jとの間の対向関係は、回転角が0°における送信電極75aと中継電極77aとの間の対向関係と同じ関係になる。その後、図9(1)に示されるように、送信電極75aと中継電極(77j,77i,・・・)との間の対向面積は、同じ波形が繰り返される。なお、図8に示されるように、送信電極75eの中継電極7fに対する対向関係は、送信電極75aの中継電極77aに対する対向関係と同じ関係であるので、送信電極75eと中継電極との間の対向面積の変化は、図9(1)に示される波形と同じ波形である。
【0023】
上述と同じ手順に従って、他の送信電極と中継電極との間の対向面積の変化を得る。図9(2)は、送信電極75c(75g)と中継電極との間の対向面積の変化を示す。また、図9(3)は、送信電極75b(75f)と中継電極との間の対向面積の変化を示す。さらに、図9(4)は、送信電極75d(75h)と中継電極との間の対向面積の変化を示す。以上により、図9(1)〜(4)の波形が示すように、回転子が回転するときの送信電極からみた中継電極に対する対向面積の変化が示された。次に、検出電極からみた中継電極に対する対向面積の変化について検討する。
【0024】
まず、検出電極74aと、高周波信号(Vsinωt)が与えられる送信電極75aに対向する中継電極との間の対向面積の変化を求める。図8に示されるように、回転子72の回転角が0°のとき、送信電極75aに対向する中継電極は、中継電極77aである。従って、中継電極77aと検出電極74aとの間の対向面積の変化を求める。図8に示されるように、回転子72の回転角が0°のとき、検出電極74aの全面が中継電極77aと対向関係にある。従って、図9(5)に示されるように、対向面積は回転角0°で最大を示す。回転子72の回転が進行すると、中継電極77aは図8において右へ移動するため、中継電極77aと検出電極74aとの間の対向面積は減少に転じる。回転子72の回転角が9°に達すると、中継電極77aと検出電極74aとの間の対向関係はなくなり、対向面積はゼロとなる。その後、送信電極75aに対向する中継電極が検出電極74aに対向する状態はなく、対向面積はゼロを維持する。回転子72が27°と36°の中間の回転角(回転角θ=31.5°)に達すると、中継電極77jが送信電極75aと対向関係を開始する。その結果、中継電極77jは回転角31.5°で検出電極74aの全面と対向しているので、中継電極77jと検出電極74aとの間の対向面積は一気に最大値を示すことになる。そして、回転子72が回転角36°に達するまで、最大の対向面積が維持される。その後、図9(5)に示されるように、検出電極74aは、後続する中継電極(77i,77h,・・・)との間で対向関係を持ち、それらの間の対向面積は、中継電極77aと検出電極74aとの間の対向面積の変化と同じ変化を繰り返す。なお、図7に示されるように、検出電極74eの中継電極77fに対する対向関係は、検出電極74aの中継電極77aに対する対向関係と同じ関係であるので、検出電極7eと中継電極(77f,77e,・・・)との間の対向面積の変化は、図9(5)に示される波形と同じ波形である。
【0025】
次に、検出電極74aと、反転高周波信号(−Vsinωt)が与えられる送信電極75hに対向する中継電極との間の対向面積の変化を求める。図8に示されるように、回転子72の回転角が0°のとき、反転高周波信号を供給する送信電極75hに対向する中継電極は、中継電極77jである。従って、中継電極77jと検出電極74aとの間の対向面積の変化を求める。回転子72の回転角が0°のとき、検出電極74aは中継電極77jと対向していないので、図9(6)に示されるように、回転角0°のとき、中継電極77jに対する対向面積は0を示し、回転角が9°に達するまで、その対向面積はゼロを維持する。回転角が9°を越えると、中継電極77jと検出電極74aとの間の対向面積は増加を開始し、回転角18°で検出電極74aの全面が中継電極77jと対向し、対向面積は最大となる。その後、回転子72が18°と27°の中間の回転角(回転角θ=22.5°)に達するまで、最大の対向面積が維持される。回転角が22.5°を過ぎると、送信電極75hと中継電極77jとの間の対向関係がなくなるので、検出電極74aと中継電極77jとの間の対向面積は一気にゼロと扱われる。そして、回転子72が回転角36°になるまで、ゼロの対向面積が維持される。その後、図9(6)に示されるように、検出電極74aは、後続する中継電極(77i,77h,・・・)との間で対向関係を持ち、それらの間の対向面積は、中継電極77jと検出電極74aとの間の対向面積の変化と同じ変化を繰り返す。なお、図8に示されるように、検出電極74aの中継電極77jに対する対向関係は、検出電極74eの中継電極77eに対する対向関係と同じ関係であるので、検出電極74eと中継電極との間の対向面積の変化は、図9(6)に示される波形と同じ波形である。
【0026】
上述したように、図9(5)に検出電極74aと、高周波信号が与えられる送信電極75aに対向する中継電極との間の対向面積の変化が、また図9(6)に検出電極74aと、反転高周波信号が与えられる送信電極75hに対向する中継電極との間の対向面積の変化がそれぞれ示された。同様の手法により、検出電極74bと、高周波信号が与えられる送信電極75aに対向する中継電極との間の対向面積の変化が図9(7)に、検出電極74bと、反転高周波信号が与えられる送信電極75bに対向する中継電極との間の対向面積の変化が図9(8)に、また検出電極74cと、高周波信号が与えられる送信電極75cに対向する中継電極との間の対向面積の変化が図9(9)に、検出電極74cと、反転高周波信号が与えられる送信電極75bに対向する中継電極との間の対向面積の変化が図9(10)に、さらに検出電極74dと、高周波信号が与えられる送信電極75cに対向する中継電極との間の対向面積の変化が図9(11)に、検出電極74dと、反転高周波信号が与えられる送信電極75dに対向する中継電極との間の対向面積の変化が図9(12)に,それぞれ示される。なお、検出電極74f,74g,74hと中継電極との間の対向面積の変化は、図9(7)〜図9(12)に示される波形と同様である。
【0027】
以上により、送信電極と中継電極との間の対向面積の変化、及び、中継電極と検出電極との間の対向面積の変化がそれぞれ示された。これらの対向面積の変化から、回転子の回転による送信電極と検出電極との間の対向面積の変化を求め、送信電極に供給された高周波信号(反転高周波信号)が回転子の回転により検出電極にどのように現れるかを検討する。検出電極に現れる検出信号の電位は、送信電極に印加される電位をVとすると、送信電極と中継電極との間の静電容量C1、及び、中継電極と検出電極との間の静電容量C2の合成容量から、V・C1・C2/(C1+C2)で求められる。しかしながら、(C1+C2)項は一定に近い信号波形を示すため、検出信号の電位は、合成容量としてC1・C2の値を用いても、C1・C2/(C1+C2)の値を用いてもほぼ同じ形状の信号波形を示すので、以下送信電極と検出電極との間の対向面積は、計算の簡略さから、送信電極と中継電極との間の対向面積に中継電極と検出電極との間の対向面積を乗じて求められる。
【0028】
検出電極74aは、送信電極75aに供給され、中継電極を経由して伝達される高周波信号を受信すると共に、送信電極75hに供給され、中継電極を経由して伝達される反転高周波信号を受信する。すなわち、検出電極74aからみた送信電極75a及び送信電極75hに対する対向面積の変化は、検出電極74aで検出される検出信号(A相)の変化に対応する。検出電極74aからみた送信電極75aに対する対向面積は、送信電極75aと送信電極75aに対向する中継電極(77a,77j,・・・)との間の対向面積(図8(1))に、送信電極75aに対向する中継電極(77a,77j,・・・)と検出電極74aとの間の対向面積(図9(5))を乗じた値(第1の値)に対応する。また、検出電極74aからみた送信電極75hに対する対向面積は、送信電極75hと送信電極75hに対向する中継電極(77j,77i,・・・)との間の対向面積(図9(4))に、送信電極75hに対向する中継電極(77j,77i,・・・)と検出電極74aとの間の対向面積(図9(6))を乗じた値(第2の値)に対応する。従って、検出電極74aからみた送信電極75a及び送信電極75hに対する対向面積は、送信電極75hに反転高周波信号が供給されることを考慮すると、第1の値から第2の値を引いた値となり、その変化は回転子の回転に応じて図9(13)に描かれる波形を示す。
【0029】
次に、上述と同様に、検出電極74bは、送信電極75aに供給され、中継電極を経由して伝達される高周波信号を受信すると共に、送信電極75bに供給され、中継電極を経由して伝達される反転高周波信号を受信する。すなわち、検出電極74bからみた送信電極75a及び送信電極75bに対する対向面積の変化は、検出電極74bで検出される検出信号(B相)の変化に対応する。検出電極74bからみた送信電極75aに対する対向面積は、送信電極75aと送信電極75aに対向する中継電極(77a,77j,・・・)との間の対向面積(図9(1))に、送信電極75aに対向する中継電極(77a,77j,・・・)と検出電極74bとの間の対向面積(図9(7))を乗じた値(第3の値)に対応する。また、検出電極74bからみた送信電極75bに対する対向面積は、送信電極75bと送信電極75bに対向する中継電極(77c,77b,・・・)との間の対向面積(図9(3))に、送信電極75bに対向する中継電極(77c,77b,・・・)と検出電極74bとの間の対向面積(図9(8))を乗じた値(第4の値)に対応する。従って、検出電極74bからみた送信電極75a及び送信電極75bに対する対向面積は、送信電極75bに反転高周波信号が供給されることを考慮すると、第3の値から第4の値を引いた値となり、その変化は回転子の回転に応じて図9(14)に描かれる波形を示す。
【0030】
さらに、検出電極74cからみた送信電極75b及び送信電極75cに対する対向面積の変化は、検出電極74cで検出される検出信号(/A相)の変化に対応する。検出電極74cからみた送信電極75cに対する対向面積は、送信電極75cと送信電極75cに対向する中継電極(77d,77c,・・・)との間の対向面積(図9(2))に、送信電極75cに対向する中継電極(77d,77c,・・・)と検出電極74cとの間の対向面積(図9(9))を乗じた値(第5の値)に対応する。また、検出電極74cからみた送信電極75bに対する対向面積は、送信電極75bと送信電極75bに対向する中継電極(77c,77b,・・・)との間の対向面積(図9(3))に、送信電極75bに対向する中継電極(77c,77b,・・・)と検出電極74cとの間の対向面積(図9(10))を乗じた値(第6の値)に対応する。従って、検出電極74cからみた送信電極75b及び送信電極75cに対する対向面積は、送信電極75bに反転高周波信号が供給されることを考慮すると、第5の値から第6の値を引いた値となり、その変化は回転子の回転に応じて図9(15)に描かれる波形を示す。
【0031】
さらに、検出電極74dからみた送信電極75c及び送信電極75dに対する対向面積の変化は、検出電極74dで検出される検出信号(/B相)の変化に対応する。検出電極74dからみた送信電極75cに対する対向面積は、送信電極75cと送信電極75cに対向する中継電極(77d,77c,・・・)との間の対向面積(図9(2))に、送信電極75cに対向する中継電極(77d,77c,・・・)と検出電極74dとの間の対向面積(図9(11))を乗じた値(第7の値)に対応する。また、検出電極74dからみた送信電極75dに対する対向面積は、送信電極75dと送信電極75dに対向する中継電極(77e,77d,・・・)との間の対向面積(図9(4))に、送信電極75dに対向する中継電極(77e,77d,・・・)と検出電極74dとの間の対向面積(図9(12))を乗じた値(第8の値)に対応する。従って、検出電極74dからみた送信電極75c及び送信電極75dに対する対向面積は、送信電極75dに反転高周波信号が供給されることを考慮すると、第7の値から第8の値を引いた値となり、その変化は回転子の回転に応じて図9(16)に描かれる波形を示す。
【0032】
以上のように、図9(13)〜(16)は、検出電極74a,74b,74c,74dからみた高調波信号を送信する送信電極及び反転高調波信号を送信する送信電極に対する、回転子の回転による対向面積の変化をそれぞれ示す。その結果、検出電極74a,74b,74c,74dで検出される検出信号の波形は、これらの対向面積の変化の波形に対応する。なお、検出電極74e,74f,74g,74hの送信電極75e,75f,75g,75hに対する位置関係は、検出電極74a,74b,74c,74dと同じ位置関係であるので、検出電極74e,74f,74g,74hからみた高調波信号を送信する送信電極及び反転高調波信号を送信する送信電極に対する、回転子の回転による対向面積の変化は、検出電極74a,74b,74c,74dと同じ変化である。従って、検出電極74e,74f,74g,74hは、検出電極74a,74b,74c,74dにそれぞれ結合され、演算増幅器79a,79bの入力に結合される。
【0033】
図9(13)に示されるA相の波形と図8(15)に示される/A相の波形の差分を取ると、図9(17)に示す三角波の差動出力となる。A相の波形と/A相の波形は、位相が180°反転しているので、これら2つの波形の差分を取ることにより、振幅のより大きな正弦波状の波形を得ることができる(B相波形、/B相波形についても同様)。また、図9(14)に示されるB相の波形と図9(16)に示される/B相の波形の差分を取ると、図9(18)に示す三角波の差動出力となる。図9(17)に示す三角波は、図9(18)に示す三角波に対し90°の位相差を有する。従って、固定子71の送信電極に印加された高調波信号及び反転高調波信号は、回転子72の回転により、図9(17),(18)に示される差動出力の振幅変調を受ける。しかしながら、実際には、演算増幅器79a,79bから出力される出力信号Va,Vbは、図9(17),(18)に示される三角波の振幅変調を受けた信号ではなく、図10に示されるような正弦波の振幅変調を受けた信号V1,V2を示す。電極間の静電容量は、実際には電極が正対(直角方向に対向)する面積だけで形成されるのではなく、斜め方向にも、電極間の距離に応じて形成されるため、狭い電極間の間隔を有する回転子が移動するとき、電極間の実際の静電容量の変化は、三角波ではなく、正弦波に近くなる。従って、演算増幅器79a,79bから出力される出力信号Va,Vbの電圧も正弦波の振幅変調を受けた信号波形を示す。
【0034】
演算増幅器79a,79bから出力される出力信号Va,Vbは、図示しない復調器により復調され、その復調器は、図10に示される変調信号V1,V2を出力する。変調信号V1,V2は、相対的に90°の位相差を有するため、変調信号V1及び変調信号V2に対して周知のレゾルバデジタル(RD)変換処理を適用して、回転子72の回転角を求めることができる。回転子72が10極の中継電極77a〜77jを配置しているので、回転子72が1回転(360°)すると、図9(17),(18)に示されるように、静電エンコーダ71は、10周期の正弦波を出力する。このように、本発明に係る静電エンコーダは、図7に示されるように、送信電極と検出電極を回転方向に交互に配置する固定子、及び、その固定子に近接して配置された回転子からなり、その回転子の回転角は、その回転子の回転により出力される90°の位相差を有する正弦波の変調信号から求めることができる。
【0035】
ここで、回転子にX個の中継電極を配置し、固定子にそれぞれ4n個の送信電極と検出電極を交互に配置する場合、検出電極から電気角で90°の位相差を示す検出信号を検出するための電極配置の条件を考察する。隣り合う検出電極のピッチ(機械角)が中継電極の0.25ピッチ(電気角で90°の電気角位相差に相当)ずれるためには、次式(1)を満たす0でない自然数nが存在すればよい。
X/4n=1±0.25 (1)
すなわち、式(1)を満たすnが存在すれば、隣り合う検出電極間で90°の電気角位相差を有する検出信号が検出される。式(1)をさらに一般化して、固定子に配置される検出電極を回転方向に4n個のグループに分け、1グループの検出電極数をm個とする場合(全検出電極数は4nm)、隣り合うグループのm個離れた検出電極間で中継電極の0.25ピッチ(電気角で90°の位相差に相当)ずれるためには、次式(2)を満たす0でない自然数n,mが存在すればよい。
X/4n=m±0.25 (2)
すなわち、式(2)を満たすn,mが存在すれば、m個離れた検出電極間で90°の電気角位相差を有する検出信号が検出される。
【0036】
図11は、式(2)を満たす、中継電極の電極数Xが2から50の場合の送信電極,検出電極,中継電極の組み合わせを示す表である。例えば、中継電極の電極数Xが5の場合、n=1,m=1で式(2)を満たし、図4に示すような4極の送信電極、4極の検出電極、及び、5極の中継電極からなる静電エンコーダを実現することができる。また中継電極の電極数Xが10の場合、n=2,m=1で式(2)を満たし、図7に示すような8極の送信電極、8極の検出電極、及び、10極の中継電極からなる静電エンコーダを実現することができる。
【0037】
上述した静電エンコーダは、固定子及び回転子の円周方向に1層の電極を配置するが、これらの電極を中心から外周に向かって2層に配置する固定子及び回転子であってもよい。図12は、第3の実施例に係る静電エンコーダ120を示す。静電エンコーダ120は、固定子及び回転子の円周方向の外層及び内層の2層に電極を配置する。すなわち、固定子12は、4極の送信電極及び4極の検出電極を帯状の外層及び内層面のそれぞれに等間隔で配置する。また、回転子122は、4極の中継電極を帯状の外層及び内層面のそれぞれに等間隔で配置する。
【0038】
図12に示される静電エンコーダ120は、外層に検出電極124a〜124d及び送信電極125a〜125dを交互に配置し、かつ内層に検出電極124e〜124h及び送信電極125e〜125hを交互に配置する固定子121、及び、外層及び内層にそれぞれ4極の中継電極127a〜127hを配置する回転子122を具備する。固定子121の外層に配置される検出電極124a〜124d及び送信電極125a〜125dと内層に配置される検出電極124e〜124h及び送信電極125e〜125hは、相互に回転角で22.5°ずれている。その結果、図6(1)の検出原理で説明されたとおり、外層がA相及び/A相の検出信号を導く系統(A相系統)を形成すると共に、内層がB相及び/B相の検出信号を導く系統(B相系統)を形成する。A相及び/A相の検出信号及びB相及び/B相の検出信号は、差動演算増幅器129a,129bにそれぞれ入力され、演算増幅器129a,129bは、回転子122の回転に伴って振幅変調される出力信号Va,Vbを出力する。出力信号Va,Vbは復調されて、変調信号V1,V2を出力し、それらは相互に90°の位相差を有する。これらの変調信号V1,V2から、回転子122の回転角が求められる。
【0039】
次に、図12に示される静電エンコーダ120が相互に90°の位相差を有する変調信号V1,V2を出力することを以下検討する。図13(a)は、固定子121の外層に配置された検出電極124a〜124d及び送信電極125a〜125dと回転子122の外層に配置された中継電極127a〜127dとの間の、回転子122の回転による相対的な位置関係を示す。図13(b)は、回転子122の回転による電極間の対向面積の変化、及び、その対向面積の変化に基づく差動出力(A相系統)の変化を表す波形図を示す。固定子上の送信電極及び検出電極、及び、回転子上の中継電極は、回転子及び固定子上を円周状に配置されるが、図13(a)は、対向関係を明確にするために直線上に描く。
【0040】
まず、固定子120の外層に配置された検出電極124a〜124d及び送信電極125a〜125dと回転子122の外層に配置された中継電極127a〜127dとの間の対向面積の変化について検討する。図13(a)及び図13(b)(1)を参照して、例えば、回転子122が回転角0°であるとき、送信電極125aは、中継電極127aと完全に対向し(最大の対向面積)、その状態を回転角45°まで継続する。その後、中継電極127aに対する対向面積は減少し、回転角67.5°でゼロに達する。回転角67.5°で中継電極127aに対する対向面積がゼロに達すると同時に、中継電極127dは、送信電極125aと対向関係を開始し、送信電極125aに対する対向面積は回転角90°で完全に対向する。その後、図13(b)(1)に示されるように、送信電極125aと中継電極との間の対向面積は、同じ波形が繰り返される。なお、図13(a)に示されるように、送信電極125b,125c,125dの中継電極127b,127c,127dに対する対向関係は、送信電極125aの中継電極127aに対する対向関係とそれぞれ同じ関係であるので、送信電極125b,125c,125dと中継電極との間の対向面積の変化は、図12(b)(1),(2)に示される波形と同じ波形となる。
【0041】
次に、送信電極に対向する中継電極と検出電極との間の対向面積の変化を検討する。図13(a)に示されるように、回転子122の回転角が0°のとき、送信電極125aに対向する中継電極は、中継電極127aである。従って、検出電極124aは中継電極127aを介して送信電極125aからの高周波信号を受信するので、中継電極127aと検出電極124aとの間の対向面積の変化を求める。図13(a)に示されるように、回転子122の回転角が0°のとき、検出電極124aの全面が中継電極127aと対向関係にある。従って、図13(b)(3)に示されるように、対向面積は回転角0°で最大を示す。回転子122の回転が進行すると、中継電極127aは図13(a)において右へ移動するため、中継電極127aと検出電極124aとの間の対向面積は減少に転じる。回転子122の回転角が22.5°に達すると、中継電極127aと検出電極124aとの間の対向関係はなくなり、対向面積はゼロとなる。その後、送信電極125aに対向する中継電極が検出電極124aに対向する状態はなく、対向面積はゼロを維持する。回転子122が回転角67.5°に達すると、中継電極127dが送信電極125aと対向関係を開始する。回転角67.5°で中継電極127dは検出電極124aの全面と対向しているので、中継電極127dと検出電極124aとの間の対向面積は一気に最大値を示すことになる。そして、回転子122が回転角90°になるまで、最大の対向面積が維持される。その後、図13(b)(3)に示されるように、検出電極124aは、後続する中継電極(127c,127b,・・・)との間で対向関係を持ち、それらの間の対向面積は、中継電極127aと検出電極124aとの間の対向面積の変化と同じ変化を繰り返す。なお、図13(a)に示されるように、検出電極124cの中継電極127cに対する対向関係は、検出電極124aの中継電極127aに対する対向関係と同じ関係であるので、検出電極12cと中継電極(127c,127b,・・・)との間の対向面積の変化は、図13(b)(3)に示される波形と同じ波形である。
【0042】
上述と同様の手順に従って他の電極間の対向面積の変化を検討すると、図13(b)(4)に、送信電極125bに対向している中継電極と検出電極124cとの間の対向面積の変化、及び、送信電極125dに対向している中継電極と検出電極124aとの間の対向面積の変化が示される。また、図12(b)(5)に、送信電極125aに対向している中継電極と検出電極124bとの間の対向面積の変化、及び、送信電極125cに対向している中継電極と検出電極124dとの間の対向面積の変化が示される。さらに、図12(b)(6)に、送信電極125bに対向している中継電極と検出電極124bとの間の対向面積の変化、及び、送信電極125dに対向している中継電極と検出電極124dとの間の対向面積の変化が示される。
【0043】
以上により、送信電極と中継電極との間の対向面積の変化、及び、中継電極と検出電極との間の対向面積の変化がそれぞれ示された。これらの対向面積の変化から、外層に配置された検出電極からみた、回転子の回転による送信電極に対する対向面積の変化を検討する。
【0044】
まず、検出電極124aは、送信電極125aから中継電極を経由して伝送される高調波信号(Vsinωt)、及び、送信電極125dから中継電極を経由して伝送される反転高調波信号(−Vsinωt)を受信する。検出電極124aで受信する高調波信号は、送信電極125aとその送信電極125aに対向する中継電極との間の静電容量及びその中継電極と検出電極124aとの間の静電容量に応じて、振幅変調を受ける。また、検出電極124aで受信する反転高調波信号は、送信電極125dとその送信電極125dに対向する中継電極との間の静電容量及びその中継電極と検出電極124aとの間の静電容量に応じて、振幅変調を受ける。従って、この静電容量は対向面積に対応すると考えられるから、検出電極124aで受信する検出信号は、検出電極124aが高調波信号を受信する期間、送信電極125aと中継電極との間の対向面積(図13(b)(1))に、送信電極125aに対向する中継電極と検出電極124aとの間の対向面積(図13(b)(3))を乗じた値で振幅変調され、また、検出電極124aが反転高調波信号を受信する期間、送信電極125dと中継電極との間の対向面積(図13(b)(2))に、送信電極125dに対向する中継電極と検出電極124aとの間の対向面積(図13(b)(4))を乗じた値で振幅変調される。すなわち、検出電極124aで検出される検出信号は、図13(b)(7)で示される三角波の振幅変調を受ける。なお、検出電極124cは、検出電極124aと同じ信号を生成するので、検出電極124aと検出電極124cは結合され、A相の検出信号として差動演算増幅器129aに入力される。
【0045】
上述と同様に、検出電極124bで検出される/A相の検出信号は、図13(b)(8)で示される三角波の振幅変調を受ける。図13(b)(8)で示される三角波は、図13(b)(7)で示される三角波を反転した三角波に等しいので、/A相の検出信号は、より大きな出力信号Vaを得るため、差動演算増幅器129aでA相の検出信号と差動増幅される。
【0046】
次に、固定子120の内層に配置された検出電極124e〜124h及び送信電極125e〜124hと回転子122の内層に配置された中継電極127e〜127hとの間の対向面積の変化は、外層に配置された電極間の対向面積の変化と同様の手法により求められる。図14(a)は、内層に配置された電極間の、回転子の回転による相対的な位置関係を、図14(b)は、回転子の回転による内層に配置された電極間の対向面積の変化、及び、その対向面積の変化に基づく差動出力(B相系統)の変化を表す波形図を示す。図14(b)(1)は、送信電極125e(送信電極125g)と中継電極との間の対向面積の変化を、図14(b)(2)は、送信電極125f(送信電極125h)と中継電極との間の対向面積の変化を示す。また、図14(b)(3)〜(6)は、送信電極とその送信電極と対向している中継電極との間の対向面積の変化を示す。
【0047】
さらに、検出電極aが検出する検出信号と同様に、検出電極124eで検出する検出信号は、送信電極125eからの高調波信号と送信電極125hからの反転高調波信号が重なった信号である。その高調波信号は、送信電極125eと送信電極125eに対向する中継電極との間の静電容量により振幅変調され、次にその中継電極と検出電極124eとの間の静電容量により振幅変調される。従って、検出電極124eで検出する検出信号は、送信電極125eと中継電極との間の対向面積(図14(b)(1))に、送信電極125eに対向する中継電極と検出電極124eとの間の対向面積(図14(b)(3))を乗じた値で振幅変調され、また、反転高調波信号は、送信電極125hと送信電極125hに対向する中継電極との間の対向面積(図14(b)(2))に、その中継電極と検出電極124eとの間の対向面積(図14(b)(4))を乗じた値で振幅変調される。すなわち、検出電極124eからみた送信電極125e,125hに対する対向面積の変化は、図14(b)(7)で示される三角波となり、その結果検出電極124eで検出される検出信号は、図14(b)(7)で示される三角波の振幅変調を受ける。なお、検出電極124gは、検出電極124aと同じ信号を生成するので、検出電極124aと検出電極124gは結合され、B相の検出信号として差動演算増幅器129bに入力される。検出電極124fからみた送信電極125e,125fに対する対向面積の変化も同様に、図14(b)(8)で示される三角波となり、その結果検出電極124fで検出される検出信号は、図14(b)(8)で示される三角波の振幅変調を受ける。なお、検出電極124hは、検出電極124fと同じ信号を生成するので、検出電極124eと検出電極124hは結合され、/B相の検出信号として差動演算増幅器129bに入力される。
【0048】
なお、電極間の静電容量は、実際には電極が正対(直角方向に対向)する面積だけで形成されるのではなく、斜め方向にも、電極間の距離に応じて形成されるため、狭い電極間の間隔を有する回転子が移動するとき、電極間の実際の静電容量の変化は、三角波ではなく、正弦波に近くなる。従って、演算増幅器129a,129bから出力される出力信号Va,Vbの電圧も正弦波の振幅変調を受けた信号波形を示す。
【0049】
演算増幅器129a,129bから出力される出力信号Va,Vbは、図示しない復調器により復調され、その復調器は、図15に示される変調信号V1,V2を出力する。変調信号V1,V2は、相対的に90°の位相差を有するため、変調信号V1,V2に対して周知のレゾルバデジタル(RD)変換処理を適用して、回転子122の回転角を求めることができる。回転子122が外層及び内層に4極の中継電極127a〜127d,127e〜127hを配置しているので、回転子122が1回転(360°)すると、図13,14に示されるように、静電エンコーダ121は、4周期の正弦波を出力する。このように、本発明に係る静電エンコーダは、図12に示されるように、送信電極と検出電極を回転方向に交互に配置する固定子、及び、その固定子に近接して配置される回転子からなり、その回転子の回転角は、その回転子の回転により出力される90°の位相差を有する正弦波の変調信号から求めることができる。
【0050】
以上の説明により、本発明にかかる静電エンコーダの固定子は、送信電極と検出電極を回転方向に交互に配置するため、中継電極を配置する回転子の回転により、検出電極で検出される検出信号から位相差を有する正弦波の変調信号を得ることができる。位相差を有する正弦波の変調信号から回転子の回転角を求めることができる。また、上述する実施例の静電エンコーダは、固定子及び回転子からなっているが、敢えて固定子及び回転子を用意しなくても、2つの要素があれば、その一方の要素上の回転方向に交互に送信電極と検出電極を配置し、他方の要素上に中継電極を配置する構造を形成して、その2つの要素の相対的な回転角を求めるようにしてもよい。さらに、送信電極、検出電極、及び中継電極を直線上に配置して、直線方向の移動量を求めることもできる。
【符号の説明】
【0051】
40,70,120 静電エンコーダ
41,71,121 固定子
42,72,122 回転子
44a〜44d,74a〜74h,124a〜124h 検出電極
45a〜45d,75a〜75h,125a〜125h 送信電極
47a〜47e,77a〜77j,127a〜127h 中継電極
48a,78a,128a 高周波信号
48b,78b,128b 反転高周波信号
49,79a〜79b,129a〜129b 差動演算増幅器
Va,Vb 出力信号
V1,V2 変調信号
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