特許第6156777号(P6156777)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156777
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】吐水装置
(51)【国際特許分類】
   E03C 1/086 20060101AFI20170626BHJP
   A47K 3/28 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   E03C1/086
   A47K3/22
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-84710(P2013-84710)
(22)【出願日】2013年4月15日
(65)【公開番号】特開2014-206018(P2014-206018A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】草野 太一
【審査官】 家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−082591(JP,A)
【文献】 特開2012−214985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/28
E03C 1/00−1/10
B05B 1/00−1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吐水する吐水装置であって、
前記流体を吐水する吐水口と、
前記吐水口より上流側に設けられた整流部を備え、
前記整流部は流体の流れと垂直な断面において、流体の流れを阻止する遮蔽部と、前記
遮蔽部の周囲に設けられた通水部と、を有し、
前記遮蔽部と前記通水部とは、共通のディスク部材に形成され、
前記通水部は、前記ディスク部材に設けられた前記遮蔽部の周囲に形成された複数の開
口部により形成されており、前記開口部の入口と出口とは略同じ大きさを有しており、
前記開口部の出口を通過した前記流体は単一の前記吐水口より吐水されることを特徴とする吐水装置。
【請求項2】
前記整流部より上流側に、前記整流部と接続する通水管をさらに有し、
前記通水管の内径断面積は、前記整流部との接続領域において、前記遮蔽部の面積より小さく、
前記通水管内の流体の流れる方向から見て、前記通水管の内径領域は前記遮蔽部内に重なることを特徴とする請求項に記載の吐水装置。
【請求項3】
前記遮蔽部と前記通水部との間に壁面を有することを特徴とする請求項1または2に記載の吐水装置。
【請求項4】
前記整流部は、前記通水部より下流側に、少なくとも一つの整流部材を備えることを特徴とする請求項乃至の何れか1項に記載の吐水装置。
【請求項5】
浴室の天井付近に設置されることを特徴とする請求項乃至の何れか1項に記載の吐
水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吐水装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、水栓装置において吐水をより美しく見せるために、水を吐水する吐水部に整流部材を設けることにより、吐水の流れを整流化するものが知られている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
従来、このような整流部材としては、特許文献1に記載されたメッシュ状の整流網を採用したものが一般的に知られている。このとき、吐水口内部に残留した空気をより効率的に排出し、空気の混入をなくすために、整流部材の通水抵抗に差を設けたものが提案されている。(特許文献2)
【0004】
これまでに提案されてきた整流部材は何れも、吐水口において流体の流れを均一化することを目的としている。ところが、吐水口において流体の流れが均一である場合、吐水が空気中を進むにつれて、空気との抵抗によって外周付近の流体は徐々に速度が低下し、内周部分の流体と流速差が生まれることによって、吐水形態に乱れが生じてしまう。つまり、吐水口付近においては一様であった吐水形状が、ある距離を進んだ場所で乱れてしまうという課題があった。
【0005】
つまり、これまでに提案されてきた整流部材は吐水口からの吐水がごく短距離である場合には十分であるかもしれないが、例えば浴室内の天井付近に設けるオーバーヘッドシャワーから吐水するような場合においては、使用者の身体あるいは床面などへ着水するまでの間に吐水形状が乱れてしまい、最後まで吐水を美しく見せることが出来るものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−20332号公報
【特許文献2】特開2010−77731号公報
【特許文献3】実開平6−74667号公報
【特許文献4】実開平2−93370号公報
【特許文献5】実開昭62−114956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、吐水口から長い距離にわたって吐水割れや空気の混入を起こすことのなく、吐水形状を維持することが可能な吐水装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1記載は、流体を吐水する吐水装置であって、前記流体を吐水する吐水口と、前記吐水口より上流側に設けられた整流部を備え、前記整流部は流体の流れと垂直な断面において、流体の流れを阻止する遮蔽部と、前記遮蔽部の周囲に設けられた通水部と、を有することを特徴とする。
このように構成することによって、整流部に流れ込んだ流体は一度、遮蔽部にぶつかり遮蔽部上流側に滞留する。この滞留した流体は上流からの圧力によって、通水部を通じて下流側へ押し出されるようにして流れていく。このとき、流体の流れ方向は通水部によって整えられ、流体全体において均一化される。通水部を通過した流体はそのまま吐水口へ直進する成分と、表面張力などによって遮蔽部裏面によって中心部分へ移動する成分と、に分かれる。そして、再び一体の流体として単一の吐水口から吐水される。このとき、中心部分へ移動する成分は移動距離が長いこと、流れが折れ曲がることなどによりエネルギー損失が発生し、流速が低下する。一方で、吐水口へ直進する成分についてはエネルギー損失がほとんど発生せず、流速もほとんど変わらない。このため、吐水口において、吐出口から吐出される流体の初速は、中心部分へ移動した成分と比較して、直進した成分の多い外周側の流速のほうが速くなる。その後、流体は空気中を進むにつれて空気との抵抗により外周側の流速が徐々に低下していくが、吐水口時点において外周側の流速が中心部の流速よりも早いため、中心部分との流速に大きな差が生じず、吐水口から長距離にわたって吐水形状を保つことが可能となる。
また、このように構成することによって、通常の通水管内部にディスク部材を挿入することによって簡単に本発明を実現することが可能となる。また、通水管を耐久性の高い金属製部材などで構成した場合であっても、ディスク部材を樹脂など加工性の高い別材料で構成することが可能となる。
【0011】
本発明において好ましくは更に、前記整流部より上流側に、前記整流部と接続する通水管をさらに有し、前記通水管の内径断面積は、前記整流部との接続領域において、前記遮蔽部の面積より小さく前記通水管内の流体の流れる方向から見て、前記通水管の内径領域は前記遮蔽部内に重なる。
このように構成することによって、通水管から供給された水がより確実に遮蔽部へとぶつけることが可能となる。
【0013】
本発明において好ましくは更に、前記遮蔽部と前記通水部との間に壁面を有する。
このように構成することによって、遮蔽部へとぶつかった水流が通水部へ至るためには壁面を乗り越える必要が生じるため、より確実に水を滞留させることが可能となる。
【0014】
本発明において好ましくは更に、前記整流部は、前記通水部より下流側に、少なくとも一つの整流部材を備える。
このように構成することによって、整流部に供給される流体が乱流であっても、整流部材を通過することによって速度ベクトルを揃えて、層流へと整流することが可能となる。
【0015】
本発明において好ましくは更に、浴室の天井付近に設置される。
このように構成することによって、浴室の天井から床までの長い距離に渡って吐水形状が乱れることのない吐水装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、吐水口から長距離にわたって吐水形状を維持可能であるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例における天井埋め込みシャワーを示す斜視図である。
図2】本発明の実施例における天井埋め込みシャワーが設置された浴室を示す模式図である。
図3】本発明の実施例における天井埋め込みシャワーを示す断面図である。
図4】本発明の実施例における整流吐水部付近を示す断面図である。
図5】本発明の実施例における整流吐水部付近の分解斜視図である。
図6】本発明の実施例における整流吐水部付近の水の流れを示す模式図である。
図7】本発明の変形例における整流吐水部付近を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について図1図6を用いて説明を行う。図1は本発明の実施例における天井埋め込みシャワー1の斜視図である。天井埋め込みシャワー1は文字通り、図2に示すように浴室3の天井に埋設される。
【0019】
図1および図3に示すように天井埋め込みシャワー1は浴室3内に露出する散水板11を備え、その表面略中央に整流吐水部5を供えている。散水板11には、整流吐水部5にくわえて、散水孔13、揺動吐水口15及び、空気吸入口17を備えており、散水孔13は空気吸入口17から吸入した空気を混入した空気混入吐水が、揺動吐水口15は内部に設けられた揺動ノズル(図示せず)が揺動することによるマッサージ吐水が、夫々吐水される構成となっている。
整流吐水部5からの吐水は太い整流吐水であり、図2に示すように浴室3内の床面33と接触するまで同一径の吐水形状となる。
【0020】
整流吐水部5、散水孔13及び揺動吐水口15は夫々、異なる埋め込み配管31,33,35と夫々接続されている。各埋め込み配管は壁面に設置された操作部材37によって選択的に給水源と接続されるように構成されている。使用者は操作部材37を操作することによって、天井埋め込みシャワー1から各吐水モードの変更および吐止水を行うことが可能となっている。このとき、操作部材37には水供給管38と湯供給管39が接続されており、使用者の操作に応じてこれらの混合比率を調整することによって吐水温度を調整することが可能である。吐水モードの変更、吐止水、吐水温度調整においては、夫々既知の構造、手法を利用することが可能である。
【0021】
整流吐水部5近辺の拡大図を図4に示す。整流吐水部5はその最も下流側、天井埋め込みシャワー1の表面に露出する位置に吐水口51を有している。上流側には通水管53が設けられており、埋め込み配管31からの給水を導入可能に構成されている。吐水口51はその断面が円形であることが好ましく、最も好ましくは真円である。
【0022】
通水管53と吐水口51の間にはディスク部材7が設けられている。このディスク部材7は中心部分に遮蔽部71を有し、その周囲に複数の通水孔73を設けてなる。通水管53の下流側は拡径され、ディスク部材7との間に圧力室55が形成されている。このとき、通水管53の内径断面積は遮蔽部71の面積よりも小さい。さらに、通水管53の管軸に沿って、つまり水の流れる方向から見た際には、通水管53の内径領域は、遮蔽部71に重なるように位置している。より好ましくは上記の方向から見た際に、通水管53の内径領域全体が遮蔽部71内に収まり重なるように位置することにより、通水管53から流入する流体をより確実に遮蔽部71にぶつかり一旦滞留させることができる。また、ディスク部材7の下流部には整流部材として、メッシュ状の網を備えた整流網91が複数設けられている。
【0023】
整流吐水部5の分解斜視図を図5に示す。整流吐水部5は天井埋め込みシャワー1に対して吐水口形成部材9を取り付けることで構成される。この際、吐水口形成部材9と通水管53に挟み込まれる形でディスク部材7と整流網91が保持される。なお、吐水口形成部材9にはその周囲にフランジ部93が設けられている。このフランジ部93にはネジ孔95が複数設けられており、このネジ孔95を介して天井埋め込みシャワー1に対してネジ固定することで取り付けられる。なお、吐水口形成部材9は、その外周にネジをきり吐水口形成部材9自身を回転させることでネジ固定したり、スナップフィットや接着といったその他の方法で固定してもよい。なお、本発明の1態様における整流部とは、本実施形態においては、遮蔽部71、通水孔73(これらが共通のディスク部材に形成されている場合はディスク部材7)、圧力室55、吐水口形成部材9により構成されており、より好ましくは後述の整流部材(本実施形態においては整流網91)をさらに備えていても良い。
【0024】
整流吐水部5における水の流れを図6に模式的に示す。埋め込み配管13を通じて供給あされる水は、まず通水管53へと流入する(矢印A)。通水管53から圧力室55へ流入した水は一度遮蔽部71へと衝突、あるいは遮蔽部71と衝突して逆流してくる水と衝突することによって圧力室55内部へ滞留し(矢印B)、圧力室55内部には水圧が篭るような状態となる。圧力室55内部に滞留した水は、上流からの流れによって押し出され、通水孔73を通じて下流側に流出することになる(矢印C)。その後、通水孔73から流出した水は、そのまま吐水口51へ直進する流れ(矢印C1)と、表面張力や内部に発生する負圧によって中心方向へ移動する流れ(矢印C2)に分かれる。このとき、中心方向へ移動する流れ(矢印C2)は、吐水口51へ直進する流れ(矢印C1)に対して、吐水口51到達までの距離が長いこと、流れが屈曲することによる圧力損失が発生することなどから、エネルギー損失が大きくなり、速度低下が大きくなる。つまり、吐水口51へ到達した時点において、吐水口51へ直進した外周部分の流れ(矢印D1)は、中心部分の流れ(矢印D2)と比較して、流速が速くなっており、吐水口51において、吐出される流体の初速は外周側の方がその中心部に比べて早くなっている。
【0025】
吐水口51へ直進する流れ(矢印C1)及び中心方向へ移動する流れ(矢印C2)は何れも複数の整流網91を通過して吐水口51へ至る。流体は整流網91を通過する際に速度ベクトルが通過方向に揃うことになり、吐水口51から吐水される流体Eは層流となって吐水される。このとき、整流網91を多数設ける、あるいは整流網91の厚みを厚く設定するほど整流作用は大きくなるが、上流側の流路や想定される供給水量などに応じてこれらは適宜設計可能である。また、整流網91に代えて、コイル状の弾性体を採用したもの(特許文献3参照)や、縦横の仕切壁を採用した整流部材(例えば、特許文献4参照)や、黄銅やステンレスの帯板を屈曲させたり樹脂を加工したりした弾性材を用いた整流部材(例えば、特許文献5参照)を利用してもよい。このとき、整流網91(整流部材)を水が通過する方向は、整流部を水が通過する方向と同一にそろえている。このように構成することによって、整流部、とくに通水孔73を通過する際にある程度揃った速度ベクトルを更にそろえることが出来るため有利となる。例えば、通水孔73の通過方向と、整流網91の通過方向を直角に屈曲させる場合、ここで水流が再び乱れて、速度ベクトルがばらばらになってしまうため、非効率的であると考えられる。
【0026】
吐水口51から吐水された流体Eは、外周側において空気との摩擦抵抗を受ける。これにより、外周側の流速は徐々に低下していく(矢印E1)。それに対して、中心付近の流速は空気との摩擦抵抗の影響は極めて小さく、吐水口51付近での流速を維持する(矢印E2)。この流速変化によって、吐水口51付近においては外周側の流速が中心付近の流速より早い状態であった流速分布は、吐水口51から離れるに従い均一に変化していく。外周側の流速が中心付近の流速に比べて大きく遅くなり吐水形状が崩れ始めるまでの距離は、吐水口付近において流速が均一、あるいは吐水口付近において既に外周側流速が遅い場合と比較して、非常に長い距離である。このため、吐水口から長距離にわたって吐水形状を美しく保つことが可能となるのである。
【0027】
次に、本発明の変形例における整流吐水部5’付近の断面図を図7に示す。なお、実施例と共通の部分については同一の符号を付し、説明を省略する。また、整流吐水部5‘は整流吐水部5と同様に、天井埋め込みシャワー1に取り付けられるものである。
【0028】
変形例における整流吐水部5’においては、遮蔽部71がその周囲であって、通水孔73との間に位置する箇所に壁面75を備えている点が実施例と異なる。このように壁面75を設けることによって、通水管53から圧力室55へ流入して遮蔽部71と衝突した水流が通水孔73に至るまでの間に壁面75を乗り越える必要があり、より効率的に圧力室55内部に滞留させることが可能となる。なお、変形例では遮蔽部71をへこませる形で壁面75を形成したが、実施例のように遮蔽部71と通水孔73とを同一平面に形成し、その間に凸部を設けることによって壁面75を形成してもよい。
【0029】
以上、本発明の具体的構成について図面を用いて説明を行ったが、本発明は上記の実施例および変形例に拘束されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更することが可能である。例えば、本発明における吐水装置は必ずしもオーバーヘッドシャワーに設ける必要はなく、通常の手洗い器などで利用される湯水混合水栓に適用することも可能である。また、単水栓でもよく、自動水栓装置や、浄水器など様々な吐水装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 天井埋め込みシャワー
11 散水板
13 散水孔
15 揺動吐水口
17 空気吸入口
3 浴室
31,33,35 埋め込み配管
37 操作部材
38 水供給管
39 湯供給管
5 整流吐水部
51 吐水口
53 通水管
55 圧力室
7 ディスク部材
71 遮蔽部
73 通水孔
75 壁面
9 吐水口形成部材9
91 整流網(整流部材)
93 フランジ部
95 ネジ孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7