特許第6156889号(P6156889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6156889神経変性の治療のための不均質な骨髄細胞の亜集団を調製する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156889
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】神経変性の治療のための不均質な骨髄細胞の亜集団を調製する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20170626BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20170626BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170626BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   A61K35/28
   A61P25/00
   A61P9/10
   A61K31/513
【請求項の数】15
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2015-555985(P2015-555985)
(86)(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公表番号】特表2016-506954(P2016-506954A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】US2013024826
(87)【国際公開番号】WO2014123516
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】506100495
【氏名又は名称】NCメディカルリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トーマス エヌ チェイス
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 経世
(72)【発明者】
【氏名】古賀 三奈子
【審査官】 安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/034708(WO,A1)
【文献】 特表2008−539745(JP,A)
【文献】 特開2009−183307(JP,A)
【文献】 特表2009−540865(JP,A)
【文献】 特表2002−544234(JP,A)
【文献】 Stem Cells,2001年,19,219-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61K 31/513
A61P 9/10
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血による神経変性の治療のための不均質な骨髄細胞の亜集団を調製する方法であって、
a)ヒトの未処理骨髄から骨髄細胞の集団を採取し;
b)前記骨髄細胞の集団を105細胞/cm2から106細胞/cm2の低密度でプラスチック表面に播種し;
c)前記播種した細胞集団を洗浄して、付着していない細胞を除去し;
d)前記洗浄した細胞集団からの付着した細胞を血清含有培地中で集密状態まで培養し;
e)前記培養細胞を7連続継代以下で血清含有培地中で連続継代し、各継代において前記培養細胞を約750細胞/cm2の低密度で播種し;
f)不均質な骨髄細胞の亜集団を採取すること
を含み、
不均質な骨髄細胞の亜集団により虚血による神経変性が治療される、方法。
【請求項2】
前記血清含有培地が、ウシ血清含有培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記未処理骨髄が、化学療法剤で前処理されていない対象から採取される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学療法剤が5−フルオロウラシルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記骨髄細胞の集団が密度分画又はACK溶解により分離できない、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記密度分画がFicoll(商標)又はPercoll(商標)勾配を必要とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記不均質な骨髄細胞の亜集団を虚血による神経変性の実験モデルにおいて試験することを含み、虚血による神経変性を治療する能力を示す集団のみが選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記虚血による神経変性の実験モデルが、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデルである、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記虚血による神経変性の実験モデルが脳卒中の動物モデルである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
虚血による神経変性を治療する細胞集団を分離するための実験プロトコルを最適化する方法であって、請求項1に記載の方法に従って細胞集団を分離することを含み、
前記細胞集団で虚血による神経変性の実験動物モデルの虚血による神経変性を治療し、
請求項1に記載の方法の各段階の最適パラメーターが、前記分離した細胞集団が虚血による神経変性の実験動物モデルにおいて虚血による神経変性を治療する効力に対して各パラメーターが及ぼす作用を試験することにより決定される、
方法。
【請求項11】
前記虚血による神経変性が脳梗塞により生じたものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記パラメーターが、播種時の細胞密度、細胞継代数、培養培地組成、又は細胞分画を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記虚血による神経変性の実験動物モデルが、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデルである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記虚血による神経変性の実験動物モデルが脳卒中の動物モデルである、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記虚血による神経変性の実験モデルが、中大脳動脈閉塞(MCAO)動物モデルである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[1] 本開示は、神経変性の治療のための細胞組成物及び方法を記載する。
【背景技術】
【0002】
[2] 神経変性は、神経系細胞の死をもたらす病的状態である。神経変性の原因は多様である可能性があり、必ずしも常に確定できるわけではないが、多数の神経障害が共通の病的状態として神経変性を共有する。例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)はすべて、慢性神経変性を生じ、それは数年間にわたる緩除な進行性の神経系細胞死を特徴とする;これに対し、急性神経変性は、脳卒中などの虚血もしくは外傷性脳傷害などの外傷の結果としての、又は例えば脊髄損傷もしくは多発性硬化症により生じた脱髄もしくは外傷による軸索離断の結果としての、神経系細胞死の突然発症を特徴とする。
【0003】
[3] 神経変性は、例えばアルコール耽溺、薬物嗜癖、神経毒及び放射線の被曝から生じる、さまざまな神経系細胞傷害により誘発される可能性もある。神経変性の証拠は、認知症、てんかん、種々の精神障害において、また正常な加齢プロセスの一部として見られる可能性すらある。
【0004】
[4] 根底にある原因にかかわらず、いったん神経変性が誘発されるとこれらすべての障害の結果は常に同じ−最終的には神経系細胞の死、であることを、増加しつつある多量の証拠が指摘している。
【0005】
[5] 脳卒中は、脳に至る血管又は脳内血管の閉塞(脳梗塞)又は破裂(出血)による急性神経変性(中枢神経系の神経系細胞の急速な損失に付随する機能喪失)を伴う。それは永続的な神経損傷、全身性合併症、さらには死亡すら生じる可能性があるので、通常は救急医療となる。脳卒中は米国及び欧州において成人の能力障害の主因であり、世界的に第2位の死因である。脳卒中は米国において死亡15人につき1人を上回る数に達し、すべての死因のうち心疾患及び癌に次いで第3位にある(American Heart Association. Heart Disease and Stroke Statistics - 2009 Update. Dallas, Texas: American Heart Association; 2009; Rosamond et al. Heart disease and stroke statistics - 2007 update: a report from the American Heart Association Statistics Committee and Stroke Statistics Subcommittee. Circulation. 2007; 115: e69-e171)。3回目の脳卒中はいずれも致命的結果となる(Haheim et al. Risk factors of stroke incidence and mortality. A 12-year follow-up of the Oslo Study. Stroke. 1993; 24(10): 1484-9)。65歳以前のすべての死亡のうち約6%、及びそれ以後の死亡全体のうち約10%は、脳卒中によるものである(Donnan et al. Stroke. Lancet. 2008; 371(9624): 1612-23)。したがって統計学的データは、重篤な能力障害が不幸な著しく高い頻度で多くの脳卒中になった者に生じることを立証している。実際に、脳卒中は長期成人ケアのための入院患者メディケア医療費償還制(Medicare reimbursement)の第1位の原因である。脳卒中の治療及びリハビリテーションに関連する総経費は、現在は年間450億米ドルを超え、疑いもなく米国及び他の主要先進国における保健費の全般的増大に関与し続けるであろう。
【0006】
[6] 脳梗塞は最も一般的な形態の脳卒中であり、すべての脳卒中のうち80パーセントを上回る。それらは、通常は血栓形成によるか、又はより少ないが塞栓症による、動脈遮断から生じる。発症は一般に突然であり、それに続いて一般的に局所的神経欠損が起きる。特にその梗塞が著しい場合、約20%の患者が数日以内に死亡する。さらに10%の患者が最初の脳卒中から数週間以内に死亡する。残念ながら、生存者は通常は重篤な能力障害を伴う。損傷を受けた脳の領域に応じて、症状には、片側の顔面又は手足の脱力感及び感覚障害、ならびに認知障害及び言語障害が含まれる。損傷を受けた脳の領域が大きいほど、より多くの機能が損なわれる可能性がある。ある程度の機能改善が数日以内に起き始める場合があり、数カ月かけてさらに回復するのが一般的である。それにもかかわらず、回復の程度は予測できず、一般に不完全である。米国脳卒中学会(American Stroke Association)によれば、発作の生存者のうち15〜30%は永久な能力障害を伴い、20%は発症後3ヶ月間は施設におけるケアを必要とする(Harmsen et al. Long-term risk factors for stroke: twenty-eight years of follow-up of 7457 middle-aged men in Goeteborg, Sweden. Stroke. 2006; 37(7): 1663-7)。
【0007】
[7] 脳梗塞は、中心病変部(そこでは神経細胞が酸素枯渇の数分以内に死ぬ)及び周囲のペナンブラ(penumbra)(血流、したがって酸素を若干は受け取るが、正常には満たない)に至る。細胞死は虚血ペナンブラではより緩慢に、一般に数時間にわたって進行し、変動性の酸素欠乏、ならびに虚血カスケードによって発生する毒物、及び中心病変部におけるグルタミン酸放出によって生じる。したがって現在の領域介入は主に脳卒中ペナンブラの傷害状態を軽減することを目標とする。
【0008】
[8] しかし、急性脳梗塞の治療法は依然として限られている。
【0009】
[9] 脳損傷は脳への血流の減少の結果として起きるので、現在の療法は血塊の溶解(血栓溶解)又は血塊の機械的除去(血栓摘除術)のいずれかにより動脈遮断を取り除くことを試みる。血流の復旧が速やかなほど、脳細胞死はより少なく、永続性後遺症を回避できるチャンスはより大きい。
【0010】
[10] 現在、米国では脳卒中に関して2つの治療法のみがFDA承認されている:
【0011】
・組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator)(rt−PA;Genentech)、すなわち動脈血塊を溶解する薬物;及び
・Merci Retrieval System(Concentric Medical Inc.)及びPenumbra System(Penumbra Inc.)、すなわち血塊を機械的に除去する器具。
【0012】
[11] 上記のすべての療法に重大な制限がある。
【0013】
[12] 有効であるためには、血栓溶解剤による療法は症状発症から3〜4.5時間以内に実施されなければならず、これは急性脳梗塞を伴う患者のうち約3%が有効なrt−PA療法を受けられるにすぎないことを意味する。さらに、血栓溶解療法は実質的に脳出血のリスク増大を伴い、これはある個体における使用をさらに制限する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】American Heart Association. Heart Disease and Stroke Statistics - 2009 Update. Dallas, Texas: American Heart Association; 2009
【非特許文献2】Rosamond et al. Heart disease and stroke statistics - 2007 update: a report from the American Heart Association Statistics Committee and Stroke Statistics Subcommittee. Circulation. 2007; 115: e69-e171
【非特許文献3】Haheim et al. Risk factors of stroke incidence and mortality. A 12-year follow-up of the Oslo Study. Stroke. 1993; 24(10): 1484-9
【非特許文献4】Donnan et al. Stroke. Lancet. 2008; 371(9624): 1612-23
【非特許文献5】Harmsen et al. Long-term risk factors for stroke: twenty-eight years of follow-up of 7457 middle-aged men in Goeteborg, Sweden. Stroke. 2006; 37(7): 1663-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
[13] 以上の理由で、当技術分野では、神経変性、特に虚血により生じる神経変性を緩和及び/又は阻止する安全かつ有効な療法に対する緊急の要望が満たされていない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[14] したがって、一態様において本発明は、
a)未処理骨髄から骨髄細胞の集団を採取し;
b)その骨髄細胞の集団を低密度でプラスチック表面に播種し;
c)播種した細胞集団を洗浄して、付着していない細胞を除去し;
d)付着した細胞集団を血清含有培地中でほぼ集密状態まで培養し;
e)培養細胞の集団を約7連続継代以下で連続継代し、各継代において培養細胞を低密度で播種し;
f)不均質な骨髄細胞の亜集団を採取すること
を含む方法により調製された、不均質な骨髄(BM)細胞の亜集団(heterogeneous subpopulation of BM cells)であって、
有効量が神経変性の治療に有効である、不均質な骨髄細胞の亜集団を提供する。
【0017】
[15] ある側面において、有効量の不均質な骨髄細胞の亜集団は、虚血により生じた神経変性の治療に有効である。
【0018】
[16] ある側面において、不均質な骨髄細胞の亜集団を血清含有培地中で培養する。
【0019】
[17] ある側面において、骨髄細胞の集団を約102〜106細胞/cm2の密度で播種する。
【0020】
[18] ある側面において、継代に際して培養細胞を約750細胞/cm2以下の密度で播種する。
【0021】
[19] 未処理骨髄は、細胞分裂を調節するいずれかの薬剤、例えば、化学療法に用いられる代謝拮抗剤を含めた、5−フルオロウラシルのような抗腫瘍薬で前処理されていない対象から採取できる。
【0022】
[20] ある側面において、不均質な骨髄細胞の亜集団は、密度分画、例えばFicoll(商標)もしくはPercoll(商標)勾配、又はACK(塩化アンモニウムカリウム、Ammonium-Chloride-Potassium)溶解により分離できない。
【0023】
[21] 本発明の他の側面において、不均質な骨髄細胞の亜集団をさらに、虚血により生じた神経変性の実験モデルにおいて試験し、虚血により生じた神経変性を治療する能力を示す細胞集団のみを選択する。虚血により生じた神経変性の実験モデルは、酸素/グルコース枯渇(oxygen / glucose deprivation)(OGD)細胞培養モデル又は脳卒中の動物モデルであってもよい。ある側面において、実験モデルは、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデル、続いて脳卒中の動物モデルであってもよい。
【0024】
[22] 他の側面において、血流に注入した後、不均質な亜集団内の細胞は神経変性の部位へ移行する。
【0025】
[23] ある側面において、虚血により生じた神経変性は脳梗塞である。
【0026】
[24] 他の態様において、本発明はまた、虚血により生じた神経変性の治療方法であって、前記の不均質な骨髄細胞の亜集団を、神経変性を伴う哺乳動物の血流に注入することを含み、不均質な骨髄細胞の亜集団の注入によって、神経変性により生じた神経欠損が低減する方法を提供する。
【0027】
[25] 神経変性が脳梗塞により生じたものである場合、その方法はさらに、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置を含むことができ、追加処置と組み合わせた不均質な骨髄細胞の亜集団の注入によって、神経欠損が追加処置単独又は追加処置なしの不均質な骨髄細胞の亜集団の注入のいずれかの後より著しく低減する。
【0028】
[26] ある側面において、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置を、不均質な骨髄細胞の亜集団の注入と同時に行なう。
【0029】
[27] 他の側面において、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置を、不均質な骨髄細胞の亜集団の注入の前に行なう。
【0030】
[28] 神経変性が脳梗塞により生じた場合、血管は血塊によって閉塞している可能性がある。血塊はアテローム硬化斑の破裂から生じる可能性がある。
【0031】
[29] 神経変性が脳梗塞により生じた場合、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置は、血栓溶解剤の投与を含むことができる。血栓溶解剤は、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、及び組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターのうち少なくとも1つであってもよい。さらに、組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターは、アルテプラーゼ(alteplase)、レテプラーゼ(reteplase)、デスモテプラーゼ(desmoteplase)又はテネクテプラーゼ(tenecteplase)であってもよい。
【0032】
[30] 他の側面において、神経変性が脳梗塞により生じた場合、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置は、閉塞した血管からの機械的な血塊除去を含むことができる。
【0033】
[31] さらに他の側面において、血塊をフィルターで捕獲することができる。
【0034】
[32] 他の側面において、神経変性が脳梗塞により生じた場合、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置は、血管形成術及び/又は血管ステント挿入の実施を含むことができる。
【0035】
[33] 不均質な骨髄細胞の亜集団を静脈内、動脈内、例えば頚動脈内、又は脳内に注入することができる。
【0036】
[34] 他の態様において、本発明はまた、虚血により生じた神経変性の治療方法であって、不均質な骨髄細胞の亜集団を、虚血により生じた神経変性を伴う哺乳動物の血流に注入することを含み、骨髄細胞の亜集団の注入によって、虚血により生じた梗塞の体積が低減する方法を提供する。
【0037】
[35] 神経変性が脳梗塞により生じたものである場合、その方法はさらに、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置を含むことができ、追加処置と組み合わせた不均質な骨髄細胞の亜集団の注入によって、梗塞の体積が追加処置単独又は追加処置なしの不均質な骨髄細胞の亜集団の注入のいずれかの後より著しく低減する。
【0038】
[36] ある側面において、神経変性が脳梗塞により生じた場合、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置は、血栓溶解剤の投与を含む。血栓溶解剤は、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、及び組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターのうち少なくとも1つであってもよい。さらに、組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターは、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、デスモテプラーゼ又はテネクテプラーゼであってもよい。
【0039】
[37] 他の側面において、神経変性が脳梗塞により生じた場合、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置は、血管形成術及び/又はステント挿入の実施を含むことができる。
【0040】
[38] 他の側面において、神経変性が脳梗塞により生じた場合、閉塞した血管を通る血流を増大させるための追加処置は、梗塞部位付近の血塊の機械的除去を含むことができる。
【0041】
[39] 第2方法によれば、不均質な骨髄細胞の亜集団を静脈内、動脈内、例えば頚動脈内、又は脳内に注入することができる。
【0042】
[40] 神経変性が脳梗塞により生じた場合、本発明は、血栓溶解剤及び前記の不均質な骨髄細胞の亜集団を含むキットも提供できる。血栓溶解剤は、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、及び組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターのうち少なくとも1つであってもよい。さらに、組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターは、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、又はテネクテプラーゼであってもよい。
【0043】
[41] 神経変性が脳梗塞により生じた場合、本発明はさらに、前記の不均質な骨髄細胞の亜集団及び血塊を機械的に除去する手段を含むキットを提供できる。
【0044】
[42] さらに、神経変性が脳梗塞により生じた場合、本発明は、血栓溶解剤、前記の不均質な骨髄細胞の亜集団、及び組成物を注入するためのキャリヤーを含む、虚血により生じた神経変性を治療するための組成物を提供できる。血栓溶解剤は、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、及び組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターのうち少なくとも1つであってもよい。さらに、組換え型組織プラスミノーゲンアクチベーターは、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、又はテネクテプラーゼであってもよい。
【0045】
[43] 本発明はまた、神経変性の治療のための不均質な骨髄細胞の亜集団を調製する方法であって、
a)未処理骨髄から不均質な骨髄細胞の集団を採取し;
b)その不均質な骨髄細胞の集団を低密度でプラスチック表面に播種し;
c)播種した細胞集団を洗浄して、付着していない細胞を除去し;
d)洗浄した細胞集団からの付着した細胞を血清含有培地中でほぼ集密状態まで培養し;
e)培養細胞の各集団を約7連続継代以下で連続継代し、各継代において培養細胞を低密度で播種し、これによって不均質な骨髄細胞の亜集団が得られること、
を含む方法を提供する。
【0046】
[44] ある側面において、前記の未処理骨髄は、細胞分裂を調節するいずれかの薬剤、例えば、化学療法に用いられる代謝拮抗剤を含めた、5−フルオロウラシルのような抗腫瘍薬で前処理されていない対象から採取できる。
【0047】
[45] ある側面において、不均質な骨髄細胞の亜集団は、密度分画、例えばFicoll(商標)もしくはPercoll(商標)勾配、又はACK(塩化アンモニウムカリウム)溶解により分離できない。
【0048】
[46] 本発明の他の側面において、不均質な骨髄細胞の亜集団をさらに、虚血により生じた神経変性の実験モデルにおいて試験し、虚血により生じた神経変性を治療する能力を示す細胞集団のみを選択する。虚血により生じた神経変性の実験モデルは、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデル又は脳卒中の動物モデルであってもよい。ある側面において、実験モデルは、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデル、続いて脳卒中の動物モデルであってもよい。ある側面において、両方のモデルを用いて不均質な骨髄細胞の亜集団を試験することができる。
【0049】
[47] 他の側面において、本発明はまた、虚血により生じた神経変性を治療する不均質な細胞集団を分離するための実験プロトコルを最適化する方法であって、
ある実験プロトコルに従って細胞集団を分離するステップを含み、
その細胞集団で虚血により生じた神経変性を治療し、
そのプロトコルの各段階の最適パラメーターが、分離した細胞集団が虚血の実験動物モデルにおいて虚血により生じた神経変性を治療する効力に対して各パラメーターが及ぼす作用を試験することにより決定される、
方法を提供できる。
【0050】
[48] ある側面において、パラメーターは播種時の細胞密度、細胞継代数、培養培地組成、又は細胞分画を含むことができる。
【0051】
[49] 他の側面において、虚血の実験モデルは、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデル、又は脳卒中の動物モデル、例えば中大脳動脈閉塞(MCAO)動物モデルであってもよい。両方のモデルを用いることもできる。ある側面において、実験モデルは、酸素/グルコース枯渇(OGD)細胞培養モデル、続いて脳卒中の動物モデルであってもよい。
【0052】
[50] 前記の側面は、不均質な骨髄細胞の亜集団が脳梗塞により生じた神経変性を治療する能力を含めた多数の利点をもつ。この細胞集団は、梗塞の領域を著しく低減し、神経機能を改善する。
【0053】
[51] 血栓溶解剤及び機械的な血塊除去方法との組合わせで、この細胞療法は脳卒中後の患者の生存率、機能性、及び生活の質に著しい臨床効果を及ぼすことを保証する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
[52] 以下に記載する図面が説明のためのものにすぎないことは当業者に理解されるであろう。図面は決して本発明の教示を限定するためのものではない。
図1A】[53] 図1は、インビトロOGDモデル(図1A、1B及び1E)及びインビボMCAOラットモデル(図1C、1D及び1F)を用いた骨髄由来細胞の亜集団の候補のスクリーニングからの結果を示す。[54] 図1A及び1Bは、骨髄由来細胞の亜集団の7つの異なる候補の存在又は不存在に応答した、インビトロOGDモデルにおけるそれぞれホスト細胞生存率及びサイトカイン放出量(bFGF及びIL−6)を示す。
図1B図1A及び1Bは、骨髄由来細胞の亜集団の7つの異なる候補の存在又は不存在に応答した、インビトロOGDモデルにおけるそれぞれホスト細胞生存率及びサイトカイン放出量(bFGF及びIL−6)を示す。
図1C】[55] 図1C及び1Dは、静脈内(IV)又は動脈内(ICA)注入したNCS−01骨髄細胞亜集団又は生理食塩水に応答した、インビボMCAOラットモデルにおけるホスト細胞生存率、梗塞体積及び神経機能を比較したものである。
図1D】[55] 図1C及び1Dは、静脈内(IV)又は動脈内(ICA)注入したNCS−01骨髄細胞亜集団又は生理食塩水に応答した、インビボMCAOラットモデルにおけるホスト細胞生存率、梗塞体積及び神経機能を比較したものである。
図1E】[56] 図1Eは、NCS−01骨髄由来細胞亜集団の存在又は不存在に応答した、インビトロOGDモデルにおけるホスト細胞生存率及びサイトカイン放出量(bFGF及びIL−6)を示す。
図1F】[57] 図1Fは、3×105、106及び107のNCS−01骨髄由来細胞の注入に応答した、インビボMCAOラットモデルにおける梗塞体積及び神経機能の変化を示す。
図2】[58] 図2は、1mlの7.5×106 NCS−01細胞又は生理食塩水のICA注入に応答した、一過性(60分間)又は永続性MCAOラットモデルにおける梗塞体積の変化(パネルA)及び神経機能の変化(パネルB;改変ベーダーソン目盛(Modified Bederson Scale)(0=正常〜3=最も重篤)により測定)を示す。
図3】[59] 図3は、インビトロ酸素グルコース枯渇(OGD)アッセイに用いたプロトコルを記載した模式図を示す。
図4】[60] 図4は、生理食塩水、Li細胞又はNCS−01細胞を添加した後にOGDアッセイの細胞培養培地中に分泌されたbFGF及びIL−6サイトカインの相対レベルを示す。
図5A】[61] 図5A及び5Bは、生理食塩水、Li細胞及びNCS−01細胞の注入に応答したインビボMCAOラットモデルにおける、ホスト細胞の生存率、梗塞体積及び神経機能を示す。
図5B】[61] 図5A及び5Bは、生理食塩水、Li細胞及びNCS−01細胞の注入に応答したインビボMCAOラットモデルにおける、ホスト細胞の生存率、梗塞体積及び神経機能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
[62] 本発明の実施には、別に指示しない限り、当業者がなしうる一般的な分子生物学的手法を用いる。そのような手法は当業者に周知であり、文献に十分に説明されている。例えば、Ausubel, et al., ed., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., NY, N.Y. (1987-2008), すべての補稿を含む; Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)を参照。
【0056】
[63] 別に定義しない限り、本明細書中で用いるすべての技術用語及び科学用語は当業者が一般的に理解しているものと同じ意味をもつ。本明細書には、本出願の開示内容及び特許請求の範囲の解釈を補助するために、用語の定義も示す。定義が他のいずれかの定義と一致しない場合、この出願中に述べる定義が支配するであろう。
【0057】
[64] 骨髄(BM)由来の細胞は、多数の異なるタイプの細胞の不均質混合物を含む。骨髄は、2つの別個の系列−造血組織及び付随する支持間質、に属する2つの主要な細胞系から構成される。したがって、少なくとも2種類の別個の幹細胞、すなわち造血幹細胞(HSC)及び間葉幹細胞(MSC)が骨髄に共存することが知られている(Bianco, M. Riminucci, S. Gronthos, and P. G. Robey, "Bone marrow stromal stem cells: nature, biology, and potential applications," Stem Cells, vol. 19, no. 3, pp. 180-192, 2001)。
【0058】
[65] MSCは、細胞表面マーカー及びそれらが組織/細胞培養プラスチックに付着する能力の両方によって、おおまかに定義できる。したがって、MSC集団は必然的に不均質であり、すなわちクローン化された細胞集団ではない。たとえMSC亜集団が1以上の共通な細胞表面マーカーを共有していたとしても、それにもかかわらず、それらを分離するために用いる調製方法に応じてそれらの生物活性は有意に異なる可能性がある。本明細書には、虚血により生じる急性発症型神経変性を含めた神経変性の治療に有効である不均質な骨髄細胞の集団を同定するための、2段階スクリーニングプロトコルを記載する。
【0059】
[66] 第1段階で、骨髄細胞の亜集団の候補及び神経系細胞を含む共培養物において、骨髄細胞の亜集団をそれらが酸素グルコース枯渇(OGD)の影響を減弱する能力についてスクリーニングする。骨髄細胞の亜集団の候補が神経変性を減弱する活性は、OGDアッセイにおいて培養培地中の栄養因子(bFGF及びIL6)の分泌量を測定すること、及び細胞生存率を測定することにより評価される。
【0060】
[67] 第2段階で、OGDアッセイにおいて最も強い活性をもつ骨髄由来細胞集団を、次いで虚血により生じた神経変性のインビボMCAOラットモデルにおいて試験することによってさらにスクリーニングする。このスクリーニング操作は、本明細書に定義するように、虚血により生じた神経変性を大幅に減弱するNCS−01と呼ばれる不均質な骨髄細胞の亜集団の同定を容易にする。
【0061】
[68] 未処理の骨髄細胞は、当業者が容易に入手できる。
【0062】
[69] 本明細書中で用いるように、用語“未処理の骨髄”は、いずれかの追加処理、例えば密度分画又は細胞選別を施していない、ヒトの骨髄細胞吸引物を表わす。
【0063】
[70] 他の態様において、“未処理の骨髄”は、例えば細胞分裂抑制剤又は代謝拮抗剤などの化学療法剤を含めた正常な細胞増殖及び分裂を妨げるいずれかの薬剤で前処理していない対象から得られる。
【0064】
[71] そのような薬剤の例は、Cancer Principles and Practice of Oncology, V.T. Devita and S. Hellman (著者), 6th edition (2001年2月15日), Lippincott Williams & Wilkins Publishers中にある。
【0065】
[72] 用語“代謝拮抗剤”は、本明細書中で用いるように、DNAの合成を阻害又は撹乱して細胞死をもたらす化合物に関する。代謝拮抗剤の例には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:6−メルカプトプリン;シタラビン(cytarabine);フルダラビン(fludarabine);フロクスウリジン(flexuridine);5−フルオロウラシル;カペシタビン(capecitabine);ラルチトレキセド(raltitrexed);メトトレキセート(methotrexate);クラドリビン(cladribine);ゲムシタビン(gemcitabine);塩酸ゲムシタビン;チオグアニン(thioguanine);ヒドロキシ尿素;DNA脱メチル剤、例えば5−アザシチジン及びデシタビン(decitabine);エダトレキセート(edatrexate);ならびに葉酸アンタゴニスト、例えばペメトレキセド(pemetrexed)(これに限定されない)。
【0066】
[73] 本明細書中で用いるように、用語“密度分画”は、Ficoll−Paque(商標)又はPercoll(商標)勾配を用いて骨髄細胞を細胞密度に基づいて分画するための周知の実験室操作を表わす。例えば、Ficoll−Paque(商標)をコニカルチューブの底に置き、次いで未処理の骨髄を徐々にFicoll−Paque(商標)の上に積層する。Ficoll勾配を通して細胞を遠心した後、細胞は密度に従って層中へ上から下に下記のように分離する:血漿及び他の成分、バフィーコート(白血球層)と呼ばれる単核細胞の層であって末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell)(PBMC)及び単核細胞(MNC)を含む層、ならびにペレット中の赤血球及び顆粒球。この分画操作により赤血球がPBMCから分離される。凝固を防ぐために、Ficoll−Paque(商標)と併せてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びヘパリンが一般に用いられる。
【0067】
[74] 本明細書中で用いるように、用語“ACK溶解”は、EDTAで抗凝固処理した全血中の赤血球を溶解するための塩化アンモニウムカリウム溶解緩衝液(ACK溶解緩衝液)に関係する。
【0068】
[75] 本明細書中で用いるように、用語“骨髄細胞の集団を低密度で播種する”は、細胞培養の開始時に添加する骨髄細胞の濃度に関係する。ある側面において、骨髄細胞は約102又は約103又は約104又は約105又は約106細胞/cm2の密度で播種される。好ましい側面において、骨髄細胞は約105〜約106細胞/cm2の密度で播種される。
【0069】
[76] 本明細書中で用いるように、“神経変性”は、神経系細胞の死を含めた、進行性の神経系細胞の構造又は機能の喪失をもたらすいずれかの病的状態を表わす。したがって、神経変性は神経障害により生じる病的状態である。
【0070】
[77] 一態様において、“神経系細胞(neural cell)”という句には、神経細胞(nerve cell)(すなわち、ニューロン、例えば単極、双極又は多極ニューロン)及びそれらの前駆体、ならびにグリア細胞(例えば、マクログリア細胞、例えばオリゴデンドロサイト、シュヴァン細胞及びアストロサイト、又はミクログリア細胞)及びそれらの前駆体が含まれる。
【0071】
[78] 一態様において、“有効量”は、神経変性の遅延、停止もしくは回復、神経欠損の低減、又は神経応答の改善を含めた、神経変性に関連する症状及び/又は病的状態の臨床的に有意の改善を誘発するのに必要な細胞の最適数を表わす。ある態様において、NCS−01細胞集団の有効量は脳卒中後の急性神経変性の突然発症により生じる梗塞の体積を低減するのに必要な細胞の最適数を表わす。特定の生物に適切なNCS−01細胞集団の有効量は、当業者がルーティン実験を用いて決定できる。
【0072】
[79] 本明細書中で用いるように、“神経変性の治療”は、NCS−01細胞集団により神経変性を治療することを表わし、その結果、神経変性の遅延、停止もしくは回復、神経欠損の低減、又は神経応答の改善を含めて、神経変性に関連する症状及び/又は病的状態が臨床的に有意に改善される。
【0073】
[80] 本明細書中で用いるように、“血栓溶解剤”は、血栓溶解と呼ばれる措置に際して血塊を溶解するために医療に用いられる薬物を表わす。限定ではない血栓溶解剤の例には、組織プラスミノーゲン組織アクチベーターtPA、アルテプラーゼ(Activase)、レテプラーゼ(Retavase)、テネクテプラーゼ(TNKase)、アニストレプラーゼ(anistreplase)(Eminase)、ストレプトキナーゼ(Kabikinase、Streptase)及びウロキナーゼ(Abbokinase)が含まれる。
【0074】
[81] 以下に、虚血による神経変性の治療を含めた神経変性の治療に最適である不均質な骨髄細胞の亜集団を未処理の全骨髄から分離して特性分析する操作を記載する。
【0075】
虚血により生じた神経変性を治療するのに有効な骨髄細胞集団の候補の分離
【0076】
[82] 未処理の全骨髄は、細胞分裂抑制剤、又は代謝拮抗剤、例えば5−フルオロウラシル(5−FU)で前処理されていない哺乳動物から採取される。
【0077】
[83] この未処理骨髄細胞を、次いで組織/細胞培養プラスチックに直接乗せ、血清含有培地中で連続継代することにより増殖させる。各継代に際して、細胞をきわめて低い密度、すなわち約750細胞/cm2以下で播種し、ほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。付着していない細胞を洗浄により除去する。この骨髄は密度分画により処理されていないので、出発時の全骨髄細胞の集団は造血細胞及び非造血細胞、ならびに有核骨髄細胞及び非有核骨髄細胞の両方を含有する。
【0078】
[84] 次いで、それぞれ継代3回目及び5回目でマスター細胞バンク(Master Cell Bank)(MCB)及び作業用細胞バンク(Working Cell Bank)(WCB)を樹立し、凍結保存する。必要ならば、WCB細胞をきわめて低い密度、例えば約750細胞/cm2以下で播種し、血清含有培地中で増殖させた後、標準法を用いて収穫し、凍結保存する。
【0079】
骨髄細胞の集団が神経変性を減弱する能力を評価するための2段階選択プロトコル
【0080】
[85] 骨髄細胞の集団の‘候補’を、次いで神経変性の治療に最適な骨髄細胞の集団を選択する2段階法でスクリーニングすることができる。
【0081】
[86] 第1段階で、骨髄細胞の集団の候補をインビトロ酸素グルコース枯渇アッセイ法で試験する。ここで、神経変性を模倣した実験条件下で、骨髄細胞の集団の候補が、神経系細胞と共培養される。インビトロで神経変性を減弱することが示された細胞集団は、次いで、インビボでそれらが神経変性を治療する能力についてスクリーニングされる。
【0082】
[87] 第2段階で、選択した骨髄細胞の集団の候補を、虚血により生じた神経変性のラットMCAOモデルにおいて評価する。次いで、インビボで神経変性を減弱する最大活性を示す不均質な骨髄細胞の集団の候補を選択する。
【0083】
[88] この2段階スクリーニング法により選択した不均質な骨髄細胞の集団を、NCS−01細胞集団又はNCS−01と呼ぶ。
【0084】
神経変性を減弱する活性をもつ骨髄細胞の集団を分離するのに最適な細胞培養条件の同定
【0085】
[89] この2段階スクリーニングプロトコルは、神経変性を治療できる骨髄細胞の集団の培養に最適な実験条件、例えば播種時の細胞密度、細胞継代数、細胞培地組成、又は細胞分画法を同定する際にも有用である。
【0086】
[90] こうして2スクリーニング法を用いると、最適な再播種細胞濃度は各継代に際して約750細胞/cm2以下である。最適培養培地は血清含有培地である。NCS−01細胞集団を、未処理の全骨髄の最初の平板培養から約7、又は約6、又は約5、又は約4、又は約3、又は約2継代以下で継代することができる。長期継代、すなわち未処理の全骨髄の最初の平板培養から7継代を超える継代は、NCS−01がOGDインビトロアッセイ及びMCAOラットモデルにおいて神経変性を治療する能力を漸減させ、又は無効にする。
【0087】
[91] 神経変性のOGDアッセイ及びMCAOラットモデルを以下に詳細に記載する。
【0088】
神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団のインビトロスクリーニング
【0089】
[92] 骨髄細胞の集団の候補を、まずそれらが神経変性を阻止する能力について、ニューロン−アストロサイトの共培養で、虚血により生じる神経変性を模倣した酸素グルコース枯渇(OGD)の培養条件に従ってスクリーニングする。
【0090】
[93] ラット又はヒトのニューロン及びアストロサイトの一次混合培養物を、まず酸素グルコース枯渇(OGD)の培養条件(例えば、8%酸素、無グルコース培地)に約0.5〜3時間曝露して、神経変性を誘導する。次いで、細胞培養の酸素グルコース枯渇を停止し、このOGD誘導した神経系細胞を生理的条件下で2時間培養し、次いで骨髄細胞の集団の候補の存在下でさらに3時間、共培養する。次いで、骨髄細胞の集団の候補の存在下又は不存在下で、OGD後0及び5時間目にホスト細胞の生存率を測定することにより、神経変性を評価する。ホスト細胞(ニューロン及びアストロサイト)の生存率は、例えばトリパンブルー染色及び/又はMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)アッセイを用いて評価することができる。
【0091】
[94] 対照(骨髄細胞の集団の候補を添加しないもの)の細胞生存率と比較して、骨髄細胞の集団の候補の存在下で約5%、又は約10%、又は約15%、又は約20%、又は約25%、又はそれ以上の細胞生存率の増大は、その骨髄細胞の集団の候補が、酸素及びグルコースの枯渇により生じる神経変性からニューロン/アストロサイト共培養物を保護及び救済できることの指標となる。
【0092】
[95] さらに、骨髄細胞の集団の候補の存在下又は不存在下でOGD条件を施したニューロン/アストロサイト細胞培養の培養培地を、栄養因子、例えばbFGF及び/又はIL−6の誘導分泌について市販のELISAキットでアッセイすることもできる。
【0093】
[96] 特定の態様において、骨髄細胞の集団の候補を、それらが酸素グルコース枯渇に応答してニューロン/アストロサイト共培養の培地中に分泌されるbFGF及び/又はIL−6の量の増加を誘導する能力(ただし、酸素グルコース枯渇が無い状態では誘導しない)に従って選択する。
【0094】
[97] 他の態様において、骨髄細胞の集団の候補を、それらが酸素グルコース枯渇に応答してニューロン/アストロサイト共培養の培地中に分泌されるbFGF及び/又はIL−6の量の少なくとも2倍又はそれ以上の増加を誘導する能力(ただし、酸素グルコース枯渇が無い状態では誘導しない)に従って選択する。
【0095】
[98] OGD誘導による細胞死の発生率を低減させかつ栄養因子(例えば、bFGF及び/又はIL−6)の分泌量の増加を誘導する骨髄細胞の集団の候補を、次いでインビボMCAOラットモデルにおけるスクリーニングのために選択する(下記を参照)。
【0096】
[99] 例えば、骨髄細胞の集団の候補がOGD誘導による細胞死の発生率を約25%より多く低減させかつ栄養因子の分泌量を少なくとも10%以上増加させれば、それらを以後のスクリーニングのために選択できる。
【0097】
神経変性を治療できる骨髄細胞の集団の候補のインビボスクリーニング
【0098】
[100] 前記のOGDアッセイスクリーニング段階で選択した骨髄細胞の集団の候補を、それらがインビボで神経変性を治療する能力について試験する。例えば、骨髄細胞の集団の候補を、それらが神経変性性疾患のトランスジェニックモデルを含めた神経変性の実験動物モデルにおいて神経変性を治療する能力について試験することができる(例えば、Harvey et al. Transgenic animal models of neurodegeneration based on human genetic studies J Neural Transm. (2011) 118(1): 27-45; Trancikova et al. Genetic mouse models of neurodegenerative diseases. Prog Mol Biol Transl Sci. (2011); 100: 419-82; Chan et al. Generation of transgenic monkeys with human inherited genetic disease Methods (2009) 49(1): 78-84; Rockenstein et al. Transgenic animal models of neurodegenerative diseases and their application to treatment development Adv Drug Deliv Rev. (2007) 59(11): 1093-102を参照)。
【0099】
[101] 一態様において、神経変性の実験動物モデルは、脳卒中/脳虚血の動物モデル(Graham et al. Comp Med. 2004 54(5): 486-96により概説)、例えばMCAOラットモデルであってもよく、この場合は大脳動脈の周囲に外科的に付与した結紮による狭窄が、脳への血流を制限して虚血及びそれに続く神経変性を生じることにより脳梗塞の作用を模倣している。
【0100】
[102] 一過性MCAOモデルにおいて、OGDアッセイで選択した骨髄細胞の集団の候補を一過性MCAOラットの血流への定速点滴注入により投与する。当業者は適切な投与量を決定でき、それは例えば7.5×104細胞から3.75×107細胞までの範囲であってもよい。それらの細胞を、例えば頚静脈(IV)又は頚動脈(ICA)のいずれかに注入することができる。対照は、等体積の凍結保存媒体又は生理食塩水の投与からなる。次いで、骨髄細胞の集団の候補に含まれる細胞は一過性MCAOにより生じた梗塞部位へ移行する。
【0101】
[103] OGD選択した骨髄細胞の集団の存在下又は不存在下での神経機能を、次いで梗塞後の種々の時点で改変ベーダーソン神経学的試験(Bederson Neurologic Test)により評価する。次いでラットを屍殺し、梗塞の体積及びホスト細胞の生存率を、治療された、及び治療されなかったMCAOラットからの脳組織切片のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)又はニッスル(Nissl)染色により測定する。次いで骨髄細胞の集団を、それらが対照動物と比較してMCAO後28日目までに神経機能を改善し、ホスト細胞の生存率を高め、梗塞の体積を低減する能力に従って選択する。
【0102】
脳梗塞により生じた神経変性を治療するための併用療法
【0103】
[104] 中大脳動脈を通る血流を長期間止めることにより、血塊を伴う永続性動脈閉塞を模倣する。大脳動脈を通る血流を限られた期間止めた後に復旧させて再潅流する一過性閉塞を、脳梗塞により生じた動脈閉塞の直後に血栓溶解又は機械的な血塊除去などにより脳卒中ペナンブラへの血流を復旧させる療法を模倣するものとする。
【0104】
[105] 多くの点で、一過性MCAOラットへのNCS−01細胞集団の投与は、血栓溶解、又は血管形成術もしくは外科的なステント移植を含めた機械的な血塊除去の結果としての、閉塞動脈の再潅流を模倣する。
【0105】
[106] 神経変性が脳梗塞により生じた場合、NCS−01細胞集団を虚血により生じた神経変性の治療のための血栓溶解療法と併用できる。血栓溶解剤及びそれらの投与についての記載は、例えばU.S. Patent No. 5,945,432及び6,821,985中にある。
【0106】
[107] 虚血事象後に注入する血栓溶解剤は、NCS−01細胞集団の注入の前、一緒又は後に投与することができる。
【0107】
[108] 開示したNCS−01細胞組成物の注入と併用できる脳卒中ペナンブラへの血流改善のための機械的措置の例には、限定ではなく、当技術分野で周知の血管形成術又は外科的なステント移植が含まれる。
【0108】
[109] 以下の実施例を参照して、本発明をさらに詳細に記載する。
【実施例】
【0109】
[110] 実施例は、本発明に従って神経変性を治療するための骨髄細胞の亜集団を分離、選択及び使用する方法を示す。これらの例に記載する方法の各段階は限定のためのものではないと理解される。前記に述べたもの以外の本発明の他の目的及び利点は実施例から明らかになるであろう;実施例は本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0110】
実施例1:NCS−01細胞集団の分離
1)骨髄細胞の集団の候補の分離
[111] 不均質な骨髄細胞の集団を下記の調製方法により分離した:
・ヒトの未処理骨髄は、予備スクリーニングした健康な50歳以下のドナーから資格をもつ業者により採取された。骨髄は、5−フルオロウラシルなどの細胞分裂抑制剤で前処理されていないドナーから採取された;
・処理済み又は未処理の骨髄を、次いで低密度(102〜106細胞/cm2)で組織/細胞培養プラスチック表面に播種し、血清含有培地の存在下で培養した;
・数日おいて細胞をプラスチックに付着させた後、付着していない細胞を洗浄により除去した;そして
・付着した細胞集団を血清含有培地中でほぼ集密状態まで培養した;培養細胞の集団を約7連続継代以下で連続継代し、各継代に際して培養細胞を低密度で播種した。
【0111】
[112] 神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団を分離するのに最適な培養条件を選択するために、細胞集団をまず、播種時の細胞密度、細胞継代数、培養培地組成、又は細胞分画など種々の培養条件下で増殖させた(表Iを参照)。
【0112】
[113] 未処理骨髄由来の、又は密度分画もしくはACK溶解後の骨髄細胞を、2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%のウシ胎仔血清(FBS、HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM、又は2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%のウシ胎仔血清(FBS、HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM(Mediatech)、又は無血清培地(StemPro)の存在下で、組織/細胞培養プラスチックに播種した。付着していない細胞を洗浄除去した後、付着した細胞をほぼ集密状態まで増殖させた。細胞を次いで合計3、4、5又は6継代で継代した。
【0113】
[114] 骨髄細胞の集団の候補を、次いでそれらが神経変性を治療する能力についてインビトロOGDアッセイ及びインビボMCAO試験で試験した。
【表1】
【0114】
2)インビトロ酸素/グルコース枯渇(OGD)プロトコルを用いる一次スクリーニング
[115] 前記に概説した調製プロセスにおける種々のパラメーター、例えば密度分画の存在下又は不存在下での骨髄調製、播種密度、継代数、培養培地、及び/又はそれらの組合わせを、インビトロ酸素/グルコース枯渇(OGD)実験プロトコルにより評価して、神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団の候補を分離するのに最適な方法を決定した。
【0115】
[116] インビトロOGDモデルを一次スクリーニングとして選択したのは、それが脳梗塞により生じる神経変性を模倣しているからである。詳細には、特定の骨髄細胞の亜集団の候補が培養中の神経系細胞の死を阻止し、bFGF及びIL−6などの神経保護栄養因子の分泌を誘導することができるか否かを、OGDにより試験した。
【0116】
[117] インビトロ酸素グルコース枯渇(OGD)モデルにおいて、ラットのニューロン及びアストロサイトの一次混合培養物(1:1の比率で)にOGD傷害(8%酸素;グルコースを含まないアール(Earle)の平衡塩類溶液)を90分間付与し、生理的条件に戻して2時間おいた後、このOGD処理したニューロン−アストロサイト共培養物に骨髄細胞の集団の候補を添加してさらに3時間おいた。OGD直後及びOGD後5時間目に、標準トリパンブルー染色及びMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)法を用いて神経系細胞の生存率を評価した。
【0117】
細胞培養
[118] ラットのニューロン及びアストロサイトの一次混合培養物を、業者のプロトコル(CAMBREX,メリーランド州)に従った培養により維持した。融解した直後に、細胞(4×104細胞/ウェル)をポリリジンでコートした96ウェルプレートに播種し、Neuro basal media(神経基礎培地)(GIBCO,カリフォルニア州)[2mMのL−グルタミン,2%のB27(GIBCO,カリフォルニア州),ならびに50U/mlのペニシリン及びストレプトマイシンを含有]中、37℃で、5% CO2を含む加湿雰囲気において7〜10日間増殖させた。次いでニューロン及びアストロサイト細胞集団の純度をそれぞれMAP2及びGFAP免疫染色により評価して、99%を超えることが認められた。
【0118】
酸素グルコース枯渇(OGD)及び骨髄細胞の集団の候補との共培養
[119] 以前の記載(Malagelada et al., Stroke (2004) 35(10): 2396-2401)をわずかに改変したものに従って、培養細胞にOGD傷害モデル条件を付与した。簡単に述べると、培養培地を、下記の組成をもつグルコースを含まないアールの平衡塩類溶液(BSS)で置き換えた:116mMのNaCl,5.4mMのKCl,0.8mMのMgSO4,1mMのNaH2PO4,26.2mMのNaHCO3,0.01mMのグリシン,1.8mMのCaCl2,pHを7.4に調整。培養細胞を加湿チャンバーに入れて、92% N2及び8% O2ガスの連続流で15分間平衡化した。平衡に達した後、チャンバーを密閉し、37℃のインキュベーターに90分間入れた。この期間後に、培養培地にグルコースを添加しかつ培養物を標準的な95% O2及び5% CO2のインキュベーターに戻すことにより、OGDを終結した。次いで標準培地及び正常酸素条件で2時間の‘再潅流’を行ない、その後、このOGD処理した混合ニューロン−グリア培養物に骨髄(BM)細胞集団の候補を添加して約3時間おいた。次いで上清及び骨髄細胞の集団を混合培養物から洗浄により分離した。その後、下記に従って細胞について細胞生存率及び免疫細胞化学の試験を実施し、分泌された栄養因子の量を市販のELISAアッセイ法により測定した。
【0119】
細胞生存率アッセイ
[120] 細胞生存率を2つの時点で評価した:OGDの直後及びOGDの5時間後(すなわち、2時間の再潅流+選択した骨髄細胞の集団による3時間の処理)。OGD後の生存率アッセイのために、骨髄由来細胞を含有する上清を、付着した混合神経系細胞培養物から分離した。トリパンブルー染色法を実施し、各ウェル(処理条件当たりn=5)のランダムに選択した3領域(0.2mm2)において平均生存細胞数を計算して、それぞれの処理条件についての細胞生存率を調べた。さらに、上清からペレットとして収穫した骨髄由来細胞のサブセットについてトリパンブルー染色を実施した。
【0120】
ELISAアッセイ
[121] 骨髄由来細胞が分泌する栄養因子、例えばbFGF及びIL−6ならびに可能性のある神経栄養因子が、OGD培養条件により模倣した神経変性の治療に関与すると推定される。したがって、培養培地中へ分泌されたこれらの分子の量を測定することにより、インビボで神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団の候補を評価するための基準が得られる。神経系細胞と骨髄細胞の集団の候補を標準培養条件下で共培養したもの又はOGD曝露したものから上清を採集し、市販のELISAキットを用いて製造業者の指示に従って栄養因子分泌の存在を分析した。
【0121】
[122] 前記の表Iに示したパラメーターに従って処理した骨髄由来細胞集団のOGD分析の結果を図1A及び1Bに示す。
【0122】
[123] 図1A及び1Bに示した結果に基づき、αMEM + 10% FBSを最適な細胞培養培地として選択し、未処理骨髄が密度分画(例えば、Ficoll−Paque又はPercoll)又はACK溶解によって処理した骨髄より優れていることが認められた。αMEM + 10% FBS培地における未処理骨髄細胞に最適な継代数は7継代以下であることが認められた。
【0123】
3)インビボ中大脳動脈閉塞ラットモデルを用いる骨髄細胞の集団の候補の二次スクリーニング及び選択
[124] インビトロOGDモデルにおける一次スクリーニングで得られた結果に基づいて、骨髄細胞の集団の候補で処置したMCAOラットの神経欠損及び梗塞体積を、生理食塩水のみの投与で処置したMCAOラットと比較することにより、骨髄細胞の集団の候補それぞれが神経変性を治療する生物活性を評価した。
【0124】
中大脳動脈閉塞(MCAO)外科処置
[125] 動物をイソフルラン(1.5%〜2.5%,酸素含有)により麻酔した。頭皮を剃毛し、アルコール及びクロルヘキシジン外科用スクラブで拭いた。次いで動物を定位固定装置に置いた。眼のわずかに後方から始めて約2.5cm長さの正中線矢状面切開を行ない、スパーテルの丸めた端を用いて頭蓋領域を露出させた。ブレグマを基準点として、ベースライン(すなわち、脳卒中の外科処置前)レーザードップラー記録を下記の座標から求めた(AP:+2.0,ML:±2.0)。頸部腹側の皮膚を顎から胸骨柄(manubrium)まで剃毛し、アルコール及びクロルヘキシジン外科用スクラブで拭いた。次いで動物を外科用顕微鏡下へ移動させた。右頸動脈上部の皮膚切開を行なった。外頚動脈を分離し、可能な限り遠位で結紮した。後頭動脈を焼灼した。場合により外頚動脈から伸びる分枝がもう一つ又は二つあり、それも焼灼する必要があった。第2結紮を外頚動脈の近位に配置し、結紮間で切断した。翼口蓋動脈(pterygopalatine artery)を結紮した。これに続いて、張力を付与して血流を制限するために、総頚動脈の周囲に仮の縫合を施した。結紮を使って外頚動脈の近位断端を引き戻して、頚動脈分岐部を効率的に伸ばした。外頚動脈の断端にミクロ鋏を用いて切開を行ない、端が予め加工された4−0ナイロン糸を挿入し、抵抗が感じられるまで内頚動脈中へ通した(約15〜17mm)。これによって中大脳動脈(MCA)が効率的に遮断される。外頚動脈の近位断端の周囲の結紮で糸を適所に固定した。反対側の総頚動脈を分離し、仮の結紮で固定した。皮膚切開部をステープルで閉じた。次いで、レーザードップラー記録のために動物を定位固定装置に固定し、MCA閉塞の成功を確認した。5分後に、反対側の総頚動脈の結紮を取り除いた。イソフルランを停止し、動物を回復ケージに入れて保温ブランケット上に置いた。60分後、動物を再びイソフルランで麻酔し、この一過性モデルにおける試験のために切開部を開いた。閉塞の原因となっている糸を取り除き、外頚動脈の断端を頚動脈分岐部近くで連結した(ligated)。皮膚切開部をステープルで閉じた。レーザードップラー記録のために動物を再び定位固定装置に固定し、再潅流の成功を確認した。最後に動物を回復ケージに入れて保温ブランケット上に置いた。
【0125】
神経機能試験
[126] 十分に認識されている改変ベーダーソン神経学的試験を各ラットについて実施した;これは下記のそれぞれからのスコアを求めることを伴う:
・対側後足の引き戻し;これは後足を外側へ2〜3cmずらされた後に動物がそれを元に戻す能力を測定し、0(即時引き戻し)から3(戻さない)まで格付けされる;
・ビーム歩行能力;0(幅2.4−cm、長さ80−cmのビームを直ちに横切るラット)から3(ビーム上に10秒間留まることができないラット)まで格付けされる;及び
・両前足握力;これは直径2−mmのスチール棒にしがみつく能力を測定し、0(正常な前足握り挙動を伴うラット)から3(前足で握ることができないラット)まで格付けされる。
【0126】
[127] 3試験すべてからのスコアを、それぞれの評価日に約15分間にわたって評価した。3試験から平均スコアを計算して、0(正常な神経機能)から最大3(重篤な神経欠損)までの範囲の神経欠損総合スコアを求めた。したがって、スコアが高いほど神経欠損は大きい。
【0127】
[128] パイロット試験に基づけば、約2.5を超えるスコアは動物が脳卒中の特徴である神経欠損を伴うことの指標となる。
【0128】
組織所見
脳切片標本
[129] 脳傷害の領域を同定するために脳切片標本をデザインする。MCA閉塞後、7日目又は28日目にラットを安楽死させ、生理食塩水に続いて4%パラホルムアルデヒドの経心臓潅流により潅流した。次いで脳を4%パラホルムアルデヒド中に固定し、その後25%ショ糖に浸漬した。それぞれの前脳を、各動物につきブレグマ5.2mmからブレグマ−8.8mmまでに対応する前−後座標で30μm厚さの冠状組織切片に切断した。
【0129】
梗塞体積の測定
[130] 脳当たり少なくとも4つの冠状組織切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色又はニッスル染色用に処理した。脳梗塞を確認するために、対側半球の面積から同側半球の無傷面積を差し引いた間接病変面積を用いた。
【0130】
[131] 病変体積を、対側半球と比較した病変部の体積パーセントとして提示した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色又はニッスル染色を用いて病変部体積の組織学的測定を実施し、代表的画像をディジタル取得し、NIH Image Jソフトウェア及び定量画像分析により処理した。病変部体積を次式に従って決定した:
【0131】
[132] 切片の厚さ×全脳切片における梗塞面積の和
【0132】
[133] 梗塞面積の虚血後浮腫により生じた人為的な結果を最小限に抑えるために、対側半球の全無傷面積から同側半球の非梗塞面積を差し引くことにより、同側半球の梗塞面積を間接測定した。
【0133】
虚血による梗塞周囲領域における細胞生存率の測定
[134] 皮質の梗塞周囲領域に対応するランダムに選択した高倍率視野を用いて、この虚血領域中で生存している細胞を計数した(Yasuhara et al., Stem Cells and Dev, 2009)。虚血皮質領域内のホスト神経系細胞の生存率を推定するために、クリスタルバイオレット液(Sigma,ミズーリ州セントルイス)を用いてニッスル染色を実施し、3切片におけるランダムに選択した皮質領域及び対応する対側無傷皮質の視野を写真撮影し(Carl Zeiss,Axiophot2)、ランダムに選択した高倍率視野(28,800μm2)の細胞を計数することにより細胞数を測定した。無傷側に対する損傷を受けた皮質中の保存されたニューロンのパーセントを計算し、統計分析に用いた。脳切片を盲目コードし、計数された染色細胞の総数をAbercrombie式により補正した。
【0134】
MCAO脳卒中動物モデルを用いた骨髄細胞の集団の候補のスクリーニング
[135] 3匹(IV投与)又は6匹(ICA投与)の雄ラット/グループに1時間の一過性MCAOを施し、次いで生理食塩水又は前記のプロトコルに従って分離した骨髄由来細胞(NCS−01細胞集団と呼ぶ)7.5×106個を含有する注入用媒体1mlを注入した。細胞投与後7日目まで動物を追跡した。
【0135】
[136] 図1C及び1Dは、一過性MCAOを伴うラットに投与した際に、IV又はICA投与したNCS−01骨髄細胞集団が神経学的及び病理学的な実質的有益性をもたらしたことを示す。さらに、NCS−01は虚血により誘導された神経変性を治療することによりホスト細胞の死を阻止し、結果的に梗塞体積を低減し、かつ神経欠損を改善した。
【0136】
[137] 一次インビトロスクリーニング及び二次インビボスクリーニングは、神経変性を治療できる最適な骨髄由来細胞の亜集団(NCS−01細胞集団と呼ぶ)がその方法によって信頼性及び再現性をもって生成されるまで繰り返された。
【0137】
[138] この最適化されたNCS−01細胞集団を、インビトロOGDモデルで再試験してヒトのニューロン及びアストロサイトの共培養における抗神経変性活性を確認し(図1Eを参照)、かつインビボラットMCAOモデルで再試験した(図1F)。図1Fに示した実験は、NCS−01細胞集団が神経変性を治療する能力が用量依存性であることをも示す。
【0138】
実施例2:神経変性を治療できるNCS−01細胞集団を調製するための標準化した調製方法
[139] 未処理の全骨髄は、いずれかの細胞分裂抑制剤、又は代謝拮抗剤、例えば5−フルオロウラシル(5−FU)で前処理されていない哺乳動物から採取される。この骨髄は密度分画又はACK溶解により処理されていないので、出発時の全骨髄細胞集団は造血細胞及び非造血細胞、ならびに有核骨髄細胞及び非有核骨髄細胞の両方を含有する可能性がある。
【0139】
[140] 上記の未処理骨髄を希釈し、低密度(105〜106細胞/cm2)で組織/細胞培養プラスチック表面に播種し、血清含有培地(2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%のウシ胎仔血清(FBS,HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM(フェノールレッドを含まない)、又は2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%ウシ胎仔血清(FBS,HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM(Mediatech))の存在下で培養する。次いで細胞培養物を37℃、5%CO2、80%RH(相対湿度)で72時間インキュベートする。
【0140】
[141] 細胞をD−PBSですすいで、付着していない細胞及びRBCを細胞培養プラスチックから除去し、続いて補充α−MEMで培地を完全交換し、これをその後のすべての供給に用いる。次いで細胞培養物(継代0又はp0)を37℃、5%CO2、80%RHでインキュベートした。
【0141】
[142] 継代1について、細胞をD−PBSですすぎ、プラスチックに付着した細胞を細胞解離試薬により離脱させる。解離した細胞を300g(約1000rpm)で8〜10分間の遠心により収穫する。ペレット状細胞を補充α−MEMで再懸濁し、約750細胞/cm2の密度で組織/細胞培養プラスチック表面に播種する。
【0142】
[143] 細胞をほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。
【0143】
[144] 継代2について、前記に従って細胞を収穫し、この場合も約750細胞/cm2の密度で組織/細胞培養プラスチック表面に再び播種する。
【0144】
[145] 継代3について、細胞を細胞解離試薬を用いて収穫し、前記に従って遠心する。ペレット状細胞を次いで再懸濁し、プールする。細胞を凍結保存培地に再懸濁し、1mLの細胞懸濁液をCryovial(Nunc)中に小分けする。バイアルを制御速度フリーザーにより凍結し、凍結プログラムが完了した時点で、気相液体窒素フリーザー内での永久保存のためにドライアイス上へ移す。
【0145】
[146] 継代3(p3)の細胞を入れたバイアルがMCBとなる。
【0146】
[147] MCBのバイアルのひとつを融解し、回収した細胞(継代4又はP4)を、10% FBS及びGlutaMAX(商標)を補充したα−MEM中、約750細胞/cm2の密度で組織/細胞培養プラスチックに播種する。細胞を次いで37℃、5%CO2、80%RHでインキュベートする。
【0147】
[148] 継代4について、細胞をほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。前記に従って細胞を収穫し、新たな組織/細胞培養プラスチック表面に播種する。
【0148】
[149] 継代5について、MCBに関して前記に述べた方法に従って細胞を収穫し、凍結する。バイアルに小分けして凍結保存した継代5(p5)の細胞がWCBとなる。
【0149】
[150] 必要な場合には、MCBのバイアルのひとつを融解し、回収した細胞を、10% FBS及びGlutaMAX(商標)を補充したα−MEM中、約750細胞/cm2の密度で組織/細胞培養プラスチックに播種する。細胞を次いで37℃、5%CO2、80%RHでインキュベートする。
【0150】
[151] 継代6について、細胞をほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。前記に従って細胞を収穫し、新たな組織/細胞培養プラスチック表面に播種する。
【0151】
[152] 培地を継代の間で交換する(WCBから継代6、及び継代6と継代7)。
【0152】
[153] 継代7について、MCBに関して前記に述べた方法に従って細胞を収穫し、凍結する。
【0153】
実施例3:一過性のものと対比した永続性の中大脳動脈閉塞(MCAO)により生じた神経変性の、NCS−01細胞による治療
【0154】
[154] NCS−01治療した永続性MCAOを伴うラットの梗塞体積及び神経機能を、NCS−01治療した一過性(60分間)MCAOを伴うラットのものと比較した。
【0155】
[155] 一過性MCAOは、脳卒中により生じた動脈閉塞を脳卒中ペナンブラへの血流を復旧させる現在の標準臨床措置により治療したものを模倣する。これらの措置には、血栓溶解剤の投与、ならびに血塊の機械的除去を伴う血管形成術及び/又は血管ステント挿入などの措置が含まれる。
【0156】
[156] 3又は6匹のラットのグループに永続性MCAO又は一過性MCAO(再潅流を伴う)のいずれかを施した。次いで1mlの生理食塩水又は7.5×106のNCS−01細胞のいずれかを、虚血後24時間目にICA投与し、ラットを28日目までモニターした。次いで神経機能を改変ベーダーソン神経学的試験により評価した。一過性閉塞モデルは、脳卒中患者をtPAで治療するかあるいは血塊除去処置した状況を模倣する。
【0157】
[157] 図2の結果は、両方のMCAOパラダイムにおけるNCS−01細胞集団による治療について有意の組織学的有益性(梗塞体積;パネルA)及び臨床的有益性(改変ベーダーソン目盛;パネルB)を示す。有益性は一過性閉塞モデルの方が永続性閉塞モデルの場合より2〜3倍大きかった。神経応答の時間経過(パネルB)は、梗塞後28日目まで定常的な改善を示し、この期間で平均して非再潅流(永続性閉塞)及び未治療対照についての11%から、再潅流(一過性閉塞)及びNCS−01治療動物についての67%であった。
【0158】
[158] 予想外に、NCS−01は一過性閉塞モデルの症状の治療の場合の方がより有効であった;これは、NCS−01を血塊除去と組み合わせて、血栓溶解剤の投与又は機械的器具による血塊除去のいずれかの後に付与した場合に最大効力が得られる可能性があることを示唆する。
【0159】
実施例4:NCS−01細胞と他の骨髄由来細胞との比較
1)Li et al.に従った骨髄細胞の集団の分離
[159] 刊行物Li et al. Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism (2000) 20: 131 1-1319の記載に厳密に従って骨髄細胞の集団を調製した(以下、Li骨髄細胞の集団と呼ぶ)。
【0160】
[160] 採取の2日前に代謝拮抗剤5−フルオロウラシル(5−FU 150mg/kg)を腹腔内投与した成体マウスから、初代培養骨髄細胞を採取した(Randall and Weissman, 1997)。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS,0.5mL)を含む1mLの注射器に接続した21ゲージ針を用いて、脛骨及び大腿骨から新鮮な全骨髄を無菌的に採取した。乳状の均質な単細胞懸濁液になるまで、骨髄を機械的に解離させた。0.84%NH4Clを用いて赤血球を骨髄から除去し、血球計算器を用いて有核骨髄細胞数を測定した。2×106の有核骨髄細胞を組織培養フラスコ内の、ウシ胎仔血清(10%)を補充したイスコブの改変ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's medium)に播種した。3日間のインキュベーション後、細胞はプラスチックに緊密に付着し、それらを新たなフラスコ内で新鮮なイスコブの改変ダルベッコ培地に再懸濁し、さらに3継代増殖させた。
【0161】
2)インビトロOGDアッセイにおけるLi細胞集団とNCS−01細胞集団の比較
[161] 同じMCB及び骨髄の異なるWCBから調製した2ロットのNCS−01を、Li細胞集団と一緒に、図3に概説したようにインビトロOGDモデルにおいて試験した。
【0162】
[162] 図4に示すように、両方のロットのNCS−01細胞がIL−6及びbFGF両方の分泌において同じ増加を生じた。したがって、前記の最適化した調製方法により得られたNCS−01細胞集団は、インビトロOGDアッセイにおいて神経変性を確実に治療した。
【0163】
[163] これに対し、Li (2000)刊行物の記載に厳密に従って分離したLi細胞集団は、OGDアッセイにおいてNCS−01細胞集団より4〜5倍少ないbFGF及びIL−6を産生した。
【0164】
2)インビボMCAOアッセイにおけるLi細胞集団とNCS−01細胞集団の比較
【0165】
[164] NCS−01及びLi細胞集団がインビボで神経変性を治療する能力を、MCAOラットモデルにおいてインビボ試験した。これらの細胞がホスト細胞の生存率、梗塞体積、及び神経欠損に及ぼす影響を図5A及び5Bに示す。前記の試験と一致して、NCS−01細胞集団は、虚血により誘導された神経変性を治療することによりホスト細胞の死を阻止し(図5Aを参照)、結果的に梗塞体積を低減し、かつ神経欠損を改善した(図5Bを参照)。
【0166】
[165] これに対し、Li細胞集団は、梗塞体積又は神経機能に対して統計的に有意の活性を何ら示さなかった。したがってこれらのデータは、NCS−01集団が神経変性を治療する能力は調製方法により決まること、及びNCS−01細胞集団はLi 2000刊行物に記載された細胞集団とは別個のものであることを立証する。
【0167】
[166] 本明細書に記載した特許、特許出願、刊行物、又は他の開示物はいずれも、それの全体が本明細書に援用される。本明細書に援用すると述べたもの又はその一部であるけれども本明細書に述べる既存の定義、記述、又は他の開示物と矛盾するものはいずれも、援用したものと本明細書に開示するものとの間に矛盾が生じない範囲でのみ援用される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2
図3
図4
図5A
図5B