【実施例】
【0109】
[110] 実施例は、本発明に従って神経変性を治療するための骨髄細胞の亜集団を分離、選択及び使用する方法を示す。これらの例に記載する方法の各段階は限定のためのものではないと理解される。前記に述べたもの以外の本発明の他の目的及び利点は実施例から明らかになるであろう;実施例は本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0110】
実施例1:NCS−01細胞集団の分離
1)骨髄細胞の集団の候補の分離
[111] 不均質な骨髄細胞の集団を下記の調製方法により分離した:
・ヒトの未処理骨髄は、予備スクリーニングした健康な50歳以下のドナーから資格をもつ業者により採取された。骨髄は、5−フルオロウラシルなどの細胞分裂抑制剤で前処理されていないドナーから採取された;
・処理済み又は未処理の骨髄を、次いで低密度(10
2〜10
6細胞/cm
2)で組織/細胞培養プラスチック表面に播種し、血清含有培地の存在下で培養した;
・数日おいて細胞をプラスチックに付着させた後、付着していない細胞を洗浄により除去した;そして
・付着した細胞集団を血清含有培地中でほぼ集密状態まで培養した;培養細胞の集団を約7連続継代以下で連続継代し、各継代に際して培養細胞を低密度で播種した。
【0111】
[112] 神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団を分離するのに最適な培養条件を選択するために、細胞集団をまず、播種時の細胞密度、細胞継代数、培養培地組成、又は細胞分画など種々の培養条件下で増殖させた(表Iを参照)。
【0112】
[113] 未処理骨髄由来の、又は密度分画もしくはACK溶解後の骨髄細胞を、2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%のウシ胎仔血清(FBS、HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM、又は2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%のウシ胎仔血清(FBS、HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM(Mediatech)、又は無血清培地(StemPro)の存在下で、組織/細胞培養プラスチックに播種した。付着していない細胞を洗浄除去した後、付着した細胞をほぼ集密状態まで増殖させた。細胞を次いで合計3、4、5又は6継代で継代した。
【0113】
[114] 骨髄細胞の集団の候補を、次いでそれらが神経変性を治療する能力についてインビトロOGDアッセイ及びインビボMCAO試験で試験した。
【表1】
【0114】
2)インビトロ酸素/グルコース枯渇(OGD)プロトコルを用いる一次スクリーニング
[115] 前記に概説した調製プロセスにおける種々のパラメーター、例えば密度分画の存在下又は不存在下での骨髄調製、播種密度、継代数、培養培地、及び/又はそれらの組合わせを、インビトロ酸素/グルコース枯渇(OGD)実験プロトコルにより評価して、神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団の候補を分離するのに最適な方法を決定した。
【0115】
[116] インビトロOGDモデルを一次スクリーニングとして選択したのは、それが脳梗塞により生じる神経変性を模倣しているからである。詳細には、特定の骨髄細胞の亜集団の候補が培養中の神経系細胞の死を阻止し、bFGF及びIL−6などの神経保護栄養因子の分泌を誘導することができるか否かを、OGDにより試験した。
【0116】
[117] インビトロ酸素グルコース枯渇(OGD)モデルにおいて、ラットのニューロン及びアストロサイトの一次混合培養物(1:1の比率で)にOGD傷害(8%酸素;グルコースを含まないアール(Earle)の平衡塩類溶液)を90分間付与し、生理的条件に戻して2時間おいた後、このOGD処理したニューロン−アストロサイト共培養物に骨髄細胞の集団の候補を添加してさらに3時間おいた。OGD直後及びOGD後5時間目に、標準トリパンブルー染色及びMTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)法を用いて神経系細胞の生存率を評価した。
【0117】
細胞培養
[118] ラットのニューロン及びアストロサイトの一次混合培養物を、業者のプロトコル(CAMBREX,メリーランド州)に従った培養により維持した。融解した直後に、細胞(4×10
4細胞/ウェル)をポリリジンでコートした96ウェルプレートに播種し、Neuro basal media(神経基礎培地)(GIBCO,カリフォルニア州)[2mMのL−グルタミン,2%のB27(GIBCO,カリフォルニア州),ならびに50U/mlのペニシリン及びストレプトマイシンを含有]中、37℃で、5% CO
2を含む加湿雰囲気において7〜10日間増殖させた。次いでニューロン及びアストロサイト細胞集団の純度をそれぞれMAP2及びGFAP免疫染色により評価して、99%を超えることが認められた。
【0118】
酸素グルコース枯渇(OGD)及び骨髄細胞の集団の候補との共培養
[119] 以前の記載(Malagelada et al., Stroke (2004) 35(10): 2396-2401)をわずかに改変したものに従って、培養細胞にOGD傷害モデル条件を付与した。簡単に述べると、培養培地を、下記の組成をもつグルコースを含まないアールの平衡塩類溶液(BSS)で置き換えた:116mMのNaCl,5.4mMのKCl,0.8mMのMgSO
4,1mMのNaH
2PO
4,26.2mMのNaHCO
3,0.01mMのグリシン,1.8mMのCaCl
2,pHを7.4に調整。培養細胞を加湿チャンバーに入れて、92% N
2及び8% O
2ガスの連続流で15分間平衡化した。平衡に達した後、チャンバーを密閉し、37℃のインキュベーターに90分間入れた。この期間後に、培養培地にグルコースを添加しかつ培養物を標準的な95% O
2及び5% CO
2のインキュベーターに戻すことにより、OGDを終結した。次いで標準培地及び正常酸素条件で2時間の‘再潅流’を行ない、その後、このOGD処理した混合ニューロン−グリア培養物に骨髄(BM)細胞集団の候補を添加して約3時間おいた。次いで上清及び骨髄細胞の集団を混合培養物から洗浄により分離した。その後、下記に従って細胞について細胞生存率及び免疫細胞化学の試験を実施し、分泌された栄養因子の量を市販のELISAアッセイ法により測定した。
【0119】
細胞生存率アッセイ
[120] 細胞生存率を2つの時点で評価した:OGDの直後及びOGDの5時間後(すなわち、2時間の再潅流+選択した骨髄細胞の集団による3時間の処理)。OGD後の生存率アッセイのために、骨髄由来細胞を含有する上清を、付着した混合神経系細胞培養物から分離した。トリパンブルー染色法を実施し、各ウェル(処理条件当たりn=5)のランダムに選択した3領域(0.2mm
2)において平均生存細胞数を計算して、それぞれの処理条件についての細胞生存率を調べた。さらに、上清からペレットとして収穫した骨髄由来細胞のサブセットについてトリパンブルー染色を実施した。
【0120】
ELISAアッセイ
[121] 骨髄由来細胞が分泌する栄養因子、例えばbFGF及びIL−6ならびに可能性のある神経栄養因子が、OGD培養条件により模倣した神経変性の治療に関与すると推定される。したがって、培養培地中へ分泌されたこれらの分子の量を測定することにより、インビボで神経変性を治療することができる骨髄細胞の集団の候補を評価するための基準が得られる。神経系細胞と骨髄細胞の集団の候補を標準培養条件下で共培養したもの又はOGD曝露したものから上清を採集し、市販のELISAキットを用いて製造業者の指示に従って栄養因子分泌の存在を分析した。
【0121】
[122] 前記の表Iに示したパラメーターに従って処理した骨髄由来細胞集団のOGD分析の結果を
図1A及び1Bに示す。
【0122】
[123]
図1A及び1Bに示した結果に基づき、αMEM + 10% FBSを最適な細胞培養培地として選択し、未処理骨髄が密度分画(例えば、Ficoll−Paque又はPercoll)又はACK溶解によって処理した骨髄より優れていることが認められた。αMEM + 10% FBS培地における未処理骨髄細胞に最適な継代数は7継代以下であることが認められた。
【0123】
3)インビボ中大脳動脈閉塞ラットモデルを用いる骨髄細胞の集団の候補の二次スクリーニング及び選択
[124] インビトロOGDモデルにおける一次スクリーニングで得られた結果に基づいて、骨髄細胞の集団の候補で処置したMCAOラットの神経欠損及び梗塞体積を、生理食塩水のみの投与で処置したMCAOラットと比較することにより、骨髄細胞の集団の候補それぞれが神経変性を治療する生物活性を評価した。
【0124】
中大脳動脈閉塞(MCAO)外科処置
[125] 動物をイソフルラン(1.5%〜2.5%,酸素含有)により麻酔した。頭皮を剃毛し、アルコール及びクロルヘキシジン外科用スクラブで拭いた。次いで動物を定位固定装置に置いた。眼のわずかに後方から始めて約2.5cm長さの正中線矢状面切開を行ない、スパーテルの丸めた端を用いて頭蓋領域を露出させた。ブレグマを基準点として、ベースライン(すなわち、脳卒中の外科処置前)レーザードップラー記録を下記の座標から求めた(AP:+2.0,ML:±2.0)。頸部腹側の皮膚を顎から胸骨柄(manubrium)まで剃毛し、アルコール及びクロルヘキシジン外科用スクラブで拭いた。次いで動物を外科用顕微鏡下へ移動させた。右頸動脈上部の皮膚切開を行なった。外頚動脈を分離し、可能な限り遠位で結紮した。後頭動脈を焼灼した。場合により外頚動脈から伸びる分枝がもう一つ又は二つあり、それも焼灼する必要があった。第2結紮を外頚動脈の近位に配置し、結紮間で切断した。翼口蓋動脈(pterygopalatine artery)を結紮した。これに続いて、張力を付与して血流を制限するために、総頚動脈の周囲に仮の縫合を施した。結紮を使って外頚動脈の近位断端を引き戻して、頚動脈分岐部を効率的に伸ばした。外頚動脈の断端にミクロ鋏を用いて切開を行ない、端が予め加工された4−0ナイロン糸を挿入し、抵抗が感じられるまで内頚動脈中へ通した(約15〜17mm)。これによって中大脳動脈(MCA)が効率的に遮断される。外頚動脈の近位断端の周囲の結紮で糸を適所に固定した。反対側の総頚動脈を分離し、仮の結紮で固定した。皮膚切開部をステープルで閉じた。次いで、レーザードップラー記録のために動物を定位固定装置に固定し、MCA閉塞の成功を確認した。5分後に、反対側の総頚動脈の結紮を取り除いた。イソフルランを停止し、動物を回復ケージに入れて保温ブランケット上に置いた。60分後、動物を再びイソフルランで麻酔し、この一過性モデルにおける試験のために切開部を開いた。閉塞の原因となっている糸を取り除き、外頚動脈の断端を頚動脈分岐部近くで連結した(ligated)。皮膚切開部をステープルで閉じた。レーザードップラー記録のために動物を再び定位固定装置に固定し、再潅流の成功を確認した。最後に動物を回復ケージに入れて保温ブランケット上に置いた。
【0125】
神経機能試験
[126] 十分に認識されている改変ベーダーソン神経学的試験を各ラットについて実施した;これは下記のそれぞれからのスコアを求めることを伴う:
・対側後足の引き戻し;これは後足を外側へ2〜3cmずらされた後に動物がそれを元に戻す能力を測定し、0(即時引き戻し)から3(戻さない)まで格付けされる;
・ビーム歩行能力;0(幅2.4−cm、長さ80−cmのビームを直ちに横切るラット)から3(ビーム上に10秒間留まることができないラット)まで格付けされる;及び
・両前足握力;これは直径2−mmのスチール棒にしがみつく能力を測定し、0(正常な前足握り挙動を伴うラット)から3(前足で握ることができないラット)まで格付けされる。
【0126】
[127] 3試験すべてからのスコアを、それぞれの評価日に約15分間にわたって評価した。3試験から平均スコアを計算して、0(正常な神経機能)から最大3(重篤な神経欠損)までの範囲の神経欠損総合スコアを求めた。したがって、スコアが高いほど神経欠損は大きい。
【0127】
[128] パイロット試験に基づけば、約2.5を超えるスコアは動物が脳卒中の特徴である神経欠損を伴うことの指標となる。
【0128】
組織所見
脳切片標本
[129] 脳傷害の領域を同定するために脳切片標本をデザインする。MCA閉塞後、7日目又は28日目にラットを安楽死させ、生理食塩水に続いて4%パラホルムアルデヒドの経心臓潅流により潅流した。次いで脳を4%パラホルムアルデヒド中に固定し、その後25%ショ糖に浸漬した。それぞれの前脳を、各動物につきブレグマ5.2mmからブレグマ−8.8mmまでに対応する前−後座標で30μm厚さの冠状組織切片に切断した。
【0129】
梗塞体積の測定
[130] 脳当たり少なくとも4つの冠状組織切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色又はニッスル染色用に処理した。脳梗塞を確認するために、対側半球の面積から同側半球の無傷面積を差し引いた間接病変面積を用いた。
【0130】
[131] 病変体積を、対側半球と比較した病変部の体積パーセントとして提示した。ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色又はニッスル染色を用いて病変部体積の組織学的測定を実施し、代表的画像をディジタル取得し、NIH Image Jソフトウェア及び定量画像分析により処理した。病変部体積を次式に従って決定した:
【0131】
[132] 切片の厚さ×全脳切片における梗塞面積の和
【0132】
[133] 梗塞面積の虚血後浮腫により生じた人為的な結果を最小限に抑えるために、対側半球の全無傷面積から同側半球の非梗塞面積を差し引くことにより、同側半球の梗塞面積を間接測定した。
【0133】
虚血による梗塞周囲領域における細胞生存率の測定
[134] 皮質の梗塞周囲領域に対応するランダムに選択した高倍率視野を用いて、この虚血領域中で生存している細胞を計数した(Yasuhara et al., Stem Cells and Dev, 2009)。虚血皮質領域内のホスト神経系細胞の生存率を推定するために、クリスタルバイオレット液(Sigma,ミズーリ州セントルイス)を用いてニッスル染色を実施し、3切片におけるランダムに選択した皮質領域及び対応する対側無傷皮質の視野を写真撮影し(Carl Zeiss,Axiophot2)、ランダムに選択した高倍率視野(28,800μm
2)の細胞を計数することにより細胞数を測定した。無傷側に対する損傷を受けた皮質中の保存されたニューロンのパーセントを計算し、統計分析に用いた。脳切片を盲目コードし、計数された染色細胞の総数をAbercrombie式により補正した。
【0134】
MCAO脳卒中動物モデルを用いた骨髄細胞の集団の候補のスクリーニング
[135] 3匹(IV投与)又は6匹(ICA投与)の雄ラット/グループに1時間の一過性MCAOを施し、次いで生理食塩水又は前記のプロトコルに従って分離した骨髄由来細胞(NCS−01細胞集団と呼ぶ)7.5×10
6個を含有する注入用媒体1mlを注入した。細胞投与後7日目まで動物を追跡した。
【0135】
[136]
図1C及び1Dは、一過性MCAOを伴うラットに投与した際に、IV又はICA投与したNCS−01骨髄細胞集団が神経学的及び病理学的な実質的有益性をもたらしたことを示す。さらに、NCS−01は虚血により誘導された神経変性を治療することによりホスト細胞の死を阻止し、結果的に梗塞体積を低減し、かつ神経欠損を改善した。
【0136】
[137] 一次インビトロスクリーニング及び二次インビボスクリーニングは、神経変性を治療できる最適な骨髄由来細胞の亜集団(NCS−01細胞集団と呼ぶ)がその方法によって信頼性及び再現性をもって生成されるまで繰り返された。
【0137】
[138] この最適化されたNCS−01細胞集団を、インビトロOGDモデルで再試験してヒトのニューロン及びアストロサイトの共培養における抗神経変性活性を確認し(
図1Eを参照)、かつインビボラットMCAOモデルで再試験した(
図1F)。
図1Fに示した実験は、NCS−01細胞集団が神経変性を治療する能力が用量依存性であることをも示す。
【0138】
実施例2:神経変性を治療できるNCS−01細胞集団を調製するための標準化した調製方法
[139] 未処理の全骨髄は、いずれかの細胞分裂抑制剤、又は代謝拮抗剤、例えば5−フルオロウラシル(5−FU)で前処理されていない哺乳動物から採取される。この骨髄は密度分画又はACK溶解により処理されていないので、出発時の全骨髄細胞集団は造血細胞及び非造血細胞、ならびに有核骨髄細胞及び非有核骨髄細胞の両方を含有する可能性がある。
【0139】
[140] 上記の未処理骨髄を希釈し、低密度(10
5〜10
6細胞/cm
2)で組織/細胞培養プラスチック表面に播種し、血清含有培地(2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%のウシ胎仔血清(FBS,HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM(フェノールレッドを含まない)、又は2mMのGlutaMax(Invitrogen)及び10%ウシ胎仔血清(FBS,HyClone又はGIBCO)を補充したα−MEM(Mediatech))の存在下で培養する。次いで細胞培養物を37℃、5%CO
2、80%RH(相対湿度)で72時間インキュベートする。
【0140】
[141] 細胞をD−PBSですすいで、付着していない細胞及びRBCを細胞培養プラスチックから除去し、続いて補充α−MEMで培地を完全交換し、これをその後のすべての供給に用いる。次いで細胞培養物(継代0又はp0)を37℃、5%CO
2、80%RHでインキュベートした。
【0141】
[142] 継代1について、細胞をD−PBSですすぎ、プラスチックに付着した細胞を細胞解離試薬により離脱させる。解離した細胞を300g(約1000rpm)で8〜10分間の遠心により収穫する。ペレット状細胞を補充α−MEMで再懸濁し、約750細胞/cm
2の密度で組織/細胞培養プラスチック表面に播種する。
【0142】
[143] 細胞をほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。
【0143】
[144] 継代2について、前記に従って細胞を収穫し、この場合も約750細胞/cm
2の密度で組織/細胞培養プラスチック表面に再び播種する。
【0144】
[145] 継代3について、細胞を細胞解離試薬を用いて収穫し、前記に従って遠心する。ペレット状細胞を次いで再懸濁し、プールする。細胞を凍結保存培地に再懸濁し、1mLの細胞懸濁液をCryovial(Nunc)中に小分けする。バイアルを制御速度フリーザーにより凍結し、凍結プログラムが完了した時点で、気相液体窒素フリーザー内での永久保存のためにドライアイス上へ移す。
【0145】
[146] 継代3(p3)の細胞を入れたバイアルがMCBとなる。
【0146】
[147] MCBのバイアルのひとつを融解し、回収した細胞(継代4又はP4)を、10% FBS及びGlutaMAX(商標)を補充したα−MEM中、約750細胞/cm
2の密度で組織/細胞培養プラスチックに播種する。細胞を次いで37℃、5%CO
2、80%RHでインキュベートする。
【0147】
[148] 継代4について、細胞をほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。前記に従って細胞を収穫し、新たな組織/細胞培養プラスチック表面に播種する。
【0148】
[149] 継代5について、MCBに関して前記に述べた方法に従って細胞を収穫し、凍結する。バイアルに小分けして凍結保存した継代5(p5)の細胞がWCBとなる。
【0149】
[150] 必要な場合には、MCBのバイアルのひとつを融解し、回収した細胞を、10% FBS及びGlutaMAX(商標)を補充したα−MEM中、約750細胞/cm
2の密度で組織/細胞培養プラスチックに播種する。細胞を次いで37℃、5%CO
2、80%RHでインキュベートする。
【0150】
[151] 継代6について、細胞をほぼ集密状態まで培養した後、さらに継代する。前記に従って細胞を収穫し、新たな組織/細胞培養プラスチック表面に播種する。
【0151】
[152] 培地を継代の間で交換する(WCBから継代6、及び継代6と継代7)。
【0152】
[153] 継代7について、MCBに関して前記に述べた方法に従って細胞を収穫し、凍結する。
【0153】
実施例3:一過性のものと対比した永続性の中大脳動脈閉塞(MCAO)により生じた神経変性の、NCS−01細胞による治療
【0154】
[154] NCS−01治療した永続性MCAOを伴うラットの梗塞体積及び神経機能を、NCS−01治療した一過性(60分間)MCAOを伴うラットのものと比較した。
【0155】
[155] 一過性MCAOは、脳卒中により生じた動脈閉塞を脳卒中ペナンブラへの血流を復旧させる現在の標準臨床措置により治療したものを模倣する。これらの措置には、血栓溶解剤の投与、ならびに血塊の機械的除去を伴う血管形成術及び/又は血管ステント挿入などの措置が含まれる。
【0156】
[156] 3又は6匹のラットのグループに永続性MCAO又は一過性MCAO(再潅流を伴う)のいずれかを施した。次いで1mlの生理食塩水又は7.5×10
6のNCS−01細胞のいずれかを、虚血後24時間目にICA投与し、ラットを28日目までモニターした。次いで神経機能を改変ベーダーソン神経学的試験により評価した。一過性閉塞モデルは、脳卒中患者をtPAで治療するかあるいは血塊除去処置した状況を模倣する。
【0157】
[157]
図2の結果は、両方のMCAOパラダイムにおけるNCS−01細胞集団による治療について有意の組織学的有益性(梗塞体積;パネルA)及び臨床的有益性(改変ベーダーソン目盛;パネルB)を示す。有益性は一過性閉塞モデルの方が永続性閉塞モデルの場合より2〜3倍大きかった。神経応答の時間経過(パネルB)は、梗塞後28日目まで定常的な改善を示し、この期間で平均して非再潅流(永続性閉塞)及び未治療対照についての11%から、再潅流(一過性閉塞)及びNCS−01治療動物についての67%であった。
【0158】
[158] 予想外に、NCS−01は一過性閉塞モデルの症状の治療の場合の方がより有効であった;これは、NCS−01を血塊除去と組み合わせて、血栓溶解剤の投与又は機械的器具による血塊除去のいずれかの後に付与した場合に最大効力が得られる可能性があることを示唆する。
【0159】
実施例4:NCS−01細胞と他の骨髄由来細胞との比較
1)Li et al.に従った骨髄細胞の集団の分離
[159] 刊行物Li et al. Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism (2000) 20: 131 1-1319の記載に厳密に従って骨髄細胞の集団を調製した(以下、Li骨髄細胞の集団と呼ぶ)。
【0160】
[160] 採取の2日前に代謝拮抗剤5−フルオロウラシル(5−FU 150mg/kg)を腹腔内投与した成体マウスから、初代培養骨髄細胞を採取した(Randall and Weissman, 1997)。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS,0.5mL)を含む1mLの注射器に接続した21ゲージ針を用いて、脛骨及び大腿骨から新鮮な全骨髄を無菌的に採取した。乳状の均質な単細胞懸濁液になるまで、骨髄を機械的に解離させた。0.84%NH
4Clを用いて赤血球を骨髄から除去し、血球計算器を用いて有核骨髄細胞数を測定した。2×10
6の有核骨髄細胞を組織培養フラスコ内の、ウシ胎仔血清(10%)を補充したイスコブの改変ダルベッコ培地(Iscove's Modified Dulbecco's medium)に播種した。3日間のインキュベーション後、細胞はプラスチックに緊密に付着し、それらを新たなフラスコ内で新鮮なイスコブの改変ダルベッコ培地に再懸濁し、さらに3継代増殖させた。
【0161】
2)インビトロOGDアッセイにおけるLi細胞集団とNCS−01細胞集団の比較
[161] 同じMCB及び骨髄の異なるWCBから調製した2ロットのNCS−01を、Li細胞集団と一緒に、
図3に概説したようにインビトロOGDモデルにおいて試験した。
【0162】
[162]
図4に示すように、両方のロットのNCS−01細胞がIL−6及びbFGF両方の分泌において同じ増加を生じた。したがって、前記の最適化した調製方法により得られたNCS−01細胞集団は、インビトロOGDアッセイにおいて神経変性を確実に治療した。
【0163】
[163] これに対し、Li (2000)刊行物の記載に厳密に従って分離したLi細胞集団は、OGDアッセイにおいてNCS−01細胞集団より4〜5倍少ないbFGF及びIL−6を産生した。
【0164】
2)インビボMCAOアッセイにおけるLi細胞集団とNCS−01細胞集団の比較
【0165】
[164] NCS−01及びLi細胞集団がインビボで神経変性を治療する能力を、MCAOラットモデルにおいてインビボ試験した。これらの細胞がホスト細胞の生存率、梗塞体積、及び神経欠損に及ぼす影響を
図5A及び5Bに示す。前記の試験と一致して、NCS−01細胞集団は、虚血により誘導された神経変性を治療することによりホスト細胞の死を阻止し(
図5Aを参照)、結果的に梗塞体積を低減し、かつ神経欠損を改善した(
図5Bを参照)。
【0166】
[165] これに対し、Li細胞集団は、梗塞体積又は神経機能に対して統計的に有意の活性を何ら示さなかった。したがってこれらのデータは、NCS−01集団が神経変性を治療する能力は調製方法により決まること、及びNCS−01細胞集団はLi 2000刊行物に記載された細胞集団とは別個のものであることを立証する。
【0167】
[166] 本明細書に記載した特許、特許出願、刊行物、又は他の開示物はいずれも、それの全体が本明細書に援用される。本明細書に援用すると述べたもの又はその一部であるけれども本明細書に述べる既存の定義、記述、又は他の開示物と矛盾するものはいずれも、援用したものと本明細書に開示するものとの間に矛盾が生じない範囲でのみ援用される。