特許第6156906号(P6156906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6156906
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】浮体動揺抑制装置および生簀
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/60 20170101AFI20170626BHJP
【FI】
   A01K61/60 323
   A01K61/60 321
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-1230(P2013-1230)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-132843(P2014-132843A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230836
【氏名又は名称】日本興業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(73)【特許権者】
【識別番号】501168814
【氏名又は名称】国立研究開発法人水産研究・教育機構
(73)【特許権者】
【識別番号】502108961
【氏名又は名称】香川県漁業協同組合連合会
(74)【代理人】
【識別番号】100089222
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 康伸
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100175400
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 伸
(72)【発明者】
【氏名】末永 慶寛
(72)【発明者】
【氏名】掛川 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】宮川 昌志
(72)【発明者】
【氏名】中條 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】栩野 元秀
(72)【発明者】
【氏名】山本 義久
(72)【発明者】
【氏名】森田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和久
(72)【発明者】
【氏名】服部 郁弘
(72)【発明者】
【氏名】松山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山地 功二
(72)【発明者】
【氏名】君川 佳司
【審査官】 大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−119881(JP,A)
【文献】 特開昭62−194312(JP,A)
【文献】 特開昭60−142197(JP,A)
【文献】 特開平11−002284(JP,A)
【文献】 米国特許第06408780(US,B1)
【文献】 松内勇貴・宮川昌志・山本義久・森田哲男・末永慶寛,養殖生簀における動揺抑制装置の開発と実用化に関する研究,土木学会論文集B2(海岸工学),日本,2012年11月,VOL.68 NO.2,P.906−910,<平成28年9月13日検索>,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kaigan/68/2/68_I_906/_pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−63/06
B63B 35/44
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮かせて設置される浮体に取り付けられる浮体動揺抑制装置であって、
複数の水柱管を備え
それぞれの前記水柱管は、
水中に開口する水側開口端を有し、水平方向に伸びる第1水平管と、
前記第1水平管と接続し、下垂する第1垂直管と、
前記第1垂直管と接続し、水平方向に伸びる第2水平管と、
大気中に開口する大気側開口端を有し、下垂して前記第2水平管と接続する第2垂直管と、からなり
前記複数の水柱管は、それぞれ前記水側開口端から前記大気側開口端までの長さが異なり、上下に積層するように設けられている
ことを特徴とする浮体動揺抑制装置。
【請求項2】
前記水側開口端の開口高さが、前記浮体が設置される水面の有義波高の90%以上である
ことを特徴とする請求項記載の浮体動揺抑制装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の浮体動揺抑制装置が取り付けられた
ことを特徴とする生簀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体動揺抑制装置および生簀に関する。さらに詳しくは、海上に設置される生簀等の浮体が波浪により動揺することを抑制するための浮体動揺抑制装置、および波浪による動揺を抑制できる生簀に関する。
【背景技術】
【0002】
水産資源生産力の向上のために、海上に設置された生簀に稚魚を投入し、所定の大きさまで育成した後、海域に放流することが行われている。しかし、大型船舶の航行や自然災害による異常波浪により、生簀が激しく動揺し、その動揺により稚魚が刺激されて死滅してしまうという問題がある。そこで、生簀の動揺を抑制する技術が求められている。
【0003】
生簀の動揺を抑制する技術として、特許文献1に記載の生簀がある。
特許文献1の生簀は、網が取り付けられる枠体の剛性を高め、かつ枠体の断面積の30〜70%を水中に沈下させたものである。枠体の剛性を高めることで、枠体が波の波形に追従して曲がるということがないので、この曲がりによる動揺を抑制することができる。また、枠体の断面積の30〜70%を水中に沈下させることにより、枠体が静水面の高さに浮くため、より動揺を抑制することができる。
【0004】
しかるに、特許文献1の生簀は、枠体の一辺の長さが波の波長よりも小さいと、枠体が波に乗った状態となり生簀が大きく動揺してしまうため、枠体の一辺の長さを波の波長よりも大きくする必要がある。そのため、生簀の寸法を自由に設定することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6‐78647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、浮体の波浪による動揺を抑制できる浮体動揺抑制装置、および波浪による動揺を抑制できる生簀を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の浮体動揺抑制装置は、水面に浮かせて設置される浮体に取り付けられる浮体動揺抑制装置であって、複数の水柱管を備え、それぞれの前記水柱管は、水中に開口する水側開口端を有し、水平方向に伸びる第1水平管と、前記第1水平管と接続し、下垂する第1垂直管と、前記第1垂直管と接続し、水平方向に伸びる第2水平管と、大気中に開口する大気側開口端を有し、下垂して前記第2水平管と接続する第2垂直管と、からなり前記複数の水柱管は、それぞれ前記水側開口端から前記大気側開口端までの長さが異なり、上下に積層するように設けられていることを特徴とする。
第2発明の浮体動揺抑制装置は、第1発明において、前記水側開口端の開口高さが、前記浮体が設置される水面の有義波高の90%以上であることを特徴とする。
第3発明の生簀は、第1または第2発明の浮体動揺抑制装置が取り付けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明によれば、水側開口端と大気側開口端とを有する水柱管を備えるので、水側開口端から侵入した波浪が水柱管の内部の水柱を振動させることにより、波浪エネルギーが水柱の振動エネルギーに変換される。さらに水柱の水面が振動することにより大気が振動し、水柱の振動エネルギーが大気の振動エネルギーに変換される。そのため、浮体に作用する波浪エネルギーが吸収され、浮体の波浪による動揺を抑制できる。また、水柱の振動の固有周期が異なる複数の水柱管を備えるので、不規則波の持つ広い周波数帯の波浪エネルギーを吸収することができる。そのため、不規則波に対して浮体の動揺を抑制できる。
第2発明によれば、水側開口端の開口高さが有義波高の90%以上であれば、水側開口端から波が進入しやすく、効率よく波浪エネルギーを吸収できる。
第3発明によれば、浮体動揺抑制装置が取り付けられているので生簀の波浪による動揺を抑制できる。そのため、生簀に投入される稚魚の刺激を低減でき、稚魚の死滅を防止し、水産資源生産力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る浮体動揺抑制装置の原理説明図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置の側面図である。
図3】同浮体動揺抑制装置の正面図である。
図4】同浮体動揺抑制装置の平面図である。
図5図3におけるII-II線矢視断面図である。
図6】同浮体動揺抑制装置が取り付けられた生簀の平面図である。
図7図6におけるVII-VII線矢視断面図である。
図8】本発明の第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置の側面図である。
図9】水理模型実験の実施例1の結果を示すグラフである。
図10】水理模型実験の実施例2の結果を示すグラフである。
図11】実海域模型実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(原理)
まず、本発明の原理について説明する。
図1に示すように、一端が水中に開口する水側開口端11であり、他端が大気中に開口する大気側開口端12である水柱管10は、その内部に水柱Cを有している。
この水柱Cの振動の固有周期Tは数1で得られ、水柱Cの長さLによって決定される。
【数1】
【0011】
水柱管10の内部に水側開口端11から波が侵入すると、水柱Cを振動させ、波の波浪エネルギーが水柱Cの振動エネルギーに変換される。さらに水柱Cの水面Sが振動することにより大気が振動し、水柱Cの振動エネルギーが大気の振動エネルギーに変換される。そのため、波の波浪エネルギーが吸収され、波による動揺を抑制できる。
【0012】
特に、侵入する波の周期T'が、水柱Cの振動の固有周期Tと同一である場合、水柱Cが激しく振動し、波浪エネルギーを大きく吸収することができる。そのため、波浪エネルギーの吸収効率が高くなり、波による動揺をより抑制できる。
【0013】
逆に考えれば、水柱Cの振動の固有周期Tが波の周期T'と略同一になるように、水柱Cの長さLを決定すれば、波の波浪エネルギーを効率よく吸収でき、波による動揺を抑制できる。ここで、水柱Cの長さLは、水柱管10の水中に沈下した部分の長さであるので、水柱管10の長さを調整することにより、所望の周期の波の波浪エネルギーを吸収することができる。
【0014】
(第1実施形態)
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図2図3および図4に示すように、本発明の第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置Aは、一端が水中に開口する水側開口端11であり、他端が大気中に開口する大気側開口端12である水柱管10を備えている。
【0015】
水柱管10は、水平方向に伸びる第1水平管13と、その第1水平管13と接続し下垂する第1垂直管14と、その第1垂直管14と接続し水平方向に伸びる第2水平管15と、その第2水平管15と接続し立設する第2垂直管16とからなる、側面視略J字形の管である。また、水側開口端11および大気側開口端12は、同じ幅寸法を有する横長の長方形であり、水柱管10は全長に渡って断面が長方形の管である。
このように、水柱管10は、多数の平面から構成されており、板材を屈曲、接合して形成することができるので、製造が容易である。
【0016】
また、図3図4および図5に示すように、水側開口端11および大気側開口端12には、その長辺同士に掛け渡されたリブ17が設けられている。このリブ17により水側開口端11および大気側開口端12の強度が高められている。
なお、本実施形態においては、リブ17は水側開口端11および大気側開口端12にのみ設けられているが、水柱管10の内部にも設けてより強度を高めてもよい。また、十分な強度が得られれば、水側開口端11および大気側開口端12にリブ17を設けなくてもよい。
【0017】
上記の浮体動揺抑制装置Aは、海上に浮かせて設置される生簀等の浮体に取り付けられ、その浮体が波浪により動揺することを抑制する。以下、浮体動揺抑制装置Aを生簀Pに取り付ける場合について説明する。
【0018】
図6および図7に示すように、浮体動揺抑制装置Aを生簀Pに取り付ける場合には、水柱管10の第1垂直管14、第2水平管15および第2垂直管16で形成される凹部に、生簀Pの枠体51とその下面に設けられた浮き52が嵌め込まれる。また、浮体動揺抑制装置Aを取り付けた場合に、生簀Pの浮き52だけでは浮力が足りない場合には、水柱管10の周囲にも浮き40を設け、浮体動揺抑制装置Aおよび生簀Pの枠体51が海面上に浮くようにする。
【0019】
以上のように、浮体動揺抑制装置Aは生簀Pに取り付けやすい構造となっている。また、生簀Pの枠体51は給餌等の作業をする場所であるが、浮体動揺抑制装置Aによって枠体51を狭くすることがないので、浮体動揺抑制装置Aが作業の邪魔にならない。
【0020】
図5に示すように、浮体動揺抑制装置Aは、水側開口端11が水中に開口し、大気側開口端12が大気中に開口するように生簀Pに取り付けられる。そして、水柱管10の内部に海水が侵入し、第2垂直管16の内部に水面Sを有する水柱Cが形成される。
【0021】
浮体動揺抑制装置Aが取り付けられた生簀Pに対して波浪が迫ると、その波浪の一部が水側開口端11から侵入し、水柱管10の内部の水柱Cを振動させることにより、波浪エネルギーが水柱Cの振動エネルギーに変換される。さらに水柱Cの水面Sが振動することにより大気が振動し、水柱Cの振動エネルギーが大気の振動エネルギーに変換される。そのため、生簀Pに作用する波浪エネルギーが吸収され、生簀Pの波浪による動揺を抑制できる。これにより、生簀Pに投入される稚魚の刺激を低減でき、稚魚の死滅を防止し、水産資源生産力を向上できる。
【0022】
また、浮体動揺抑制装置Aにより水面付近の流れが制御され、水中に存在する付着物質が拡散されるので、生簀Pへの藻などの付着物を低減できる。
【0023】
前述の通り、水柱Cの長さLは、水側開口端11から水面Sまでの長さであり、この長さLにより水柱Cの振動の固有周期Tが決定される。
水柱管10は、内部の水柱Cの振動の固有周期Tが、生簀Pが設置される海面の有義波周期T1/3と略同一となるように構成することが好ましい。より詳細には、水柱Cの振動の固有周期Tが有義波周期T1/3と略同一となるように水柱Cの長さLを決定し、その長さLの水柱Cが得られるように水柱管10の長さを決定することが好ましい。
【0024】
水柱Cの振動の固有周期Tを有義波周期T1/3と略同一とすれば、有義波によって水柱Cが激しく振動し、波浪エネルギーを大きく吸収することができる。
海上の波浪は不規則波であり広い周波数帯を有するが、有義波の波浪エネルギーを効率よく吸収することで、広い周波数帯を有する波浪エネルギーの吸収効率が全体として高くなる。
【0025】
なお、水柱管10は側面視J字形に屈曲しているので、水柱Cの振動の固有周期Tを所望の周期に設定するために水柱管10の長さを確保しつつ、浮体動揺抑制装置Aを小型化することができる。
【0026】
また、水側開口端11の開口高さhは、生簀Pが設置される海面の有義波高H1/3の90%以上とすることが好ましい。
水側開口端11の開口高さhが有義波高H1/3の90%以上であれば、水側開口端11から波が進入しやすく、効率よく波浪エネルギーを吸収できるからである。
【0027】
また、水側開口端11の上下位置は、波高の中間である静水面に対して、水側開口端11の半分以上が水没していればよい。水側開口端11の半分以上が水没していれば、水柱Cが確保され、波浪エネルギーを吸収できるからである。
このように、特許請求の範囲に記載の「水中に開口する水側開口端」とは、水側開口端の一部が水没している状態も含む概念である。
【0028】
また、生簀Pに取り付ける浮体動揺抑制装置Aの数や位置は任意に定めることができる。例えば、図6における枠体51の上下位置にも浮体動揺抑制装置Aを取り付けてもよい。また、円形の生簀の場合には、その周囲を囲むように浮体動揺抑制装置Aを円形に配置してもよい。
ただし、浮体動揺抑制装置Aは、その水側開口端11を波の来る方向に向かって設けることが好ましい。このように設ければ、生簀Pに迫る波浪の波浪エネルギーを効率よく吸収することができるからである。
【0029】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態に係る浮体動揺抑制装置Bについて説明する。
図8に示すように、浮体動揺抑制装置Bは、長さの異なる3つの水柱管10、20、30を備えている。それぞれの水柱管10、20、30の内部に有する水柱C1、C2、C3は、その長さL1、L2、L3が異なっており、それゆえ固有周期T1、T2、T3が異なっている。
【0030】
海等の波は不規則波であり広い周波数帯を有する。浮体動揺抑制装置Bは、内部の水柱C1、C2、C3の振動の固有周期T1、T2、T3が異なる複数の水柱管10、20、30を備えるので、広い周波数帯の波浪エネルギーを吸収することができる。これにより、不規則波に対しても生簀Pの動揺を抑制できる。
【0031】
なお、本実施形態では、3つの水柱管10、20、30の水側開口端11、21、31を面一に設けたが、互いに段差を設けてもよい。また、本実施形態では、3つの水柱管10、20、30を上下に積層するように設けたが、各水柱管10、20、30の間に隙間が設けられるように構成してもよい。また、3つの水柱管10、20、30を浮体動揺抑制装置Bの幅方向に連接して設けてもよい。以上のように構成すれば、各水柱管10、20、30の長さを自在に設定することができるので、所望の3つの固有周期T1、T2、T3の水柱C1、C2、C3を有する浮体動揺抑制装置Bを得ることができる。
【0032】
(他の実施形態)
上記実施形態では、水柱管10を側面視略J字形としたが、側面視L字形等種々の形状に構成することができる。また、水柱管10は、角を有するように屈曲させる以外に、なめらかに湾曲させてもよい。さらに、水柱管10の断面は長方形に限らず、円形等種々の形状を採用することができる。このように、所望の固有周期Tを有する水柱Cを得られれば、水柱管10の形状は特に限定されない。
【0033】
また、水側開口端11の開口向きは、波が入ることのできる方向であれば、特に限定されない。ただし、水側開口端11の近傍の水柱管10(第1実施形態においては第1水平管13)は、水平に設けた方が好ましい。このように構成することで、波が水側開口端11に侵入しやすく、波浪エネルギーの吸収効率が高くなるからである。
【0034】
上記実施形態では、浮体動揺抑制装置を生簀Pに取り付けたが、生簀P以外にも、水面に浮かせて設置される種々の浮体に取り付けられる。例えば、浮桟橋や、停泊中の船舶、等に浮体動揺抑制装置が取り付けられる。
【実施例】
【0035】
つぎに、実施例により、その効果を説明する。
(水理模型実験)
まず、水理模型実験について説明する。
浮体動揺抑制装置の模型を用いて水理実験を行い、浮体動揺抑制装置の規則波中におけるエネルギー吸収特性の評価を行った。実験は、浮体動揺抑制装置の模型を生簀に取り付け、これに所定の周期の波を入射させて行った。入射波の振幅と、生簀の振幅を測定し、その測定結果から入射波のエネルギーEと浮体動揺抑制装置による吸収エネルギーPを算出した。そして、入射波のエネルギーEと吸収エネルギーPとからエネルギー吸収効率P/Eを算出した。また、エネルギー吸収効率の測定結果と理論計算との比較を行い、エネルギー吸収特性の評価を行った。
【0036】
(実施例1)
上記第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置Aの構成を有する1/25スケールの浮体動揺抑制装置の模型を用いて水理実験を行った。この模型の水柱の長さLは38cmであり、振動の固有周期Tは1.24秒である。
図9に示すように、測定結果によれば、入射波の周期が1.0秒である場合に、エネルギー吸収効率が0.30であった。また、論理計算から、入射波の周期が1.24秒の場合の、エネルギー吸収効率は0.43であった。なお、測定結果と理論計算とがよく一致しているため、水理実験においても入射波の周期を固有周期Tと同じ1.24秒とした場合、エネルギー吸収効率が0.43程度となることが予測される。
【0037】
(実施例2)
つぎに、第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置Aの構成を有する1/15スケールの浮体動揺抑制装置の模型を用いて水理実験を行った。この模型の水柱の長さLは60cmであり、振動の固有周期Tは1.55秒である。
図10に示すように、測定結果によれば、入射波の周期が1.5秒である場合に、エネルギー吸収効率が0.93となり、入射波の波浪エネルギーのほぼ全てを吸収できることがわかる。また、測定結果と理論計算とがよく一致した。
【0038】
(稚魚育成実験)
つぎに、稚魚育成実験について説明する。
タケノコメバルの稚魚を50個体投入した生簀を2セット用意し、一方の生簀に第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置Aの構成を有する1/15スケールの浮体動揺抑制装置の模型を取り付けた。この2セットの生簀を用いて水理実験を行った。生簀への入射波の周期は、上記水理模型実験によって得られた図10のグラフから、エネルギー吸収効率が0.7となる1.3秒に設定した。浮体動揺抑制装置を取り付けた生簀を実験区、浮体動揺抑制装置を取り付けていない生簀を対照区とし、それぞれ生簀に投入する前の稚魚の体重および体長を測定し、15日後の稚魚の体重および体長を再度測定して肥満度減少率を算出した。算出した肥満度減少率を比較して、浮体動揺抑制装置の動揺抑制の有効性の評価を行った。
【0039】
実験の結果、表1が得られた。
【表1】
【0040】
表1より、実験区の肥満度減少率は(1-30.2/31.6)×100=4.43%であり、対照区の肥満度減少率は(1-30.9/34.2)×100=9.65%であることがわかる。
実験区の肥満度減少率が対照区の肥満度減少率より低いことから、浮体動揺抑制装置を取り付けることにより、生簀の動揺を抑制でき、稚魚の刺激を低減できることがわかった。
【0041】
(実海域模型実験)
つぎに、実海域模型実験について説明する。
浮体動揺抑制装置の不規則波中におけるエネルギー吸収特性の評価を行うため、第1実施形態に係る浮体動揺抑制装置Aの構成を有する1/15スケールの浮体動揺抑制装置の模型を取り付けた生簀を実海域に設置した。生簀に入射する入射波の波高を観測し、入射波の有義波周期T1/3と有義波高H1/3を算出した。また、生簀内の波の波高を観測し、生簀内の波の有義波周期T'1/3と有義波高H'1/3を算出した。算出した有義波周期T1/3、T'1/3と有義波高H1/3、H'1/3とから、入射波および生簀内の波のエネルギースペクトルを算出した。そのエネルギースペクトルを比較して、実海域における浮体動揺抑制装置のエネルギー吸収特性を評価した。
【0042】
実験の結果、入射波および生簀内の波の有義波周期および有義波高は表2に示すとおりとなった。
【表2】
【0043】
表2の結果より、入射波および生簀内の波のエネルギースペクトルは、図11に示すようになる。
また、入射波のエネルギーEirrは0.253m2、生簀内の波のエネルギーPは0.071m2と算出される。
【0044】
エネルギー吸収効率ηは、以下の数2で与えられる。
【数2】
数2に実験結果を代入することにより、エネルギー吸収効率が72%であることがわかった。
稚魚の成育に支障のない動揺範囲となることが既往のデータから示されており、浮体動揺抑制装置の動揺抑制の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0045】
A 浮体動揺抑制装置
C 水柱
10 水柱管
11 水側開口端
12 大気側開口端
13 第1水平管
14 第1垂直管
15 第2水平管
16 第2垂直管
17 リブ
P 生簀
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11