(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分と、遺伝的に改変された植物によって生産された植物油とを含有する。
【0011】
(ゴム成分)
ゴム成分としては特に限定されないが、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などの石油外資源由来のゴムを好適に使用できる。
【0012】
本発明のゴム組成物がNRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。上記範囲外であると、耐摩耗性の悪化、脆化温度の上昇及びグリップ性能(特に、氷上でのグリップ性能)の低下が起こる傾向がある。
【0013】
また、所望に応じて、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)などの合成ゴムも使用できる。氷上性能及び耐摩耗性をバランスよく改善できるという理由から、合成ゴムとしては、BR及びSBRからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、BRがより好ましい。
【0014】
上記合成ゴムを使用する場合、将来の石油枯渇や環境への配慮から、再生可能な生物由来原料をモノマーとして製造された合成ゴムを使用することが好ましい。このような生物由来原料から製造された合成ゴムは、例えばBRの場合、バイオエタノールに触媒を作用させてブタジエンを得て、それを重合するなどの方法により得ることができる。
【0015】
本発明のゴム組成物がBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。上記範囲外であると、耐摩耗性の悪化、脆化温度の上昇及びグリップ性能(特に、氷上でのグリップ性能)の低下が起こる傾向がある。
【0016】
(植物油)
本発明のゴム組成物は、遺伝的に改変された植物(トランスジェニック植物)によって生産された植物油を含有する。
【0017】
植物油は基本的にトリアシルグリセロール(TAG)分子で構成されており、TAG分子はグリセロール骨格にエステル化された3本の脂肪酸鎖から構成されている。植物油は、主に食用油として使用されており、栄養上の要請から高不飽和脂肪酸を減らすという目的で、オレイン酸に富むものが求められている。そこで、植物中のオレイン酸合成に関する代謝経路及びこれらの経路のための酵素をコードする遺伝子についての研究がなされてきた。その結果、遺伝子Fad2がコードするΔ12−デサチュラーゼの働きを抑制する事によりオレイン酸の含有量が上昇するという事が、幾つかの植物において認められた。この成果に基づき、遺伝的に改変された植物によりオレイン酸を高含有率で含むヒマワリ油やダイズ油が開発され、既に市販されている。
【0018】
このように、遺伝的に改変された植物から生産された植物油(以下、遺伝子改変植物油ともいう。)は、通常の植物から得られる植物油とは異なる特性を有する。遺伝子改変植物油を配合することで、氷上性能及び耐摩耗性を芳香族系オイルと同等以上に改善することができる。
【0019】
遺伝子の改変には、細胞に遺伝子を導入する際に用いられる公知の形質転換法を採用でき、例えば、目的の遺伝子(標的遺伝子)を構成するDNAを含むプラスミドなどのベクターを導入したアグロバクテリウム属菌を植物細胞に感染させて遺伝子を導入する方法(アグロバクテリウム法)、標的遺伝子を構成するDNAを担持させた金粒子をパーティクルガンにより細胞内に撃ち込む方法(パーティクルガン法)、標的遺伝子を組み込んだベクターを含む溶液中で電圧により細胞膜に孔を開け、そこから当該ベクターを導入する方法(エレクトロポレーション法)などが挙げられる。
【0020】
植物の種類は特に問わないが、生産性が高いという点から、菜種(キャノーラ)、コーン、大豆、ヒマワリ及びコットンが好ましく、キャノーラがより好ましい。
【0021】
植物中の遺伝子の改変箇所についても特に問わないが、オレイン酸の含有量を多く、かつリノール酸及びリノレン酸の含有量を少なくできるという点から、Fad2でコードされたΔ12−デサチュラーゼ及びΔ6−デサチュラーゼからなる群より選択される少なくとも一種の酵素の働きを抑制したものであることが好ましい。
【0022】
遺伝子改変植物油の構成脂肪酸100質量%中のオレイン酸の含有量は、好ましくは85質量%以上である。85質量%未満であると、氷上性能及び耐摩耗性の改善効果が低い傾向がある。オレイン酸の含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。95質量%を超えると、耐加硫戻り性が悪化する傾向がある。
【0023】
遺伝子改変植物油の構成脂肪酸100質量%中のリノール酸の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。15質量%を超えると、加工性及び耐加硫戻り性が悪化する傾向がある。リノール酸の含有量の下限は特に限定されないが、好ましくは1質量%以上である。
【0024】
遺伝子改変植物油の構成脂肪酸100質量%中のリノレン酸の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。10質量%を超えると、加工性及び耐加硫戻り性が悪化する傾向がある。リノレン酸の含有量の下限は特に限定されないが、好ましくは1質量%以上である。
【0025】
なお、上記脂肪酸組成(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の含有量)は、GLC(気−液クロマトグラフィー)により測定できる。
【0026】
遺伝子改変植物油の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5〜40質量部である。5質量部未満では充分な軟化効果が得られない傾向があり、また、40質量部を超えると、ブリードが発生しやすくなったり、加工性が悪化する傾向がある。
【0027】
本発明のゴム組成物は、遺伝子改変植物油を使用しているため、良好な配合物性を確保しながら、芳香族系オイルなどの石油資源に由来するオイルの使用量を低減することができる。全オイル100質量%中、遺伝子改変植物油の含有量は、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上、更に好ましくは100質量%である。また、全オイル100質量%中、石油資源に由来するオイルの含有量は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0質量%(実質的に含有しない)である。
【0028】
(フィラー)
本発明のゴム組成物は、更に、補強剤(フィラー)を含有してもよい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカなどを使用できる。
【0029】
カーボンブラックとしては特に限定されず、HAF、ISAF、SAFなど、タイヤ工業において一般的なものを使用できるが、チッ素吸着比表面積(N
2SA)が100〜140m
2/gのものを好適に使用できる。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0030】
本発明のゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは25質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。上記範囲内であれば、氷上性能及び耐摩耗性を高次元でバランスよく改善することができる。
【0031】
シリカとしては、特に制限はなく、例えば、湿式法又は乾式法により調製されたものを使用できる。
【0032】
本発明のゴム組成物がシリカを含有する場合、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、また、好ましくは150質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。上記範囲内であれば、氷上性能及び耐摩耗性を高次元でバランスよく改善することができる。
【0033】
また、シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、従来からタイヤの分野において用いられているものであれば特に制限はないが、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシランなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、又は任意に組み合わせて用いることができる。なかでも、シランカップリング剤の補強性効果と加工性が良好であるという点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランを用いることが好ましく、更に、加工性が特に良好であるという点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドを用いることがより好ましい。
シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは4〜12質量部である。
【0034】
(その他材料)
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で使用される配合剤、例えば、ワックス、老化防止剤、硫黄、加硫促進剤、酸化亜鉛、ステアリン酸などを必要に応じて適宜配合することができる。また、熱可塑性樹脂として、フェノール系樹脂、テルペン系樹脂などを配合してもよい。フェノール系樹脂としては、フェノール、アルキルフェノール、アルコキシフェノール、ハロゲン化フェノールなどの重合体が挙げられる。テルペン系樹脂としては、リモネン、ジペンテンのような単環式不飽和テルペン、α−ピネンのような二環式不飽和テルペンなどの重合体が挙げられる。
【0035】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0036】
本発明のスタッドレスタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【実施例】
【0037】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0038】
以下、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
NR:SIR20
BR:宇部興産(株)製のBR150B
ワックス:日本精鑞(株)製のオゾエース0355
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のN220(N
2SA:111m
2/g)
シリカ:デグッサ社製のUltrasil VN3
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
植物油1:Dow AgroSciences社製のNatreonキャノーラ油(遺伝子改変植物油、オレイン酸の含有量:70質量%、リノール酸の含有量:18質量%、リノレン酸の含有量:7質量%)
植物油2:Dow AgroSciences社製のNatreonキャノーラ油(遺伝子改変植物油、オレイン酸の含有量:85質量%、リノール酸の含有量:8質量%、リノレン酸の含有量:4質量%)
プロセス油:JX日鉱日石エネルギー(株)製のアロマオイル
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製の椿
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3−ジフェニルグアニジン)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
【0039】
<実施例及び比較例>
(株)神戸製鋼所製の1.7Lのバンバリーミキサーを用いて、表1に示した配合量の薬品のうち、硫黄及び加硫促進剤以外を充填率が58%になるように投入して、回転数80rpmの条件下で、混練機の表示温度が140℃になるまで3〜8分間混練りした。なお、シリカについては2回にわけて投入した。この混合物に対して硫黄及び加硫促進剤を加え、オープンロールを用いて、50℃の条件下で3分間混練りして、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を、下記の評価に必要なサイズに成形し、160℃で20分間プレス加硫することで、各実施例及び比較例の加硫ゴム組成物を得た。
【0040】
(氷上性能の測定)
温度制御された恒温室内に設置された氷の表面上に加硫ゴム組成物を一定荷重で押し付けて、一定速度で滑らせるときの摩擦力を検出することで氷上性能を評価した。恒温室の温度は−5℃、氷温は−2℃、荷重(設置圧力)は2kg/cm
2、速度は20km/hとした。結果は比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく、氷上性能(氷上でのグリップ性能)に優れることを示す。
【0041】
(耐摩耗性の測定)
ランボーン摩耗試験機にて、負荷荷重2.5kg、温度20℃、スリップ率40%、試験時間2分間の条件下で、各加硫ゴム組成物から得られたランボーン摩耗試験用試験片のランボーン摩耗量を測定し、比較例1のランボーン摩耗量を100として、各配合のランボーン摩耗量を指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1から、遺伝子改変植物油(植物油1、2)を配合した
参考例、実施例は、該遺伝子改変植物油の代わりに芳香族系オイル(プロセス油)を配合した比較例と比較して、氷上性能及び耐摩耗性がバランスよく改善された。また、植物油2を配合した実施例4〜6は、植物油1を配合した
参考例1〜3よりも各性能の改善効果が大きい傾向があった。