特許第6157139号(P6157139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157139
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20170626BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20170626BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20170626BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20170626BHJP
   F02D 11/10 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   F02D41/04 330G
   F02D41/04 310G
   F02P5/15 B
   F02D43/00 301B
   F02D43/00 301H
   F02D43/00 301K
   F02D45/00 312M
   F02D11/10 F
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-27389(P2013-27389)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156805(P2014-156805A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】阿比野 政則
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2010/137408(JP,A1)
【文献】 特開2012−211560(JP,A)
【文献】 特開2007−055434(JP,A)
【文献】 特開2002−047989(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0019291(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 45/00
F02P 5/145 〜 5/155
F02D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関を制御するものであって、
車両が登坂路上で停車している場合に、登坂路以外の路上で停車している場合と比較して、点火タイミングを遅角化しかつ吸気量及び燃料噴射量を増量することとし、その際、上り勾配が大きいほど、停車中の点火タイミングをより遅角化し、吸気量及び燃料噴射量をより増量する内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された内燃機関を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が登坂路上で停車した場合において、この車両の再発進の際のずり下がりを抑止し、また加速性を担保するために、登坂路の勾配が大きいほど再発進時のエンジン回転数の目標値を高く設定し、スロットルバルブを当該目標回転数に見合った開度に操作してエンジントルクを増大させる制御を実施することが考えられる(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−055434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スロットル開度の拡大と、実際に気筒に充填される吸気量の増大との間にはタイムラグが存在する。このタイムラグは、スロットル開度の拡大速度が速いほど、換言すれば車両の再発進時に要求されるエンジントルクが大きいほど顕著となる。つまり、スロットルバルブの開度操作によっては十分なエンジントルクを確保できず、登坂路上で車両のずり下がりが生じたり、車両の発進加速が遅れたりすることがあり得た。
【0005】
本発明は、上述の問題に初めて着目してなされたものであり、登坂路上で停車した車両の再発進時のレスポンスをより一層高めることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、車両に搭載された内燃機関を制御するものであって、車両が登坂路上で停車している場合に、登坂路以外の路上で停車している場合と比較して、点火タイミングを遅角化しかつ吸気量及び燃料噴射量を増量することとし、その際、上り勾配が大きいほど、停車中の点火タイミングをより遅角化し、吸気量及び燃料噴射量をより増量する内燃機関の制御装置を構成した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、登坂路上で停車した場合における再発進時のレスポンスをより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関の全体構成を示す図。
図2】点火タイミングと内燃機関の出力トルクとの関係を示す図。
図3】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0010】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0011】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0012】
本実施形態の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0013】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサから出力されるブレーキ踏量信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、車両の加速度または車両が所在する路面の勾配を検出する加速度センサから出力される加速度信号h等が入力される。
【0014】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k等を出力する。
【0015】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミングといった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、kを出力インタフェースを介して印加する。
【0016】
しかして、本実施形態のECU0は、車両が登坂路上で停車した場合において、点火タイミングを遅角化してリザーブトルクを確保するとともに、その点火タイミングの遅角化に起因するエンジントルクの低下(リザーブトルク)分を吸気量及び燃料噴射量の増量によって補う制御を実施する。
【0017】
登坂路上での停車後、運転者により再びアクセルペダルが踏み込まれる発進要求があったときには、ECU0がスロットルバルブ32の開度を拡大して気筒1に充填される吸気量を増加させ、同時にインジェクタ11からの燃料噴射量を増量して、エンジントルクを増大させようとする。
【0018】
だが、スロットルバルブ32を拡開操作しても、気筒1に充填される吸気量は即時には増加しない。両者の間にはタイムラグが存在し、そのタイムラグ中は燃料噴射量を十分に増量することができない。結果、発進要求に対してエンジントルクの増大が遅れ、登坂路上で車両がずり下がったり、車両の加速性が不足したりすることがあり得た。
【0019】
本実施形態では、点火タイミングの変更(進角/遅角)がタイムラグを伴わず瞬時に完了できることに着目し、登坂路上での停車中に予め点火タイミングを遅角しておき、後の車両の再発進に備える。そして、発進要求を受けて点火タイミングを進角することで、速やかにエンジントルクを増大させて車両のずり下がりを抑止し、なおかつ車両の加速性を高めて良好な「坂道発進」を実現するようにしている。
【0020】
図2は、ある吸気量や燃料噴射量その他の運転パラメータを仮定した場合の、点火タイミングとエンジントルクとの関係を表したものである。内燃機関が出力するトルクは、点火タイミングを圧縮上死点後のMBT(Minimum advance for Best Torque)点としたときに最大化し、点火タイミングをMBT点から遅角(または、進角)させるほど低下する。通常、点火タイミングは、気筒1においてノッキングを引き起こさない限度で最も進角したタイミングに設定する。
【0021】
本実施形態のECU0は、車両が登坂路上で停車している場合と、登坂路以外の路上で停車している場合とで、点火タイミングを変える。前者の場合の点火タイミングT2は、後者の場合の点火タイミングT1(MBT点に一致することがある)よりも遅角したタイミング、即ちMBT点からより遠いタイミングに設定する。点火タイミングT1におけるエンジントルクと、点火タイミングT2におけるエンジントルクとの差が、リザーブトルクとなる。
【0022】
無論、単に点火タイミングを遅角化するだけであると、エンジントルクが不足してエンジンストールに陥るおそれがある。よって、ECU0は、登坂路上での停車中、点火タイミングを遅角化するに伴い、スロットルバルブ32の開度を拡大する操作を行い、気筒1に充填される吸気量及び燃料噴射量を増加させて、以てリザーブトルク分のトルク低下を補う。これにより、点火タイミングをT2に設定しながらも、登坂路上での停車中のエンジントルクが、点火タイミングをT1に設定しているときと略同等の大きさに維持される。
【0023】
リザーブトルクの大きさ、即ち点火タイミングの遅角補正量(基準となるタイミングT1と遅角したタイミングT2との差分の大きさ)及びスロットルバルブ32の開度の拡大量(または、吸気量の増加量)は、停車している車両が所在している路面の勾配、内燃機関自体や駆動系のフリクションロス、またはその他の内燃機関に対する機械的負荷の大きさ等に応じて可変とすることが好ましい。
【0024】
路面の勾配が大きい、傾斜のきつい登坂路である場合には、再発進時に車両がずり下がりやすく、また加速しにくくなる。故に、ECU0は、加速度センサを介して検出される上り勾配が大きいほど、停車中の点火タイミングT2をより遅角化し、スロットルバルブ32をより大きく開く。
【0025】
同様に、内燃機関自体または駆動系のフリクションロスが大きい、具体的には内燃機関や駆動系の温度(機関の冷却水温、トルクコンバータ及び変速機の油温)が高いほど、停車中の点火タイミングT2をより遅角化し、スロットルバルブ32をより大きく開く。
【0026】
並びに、内燃機関に対する機械的負荷が大きいほど、具体的にはクランクシャフトから回転駆動力の伝達を受けて稼働する発電機の発電量(出力電圧または電流)が多いほど、あるいはエアコンディショナの冷媒圧縮用のコンプレッサの出力が大きいほど(コンプレッサの稼働している時間の割合が大きいほど、または冷媒圧力が高いほど)、停車中の点火タイミングT2をより遅角化し、スロットルバルブ32をより大きく開く。
【0027】
ECU0のメモリには予め、路面の勾配、機関の冷却水温やトルクコンバータ等の油温、発電機の発電量、エアコンディショナのON/OFFまたはコンプレッサの出力等といった外部条件と、当該条件下における点火タイミングT2及びスロットル開度(または、吸気量)との関係を規定したマップデータが格納されている。ECU0は、センシングしている外部条件のパラメータをキーとして当該マップを検索し、停車中の点火タイミングT2及びスロットル開度を知得する。
【0028】
図3に、車両の停車から再発進にかけての時期にECU0が実行する処理の手順例を示す。ECU0は、車速センサを介して検出される車速が0または0に近い閾値以下となった(ステップS1)停車時に、加速度センサを介して検出される路面の上り勾配が所定以上の登坂路である(ステップS2)場合には、点火タイミングを遅角化してT2としつつ(ステップS3)、リザーブトルク分のトルク低下を補うべくスロットルバルブ32の開度を拡開する操作を行う(ステップS4)。スロットル開度が拡大すると、気筒1に充填される吸気量が増加し、これに呼応して燃料噴射量も増量される。
【0029】
翻って、路面の上り勾配が所定未満、または路面が平坦路若しくは降坂路である場合には、点火タイミングをT2よりもMBT点に近いT1とする(ステップS5)。
【0030】
登坂路上での停車中に発進要求があったときには(ステップS6)、遅角していた点火タイミングをT1またはMBT点に近づけるように進角する(ステップS7)ことにより、内燃機関の出力トルクを急速に高める。ステップS7では、点火タイミングを即座にT1またはMBT点に遷移させてもよいし、あるいは、発進要求におけるアクセルペダルの踏込量が多いほど、またはアクセルペダルの踏込量の単位時間あたりの増加量が多いほど、点火タイミングをT2から大きく進角させるものとしてもよい。
【0031】
本実施形態では、車両に搭載された内燃機関を制御するものであって、車両が登坂路上で停車している場合に、登坂路以外の路上で停車している場合と比較して、点火タイミングをより遅角化しかつ吸気量及び燃料噴射量をより増量することを特徴とする内燃機関の制御装置0を構成した。
【0032】
本実施形態によれば、登坂路上で停車した場合における再発進時のレスポンスをより一層高めることが可能である。即ち、発進要求を受けて点火タイミングを進角させることで、エンジントルクを瞬時に増大させることができるため、登坂路上での車両のずり下がりが抑制され、車両の加速性能も向上して、スムーズな坂道発進が実現される。
【0033】
平坦路または降坂路上で停車した場合には、登坂路上で停車した場合と比較して、点火タイミングをよりMBT点に近いタイミングに設定することが許される。登坂路上での停車時と、平坦路または降坂路上での停車時とで、制御の内容を同一とせず、その一部を変更することにより、登坂路で再発進に必要十分なエンジントルクを確保しながら、平坦路または降坂路では燃料消費量を削減して、燃費性能を向上させることができる。
【0034】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、車速センサ及び加速度センサを用いて車両が登坂路上で停車したか否かを判断していたが、加速度センサが存在しない車両にあっては、車速及びアクセル開度を基に、車両が登坂路上で停車したか否かを判断することが可能である。具体的には、アクセルペダルが踏み込まれ、アクセル開度が所定以上であるにもかかわらず、車両の加速度(車速の単位時間あたりの上昇量)が所定以下であることを以て、車両が登坂路上に所在していると判断する。
【0035】
上記実施形態では、ステップS4にて、気筒1に充填される吸気量(及び、燃料噴射量)を増加させるために、電子スロットルバルブ32の開度を拡大補正するようにしていたが、アイドルスピードコントロールバルブを実装している内燃機関においては、そのアイドルスピードコントロールバルブの開度を拡大補正することとしてもよい。周知の通り、アイドルスピードコントロールバルブは、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の上流側と下流側とを連通するバイパスを開閉する流量制御バルブである。
【0036】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の制御に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
0…制御装置(ECU)
11…インジェクタ
12…点火プラグ
32…スロットルバルブ
a…車速信号
h…加速度信号
i…点火信号
j…燃料噴射信号
k…開度操作信号
図1
図2
図3