(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリートの耐久性に関して、コンクリート技術者のみならず、一般の人々からも大きな関心が寄せられている。コンクリートの耐久性と関連して、コンクリートのひび割れが問題視される。コンクリートのひび割れは、コンクリートの収縮から惹起される。このため、コンクリートの収縮を低減する研究が盛んに行われている。
【0003】
コンクリートの収縮を低減する方法としては、膨張材や収縮低減剤を適用する方法が挙げられる。しかしながら、これらの混和材や混和剤は使用量が少ないため、コンクリート中の単位使用量が多いセメントや骨材の影響を大きく受けるものであった。
したがって、混和材や混和剤を混和する前の、ベースコンクリートそのものの収縮をまず低減する方法も望まれている。
【0004】
コンクリートの構成材料の中で、骨材の使用量が最も大きい。骨材の性質によってコンクリートの収縮も大きくことなることが知られる。このため、コンクリートの収縮を小さくするような骨材の提案も待たれている。
【0005】
一方、セメントクリンカーを骨材として利用する研究も行われている。セメントクリンカーを粗骨材として利用する研究(非特許文献1〜非特許文献4)や、セメントクリンカーを細骨材として用いたモルタルの性状についても報告がある(非特許文献5)。
【0006】
しかしながら、従来のポルトランドセメントクリンカーを骨材として用いたコンクリートは、強度特性は問題ないが、収縮特性や流動性に課題が残されていた。ポルトランドセメントクリンカー骨材を用いたコンクリートの収縮は、一般の天然骨材を用いたコンクリートよりも大きく、流動性も悪くなるため、積極的にコンクリート分野へ利用できるものではなかった。
【0007】
本発明者らは、前記の課題に鑑み、本来は、天然骨材よりも収縮の大きなポルトランドセメントクリンカーをCO
2で改質した骨材を創製するとともに、流動性も改善できることを知見し、さらに、膨張材と組み合わせて配合したコンクリート組成物が、高いひび割れ抵抗性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で云うコンクリートとは、モルタルまたはコンクリートである。
また、本発明の部や%は特に規定しない限り質量基準である。
【0013】
本発明で云うポルトランドセメントクリンカーは、普通セメントクリンカー、早強セメントクリンカー、低熱セメントクリンカー、中庸熱セメントクリンカー、エコセメントクリンカーなどが挙げられる。これらのうち、収縮を小さくする観点から、普通セメントクリンカー、低熱セメントクリンカー、中庸熱セメントクリンカーを選定することが好ましい。
【0014】
いずれのクリンカーも鉱物として、3CaO・SiO
2(C
3Sと略記)や2CaO・SiO
2(C
2Sと略記)で表されるカルシウムシリケート、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(C
4AFと略記)で表されるカルシウムアルミノフェライト、3CaO・Al
2O
3(C
3Aと略記)で表されるカルシウムアルミネートを含有する。各鉱物の含有率はJIS R 5202またはJIS R 5204による化学分析の結果から、ボーグ式によって算出される。
【0015】
本発明ではポルトランドセメントクリンカーを粗骨材や細骨材として利用する。粗骨材は5〜40mmの大きさで利用できる。細骨材は5mm下の大きさで利用できる。本発明では、粗骨材や細骨材を単独でも使用できるし、併用してもよい。
【0016】
本発明では、ポルトランドセメントクリンカー骨材を炭酸化処理する。この際、CO
2含有量が2%以上となるまで炭酸化処理を行う。CO
2含有量が2%未満だと、収縮低減効果が十分でない。また、CO
2削減の観点からも望ましくない。
【0017】
本発明の骨材の製造方法は特に限定されるものではないが、通常、以下の手順で調製することが望ましい。
(1)ポルトランドセメントクリンカーを粉砕して粗骨材や細骨材を調製する。
(2)次いで、CO
2含有量が2%以上となるまで炭酸化処理を行う。
この手順が逆であると、つまり、ポルトランドセメントクリンカーの塊を先に炭酸化処理してから粉砕して粗骨材や細骨材を調製すると、十分な収縮低減効果や流動性保持効果が得られない場合がある。
【0018】
炭酸化処理を行うにあたり、ポルトランドセメントクリンカーの粗骨材や細骨材を水に浸しながら炭酸化させることが好ましい。その具体例としては、例えば、ポルトランドセメントクリンカーの粗骨材や細骨材を水槽に入れて、その中に炭酸ガスを吹き込む方法や、ポルトランドセメントクリンカーの粗骨材や細骨材を野積みして散水により湿らせ、炭酸ガスを作用させる方法などが挙げられる。
【0019】
炭酸ガスは、純度の高い炭酸ガスを用いることもできるが、セメント工場から発生する排ガスを用いることが望ましい。あるいは、製鉄所、電力業界、バイオマスボイラー、焼却場、その他の産業から排出される排ガスが適用可能である。
【0020】
炭酸ガス濃度は、特に限定されるものではないが、5体積%〜20体積%程度あれば十分である。温度も特に限定されないが、20℃〜60℃の範囲が望ましい。
【0021】
本発明の膨張材とは、特に限定されるものではなく、いかなるものでも使用可能である。
エトリンガイト系、石灰系、エトリンガイト-石灰複合系などが挙げられる。膨張材として遊離石灰や遊離マグネシアを含むものが知られるが、コンクリートの長期安定性の観点から、遊離石灰を含むものが好ましい。
遊離石灰を含むものとしては、例えば、遊離石灰−無水セッコウ系、遊離石灰−水硬性化合物系、ならびに、遊離石灰−水硬性化合物−無水セッコウ系などが挙げられる。
本発明では、膨張性能が良好なことから、遊離石灰−水硬性化合物−無水セッコウ系を用いることが好ましく、特に遊離石灰含有量が40%を超えるものが好ましい。
ここで、水硬性化合物としては、例えば、アウイン、カルシウムフェライト、カルシウムアルミノフェライト、カルシウムシリケート、カルシウムアルミネートなどの1種または2種以上が挙げられる。このような膨張材としては、市販の膨張材や静的破砕材が利用できる。
膨張材や静的破砕材は各社より市販されており、その代表例としては、例えば、電気化学工業社製「デンカCSA」、「デンカパワーCSA」、太平洋マテリアル社製「太平洋ジプカル」、住友大阪セメント社製「サクス」、太平洋マテリアル社製「エクスパン」、「ハイパーエクスパン」「N−EX」、「ブライスター」などが挙げられる。
【0022】
本発明の膨張材の粒度は、特に限定されるものではないが、通常、ブレーン比表面積値で2000〜6000cm
2/gの範囲にあり、2200〜4000cm
2/g程度のものがより好ましい。2000cm
2/g未満では長期安定性が悪くなる場合があり、6000cm
2/gを超えるようなものは膨張性が十分に得られない場合がある。
【0023】
膨張材の使用量は、特に限定されないが、コンクリート単位量で5kg/m
3〜30kg/m
3が好ましい。5kg/m
3未満ではひび割れ抑制効果が十分に得られない場合があり、30kg/m
3を超えて配合すると、強度管理が難しくなる場合がある。
【0024】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグやフライアッシュやシリカを混合した各種混合セメント、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰などを原料として製造された廃棄物利用セメント(エコセメント)、石灰石微粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合した各種フィラーセメントなどが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。
【0025】
本発明では、高炉水砕スラグ微粉末や石灰石微粉末やフライアッシュやシリカフュームなどの混和材料、凝結調整剤、急硬材、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、スチールファイバーやビニロンファイバーや炭素繊維などの繊維質物質、ベントナイトなどの粘土鉱物、およびハイドロタルサイトなどのアニオン交換体などの添加剤など、通常のセメント材料に用いられる公知の添加剤、細骨材、ならびに粗骨材などからなる群の1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することができる。
【実施例】
【0026】
「実験例1」
コンクリートにより収縮挙動とひび割れ抵抗性を調べた。下記の5〜40mmの粗骨材と5mm下の細骨材を使用し、単位セメント量310kg/m
3、膨張材20kg/m
3使用した。単位水量175kg/m
3、s/a=43%、空気量4.5±1.5%のコンクリートを調製した。このコンクリートを用いて、長さ変化率を測定し、収縮挙動を比較するとともに、ひび割れ抵抗性も検討した。
【0027】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品。
膨張材a:電気化学工業社製「デンカパワーCSAタイプS」、エトリンガイト−石灰複合型。
骨材A:ケイ石系の粗骨材と細骨材、真比重2.65。
骨材B:石灰石系の粗骨材と細骨材、真比重2.71。
骨材C:普通セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S58.1%、C
2S18.7%、C
4AF10.0%、C
3A10.2%。CO
2含有量0.3%。炭酸化処理していないもの。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕。
骨材D:普通セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S58.1%、C
2S18.7%、C
4AF10.0%、C
3A10.2%。CO
2含有量3.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材E:エコセメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S64.9%、C
2S5.0%、C
4AF12.7%、C
3A13.3%。CO
2含有量3.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材F:低熱セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S28.0%、C
2S58.2%、C
4AF1.5%、C
3A10.5%。CO
2含有量3.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材G:中庸熱セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S43.0%、C
2S39.0%、C
4AF9.0%、C
3A7.0%。CO
2含有量3.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材H:早強セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S71.2%、C
2S7.2%、C
4AF10.0%、C
3A8.7%。CO
2含有量3.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材I:中庸熱セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S43.0%、C
2S39.0%、C
4AF9.0%、C
3A7.0%。CO
2含有量2.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
骨材J:中庸熱セメントクリンカーの粗骨材と細骨材:C
3S43.0%、C
2S39.0%、C
4AF9.0%、C
3A7.0%。CO
2含有量5.0%。5〜40mmと5mm下にそれぞれ粉砕してから水に浸しながら炭酸化処理したもの。炭酸ガスとしてCO
2濃度10体積%のセメント工場の排ガスを使用。
【0028】
<測定方法>
乾燥収縮:JIS A 6202(B)に準じて材齢91日の長さ変化率を測定して評価した。
ひび割れ観察:厚さ100mmで面積50m
2のデッキスラブを造成した。デッキスラブは波型鋼板の上にコンクリートを打設して複合化させたもの。材齢5日までシート養生を行い、その後、シートを取り除いた。材齢91日においてひび割れの発生観察を行った。1m
2当たり、2本を超えてひび割れが発生した場合は×、ひび割れが1〜2本発生した場合は△、ひび割れの発生がない場合は○とした。
スランプロス:18cm±1.0cmで練り上げ、90分後のスランプを測定し、練り上げ直後との差をスランプロスと定義した。ただし、練り上げたコンクリートは静置し、90分後にスコップで練り返してから測定した。
【0029】
【表1】
【0030】
表1より、本発明のコンクリート組成物を用いると、乾燥収縮が小さく、ひび割れ抵抗性も高いことがわかる。また、スランプロスも小さいことがわかる。一方、炭酸化処理していない普通セメントクリンカーの骨材を用いると、ケイ石系や石灰石系の骨材よりも、むしろ、収縮やスランプロスが大きい。
【0031】
「実験例2」
骨材Dを使用し、膨張材の種類と使用量を表2に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記した。
【0032】
<使用材料>
膨張材b:「太平洋ハイパーエクスパン」、石灰系。
【0033】
【表2】
【0034】
表2より、本発明のコンクリート組成物を用いると、乾燥収縮が小さく、ひび割れ抵抗性も高いことがわかる。また、スランプロスも小さいことがわかる。一方、膨張材を配合しないと、デッキスラブコンクリートのようなひび割れやすい構造物ではひび割れが多く発生する。