(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
比較的大型の作業車では、静油圧式無段変速装置のチャージ油路に作動油を供給する専用のチャージポンプを備えているものが多くある。これに対し例えば比較的小型の作業車において、チャージポンプを廃止し、作業装置用の油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプの作動油が、チャージ油路にも供給されるように構成することが考えられている。
【0003】
前述のように、作業装置用の油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプの作動油がチャージ油路にも供給されるように構成した油圧回路として、特許文献1及び2に開示されているものがある。
特許文献1では、作業装置昇降用の油圧シリンダ(特許文献1の
図6の4)の第1油室(特許文献1の
図6の25a)及び第2油室(特許文献1の
図6の25b)において、油圧ポンプ(特許文献1の
図6の21)の作動油を、制御弁(特許文献1の
図6の27)により油圧シリンダの第1油室に供給すると、油圧シリンダが上昇側に作動するように構成しており、油圧シリンダの第1油室の作動油を制御弁により排出すると、油圧シリンダが下降側に作動するように構成している。
【0004】
特許文献1では、制御弁とチャージ油路とを接続する第1油路と、油圧シリンダの第2油室とチャージ油路とを接続する第2油路(特許文献1の
図6の26)とを備えている。
これにより、油圧シリンダの第1油室の作動油が制御弁から排出されることにより油圧シリンダが下降側に作動すると、油圧ポンプの作動油が制御弁から第1油路を介してチャージ油路に供給される。これと同時に、油圧ポンプの作動油が第2油路を介して油圧シリンダの第2油室に供給される。
油圧ポンプの作動油が制御弁から油圧シリンダの第1油室に供給されることにより油圧シリンダが上昇側に作動すると、油圧シリンダの第2油室の作動油が第2油路を介してチャージ油路に供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、油圧シリンダの第1油室の作動油が制御弁から排出されることにより油圧シリンダが下降側に作動する際、油圧ポンプの作動油が制御弁から第1油路を介してチャージ油路に供給されるのに加えて、第2油路を介して油圧シリンダの第2油室に供給される場合、油圧シリンダの第2油室の容量が比較的大きいので、油圧ポンプの作動油がチャージ油路よりも油圧シリンダの第2油室に多く供給されることがある。
【0007】
これにより、比較的容量の小さな油圧ポンプを備えた作業車において、前述のように油圧ポンプの作動油がチャージ油路よりも油圧シリンダの第2油室に多く供給される状態が生じると、チャージ油路に供給される作動油が不足する状態の生じることがある。
【0008】
本発明は、作業装置用の油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプの作動油がチャージ油路にも供給されるように構成した作業車の油圧回路において、油圧シリンダが一方に作動しても他方に作動しても、チャージ油路への作動油の供給に不足が生じないように構成することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[I]
(構成)
本発明の第1特徴は、作業車の油圧回路において次のように構成することにある。
走行用の静油圧式無段変速装置と、作業装置用の油圧シリンダとを備え、
前記油圧シリンダにおけるピストンを間に挟んだ一方の第1油室と他方の第2油室とにおいて、油圧ポンプの作動油を前記第1油室に供給及び前記第1油室の作動油を排出する制御弁と、前記制御弁と前記静油圧式無段変速装置のチャージ油路とを接続する第1油路と、前記第2油室と前記チャージ油路とを接続する第2油路と
を備え、
作動油のタンクと前記第2油路の途中部分とに亘って第3油路を接続して、前記第3油路が前記第2油路を介して前記第2油室に接続されるように構成し、
前記第2油路における前記第3油路の接続部分と前記チャージ油路との間の部分に、前記チャージ油路への作動油の流れを許容し且つ前記第2油室への作動油の流れを止める第1逆止弁
を備え、
前記第2油室への作動油の流れを許容し且つ前記タンクへの作動油の流れを止める第2逆止弁を前記第3油路に備えて、
前記第1油室の作動油が前記制御弁から排出されることにより前記油圧シリンダが一方に作動すると、前記油圧ポンプの作動油が前記制御弁から前記第1油路を介して前記チャージ油路に供給され、前記タンクの作動油が前記第3油路を介して前記第2油室に供給されるように構成し、
前記油圧ポンプの作動油が前記制御弁から前記第1油室に供給されることにより前記油圧シリンダが他方に作動すると、前記第2油室の作動油が前記第2油路を介して前記チャージ油路に供給されるように構成している。
【0010】
(作用及び発明の効果)
[I]−1
本発明の第1特徴によれば、例えば
図2に示すように、油圧シリンダ24の第1油室24aの作動油が制御弁25から排出されることにより油圧シリンダ24が一方に作動すると、油圧ポンプ20の作動油が制御弁25から第1油路51を介して、静油圧式無段変速装置18のチャージ油路48に供給される。
【0011】
この場合、油圧ポンプ20の作動油が制御弁25から第1油路51を介して第2油路52(油圧シリンダ24の第2油室24b)に供給されようとしても、第2油路52に備えられた第1逆止弁54により作動油が止められるので、静油圧式無段変速装置18のチャージ油路48に供給される作動油が不足するという状態は生じ難い。
前述のように、作動油が第1逆止弁54により止められて油圧シリンダ24の第2油室24bに供給されなくても、タンク17の作動油が第3油路53(第2逆止弁55)を介して、油圧シリンダ24の第2油室24bに供給される。
【0012】
[I]−2
本発明の第1特徴によれば、例えば
図2に示すように、油圧ポンプ20の作動油が制御弁25から油圧シリンダ24の第1油室24aに供給されることにより、油圧シリンダ24が他方に作動すると、油圧シリンダ24の第2油室24bの作動油が第2油路52を介して静油圧式無段変速装置18のチャージ油路48に供給される。
この場合、油圧シリンダ24の第2油室24bの作動油が第3油路53を介してタンク17に戻されようとしても、第3油路53に備えられた第2逆止弁55により作動油が止められるので、静油圧式無段変速装置18のチャージ油路48に供給される作動油が不足するという状態は生じ難い。
【0013】
【0014】
本発明の第1特徴によると、前項[I]−1に記載のように、タンクの作動油が第3油路を介して油圧シリンダの第2油室に供給される場合、タンクの作動油が第3油路から第2油路を介して油圧シリンダの第2油室に供給される。
これにより、第2油路の一部を第3油路に兼用することができ、第3油路をタンクと油圧シリンダの第2油室とに亘って直接に接続する必要が無くなって、構造の簡素化の面で有利なものとなった。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1]
図1に示すように、右及び左の前輪1、右及び左の後輪2で支持された機体の前部にエンジン3が支持されて、機体の後部に上下揺動自在なリンク機構4が備えられ、リンク機構4を介して4条植型式の苗植付装置5(作業装置に相当)が昇降自在に支持されて、作業車の一例である乗用型田植機が構成されている。
【0017】
次に、苗植付装置5について説明する。
図1に示すように、苗植付装置5は2個の伝動ケース6、伝動ケース6の後部に回転駆動自在に支持された右及び左の回転ケース7、回転ケース7の両端に備えられた一対の植付アーム8、接地フロート9及び苗のせ台10等を備えて構成されている。これにより、苗のせ台10が左右に往復横送り駆動されるのに伴って、回転ケース7が回転駆動され、苗のせ台10の下部から植付アーム8が交互に苗を取り出して田面に植え付ける。
【0018】
次に、施肥装置について説明する。
図1に示すように、運転座席11の後側に、粉粒状の肥料を貯留するホッパー12及び4個の繰り出し部13が備えられており、ホッパー12の横側部にブロア14が備えられている。接地フロート9に4個の作溝器15が固定されて、繰り出し部13と作溝器15とに亘って4本のホース16が接続されている。以上のように、ホッパー12、繰り出し部13、ブロア14、作溝器15及びホース16等により、施肥装置が構成されている。
これにより、ホッパー12に貯留された肥料が繰り出し部13により繰り出されて、ブロア14の風によりホース16から作溝器15に供給され、作溝器15により田面に形成された溝に供給される。
【0019】
[2]
次に、各部への伝動系について説明する。
図1に示すように、ミッション
ケース17(タンクに相当)の左前部に静油圧式無段変速装置18が連結されており、エンジン3の動力が伝動ベルト(図示せず)を介して静油圧式無段変速装置18に伝達されている。
【0020】
図1に示すように、エンジン3から静油圧式無段変速装置18に伝達された動力は、静油圧式無段変速装置18からミッションケース17の内部のギヤ型式の副変速装置(図示せず)、及び株間変速装置(図示せず)に伝達されて、副変速装置の動力が前輪1及び後輪2に伝達されるのであり、株間変速装置の動力が植付クラッチ(図示せず)及びPTO軸19を介して苗植付装置5に伝達される。
【0021】
[3]
次に、油圧シリンダ24に関する油圧回路について説明する。
図2に示すように、エンジン3により駆動される油圧ポンプ20が備えられて、ミッションケース17に貯留された作動油がフィルタ21を介して油圧ポンプ20に供給されており、油圧ポンプ20の作動油が油路23を介して前輪1のパワーステアリング機構22に供給される。
【0022】
図1及び
図2に示すように、リンク機構4に油圧シリンダ24が備えられており、油圧シリンダ24のシリンダ24cがリンク機構4の機体側に接続され、油圧シリンダ24のピストンロッド24dがリンク機構4の苗植付装置5側に接続されている。油圧シリンダ24のシリンダ24cにおいて、ピストン24eを間に挟んでピストンロッド24d側の第1油室24a、ピストンロッド24dとは反対側の第2油室24bが設定されている。
【0023】
図2に示すように、制御弁25が備えられて、パワーステアリング機構22からの作動油が油路26を介して制御弁25に供給されており、油圧シリンダ24の第1油室24aと制御弁25とに亘って油路27が接続されている。
これにより、制御弁25から油圧シリンダ24の第1油室24aに作動油が供給されると、油圧シリンダ24が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。油圧シリンダ24の第1油室24aの作動油が制御弁25から排出されると、苗植付装置5の重量により油圧シリンダ24が伸長作動して苗植付装置5が下降する。
【0024】
[4]
次に、制御弁25について説明する。
図2に示すように、制御弁25は、パイロット操作式の主スプール28、主スプール28を操作する電磁操作式のソレノイド弁29,30、パイロット操作式の逆止弁31、締切弁32、アンロード弁33,34及びリリーフ弁35等を備えて、一つのユニット状に構成されている。
【0025】
図2に示すように、油路26と主スプール28とに亘って内部油路36が接続されて、内部油路36にフィルタ37が備えられており、油路27と主スプール28とに亘って内部油路38が接続されて、内部油路38に逆止弁31及び締切弁32が備えられている。逆止弁31から内部油路39が延出されており、内部油路36,39に亘ってアンロード弁33及びリリーフ弁35が接続されている。
【0026】
図2に示すように、ソレノイド弁29,30と内部油路36とに亘ってパイロット油路40が接続されて、パイロット油路40にアンロード弁34が備えられており、内部油路36からソレノイド弁29,30に供給されるパイロット圧が、アンロード弁34により保障されている。逆止弁31を開閉操作するパイロット油路41が、主スプール28と逆止弁31とに亘って接続されており、内部油路38及びパイロット油路41と、アンロード弁33とに亘って、シャトル弁42及びパイロット油路43が接続されている。
【0027】
図2に示す状態は、主スプール28が中立位置28Nに操作された状態である。この状態において、逆止弁31が閉位置に操作され、アンロード弁33が開位置に操作されて、油圧シリンダ
24が停止しており、油路26の作動油が内部油路36及びアンロード弁33を介して内部油路39に供給される。
【0028】
図2に示す状態から、ソレノイド弁29のパイロット圧により主スプール28が上昇位置28Uに操作されると、油路26の作動油が、内部油路36、主スプール28(上昇位置28U)、内部油路38(逆止弁31及び締切弁32)、油路27を介して油圧シリンダ
24の第1油室24aに供給されて、油圧シリンダ24が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。これと同時に、内部油路38からシャトル弁42及びパイロット油路43を介して、アンロード弁33にパイロット圧が供給されて、アンロード弁33が閉位置に操作される。
【0029】
図2に示す状態から、ソレノイド弁30のパイロット圧により主スプール28が下降位置28Dに操作されると、油路26の作動油が、内部油路36、主スプール28(下降位置28D)、パイロット油路41、逆止弁31を介して内部油路39に供給される。油圧シリンダ24の第1油室24aの作動油が、油路27、内部油路38(逆止弁31及び締切弁32)、主スプール28(下降位置28D)を介してミッションケース17に排出され、油圧シリンダ24が伸長作動して苗植付装置5が下降する。これと同時に、パイロット油路41からシャトル弁42及びパイロット油路43を介して、アンロード弁33にパイロット圧が供給されて、アンロード弁33が閉位置に操作される。
【0030】
[5]
次に、静油圧式無段変速装置18のチャージ油路48に関する構造について説明する。
図2に示すように、静油圧式無段変速装置18は、エンジン3により駆動される可変容量型の油圧ポンプ44、油圧モータ45を備え、油圧ポンプ44と油圧モータ45とを一対の油路46,47により接続して構成されており、油圧ポンプ44の斜板44aの操作により前進及び後進に無段階に変速自在に構成されている。
【0031】
図2に示すように、油路46,47に亘ってチャージ油路48が接続されており、制御弁25の内部油路39とチャージ油路48とに亘って第1油路51が接続されており、第1油路51にリリーフ弁49が接続されている。油圧シリンダ24の第2油室2bとチャージ油路48とに亘って第2油路52が接続されている。ミッションケース17と第2油路52の途中部分とに亘って、第3油路53が接続されており、第3油路53が第2油路52を介して油圧シリンダ24の第2油室24bに接続されている。
【0032】
図2に示すように、チャージ油路48への作動油の流れを許容し且つ油圧シリンダ24の第2油室24bへの作動油の流れを止める第1逆止弁54が、第2油路52における第3油路53の接続部分とチャージ油路48との間の部分に備えられている。
油圧シリンダ24の第2油室24bへの作動油の流れを許容し且つミッションケース17への作動油の流れを止める第2逆止弁55が、第3油路53に備えられており、第3油路53における第2逆止弁55とミッションケース17との間の部分に、フィルタ50が備えられている。
【0033】
[6]
次に、チャージ油路48への作動油の流れについて説明する。
前項[4]及び
図2に示すように、主スプール28が中立位置28Nに操作された状態であると、逆止弁31が閉位置に操作され、アンロード弁33が開位置に操作されて、油圧シリンダ
24が停止しており、油路26の作動油が内部油路36及びアンロード弁33を介して内部油路39に供給される。
これにより、内部油路39の作動油が第1油路51を介してチャージ油路48に供給される。内部油路39の作動油は第1逆止弁54により止められて、第2油路52から油圧シリンダ24の第2油室24bに供給されない。
【0034】
前項[4]に記載のように、
図2に示す状態から主スプール28が下降位置28Dに操作されると、油路26の作動油が、内部油路36、主スプール28(下降位置28D)、パイロット油路41、逆止弁31を介して内部油路39に供給される。これと同時に、パイロット油路41からシャトル弁42及びパイロット油路43を介して、アンロード弁33にパイロット圧が供給されて、アンロード弁33が閉位置に操作される。
これにより、内部油路39の作動油が第1油路51を介してチャージ油路48に供給される。内部油路39の作動油は第1逆止弁54により止められて、第2油路52から油圧シリンダ24の第2油室24bに供給されない。
【0035】
前述のように
図2に示す状態から主スプール28が下降位置28Dに操作されると、油圧シリンダ24の第1油室24aの作動油が、油路27、内部油路38(逆止弁31及び締切弁32)、主スプール28(下降位置28D)を介してミッションケース17に排出され、油圧シリンダ24が伸長作動して苗植付装置5が下降する(前項[4]参照)。
【0036】
この場合、油圧シリンダ24が伸長作動することにより、ミッションケース17の作動油が、第3油路53(第2逆止弁55及びフィルタ50)を介して、油圧シリンダ24の第2油室24bに供給される。第2油路52において第1逆止弁54からチャージ油路48側の部分が、第3油路53よりも高圧であるので、第1逆止弁54が開位置に操作されることはない。
【0037】
前項[4]に記載のように、
図2に示す状態から主スプール28が上昇位置28Uに操作されると、油路26の作動油が、内部油路36、主スプール28(上昇位置28U)、内部油路38(逆止弁31及び締切弁32)、油路27を介して油圧シリンダ
24の第1油室24aに供給されて、油圧シリンダ24が収縮作動して苗植付装置5が上昇する。これと同時に、内部油路38からシャトル弁42及びパイロット油路43を介して、アンロード弁33にパイロット圧が供給されて、アンロード弁33が閉位置に操作される。
【0038】
前述のように主スプール28が上昇位置28Uに操作されて油圧シリンダ24が収縮作動すると、油圧シリンダ24の第2油室24bの作動油が押し出されて、第2油路52(第1逆止弁54)を介してチャージ油路48に供給される。この場合、油圧シリンダ24の第2油室24bの作動油は、第2逆止弁55により止められて、ミッションケース17に戻ることはない。
【0040】
[発明の実施
の別形態]
前述の[発明を実施するための形
態]において、油圧シリンダ24の
ピストンロッド24dが存在する側の油室を第2油室とし、油圧シリンダ24の
ピストンロッド24dが存在しない側の油室を第1油室としてもよい。