【文献】
J. Org. Chem.,1979年,44(8),pp. 1221-1232
【文献】
Polym Int,2009年,58,pp. 976-988
【文献】
Inorg. Chem.,2006年,45(11),pp. 4497-4507
【文献】
Bull. Chem. Soc. Japan,1973年,46,pp. 1178-1182
【文献】
Dalton Trans,2009年,pp. 1516-1521
【文献】
Eur. J. Inorg. Chem.,2003年,pp. 339-347
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機亜鉛試薬を作製するための方法であって、(A)少なくとも1つの有機マグネシウム錯体または有機亜鉛錯体を、(B)少なくとも1つの配位化合物と、任意に、亜鉛イオンおよび/またはリチウムイオンおよび/またはハロゲン化物イオンと組み合わせて反応させる工程を含み、前記ハロゲン化物イオンは、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択され、前記有機亜鉛錯体は、金属配位錯体結合によって有機化合物の炭素原子と直接結合されるまたはそれで配位される少なくとも1個の亜鉛原子を有し、前記有機化合物は、アリール基、ヘテロアリール基、またはベンジル基を含み、前記反応は、反応物(A)が少なくとも1つの有機マグネシウム錯体を含むとき、少なくとも1つの配位化合物と錯化した亜鉛の存在下で行われ、
前記配位化合物が、式(I)
R1Tq (I)
(式中、
それぞれのTが、−CO2-を表し、
R1が、4〜8個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
「q」が、正の整数を表す。)によって表される、方法。
前記有機マグネシウム錯体または有機亜鉛錯体が、酸化的付加、ハロゲン−マグネシウム交換、またはC−H活性化によって作製される、請求項1または2に記載の方法。
前記有機マグネシウム錯体または有機亜鉛錯体が、ニトリル、ニトロ、エステル、ケトン、保護アルコール、保護アルデヒド、保護アミン、および保護アミドから選択される1つ以上の官能基を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
少なくとも1つの有機亜鉛錯体を少なくとも1つの配位化合物と、任意に、リチウムイオンと組み合わせて反応させる工程を含み、前記配位化合物が1つ以上のカルボキシレート基を含む、請求項1、4、および5のいずれか一項に記載の方法。
(A)少なくとも1つの有機マグネシウム錯体または有機亜鉛錯体を、(B)少なくとも1つの配位化合物と反応させる工程が、リチウムイオンおよびハロゲン化物イオンと組み合わせて実施され、
前記ハロゲン化物が、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
(A)少なくとも1つの有機マグネシウム錯体または有機亜鉛錯体を、(B)少なくとも1つの配位化合物と反応させる工程が、亜鉛イオンと組み合わせて実施される、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
前記求核的脱離基で置換された有機化合物の反応物が、前記反応の生成物中に保持される1つ以上のアルデヒドおよび/またはケトン置換基をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される語句および略語の定義を以下に提供する。
【0019】
「AcOEt」は、「酢酸エチル」を意味する。
【0020】
「Boc」は、「tert−ブトキシカルボニル」を意味する。
【0021】
本明細書で使用される「キレートポリアミン」とは、亜鉛イオンと配位することができる2つ以上の第3級アミン基を有する有機部分を意味し、1個の窒素原子につき一対の電子を供与することによって、亜鉛イオンと配位化合物または錯体を形成する。キレートポリアミンは、二座、三座、または四座等の多座である。
【0022】
本明細書で使用される「配位化合物」は、少なくとも1つの配位子によって亜鉛イオンと錯体を形成する化合物または配位化合物を意味する。配位化合物は、好ましくはルイス塩基であり、ここで電子供与原子は、好ましくは、N、P、O、およびSから選択される。配位化合物は、単座、または二座、三座、四座等の多座であり得る。配位化合物が1つ以上のアルコラート基および/または第3級アミン基を含むとき、一実施形態では、配位化合物は、好ましくは、二座配位子等の多座配位子、例えば1,2−配位子によって亜鉛イオンとキレート錯体を形成し得る。第3級アミンを含む好ましい配位化合物には、ポリアミンが含まれ、これには、ジアミンが含まれ、より好ましくは、TMEDA(以下の定義を参照)等の脂肪族ジアミンが含まれる。
【0023】
「DMSO」とは、配位化合物として使用され得る「ジメチルスルホキシド」を指す。
【0024】
「HMDS」とは、「ヘキサメチルジシラジド」を指す。
【0025】
「iへキサン」とは、液体クロマトグラフィーにおいて使用されるヘキサン異性体の混合物を指す。
【0026】
「iPr」とは、イソプロピル基を指す。
【0028】
「Me−THF」とは、溶媒として使用され得る「2−メチルテトラヒドロフラン」を指す。
【0029】
「NMP」とは、溶媒として使用され得る「N−メチル−2−ピロリドン」を指す。
【0030】
「OPiv」とは、ピバレートカルボキシレート基によって、亜鉛またはマグネシウムイオン等の金属イオンで配位される「ピバレート」を指す。
【0031】
「有機マグネシウム錯体」は、金属配位錯体結合によって、有機化合物の炭素原子に直接結合されるまたはそれで配位されるマグネシウム原子を有する有機化合物を意味する。この語句には、配位化合物の任意の存在、好ましくは、ルイス塩基、ならびにLiイオン、Mgイオン、およびハロゲン化物イオン等の任意のイオンが含まれる。
【0032】
「有機亜鉛錯体」および「有機亜鉛化合物」とは、金属配位錯体結合によって有機化合物の炭素原子と直接結合されるまたはそれで配位される少なくとも1個の亜鉛原子(Zn<−C)を有する有機化合物を指す。「有機亜鉛化合物」という語句は、単に有機亜鉛部分を指し、陽イオンまたは中性であり得、一方、「有機亜鉛錯体」という語句は、Liイオン、Mgイオン、およびハロゲン化物イオン等のイオンの任意の存在、ならびに配位化合物を含む。「有機亜鉛錯体」という語句は、好ましくは、有機亜鉛試薬の配位化合物を含まない。
【0033】
「PEPPSI(商標)−iPr」とは、York UniversityでMike Organ教授が協働者のDr.Chris O'BrienおよびDr. Eric Kantchevと共に開発した式[1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン](3−クロロピリジル)パラジウム(II)ジクロリドを有し、以下の化学構造を有する「
ピリジン−
促進
前触媒
調製
安定化および
開始」のパラジウムN−複素環−カルベン(NHC)触媒系を指す(Organ,M.G.,Rational catalyst design and its application in sp
3−sp
3 couplings,presented at the 230th National Meeting of the American Chemical Society,Washington,DC,2005;Abstract 308):
この触媒は、Sigma Aldrichから入手することができる。
【0034】
「ピバレート」とは、「2,2−ジメチルプロパネート」または「トリメチル酢酸」としても知られている「トリメチルアセテート」を指す。
【0035】
「Pr」とは、「プロピル」基を指す。
【0036】
「S−Phos」とは、2−ジクロロヘキシルホスフィノ−2',6'−ジメトキシビフェニルを指す。
【0037】
本明細書に使用される「tert−ブチレート」とは、2−メチル−2プロパノレート(tert−ブタノレートおよびtert−ブトキシドとしても知られている)を指す。
【0038】
「THF」とは、溶媒として使用され得る「テトラヒドロフラン」という溶媒を指す。
【0039】
「TIPS」とは、アルコールを保護するために保護基として使用され得る「トリイソプロピルシリル」を指す。
【0040】
「TMEDA」とは、テトラメチルエチレンジアミン、即ち、(CH
3)
2NCH
2CH
2N(CH
3)
2、配位性溶媒としても知られている「N,N,N',N'−テトラメチルエタン−1,2−ジアミン」を指す。
【0041】
「TMP」とは、配位アミドの「2,2,6,6,−テトラメチルピペリジル」を指す。
【0042】
亜鉛アルコラート錯体とは、1つ以上の亜鉛イオンが、アルコラート(O
−)基によって1つ以上のアルコラート基を有する1つ以上の有機化合物で錯化されるか、または配位されるものを意味する。
【0043】
亜鉛カルボキシレート錯体とは、1つ以上の亜鉛イオンが、カルボキシレート基によって1つ以上のカルボキシレート基を有する1つ以上の有機化合物で錯化されるか、または配位されるものを意味する。
【0044】
亜鉛第3級アミン錯体とは、1つ以上の亜鉛イオンが、1個以上のアミン窒素原子の非結合電子対によって1つ以上の第3級アミン基を有する1つ以上の有機化合物で錯化されるか、または配位されるものを意味する。
【0045】
亜鉛配位錯体
本発明に従って有機亜鉛試薬を作製するための方法では、有機マグネシウム錯体は、亜鉛配位錯体と反応し得る。配位錯体は、少なくとも1つの亜鉛イオンならびに1つ以上のカルボキシレート基および/またはアルコラート基および/または第3級アミン基を含む少なくとも1つの配位化合物を含む。配位化合物は、好ましくは式(I)によって表され、
R
1T
q (I)
式中、
それぞれのTは独立して、−CO
2−、−O
−、または−NR'R"を表し、それぞれのR'およびR"は独立して、1〜6個の炭素原子を有するヒドロカルビル基を表し、ヒドロカルビル基は、好ましくは、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、sec−ブチル、およびtert−ブチル、より好ましくはメチルから選択され、これは任意に、O、N、またはS原子等の1個以上のヘテロ原子をさらに含んでもよく、当該ヘテロ原子は、好ましくは、プロトン化されず、R'およびR"が一緒に連結されて、−NR'R"の窒素原子と置換もしくは非置換の5もしくは6員の複素環式環を形成してもよく、
R
1は、1個以上の炭素原子、および任意に1個以上のヘテロ原子を含む有機残基を表し、有機残基は、好ましくはプロトン化したO、N、またはSを含まず、好ましくはTを含まず、
「q」は、正の整数を表し、この整数は、好ましくは少なくとも1であり、いくつかの実施形態では、より好ましくは少なくとも2、6以下、より好ましくは4以下、さらにより好ましくは3以下、さらにより好ましくは2以下、いくつかの実施形態では、なおより好ましくは、qは1に等しい。Tが−O
−または−NR'R"であるとき、「q」は、いくつかの実施形態では、好ましくは少なくとも2である。
【0046】
qが2以上であるとき、共有結合によってそれぞれのTを式(I)のすぐ隣接するTに連結するR
1の原子の最小数は、好ましくは少なくとも1、より好ましくは少なくとも2であり、共有結合によってTを式(I)のすぐ隣接するTに連結するR
1の原子の最大数は、好ましくは6、より好ましくは4、さらにより好ましくは3、およびさらにより好ましくは2である。介在する連結原子は、好ましくは炭素原子であり、参照される共有結合は、好ましくは飽和共有結合である。
【0047】
R
1は、好ましくは1つ以上の環状基および/または1つ以上の脂肪族基を含む。
【0048】
環状基は、シクロアルキル基およびアリール基等の炭素環式基、ヘテロアリール基等の複素環式基、ならびに部分的および完全飽和した複素環式化合物を含み得る。好ましい環状基は、少なくとも4個、より好ましくは少なくとも5個、さらにより好ましくは少なくとも6個、20個以下、より好ましくは15個以下、さらにより好ましくは10個以下の炭素原子を有し、任意に、1個から好ましくは環状基中の炭素原子数に等しいヘテロ原子数以下の炭素原子を有する。ヘテロ原子は、好ましくはB、O、N、S、Se、P、およびSiから選択され、より好ましくはO、N、およびSから選択される。環状基は、単環式または多環式環系を含み得る。多環式環系は、縮合環系、架橋環系、および一般に1個の原子を有する環を含み得る。
【0049】
脂肪族基は、好ましくは少なくとも2個、より好ましくは少なくとも3個、さらにより好ましくは少なくとも4個、20個以下、より好ましくは12個以下、さらにより好ましくは8個以下、なおより好ましくは6個以下の炭素原子を含む。脂肪族基は、直鎖または分岐鎖であり得、脂肪族基中の原子総数の半分以下、より好ましくは1/4以下を示す、1個以上のヘテロ原子を含み得、1つ以上の不飽和結合を含み得る。ヘテロ原子は、好ましくはB、O、N、S、Se、P、およびSiから選択され、より好ましくはO、N、およびSから選択される。不飽和結合は、好ましくは二重結合および三重結合である。好ましい脂肪族基には、アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基が含まれる。脂肪族基は、好ましくは飽和され得る(即ち、不飽和結合を含有しない)。
【0050】
置換基は、好ましくは前述の好ましいR
1環状基および脂肪族基、F、および非プロトン化官能基の中から選択される。
【0051】
好ましい実施形態では、R
1は、少なくとも4個、好ましくは8個以下の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキル基を表す。特定の好ましい実施形態では、R
1は、−C(CH
3)
3(即ち、tert−ブチル)であり、Tは、好ましくはカルボキシレートもしくはアルコラートであり、そして/またはqは、好ましくは1であり、したがって、式(I)の陰イオンは、好ましくはピバレートおよび/または2−メチル−2プロパノレート(tert−ブタノレート、tert−ブチレート、およびtert−ブトキシドとしても知られている)および/または乳酸塩である。
【0052】
したがって、好ましい亜鉛配位錯体は、一般的には、式(IA)によって表され得、
R
1T
*Zn
*TR
1 (IA)
式中、TおよびR
1は、式(I)と同様に定義される。
【0053】
有機マグネシウム錯体との反応を促進させるために、亜鉛配位錯体は、好ましくはハロゲン化リチウムを含み、ハロゲン化物は、好ましくはCl、Br、またはIであり、好ましくはClである。ハロゲン化リチウム塩錯体は、THF中のメチルリチウムを用いて式(I)によって示された上述のカルボキシレートまたはアルコラートに対応する酸またはアルコールを脱プロトン化し、次いで、ハロゲン化亜鉛を用いて脱プロトン化した酸またはアルコールを金属交換反応させることによって得ることができ、このハロゲン化物は、ハロゲン化リチウムには所望のハロゲン化物(例えば、LiCl塩錯体が所望される場合、Cl)である。この反応は、以下の実施例において、亜鉛ピバレート錯体2aおよび亜鉛tert−ブチレート錯体2bの調製の説明においてより詳細に説明される。
【0054】
得られる好ましいリチウム塩錯体は、式(IB)によって表され得る単位を含み、
Zn(T
qR
1)
k (IB)
式中、T、R
1、およびqは、式(I)におけるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含み、kは、Znで配位されたT
qR
1の単位数に対応する正の整数を表す。下付きのkは、好ましくは1〜3、より好ましくは2である。好ましい実施形態では、qは1であり、kは、2に等しい。式(IB)の単位は、T群の性質および数に応じて中性であっても、負電荷を有してもよい。式(IB)の電荷単位は、リチウム塩錯体組成物において陽イオンによって補填され得る。
【0055】
リチウム錯体は、好ましくはLiXを含み、XはCl、Br、またはIを表す。
【0056】
リチウム配位錯体
本発明に従って有機亜鉛試薬を作製するための方法では、有機亜鉛錯体は、リチウム配位錯体と反応し得る。リチウム配位錯体は、少なくとも1つのリチウムイオンならびに1つ以上のカルボキシレート基および/またはアルコラート基および/または第3級アミン基を含む少なくとも1つの配位化合物を含む。配位化合物は、好ましくは式R
1Tによって表され、R
1およびTは、式(I)について上で定義されるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含む。
【0057】
したがって、好ましいリチウム配位化合物は、一般的には、式(IC)によって表され得、
Li
*(T
qR
1)
k (IC)
式中、T、R
1、q、およびkは、式(I)と同様に定義され、qおよびkはそれぞれ、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは整数1または2に等しく、q+kは、好ましくは1または2に等しい。R
1T
qは、好ましくはカルボキシレートまたはアルコラートであり、より好ましくはカルボキシレートであり、さらにより好ましくは乳酸塩またはピバレートであり、さらにより好ましくはピバレートである。式(IC)の単位は、T基の性質および数に応じて中性であっても、正電荷を有してもよい。式(IC)の電荷単位は、リチウム塩錯体組成物において陽イオンまたは陰イオンによって補填され得る。
【0058】
有機亜鉛錯体は、下述される有機マグネシウム錯体中に存在し得る官能基等の1つ以上の官能基を含み得る。特に、官能基は、ニトリル、ニトロ、エステル、ケトン、保護アルコール、保護アルデヒド、保護アミン、および保護アミド等の基を有し得る。
【0059】
有機マグネシウム錯体
有機マグネシウム錯体は、Mgでメタル化した有機化合物である。メタル化は、(1)酸化的付加によって少なくとも1つの脱離基を有する有機化合物をマグネシウム金属と反応させて、マグネシウム原子を挿入することと、(2)ハロゲン−マグネシウム交換、または(3)C−H活性化によって行われ得る。
【0060】
酸化的付加は、以下のスキームに従って行われ得、
R
2Z+Mg
0→R
2MgZ (IIA)、
ハロゲン−マグネシウム交換は、以下のスキームに従って行われ得、
R
2Z+R
GMgX・LiX→R
2MgX・LiX+R
G−Z (IIB)、および
C−H活性化は、以下のスキームに従って行われ得、
R
2H+R
HMgX→R
2MgX+R
H−H (IIC)
式中、LiXが存在してもよいし、R
HMgXのMgXで配位されてもよく、式中、R
2は、有機部分であり、R
Gは、好ましくは1〜12個の炭素原子を有する、より好ましくは8個以下の炭素原子を有するヒドロカルビル基(例えばアルキル基、アリール基、もしくはアラルキル基等)を表し、これらは任意に、1つ以上、好ましくは4つ以下、より好ましくは2つ以下のヒドロカルビル基(例えば、1〜12個の炭素原子を有し、より好ましくは1〜8個の炭素原子を有するアルキル基、アリール基、もしくはアラルキル基)と置換され得、R
Hは、アミド部分を表し、それぞれのXは独立して、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン化物を表し、Zは脱離基である。好ましいヒドロカルビル基R
Gには、置換基を含む炭素原子の総数が3〜12であり、より好ましくは3〜8であり、例えば、iPr、sec−ブチル、ビス−sec−ブチル、ビス−iPr等のヒドロカルビル基が含まれる。好ましいアミド部分R
Hには、ジイソプロピルアミド、tmp、およびHMDSが含まれる。好ましい脱離基Zは、Cl、Br、I、トリフラート、メシラート、ノナフラート、トシレート、スルホン酸塩、および/またはリン酸塩であり、マグネシウム原子がハロゲン−マグネシウム交換によって挿入されるとき、好ましい脱離基には、ジアリールスルホキシド類等の立体障害のあるスルホキシド類が含まれる。
【0061】
R
2によって表される好ましい有機部分はそれぞれ、上に開示される式(I)中のR
1のそれぞれおよび全ての好ましい有機化合物を含む。これらの化合物の中では、アリール、シクロアルキル等の環状化合物、ヘテロアリール等の複素環式化合物、ならびにアルケニル等の不飽和脂肪族化合物、例えばアリル(基)およびアルキニル化合物等が好ましい。例には、置換もしくは非置換のベンジル、C
4〜C
24アリール、またはB、O、N、S、Se、P、およびSiからなる群から選択される1個以上のヘテロ原子を含有するC
3〜C
24ヘテロアリール、置換もしくは非置換の直鎖もしくは分岐鎖のC
2〜C
20アルケニルもしくはC
2〜C
20アルキニル、または置換もしくは非置換のC
3〜C
20シクロアルキルが挙げられる。
【0062】
前述のものに加えて、有機部分は、官能基置換基を有し得る。官能基置換基の例には、上の反応物に関与するものよりも求核が少ない、エーテル、アミン、アゾ、トリアゼン、チオエーテル、ハロゲン、スルホン、スルホキシド、オレフィン、アルキン、アリル、シラン、シリルエーテル、ケトン、アリルエステル等のエステル、アミド、炭酸塩、カルバメート、アルデヒド、ニトリル、イミン、アセテート、ニトロ、ニトロソ、オキシラン、ジチオラン、リン酸塩、ホスホン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、ボロン酸塩、およびヒドロキシが挙げられる。
【0063】
官能基は、好ましくは、プロトン化したO、N、またはS原子を含まない。好ましい官能基置換基は、ニトリル、ニトロ、エステル、保護アルコール、保護アルデヒド、保護アミン、および保護アミドである。エステル基は、好ましくは式−C(O)OR
3によって表され、式中、R
3は、有機部分であり、これは上の式(I)のR
1について示されるそれぞれおよび全ての選択肢から選択され得る。保護アルコール、保護アルデヒド、保護アミン、および保護アミドは、酸素原子、炭素原子、または窒素原子に結合されるそれぞれのプロトンは、このプロトンよりも反応性が低いにもかかわらず、それぞれの基で反応を行うことができるように除去することが可能である、アルコール、アルデヒド、アミン、およびアミド基である。これらの官能基に対する保護基は、最新技術分野において公知である。好適な保護基の例は、T.W.Greene and P.G.M.Wuts,PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS,3
rd edition(Wiley,1999)において開示されており、これはその関連した開示のために参照によって本明細書に組み込まれる。一例は、アルコールおよびフェノールOH基を保護するためのTIPSである。
【0064】
したがって、有機マグネシウム錯体は、上述の官能基等の官能基を含み得る。
【0065】
有機マグネシウム錯体の合成は、好ましくは、LiXの存在下で行われ、Xは、Cl、Br、およびIから選択されるハロゲン化物を表す。Xは、好ましくはClである。LiXは、有機マグネシウム錯体の合成において、特に、有機マグネシウム錯体の合成が、有機亜鉛錯体を合成するための好ましい様式である、ワンポット法で有機亜鉛錯体の合成と同時に行われるとき、加速効果を有する。有機亜鉛錯体を合成するための特に好ましい方法では、LiXは、ワンステップで有機亜鉛錯体の合成を実行するために、上述の亜鉛カルボキシレートおよび/または亜鉛アルコラートと組み合わせて提供される。
【0066】
代替として、有機亜鉛試薬を作製するためのワンポット法は、少なくとも1つの脱離基を有する有機化合物を、任意にハロゲン化リチウムの存在下で、金属マグネシウムおよび亜鉛配位錯体と接触させる工程を含み、当該ハロゲン化物が、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択され、当該亜鉛配位錯体が、1つ以上のカルボキシレート基および/またはアルコラート基および/または第3級アミン基を含む少なくとも1つの配位化合物を含む。少なくとも1つの脱離基を有する有機化合物は、上で定義されるR
2Zを含む、前述の説明から選択され得、これには、その好ましい態様が含まれる。亜鉛配位錯体は、前述の説明から選択され得、これには、式(I)、(IA)、および(IB)に関して上述される実施形態が含まれる。
【0067】
ワンステップまたはワンポット法では、反応は、好ましくは、ZnX'
2の存在下で行われ、X'は、上のXと同じ意味を有し、X'はまた、好ましくはClである。
【0068】
上記のように、有機マグネシウム錯体を得るための有機化合物のメタル化はまた、少なくとも1つのハロゲン化物の存在下で、任意に、Liイオンの存在下で、マグネシウムアミドを有機化合物と反応させることによってC−H活性化を介して行われる。好適な金属アミドの特定の例には、塩化マグネシウムジイソプロピルアミド、tmpMgCl・LiCl、およびClMgHMDSが含まれる。
【0069】
上記の金属アミドは、市販のものであっても、または過度の努力なしに技術のある化学者によって調製されてもよい。金属アミドtmpMgCl・LiClは、Sigma AldrichおよびAcros Organics等の供給元から市販されている。以下の表は、他の金属アミドを作製するための手順を記載している引用の例を提供する。この引用は、それらの関連した開示に対して参照によって本明細書に組み込まれる。
【0070】
有機亜鉛錯体
有機亜鉛錯体は、Znでメタル化された有機化合物である。メタル化は、(1)酸化的付加によって少なくとも1つの脱離基を有する有機化合物を亜鉛金属と反応させて、亜鉛原子を挿入することと、(2)ハロゲン−亜鉛交換、または(3)C−H活性化によって行われ得る。
【0071】
酸化的付加は、以下のスキームに従って行われ得、
R
2Z+Zn
0→R
2ZnZ (IIIA)
ハロゲン−亜鉛交換は、以下のスキームに従って行われ得、
R
2Z+R
GZnX・LiX→R
2ZnX・LiX+R
G−Z (IIIB)、および
C−H活性化は、以下のスキームに従って行われ得、
R
2H+R
HZnX→R
2ZnX+R
H−H (IIIC)
式中、LiXが存在しても、R
HZnXのZnXで配位されてもよく、R
2、R
G、R
H、X、およびZはそれぞれ、上の式IIAからIICにおけるものと同一に定義される。
【0072】
反応条件
有機マグネシウム錯体、有機亜鉛錯体、および有機亜鉛試薬の合成は、好ましくは、−30℃から、最低の熱分解温度を有する反応物の熱分解温度未満の範囲内の温度で行われる。ほとんどの場合、反応は、好ましくは、周囲(例えば、室内)温度等の10℃から、より好ましくは20℃から50℃まで、より好ましくは30℃までの範囲内の温度で行われ得る。
【0073】
反応は、一般に、変換が完了するまでアルゴンガス等の不活性雰囲気下で、非プロトン溶媒中の酸素または空気の排除下で行われる。好適な非プロトン溶媒としては、THF、Me−THF、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエーテル、およびジメトキシエーテル等の環状、直鎖、または分岐鎖のモノまたはポリエーテル;硫化ジメチルおよび硫化ジブチル等のチオエーテル;トリエチルアミンおよびエチルジイソプロピルアミン等の第3級アミン;ホスフィン;ベンゼン、トルエン、およびキシレン等の芳香族炭化水素;ピリジン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−エチル−2−ピロリドン(NEP)、N−ブチル−2−ピロリドン(NBP)等の複素環式芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、またはヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等のシクロアルキル;ジメチルスルホキシド等のジアルキルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、およびヘキサメチルホスホロトリアミド(HMPA)等のアミド;環状、直鎖、または分岐鎖アルカンが挙げられるが、これらに限定されず、1個以上の水素原子は、ジクロロメタン、テトラクロロメタン、ヘキサクロロエタン等のハロゲン原子、N,N'−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)およびN,N,N',N'−テトラメチル尿素等の尿素誘導体;アセトニトリル;ならびにCS
2によって単独でまたは2つ以上の組み合わせのいずれかで置き換えられる。THFおよびMe−THF等の環状エーテルが好ましい。
【0074】
溶媒は、上で特定された反応物および合成された生成物に対して不活性溶媒であっても、配位性溶媒であってもよい。配位性溶媒の一例は、TMEDAである。反応が配位性溶媒の存在下で行われるとき、亜鉛イオンのいくつかまたは全てが、それぞれ、カルボキシレートおよび/またはアルコラートに加えて、またはその代わりに配位性溶媒で配位されるように、配位性溶媒を、亜鉛イオンで配位されたカルボキシレートおよび/またはアルコラート陰イオンと交換することができる。
【0075】
この反応は、好ましくは、水等のプロトン性溶媒の実質的な不在下で行われる。他に言及されない限り、溶媒は、水等のプロトン性溶媒の存在を最小限に抑えるために乾燥されている。反応槽、反応物、および溶媒は、好ましくは、水が反応中に存在しないことを確実にするために、使用前に乾燥または蒸留される。
【0076】
得られた有機亜鉛試薬の結晶化度を増大させるために、亜鉛配位錯体当量の有機マグネシウム錯体または有機亜鉛錯体当量に対する比率は、好ましくは1〜3、より好ましくは1.1〜2.8である。
【0077】
有機亜鉛試薬は、少なくとも1つの有機マグネシウム錯体を、上で定義された少なくとも1つの亜鉛配位錯体と反応させることによって上で定義された有機マグネシウム錯体を用いて作製され得る。この反応は、以下の好ましいスキームによって示され得、
R
2MgZ+Zn(T
qR
1)
k→R
2Zn(T
qR
1)
k+MgZ (IV)
式中、R
1、R
2、T、Z、q、およびkは、上で定義されるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含む。Tが、カルボキシレートまたはアルコラート基を含むとき、スキーム(IV)は、好ましくは、塩化リチウム等のハロゲン化リチウムの存在下で行われる。
【0078】
一実施形態では、有機マグネシウム錯体および有機亜鉛試薬の合成は、好ましくは、ワンポット法で一緒に行われる。ワンポット法とは、反応が同じ反応槽内で同時に、即ち、一斉に行われることを意味する。それによって、有機亜鉛試薬を作製するための反応物として使用される有機マグネシウム錯体は、有機亜鉛試薬を作製するための方法中、インサイチュで生成される、即ち、有機マグネシウム錯体の合成は、有機亜鉛試薬を作製するために使用される亜鉛配位錯体の存在下で行われる。全体の生成方法は、それによって簡便化される。
【0079】
有機亜鉛試薬
上述の合成方法によって得られる有機亜鉛試薬は、少なくとも1つの有機亜鉛化合物、少なくとも1つの配位化合物、任意にマグネシウムイオン、任意にリチウムイオン、および任意にハロゲン化物イオンを含む組成物として特徴付けられ得、ハロゲン化物は、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される。反応が、配位性溶媒の存在下で行われるとき、配位化合物は、配位性溶媒によって部分的にまたは完全に置き換えられ得る。有機亜鉛化合物は、好ましくは、アリール、ヘテロアリール、またはベンジルを含み、任意に1つ以上の官能基置換基を有する。官能基置換基は、存在するとき、好ましくは、ニトリル、ニトロ、およびエステルから選択される少なくとも1つの官能基を含む。これらの組成物は、好ましくはLi
+を含み、好ましくは塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択される少なくとも1つのハロゲン化物を含む。
【0080】
好ましい実施形態では、有機亜鉛試薬は、好ましくはR
2ZnAによって表される少なくとも1つの有機亜鉛クラスター、任意に、MgAA'によって表される部分を含むマグネシウム錯体、LiAによって表される部分を含むリチウム塩、任意にZnAA'によって表される部分を含む亜鉛塩を含み、それぞれのAおよびA'は独立して、Cl、Br、I、およびR
1T
qから選択され、それぞれのR
1、R
2、T、およびqは独立して、上の式(I)に定義されるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含むが、但し、AおよびA'のうちの少なくとも1つはR
1T
qを表すものとする。特に好ましい実施形態では、有機亜鉛試薬は、好ましくは、R
2ZnAによって表される有機亜鉛クラスター、MgAA'によって表されるマグネシウム錯体、LiAによって表されるリチウム塩、任意にZnAA'によって表される亜鉛塩を含み、それぞれのR
2、A、およびA'が、上に定義されるものと同じ意味を有するが、但し、AおよびA'のうちの少なくとも1つがR
1T
qを表し、R
1、T、およびqは、式(I)について上で開示されるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含むものとする。
【0081】
特に、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、好ましくは、置換もしくは非置換のベンジル、C
4〜C
24アリール、またはB、O、N、S、Se、P、およびSiからなる群から選択される1個以上のヘテロ原子を含有するC
3〜C
24ヘテロアリール、直鎖もしくは分岐鎖、置換もしくは非置換のC
2〜C
20アルキル、C
2〜C
20アルケニル、もしくはC
2〜C
20アルキニル、または置換もしくは非置換のC
3〜C
20シクロアルキルを表す。この置換基は、R
1およびR
2について上で特定される群から選択され得る。
【0082】
R
2の置換基は、ニトリル、ニトロ、エステル、保護アルコール、保護アミン、および保護アミド等の官能基を含み得る。上で開示されるように、エステル基は、好ましくは式−C(O)OR
3によって表され、式中、R
3は、有機部分であり、これは上の式(I)のR
1について示されるそれぞれおよび全ての選択肢から選択され得る。
【0083】
上の有機亜鉛試薬組成物において、Mgと有機亜鉛錯体RZnAとのモル比は、好ましくは1:1である。
【0084】
上の有機亜鉛試薬組成物においてLiとRZnAとのモル比は、好ましくは少なくとも1:1および好ましくは最大5:1である。
【0085】
ZnAA'を表すとき、ZnAA'とRZnAとのモル比は、好ましくは5:1を超えない。
【0086】
有機亜鉛試薬はまた、有機亜鉛錯体を、本明細書に記載される溶媒等の溶媒中の配位化合物と錯化する工程、および任意に、この溶媒を蒸発させて、固体生成物を得る工程を含む方法によって作製または修正され得る。例えば、この反応は、周囲条件下で実行され得る。
【0087】
配位化合物を用いて錯体を作製するために使用される有機亜鉛錯体は、化学式R
2nZnA
2−nによって表され得、式中、R
2およびAは、上に定義されるものと同じ意味を有し、nは、1または2の数字を表す。有機亜鉛錯体は、上に記載される方法によって得られてもよく、または、例えば、有機マグネシウム錯体を作製し、その反応の生成物とZnX'
2との金属交換反応を行い(X'は上に定義されるもの(Cl等)と同じ意味を有する)、任意に、生成物を配位化合物と反応させる前に、反応混合物をジオキサンと接触させること等によりマグネシウム塩を沈殿させるために、上に記載されるマグネシウム−ハロゲン交換反応を行うことによって得られてもよい。配位化合物は、好ましくはルイス塩基であり、好ましくはR
2およびA(存在するとき)よりも強力なルイス塩基である。
【0088】
この反応は、以下のスキームによって示され得、
R
22Zn+Zn(T
qR
1)
k→2R
2Zn(T
qR
1)
k (VA)
R
22Zn+k(R
1(NR'R")
q)→2R
2Zn((NR'R")
qR
1)
k (VB)
式中、R
1、R
2、T、R'、R"、およびqは、上で定義されるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含む。スキーム(VA)は、好ましくは塩化リチウム等のハロゲン化リチウムの存在下で実行される。
【0089】
上のR
22Znは、少なくとも1つの有機マグネシウム化合物R
2MgZを、式ZnZ
2を有する少なくとも1つの亜鉛化合物と反応させることによって作製され得、式中、R
2およびZは、以下の好ましいスキーム(VC)によって示されるように、上で定義されるものと同じ意味を有し、
2R
2MgZ+ZnZ
2→R
22Zn+2MgZ
2 (VC)
式中、R
2およびZは、上で定義されるものと同じ意味を有し、これは好ましい意味を含む。
【0090】
有機亜鉛試薬はまた、(A)少なくとも1つの有機亜鉛錯体を、(B)1つ以上のカルボキシレート基および/またはアルコラート基および/または第3級アミン基を含む少なくとも1つの配位化合物と、亜鉛イオンおよび/またはリチウムイオンと組み合わせて、任意に、ハロゲン化物イオンと組み合わせて反応させる工程を含む方法によっても作製することができ、当該ハロゲン化物イオンは、塩化物、臭化物、およびヨウ化物から選択され、当該有機亜鉛錯体は、当該配位化合物がキレートポリアミンであるとき、アリール基、ヘテロアリール基、またはベンジル基を含む。好ましい有機亜鉛錯体および好ましい配位化合物は、上で定義される好ましい有機亜鉛錯体および好ましい配位化合物から選択され得る。
【0091】
特に、有機亜鉛試薬は、少なくとも1つの有機亜鉛錯体を少なくとも1つのリチウム配位錯体と反応させることによって作製することができる。この反応は、以下の好ましいスキーム(VI)によって示され得、
R
2ZnZ+LiTR
1→R
2ZnTR
1 (VI)
式中、R
1、R
2、T、およびZは、上で定義されるものと同じ意味を有し、これは、好ましい意味を含む。このスキームでは、Zは、上で定義されるように、好ましくはXであり、Tは、好ましくはピバレート等のカルボキシレート、および/またはtert−ブトキシレート等のアルコラートである。
【0092】
有機亜鉛試薬はまた、有機亜鉛錯体を、本明細書に記載される溶媒等の溶媒中の配位化合物と錯化する工程、および任意に、この溶媒を蒸発させて、固体生成物を得る工程を含む方法によって作製または修正され得る。例えば、この反応は、周囲条件下で実行され得る。
【0093】
有機亜鉛錯体から出発する後者の方法は、Mgおよび/または有機マグネシウム錯体の不在下で、または実質的にそれらの不在下で行われ得る。ニトリル、ニトロ、エステル、ケトン、保護アルコール、保護アミン、保護アミド、およびアルデヒド等の敏感な官能基を有する有機亜鉛試薬を、同一物のうちの1つ以上を含む有機亜鉛錯体から作製するために、そのような方法が好ましい。本発明者は、有機亜鉛試薬における敏感な官能基の保存が、Mgおよび/または有機マグネシウム錯体の不在下で、または実質的にそれらの不在下で反応を行うことによって促進され得ることを見出している。それらの方法によって生成される有機亜鉛試薬は、化学式R
2nZnA
2−nQによって表すことができ、式中、R
2、A、およびnは、R
2nZnA
2−nについて上で定義されるものと同じ意味を有し、それぞれのQは、配位化合物分子を表す。生成物は、任意に、穏やかな加熱および真空を適用する等によって溶媒の蒸発によって溶媒から単離することができる。例えば、表2の脚注「d」および「f」を参照のこと。
【0094】
本発明による有機亜鉛試薬の重要な利点は、組成物から溶媒を蒸発させること等によって溶媒を除去することにより、固化することができることである。溶媒の除去により、工業量の有機亜鉛試薬の輸送および保存の費用および危険を軽減させ、溶媒蒸発により活性成分の濃度における変動を軽減する。粉砕されるとき、固体は、正確に測定した量で反応槽に容易に導入することができ、それによって、液体、特に、溶媒蒸発時に最先端技術の有機亜鉛試薬によって形成される粘性液体と関連する取扱問題を克服する。したがって、その調製の方法を含む固体組成物は、最先端技術に関する著しい改善である。
【0095】
最終用途適用
本発明により得られる有機亜鉛試薬は、求電子試薬を用いてクロスカップリング反応を行うために有用である。好ましい実施形態では、求電子試薬は、上で特定される(求核的)脱離基のうちの1つ以上を有する有機化合物から選択される。好ましい実施形態では、求電子試薬は、ハロゲン化物、トリフラート、メシラート、ノナフラート、トシレート、スルホン酸塩、および/またはリン酸塩で置換された有機化合物から選択され、ハロゲン化物は、Cl、Br、およびIから選択される。求電子試薬は、クロスカップリング触媒の存在下で、上述の有機亜鉛試薬と反応させて、求電子試薬の残基を有機亜鉛試薬の有機部分と結合させることができる。
【0096】
求電子試薬は、任意に、金属と官能基との間の副反応によりそのようなカップリング反応で用いるには有機金属錯体に敏感すぎる(即ち、反応しすぎる)と以前に見なされていた官能基を含む、1つ以上の官能基を有してもよい。そのような官能基の例には、エノール化の可能なベンジルニトリルを含むニトリル、ニトロ、エステル、ケトン、保護アルコール、保護アミン、保護アミド、およびアルデヒドが挙げられる。求電子試薬におけるアルデヒド基の存在下でカップリングを行うための能力は、本発明の独特かつ予想外の利点である。
【0097】
触媒は、好ましくは根岸クロスカップリング反応において使用される種類のものである。適切な触媒は、公知である。好ましい触媒は、PEPPSI(商標)−iPrである。
【0098】
カップリング反応は、好ましくは有機亜鉛試薬の合成で用いるのが好適または好ましい、上で開示される溶媒中で行われ、さらにカルボン酸エステルまたはカルボン酸無水物等の他の溶媒中で実施され得る。最先端技術において使用される溶媒とは対照的に、この溶媒は、蒸留または予備乾燥することなく使用され得る。
【0099】
好ましいエステル溶媒には、好ましくは、エステル基において、少なくとも1個、より好ましくは少なくとも2個、好ましくは12個以下、より好ましくは8個以下、なおより好ましくは6個以下の炭素原子を有し、好ましくは、カルボン酸において、12個以下、より好ましくは8個以下、なおより好ましくは4個以下の炭素原子を有し、ならびに好ましくは4個以下、より好ましくは2個以下、なおより好ましくは1個のカルボン酸基を有する、脂肪族炭化水素カルボン酸エステルが含まれる。好ましい実施形態では、カルボン酸エステルは、少なくとも4個の炭素原子、より好ましくは少なくとも5個の炭素原子、10個以下の炭素原子、より好ましくは8個以下の炭素原子を有する。好ましい溶媒の一例は、酢酸エチルである。本発明者は、エステル溶媒、特に、好ましいエステル溶媒の使用が生成物収量を改善することができることが見出されている。
【0100】
また、カップリングの温度範囲は、好ましくは有機亜鉛試薬の合成に好適であるか、または好ましい、上に開示される温度範囲内である。
【0101】
適切な触媒および反応条件に関する情報は、Metal Catalyzed Cross Coupling Reactions,2
nd edition(A.de Meijere,F.Diederich,eds.),Wiley−VCH,Weinheim,2005、A.Krasovskiy,V.Malakhov,A.Gavryushin,P.Knochel,Angew.Chem.Int.Ed.2006,45,6040、N.Boudet,S.Sase,P.Sinha,C.−Y.Liu,A.Krasovskiy,P.Knochel,J.Am.Chem.Soc.2007,129,12358、およびA.Metzger,M.Schade,P.Knochel,Org.Lett.2008,10,1108において見出され得る。
【0102】
本発明によって得られる有機亜鉛試薬を、アルデヒドで置換した有機化合物のアルデヒドと反応させて、アルデヒド付加反応によって有機化合物を合成することもできる。有機亜鉛試薬が本様式に適用されるとき、アルデヒドで置換した有機化合物のいずれも、上述の求電子試薬等の求電子的脱離基を有さないか、またはこの反応は、上述のカップリング触媒の不在下で行われる。
【0103】
この後者の反応は、有機亜鉛試薬を合成する、および/またはクロスカップリング反応を行うために、上で既に開示されているものと同一であるかまたは類似する、溶媒中および反応条件下(例えば、温度範囲および無酸素雰囲気)で行われ得る。
【0104】
アルデヒドで置換した有機化合物がCl、Br、I、トリフラート、メシラート、ノナフラート、および/またはリン酸塩等の求核的脱離基を有するとき、反応は、カップリング触媒の存在または不在によって「調整」されて、脱離基またはアルデヒドのいずれかで置換を行うことができる。カップリング触媒の存在下で、有機亜鉛試薬の有機部分は、脱離基と置き換わる。カップリング触媒の不在下で、有機亜鉛試薬の有機部分は、アルデヒドでの付加反応によって、アルデヒドで置換した有機化合物に付加される。
【0105】
これより、本発明は、以下の実施例によって示される。
【実施例】
【0106】
亜鉛ピバレート2LiCl(2a)の調製
ピバル酸(20.4g、22.6mL、200mmol)を、磁気撹拌棒およびセプタムを備えたアルゴン通気済みの乾燥した500mLのSchlenkフラスコ中に入れ、ピバル酸を乾燥THF(100mL)中に溶解する。溶液を0℃まで冷却し、メチルリチウム(135mL、ジエチルエーテル中1.63M、220mmol)を滴加する。メタンガスの発生が終了した後、THF(100mL、1.0M、100mmol)中のZnCl
2を添加し、混合物を25℃で2時間撹拌する。溶媒を真空内で除去し、亜鉛ピバレート・2LiCl(2a)を、定量的収率で無色固体として得る。
【0107】
亜鉛tert−ブチレート・2LiCl(2b)の調製
Tert−ブタノール(1.85g、2.39mL、25.0mmol)を、磁気撹拌棒およびセプタムを備えたアルゴン通気済みの乾燥した250mLのSchlenkフラスコ中に入れ、tert−ブタノールを乾燥THF(25.0mL)中に溶解する。溶液を0℃まで冷却し、メチルリチウム(15.0mL、ジエチルエーテル中1.83M、27.5mmol)を滴加する。メタンガスの発生が終了した後、THF中のZnCl
2(12.5mL、1.00M、12.5mmol)を添加し、混合物を25℃で2時間撹拌する。溶媒を真空内で除去し、亜鉛
tert−ブチレート2LiCl(2b)を、定量的収率で無色固体として得る。
【0108】
実施例1 − 3−(トリフルオロメチル)フェニル亜鉛ピバレート(1c)の調製
亜鉛ピバレート・2LiCl(上で調製した2a、2.64g、7.50mmol)を、25mLのSchlenkフラスコに入れ、高真空内で、400℃(ヒートガン)で5分間乾燥させ、次いで、乾燥THF(10.0mL)中に溶解する。1−ブロモ−3−(トリフルオロメチル)ベンゼン(3d、1.13g、5.00mmol)およびマグネシウム屑(304mg、12.5mmol)を添加し、混合物を25℃で2時間撹拌した。この溶液を、シリンジフィルターを介してアルゴン通気済みの乾燥した50mLのSchlenkチューブにカニューレ挿入し、溶媒を真空内で除去する。3−(トリフルオロメチル)フェニル亜鉛ピバレート(1d)を、灰色固体(3.72g)として得る。
【0109】
活性亜鉛種の含有量を、300mgの試薬をヨウ素原液(THF中1.0M)による滴定によって測定する。84%の収率に相当する882mg/mmolの濃度が測定された。
【0110】
3−(トリフルオロメチル)フェニル亜鉛ピバレート(1d)の生成物は、活性の喪失なく、不活性ガス雰囲気下で、周囲温度で1週間保存することができる(エントリ1、下表1)。空気中で保存してから5分後、95%の活性亜鉛種を滴定によって測定することができた(表1、エントリ2)。15分後、活性は、58%まで低下し(表1、エントリ3)、30分および45分後、43%および40%の活性を得る(表1、エントリ4〜5)。60分間空気中保存後、活性亜鉛種を検出することができない(表1、エントリ6)。
【0111】
(表1)3−(トリフルオロメチル)フェニル亜鉛ピバレート(1d)の安定性
[a]ヨウ素原液(THF中1.0M)による滴定によって測定される
【0112】
実施例2 − (4−メトキシフェニル)亜鉛tert−ブチレート(1r)の調製
tert−ブチレート2LiCl(上で調製した2b、2.22g、7.50mmol)を、25mLのSchlenkフラスコに入れ、高真空内で、400℃(ヒートガン)で5分間乾燥させ、次いで、乾燥THF(10.0mL)中に溶解する。4−ブロモアニソール(3a、935mg、5.00mmol)およびマグネシウム屑(304mg、12.5mmol)を添加し、混合物を25℃で2時間撹拌する。この溶液を、シリンジフィルターを介してアルゴン通気済みの乾燥した50mLのSchlenkチューブにカニューレ挿入し、溶媒を真空内で除去する。(4−メトキシフェニル)亜鉛tert−ブチレート(1r)を、灰色固体(3.33g)として得る。
【0113】
活性亜鉛種の含有量を、293mgの試薬をヨウ素原液(THF中1.0M)による滴定によって測定する。68%の収率に相当する977mg/mmolの濃度が測定された。
【0114】
実施例3 − さらなる有機亜鉛錯体例
4−ブロモアニソール(3a)およびTIPSで保護した4−ブロモフェノール3bから開始して、対応する有機亜鉛試薬1aおよび1bを、78〜84%で、上で調製した1.0当量の亜鉛ピバレート・2LiCl(2a)の存在下で実施例1と同様に調製する(表2、エントリ1〜2)。
【0115】
1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a)の存在下で、1−ブロモ−4−フルオロベンゼン(3c)および1−ブロモ−3−(トリフルオロメチル)ベンゼン(3d)へのマグネシウム挿入は、収率70〜84%で、有機亜鉛種1c(上の実施例1)および1dを生じる(表2、エントリ3〜4)。
【0116】
さらに、p−トリメチルシリルフェニル亜鉛ピバレート(1e)を、1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a)の存在下で、収率81%で得る(エントリ5)。
【0117】
この手法を適用して、ニトリル基またはエステル基のような敏感な官能性を許容し得る。エチル4−ブロモ安息香酸塩(3f)および4−ブロモベンゾニトリル(3h)を用いて、パラ置換有機亜鉛1fおよび1gは、1.5当量の亜鉛ピバレート塩2aの存在下で、ワンポット酸化的付加プロトコルによって59〜64%で利用することができる(エントリ6〜7)。
【0118】
iPrMgCl・LiClとのハロゲン−マグネシウム交換およびそれに続くZn(OPiv)
2・2LiCl(2a、1.5当量)との金属交換反応に基づいて修正された合成手順は、収率を71〜89%に向上させた。溶媒の蒸発前のマグネシウム塩の沈殿および分離は、亜鉛配位錯体試薬1fの場合、同等の収率である71%の収率をもたらし、配位錯体試薬1gについてはより低い収率(59%)をもたらす(エントリ6〜7)。
【0119】
複素芳香族臭化物3iおよび3jは、1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a)の存在下で、収率65〜70%で(ピリジン−3−イル)亜鉛ピバレート(1h)および(2,4−ジメトキシピリミジン−5−イル)亜鉛ピバレート(1i)となる(エントリ8および9)。
【0120】
さらに、1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a)の存在下で、収率50〜71%で(3,5−ジメチルイソオキサゾール−4−イル)亜鉛ピバレート(1j)および(3−メチル−1−フェニル−1H−ピラゾール−5−イル)亜鉛ピバレート(1k)を調製することが可能である(エントリ10〜11)。
【0121】
ベンジル亜鉛試薬はまた、対応するベンジルクロリドから開始する固体物質として得ることもできる。したがって、4−フルオロベンジル亜鉛ピバレート(1l、1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a))および2−クロロベンジル亜鉛ピバレート(1m、2.0当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a))は、収率68〜80%で合成される(エントリ12〜13)。
【0122】
メタ−トリフルオロメチル、メタ−エチルエステル、およびメタ−メトキシで置換したベンジル亜鉛ピバレート1n、1o、および1pを、1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a)の存在下で、収率67〜68%で調製する(エントリ14〜16)。
【0123】
最終的に、ヘテロベンジル性((6−クロロピリジン−3−イル)メチル)亜鉛ピバレート(1q)を、1.5当量のZn(OPiv)
2・2LiCl(2a)の存在下で、収率59%で得る(エントリ17)。
【0124】
さらに、Zn(O−tert−Bu)
2・2LiClはまた、金属交換反応剤として使用してもよい。4−ブロモアニソール(3a)から開始して、対応する有機亜鉛配位錯体試薬1rを、1.5当量の亜鉛tert−ボトキシレート・2LiCl(2b)の存在下で、実施例3と同様に、収率68%で調製する(表2、エントリ18)。
【0125】
(表2)Zn(OPiv)
2・2LiCl(2a)またはZn(O
tBu)
2・2LiCl(2b)の存在下でのMg挿入による固体有機亜鉛配位錯体試薬の調製
[a] 錯化した亜鉛およびマグネシウム塩、ならびにLiClは、明確にするために除外される。
[b] Zn(OPiv)
2・2LiClの存在下で、マグネシウム挿入により、対応するハロゲン化アリールから調製される。
[c] iPrMgCl・LiCl(1.1当量、THF、−30℃、30分間)との交換、続いて、Zn(OPiv)
2・2LiCl(1.5当量)との金属交換反応により、対応するハロゲン化アリールから調製される。
[d] iPrMgCl・LiCl(1.1当量、THF、−30℃、30分間)との交換、続いて、ZnCl
2(0.5当量)との金属交換反応、それに続いて、ジオキサン(10% v/v)によるマグネシウム塩の沈殿およびZn(OPiv)
2・2LiCl(0.5当量)の付加により、対応するハロゲン化アリールから調製される。
[e] iPrMgCl・LiCl(1.05当量、THF、0℃、2時間)との交換、続いて、Zn(OPiv)
2・2LiCl(1.5当量)との金属交換反応により、対応するハロゲン化アリールから調製される。
[f] iPrMgCl・LiCl(1.05当量、THF、0℃、2時間)との交換、続いて、ZnCl
2(0.5当量)との金属交換反応、それに続いて、ジオキサン(10% v/v)によるマグネシウム塩の沈殿およびZn(OPiv)
2・2LiCl(0.5当量)の付加により、対応するハロゲン化アリールから調製される。
[g] Zn(O
tブチル)
2・2LiClの存在下で、マグネシウム挿入により、対応するハロゲン化アリールから調製される。
【0126】
実施例4 − ビス−[4−エトキシカルボニル]フェニル]亜鉛−TMEDA試薬(1s)の調製
本実施例では、エチル−4−ヨード安息香酸塩(3g)におけるヨード−マグネシウム交換反応が、iPrMgCl・LiClを用いて行われる。0.5当量のZnCl
2による金属交換反応およびジオキサンを用いて形成したマグネシウム塩の沈殿後、対応するビスアリール亜鉛試薬を形成する。0.5当量のTMEDAの添加および溶媒の蒸発後、固体有機亜鉛−TMEDA−試薬1sを、収率70%で得る(スキームVII)。
ビス−[4−エトキシカルボニル]フェニル]亜鉛(10.0mL、THF中0.34M、3.40mmol)を、THF(5mL)中のTMEDA(0.51mL、3.40mmol)に添加する。反応混合物を21℃で24時間撹拌する。溶媒を真空内で除去する。ビス−[4−エトキシカルボニル]フェニル]亜鉛−TMEDA試薬(1s)を、灰色固体(1.92g)として得る。
【0127】
活性亜鉛種の含有量を、121mgの試薬をヨウ素原液(THF中1.0M)による滴定によって測定する。70%の収率に相当する807mg/mmolの濃度が測定された。
【0128】
実施例4A − 2−シアノエチル亜鉛ピバレート試薬(1t)の調製
ピバル酸(5.11g、5.74mL、50.0mmol)を、磁気撹拌棒およびセプタムを備えたアルゴン通気済みの乾燥した250mLのSchlenkフラスコ中に入れ、乾燥THF(30mL)中に溶解した。溶液を0℃まで冷却し、メチルリチウム(32.4mL、ジエチルエーテル中1.70M、55.0mmol)を45分間にわたって滴加した。溶媒を真空内で除去し、LiOPivを、定量的収率で淡黄色固体として得た。
【0129】
亜鉛粉末(490mg、7.5mmol)およびLiCl(318mg、7.5mmol)を、磁気撹拌棒およびセプタムを備えたSchlenkフラスコ中に入れ、高真空内で、400℃(ヒートガン)で5分間乾燥させ、次いで、7.0mLの乾燥THF中に溶解した。4滴の1,2−ジブロモエタンを添加し、亜鉛末の活性化のために沸騰するまで混合物を加熱した。22℃まで冷却した後、3−ヨードプロピオニトリル(905mg、5.0mmol)を滴加し、混合物を22℃で2時間撹拌した。反応混合物の撹拌を終了し、過剰な亜鉛末を沈降させた。上清溶液を、5.0mLの乾燥THF中の上述のように調製したリチウムピバレート(811mg、1.50mmol)の溶液を含有する別のSchlenkフラスコに移した。混合物を22℃で15分間撹拌し、次いで、溶媒を真空内で除去した。(2−シアノエチル)亜鉛ピバレートを黄色固体(2.94g)として得た。活性亜鉛種の含有量について、398mgの試薬をヨウ素原液(THF中1.0M)による滴定によって測定した。58%の収率に相当する1020mg/mmolの濃度が測定された。
【0130】
実施例4B − (2−((tert−ブトキシカルボニル)オキシ)−6−(エトキシカルボニル)フェニル)亜鉛ピバレート(1u)の調製
磁気撹拌棒およびセプタムを備えたアルゴン通気済みの乾燥したSchlenkフラスコ内で、エチル3−((tert−ブトキシカルボニル)オキシ)安息香酸塩(266mg、1.00mmol)を乾燥THF(3.0mL)中に溶解した。TMPMgCl・LiCl(1.00mL、THF中1.2M、1.20mmol)を滴加し、混合物を0℃で4時間撹拌した。1.5mLの乾燥THF中のZn(OPiv)
2・2LiCl(529mg、1.50mmol)の溶液を添加し、混合物を22℃までゆっくり加温した。溶媒を真空内で除去し、(2−((tert−ブトキシカルボニル)オキシ)−6−(エトキシカルボニル)フェニル)亜鉛ピバレートを橙色固体として得た。
【0131】
実施例5 − 6−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン−2−カルボニトリル(4b)の調製
本実施例では、パラジウム触媒による根岸クロスカップリング反応に対する固体亜鉛試薬の反応性が示される。
【0132】
磁気撹拌棒およびセプタムを備えたアルゴン通気済みの乾燥した25mLのSchlenkフラスコ内で、3−(トリフルオロメチル)フェニル亜鉛ピバレート(上で調製された1d、780mg、882mg/mmol、0.88mmol)を乾燥THF(1.8mL)中に溶解する。6−ブロモピリジン−2−カルボニトリル(5e、135mg、0.74mmol)およびPEPPSI−iPr(14mg、0.02mmol)を添加し、混合物を25℃で2時間撹拌する。NH
4Cl飽和水溶液(10mL)を添加し、水層をジエチルエーテル(3×15mL)で抽出する。合わせた有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を真空内で除去する。
【0133】
フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、ペンタン/Et
2O=1:1)による精製により、無色固体として6−[3−(トリフルオロメチル)フェニル]ピリジン−2−カルボニトリル(6f、144mg、0.58mmol、78%)を得る。
【0134】
実施例6 − さらなる根岸クロスカップリング例
2mol%の触媒PEPPSIの存在下で、クロスカップリング反応を、良好ないし極めて優れた収率で様々な求電子試薬を用いて穏やかな条件下で行うことができる(表3)。
【0135】
したがって、4−メトキシフェニル亜鉛ピバレート(1a)を、25℃で2時間、4−ブロモベンゾニトリル(3h)と結合させて、収率86%でビフェニル6aを得る(エントリ1)。
【0136】
(4−((トリイソプロピルシリル)オキシ)フェニル)亜鉛ピバレート(1b)を、50℃で2時間、4−ブロモ−3−フルオロベンゾニトリル(5a)と反応させて、89%でカルボニトリル6bを生じる(エントリ2)。
【0137】
4−フルオロ亜鉛ピバレート1cを、良好な収率で異なるハロカルボニトリルと室温で円滑に結合させることができる(エントリ3〜4)。したがって、4−クロロベンゾニトリル(5b)とのカップリングは、収率80%でカップリング産物6cを与える。
【0138】
意外なことに、4−アミノ−3−ブロモベンゾニトリル(5c)中の保護されていないアミン官能基が、ワンポットカップリング法において十分に許容され、ビフェニル6dは収率79%で単離された。
【0139】
3−(4−フルオロフェニル)キノリン(6e)を、3−ブロモキノリンとのカップリングから定量的収率で得る(5d、エントリ5)。
【0140】
また、3−(トリフルオロメチル)フェニル亜鉛ピバレート(1d)を、周囲温度で6−ブロモピリジン−2−カルボニトリル(5e)およびエチル4−ブロモ安息香酸塩(3f)と反応させて、クロスカップリング生成物6fおよび6gを収率78〜98%で得る(エントリ6〜7)。
【0141】
p−トリメチルシリルフェニル亜鉛ピバレート(1e)は、4−ブロモアセトフェノン(5f)ときれいな反応を示し、収率83%で1−(4'−(トリメチルシリル)−[1,1'−ビフェニル]−4−イル)エタノン(6h)となる。潜在的エノラート形成またはケト官能基への添加による副生成物は観察されない(エントリ8)。
【0142】
エステル置換芳香族亜鉛試薬1fを、収率84〜87%で、複素環式芳香族塩素5gおよび保護されていないアミド5hと、22℃で円滑に結合させることができる(エントリ9〜10)。
【0143】
(4−シアノフェニル)亜鉛ピバレート(1g)を、異なる芳香族および複素環式芳香族臭化物と十分に反応させ、対応するクロスカップリング生成物を収率56〜88%で得る(エントリ11〜13)。
【0144】
(ピリジン−3−イル)亜鉛ピバレート1hと2−クロロニコチノニトリル(5g)との反応により、50℃で、2,3'−ビピリジン6nを収率91%で得る(エントリ14)。
【0145】
ヘテロアリール亜鉛試薬1iを、4−ブロモフェニルピバレート(5k)および4−ブロモニトロベンゼン(5l)と反応させて、収率71〜80%で、アリール化したピリミジン6oおよび6pを形成する(エントリ15〜16)。
【0146】
(3,5−ジメチルイソオキサゾール−4−イル)亜鉛ピバレート(1j)および(3−メチル−1−フェニル−1H−ピラゾール−5−イル)亜鉛ピバレート(1k)の両方を、定量的収率で、50℃で4−ブロモ−3−フルオロベンゾニトリル(5a)と結合させる(エントリ17〜18)。
【0147】
(4−フルオロベンジル)亜鉛ピバレート(1l)は、3−ブロモ−4−メトキシベンズアルデヒド(5m)とのきれいなカップリング反応を示し、アルデヒド官能性によるいかなる更なる生成物も観察されることなく、収率82%で3−(4−フルオロベンジル)−4−メトキシベンズアルデヒド(6s)を得る(エントリ19)。
【0148】
さらに、2−(4−ブロモフェニル)アセトニトリル(5n)とのカップリングにより、収率78%で2−(4−(4−フルオロベンジル)フェニル)アセトニトリル(6t)を得る(エントリ20)。
【0149】
(2−クロロベンジル)亜鉛ピバレート(1m)を結合させ、収率70%で、ベンゾニトリル誘導体6uとする(エントリ21)。
【0150】
(3−(トリフルオロメチル)ベンジル)亜鉛ピバレート(1n)を、3−ブロモ−1−(フェニルスルホニル)−1H−インドール(5o)および保護されていないアミン官能基を保有するベンゾカイン誘導体5jと、良好な収率で、円滑に反応させる(66〜86%、エントリ22〜23)。
【0151】
(3−(エトキシカルボニル)ベンジル)亜鉛ピバレート(1o)を、収率55〜78%で、ブロモインドール5oおよび5−ブロモ−2,4−ジメトキシピリミジン(3j)と反応させる(エントリ24〜25)。
【0152】
磁気撹拌棒およびセプタムを備えたアルゴン通気済みの乾燥したSchlenkのフラスコ内で、(2−シアノエチル)亜鉛ピバレート(1t)(2.35g、2150mg/mmol、1.09mmol)を、THF(3.0mL)およびNMP(1.0mL)の混合物中で溶解した。4−ブロモベンゾニトリル(168mg、0.92mmol)を添加し、続いて、PEPPSI−iPr(14mg、0.02mmol)を添加し、混合物を50℃で12時間撹拌した。次いで、NH
4Cl飽和水溶液(10mL)を添加し、水層をEtOAc(3×20mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥させた(Na
2SO
4)。真空内での溶媒の蒸発およびフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、iへキサン/Et
2O=3:1)による精製により、淡黄色油として4−(2−シアノエチル)ベンゾニトリル(113mg、80%)を得た(エントリ26)。
【0153】
さらに、(2−((Tert−ブトキシカルボニル)オキシ)−6−(エトキシカルボニル)フェニル)亜鉛ピバレート(1u)を、2.0mLの乾燥THF中で溶解し、4−ブロモベンゾニトリル(164mg、0.91mmol)およびPd(OAc)
2(4mg、0.02mmol)、ならびにS−Phos(16mg、0.04mmol)を添加し、混合物を22℃で12時間撹拌した。次いで、NH
4Cl飽和水溶液(10mL)を添加し、水層をEtOAc(3×20mL)で抽出した。合わせた有機相を乾燥させた(Na
2SO
4)。真空内での溶媒の蒸発およびフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、iへキサン/EtOAc=12:1〜6:1)による精製により、淡黄色油としてベンゾニトリルエチル4'−シアノ−6−((tert−ブトキシカルボニル)オキシ)−[1,1'−ビフェニル]−2−カルボキシレート(262mg、79%)を得た(エントリ27)。
【0154】
加えて、有機亜鉛ピバレートのクロスカップリングはまた、酢酸エチル等のエステル溶媒中で行うことができる。したがって、(4−(エトキシカルボニル)フェニル)亜鉛ピバレート(1f)を、表示上99%の純度を有するSigma−Aldrichから購入した技術用途グレードの酢酸エチル中のクロロ−ピリジン5gおよびブロモ−インドール5oと25℃で2時間反応させて、事前乾燥または蒸留しないで、収率96〜99%で、対応するクロスカップリング生成物6abおよび6acを作製した(エントリ28〜29)。
【0155】
(4−(エトキシカルボニル)フェニル)亜鉛ピバレート(1f)を、技術用途グレードの酢酸エチル中のエチル4−ブロモ安息香酸塩(3f)と25℃で2時間反応させて、収率94%で、対応するクロスカップリング生成物6adを作製したとき、同様の結果が得られた(エントリ30)。
【0156】
(表3)固体有機亜鉛錯体の様々な求電子試薬との根岸クロスカップリング反応
[a] 錯化した亜鉛およびマグネシウム塩、ならびにLiClは、明確にするために、除外される。
[b] 分析的に純粋な生成物の単離収率。
【0157】
さらに、カルボニル官能基による芳香族ハロゲン化合物に対する有機亜鉛試薬の反応性は、PEPPSI触媒の存在または不在によって調整することができる。したがって、2mol%のPEPPSIの存在下で、4−メトキシフェニル亜鉛ピバレート(3a)と2−ブロモベンズアルデヒド(5p)とのカップリング反応を22℃で2時間行うことが可能であり、対応するビフェニルアルデヒドzc1は、収率87%で単離することができる。同じ反応条件下でPEPPSIの不在下で、4−メトキシフェニル亜鉛ピバレート(3a)を、5pのアルデヒド官能基に添加し、第2級アルコールza1は、収率72%で単離することができる(スキームVIII、式1)。
【0158】
同じ様式では、3−メトキシベンジル亜鉛ピバレート(3m)を、4−クロロベンゾフェノン(5q)と結合させて、2mol%のPEPPSIの存在下で、収率72%でベンジル化したベンゾフェノン誘導体(zc2)を形成することができる。AcOEt中で反応を繰り返すことにより、93%の向上した収率を生じる。PEPPSIを使用しないで、アルデヒド官能基へのきれいな添加反応を行い、対応するアルコール誘導体za2は、収率80%で単離することができる(スキームVIII、式2)。
【0159】
これらの実施例は、固体アリール、ヘテロアリール、およびベンジル亜鉛試薬を、本発明に従って、Zn(OPiv)
2・2LiCl(2)およびZn(O
tBu)
2・2LiClの存在下で、簡便かつコスト効率の高いマグネシウム挿入によって調製することができることを示す。溶媒の蒸発後、対応する亜鉛試薬は、不活性ガス雰囲気下で固体として保存することができ、空気中での短期間の操作に対して十分に安定している。さらに、固体亜鉛試薬は、パラジウム触媒による根岸クロスカップリング反応において広範囲の求電子試薬と反応させることができる。クロスカップリング生成物は、穏やかな条件下で、良好ないし極めて優れた収率で得られる。さらに、試薬はまた、カルボニル誘導体に対するさらなる反応のために使用することもできる。