特許第6157369号(P6157369)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157369
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】穂先竿及び穂先竿の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 87/00 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
   A01K87/00 620A
   A01K87/00 630C
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-1452(P2014-1452)
(22)【出願日】2014年1月8日
(65)【公開番号】特開2015-128392(P2015-128392A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(74)【代理人】
【識別番号】100142561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 大介
(72)【発明者】
【氏名】谷川 尚太郎
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−259347(JP,A)
【文献】 実開平04−055274(JP,U)
【文献】 特開2006−014608(JP,A)
【文献】 特開2013−111037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に沿って延びる炭素繊維が集束されることにより筒状体に形成され、当該筒の内径寸法が0.3mm〜0.6mmである穂先竿。
【請求項2】
前記筒状体の外周面に炭素繊維強化樹脂が巻回されている請求項1に記載の穂先竿。
【請求項3】
筒形状の穂先竿の製造方法であって、
直径が0.3mm〜0.6mmの線材の周りに、当該線材の軸方向に沿って延びる炭素繊維を集束して集束体を得る工程と、
熱硬化性樹脂を含浸させた前記集束体を加熱金型から引き抜いて引抜成形体を得る工程と、
前記引抜成形体から前記線材を除去して筒状体を得る工程と、を含む穂先竿の製造方法。
【請求項4】
外周面にカーボンプリプレグが巻回された前記筒状体を焼成して焼成体を得る工程をさらに含む請求項3に記載の穂先竿の製造方法。
【請求項5】
前記筒状体又は前記焼成体の外周面をテーパ加工する工程をさらに含む請求項3又は4に記載の穂先竿の製造方法。
【請求項6】
前記線材は、Ni−Ti合金で形成されている請求項3から5のいずれかに記載の穂先竿の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、釣竿を構成する穂先竿の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に釣竿は、その部位に応じて本体部、穂先部及びバット部と称される。穂先部は、釣竿の先端部分を指すが、釣竿が複数の節から構成される場合に、第1番節が穂先部を構成することもある。この場合、第1番節は、穂先竿と称されることがある。本明細書では、穂先部は第1番節によって構成され、これを特に穂先竿と称する。
【0003】
ところで、穂先竿は、中実構造あるいは中空構造を有する(たとえば、特許文献1参照)。中空構造を備えた穂先竿はチューブラー穂先と称され、中実構造を備えた穂先竿はソリッド穂先と称される。一般に、ソリッド穂先は相対的に細くてしなやかであり、チューブラー穂先は相対的に太くて高い剛性が確保される。穂先竿の特性の良し悪しは絶対的なものではなく、ソリッド穂先が良いかチューブラー穂先が良いかは、釣人が好みに応じて選択するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−33987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
釣竿は、ターゲットに合わせてさまざまな仕様のものが提案されており、穂先竿の特性もさまざまである。最近では、穂先竿の特性として、従来のソリッド穂先よりも軽く、且つ従来のチューブラー穂先よりもしなやかなものが望まれている。そして、このような特性を示す穂先竿を実現するためには、従来のチューブラー穂先の内径を小さくする必要がある。
【0006】
ところが、従来のチューブラー穂先は、カーボンプリプレグがマンドレルに巻き付けられ焼成されていたため、チューブラー穂先の内径を小さくするにも限界があった。すなわち、マンドレルの外径が一定以下の場合に、当該マンドレルにカーボンプリプレグを巻き付ける作業はきわめて困難であるため、従来のチューブラー穂先の内径及び外径は、一定以上にならざるを得なかった。つまり、従来のチューブラー穂先は、しなやかさに欠けるものであった。
【0007】
本発明はかかる背景のもとになされたものであって、その目的は、より軽量且つ細径である中空構造の穂先竿を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る穂先竿は、軸方向に沿って延びる炭素繊維が集束されることにより筒状体に形成され、当該筒の内径寸法が0.3mm〜0.6mmである。
【0009】
上記構成によれば、内径寸法が極めて小さい中空構造の穂先竿を実現することができる。これにより、従来のソリッド穂先より軽く、且つ従来のチューブラー穂先よりもしなやかな穂先竿を得ることができる。
【0010】
(2) 好ましくは、前記筒状体の外周面に炭素繊維強化樹脂が巻回されている。
【0011】
上記構成に寄れば、筒状体に対する炭素繊維強化樹脂の巻き付け方によって、様々な調子の穂先竿を得ることができる。なお、筒状体の外径寸法は、従来のマンドレルの直径と同等か或いはそれより大きいので、炭素繊維強化樹脂を容易に巻回することができる。
【0012】
(3) 本発明に係る穂先竿の製造方法は、筒形状の穂先竿を製造する方法である。具体的には、直径が0.3mm〜0.6mmの線材の周りに、当該線材の軸方向に沿って延びる炭素繊維を集束して集束体を得る工程と、熱硬化性樹脂を含浸させた前記集束体を加熱金型から引き抜いて引抜成形体を得る工程と、前記引抜成形体から前記線材を除去して筒状体を得る工程とを含む。
【0013】
(4) 上記の製造方法は、外周面にカーボンプリプレグが巻回された前記筒状体を焼成して焼成体を得る工程をさらに含んでもよい。
【0014】
(5) 上記の製造方法は、前記筒状体又は前記焼成体の外周面をテーパ加工する工程をさらに含んでもよい。
【0015】
(6) 例えば、前記線材は、Ni−Ti合金で形成されている。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、従来のソリッド穂先より軽く、且つ従来のチューブラー穂先よりも細径な穂先竿を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施形態に係る釣竿10の模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る穂先竿60の製造工程を示すフローチャートである。
図3図3は、図2の各工程によって得られる部材の構造を表す模式図であって、(A)は集束体50、(B)は引抜成形体55、(C)は筒状体56を示す。
図4図4は、図2の各工程によって得られる部材の構造を表す模式図であって、(A)はカーボンプリプレグ58が巻回された筒状体56、(B)は焼成体59、(C)は穂先竿60を示す。
図5図5は、図2のステップS11、S12を実行する装置80の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されながら説明される。なお、本実施の形態は、本発明に係る釣竿の一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る釣竿10の模式図である。図1は、魚がヒットした状態の釣竿10を示している。釣竿10は、図1に示されるように、複数の節12、13、14と、複数のガイド部材15とを備える。釣竿10は、例えば、炭素繊維強化プラスチックやガラス繊維強化プラスチック等で形成されている。釣竿10は、例えば船釣りに使用される振出式のものである。但し、釣竿10は、船釣り以外に使用されるものであってもよいし、振出式でなく継ぎ式であってもよい。
【0020】
節12〜14は、釣竿10を構成する細長棒状の部材である。節12〜14は、釣竿10の先端側から順に第1番節12、第2番節(図示せず)と呼ばれ、最も後端の節は、特に元節14と呼ばれる。また、第1番節12は、特に穂先竿とも呼ばれる。各節12〜14は筒状に形成されている。各節12〜14は、根元側から先端側に向かって徐々に外径が小さくなるテーパ形状をなしている。
【0021】
ガイド部材15は、各節12〜14に設けられている。各ガイド部材15は、釣用リール11から繰り出される釣糸19が挿通される挿通孔(不図示)を有する。各ガイド部材15は、釣糸19を釣竿10の外周面に沿って長手方向に案内するためのものである。すなわち、図1に示された釣竿10は、所謂アウターガイドタイプの釣竿である。
【0022】
釣竿10の先端部(すなわち、第1番節12の先端部)は、穂先部41と呼ばれる。穂先部41は、釣竿10のユーザが魚のアタリを釣竿10の湾曲の変化で捉える際に、当該ユーザによって視認される部分である。穂先部41は、例えば、金属色で塗装されている。具体的には、穂先部41は、塗装された部材の表面を金属の質感に再現することができる所謂メタリックカラーの塗料で塗装されている。
【0023】
釣竿10の基端部(すなわち、元節14の基端部)は、バット部44と呼ばれる。バット部44は、元節14の一部である。バット部44は、元節14の基端近傍に設けられたリアグリップ45と、リアグリップ45よりも先端側に設けられたフロントグリップ46と、リアグリップ45及びフロントグリップ46の間に設けられたリールシート47とを備える。リアグリップ45及びフロントグリップ46は、ゴムなどの高摩擦係数の部材で形成されている。釣竿10が使用される際、リアグリップ45及びフロントグリップ46の少なくとも一方が、釣竿10のユーザによって把持される。
【0024】
リールシート47は、釣用リール11を釣竿10に保持するためのものである。リールシート47は、元節14を覆い且つ元節14の長手方向に沿って摺動可能な可動フード49と、可動フード49よりも釣竿10の基端側に設けられた固定フード48と、可動フード49の摺動をロックするロック部(不図示)とを備える。可動フード49は、釣用リール11に設けられた脚の一方側を保持する。固定フード48は、釣用リール11に設けられた脚の他方側を保持する。可動フード49及び固定フード48の双方が釣用リール11の脚を保持した状態において、ロック部によって可動フード49が摺動不可能な状態とされることにより、固定フード48と可動フード49とが協働して釣用リール11をリールシート47に位置決め固定する。
【0025】
図2図5を参照して、図4(C)に示される穂先竿60(すなわち、第1番節12)の構造及び製造方法を説明する。図2は、穂先竿60の製造工程を示すフローチャートである。図3及び図4は、図2の各工程によって得られる部材の構造を示す模式図である。図5は、図2のステップS11、S12を実行する装置80の模式図である。
【0026】
まず、線材51の周りに複数のカーボンロービング52を束ねて、図3(A)に示される集束体50が形成される(S11)。線材51は、例えば、直径が0.3mm〜0.6mmの金属線である。線材51は、例えば、形状記憶合金或いは超弾性合金と呼ばれるNi−Ti合金によって形成される。カーボンロービング52は、千本〜数千本の炭素繊維53が束ねられたものである。なお、図3(A)に示される集束体50において、カーボンロービング52は、線材51の軸方向に沿って延びている。すなわち、炭素繊維53は、カーボンロービング52内において、線材51の軸方向に沿って延びている。
【0027】
なお、「炭素繊維53が線材51の軸方向に沿って延びている」とは、炭素繊維53の繊維の方向と線材51の軸方向とが厳密に一致することに限定されない。すなわち、カーボンロービング52を構成する各炭素繊維53の繊維の方向が、概ね線材51の軸方向を向いていればよい。一方、互いに交差する方向に延びる繊維によって構成されるメッシュ構造等は除外される。
【0028】
次に、熱硬化性樹脂54を含浸させた集束体50を加熱金型から引き抜くことにより、図3(B)に示される引抜成形体55が形成される(S12)。引抜成形体55は、例えば、プルトルージョン法等の公知の方法によって形成される。集束体50に含浸させる熱硬化性樹脂54としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、或いは尿素樹脂等を採用することができる。また、熱硬化性樹脂54には、硬化促進剤などが混合されていてもよい。
【0029】
ステップS12で得られる引抜成形体55の外周面は、例えば、熱硬化性樹脂54によって覆われた平滑な面である。また、線材51の軸方向に交差する引抜成形体55の断面形状は、例えば、円形である。すなわち、引抜成形体55は、円柱形状である。さらに、引抜成形体55の直径は、図4(C)に示される穂先竿60の直径より大きい。
【0030】
ステップS11、S12の工程は、例えば図5に示される装置80によって連続的に実行される。図5に示される装置80は、線材51及びカーボンロービング52を繰り出す複数の繰出部81と、液状の熱硬化性樹脂54が収容された含浸槽82と、加熱金型83とを主に備える。
【0031】
繰出部81によって個別に繰り出された線材51及び複数のカーボンロービング52は、線材51を中心として束ねられた集束体50として含浸槽82を通過する。これにより、集束体50の表面が熱硬化性樹脂54で覆われると共に、線材51及び複数のカーボンロービング52それぞれの間に熱硬化性樹脂54が充填される。次に、熱硬化性樹脂54が含浸された集束体50は、加熱金型83を通過する。これにより、熱硬化性樹脂54が硬化されると共に、所定の外形を有する引抜成形体55が得られる。
【0032】
次に、引抜成形体55から線材51を除去することによって、図3(C)に示される筒状体56が形成される(S13)。具体的には、引抜成形体55から線材51を引き抜けばよい。これにより、軸方向に貫通する貫通孔57が内部に形成された筒状体56が得られる。筒状体56の内径寸法(すなわち、貫通孔57の直径)は、線材51の外径寸法に概ね一致する0.3mm〜0.6mmである。
【0033】
次に、図4(A)に示されるように、筒状体56の外周面にカーボンプリプレグ58を巻回する。カーボンプリプレグ58は、炭素繊維に樹脂を含浸させることによって形成されたシート状の炭素繊維強化樹脂の一例である。筒状体56に対するカーボンプリプレグ58の巻き付け方は、例えば、実現したい穂先竿60の調子に応じて適宜選択される。そして、カーボンプリプレグ58が巻回された筒状体56を焼成することによって、図4(B)に示される焼成体59が形成される(S14)。焼成体59は、例えば、オートクレーブ法等の公知の方法によって形成される。
【0034】
次に、焼成体59の外周面をテーパ加工することによって、図4(C)に示される穂先竿60が形成される(S15)。テーパ加工の具体的な方法は特に限定されないが、例えば、センタレス加工等の公知の方法を用いることができる。これにより、根元側から先端側に向かって先細り形状となる穂先竿60が得られる。穂先竿60の外周面は、カーボンプリプレグ58によって覆われている。すなわち、ステップS15では、焼成体59の外表面を覆うカーボンプリプレグ58が完全に除去されない。
【0035】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態によれば、内径寸法が極めて小さい中空構造の穂先竿60を実現することができる。これにより、従来のソリッド穂先より軽く、且つ従来のチューブラー穂先よりもしなやかな穂先竿60を得ることができる。
【0036】
また、筒状体56に対するカーボンプリプレグ58の巻き付け方によって、様々な調子の穂先竿60を得ることができる。なお、筒状体56の外径寸法は、従来のマンドレルの直径と同等か或いはそれより大きいので、カーボンプリプレグ58を容易に巻回することができる。
【0037】
なお、ステップS14、S15の実行順序は図2の例に限定されない。すなわち、筒状体56の外周面にテーパ加工を施した後で、カーボンプリプレグ58を巻回して焼成してもよい。また、ステップS14、S15の一方或いは両方は、本発明に必須ではなく、省略することができる。
【符号の説明】
【0038】
10・・・釣竿
50・・・集束体
51・・・線材
52・・・カーボンロービング
53・・・炭素繊維
54・・・熱硬化性樹脂
55・・・引抜成形体
56・・・筒状体
57・・・貫通孔
58・・・カーボンプリプレグ
59・・・焼成体
60・・・穂先竿
図1
図2
図3
図4
図5