特許第6157382号(P6157382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157382
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】樹脂製成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20170626BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20170626BHJP
   A47G 19/00 20060101ALI20170626BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170626BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B32B27/36
   A47G19/00 A
   A47G19/00 G
   B32B27/00 H
   B65D1/00 120
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-43171(P2014-43171)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-168110(P2015-168110A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000176176
【氏名又は名称】三信化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100075524
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 重光
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100186897
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 さやか
(72)【発明者】
【氏名】田中 武彦
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−354221(JP,A)
【文献】 特開2001−238780(JP,A)
【文献】 特開2004−066596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
A47G 19/00−19/34
B32B 1/00−43/00
B65D 1/00− 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを成形して得られた内子の外に、ポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外の熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物からなる外子が積層された多層成形体。
【請求項2】
前記内子が、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを真空成形法または圧空成形法によって成形して得られたものである請求項1に記載の多層成形体。
【請求項3】
前記外子が、金型に前記内子を設置し、そこに射出成形することによって形成されたものである請求項1または2に記載の多層成形体。
【請求項4】
前記ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートの厚みが0.1〜0.8mmである請求項1〜3のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項5】
前記ポリエチレンナフタレート製無延伸シートが、最外層をポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートとし、中間層としてポリエチレンナフタレート以外の熱可塑性ポリエステル樹脂からなる層を含む積層シートである請求項1〜4のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項6】
前記ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートの片面が、加飾を施されている請求項1〜5のいずれかに記載の多層成形体。
【請求項7】
前記多層成形体が食器である請求項1〜6のいずれかに記載の多層成形体
【請求項8】
側面部の肉厚が1.0〜1.8mmの範囲である請求項7に記載の食器。
【請求項9】
ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを、真空成形法または圧空成形法によって成形して内子を得る工程、得られた内子を金型に設置し、そこにポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外の熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物を射出成形して外子を積層させる工程を含む多層食器の製造方法。
【請求項10】
前記ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートの片面が、印刷によって加飾を施されていることを特徴とする請求項9に記載の多層食器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製成形体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、ポリエチレンナフタレート樹脂を使用する樹脂製成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
学校、病院、企業内食堂など大規模で給食を行う施設では、陶磁器製食器は重く、破損し易いため樹脂製食器が多く用いられている。食器用の樹脂としては、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエステル、ポリスルフォンなどの熱可塑性樹脂が知られている。このような樹脂の中で、機械的特性、耐薬品性および寸法安定性などに優れかつ耐食品汚染性と透明性を有するということで、ポリエチレンナフタレート樹脂からなる食器が提案された(特許文献1)。しかしながら、ポリエチレンナフタレート樹脂からなる食器は、耐着色汚染性には優れているが、消毒、滅菌のために水あるいはアルカリ水で煮沸した場合、食器が変形するおそれがあることが分かった。
【0003】
そこで本出願人は、耐着色汚染性に優れると共に、耐沸騰水および耐アルカリ水煮沸性にも優れている食器として、内側部材をポリエチレンナフタレート樹脂、外側部材をポリエチレンナフタレート樹脂と他の熱可塑性ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート)との樹脂組成物とする多層食器(特許文献2)を提案し、さらに層間剥離性にも優れた食器としてポリエチレンナフタレート樹脂を内側とし、外側をポリエチレンナフタレート樹脂と芳香族ポリスルフォン系樹脂との樹脂組成物とする多層食器を提案した(特許文献3)。
【0004】
また、同様の試みとして第1の部材が主としてポリエチレンナフタレート樹脂からなり、第2の部材が、2,6−ナフタレンジカルボン酸単位とビス[4−(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルフォン単位と脂肪族グリコール単位とよりなるポリエステルからなる多層食器も提案されている(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、ポリエチレンナフタレート樹脂は、樹脂用に用いられる他の熱可塑性樹脂と比較して比重が大きく重いという特徴があるため、食器を多量に使用する施設では、食器を積み重ねて運搬したり、収納したりするので、食器の重量が取扱作業者等の負担になっているということが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−332717号公報
【特許文献2】特願2000−55780号公報
【特許文献3】特開2001−345221号公報
【特許文献4】特開2004−66596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために、成形体の優れた着色汚染性と、優れた耐煮沸変形性を維持しながら、重量を減少させることを鋭意研究した結果本発明に到達した。
前記のような従来公知の多層食器は、特許文献4に記載されているように射出成型機により二層成形されていたので、ポリエチレンナフタレート樹脂からなる1次成形物の厚みを減少させようとしても限界があった。すなわち、従来公知の成形法では1次成形物の厚みを0.9mmより薄くすることは不可能であった。
【0008】
本発明者は、射出成型機で二層成形するよりもポリエチレンナフタレート樹脂層をより薄くすることによって多層成形体の重量を減少させることができ、表面の優れた着色汚染性と、優れた耐煮沸変形性を有しており、しかも二層間の層剥離が起こらない多層成形体を提供できる成形法の開発に成功して本発明に到達したのである。
本発明は、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した成形体よりも重量を減少させ、かつ表面の優れた着色汚染性と、優れた耐煮沸変形性を有しており、二層間の層剥離が起こらない多層成形体、及びその製造方法を提供するものである。
また本発明は、全面に加飾を施したポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体や、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体よりも鮮明な加飾が施され多層成形体、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを成形して得られた内子の外に、ポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物からなる外子が積層された多層成形体が提供される。
【0010】
前記内子が、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを真空成形法または圧空成形法によって成形して得られたものである前記した多層成形体は本発明の好ましい態様である。
前記外子が、金型に前記内子を設置し、そこに射出成形することによって形成されたものである前記した多層成形体も本発明の好ましい態様である。
前記ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートの厚みが0.1〜0.8mmである前記した多層成形体は本発明の好ましい態様である。
【0011】
前記ポリエチレンナフタレート製無延伸シートが、最外層をポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートとし、中間層としてポリエチレンテレフタレート以外の熱可塑性ポリエステル樹脂からなる層を含む積層シートである前記した多層成形体は本発明の好ましい態様である。
【0012】
前記ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートの片面が、加飾を施されている前記した多層成形体は本発明の好ましい態様である。
【0013】
本発明はまた、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを、真空成形法または圧空成形法によって成形して内子を得る工程、得られた内子を金型に設置し、そこにポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外の熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物を射出成形して外子を積層させる工程を含む多層成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した成形体より重量を減少させることができ、表面の優れた着色汚染性と、成形体の優れた耐煮沸変形性を有している多層成形体が提供される。
本発明により、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した成形体より重量を減少させることができ、内側及び外側の両表面の優れた着色汚染性と、成形体の優れた耐煮沸変形性を有している多層成形体を製造できる方法が提供される。
本発明により、全面に加飾を施したポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体や、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体よりも内子の肉厚が薄いので鮮明な加飾が施され多層成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シートが、真空成形金型の上に載置した様子を示す断面概略図である。
図2】真空成形金型で内子が成形された様子を示す断面概略図である。
図3】成形された内子を示す断面図である。
図4】射出成形金型の凸型と凹型が開いている様子を示す断面概略図である。
図5図3の凸型に図3の内子がインサートされた様子を示す断面概略図である。
図6図5の射出成形金型の凸型と凹型が閉じられた様子を示す断面概略図である。
図7】本発明の多層成形体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを成形して得られた内子の外に、ポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物からなる外子が積層された多層成形体を提供するものである。
【0017】
本発明はまた、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを、真空成形法または圧空成形法によって成形して内子を得る工程、得られた内子を金型に設置し、そこにポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外の熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物を射出成形して外子を積層させる工程を含む多層成形体の製造方法を提供する。
【0018】
本発明の多層成形体は、ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートを成形して得られた内子の外に、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外の熱可塑性ポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物からなる外子を積層することにより得られるものである。ポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートからなる内子を成形する方法として、射出成形金型内にフィルムそのものを設置して、射出成形時の樹脂圧で所望の形状にしてもよいが、より安定して内子を成形するには、内子を真空成形法または圧空成形法によって成形することが好ましい。真空成形法または圧空成形法のより具体的方法として、それぞれストレート成形法、リバースドロー成形法、プラグアシスト成形法、プラグアシストリバースドロー成形法、ドレープ成形法、エアスリップ成形法、マッチモールド成形法、および接触加熱式圧空成形法などが例示される。
【0019】
真空成形法または圧空成形法によって成形した内子を射出成形金型にインサートして、外子を射出成形によって積層する成形法を採用すれば、射出成形用に一次金型と二次金型2基を備える必要がなく、射出成形用金型1基と射出成形金型より安価な真空成形用型または圧空成形用型を使用できるので、安価でかつ容易に多層成形体を得ることができる。
【0020】
前記したように従来公知の多層食器は、特許文献4に記載されているように射出成型機により積層多層成形されていたので、ポリエチレンナフタレート樹脂からなる1次成形物の厚みを減少させようとしても厚みを0.9mmより薄くすることは不可能であった。本発明の方法によれば、内子の厚みを0.1〜0.5mm程度の薄さにすることが可能となる。
【0021】
本発明の内子を成形するために使用されるポリエチレンナフタレート樹脂製シートは、無延伸シートであることが必要である。
市販されているポリエチレンナフタレート樹脂製シートは延伸シートである。ポリエチレンナフタレート樹脂製延伸シートを本発明の成形体を製造するために使用した場合には、得られる多層成形体は、層間剥離を起こし易いもので実用性に欠ける成形体しか得られない。
【0022】
本発明の多層成形体を得る成形法自体は、インサート成形法として知られているが、本発明は特定材料の無延伸シートを用いて成形した内子をインサートし、特定材料の外子を積層成形することにより、前記した格段に優れた性能を有するポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体が得られるのである。
【0023】
ポリエチレンナフタレート樹脂製シートの厚みは、0.1〜0.8mm程度であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.5mmであることが望ましい。
【0024】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)は、ナフタレンジカルボン酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールなどのグリコール類を主たるジオール成分とするポリエステルである。ナフタレン−2,6−ジカルボン酸がとくに好ましい。なお、PENは、エチレン−2,6−ナフタレート単位を50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含んでいるポリエステルであることが望ましいが、エチレン−2,6−ナフタレート以外の単位を50モル%未満の割合で含んでいてもよい。
【0025】
本発明においては、エチレングリコールは、全ジオール単位の50〜100モル%、好ましくは81〜100モル%、さらに好ましくは91〜100モル%を占め、ナフタレンジカルボン酸は、全ジカルボン酸単位の50〜100モル%、好ましくは81〜100モル%、さらに好ましくは91〜100モル%を占めていることが望ましい。
【0026】
ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)に含まれていてもよい共重合可能なオキシカルボン酸成分としては、オキシ安息香酸、ヒドロキシジフェニルカルボン酸などを挙げることができる。なお、特性を損なわない範囲で、三官能基以上の化合物、例えばグリセリン、トリメチルプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸等を共重合してもよい。
【0027】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シートを、最外層をポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートとし、中間層としてポリエチレンナフタレート以外の熱可塑性ポリエステル樹脂からなる層を含む積層シートとすることができる。積層シートの好ましい例として、両外層がポリエチレンナフタレート樹脂製無延伸シートであって、中間層がポリエチレンテレフタレートである三層シートを挙げることができるが、これに限られるものではない。このような積層シートとして、全体の厚さを前記した好ましい範囲とすることによって、ポリエチレンナフタレート樹脂が高いことによるコスト負担を低減することができる。積層シートとしてもポリエチレンナフタレート樹脂による耐汚染性等の効果は維持することができる。
【0028】
ポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂は、ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸を主たる酸成分とし、ジオール成分から得られる熱可塑性ポリエステルである。ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としてはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどを挙げることができる。ポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂の具体例は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどである。コストの点から、ポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。
【0029】
本発明の外子を構成するのは、ポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物である。
【0030】
本発明の芳香族ポリスルフォン系樹脂は、(−Ph−SO2−Ph−O−)(1)又は(−Ph−SO2−Ph−O−A−O−)(2)で示す繰り返し単位を有する樹脂である(式中Phは、パラフェニレン基を表す)。具体例としては、(1)の繰り返し単位からなるポリエーテルスルフォン、および(2)の繰り返し単位からなり、AがビスフェノールAに由来する構造単位であるポリスルフォン、ベンゾキノンから誘導された構造単位であるポリエーテル・エーテルスルフォン、ビフェニレン基であるポリフェニルスルフォンなどを挙げることができる。これらの中でも、ポリエーテルスルフォン(PES)が好ましい。芳香族ポリスルフォン系樹脂は、公知の方法で製造することができるし、市販されたものから適宜選択して使用することができる。
【0031】
本発明のポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂は、ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸を主たる酸成分とし、ジオール成分から得られる熱可塑性ポリエステルである。ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸などを挙げることができる。また、ジオール成分としてはエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどを挙げることができる。ポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂の具体例は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどである。中でも、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0032】
なお、テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルと、1,4−ブタンジオールとの縮合反応から得られうる芳香族ポリエステルである。ポリブチレンテレフタレートには、酸成分としてテレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルのほかにイソフタル酸などの他の酸成分に起因する構成単位が含まれていてもよい。ポリブチレンテレフタレートとして市販されているものから適宜選択して使用することができる。
【0033】
ポリエチレンナフタレート樹脂と、芳香族ポリスルフォン系樹脂およびポリエチレンナフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂から選ばれた樹脂との組成物中のポリエチレンナフタレート樹脂の割合は、10〜90質量%、好ましくは15〜60質量%、より好ましくは25〜60質量%であることが望ましい。
【0034】
本発明の多層成形体において、内子を形成するポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シートには、成形される内子の外子側となる面に加飾を施すことができる。前記した従来公知のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層食器では、ポリエチレンナフタレート樹脂を一次成形したのち、一次成形品の裏面に図柄等を印刷することによって加飾されていた(例えば特許文献3参照)。このような従来公知の多層食器では、一次成形品に凹凸があるために印刷方法としてはパット印刷やスクリーン印刷などに限定されるので、時間がかかる上に一部分の加飾に留まり全面に印刷することはできなかった。
【0035】
本発明では、ポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シートに図柄等を印刷することによって加飾することができるので、内子の加飾側全面に加飾することができるし、あらゆる可能な印刷法が採用できるので、鮮明な印刷を得ることができるし、写真を印刷することも容易である。また、本発明の内子は、従来技術の一次成形品よりも肉厚を薄くすることができるので、加飾した図柄等をより鮮明に見せることができる。
【0036】
図柄等を印刷するための印刷方法としては、グラビア印刷、平板印刷、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、パット印刷、スクリーン印刷などの公知の印刷方法を製品形状や印刷用途に応じて使用することができる。また、各種のプリント技術も採用することができる。特に多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷やグラビア印刷が適している。
【0037】
以下、図を用いて本発明をより具体的に説明する。
図1は、真空成型にあたって、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)無延伸シート1を、真空成形金型2の上に載置した様子を示す図である。無延伸シート1の下面が、成形後の内子の外子側になるので、無延伸シート1の外側面に図柄等の加飾が施されていてもよい。
【0038】
図2は、ポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シート1と、真空成形金型2の間を真空にすることによって、真空成形金型2に沿って内子3が成形された様子を示している。
なお、成形の際に情報から空気圧やプラグの力を利用して成形を支援してもよい。真空成型から取り出された内子は図3に示されている。
図4は、射出成形金型の凸型5と凹型6が開いている様子を示されている。図5には、図4の凸型5に真空成形で成形された内子3がインサートされている様子が示されている。
【0039】
図6は、図5に示された射出成形金型の凸型5と凹型6が閉じられた様子を示している。凸型5に真空成形で成形された内子3がインサートされており、内子3の下側、すなわち外側にキャビティ7が形成されている。キャビティ7に外子を形成する樹脂が射出によって注入されて本発明の多層成形体が形成されることになる。
【0040】
図7は、図6のキャビティ7に外子を形成する樹脂が射出によって注入された結果得られた本発明の多層成形体8が示されている。多層成形体8は椀形食器であって、内子3の外側に外子4が積層されている。
【0041】
本発明の多層成形体は、食品と接触する機会の多い成形体においてその特徴が発揮されるので、多層成形体の好ましい例として、椀形、皿形などの食器及び給食もしくは配膳用のトレイなどを挙げることができる。特に好ましいのは食器である。
本発明の多層成形体である食器は、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した食器より重量を減少させることができ、内側及び外側の両表面の優れた着色汚染性と、食器の優れた耐煮沸変形性を有している多層食器である。
【0042】
本発明の成形体が食器であるとき、上記した効果に加えて、食器の肉厚も減ずることができるので、食器を大量に扱う施設などでは、積み重ねて収納するときの高さを減ずることができる。換言すれば、限られた収納空間により多くの食器を収納することができるという効果も得られるのである。
本発明の成形体が食器であるとき、食器の側面部の肉厚が1.0〜1.8mm、好ましくは1.1〜1.6mmの範囲であるものは本発明の好ましい態様である。
【0043】
本発明の成形体がトレイであるとき、成形時に落下等によって破損することがあるが、本発明の内子をインサートして成形することによって強度が向上するので、成形中の破損を減少させることができる。ポリエチレンナフタレート樹脂としてリサイクル品を使用してトレイを成形するときには、とくに成形中の破損が起こり易いが、そのような破損の頻度を本発明によって改善することができる。
【0044】
またトレイの場合にも、真空成形法または圧空成形法によって成形した内子を射出成形金型にインサートして、外子を射出成形によって積層する成形法を採用すれば、射出成形用に一次金型と二次金型を備える必要がなく、射出成形金型より安価な真空成形用型または圧空成形用型を使用できるので、安価でかつ容易に図柄等の加飾が施されたトレイを得ることができる。
【0045】
本発明の成形体の形状が、凹部を縦断的にもしくは横断的に凸部で仕切るような形状であるとき、または平面視で端部が曲線を描く形状ではなく角部を有するような形状であるとき、内子を射出成型法で形成すると成形品に反りが出易く、また外子の金型にインサートし難いので、この場合には内子の成形を真空成形または圧空成形するとそりが出にくくなるので好ましい。
内子の成形を真空成形または圧空成形とすれば、このような不都合を回避することができる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
厚さ0.4mmのポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シートを用いて、真空成形で内子を成形し、それを側面部の肉厚が1.6mmの金型に設置して、射出成形を行い外子を積層する方法で、直径136mmのボウル状食器を製造した。これをボウル状食器1という。
得られたボウル状食器1について、重量試験と積み上げ高さ試験を行い、その結果を表1に示した。
【0047】
(比較例1)
側面部の肉厚が1.1mmの金型を用いて射出成形で内子を成形した後側面部の肉厚が2.2mmの金型に設置し外子を積層する方法で、直径136mmのボウル状食器を製造した。これをボウル状食器2という。
得られたボウル状食器2について、重量試験と積み上げ高さ試験を行い、その結果を表1に示した。
【0048】
(実施例
厚さ0.4mmのポリエチレンナフタレート樹脂無延伸シートを用いて、真空成形で内子を成形し、それを側面部の肉厚が1.6mmの金型に設置して、射出成形を行い外子を積層する方法で、直径136mmのボウル状食器を製造した。これを椀状食器1という。
得られた椀状食器1について、重量試験と積み上げ高さ試験を行い、その結果を表1に示した。
【0049】
(比較例)
面部の肉厚が1.1mmの金型を用いて射出成形で内子を成形した後側面部の肉厚が2.2mmの金型に設置し外子を積層する方法で、直径136mmのボウル状食器を製造した。これを椀状食器2という。
得られた椀状食器2について、重量試験と積み上げ高さ試験を行い、その結果を表1に示した。
【0050】
試験方法:
(1)重量試験
食器1個の重量を測定してgで表示した。
(2)積み上げ高さ試験
それぞれの食器40個を積み上げてその高さを測定しmmで表示した。
重量試験と積み上げ高さ試験の結果を表1に示した。
【0051】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により提供される多層成形体は、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した成形体より重量を減少させることができ、表面の優れた着色汚染性と、優れた耐煮沸変形性を有している多層成形体である。
本発明により、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した成形体より重量を減少させることができ、内側及び外側の両表面の優れた着色汚染性と、成形体の優れた耐煮沸変形性を有している多層成形体を製造できる方法が提供される。
本発明により、全面に加飾を施したポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体や、従来のポリエチレンナフタレート樹脂を使用した多層成形体よりも鮮明な加飾が施され多層成形体を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1.PEN無延伸シート
2.真空成形用型
3.内子
4.外子
5.凸型
6.凹型
7.キャビティ
8.多層成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7