(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157384
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 65/28 20060101AFI20170626BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20170626BHJP
F16D 121/24 20120101ALN20170626BHJP
F16D 125/40 20120101ALN20170626BHJP
F16D 125/52 20120101ALN20170626BHJP
【FI】
F16D65/28
B60T13/74 Z
F16D121:24
F16D125:40
F16D125:52
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-47734(P2014-47734)
(22)【出願日】2014年3月11日
(65)【公開番号】特開2015-172386(P2015-172386A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2016年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】見谷 俊明
(72)【発明者】
【氏名】碓井 広地
【審査官】
谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−099934(JP,A)
【文献】
特表2005−520997(JP,A)
【文献】
特表2006−522700(JP,A)
【文献】
特開2011−093333(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0308902(US,A1)
【文献】
特表2014−504711(JP,A)
【文献】
特開平10−267059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/28
B60T 13/74
F16D 121/24
F16D 125/40
F16D 125/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパーキング時に電動アクチュエータ(38)によって作動する車輪ブレーキ(15)が、左右の後輪にそれぞれ設けられる車両用ブレーキ装置において、左右いずれか一方の後輪に設けられる車輪ブレーキ(15)に、当該車輪ブレーキ(15)に加えて左右いずれか他方の後輪に設けられる車輪ブレーキ(15)を駆動する動力を発揮する前記電動アクチュエータ(38)が配設され、前記他方の後輪に設けられた車輪ブレーキ(15)に向けて前記電動アクチュエータ(38)からの動力を伝達するケーブル(54)が配索されることを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記車輪ブレーキは、パーキングブレーキレバー(35)を有するとともに該パーキングブレーキレバー(35)の牽引作動に応じてパーキングブレーキ状態となるドラムブレーキ(15)であり、左右の後輪にそれぞれ設けられる前記ドラムブレーキ(15)の前記パーキングブレーキレバー(35)の前記牽引作動の方向が、車両前後方向で相互に逆方向に設定されることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
前記パーキングブレーキレバー(35)の牽引作動の方向を車両前後方向の後方側として前記一方の後輪に設けられる前記ドラムブレーキ(15)に、前記電動アクチュエータ(38)が車両取付け状態で前記一方の後輪の車軸(14)よりも後方に位置するように配設されることを特徴とする請求項2に記載の車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のパーキング時に電動アクチュエータによって作動する車輪ブレーキが、左右の後輪にそれぞれ設けられる車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
左右の後輪の車輪ブレーキを、車両の略中央に配置される電動アクチュエータによって駆動してパーキングブレーキ状態が得られるようにしたものが、特許文献1で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−221244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが上記特許文献1で開示されるものでは、車両の略中央に電動アクチュエータが配置されており、電動アクチュエータを取付けるためのブラケットなどの特別な取付け構造が必要であり、また電動アクチュエータから左右の後輪側に分岐した一対のケーブルを配索する必要があってケーブルのレイアウトの自由度が少ない。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、電動アクチュエータを取付けるための車体側の特別な取付け構造を不要とするとともにケーブル配索のレイアウトの自由度を増大し得るようにした車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、車両のパーキング時に電動アクチュエータによって作動する車輪ブレーキが、左右の後輪にそれぞれ設けられる車両用ブレーキ装置において、左右いずれか一方の後輪に設けられる車輪ブレーキに、当該車輪ブレーキに加えて左右いずれか他方の後輪に設けられる車輪ブレーキを駆動する動力を発揮する前記電動アクチュエータが配設され、前記他方の後輪に設けられた車輪ブレーキに向けて前記電動アクチュエータからの動力を伝達するケーブルが配索されることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記車輪ブレーキは、パーキングブレーキレバーを有するとともに該パーキングブレーキレバーの牽引作動に応じてパーキングブレーキ状態となるドラムブレーキであり、左右の後輪にそれぞれ設けられる前記ドラムブレーキの前記パーキングブレーキレバーの前記牽引作動の方向が、車両前後方向で相互に逆方向に設定されることを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は、第2の特徴の構成に加えて、前記パーキングブレーキレバーの牽引作動の方向を車両前後方向の後方側として前記一方の後輪に設けられる前記ドラムブレーキに、前記電動アクチュエータが車両取付け状態で前記一方の後輪の車軸よりも後方に位置するように配設されることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の特徴によれば、左右いずれか一方の後輪の車輪ブレーキに電動アクチュエータが配設されるので、電動アクチュエータを取付けるためのブラケット等の特別な取付け構造を設けることが不要となり、電動アクチュエータの取付け性も向上する。また電動アクチュエータからの動力を伝達するケーブルが他方の後輪に向けて配索されるようにして左右の後輪間にケーブルが配索されればよく、ケーブル配索のレイアウトの自由度が増大する。
【0010】
また本発明の第2の特徴によれば、パーキングブレーキレバーを有する周知のドラムブレーキに本発明を好適に適用することができる。しかもパーキングブレーキレバーを車両前後方向の前方に向けて牽引することでパーキングブレーキ状態が得られるようにした従来周知のドラムブレーキがあるが、そのようなドラムブレーキを2つ用意して、一方のドラムブレーキのパーキングブレーキレバーの牽引方向を車両の前後方向後方側とし、他方のドラムブレーキのパーキングブレーキレバーの牽引方向を車両の前後方向前方側とするようにして周知のドラムブレーキを左右の後輪に用いることが可能であり、既存のドラムブレーキを有効に用いることを可能として流用性を高めることができる。
【0011】
さらに本発明の第3の特徴によれば、左右一方の後輪の車軸よりも後方に電動アクチュエータが配置されるので、構成部品の大部分が前記車軸よりも前方に配置されるサスペンションの構成部品との干渉が生じ難い位置に電動アクチュエータを配置して、電動アクチュエータのレイアウト上の自由度を増大することができる。また前輪で跳ね飛ばされた飛び石等が電動アクチュエータに当たることを極力防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】左後輪用ドラムブレーキの要部を車幅方向外方側から見た斜視図である。
【
図2】
図1とは反対側から左後輪用ドラムブレーキの要部を見た斜視図である。
【
図3】左後輪用ドラムブレーキの要部を車幅方向外側から見た正面図である。
【
図4】左後輪用ドラムブレーキの要部を車幅方向内方側から見て一部を切欠いた状態で示す斜視図である。
【
図5】四輪車両の左右後輪用ドラムブレーキのパーキング用動力伝達系を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、添付の
図1〜
図5を参照しながら説明すると、先ず
図1〜
図3において、四輪車両の左右いずれか一方の後輪である左後輪を車体に懸架するサスペンション11の一部を構成して車両の前後方向に延びるトレーリングアーム12の後端に、枠状のフレーム部13aを有するナックル13が固定されており、前記フレーム部13aの車幅方向外側に配置される左後輪の車軸14が該フレーム部13aに回転自在に軸支される。
【0014】
前記左後輪に設けられる車輪ブレーキはドラムブレーキ15であり、このドラムブレーキ15のバックプレート16が前記フレーム部13aに固着される。前記バックプレート16の下部には、前後一対である第1および第2ブレーキシュー17,18の拡張、収縮時の支点となるアンカブロック21が固設され、第1および第2ブレーキシュー17,18の外周には、前記左後輪とともに回転するブレーキドラム(図示せず)に摺接可能な摩擦ライニング19,20がそれぞれ接合される。
【0015】
前記バックプレート16の上部には、第1および第2ブレーキシュー17,18を拡張作動する力を発揮するホイールシリンダ22が、該ホイールシリンダ22が備える一対のピストン23の外端を第1および第2ブレーキシュー17,18の上端部に対向させるようにして固定される。このホイールシリンダ22は、ブレーキペダルで操作されるマスタシリンダ(図示せず)の出力液圧によって作動して第1および第2ブレーキシュー17,18を拡張方向に駆動する。
【0016】
また第1および第2ブレーキシュー17,18の下端部間には、それらのブレーキシュー17,18の下端部を前記アンカブロック21側に付勢する第1コイルばね24が設けられ、第1および第2ブレーキシュー17,18の上端部間には、それらのブレーキシュー17,18を収縮方向に付勢する第2コイルばね25が設けられる。また第1および第2ブレーキシュー17,18の上部間には、収縮位置規制ストラット28が、それらのブレーキシュー17,18の収縮位置を規制するようにして設けられる。この収縮位置規制ストラット28は、第1および第2ブレーキシュー17,18のうち第1ブレーキシュー17の上部に係合する第1係合部29aを一端部に有する筒体29と、該筒体29に一端部が軸方向相対移動可能に挿入されるとともに第2ブレーキシュー18の上部に係合する第2係合部30aを他端部に有するねじ軸30と、前記筒体29の他端に当接するようにして前記ねじ軸30に螺合されるラチェット車31とを備える。
【0017】
また前記ラチェット車31の外周に係合した調節レバー32が第2ブレーキシュー18に支軸33を介して回動可能に支持され、第2ブレーキシュー18および前記調節レバー32間には第3コイルばね34が設けられる。そして第1および第2ブレーキシュー17,18が前記ホイールシリンダ22の作動によって拡張作動する際に前記摩擦ライニング19,20の摩耗に起因して一定値以上相対移動して拡張した場合には、前記第3コイルばね34のばね力によって前記調節レバー32が前記支軸33の軸線まわりに
図3の時計方向に回動し、それによって前記ラチェット車31が回動駆動され、前記ねじ軸30が
図3の左方に送り出されることで前記収縮位置規制ストラット28の有効長さが増加補正される。
【0018】
ところで、第1ブレーキシュ−17に正面視で一部が重なるようにして上下に延びるパーキングブレーキレバー35の上端部が第1ブレーキシュ−17の上部にピン36を介して連結されており、このパーキングブレーキレバー35の上部には、前記収縮位置規制ストラット28の筒体29が有する第1係合部29aが係合される。車両のパーキング時には、前記パーキングブレーキレバー35が
図3の反時計方向すなわち車両前後方向の後方に向けて回動、駆動されるものであり、このパーキングブレーキレバー35の回動によって、第2ブレーキシュー18に、当該ブレーキシュー18が有する摩擦ライニング20を前記ブレーキドラムの内周に圧接させる方向の力が前記収縮位置規制ストラット28を介して作用する。さらに前記パーキングブレーキレバー35が
図3の反時計方向に続けて回動、駆動されると、前記パーキングブレーキレバー35が前記収縮位置規制ストラット28の第1係合部29aとの係合点を支点として回動し、今度は、ピン36を介して第1ブレーキシュー17が拡張作動し、第1ブレーキシュー17の摩擦ライニング19が前記ブレーキドラムの内周に圧接することになる。すなわち第1および第2ブレーキシュー17,18の摩擦ライニング19,20が前記ブレーキドラムの内周に圧接してパーキングブレーキ状態が得られることになる。
【0019】
図4を併せて参照して、前記パーキングブレーキレバー35は、電動アクチュエータ38が発揮する動力で駆動されるものであり、前記電動アクチュエータ38は、車両取付け状態で前記左後輪の車軸14よりも後方に固定配置される。
【0020】
前記ドラムブレーキ15は、前記パーキングブレーキレバー35が車両前後方向の後方に向かって作動するのに応じてブレーキ作動する姿勢で前記左後輪に取付けられており、前記電動アクチュエータ38は、その作動時に前記パーキングブレーキレバー35を車両前後方向の後方に向かって牽引するようにして前記パーキングブレーキレバー35に連結される。
【0021】
前記電動アクチュエータ38は、回転軸線を上下方向としてケーシング39に取り付けられる電動モータ40と、該電動モータ40の回転動力を直線方向の力に変換するようにして前記ケーシング39に内蔵される動力変換機構44とを備えるものであり、前記動力変換機構44の一部は、前記電動モータ40の作動に応じて回転するギヤ45と、そのギヤ45を同軸に貫通して該ギヤ45に固定される円筒状の回転筒46と、該回転筒46の一端部にねじ込まれる第1雄ねじ部47を一体に有する第1伝動軸48と、前記回転筒46の他端部にねじ込まれる第2雄ねじ部49を一体に有する第2伝動軸50とで構成される。
【0022】
前記回転筒46の内周には、第1雄ねじ部47を螺合させる第1雌ねじ部51と、第2雄ねじ部49を螺合させる第2雌ねじ部52とが、前記回転筒46の軸線方向中央部の両側に分かれて形成されており、前記電動モータ40の作動に応じた前記回転筒46の回転によって第1および第2伝動軸48,50が前記回転筒46内に引き込まれるように、第1雄ねじ部47および第1雌ねじ部51と、第2雄ねじ部49および第2雌ねじ部52とが形成される。
【0023】
第1伝動軸48に一端部が連結されるケーブル53は、その牽引時に左後輪のドラムブレーキ15をパーキングブレーキ状態とすべく該ドラムブレーキ15のバックプレート16を移動自在に貫通してパーキングブレーキレバー35に連結される。
【0024】
一方、パーキングブレーキレバーを車両前後方向の前方に向けて牽引することでパーキングブレーキ状態が得られるようにした従来周知のドラムブレーキ15が右後輪に装着される。すなわち左右の後輪にそれぞれ設けられる前記ドラムブレーキ15の前記パーキングブレーキレバー35の前記牽引作動の方向が、車両前後方向で相互に逆方向に設定されることになる。
【0025】
前記電動アクチュエータ38からの動力を伝達すべく第2伝動軸50に一端部が連結されるケーブル54は、
図5で示すように、右後輪に設けられる前記ドラムブレーキ15まで前記電動アクチュエータ38から配索され、車両前後方向前方側から右後輪用ドラムブレーキ15のパーキングブレーキレバーに連結される。
【0026】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、左右いずれか一方の後輪である左後輪に設けられる車輪ブレーキとしてのドラムブレーキ15に、当該ドラムブレーキ15に加えて他方の後輪である右後輪に設けられるドラムブレーキ15を駆動する動力を発揮する電動アクチュエータ38が配設されるので、電動アクチュエータ38を取付けるためのブラケット等の特別な取付け構造を設けることが不要となり、電動アクチュエータ38の取付け性も向上する。また前記右後輪に設けられたドラムブレーキ15に向けて前記電動アクチュエータ38からの動力を伝達するケーブル54が配索されるので、左右の後輪間にケーブル54が配索されればよく、ケーブル配索のレイアウトの自由度が増大する。
【0027】
また本発明を適用する車輪ブレーキをドラムブレーキ15とすることで、パーキングブレーキレバー35を有する周知のドラムブレーキ15に本発明を好適に適用することができる。しかもパーキングブレーキレバー35を車両前後方向の前方に向けて牽引することでパーキングブレーキ状態が得られるようにした従来周知のドラムブレーキ15があるが、そのようなドラムブレーキ15を2つ用意して、一方のドラムブレーキ15のパーキングブレーキレバー35の牽引方向を車両の前後方向後方側とし、他方のドラムブレーキ15のパーキングブレーキレバー35の牽引方向を車両の前後方向前方側とするようにして周知のドラムブレーキ15を左右の後輪に用いることが可能であり、既存のドラムブレーキ15を有効に用いることを可能として流用性を高めることができる。
【0028】
さらに前記パーキングブレーキレバー35の牽引作動の方向を車両前後方向の後方側として左後輪に設けられる前記ドラムブレーキ15に、電動アクチュエータ38が車両取付け状態で左後輪の車軸14よりも後方に位置するように配設されるので、構成部品の大部分が前記車軸14よりも前方に配置されるサスペンション11の構成部品との干渉が生じ難い位置に電動アクチュエータ38を配置して、電動アクチュエータ38のレイアウト上の自由度を増大することができる。また前輪で跳ね飛ばされた飛び石等が電動アクチュエータ38に当たることを極力防止することができる。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0030】
14・・・車軸
15・・・車輪ブレーキであるドラムブレーキ
35・・・パーキングブレーキレバー
38・・・電動アクチュエータ
54・・・ケーブル