特許第6157429号(P6157429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6157429潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157429
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/10 20060101AFI20170626BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   A61L31/10
   A61L31/12 100
【請求項の数】3
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-176046(P2014-176046)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-107312(P2015-107312A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年2月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-218590(P2013-218590)
(32)【優先日】2013年10月21日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 康久
(72)【発明者】
【氏名】中下 武文
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0086234(US,A1)
【文献】 特開2001−029452(JP,A)
【文献】 特開平10−000231(JP,A)
【文献】 特開平07−047120(JP,A)
【文献】 特開平05−115541(JP,A)
【文献】 特開平10−330383(JP,A)
【文献】 特開平04−250158(JP,A)
【文献】 国際公開第2001/060923(WO,A1)
【文献】 特開2006−061273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属医療用具の表面を、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物で処理する工程、及び、該処理工程で得られた表面処理金属医療用具を、湿度50%以上の条件下に20〜60℃で20〜60時間保持する工程を含み、
該金属医療用具は、ステンレス、又は、ニッケル−チタン合金であり、
該ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、又は、ポリオキシイソプロピレン基であり、
該金属塩含有親水性基は、アルカリ金属塩含有親水性基、又は、アルカリ土類金属塩含有親水性基であり、
該ハロゲン塩含有親水性基は、塩素塩含有親水性基であり、
該フッ素含有疎水性基が、パーフルオロオキシアルキレン基である
ことを特徴とする潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具の製造方法。
【請求項2】
前記処理工程が、pH5以下の条件下で行われる請求項1記載の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具の製造方法。
【請求項3】
金属医療用具の表面を、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物のpH2〜5に調整された溶液で処理する工程、及び、該処理工程で得られた表面処理金属医療用具を、湿度50%以上の条件下に20〜60℃で保持する工程を含み、
該金属医療用具は、ステンレス、又は、ニッケル−チタン合金であり、
該ポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、又は、ポリオキシイソプロピレン基であり、
該金属塩含有親水性基は、アルカリ金属塩含有親水性基、又は、アルカリ土類金属塩含有親水性基であり、
該ハロゲン塩含有親水性基は、塩素塩含有親水性基であり、
該フッ素含有疎水性基が、パーフルオロオキシアルキレン基である
ことを特徴とする潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤーやステント等は、血管、気道、尿道その他体腔または組織内に挿入されたり、さらに留置されたりすることがある。このようにガイドワイヤーやステント等の医療用具が体内に挿入されるときには、体内の組織等を損傷して炎症を引き起こしたり、患者に苦痛を与えたりすることがあり、これらの問題を改善するために、体内に挿入される医療用具の摺動性を向上させることが求められていた。
更に体内に長期間留置されるステント等は、表面にタンパク質や細胞が吸着すると、例えば血栓となり、血管が塞がるなどの問題が起きるため、表面にタンパク質や細胞が極力付かないことが求められている。
【0003】
上述の問題を改善する方法として、ガイドワイヤーやステント等の医療用具の表面を親水性樹脂やフッ素樹脂などでコーティングする方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、医療用具の表面に潤滑性を付与し、医療用具の摺動性を向上させる方法が種々試みられている。しかしながら、いずれも医療用具の表面に樹脂をコーティングする、又は、コーティング後に硬化を行うのみであって、特に医療用具の表面が金属である場合には、医療用具の表面と強固に結合していないためコーティング樹脂が医療用具表面から容易に剥離、脱離し、医療用具の摺動性が低下してしまうという問題や、タンパク質や細胞が留置中に徐々に付着するという問題があった。このため、摺動性の低下や、タンパク質や細胞の低吸着・低付着能の低下が抑制された金属医療用具の開発が求められていた。
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、ガイドワイヤーやステント等の金属医療用具の表面に潤滑層を強固に結合させることにより、金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を付与したうえで、更に金属医療用具表面の潤滑層の耐久性を向上させて、摺動性の低下、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の低下を抑制した金属医療用具、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、官能基を有するシラン化合物により処理された表面を少なくとも一部に有する金属医療用具であって、該官能基が、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基であることを特徴とする潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具に関する。
【0007】
上記金属塩含有親水性基は、アルカリ金属塩含有親水性基、又は、アルカリ土類金属塩含有親水性基であることが好ましい。
【0008】
上記ハロゲン塩含有親水性基は、塩素塩含有親水性基であることが好ましい。
【0009】
上記フッ素含有疎水性基は、パーフルオロオキシアルキレン基であることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、金属医療用具の表面を、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物で処理する工程を含むことを特徴とする潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具の製造方法に関する。
【0011】
上記製造方法は、更に、上記処理工程で得られた表面処理金属医療用具を、湿度50%以上の条件下に保持する工程を含むことが好ましい。
【0012】
上記処理工程は、pH5以下の条件下で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物により金属医療用具の表面を処理するため、金属医療用具の表面に存在する水酸基と当該シラン化合物とが化学結合で結合することとなり、金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が付与され、更にその表面の潤滑層の耐久性が向上して、手でこするなどの応力がかかっても金属医療用具の摺動性の低下を抑制することができる。また、長期間留置する間に潤滑層が流れて取れていき、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が低下するのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具は、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物により処理された表面を少なくとも一部に有するものである。
従来の表面処理、コーティングによって得られる金属医療用具表面上の潤滑層は当該表面との間に化学的な結合を形成しておらず、手でこするなどの応力がかかると容易に剥離、脱離してしまうため、耐久性、摺動性の維持に問題があった。更に、長期間留置する間に潤滑層が流れて取れていき、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が低下するという問題があった。これに対して、本発明の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具では、上記官能基を有するシラン化合物による処理により、金属医療用具表面に存在する水酸基と当該シラン化合物とが脱水または脱酸縮合反応し、化学結合が形成されている。これによって、金属医療用具表面上の潤滑層がこすれなどの応力で剥離、脱離してしまうのが抑制され、金属医療用具の摺動性の低下を防ぐことが可能となっている。更に、長期間留置する間に潤滑層が流れて取れていき、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が低下するのを抑制することも可能となっている。
また、シラン化合物がポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基又はハロゲン塩含有親水性基を有する場合には、当該官能基は特に水との親和性が高いため、周りにより多くの水分子を保持でき、この水分子により流体潤滑が起こることから、このような官能基を有するシラン化合物により処理することで、金属医療用具の摺動性を目覚ましく向上させることができる。更に、長期間留置する間に潤滑層が流れて取れていき、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が低下するのを抑制することも可能となっている。
他方、シラン化合物がフッ素含有疎水性基を有する場合には、当該官能基が表面張力を著しく下げることができるため、フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物により処理することで、金属医療用具の表面とその表面と接するもの(例えば、金属医療用具がガイドワイヤーである場合の、カテーテル内面や体細胞など)との間の分子の凝着力が大きく下がることから、金属医療用具の摺動性を大きく向上させることが可能である。更に、長期間留置する間に潤滑層が流れて取れていき、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が低下するのを抑制することも可能となっている。
【0015】
本発明の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具は、上記シラン化合物により処理された表面を少なくとも潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の必要とされる箇所に有していればよいが、表面全体が上記シラン化合物により処理されたものであってもよい。
【0016】
上記シラン化合物は、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するものであって、かつ、金属医療用具の表面に存在する水酸基と化学結合を形成することができるものであればよい。そのようなシラン化合物としては、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有し、更に、ケイ素原子に結合したアルコキシ基やハロゲン基等の水酸基と反応することができる基を有するシラン化合物が挙げられる。
【0017】
上記シラン化合物のうち、ポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物は、分子中に、ポリオキシアルキレン基と、金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基とを有していればよく、そのようなシラン化合物は金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基により金属医療用具の表面と化学的に結合することができ、また、ポリオキシアルキレン基により金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を付与することができるため、本発明の効果を充分に奏することができる。このように、上記シラン化合物がポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0018】
上記ポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物としては、なかでも、加水分解性基及びポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物(1分子内)が好ましい。ここで、加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などに代表される後述の加水分解性基などが挙げられ、ポリオキシアルキレン基としては、例えば、後述の直鎖状又は分岐鎖状のポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基などが挙げられる。
【0019】
上記ポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物としては、下記一般式(1)又は(2)で表されるシラン化合物が好ましい。
【0020】
【化1】
【0021】
上記一般式(1)中、Aは、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアシル基を表す。Raは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基を表す。Rbは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Rc、Rd及びReは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。ただし、Rc、Rd及びReの少なくとも1つは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基である。xは、RaOで表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位数を表し、2〜500の整数である。
【0022】
【化2】
【0023】
上記一般式(2)中、Rfは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基を表す。Rg及びRhは、同一又は異なって、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。ただし、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnの少なくとも1つは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基である。yは、RfOで表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位数を表し、2〜500の整数である。
【0024】
上記一般式(1)におけるAとしては、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアシル基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜2のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜2のアシル基である。具体的に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アセチル基、プロピオニル基である。特に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基である。
【0025】
上記一般式(1)におけるRaとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。具体的に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基であり、より好ましくは、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基である。特に好ましくは、エチレン基、プロピレン基である。
【0026】
上記一般式(1)におけるRbとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基である。具体的に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基である。特に好ましくは、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基である。
【0027】
上記一般式(1)におけるRc、Rd及びReは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であって、Rc、Rd及びReの少なくとも1つが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であることが水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、少なくとも1つが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態である。更に好ましい形態は、Rc、Rd及びReがいずれも同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態、Rc、Rd及びReのうち少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、残りがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。特に好ましい形態は、Rc、Rd及びReがいずれも同一又は異なってメトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基である形態、Rc、Rd及びReのうち2つが同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基であり、残り1つがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態、Rc、Rd及びReのうち1つがフッ素原子、塩素原子、又は、臭素原子であり、残り2つが同一又は異なって、メチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。
【0028】
上記一般式(1)におけるxは、RaOで表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位数を表すが、2〜500の整数であることが水との親和性の観点から好ましく、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上である。また、より好ましくは200以下である。
【0029】
このように、上記一般式(1)において、(RaO)が、直鎖状又は分岐鎖状のポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表し、Rc、Rd及びReの少なくとも1つが、加水分解性基となっている。
【0030】
上記一般式(2)におけるRfとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基が分子の回転運動性又は屈曲性の観点から好ましい。具体的に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基である。特に好ましくは、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基である。
【0031】
上記一般式(2)におけるRg及びRhしては、同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基であることが親水性又は加水分解性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基であることである。具体的に好ましくは、同一又は異なって、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基であり、特に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基であることである。
【0032】
上記一般式(2)におけるRi、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であって、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnの少なくとも1つが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であることが親水性又は加水分解性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、少なくとも1つが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態である。更に好ましい形態は、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnがいずれも同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnのうち少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、残りがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。特に好ましい形態は、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnがいずれも同一又は異なってメトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基である形態、Ri、Rj及びRkのうち2つ並びにRl、Rm及びRnのうち2つが、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基であり、Ri、Rj及びRkのうちの残り1つ並びにRl、Rm及びRnのうちの残り1つが、同一又は異なって、メチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態、Ri、Rj及びRkのうち1つ並びにRl、Rm及びRnのうち1つが、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、又は、臭素原子であり、Ri、Rj及びRkのうちの残り2つ並びにRl、Rm及びRnのうちの残り2つが、同一又は異なって、メチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。
【0033】
上記一般式(2)におけるyは、RfOで表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位数を表すが、2〜500の整数であることが分子の回転運動性又は屈曲性の観点から好ましく、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上である。また、より好ましくは200以下である。
【0034】
このように、上記一般式(2)において、(RfO)が、直鎖状又は分岐鎖状のポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表し、Ri、Rj、Rk、Rl、Rm及びRnのうち少なくとも1つが、加水分解性基となっている。
【0035】
上記一般式(1)で表される化合物の好ましい形態として、例えば、下記化学式(3)〜(5)で表される化合物が挙げられる。
【0036】
【化3】
【0037】
上記一般式(2)で表される化合物の好ましい形態として、例えば、下記化学式(6)〜(7)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
【化4】
【0039】
上記ポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物の市販品としては、Gelest社製のSIA0078.0(上記化学式(3)で表される化合物)、SIH6188.0(上記化学式(4)で表される化合物)、SIM6492.57(上記化学式(5)で表される化合物)、SIB1824.84(上記化学式(6)で表される化合物)、SIB1660.0(上記化学式(7)で表される化合物)などが挙げられる。
【0040】
上記シラン化合物のうち、金属塩含有親水性基を有するシラン化合物は、分子中に、金属塩を含有する親水性基と、金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基とを有していればよく、そのようなシラン化合物は金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基により金属医療用具の表面と化学的に結合することができ、また、金属塩含有親水性基により金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を付与することができるため、本発明の効果を充分に奏することができる。このように、上記シラン化合物が金属塩含有親水性基を有するシラン化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物は、分子中に、金属塩含有親水性基を1つ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。
【0041】
上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物としては、なかでも、加水分解性基及び金属塩含有親水性基を有するシラン化合物(1分子内)が好ましい。ここで、加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などに代表される後述の加水分解性基などが挙げられ、金属塩含有親水性基としては、例えば、後述するものが挙げられる。
【0042】
上記金属塩含有親水性基としては、カルボン酸金属塩、ホスホン酸エステル金属塩、スルホン酸金属塩が好ましい。上記金属塩含有親水性基がこのような基であると、水の保持性が向上する。
【0043】
上記金属塩含有親水性基の金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属であることが好ましい。上記金属塩含有親水性基の金属がアルカリ金属、アルカリ土類金属であると、水の保持性が向上する。上記金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが特に好ましい。
このように、上記金属塩含有親水性基が、アルカリ金属塩含有親水性基、又は、アルカリ土類金属塩含有親水性基であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0044】
上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物中の、金属医療用具の表面の水酸基と反応することができる基としては、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基等の加水分解性基を有するアルコキシシリル基;ヒドロキシシリル基;などが挙げられ、上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物は、分子中に、上記金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基を1つ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。
【0045】
なかでも、上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物は、上記金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基として、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリヒドロキシシリル基を有していることが好ましい。
【0046】
上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物としては、例えば、下記一般式(8)又は(9)で表されるシラン化合物が好ましい。
【0047】
【化5】
【0048】
上記一般式(8)中、Ro、Rp及びRqは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。ただし、Ro、Rp及びRqの少なくとも1つは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基である。Rr及びRsは、同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜7のアルキレン基を表す。Xは、同一又は異なって、金属塩含有親水性基を表す。rは、0又は1である。
【0049】
【化6】
【0050】
上記一般式(9)中、Rt、Ru及びRvは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。ただし、Rt、Ru及びRvの少なくとも1つは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基である。Rwは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基を表す。Rxは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基を表す。Xは、同一又は異なって、金属塩含有親水性基を表す。zは、RxOで表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位数を表し、0〜500の整数である。
【0051】
上記一般式(8)におけるRo、Rp及びRqは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であって、Ro、Rp及びRqの少なくとも1つが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であることが水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、少なくとも1つが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態である。更に好ましい形態は、Ro、Rp及びRqがいずれも同一又は異なって、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態、Ro、Rp及びRqのうち少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、残りがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。特に好ましい形態は、Ro、Rp及びRqがいずれも同一又は異なってヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基である形態である。
【0052】
上記一般式(8)におけるRr及びRsは、同一又は異なって、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜7のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基、更に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキレン基、特に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ヘプテン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基がより好ましい。
【0053】
上記一般式(8)のXで表される金属塩含有親水性基としては、下記一般式(10)〜(12)で表される官能基などが好ましい。中でも、潤滑性、摺動性の観点からは、下記一般式(12)で表される官能基が特に好ましい。
【0054】
【化7】
【0055】
上記一般式(10)、(12)中のRyは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基を表す。上記一般式(11)中のRzは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基を表す。上記一般式(10)〜(12)中のZは、1価の金属イオン(特には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンが好ましい。)を表す。また、上記一般式(10)〜(12)中の*は、結合手を表す。
【0056】
上記一般式(8)におけるXとしては、なかでも、Ryがメチレン基、エチレン基、プロピレン基であり、Zがナトリウムイオン、カリウムイオンである一般式(10)で表される官能基、Rzがメチル基、エチル基、プロピル基であり、Zがナトリウムイオン、カリウムイオンである一般式(11)で表される官能基、Ryがメチレン基、エチレン基、プロピレン基であり、Zがナトリウムイオン、カリウムイオンである一般式(12)で表される官能基がより好ましい。
【0057】
上記一般式(9)におけるRt、Ru及びRvは、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であって、Rt、Ru及びRvの少なくとも1つが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であることが水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、少なくとも1つが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態である。更に好ましい形態は、Rt、Ru及びRvがいずれも同一又は異なって、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態、Rt、Ru及びRvのうち少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、残りがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。特に好ましい形態は、Rt、Ru及びRvがいずれも同一又は異なってヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基である形態である。
【0058】
上記一般式(9)におけるRwとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基がより好ましい。
【0059】
上記一般式(9)におけるRxとしては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。具体的に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基である。特に好ましくは、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基である。
【0060】
上記一般式(9)におけるXは、上記一般式(8)におけるXと同様である。
【0061】
上記一般式(9)におけるzは、RxOで表されるオキシアルキレン基の繰り返し単位数を表すが、0〜500の整数であることが水との親和性の観点から好ましく、RxOで表されるオキシアルキレン基を含む場合、2〜500であることがより好ましい。更に好ましくは5以上、特に好ましくは7以上である。また、更に好ましくは200以下である。
【0062】
このように、上記一般式(8)、(9)においては、Xが金属塩含有親水性基を表し、上記一般式(8)ではRo、Rp及びRqの少なくとも1つが、上記一般式(9)ではRt、Ru及びRvの少なくとも1つが、加水分解性基となっている。
【0063】
上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物の好ましい形態として、例えば、下記化学式(13)〜(15)で表される化合物が挙げられる。
【0064】
【化8】
【0065】
上記金属塩含有親水性基を有するシラン化合物の市販品としては、Gelest社製のSIT8402.0(上記化学式(13)で表される化合物)、SIT8378.5(上記化学式(14)で表される化合物)、SIT8192.2(上記化学式(15)で表される化合物)などが挙げられる。
【0066】
上記シラン化合物のうち、ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物は、分子中に、ハロゲン塩を含有する親水性基と、金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基とを有していればよく、そのようなシラン化合物は金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基により金属医療用具の表面と化学的に結合することができ、また、ハロゲン塩含有親水性基により金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を付与することができるため、本発明の効果を充分に奏することができる。このように、上記シラン化合物がハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物は、分子中に、ハロゲン塩含有親水性基を1つ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。
【0067】
上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物としては、なかでも、加水分解性基及びハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物(1分子内)が好ましい。ここで、加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基などに代表される後述の加水分解性基などが挙げられ、ハロゲン塩含有親水性基としては、例えば、後述するものが挙げられる。
【0068】
上記ハロゲン塩含有親水性基としては、アンモニウムハロゲン塩が好ましい。上記ハロゲン塩含有親水性基がこのような基であると、水の保持性がより向上する。
【0069】
上記ハロゲン塩含有親水性基のハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素であってよいが、なかでも、水の保持性および安定性の観点から、塩素、臭素が好ましく、特に好ましくは、塩素である。すなわち、上記ハロゲン塩含有親水性基が、塩素塩含有親水性基であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0070】
上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物中の、金属医療用具の表面の水酸基と反応することができる基としては、例えば、メトキシシリル基、エトキシシリル基等の加水分解性基を有するアルコキシシリル基;ヒドロキシシリル基;などが挙げられ、上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物は、分子中に、上記金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基を1つ有していてもよいし、2つ以上有していてもよい。
【0071】
なかでも、上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物は、上記金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基として、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリヒドロキシシリル基を有していることが好ましく、トリメトキシシリル基を有していることが特に好ましい。
【0072】
上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物としては、例えば、下記一般式(16)で表されるシラン化合物、又は、下記一般式(17)で表される結合単位Aと下記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物が好ましい。中でも、潤滑性、摺動性の観点からは、下記一般式(17)で表される結合単位Aと下記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物が特に好ましい。
【0073】
【化9】
【0074】
上記一般式(16)中、R101、R102及びR103は、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。ただし、R101、R102及びR103の少なくとも1つは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基である。R104は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜7のアルキレン基を表す。R105、R106及びR107は、同一又は異なって、水素原子、又は、エーテル結合を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基を表す。X′は、ハロゲン原子を表す。
【0075】
【化10】
【0076】
上記一般式(17)中、R111、R112及びR113は、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。ただし、R111、R112及びR113の少なくとも1つは、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基である。R114は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜7のアルキレン基を表す。R115は、水素原子、又は、エーテル結合を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基を表す。R116は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基を表す。X′は、ハロゲン原子を表す。naは1以上の整数である。
【0077】
【化11】
【0078】
上記一般式(18)中、R117は、水素原子、又は、エーテル結合を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基を表す。R118は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基を表す。nbは1以上の整数である。
【0079】
上記一般式(16)におけるR101、R102及びR103は、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であって、R101、R102及びR103の少なくとも1つが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であることが水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、少なくとも1つが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態である。更に好ましい形態は、R101、R102及びR103がいずれも同一又は異なって、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態、R101、R102及びR103のうち少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、残りがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。特に好ましい形態は、R101、R102及びR103がいずれも同一又は異なってメトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基である形態である。
【0080】
上記一般式(16)におけるR104は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜7のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基、更に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキレン基、特に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ヘプテン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基がより好ましい。
【0081】
上記一般式(16)におけるR105、R106及びR107は、同一又は異なって、水素原子、又は、エーテル結合を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基であることが水との親和性の観点から好ましい。なお、当該直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基がエーテル結合を有する場合、エーテル結合の挿入位置は特に制限されず、また、アルキル基1つ当たりエーテル結合は1つ挿入されていてもよいし、2つ以上挿入されていてもよい。上記R105、R106及びR107としてより好ましくは、同一又は異なって、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基である。更に好ましい形態は、R105、R106及びR107のうち少なくとも1つが、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基であって、残りが、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基である形態である。特に好ましい形態は、R105、R106及びR107のうち2つが、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基であって、残り1つが、水素原子である形態、R105、R106及びR107いずれも同一又は異なって、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基である形態である。
【0082】
上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基である。特に好ましくは、メチル基、エチル基、イソブチル基である。
【0083】
上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基としては、具体的には、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシイソプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシイソプロピル基、プロポキシエチル基、プロポキシエチル基などが挙げられ、好ましくは、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシイソプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基であり、より好ましくは、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシイソプロピル基である。特に好ましくは、メトキシメチル基、メトキシエチル基である。
【0084】
上記一般式(16)におけるX′は、ハロゲン原子を表し、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であってよいが、なかでも、水の保持性の観点から、塩素原子、臭素原子が好ましく、特に好ましくは、塩素原子である。
【0085】
上記一般式(17)におけるR111、R112及びR113は、同一又は異なって、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であって、R111、R112及びR113の少なくとも1つが、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜3のアルコキシ基であることが水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、同一又は異なって、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、少なくとも1つが、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態である。更に好ましい形態は、R111、R112及びR113がいずれも同一又は異なって、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基である形態、R111、R112及びR113のうち少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又は、イソプロポキシ基であって、残りがメチル基、エチル基、プロピル基、又は、イソプロピル基である形態である。特に好ましい形態は、R111、R112及びR113がいずれも同一又は異なってメトキシ基、エトキシ基、又は、プロポキシ基である形態である。
【0086】
上記一般式(17)におけるR114は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜7のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基、更に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキレン基、特に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、ヘプテン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基がより好ましい。
【0087】
上記一般式(17)におけるR115は、水素原子、又は、エーテル結合を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基であることが水との親和性の観点から好ましい。なお、当該直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基がエーテル結合を有する場合、エーテル結合の挿入位置は特に制限されず、また、アルキル基1つ当たりエーテル結合は1つ挿入されていてもよいし、2つ以上挿入されていてもよい。上記R115としてより好ましくは、水素原子、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基、又は、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基である。更に好ましくは、水素原子である。
なお、上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキル基、及び、上記直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1〜5のアルコキシアルキル基としては、上述したものと同様である。
【0088】
上記一般式(17)におけるR116は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜5のアルキレン基が水との親和性の観点から好ましい。より好ましくは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜4のアルキレン基、更に好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1〜3のアルキレン基である。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基がより好ましい。特に好ましくは、メチレン基、エチレン基、プロピレン基である。
【0089】
上記一般式(17)におけるX′は、上記一般式(16)におけるX′と同様である。
【0090】
上記一般式(17)におけるnaは、結合単位Aの繰り返し数を表し、1以上の整数である。naとして好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。また、好ましくは500以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは50以下である。
【0091】
上記一般式(18)におけるR117は、上記一般式(17)におけるR115と同様である。
【0092】
上記一般式(18)におけるR118は、上記一般式(17)におけるR116と同様である。
【0093】
上記一般式(18)におけるnbは、結合単位Bの繰り返し数を表し、1以上の整数である。nbとして好ましくは2以上、より好ましくは、3以上である。また、好ましくは500以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは50以下である。
【0094】
上記一般式(17)で表される結合単位Aと上記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物において、結合単位Aの繰り返し数(na)と結合単位Bの繰り返し数(nb)の合計の繰り返し数(na+nb)は、2〜1000の範囲が好ましく、5〜200の範囲がより好ましい。
【0095】
上記一般式(17)で表される結合単位Aと上記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物において、結合単位Aの含有量は、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上である。また、好ましくは75モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下である。他方、結合単位Bの含有量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上である。また、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。結合単位A及びBの含有量がこのような範囲であることによって、本発明の効果がより好適に得られる。
なお、上記結合単位A、Bの含有量は、結合単位A、Bがシラン化合物の末端に位置する場合も含む量である。結合単位A、Bがシラン化合物の末端に位置する場合の形態は特に限定されず、結合単位A、Bを表す上記一般式(17)、(18)と対応するユニットを形成していればよい。
【0096】
上記一般式(17)で表される結合単位Aと上記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物は、当該結合単位A及びBを含む限りその他の結合単位を含んでいてもよいが、結合単位A及びBの合計含有量は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは98モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0097】
なお、上記一般式(17)で表される結合単位Aと上記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物における各結合単位の結合順序は特に制限されず、ランダム状であってもよいし、ブロック状であってもよいし、交互であってもよい。
【0098】
上記一般式(17)で表される結合単位Aと上記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物の重量平均分子量は、1000〜10000の範囲が好ましい。当該シラン化合物の重量平均分子量がこのような範囲であることにより、本発明の効果をより好適に得られる。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算により測定できる。
【0099】
このように、上記一般式(16)で表されるシラン化合物、上記一般式(17)で表される結合単位Aと上記一般式(18)で表される結合単位Bとを含むシラン化合物においては、X′がハロゲン原子を表し、上記一般式(16)ではR101、R102及びR103の少なくとも1つが、上記一般式(17)ではR111、R112及びR113の少なくとも1つが、加水分解性基となっている。
【0100】
上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物の好ましい形態として、例えば、下記化学式(19)〜(20)で表される化合物や、下記化学式(21)で表される結合単位と下記化学式(22)で表される結合単位とを有する化合物が挙げられる。
【0101】
【化12】
【0102】
上記ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物の市販品としては、Gelest社製のSIB1500.0(上記化学式(19)で表される化合物)、SIT8415.0(上記化学式(20)で表される化合物)、SSP−060(上記化学式(21)で表される結合単位と上記化学式(22)で表される結合単位とを有する化合物)などが挙げられる。
【0103】
上記シラン化合物のうち、フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物は、分子中に、フッ素原子を含有する疎水性基と、金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基とを有していればよく、そのようなシラン化合物は金属医療用具の表面に存在する水酸基と反応することができる基により金属医療用具の表面と化学的に結合することができ、また、フッ素含有疎水性基により金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を付与することができるため、本発明の効果を充分に奏することができる。このように、上記シラン化合物がフッ素含有疎水性基を有するシラン化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0104】
上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物としては、なかでも、パーフルオロエーテル構造を持つシラン化合物が好ましく、具体的には、加水分解性基及びパーフルオロポリエーテル基を持つシラン化合物(1分子内)などが挙げられる。このように、上記フッ素含有疎水性基が、パーフルオロオキシアルキレン基であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上記加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基などに代表される後述の加水分解性基などが挙げられ、上記パーフルオロエーテル基(パーフルオロオキシアルキレン基)としては、後述の直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基などが挙げられる。
また、上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物は、パーフルオロアルキル基などのフルオロアルキル基を有することが好ましい。
【0105】
上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物としては、下記一般式(23)、又は、(24)で表されるシラン化合物を好適に使用できる。
【0106】
【化13】
【0107】
上記一般式(23)中、Rfは、パーフルオロアルキル基を表す。Zは、フッ素又はトリフルオロメチル基を表す。a、b、c、d、eは、同一若しくは異なって、0又は1以上の整数を表し、a+b+c+d+eは、1以上であり、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序は、式中で限定されない。Yは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。Xは、水素、臭素又はヨウ素を表す。Rは、水酸基又は加水分解可能な置換基を表す。Rは、水素又は1価の炭化水素基を表す。lは、0、1又は2を表す。mは1、2又は3を表す。nは、1以上の整数を表す。なお、2つの*は、当該箇所同士で直接結合していることを表している。
【0108】
【化14】
【0109】
上記一般式(24)中、Rfは、−(C2k)O−(kは1〜6の整数)で表される単位を含み、分岐を有しない直鎖状のパーフルオロポリアルキレンエーテル構造を有する2価の基を表す。Rは、同一若しくは異なって炭素原子数1〜8の1価炭化水素基を表す。Xは、同一若しくは異なって加水分解性基又はハロゲン原子を表す。sは、同一若しくは異なって0〜2の整数を表す。tは、同一若しくは異なって1〜5の整数を表す。h、iは、同一若しくは異なって2又は3を表す。
【0110】
ここで、上記一般式(23)のRfとしては、一般的な有機含有フッ素ポリマーを構成するパーフルオロアルキル基であれば特に限定されず、例えば、炭素数1〜16の直鎖状又は分岐鎖状のものが挙げられる。なかでも、CF−、C−、C−が好ましい。
【0111】
上記一般式(23)のa、b、c、d、eは、上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物の主骨格を構成するパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数を表し、それぞれ独立して0〜200が好ましく、0〜50がより好ましい。また、a+b+c+d+e(a〜eの合計)は、好ましくは、1〜100である。なお、a、b、c、d、eで括られた各繰り返し単位の存在順序については、上記一般式(23)にはこの順で記載されているが、これらの各繰り返し単位の結合順序はこの順に限定されず、任意の順序で構わない。
【0112】
上記一般式(23)のYで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。Xが臭素又はヨウ素である場合、上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物は、化学結合が生成され易い。
【0113】
上記一般式(23)のRで示される加水分解可能な置換基は特に限定されないが、ハロゲン、−OR11、−OCOR11、−OC(R11)=C(R12、−ON=C(R11、−ON=CR13等が好ましい。ここで、R11は脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基、R12は水素又は炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、R13は炭素数3〜6の2価の脂肪族炭化水素基を表す。より好ましくは、塩素、−OCH、−OCである。
また、Rで示される1価の炭化水素基は特に限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が好ましく、直鎖状でも分岐鎖状でもよい。
【0114】
上記一般式(23)のlは、パーフルオロポリエーテル鎖を構成する炭素とこれに結合するケイ素との間に存在するアルキレン基の炭素数を表し、好ましくは0である。mは、ケイ素に結合する置換基Rの結合数を表し、該Rが結合していない部分の該ケイ素にはRが結合する。nの上限は特に限定されないが、好ましくは1〜10の整数である。
【0115】
一方、上記一般式(24)のRfで示される基は特に限定されないが、sが各々0である場合、上記一般式(24)中の酸素原子に結合するRf基の末端は、酸素原子でないことが好ましい。また、Rfにおけるkとしては、1〜4の整数が好ましい。このRfで示される基としては、具体的には、−CFCFO(CFCFCFO)CFCF−(式中、jは1以上、好ましくは1〜50、より好ましくは10〜40の整数である)、−CF(OC−(OCF−(式中、p及びqは、それぞれ、1以上、好ましくは1〜50、より好ましくは10〜40の整数で、かつp+qの和は、10〜100、好ましくは20〜90、より好ましくは40〜80の整数であり、式中の繰り返し単位の(OC)及び(OCF)の配列はランダムである)などが挙げられる。
【0116】
上記一般式(24)のRは、好ましくは炭素原子数1〜3の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリール基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基などが挙げられる。なかでも、メチル基が好ましい。
【0117】
上記一般式(24)のXで示される加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アリロキシ基、イソプロペノキシ等のアルケニルオキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンノキシム基、シクロヘキサノキシム基等のケトオキシム基;N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基等のアミノ基;N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基等のアミド基;N,N−ジメチルアミノオキシ基、N,N−ジエチルアミノオキシ基等のアミノオキシ基などが挙げられる。また、Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。なかでも、メトキシ基、エトキシ基、イソプロペノキシ基、塩素原子が好ましい。
【0118】
上記一般式(24)のsは1が好ましく、tは3が好ましい。h、iは、加水分解性の観点から、3が好ましい。
【0119】
上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物の重量平均分子量は、離型作用の持続性の点から、1000〜10000の範囲が好ましい。
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレン換算により測定できる。
【0120】
上記フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物の市販品としては、オプツールDSX(ダイキン工業(株)製)、KY−130(信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0121】
本発明における金属医療用具としては、例えば、ガイドワイヤー、ステント、針、スタイレット、金属管などが挙げられる。特にガイドワイヤーである場合に、潤滑性の付与、表面の潤滑層の耐久性向上、摺動性の低下抑制効果が最も有効に働くため、体腔や組織内での挿入性、押し込み性、摺動性やそれらの持続性が向上し、本発明の効果が特に顕著に発揮されることとなる。このように、本発明における金属医療用具が、ガイドワイヤーであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。他方、特にステントである場合に、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の付与、表面の潤滑層の耐久性向上、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の低下抑制効果が最も有効に働くため、長期間体内に留置する間に潤滑層が流れて取れていくのを防ぎ、ステント表面にタンパク質や細胞が付着するのを妨げる効果が持続し、本発明の効果が特に顕著に発揮されることとなる。このように、本発明における金属医療用具が、ステントであることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0122】
本発明における金属医療用具の材料としては、例えば、ステンレス、ニッケル−チタン合金、鉄、チタン、アルミニウム、スズ、亜鉛−タングステン合金などの金属が挙げられるが、中でも、金属医療用具の表面と潤滑層との結合性の観点から、ステンレス、ニッケル−チタン合金が好ましい。すなわち、本発明における金属医療用具が、ステンレス、又は、ニッケル−チタン合金の芯線を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0123】
本発明の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具は、例えば、金属医療用具の表面を上記シラン化合物で処理することにより製造することができる。このように、金属医療用具の表面を、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物で処理することによって、シラン化合物の加水分解反応や、シラン化合物と金属医療用具の表面に存在する水酸基との間での脱水または脱酸縮合反応などが進行し、金属医療用具の表面に存在する水酸基とシラン化合物との間が化学結合により結合され、これにより、金属医療用具の表面に潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性が付与され、更にその表面の潤滑層の耐久性が向上して、潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具の摺動性の低下、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の低下も抑制されることとなる。
すなわち、金属医療用具の表面を、ポリオキシアルキレン基、金属塩含有親水性基、ハロゲン塩含有親水性基、又は、フッ素含有疎水性基である官能基を有するシラン化合物で処理する工程を含む潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0124】
上記金属医療用具の表面をシラン化合物で処理する方法としては、例えば、上述のシラン化合物を溶媒と混合して溶液を調製し、当該溶液を金属医療用具に塗布する方法、噴霧(吹き付け)する方法、当該溶液に金属医療用具を浸漬する方法などが挙げられる。なお、上記塗布方法、噴霧方法、浸漬方法は、通常行われる方法と同様にして行うことができる。
【0125】
上記溶液を調製するための溶媒としては、上述のそれぞれの処理方法において通常用いられる溶媒を使用することができ、例えば、水、パーフルオロヘキサン、酸性水、メタノール、エタノール、水とメタノールやエタノールとの混合液などが用いられる。特に、上記シラン化合物が、ポリオキシアルキレン基を有するシラン化合物、金属塩含有親水性基を有するシラン化合物、又は、ハロゲン塩含有親水性基を有するシラン化合物である場合には、水、酸性水、メタノール、エタノール、水とメタノールやエタノールとの混合液が好適に用いられ、上記シラン化合物が、フッ素含有疎水性基を有するシラン化合物である場合には、パーフルオロヘキサンが好適に用いられる。
【0126】
上記溶液の濃度としては、シラン化合物による処理方法、処理に用いる溶液の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0127】
上記溶液のpHとしては、5以下であることが好ましい。金属医療用具の表面を処理するシラン化合物の溶液のpHを5以下とすることによって、加水分解反応を促進することができる。該pHとしてより好ましくは4以下である。また、2以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。
このように、上記処理工程が、pH5以下の条件下で行われることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、上記pHの調整方法は特に制限されず、酸又はアルカリを添加するなど、従来公知の方法で行うことができる。当該pH調整に使用できる酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸、酢酸などの有機酸等が挙げられ、アルカリとしては、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0128】
上記製造方法においては、必要に応じて、上記処理工程の前に金属医療用具を、アセトン、エタノール等を用いて洗浄し、乾燥させてから、上記処理工程に供してもよい。なお、乾燥時間、乾燥温度は、通常行われる温度、時間で適宜設定することができる。
【0129】
上記製造方法においては、上記処理工程の後、得られた表面処理金属医療用具を、必要に応じて、水、アセトン、エタノール等を用いて洗浄、乾燥してもよい。なお、乾燥温度、乾燥時間は、通常行われる温度、時間で適宜設定することができる。
【0130】
上記製造方法は、更に、上記処理工程で得られた表面処理金属医療用具を、湿度50%以上の条件下に保持する工程を含むことが好ましい。上述のシラン化合物で表面処理された表面処理金属医療用具を、湿度50%以上の環境下に保持することによって、シラン化合物の加水分解反応や、シラン化合物と金属医療用具の表面に存在する水酸基との間での脱水または脱酸縮合反応などがより進行し、金属医療用具の表面に存在する水酸基とシラン化合物との間の化学結合がより強固となるため、金属医療用具表面の潤滑層の耐久性が更に向上して、本発明の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具における摺動性の低下、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の低下をより抑制することができる。上記表面処理金属医療用具を保持する湿度としては、60%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。上限については特に制限されないが、例えば、100%であることが好ましい。
【0131】
上記保持工程における湿度50%以上の条件下に保持する時間、温度としては、金属医療用具の表面に存在する水酸基とシラン化合物との間の化学結合がより強固となって、本発明の潤滑性、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性を有する金属医療用具における摺動性の低下、低タンパク質吸着性および/または低細胞吸着性の低下がより抑制されるように適宜設定することができるが、例えば、20〜60時間保持することが好ましく、また、20〜60℃で保持することが好ましい。
【実施例】
【0132】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0133】
(実施例1)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIM6492.57(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0134】
(実施例2)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIB1824.84(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0135】
(実施例3)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIT8402.0(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0136】
(実施例4)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIT8378.5(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0137】
(実施例5)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整した0.1重量%オプツールDSX(ダイキン工業(株)製)のパーフルオロヘキサン溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0138】
(実施例6)
ニッケル−チタン合金製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIM6492.57(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0139】
(実施例7)
ニッケル−チタン合金製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIB1824.84(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0140】
(実施例8)
ニッケル−チタン合金製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIT8402.0(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0141】
(実施例9)
ニッケル−チタン合金製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIT8378.5(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0142】
(実施例10)
ニッケル−チタン合金製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整した0.1重量%オプツールDSX(ダイキン工業(株)製)のパーフルオロヘキサン溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0143】
(実施例11)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIT8192.2(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0144】
(実施例12)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIB1500.0(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0145】
(実施例13)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSIB1500.0(Gelest社製)水溶液中(酢酸でpH4に調整したもの)に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0146】
(実施例14)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥した。10重量%に調整したSSP−060(Gelest社製)水溶液中に当該ガイドワイヤーを30分浸漬した後、取り出して室温(25℃)、湿度90%の湿潤下で24時間放置した。そののち水で洗浄して乾燥した。得られた表面処理ガイドワイヤーを下記する摺動性評価に供した。
【0147】
(比較例1)
SUS製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥しただけのものを下記する摺動性評価に供した。
【0148】
(比較例2)
ニッケル−チタン合金製のガイドワイヤー(芯線)をアセトンで洗浄し、乾燥しただけのものを下記する摺動性評価に供した。
【0149】
<摺動性評価>
表面処理ガイドワイヤー又はガイドワイヤーに水をつけて手で擦り摺動性を評価した。
評価の結果、比較例1のガイドワイヤーに比べ、実施例1〜5および実施例11〜14の表面処理ガイドワイヤーはつるつる感があり、摺動性が向上していた。特に実施例11と実施例14のつるつる感が高かった。また、100回擦ってもつるつる感に変化はなかった。
同様に比較例2のガイドワイヤーに比べ、実施例6〜10の表面処理ガイドワイヤーはつるつる感があり、摺動性が向上していた。また、100回擦ってもつるつる感に変化はなかった。
【0150】
なお、ポリオキシアルキレン基は、タンパク質や細胞の吸着量が少ないことが知られている。更に、金属塩含有親水性基は、ポリオキシアルキレン基よりも、さらにタンパク質や細胞の吸着量が少ないことが知られている。そして更には、ハロゲン塩含有親水性基は、金属塩含有親水性基よりタンパク質や細胞の吸着量がやや多いが、金属に比べ少ないことが知られている。また、フッ素含有疎水性基も、比較的タンパク質や細胞の吸着量が少ないことが知られている。