(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157498
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】共振素子を用いた回折格子を有する反射防止被覆構造
(51)【国際特許分類】
H01Q 15/14 20060101AFI20170626BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
H05K9/00 C
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-545208(P2014-545208)
(86)(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公表番号】特表2015-511408(P2015-511408A)
(43)【公表日】2015年4月16日
(86)【国際出願番号】EP2012074382
(87)【国際公開番号】WO2013083572
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】1161242
(32)【優先日】2011年12月6日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】510022510
【氏名又は名称】エルビュス グルプ エス アー エス
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】タン,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ペレ,ジル
【審査官】
赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−344468(JP,A)
【文献】
特開2011−109414(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0140946(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0115584(US,A1)
【文献】
米国特許第05057842(US,A)
【文献】
特開2004−063306(JP,A)
【文献】
特開2009−013710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物のファサード(11)、又は前記建物からある距離だけ離れて位置する源が送信する電磁波放射に曝露される他のいずれの反射壁に取り付けるための、回折デバイスであって、
前記回折デバイスは、前記建物の前記ファサード(11)上に位置決めされる複数の管状の共振素子(12)を有し、
前記共振素子は、ブラッグ格子タイプの回折格子を形成するために、前記建物の前記ファサード(11)上に実質的に平行に位置決めされ、
また前記共振素子は、入射波及び反射波の伝搬ベクトルによって画定される平面にほぼ垂直な方向に配向され、
各前記共振素子(12)は、位相シフトを受ける前記入射波に対応する波を再放射するよう適合された、「LC」タイプの共振器を形成するよう構成され、
前記共振素子(12)のアセンブリは、前記入射波が好ましい方向に回折するよう配設される
ことを特徴とする、回折デバイス。
【請求項2】
異なる前記共振素子(12)の間隔ピッチdは、波長λ及び入射角θに応じて決定され、これによって、前記入射波が好ましい方向に回折するような前記入射波の位相シフトを生成するブラッグ格子タイプの回折格子が生成されることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記源が離れている場合、異なる前記共振素子(12)間の前記間隔ピッチdは一定であることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記源が近い場合、異なる前記共振素子(12)間の前記間隔ピッチdは、前記電磁波放射の局所的な入射角に応じて決まることを特徴とする、請求項2に記載のデバイス。
【請求項5】
各前記共振素子(12)は導電性材料の管からなり、
内側のキャビティ(17)を画定する前記管の壁は、長手方向開口(14)を有し、
前記壁によって画定される前記キャビティ(17)の寸法及び幾何学的形状、並びに前記壁に形成される前記長手方向開口(14)の幅は、電磁気の観点から、共振周波数F0及び帯域幅ΔF0を有するLC共振器として前記共振素子(12)が作用するよう定義される
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項6】
各前記共振素子(12)は、機械的応力を考慮に入れた所定の寸法の平行六面体の容積内に内接できる全体寸法を有するように構成されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記共振素子(12)の壁は、矩形の断面形状を有し、
前記矩形の長さのうちの1つは、前記壁に沿って形成された長手方向スリット(14)に対応する断絶部(24)を有する
ことを特徴とする、請求項6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記共振素子(12)の前記壁によって画定される前記キャビティ(17)は、前記壁の内面に固定された内側拡張部分(51)を内包し、
前記内側拡張部分(51)は、「T」型断面を有するリブを形成し、
前記「T」の横棒部分は、前記矩形の前記長さと平行であり、
前記リブは、前記「T」の前記横棒部分が前記断絶部(24)に対して、所望の共振周波数F0及び帯域幅ΔF0に応じて定義された距離だけ離間して対面して配置されるように、構成され、前記キャビティ(17)内に配設される
ことを特徴とする、請求項5に記載のデバイス。
【請求項9】
前記共振素子(12)の壁は、矩形の断面形状を有し、
前記矩形の長さのうちの1つは、前記長さに対して実質的に垂直な2つのセグメント(31、32)で制限された断絶部を有し、
前記2つのセグメント(31、32)の端部は、周縁部の内側を向いている
ことを特徴とする、請求項6に記載のデバイス。
【請求項10】
前記共振素子の前記壁によって画定される前記キャビティ(17)は、前記共振素子の剛性を補強するよう選択された誘電材料(51)で充填されることを特徴とする、請求項5に記載のデバイス。
【請求項11】
前記共振素子(12)の前記壁によって画定される前記キャビティ(17)は、前記共振素子の剛性を補強するよう選択された誘電材料の2つの重ねられた層で充填され、
導電性ストリップ(52)は、各前記キャビティ(17)内の、前記2つの層の間の境界面において、前記壁に沿って形成された前記長手方向スリット(14)に対面するように配置される、
ことを特徴とする、請求項5に記載のデバイス。
【請求項12】
前記共振素子(12)の前記壁によって画定される前記キャビティ(17)は、前記共振素子の前記帯域幅ΔF0を増大させ、前記共振素子の前記共振周波数F0を減少させるよう選択された、非導電強磁性材料で充填されることを特徴とする、請求項5に記載のデバイス。
【請求項13】
前記共振素子(12)の前記壁によって画定される前記キャビティ(17)は、前記共振素子の前記共振周波数F0を減少させるよう選択された、高い誘電率εを有する誘電材料で充填されることを特徴とする、請求項5に記載のデバイス。
【請求項14】
建物のファサード(11)、又は離れた源が送信する電磁波放射に曝露される他のいずれの部分に取り付けるための、回折デバイスであって、
前記回折デバイスは、回折格子を形成するために前記建物の前記ファサード(11)上に周期的にかつ実質的に平行に位置決めされる、複数の管状の共振素子(12)を含み、
各前記共振素子(12)自体は、並置された請求項1〜13のいずれか1項に記載の複数の共振素子で形成され、
前記複数の共振素子の外壁は、電気的接触状態にある
ことを特徴とする、回折デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波、特に電波の反射の一般的分野に関し、より詳細には、建物のファサード等の構造体によって反射する電波の、これらの構造体を取り囲む空間への影響を防ぐ分野に関する。特にこれは、空港区域に位置する建物によって反射する電波が、電波測定システムの適切な操作への影響を与える。
【背景技術】
【0002】
空港区域の計画のコンテキストにおいて、主要な問題は、空港設備の操作に必要な建物をどのように配置するのが最良かを決定することであり、これはこの配置による電波感受性領域への間接的な影響を最小限に抑えることを意図している。これは、これらの構造体が一般に大きなファサードを有し、これが空港区域の近傍又はこの区域内に存在する様々な送信源が送信する電波の反射体として作用するためである。建物から離れていてもいなくてもよい送信源が生成した電波送信が、建物のファサードによって反射する場合がある。ファサードが受け取った信号が、電波送信が行われる領域に向かって反射し、この領域で電波送信に干渉する場合、これは極めて厄介である。これは特に、着陸滑走路に比較的近い領域に位置する建物が反射する電波送信が、計器着陸システム(ILS)の送波が取る周波数帯域、具体的には(滑走路の軸において電波の整列を行う)「ローカライザ」が取る帯域に向かう場合に当てはまる。この寄生反射が十分に強い場合に、ローカライザの信号に影響を及ぼす可能性があり、結果として、着陸する航空機を滑走路の軸上に位置合わせする際に影響がある。
【0003】
多数の電波源、特にILSアンテナが存在するため、建物からの寄生反射の問題は主要な問題であり、この問題は通常、ある領域、特に大きなサイズのいずれの構造体を配置することが禁止される滑走路に比較的近い領域を含めた、配置計画を練ることで解決される。特に、都市開発の集中や、都市部に比較的近い領域に空港区域を配置したいという要望を考慮すると、表面積に対して空港区域が占める度合いを極大化することがますます必要になる。従って、感受性のある方向への電波信号の寄生反射の問題の解決法を見出すことが、かつてないほどに必要とされている。
【0004】
この分野の公知の従来技術によると、感受性のある方向への寄生反射を偶発的に引き起こし得る建物のファサードは、理論的にパッチ構造を備えており、このパッチ構造の目的は、パッチ構造が設置される壁と共に、外部の電磁波源が送信した入射波を好ましい方向に反射するための回折デバイスを生成して、感受性のある領域での干渉が生じるのを回避することである。このタイプの構造は一般に、互いから離間したリブを形成するよう配設された導電性の細長構造要素からなる。リブは概ね管状の要素であり、位相シフトの所定値が建物の壁によって直接反射した波とリブによって反射した波との間で生成されるように、特定の厚さを有する。このようにして、ブラッグ格子タイプの回折格子が形成され、これにより回折デバイスのリブによって生成される位相シフトに応じて、入射波を好ましい方向に回折させることができる。
【0005】
所定の方向への反射を阻止された波長λに応じて、被覆を形成するリブは所定の厚さhを有し、この厚さhは、問題となる波が数100メガヘルツ程の周波数を有する場合は比較的大きくてよい。このようにこれらの要素は嵩高いため、特に要素を建物の建設後に設置する場合に、ファサードの表面に配置するのが困難である。
【0006】
更に、入射波の正確な回折を保証するために、防ぐべき影響を有する放射線に曝露されるファサードは、殆どの場合、好ましくはファサードの高さとほぼ等しい長さを有するか、又はファサード上部のかなりの部分を占めるリブを備えている。従って構造要素の問題のファサードへの固定は、ファサードに重荷重を与えるため、中空管形状の構造要素を用いることによりこの負荷を最小限に抑える試みがなされている。しかしながら、これらの要素は脆弱な物品であり、固有な剛性の欠如による弱点を抱えている。
【0007】
したがって、公知のタイプの先行技術の被覆は、構造要素を使用するが、これら構造要素は、サイズ、即ちより正確には全体寸法の面で、また、ファサードによって支えられる重量の面で、そして結果として得られる構造の剛性の面で、これらを備えるべきファサードへの設置が比較的難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、ブラッグ格子タイプの回折格子を形成するための代替的な構造を提案することである。この構造は管状構造要素からなり、この管状構造要素は、関係する周波数帯域に関して、矩形断面要素よりも高い固有剛性を有し、更に公知の構造を形成する要素よりも実質的に小さい厚さ及び幅を有する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は、建物のファサード、又は離れた源が送信する電磁波放射に曝露される他のいずれの反射壁を被覆するための、回折デバイスを提案する。このデバイスは、回折格子を形成するために、建物のファサード上に周期的にかつ実質的に平行に位置決めされる複数の管状共振素子を含む。各共振素子は、位相シフトを受ける入射波に対応する波を再放射するよう構成されたLC共振器を形成する。これらの共振素子は、入射波が好ましい方向に回折するように、壁上に配設される。共振素子はまた、入射波及び反射波の伝搬ベクトルによって画定される平面にほぼ垂直な方向に配向される。
【0010】
このデバイスの特定の実施形態によると、異なる導電性要素の間隔ピッチは、波長λ及び入射角θに応じて決定され、これによって、入射波が好ましい方向に回折するような入射波の位相シフトを生成するブラッグ格子タイプの回折格子が生成される。
【0011】
本発明によると、電磁波送信源が離れている場合、異なる導電性要素間の間隔は、壁に沿って一定である。
【0012】
本発明によると、電磁波送信源が近い場合、異なる導電性要素間の間隔は、電磁波の局所的な入射角に応じて決まる。
【0013】
本発明によると、各共振素子は導電性材料の管からなり、内側キャビティを画定するこの管の壁は、長手方向開口を有する。壁によって画定されるキャビティの寸法及び幾何学的形状並びにこの壁に形成される長手方向開口の幅は、電磁気の観点から、共振周波数F
0及び帯域幅ΔF
0を有するLC共振器として上記素子が作用するよう定義される。
【0014】
更に本発明によると、各共振素子は好ましくは、機械的応力を考慮に入れた所定の寸法の平行六面体の容積内に内接できる全体寸法を有するように構成される。
【0015】
本発明によると、デバイスを形成する共振素子は、矩形に全体が内接する様々な多角形状の断面を有してよく、共振素子は、選択した断面に応じたキャパシタンス又はインダクタンスの特定の値を有する。
【0016】
特定の実施形態では、共振素子の壁は、矩形の断面形状を有し、そのうちのある長さは、上記長さに対してほぼ垂直な2つのセグメントによって制限される断絶部を有し、上記長さの端部は、周囲長さの内側を向いている。
【0017】
更に本発明によると、各共振素子は、複数の隣接する管状キャビティを形成するよう構成される。
【0018】
特定の実施形態では、各共振素子は、それ自体が複数の並置された共振素子で形成され、これら共振素子の外壁は電気的接触状態にある。
【0019】
特定の実施形態では、共振素子の内部容積は空である。
【0020】
代替として、別の実施形態では、共振素子の壁によって画定されるキャビティは、素子の剛性を補強するよう選択された誘電材料で充填される。
【0021】
この実施形態の変形例によると、共振素子の壁によって画定されるキャビティは、誘電材料の2つの重ねられた層で充填され、導電性ストリップが、キャビティ内の2つの層の間の境界面において、壁に沿って形成された長手方向スリットに対面するように配置される。
【0022】
代替として、別の実施形態では、共振素子の壁によって画定されるキャビティは、帯域幅ΔF
0を増大させ、共振キャビティの周波数F
0を減少させるよう選択された非導電強磁性材料で充填される。
【0023】
代替として、別の実施形態では、共振素子の壁によって画定されるキャビティは、共振キャビティの周波数F
0を減少させるよう選択された高い誘電率εを有する誘電材料で充電される。
【0024】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面に基づいた以下の説明により、より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明によるデバイスの全体の概略を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明によるデバイスを形成する構造要素の等価回路図である。
【
図3】
図3は、本発明によるデバイスの、異なる様々な変形実施形態のうちの1つの図である。
【
図4】
図4は、本発明によるデバイスの、異なる様々な変形実施形態のうちの1つの図である。
【
図5】
図5は、本発明によるデバイスの、異なる様々な変形実施形態のうちの1つの図である。
【
図6】
図6は、本発明によるデバイスの、異なる様々な変形実施形態のうちの1つの図である。
【
図7】
図7は、本発明によるデバイスの、異なる様々な変形実施形態のうちの1つの図である。
【
図8】
図8は、本発明によるデバイスの、異なる様々な変形実施形態のうちの1つの図である。
【
図9】
図9は、本発明によるデバイスの、サイズに関する有利な性質を強調する図である。
【
図10】
図10は、本発明によるデバイスの使用により得られる利点を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1、2は、本発明によるデバイスの概略的構造を示す。
図1に示すように、本発明による被覆は、平行に配置された細長構造要素12の形態を取り、細長構造要素12の長さは被覆される壁11の寸法によって決まる。
【0027】
構造要素12は、壁11に配設され、ピッチdを有する回折格子を形成する。本発明によると、異なる導電性要素の間隔ピッチdは、通常波長λ及び入射角θに応じて決定され、これによって、入射波が好ましい方向に回折するように入射角の位相シフトを生成するブラッグ格子タイプの回折格子が生成される。壁が受け取る電波送信源が離れた源であると見做されるかどうかによって、
図1の場合のように、ピッチdは一定のピッチとなるか、又はピッチは電磁波の局所的な入射角に応じて変化する。
【0028】
構造要素12はまた、壁11上に、入射波及び反射波の伝搬ベクトルによって画定される平面にほぼ垂直な方向に配向されるように配設される。よって、建物のファサードの特定の場合において、構造要素は垂直に位置決めされる。
【0029】
本発明によると、各構造要素12は、多角形状の中空シリンダ又は管の形態の導電性要素であり、平坦面15を有し、この平坦面15によって壁11に固定され、管の壁の、平坦面15と反対側の面13には、所定の幅eを有する長手方向スリットが設けられる。構造要素12は、導電性材料から作製され、分布定数L、Cを有するL‐C(即ちインダクタンス‐キャパシタンス)回路を形成する。インダクタンスLは管自体の壁で形成され、管の壁によって範囲を定められる領域に応じて決定される。一方、キャパシタンスCはスリット14及びキャビティで形成される。
【0030】
管の壁の寸法はまた、インダクタンスL及びキャパシタンスCの値が、公知の方法で以下の関係式によって定義される共振周波数F
0及び帯域幅ΔF
0を有する等価共振回路を形成できるように決定される:
【0032】
動作において、各共振素子は、入射電波によって照明される場合に、周波数が同一であるが所定の位相シフトを受けた電波を生成するように構成又は設計され、これにより、異なる構造要素12によって反射されたこれらの波と、これらの構造要素の間に位置する壁11の一部分によって直接反射された波との組み合わせによって、所望の方向に回折した波が形成される。
【0033】
従って本発明によるデバイスは、単純な導電性構造要素を有するブラッグ格子タイプの従来の回折格子として機能する。しかしながらその寸法に関しては、本デバイスを構成する構造要素を用いて被覆を形成することができるようになっており、これにより、壁上、特に建物の壁上に設置するのがより容易となり、有利である。
【0034】
これは、本発明によるデバイスを形成する共振素子の寸法が、従来の回折格子を形成する導電性要素の寸法と違って、壁11自体が反射した波と、所望の回折を得るために構造要素が反射した波との間の路程差に直接関係せず、得られるキャパシタンス及びインダクタンスの値に影響されるからである。
【0035】
従って、同一の結果に対して、即ち壁11自体が反射した波と構造要素が反射した波との間の同一の位相シフトに対して、共振素子の寸法は、単純な導電性要素の寸法よりも有意に小さくなる。
【0036】
図9は、離れた源、即ち建物のファサード11が受信する波が平面波となるように壁からある距離だけ離間して(フラウンホーファー領域)配置された源から送信された約100メガヘルツの周波数を有する電波によって約25°の入射角で照明された壁が反射した波を制御するよう構成された2つの回折格子を形成する構造要素それぞれの寸法を示すことにより、上記構造的利点を示す。いずれの場合においても、矩形断面を有する構造要素によって形成される回折格子について考える。第1の格子91は、単純な導電性要素によって形成された従来の格子であり、第2の格子92は、管状共振素子12で形成された本発明によるデバイスである。図から分かるように、単純な導電性要素に比べて極めて寸法の管状共振素子12を用いて、同一の結果、即ち位相シフトされた波の生成が達成される。
【0037】
この寸法的特徴は、2つの利点をもたらす。第1の利点は人間工学的なものであり、これは、本発明による回折デバイスが、壁状に設置した場合により目立たず、より邪魔にならない外見を有し、従ってこの壁が窓を有するファサードである場合に、外部光が建物内により容易に侵入できるという事実からなる。第2の利点は機械的なものであり、これは、共振素子がより小さい寸法を有し、従って、被覆される壁11上にこれらを設置した場合に、これらの固有剛性及び自重の影響で発生し得る変形に関する問題があまり重大なものではないからである。
【0038】
以下の文では、本発明によるデバイスを形成する共振素子の、異なる様々な実施形態について説明し、構造要素は様々な断面形状を有する。本明細書において、これらの異なる様々な実施形態は、所定の全体寸法に対して、異なる共振周波数F
0及び帯域幅ΔF
0を有する共振素子を製造できることを例示する目的で説明される。
【0039】
異なる変形例の相対的な利点を明示するために、本明細書で考慮する構造要素は、所定の長さw及び幅hを有する同一の矩形に全体が内接できる多角形状の断面を有するものである。なお、以下に記載する様々な実施形態は、本発明の形態、目的又は範囲をいずれの様式にも制限するものではない。
【0040】
第1の単純な変形実施形態によると、
図2に示すように、各管は、それぞれ内面15及び外面13に対応する長さwの2つの直線状の対向する長辺側23、25と、側面16に対応する長さhの2つの短辺側26とを有する、矩形断面を有する。側部13はまた、スリット14に対応する断絶部24を有する。この変形実施形態では、インダクタンスLの値は特に、管の壁によって画定される領域によって決定される。キャパシタンスCの値に関しては、断面図では断絶部24に対応するスリット14の幅と、素子の壁によってその範囲が画定される内部空間の寸法とによって決定される(
図2−b参照)。
【0041】
第2の変形実施形態によると、各共振素子は
図3に示すような断面を有し、素子12の壁は、断面図において断絶部24に対応するスリット14に沿って、内向きに90°湾曲して互いに対面する2つの縁部を有し、これらは同一の長さの2つのセグメント31、32で示されている。これら2つの縁部は、前述の変形例に対してキャパシタンスCの値を増大させるよう、そしてキャビティのサイズに対するこのキャパシタンスCの依存度を低減する(平面キャパシタ)ように定義された長さを有する。
【0042】
図4に示す第3の変形実施形態によると、ここで使用される管状共振素子12は、矩形断面を有し、その長さ部分のうちの1つは、スリット14に対応する断絶部24を有する。しかしながら、管状共振素子12の壁によって画定されるキャビティ17は、スリット14を含む壁13と反対側の壁15の面に固定された内側拡張部分41を内包し、この内側拡張部分41は、キャビティ内側に突出するリブ41を形成する。
【0043】
この変形実施形態では、このリブ41は「T」型断面を有し、その横棒部分は、素子の断面を示す矩形の長辺23、25と平行である。「T」の横棒部分が断絶部24に、所望の共振周波数F
0及び帯域幅ΔF
0に応じて定義された距離だけ離間して対面して配置されるように、リブ41を構成し、キャビティ内に配設する。この構成により、インダクタンスLの値を実質的に何ら変化させることなく、キャパシタンスCの値を実質的に増大させることができ、有利である。
【0044】
図5に示す第4の変形実施形態によると、ここで使用される管状共振素子12のキャビティは、ただ大気を含むのではなく、誘電材料51で充填されており、この誘電材料51はこの場合基本的に、素子の機械的剛性を補強するよう作用する。この変形例は、使用される素子が、被覆される壁の寸法に対して極めて長い場合に特に有利である。
【0045】
この変形実施形態では、キャビティに内包される材料は様々な電磁的特性を有してもよいことに留意されたい。従って、高い誘電率ε
rを有する材料を使用することによって、キャビティの寸法又は壁の形状を変化させることなくキャパシタンスCの値を増大させることができる。反対に、高い透磁性μ
rを有する材料を使用することによって、他のいずれの変化を発生させることなくインダクタンスLの値を増大させることができる。
【0046】
本変形実施形態は全ての前述の変形例に関連させてよいことにも留意されたい。本変形実施形態は特に、スリット14に対面するように配設された長手方向ストリップ52を材料内に位置決めすることを含んでよい。これにより、上述の第4の変形実施形態の素子に極めて類似した設計の放射素子が製造される。
【0047】
図6に示す第5の変形実施形態によると、共振器の側面16のうちの1つの上にスリット61を形成し、適切な誘電性機械的構造(分かりやすくするために図からは省略されている)によってアセンブリを所定の位置に保持する。高い自己インダクタンスを有する素子62もキャビティ17内に配置し、その端部63、64によってスリット61の2つの縁部65、66に電気的に接続する。このようにして回路LCのインダクタンスは増大し、その共振周波数F
0の減少及びその帯域幅ΔF
0の増大がもたらされる。
【0048】
構成に関して、素子62は、キャビティ17の全長にわたって延在する単一のアセンブリからなってよく、又は
図6に示すように、順次配設される複数の素子からなってよく、この場合、各素子はその端部によってスリット61の縁部に接続される。
【0049】
図7に示す第6の変形実施形態によると、各共振素子は、共振素子の側面16のうちの1つの上に、別個のインダクタ71と共に形成されたスリット61を有し、これらインダクタ71は好ましくはスリットの全長にわたって分布し、またそれぞれ、スリット61の2つの縁部65、66に接続された端子を有する。前述の場合と同様、この配置により、回路LCのインダクタンスが増大し、その共振周波数F
0の減少及びその帯域幅ΔF
0の増大がもたらされる。これに加えて任意に、各共振素子は別個の容量素子72を有してよく、これら容量素子72は好ましくはスリット14の全長に沿って配置され、このスリットの縁部に接続された端子を有する。
【0050】
図8に示す第7の変形実施形態によると、本発明によるデバイスを形成する各共振素子は、上述のような2つ以上の基本共振素子11からなる。各基本共振素子は、所定の共振周波数F
0及び所定の帯域幅ΔF
0を有するように構成され、ここでF
0及びΔF
0は一般に、全ての関連する共振素子と同一である。
【0051】
公知であるように、再放射される電力の値は主に、スリット14を含む共振素子の面の寸法(特に幅w)に依存するため、同一の周波数F
0に調整された隣接する共振素子のこのような配置は、共振素子が再放射する電力を増大させるという特別な利点を有する。従って、2つ以上の基本共振素子を並置することによって、共振回路自体の動作パラメータにいかなる特別な変化を与えることなく、デバイスによって再送信される電力を大幅に増大させることができる。
【0052】
図8に示す単純な実施形態では、上述のようにして形成された複合素子は、矩形断面を有する単一の環状構造81から作製してよく、この環状構造81の内側キャビティは、中間仕切り壁83によって基本キャビティ82に分割され、各基本キャビティ82は、
図7の断面図において断絶部84で表される長手方向スリットを備える。
【0053】
以上より、上述の複数の実施形態を総合すると、本発明によるデバイスは、所定の方向への反射が回避されるべき電波送信を受ける壁の被覆の構成に関して、従来技術による単純な導電性構造要素を用いた回折格子の使用の、設置及び動作の両方に関する有利な代替案となる解決法を提案する。
【0054】
図10は、剥き出しの壁に対応する第1の状態(曲線101)、従来技術による回折格子で被覆された壁に対応する第2の状態(曲線102)、本発明によるデバイスで被覆された壁に対応する第3の状態(曲線103)の3つの状態に関する、建物のファサードで形成された壁のレーダ等値面曲線を、単一の座標系(観察角度及び壁の等値面)で示す。図からわかるように、従来技術のデバイス(曲線102)には及ばないものの、本発明によるデバイスは、壁の等値面を相当な度合いまで削減できる。従って本発明によるデバイスは、望ましくない電波の反射によって生じる妨害レベルを十分な範囲まで低減でき、しかも有利なことに、従来技術のデバイスよりも大幅に小さい全体寸法を有しており、これによって特にこのデバイスの体積は小さくなり、設置が容易になる。