(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
[0003]テトラフルオロプロペン(2,3,3,3−テトラフルオロプロプ−1−エン(HFO−1234yf)など)のようなヒドロフルオロオレフィン(HFO)は、今日、有効な冷媒、消化剤、熱伝達媒体、噴射剤、起泡剤、発泡剤、気体状誘電体、滅菌剤キャリア、重合媒体、粒状物除去流体、キャリア流体、バフ研磨剤、置換乾燥剤、及び動力サイクル作動流体であることが知られている。クロロフルオロカーボン(CFC)及びヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)(いずれも地球オゾン層を損傷する可能性がある)とは異なり、HFOは塩素を含まず、したがってオゾン層を脅威にさらさない。更に、HFO−1234yfは低い毒性を有する低地球温暖化性の化合物であり、したがって自動車空調における冷媒に関する益々厳しくなる要求を満足することができる。
【0003】
[0004]HFO−1234yfを製造するために用いられる2種類の公知の前駆体としては、1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン(HCFC−244bb)及び1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)が挙げられる。実際に、それぞれHCFC−244bbの脱塩化水素化及びHFC−245cbの脱フッ化水素化によってHFO−1234yfを製造するための数多くの気相反応が公知である。例えば、米国公開US2007/0197842においては、炭素及び/又は金属ベースの触媒(例えばニッケル又はパラジウムベースの触媒)の存在下における気相HCFC−244bb脱塩化水素化によってHFO−1234yfを合成することが教示されている。米国公開US2009/0043136においては、(i)1種類以上の金属ハロゲン化物、(ii)1種類以上のハロゲン化金属酸化物、(iii)1種類以上の0価の金属/金属合金、又は(iv)上記の2以上の組合せからなる群から選択される触媒の存在下における気相HCFC−244bb脱塩化水素化によってHFO−1234yfを製造することが教示されている。米国公開US2007/0100175においては、以下のもの:フッ化アルミニウム;フッ化アルミナ;フッ化アルミニウム上の金属;フッ化アルミナ上の金属;マグネシウム、亜鉛、並びにマグネシウム及び亜鉛及び/又はアルミニウムの酸化物、フッ化物、及びオキシフッ化物;酸化ランタン、及びフッ化酸化ランタン;酸化クロム、フッ化酸化クロム、及び立方晶三フッ化クロム;炭素、酸洗浄炭素、活性炭、三次元マトリクス炭素質材料;及び炭素上に担持されている金属化合物;から選択される触媒の存在下における気相HFC−245cb脱フッ化水素化によってHFO−1234yfを製造することが教示されている。しかしながら、本出願人らはこれらの気相脱ハロゲン化水素化反応が、有意義な収率を得るために通常は400℃より高い高温で運転されることを認識した。より高い温度は製造に関連するコストを上昇させる可能性があるので、HCFC−244bb及び/又はHFC−245cbからHFO−1234yfを製造する新規で好都合な低温プロセスに対する必要性が当該技術において存在する。
【0004】
[0005]HFO−1234yfの製造に具体的に関連してはいないが、米国特許6,548,719においては、相間移動触媒の存在下においてアルカリ金属水酸化物を用いてハロフルオロカーボンを脱ハロゲン化水素化することによってフルオロオレフィンを製造する低温プロセスが開示されている。この反応は−5℃〜40℃の温度範囲で行い、最適の温度は約25℃である。HFO−1234ze、HFO−1225zc、及びCF
3CB
r=CF
2を製造するための数多くの出発試薬が例示されているが、米国特許6,548,719では、出発試薬としてHCFC−244bb及び/又はHFC−245cbを用いる脱ハロゲン化水素化方法はもちろん、HFO−1234yfを製造する方法は明確には与えられていない。更に、244bb/245cbにおいては脱離すべきハロゲンが中央部の炭素に結合して除去するのがより困難であるので、例示されている反応温度(−5℃〜40℃)は非常に低いために244bb/245cb脱ハロゲン化水素化に関する有意義な活性を達成することができない。したがって、HCFC−244bb及び/又はHFC−245cbからHFO−1234yfを製造するための新規な低温プロセスに関する必要性が継続して存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006]本発明及び本明細書に示す幾つかの態様は、少なくともこの要求に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007]一態様においては、本発明は、テトラフルオロクロロプロパン又はペンタフルオロプロパンを、苛性試薬の存在下において、40℃より高く80℃以下の温度範囲で脱ハロゲン化水素化することによってテトラフルオロプロペンを製造する方法に関する。本発明の幾つかの形態においては、テトラフルオロクロロプロパンは1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパンであり、ペンタフルオロプロパンは1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンであり、テトラフルオロプロペンは2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである。苛性試薬としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びこれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。かかる苛性試薬としては、KOH、NaOH、LiOH、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、CaO、及びこれらの組合せを挙げることができる。幾つかの態様においては、苛性試薬は水酸化カリウム(KOH)であり、これは約5重量%〜約95重量%のKOHを有する水溶液として与えることができる。
【0008】
[0008]脱ハロゲン化水素化プロセスの反応圧力は、大気圧から大気圧以上又は大気圧以下の範囲であってよい。
[0009]また、脱ハロゲン化水素化プロセスは、本明細書において規定する相間移動触媒の存在下において行うこともできる。かかる相間移動触媒としては、クラウンエーテル、オニウム塩、クリプタート、ポリアルキレングリコール、これらの誘導体、及びこれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。一態様においては、相間移動触媒はAliquat 336である。
【0009】
[0010]他の非限定的な態様においては、本発明は(a)2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)をフッ素化触媒の存在下においてフッ化水素と接触させて、テトラフルオロクロロプロパン、ペンタフルオロプロパン、及びこれらの組合せからなる群から選択される中間体化合物を生成させ;(b)場合によっては中間体を回収し;そして(c)中間体を、40℃より高く80℃以下の温度範囲内で苛性試薬と接触させる;ことによってテトラフルオロプロペンを製造する方法に関する。本発明の
いくつかの形態においては、テトラフルオロクロロプロパンは1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパンであり、及び/又はペンタフルオロプロパンは1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンである。最後の工程の苛性試薬としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びこれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。かかる苛性試薬としては、KOH、NaOH、LiOH、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、CaO、及びこれらの組合せを挙げることができる。幾つかの態様においては、苛性試薬は水酸化カリウム(KOH)であり、これは約5重量%〜約95重量%のKOHを有する水溶液として与えることができる。
【0010】
[0011]脱ハロゲン化水素化プロセスの反応圧力は、大気圧から大気圧以上又は大気圧以下の範囲であってよい。
[0012]脱ハロゲン化水素化プロセスは、本明細書において規定する相間移動触媒の存在下において行うことができる。かかる相間移動触媒としては、クラウンエーテル、オニウム塩、クリプタート、ポリアルキレングリコール、これらの誘導体、及びこれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。一態様においては、相間移動触媒はAliquat 336である。
【0011】
[0013]更なる態様においては、本発明は、1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン及び1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンを、苛性試薬の存在下において、40℃より高く80℃以下の温度範囲で脱ハロゲン化水素化することによって2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを製造する方法に関する。
【0012】
[0014]本発明の脱ハロゲン化水素化反応工程は、開示する40℃より高く80℃より低いか又は約80℃の温度範囲のために特に有利である。この温度範囲は、驚くべきことに転化収率及び反応速度の両方を増加させることが本発明において示される。本発明の更なる態様及び有利性は、本明細書の開示及び教示に基づいて当業者に容易に明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0015]本発明は、出発試薬又は中間体試薬としてテトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンを用いて2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)などのテトラフルオロプロペンを製造する方法に関する。幾つかの形態においては、テトラフルオロクロロプロパンの規定は、4つのフッ素原子及び1つの塩素原子を有する三炭素のアルキル鎖を指す。幾つかの態様においては、テトラフルオロクロロプロパンは1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン(HCFC−244bb)である。更なる形態においては、ペンタフルオロプロパンの規定は、5つのフッ素原子を有する三炭素のアルキル鎖を指す。幾つかの態様においては、ペンタフルオロプロパンは1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)である。本明細書において議論する数多くの態様において、テトラフルオロクロロプロパンはHCFC−244bbと規定され、及び/又はペンタフルオロプロパンはHFC−245cbと規定されるが、当業者であれば、かかる態様は本発明を限定するものではなく、HCFC−244bb又はHFC−245cbはそれぞれ任意のテトラフルオロクロロプロパン又はペンタフルオロプロパンで置き換えることができることを認識するであろう。
【0014】
[0016]幾つかの態様においては、本発明は、(a)2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)の出発材料を、フッ素化触媒の存在下においてフッ化水素と接触させて、テトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンを含む中間体を生成させ、(b)場合によってはかかる中間体を回収し、そして(c)かかる中間体を、HFO−1234yfを含む反応生成物を生成させるのに有効な条件
下で苛性溶液と接触させる工程を含む、HFO−1234yfを製造するための新規な方法に関する。
【0015】
[0017]HCFO−1233xfをフッ化水素化する最初の工程は、米国出願12/338,466(その内容は参照として本明細書中に包含する)に開示されているもののような当該技術において公知の反応条件を用いて行うことができる。この目的を達成するために、一態様においては、触媒を用いて、HCFO−1233xfの二重結合を横切るHF付加によるHCFO−1233xfのテトラフルオロクロロプロパン(例えばHCFC−244bb)へのシングルパス転化率を向上させる。また、幾つかのペンタフルオロプロパン(例えばHFC−245cb)も有用な副生成物として生成する可能性がある。この工程を実施するための触媒としては、SbCl
3、SbCl
5、SbF
5、TiCl
4、SnCl
4、Cr
2O
3、及びフッ素化Cr
2O
3を挙げることができるが、これらに限定されない。下記において議論するように、フッ化水素化プロセスは蒸気相又は液相中で行うことができる。
【0016】
[0018]蒸気相フッ化水素化においては、HF(フッ化水素ガス)を、触媒床を通して連続的に供給する。HF流のみを供給する短い時間の後、HCFO−1233xfを、約1:1〜約1:30、幾つかの態様においては約1:2〜約1:15(HCFO−1233xf/HFのモル比)の比で触媒床を通して連続的に供給する。HFとHCFO−1233xfとの間の反応は、約30℃〜約400℃(更なる態様においては約100℃〜約300℃)の温度、及び約5psia〜約200psia(ポンド/平方インチ絶対圧)(更なる態様においては約30psia〜約175psia)の圧力で行う。触媒は、活性炭のような基材上に担持させることができ、或いは非担持又は自立型であってよい。活性炭に加えて、有用な触媒担体としては、アルミナ、フッ素化アルミナ、フッ化アルミニウム、アルカリ土類金属酸化物、フッ素化アルカリ土類金属、酸化亜鉛、フッ化亜鉛、酸化スズ、及びフッ化スズが挙げられる。触媒は、使用前に、触媒の状態によって無水フッ化水素HF(フッ化水素ガス)で活性化することができ(又はしないことができる)。
【0017】
[0019]液相フッ化水素化においては、触媒を液体形態で反応器に充填し、場合によってはHFで活性化する。次に、活性化した触媒を約30℃〜約200℃(更なる態様においては約50℃〜約120℃)の所望の反応温度に加熱し、圧力を約15psia〜約200psia(更なる態様においては約50psia〜約175psia)の間に維持する。HFのみを供給する短い時間の後、HCFO−1233xf供給流を、約1:1〜約1:30、更なる態様においては約1:2〜約1:15(HCFO−1233xf/HFのモル比)の比で触媒を通して連続的に供給する。必要な場合には、Cl
2又は同様の酸化剤を連続又はバッチ添加することによって触媒を活性化状態に保持することができる。
【0018】
[0020]幾つかの態様においては、フッ化水素化反応は、約70%以上、更なる態様においては約90%以上、更なる態様においては約93%以上の転化率を達成するように行う。転化率は、消費された反応物質(HCFO−1233xf)のモル数を、反応器へ供給した反応物質(HCFO−1233xf)のモル数で割り、100をかけることによって算出される。達成されるテトラフルオロクロロプロパン(例えばHCFC−244bb)に関する選択率は、約60%、又は更なる態様においては約80%以上である。選択率は、形成された生成物のモル数を消費された反応物質のモル数で割ることによって算出される。
【0019】
[0021]フッ化水素化は、耐腐食性の反応容器内で行うことができる。耐腐食性材料の例は、ハステロイ、ニッケル、インコロイ、インコネル、モネル、及びフルオロポリマーライニングである。容器は、固定触媒床を有していてよく、又は液体触媒を含んでいてよい。所望の場合には、運転中に窒素又はアルゴンのような不活性ガスを反応器内で用いるこ
とができる。
【0020】
[0022]しかしながら、上記のフッ化水素化工程は必ずしも本発明を限定するものではなく、当該技術において公知の派生的又は代替の手順を含ませることもできる。
[0023]テトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンが生成したら、場合によってはそれを脱ハロゲン化水素化反応器中に供給する前に生成物流から分離することができる。しかしながら、かかる分離法は本発明を限定するものではなく、抽出、蒸留などのような当該技術において公知の任意の手段を用いて与えることができる。1つの非限定的な態様においては、分離は、これらの化合物の1以上の特性、例えば融点、凝固点、沸点などに基づいて行う。或いは、これらの成分は、反応中に1以上の試薬又は副生成物と共に形成される公知の共沸混合物又は共沸混合物様の組成物に基づいて分離することができる。更なる別法においては、テトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンは、当業者に公知の他の方法を用いて抽出することができる。
【0021】
[0024]本発明の最終工程は、テトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンを脱ハロゲン化水素化してHFO−1234yfを形成することを含む。幾つかの態様においては、テトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンを苛性脱ハロゲン化水素化剤と接触させてHFO−1234yfを形成する。本明細書において用いる「苛性」材料又は試薬とは、軽金属の水酸化物又は酸化物化合物を指す。かかる苛性材料としては、アルカリ金属の水酸化物及び酸化物、並びにアルカリ土類金属の水酸化物及び酸化物を挙げることができるが、これらに限定されない。代表的なアルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。アルカリ土類金属水酸化物及び酸化物としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH
2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)
2)、酸化カルシウム(CaO)、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。一般的に言うと、モル基準で有機物の量に対して過剰量の苛性材料を用いて転化率の増加を助ける。
【0022】
[0025]1つの非限定的な態様においては、苛性材料は水酸化カリウム(KOH)である。KOHは、約5重量%〜約62重量%、更なる態様においては約10重量%〜約55重量%、更なる態様においては約30重量%〜約50重量%の苛性材料を含む水溶液として与えることができる。プロセスの実施においては、テトラフルオロクロロプロパン及び/又はペンタフルオロプロパンに対するKOHのモル比は、約1〜約15、更なる態様においては約1〜約10、更なる態様においては約1〜約5である。ここでも、かかるモル量は必ずしも本発明を限定するものではなく、過剰のKOHなどの任意の量を与えて転化を促進させることができる。
【0023】
[0026]苛性材料としてKOH、並びに出発材料としてHCFC−244bb及び/又はHFC−245cbを用いる態様は、例として(しかしながら必ずしも限定ではない)次の反応式:
CF
3CFClCH
3 (244bb) + KOH → CF
3CF=CH
2 + KCl + H
2O (1)
CF
3CF
2CH
3 (245cb) + KOH → CF
3CF=CH
2 +KF + H
2O (2)
によって示すことができる。
【0024】
[0027]かかる脱ハロゲン化水素化は、少なくとも約40%、更なる態様においては少なくとも約55%、更なる態様においては少なくとも約70%のHCFC−244bb及び/又はHFC−245cbの転化率を与えるのに有効な条件下で行う。幾つかの態様においては、転化率は少なくとも約90%、更なる態様においては約100%である。幾つかの更なる態様においては、HCFC−244bb及び/又はHFC−245cbは、少なくとも約85%、更なる態様においては少なくとも約90%、更なる態様においては少な
くとも約95%、更なる態様においては約100%のHFO−1234yfへの選択率を与えるのに有効な条件下で転化させる。この反応は液相反応として行うことができるが、幾つかの態様においては、気相、固相、或いは気相、液相、又は固相反応の組合せを含ませることができる。この反応は、バッチ式、連続的、又はこれらの組合せで行うことができると意図される。
【0025】
[0028]脱ハロゲン化水素化反応のための圧力条件は、本発明を限定するものではないと考えられる。この目的を達成するために、反応圧力は、それぞれの用途の特定又は所望の処理パラメーターによって変化させることができ、或いは大気圧から大気圧以上又は大気圧以下の範囲であってよい。
【0026】
[0029]一態様においては、脱ハロゲン化水素化の転化収率及び速度を制御するために、40℃より高く80℃以下の温度範囲が望ましい。更なる態様においては、脱ハロゲン化水素化工程は約55℃で行う。この温度範囲は転化反応のために驚くほど有利であることが分かった。上述したように、244bb/245cb中の排除すべきハロゲンは中央部の炭素に結合しているので、より低い反応温度(例えば40℃より低い温度)は低すぎるために有意義な転化を達成することができない。かかるより低い温度においては、内部のハロゲンは末端炭素に結合しているものよりも除去するのがより困難である。驚くべきことに、40℃より高く80℃以下の反応温度は転化率及び反応速度を増加させ、これによってより効率的な収率及び短縮された反応時間を導くことが分かった。したがって、この温度範囲は公知の反応条件よりもはるかに有利である。
【0027】
[0030]上記に基づいて、脱ハロゲン化水素化反応を進行させる前に、苛性溶液及び/又は反応物質を所望の温度範囲内にすることができる。この範囲としては、約20℃〜約100℃、更なる態様においては約30℃〜約90℃、更なる態様においては約40℃〜約80℃を挙げることができる。上記で議論したように、後者の温度範囲は、生成物収率及び反応速度の驚くほどの増加を促進させるので最も望ましい。
【0028】
[0031]また、脱ハロゲン化水素化反応は、相間移動触媒の不存在下又は存在下で行うことができる。相間移動触媒は、イオン性化合物(例えば反応物質又は成分)の有機相形態(例えば水相)への移動を促進する物質である。例えば、苛性材料によって水相又は無機相を存在させ、フルオロカーボンによって有機相を存在させることができる。相間移動触媒は、これらの2つの非相溶性成分の反応を促進する。相間移動触媒はイオン性又は中性であってよく、クラウンエーテル、オニウム塩、クリプタート、及びポリアルキレングリコール、又はこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0029】
[0032]クラウンエーテル(例えばエーテル基がジメチレン結合によって接続されている環式分子)としては、18−クラウン−6、15−クラウン−5、12−クラウン−4を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のクラウンエーテルの誘導体、例えばジベンゾ−18−クラウン−6、ジシクロヘキサノ−18−クラウン−6、及びジベンゾ−24−クラウン−8、並びに12−クラウン−4もまた有用である。アルカリ金属化合物、特にリチウムのために特に有用な他のポリエーテルは、米国特許4,560,759(参照として本明細書中に包含する)に記載されている。クラウンエーテルに類似しており、同じ目的のために有用な他の化合物は、1以上の酸素原子が他の種類のドナー原子、特にN又はSによって置き換えられていることによって相違している化合物、例えばヘキサメチル−[14]−4,11−ジエンN
4である。
【0030】
[0033]オニウム塩としては、本発明方法において相間移動触媒として用いることができる第4級ホスホニウム塩及び第4級アンモニウム塩が挙げられる。かかる化合物の例としては、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムブロミド、ベンジ
ルトリエチルアンモニウムクロリド、メチルトリオクチルアンモニウムクロリド(Aliquat 336及びAdogen 464の商品名で商業的に入手できる)、テトラ−n−ブチルアンモニウ
ムクロリド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロミド、テトラ−n−ブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムクロリド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムクロリド、トリフェニルメチルホスホニウムブロミド、トリフェニルメチルホスホニウムクロリド、4−ジアルキルアミノピリジニウム塩、例えばテトラフェニルアルソニウムクロリド、ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン]イミニウムクロリド、及びテトラトリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフィンイミノ]ホスホニウムクロリドが挙げられるが、これらに限定されない。相間移動剤の1つの非限定的な例はAliquat 336である。
【0031】
[0034]相間移動触媒として有用なポリアルキレングリコール化合物としては、グリコール類、例えばジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ジイソプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、及びテトラメチレングリコール、並びにかかるグリコール類のモノアルキルエーテル類、例えばモノメチル、モノエチル、モノプロピル、及びモノブチルエーテル、ジアルキルエーテル類、例えばテトラエチレングリコールジメチルエーテル及びペンタエチレングリコールジメチルエーテル、フェニルエーテル類、ベンジルエーテル類、及びポリアルキレングリコール類、例えばポリエチレングリコール(約300の平均分子量)ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール(約300の平均分子量)ジブチルエーテル、及びポリエチレングリコール(約400の平均分子量)ジメチルエーテルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
[0035]クリプタートは、相間移動触媒として存在すると有用な他の種類の化合物である。これらは、橋頭構造を適当に離隔したドナー原子を含む鎖で結合することによって形成される三次元ポリ大環状キレート剤である。例えば、2.2.2−クリプタート(4,7,13,16,21,24−ヘキサオキサ−1,10−ジアサビシクロ(8.8.8)ヘキサコサン(Cryptand 222 及びKryptofix 222の商品名で入手できる)のように、窒素橋頭を(−OCH
2CH
2−)の鎖で結合することで得られる二環式分子である。橋架のドナー原子は全てO、N、又はSであってよく、或いは化合物は、橋架ストランドが複数のかかるドナー原子の組合せを含む混合ドナー大員環であってよい。
【0033】
[0036]また、相間移動触媒としては、米国特許6,548,719(その内容は参照として本明細書中に包含する)内に記載されているものを挙げることもでき、所望の反応を行うのに有効な量で与えることができる。かかる量としては、0.001〜約10モル%の間の濃度を挙げることができるが、これに限定されない。
【0034】
[0037]脱ハロゲン化水素化は、耐腐食性の反応容器及び/又は撹拌タンク反応器内で行うことができる。かかる材料の例としては、ハステロイ、インコネル、モネル、及びフルオロポリマーライニングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
[0038]以下は本発明の実施例であるが、これらは限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0036】
[0039]実施例1:
[0040]SbCl
5の存在下において、HCFO−1233xfの液相フッ素化を行った。ID(内径)=2インチの充填カラム及び凝縮器を取り付けたテフロンライニング液相反応器(テフロンはE.I. duPont de Nemours & Co.の商標である)中に、約6100gの
SbCl
5を含ませた。反応器はID=2.75インチ×L(長さ)=36インチである。まず、大過剰のCl
2を反応器に加えて、触媒が五価状態であることを確保した。反応器を約85℃〜87℃に加熱した。最初にHFの供給を開始した。1.3ポンドのHFが加えられた時点で、HCFO−1233xfの供給を開始した。HCFO−1233xf供給材料の純度は約98GC面積%(ガスクロマトグラフ)であった。実験を71時間継続して行った。この実験に関しては、実験の間中にわたって塩素を約4時間毎にバッチ供給して、触媒を活性に保持した。実験中にHF及びHCFO−1233xfの供給を変化させた。供給は、7.9/1のHF/HCFO−1233xfの比のために、平均で0.495ポンド/時のHF及び0.408ポンド/時のHCFO−1233xf(塩素は有機物の5.4重量%であった)であり、実験の開始時において135秒の滞留時間を用いた。実験の中間部においては、供給は、8.33/1のHF/HCFO−1233xfの比のために、平均で0.843ポンド/時のHF及び0.66ポンド/時のHCFO−1233xf(塩素は有機物の3.3重量%であった)であり、80秒の滞留時間を用いた。実験の終了時においては、速度を増加させた。この期間に関する供給は、7.5/1のHF/HCFO−1233xfの比のために、平均で1.42ポンド/時のHF及び1.24ポンド/時のHCFO−1233xf(塩素は有機物の2重量%であった)であり、47秒の滞留時間を用いた。未反応のHCFO−1233xfのレベルは実験の後半において増加したように思われ、これはより低いCl
2レベル又はより短い滞留時間の結果であろう。この実験に関する反応器温度範囲は78〜91℃であり、圧力範囲は85psig〜115psig(ポンド/平方インチゲージ圧)であった。実験から回収された有機粗物質をガスクロマトグラフにかけたところ、以下のGC分析値を有していた。有機相中のHCFC−244bb、HFC−245cb、及びHCFO−1233xfの濃度は、それぞれ82.9、11.8、及び1.1GC面積%であった。
【0037】
[0041]実施例2:
[0042]熱電対及び磁気スターラーを取り付けた1LのParr反応器内で、HCFC−244bbの脱塩化水素化を行った。15gのAliquat 336を反応器に加えた。次に、反応器
を閉止し、圧力試験した。その後、294gの有機混合物及び270gの45%KOHを反応器中に加えた。ガスクロマトグラフィー(GC)を用いる有機混合物の分析は、8.1GC面積%の1234yf、89.5GC面積%の244bb、及び1.8GC面積%の1233xfを示した。次に、スターラーを作動させ、反応器を55℃に加熱した。55℃に達すると(約2時間後)、反応器内の圧力は開始時の10psigから55psigに増加した。反応器を55℃に4時間保持すると、圧力は78psigに更に増加した。反応が完了した後の反応器有機内容物のGC分析は、64.2GC面積%の1234yf、33.2GC面積%の244bb、2.2GC面積%の1233xf、及び0.4GC面積%の不明物質を示した。
【0038】
[0043]実施例3:
[0044]脱フッ化水素化反応を行うために、撹拌器、精留カラム、及び凝縮器(未反応の有機材料を反応器に還流して戻すため)を取り付けた10ガロンのジャケット付き金属反応器を準備する。研究する反応は、1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)を脱フッ化水素化して2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)を生成させるというものである。第1の実験のために、35.2ポンドの38重量%KOH溶液及び0.4ポンドの相間移動触媒(Aliquat 366)を反応器に
充填する。次に、混合物を420rpmで撹拌し、55〜60℃に加熱する。次に、約27.1ポンドの粗245cb(94GC面積%の純度)を加える。反応器の圧力は約200psigに上昇し、若干の生成物を、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの存在を示すカラムの頂部における目標温度にしたがって形成されるにつれて凝縮器の頂部から取り出す。乾燥剤を用いて塔頂物質を乾燥し、ドライアイストラップ中に回収する。反応が完了した後の反応器有機内容物のGC分析は、80%の245cbの転化率(モル基準
)、及び95%の1234yfへの選択率を示す。
【0039】
[0045]実施例4:
脱ハロゲン化水素化反応を行うために、撹拌器、精留カラム、及び凝縮器(未反応の有機材料を反応器に還流して戻すため)を取り付けた10ガロンのジャケット付き金属反応器を準備する。研究する反応は、1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン(HCFC−244bb)及び1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(HFC−245cb)の混合物を脱ハロゲン化水素化して2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)を生成させるというものである。第1の実験のために、35ポンドの38重量%KOH溶液及び0.4ポンドの相間移動触媒(Aliquat 366)を反応器に充填する。次に、混合物を420rpmで撹拌し、55〜60℃に加熱する。次に、約25ポンドの244bb/245cb混合物(約72GC面積%の244bb及び26GC面積%の245cb)を加える。反応器の圧力は約200psigに上昇し、若干の生成物を、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの存在を示すカラムの頂部における目標温度にしたがって形成されるにつれて凝縮器の頂部から取り出す。乾燥剤を用いて塔頂物質を乾燥し、ドライアイストラップ中に回収する。反応が完了した後の反応器有機内容物のGC分析は、75%の244bbの転化率(モル基準)、80%の245cbの転化率(モル基準)、及び合計で95%の1234yfへの選択率を示す。
本発明は以下の態様を含む。
[1]
テトラフルオロクロロプロパン又はペンタフルオロプロパンを、苛性試薬の存在下において、40℃より高く80℃以下の温度範囲内で脱ハロゲン化水素化することを含む、テトラフルオロプロペンの製造方法。
[2]
テトラフルオロクロロプロパンが1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパンである、[1]に記載の方法。
[3]
ペンタフルオロプロパンが1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンである、[1]に記載の方法。
[4]
テトラフルオロプロペンが2,3,3,3−テトラフルオロプロペンである、[1]に記載の方法。
[5]
苛性試薬が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、及びこれらの組合せからなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[6]
苛性試薬が、KOH、NaOH、LiOH、Mg(OH)
2、Ca(OH)
2、CaO、及びこれらの組合せからなる群から選択される、[1]に記載の方法。
[7]
苛性試薬がKOHである、[1]に記載の方法。
[8]
KOHを、約5重量%〜約62重量%のKOHを含む水溶液として与える、[7]に記載の方法。
[9]
脱ハロゲン化水素化を相間移動触媒の存在下において行う、[1]に記載の方法。
[10]
2−クロロ−3,3,3−トリフルオロプロペンをフッ素化触媒の存在下においてフッ化水素と接触させて、テトラフルオロクロロプロパン、ペンタフルオロプロパン、及びこれらの組合せからなる群から選択される中間体化合物を生成させ;
場合によっては中間体を回収し;そして
中間体を、40℃より高く80℃以下の温度範囲で苛性試薬と接触させる;
ことを含む2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。
[11]
1,1,1,2−テトラフルオロ−2−クロロプロパン及び/又は1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンを、苛性試薬の存在下において、40℃より高く80℃以下の温度範囲において脱ハロゲン化水素化することを含む2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法。