【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、請求項1に記載の発明に係る態様によって達成される。
【0012】
有用な態様は従属請求項の主題として示される。
【0013】
咬合スプリント装置は、特に睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられる。咬合スプリント装置の実施の態様は、主として睡眠時無呼吸症候群の治療に用いることを意図するものであるが、別の種類の咬合スプリント装置においても、本発明を具現化することが可能である。この点に関し、咬合スプリント装置は、歯の矯正治療用や、夜間などにおける歯ぎしり防止用として用いることも可能である。
【0014】
基本的な構成として、咬合スプリント装置は、上顎側の歯列に装着可能な上顎側の成形スプリントと、下顎側の歯列に装着可能な下顎側の成形スプリントとを備える。使用目的に応じ、上顎側の成形スプリントを下顎側の成形スプリントに押し付けることができるようになっている。上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を調整するため、上顎側の成形スプリントは上顎側の位置決め手段を少なくとも1つ備え、下顎側の成形スプリントは下顎側の位置決め手段を少なくとも1つ備える。この点に関し、それぞれの成形スプリントに設けられる位置決め手段の形式、構造、及び配置は、そもそも重要なことではない。少なくとも、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置の調整には、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接する必要があり、それにより、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が前後方向及び横方向の少なくとも一方で定まる。
【0015】
この点についても、例えば、歯列に装着する前に、口腔の外で上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとを接合することにより、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接するのか、或いは歯列に装着した上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが、口を閉じることによって互いに接したときに限り、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接するのかは、そもそも重要なことではない。少なくとも、上下の歯を閉じたときに、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが互いに押圧し合う状態においては、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接することにより、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が定まる。この相対位置には、前後方向、即ち患者から見て前方及び後方と、横方向とのいずれか一方、または両方が含まれる。また、この点に関し、本発明を具現化する際、僅かな遊びを設けるか否かは、そもそも重要なことではない。
【0016】
説明で用いる方向に関し、前後方向は、患者から見て前後に延びる線に沿った方向であり、上下方向は咬合平面にほぼ直交する向きであり、横方向は上下方向に直交すると共に前後方向に直交する方向、即ち、患者から見て、左右に延びる線に沿った方向である。
【0017】
本発明によれば、上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントの一方または両方が少なくとも1つの取付手段を備えたものにおいて、上記の目的が達成される。但し、現状の公知の実例とは異なり、位置決め手段は、成形スプリントにある取付手段に固定できるように構成される。下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとの相対位置を変更可能とするため、本発明によれば、取付手段に固定された位置決め手段を、形状の異なる別の位置決め手段と交換することが可能となっている。このことは、取付手段に固定しようとするそれぞれの位置決め手段により、下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとの相対位置を別個に規定できることを意味する。
【0018】
取付手段に固定される位置決め手段を交換可能とするのに伴い、基本的には交換可能であるものの、交換に用いる別の位置決め手段がなく、位置決め手段が1つしか存在しないようなことが起こりうる。
【0019】
本発明の基本概念は、複雑な機構を用いて相対位置の調整を行うものではなく、単純な方法で位置決め手段を取付手段に固定するだけですみ、必要なときに迅速に交換することができることである。従って、複雑性は最小限度まで低減され、特に清浄も容易に行うことが可能となる。この点に関し、具体的には、使用の度にそれぞれの成形スプリントを薬品で洗浄する必要がなくなる。その代わりに、通常は単純に成形スプリントをすすぎ洗いし、ときおり薬品による洗浄を行うだけでよい。
【0020】
この態様においては、担当医師または担当歯科医師が、必要となる相対位置を決定しさえすれば、それに対応する位置決め手段を提供することが可能である点で、更に有用である。従って、相対位置の変更が必要となったとしても、担当医師から患者宛に、必要な位置決め手段を容易に郵送することができる。不適切な位置調整は行われずにすみ、患者は自身で位置決め手段を取り付け手段に固定することができる。これに対し、現状の技術では、担当医師または担当歯科医師による調整が必要であって、担当医師または担当歯科医師を訪れることなく、患者自身により相対位置を変更することは事実上不可能である。仮に患者が雑に位置調整を行ってしまうと、不適切な位置調整となる危険性が大きく伴うものとなる。
【0021】
本発明により、上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントは、互いに対向する接触面を有して構成される。これにより、上下の歯を閉じたときに、接触面において、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが互いに押圧し合うことになる。このため、この接触面は、咬合平面に位置するのが好ましく、凹凸のない、即ち平坦な面となっているのが好ましい。
【0022】
横方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が定まるように、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接した状態を得るため、具体的に有用な態様として、上顎側の位置決め手段は、実質的に前後方向及び上下方向に延びる上顎側の案内面を備える。同様に、下顎側の位置決め手段は、実質的に前後方向及び上下方向に延びる下顎側の案内面を備える。この点に関し、これら案内面は、互いに相補的形状を有していると特に有効である。このようにして、上顎側の案内面と下顎側の案内面とが密接した状態、即ち上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接した状態が、上下の歯を閉じたときに得られる。基本的に上下方向に延びると共に中心面にほぼ平行なこれら案内面の位置が確定することにより、横方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が良好に定まる。
【0023】
更に、特に好ましい態様として、上顎側の位置決め手段は、実質的に前後方向及び主として上下方向に延びる上顎側の位置決め面を備える。同様に、下顎側の位置決め手段は、実質的に横方向及び主として上下方向に延びる下顎側の位置決め面を備える。また、これら位置決め面も、互いに相補的形状を有していると特に有効である。上顎側の位置決め面と下顎側の位置決め面との密接により、前後方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を定めることができる。
【0024】
従って、案内面及び位置決め面の両方をそれぞれの位置決め手段に設けると特に有効であり、前後方向及び横方向で、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を定めることが可能となる。
【0025】
この点に関し、上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントを装着する前に、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とを密接させながら、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが接するようにすることも可能であるが、まず上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントをそれぞれ対応する歯列に装着し、上下の歯を閉じていくときに、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段との密接が生じるようにするのが好ましい。この点に関し、密接及びそれに伴う相対的な位置決めが、上下の歯を閉じ始めると生じるのか、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが十分に押圧し合うようになってから生じるのかは、そもそも重要なことではない。
【0026】
上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントの快適な装着感、及び必要とされる相対位置の確保に関し、上顎側の案内面及び下顎側の案内面は、上下方向からそれるように、1度から10度の角度で外方に向けて傾斜していると、特に有効である。上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが、横方向において、互いに正確に中心を合わせて対向していないような場合、上下の歯を閉じようとする際に、このような案内面の傾斜によって、支障なく歯を閉じることが可能であり、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが横方向において所望の相対位置となった状態で上下の歯が完全に閉じるまで、これら案内面を互いに摺動させることが可能である。
【0027】
同様に、上顎側の位置決め面及び下顎側の位置決め面が、上下方向からそれるように、10度から40度の角度で前方に向けて傾斜していると、特に有効である。上下の歯を開いた状態のときに、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが、前後方向で互いに大きくずれている可能性がある場合、このような位置決め面の傾斜によって、上下の歯を閉じたときに、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとを、それぞれ相手側に向けて良好に案内することができる。これら案内面及び位置決め面を、上下方向からそれるように傾斜させる方向は、上下の歯を開いた状態から上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントを閉じていくことができるようにすることを考慮すれば、当業者に明らかである。
【0028】
本発明によれば、位置決め手段は、臼歯の領域において、それぞれの成形スプリントの右側及び左側に
配置される。これにより、成形スプリント毎に少なくとも2つの位置決め手段がなければならないことになる。このような配置は、位置決め手段に必要な構造的スペース、即ちそれぞれの臼歯の領域に必要なスペースが、これら成形スプリントを装着する患者を不当に害することなく確保可能であれば特に有効である。この点に関して、位置決め手段を歯列の外側に配置すると、より一層有効である。これは、位置決め手段が、歯とほおとの間となるほお領域に位置することを意味する。
【0029】
これに関連して、下顎側の位置決め手段が、上顎側の位置決め手段の外側且つ前方に配置されると、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いる場合に特に有効である。有効な案内面とする場合、このことは、ほおと上顎側の位置決め手段との間に下顎側の位置決め手段が位置していて、歯列と下顎側の位置決め手段との間に上顎側の案内面が位置することを意味する。
【0030】
上顎側の歯列に対して下顎側の歯列の前方への相対的移動を伴いながら上下の歯を閉じていくと、下顎側の成形スプリント及び下顎側の歯列が案内されて、上顎側の位置決め面の前方に、下顎側の案内面が効果的に配置される。従って、上顎側の位置決め面が傾斜していれば、上下の歯を閉じることにより、上顎側の位置決め面に沿って、下顎側の成形スプリントを同様に前方に移動させることができる。
【0031】
特に快適な装着方法、及び特に安価での実現と共に効果的な清浄の点で有効となる具体的な構成は、それぞれの位置決め手段が、噛合平面より上方に位置する場合、即ちそれぞれの成形スプリントに対する相対位置が、接触面より上方にある場合に得られる。このことは、上顎側の位置決め手段と共に上顎側の成形スプリントの全体が、接触面より上方、即ち噛合平面より上方に位置することを意味する。これに対し、下顎側の成形スプリントは、下顎側の位置決め手段が、噛合平面より上方に位置して接触面より上方に配置されることにより、上顎側の成形スプリントの高さにあるように構成される。
【0032】
咬合スプリント装置において、上顎側の
成形スプリントが、一体的な位置決め手段を備えていると、特にコストの面で有効な態様とすると共に、清浄の容易性を確保することができる。上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントのそれぞれに2つずつの位置決め手段が設けられる場合、対となる2つの位置決め手段が、一体的部材として
上顎側の成形スプリントに設けられる。このようにすることで、製造コストが低減され、特に一体的な構成により、不要な継ぎ目や隙間がなくなり、汚れの堆積を最小限にすることができる。また、一体的構造の採用は、
上顎側の成形スプリントにおける位置決め手段の安定性に効果的に寄与するので有効である。
【0033】
更に、成形スプリントが、単一の材料により単一部材として製造される場合には、特に有効である。但し、このことは、例えばワイヤフレームなど、成形スプリント内に埋め込まれる補強部材を備えた態様、または対応する歯列に成形スプリントを装着するための受け口が、少なくとも位置決め手段と一体的に構成される成形スプリントの本体とは異なる材料で形成される態様には適用されない。
【0034】
交換可能な本発明の位置決め手段について、これら位置決め手段が、前後方向に見て、取付手段に対する位置を互いに異ならせた位置決め面を有していると、特に有効である。これは、それぞれの位置決め手段が、位置決め面から取付手段までの距離を異ならせることで、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置に変化が生じることを意味する。従って、位置決め手段を交換することにより、位置決め面の位置が変化するので、前後方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が変化する。
【0035】
取付手段の具体的構成として、本発明では、
下顎側の成形スプリントの成形時に埋め込まれた位置決めピンを用いる。このようにした場合、位置決めピンは、位置決め手段の位置決めを行うと同時に、位置決め手段の固定に用いることができる。これに対応して、交換可能な位置決め手段は、位置決めピンと相補的な形状を有して
下顎側の成形スプリントへの取り付けを行うための位置決め凹部を有している。例えば、位置決めピンは、金属板から型抜きした部材であってもよく、例えば型成形によって
下顎側の成形スプリントに固定することができる。
【0036】
位置決め凹部を有した位置決め手段の構成に対応し、各位置決め面は、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を異ならせるように、位置決め凹部までの距離を様々に設定して形成される。
【0037】
傾斜した位置決め面を考慮すると、特に僅かに傾斜した案内面の場合で、口腔内での装着性を考慮する場合
に、本発明により、交換可能な位置決め手段がひれ状に形成
される。この場合、位置決め手段は、当該位置決め手段が組み付けられる成形スプリントの接触面に下部が押し付けられ、側面の少なくとも一部が案内面を形成すると共に、前後方向端部の少なくとも一部が位置決め面を形成する。
【0038】
成形スプリントの予測される大きさ、及び快適性を阻害することなく利用可能なスペースを考慮すると、交換可能な位置決め手段は、接触面から5mm〜30mmの高さ、特に12mm〜18mmの高さを有していると有効である。この点に関し、交換可能な位置決め手段は、相手側の成形スプリントよりも僅かに突出していてもよい。このようにして、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段との間での、信頼性の高い案内、及び信頼性の高い密接が確保される。
【0039】
上下の歯を閉じたときに位置決め手段が密接し、それぞれの成形スプリントの頂面同士の接合が可能である限り、案内面の形状は、そもそも重要なことではない。この点に関して、案内面は、曲面または平面とすることができる。成形スプリントの一般的な形状及び成形スプリントにおける位置決め手段の配置を考慮すると共に、上下方向から僅かにそれるような傾斜を考慮すると、案内面は、大部分を平坦に、または極めて僅かな湾曲を有して形成されるのが好ましい。
【0040】
また、上下の歯を閉じたときに双方の位置決め面が密接可能である限り、位置決め面の形状も、そもそも重要なことではない。位置決め面は、曲面または平面とすることができる。位置決め面を曲面で形成した場合、前後方向における上顎側の成形スプリントの位置と下顎側の成形スプリントの位置とが厳密に一致していなければ、上下の歯が近づくことにより、組み付けられた成形スプリントと共に、前方に位置する位置決め手段の前方への急速な移動がはじめに生じた後、この位置決め手段がゆっくりと前方に移動することになる。但し、下顎側の位置決め面と上顎側の位置決め面との間での相補的な形状を実現することに関し、特に位置決め手段の交換可能性を考慮すると、更に複雑な形状は不都合である。