特許第6157583号(P6157583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157583
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】咬合スプリント装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/56 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
   A61F5/56
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-502089(P2015-502089)
(86)(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公表番号】特表2015-511513(P2015-511513A)
(43)【公表日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】DE2012000314
(87)【国際公開番号】WO2013143511
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2015年3月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514240806
【氏名又は名称】ホフマン, コンラッド
【氏名又は名称原語表記】HOFMANN, Konrad
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン, コンラッド
【審査官】 金丸 治之
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−519137(JP,A)
【文献】 特開2009−028084(JP,A)
【文献】 特開2004−073473(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/001317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎側の歯列に装着可能な上顎側の成形スプリント(02)と、下顎側の歯列に装着可能な下顎側の成形スプリント(12)とを備え、下顎側の前記成形スプリント(12)に対して上顎側の前記成形スプリント(02)を押し付けることが可能であって、上顎側の前記成形スプリント(02)は、平坦な接触面(04)を備え、下顎側の前記成形スプリント(12)は、咬合平面(09)において前記接触面(04)に対向する平坦な接触面(14)を備えており、上顎側の位置決め手段(05)を少なくとも1つ備えると共に、下顎側の位置決め手段(22)を少なくとも1つ備えて、上顎側の前記位置決め手段(05)と下顎側の前記位置決め手段(22)とが密接することより、前後方向(X)及び横方向(Y)の少なくとも一方における上顎側の前記成形スプリント(02)と下顎側の前記成形スプリント(12)との相対位置を定めることが可能な、睡眠時無呼吸症候群治療用の咬合スプリント装置であって、
前記成形スプリント(02,12)のそれぞれは、左側の臼歯領域と右側の臼歯領域とに、それぞれ1つずつの位置決め手段(05r,05l,22r,22l)が配置され、
上顎側の前記成形スプリント(02)及び下顎側の前記成形スプリント(12)の少なくとも一方は、少なくとも1つの取付手段(15)を備え、
少なくとも2つの異なる位置決め手段(22a,22b,22c)を、交換により同一の取付手段(15)に取り付け可能とすることで、上顎側の前記成形スプリント(02)と下顎側の前記成形スプリント(12)との相対位置を、少なくとも2つの異なる位置に規定可能な咬合スプリント装置において
前記取付手段は、下顎側の前記成形スプリント(12)内に埋め込まれることによって下顎側の前記成形スプリント(12)の前記接触面(14)から上方に向け突出して固定された位置決めピン(15)であり、
前記交換が可能な前記位置決め手段(22)は、下顎側の前記成形スプリント(12)に取り付けるために前記位置決めピン(15)に対して相補的に形成された位置決め凹部(25)を有し、前記位置決めピン(15)を前記位置決め凹部(25)に挿入することにより、下顎側の前記成形スプリント(12)に取り付け可能であり、
前記位置決めピン(15)は、前記交換が可能な前記位置決め手段(22)を位置決めすると共に固定し、
前記交換が可能な前記位置決め手段(22)は、ひれ状に形成されており、前記交換が可能な前記位置決め手段(22)が取り付けられる下顎側の前記成形スプリント(12)の前記接触面(14)に下部が押し付けられ、側部が案内面(24)を形成し、前後方向端部が位置決め面(23)を形成する
ことを特徴とする咬合スプリント装置。
【請求項2】
上顎側の前記位置決め手段(05)は、実質的に前記前後方向(X)及び上下方向(Z)に延びる上顎側の案内面(07)を有し、
下顎側の前記位置決め手段(22)は、実質的に前記前後方向(X)及び前記上下方向(Z)に延びて上顎側の前記案内面(07)と相補的な形状を有する下顎側の案内面(24)を有し、
前記横方向(Y)における上顎側の前記成形スプリント(02)と下顎側の前記成形スプリント(12)との相対位置は、上顎側の前記案内面(07)と下顎側の前記案内面(24)とが密接することにより定まる
ことを特徴とする請求項1に記載の咬合スプリント装置。
【請求項3】
上顎側の前記位置決め手段(05)は、実質的に前記横方向(Y)及び主として上下方向(Z)に延びる上顎側の位置決め面(06)を有し、
下顎側の前記位置決め手段(22)は、実質的に前記横方向(Y)及び主として前記上下方向(Z)に延びて上顎側の前記位置決め面(06)と相補的な形状を有する下顎側の位置決め面(23)を有し、
前記前後方向(X)における上顎側の前記成形スプリント(02)と下顎側の前記成形スプリント(12)との相対位置は、上顎側の前記位置決め面(06)と下顎側の前記位置決め面(23)とが密接することにより定まる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の咬合スプリント装置。
【請求項4】
上顎側の前記案内面(07)及び下顎側の前記案内面(24)が、1°〜10°の角度(19)で前記上下方向(Z)からそれるように外側に傾斜するか、もしくは上顎側の前記位置決め面(06)及び下顎側の前記位置決め面(23)が、10°〜40°の角度(18)で前記上下方向(Z)からそれるように前方に傾斜し、または
上顎側の前記案内面(07)及び下顎側の前記案内面(24)が、1°〜10°の角度(19)で前記上下方向(Z)からそれるように外側に傾斜すると共に、上顎側の前記位置決め面(06)及び下顎側の前記位置決め面(23)が、10°〜40°の角度(18)で前記上下方向(Z)からそれるように前方に傾斜している
ことを特徴とする請求項2または3に記載の咬合スプリント装置。
【請求項5】
下顎側の前記位置決め手段(22)は、上顎側の前記位置決め手段(05)の外側前方に配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の咬合スプリント装置。
【請求項6】
上顎側の前記位置決め手段(05)は、上顎側の前記成形スプリント(02)の前記接触面(04)の実質的に上方に配置され、
下顎側の前記位置決め手段(22)は、下顎側の前記成形スプリント(12)の前記接触面(14)の実質的に上方に配置される
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の咬合スプリント装置。
【請求項7】
上顎側の前記成形スプリント(02)は、上顎側の前記位置決め手段(05)を一体的に備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の咬合スプリント装置。
【請求項8】
前記交換が可能な前記位置決め手段(22)は、前記取付手段(15)に対して前記前後方向(X)の位置が互いに異なる位置決め面(23)を有した複数の前記位置決め手段(22)により交換可能であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の咬合スプリント装置。
【請求項9】
前記交換が可能な前記位置決め手段(22a,22b,22c)は、前記位置決め面(23)から前記位置決め凹部(25)までの距離が互いに異なる複数の前記位置決め手段(22a,22b,22c)により交換可能であることを特徴とする請求項8に記載の咬合スプリント装置。
【請求項10】
前記交換が可能な前記位置決め手段(22)は、前記接触面(14)より5mm〜30mm、特に12mm〜18mmだけ突出していることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の咬合スプリント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に記載のような上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとを備えた、睡眠時無呼吸症候群治療用の咬合スプリント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現時点において、特に睡眠時無呼吸症候群の治療用として、様々な形態の咬合スプリント装置が知られている。これらの装置は、基本的に、下顎に対する上顎の相対位置に影響を及ぼすことにより、下顎、舌、及び軟口蓋を、奥に落ち込んだ状態とならないように適度に規制して、気道を開いた状態に維持するものである。
【0003】
このような目的に特に適合した具体例が特許文献1に開示されている。この具体例は、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとからなり、それぞれの成形スプリントを、対応する歯列に嵌め込むことができるようになっている。また、これらの成形スプリントは、互いに押し付け合えるような対向する接触面を有している。これら成形スプリントの相対位置を所望の位置とするため、一方の成形スプリントは、ロックピンを有した調整機構を備えており、他方の成形スプリントは、このロックピンと相補関係をなすロック用ガイドを有している。上顎側の成形スプリントに対する下顎側の成形スプリントの相対位置は、ロックピンがロック用ガイドに係合することで定まる。
【0004】
更に、上述の特許文献1には、これに代わる形態の調整機構が示されている。この調整機構を用いることにより、上顎側の成形スプリントに対する下顎側の成形スプリントの相対位置を個別に変更することが可能となる。上記の例では、調整ねじを用い、調整機構のロックピンの位置を調整することができるようになっている。
【0005】
特許文献2には、関節結合された2つのアームを介し、下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとが互いに結合され、分離することができない咬合スプリント装置が開示されている。上顎及び下顎に対する調整は、熱可塑性充填材用によって行われるようになっている。
【0006】
特許文献3には、下方に向けて延設された位置固定用突起を用い、下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとの相対位置を固定可能とした咬合スプリント装置が開示されている。位置固定用突起は、案内溝内に交換可能に取り付けられ、固定用ねじで固定される。
【0007】
特許文献4には、下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとを互いに位置決めするための位置決め手段を取り外し可能に設けた下顎側の成形スプリント及び上顎側の成形スプリントを備える咬合スプリント装置が開示されている。位置決め手段を取り付けるため、それぞれの成形スプリントの樹脂材中に埋め込まれた取付プレートが用いられ、これら取付プレートのそれぞれには、環状の2つの取付ワイヤが取り付けられる。取付プレートが成形スプリントの樹脂材中に埋め込まれた後、取付ワイヤが成形スプリントから側方に突出し、位置決め手段が側方から取付ワイヤに結合される。この咬合スプリント装置における問題は、成形スプリントへの位置決め手段の取り付けが十分に行われない点にある。また、例えば、睡眠中に顎が無意識に動くことによって、位置決め手段が取付ワイヤから外れてしまうと、外れた位置決め手段を飲み込んだり吸い込んだりするおそれがあり、これは健康上の大きな危険を伴うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第10341260号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0155144号明細書
【特許文献3】米国特許第6516805号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0028826号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
睡眠時無呼吸症候群を治療するための上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの確実な位置調整は、現時点で公知の実例によって実現可能であるが、それら公知の実例は、それぞれ依然として様々な問題を有している。一つは、必要以上に複雑な構造及び高額の製造コストが、それらの機構に伴うことである。また、汚れが堆積しやすいことは、清浄が困難な箇所において特に不都合となるため、衛生上の観点から問題があり、使用する度に、薬品による適切な洗浄が必要となる。
【0010】
従って、公知の実例に比して複雑性を低減すると共に、下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとの十分に安全な相対位置調整を可能とするような咬合スプリント装置を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、請求項1に記載の発明に係る態様によって達成される。
【0012】
有用な態様は従属請求項の主題として示される。
【0013】
咬合スプリント装置は、特に睡眠時無呼吸症候群の治療に用いられる。咬合スプリント装置の実施の態様は、主として睡眠時無呼吸症候群の治療に用いることを意図するものであるが、別の種類の咬合スプリント装置においても、本発明を具現化することが可能である。この点に関し、咬合スプリント装置は、歯の矯正治療用や、夜間などにおける歯ぎしり防止用として用いることも可能である。
【0014】
基本的な構成として、咬合スプリント装置は、上顎側の歯列に装着可能な上顎側の成形スプリントと、下顎側の歯列に装着可能な下顎側の成形スプリントとを備える。使用目的に応じ、上顎側の成形スプリントを下顎側の成形スプリントに押し付けることができるようになっている。上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を調整するため、上顎側の成形スプリントは上顎側の位置決め手段を少なくとも1つ備え、下顎側の成形スプリントは下顎側の位置決め手段を少なくとも1つ備える。この点に関し、それぞれの成形スプリントに設けられる位置決め手段の形式、構造、及び配置は、そもそも重要なことではない。少なくとも、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置の調整には、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接する必要があり、それにより、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が前後方向及び横方向の少なくとも一方で定まる。
【0015】
この点についても、例えば、歯列に装着する前に、口腔の外で上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとを接合することにより、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接するのか、或いは歯列に装着した上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが、口を閉じることによって互いに接したときに限り、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接するのかは、そもそも重要なことではない。少なくとも、上下の歯を閉じたときに、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが互いに押圧し合う状態においては、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接することにより、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が定まる。この相対位置には、前後方向、即ち患者から見て前方及び後方と、横方向とのいずれか一方、または両方が含まれる。また、この点に関し、本発明を具現化する際、僅かな遊びを設けるか否かは、そもそも重要なことではない。
【0016】
説明で用いる方向に関し、前後方向は、患者から見て前後に延びる線に沿った方向であり、上下方向は咬合平面にほぼ直交する向きであり、横方向は上下方向に直交すると共に前後方向に直交する方向、即ち、患者から見て、左右に延びる線に沿った方向である。
【0017】
本発明によれば、上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントの一方または両方が少なくとも1つの取付手段を備えたものにおいて、上記の目的が達成される。但し、現状の公知の実例とは異なり、位置決め手段は、成形スプリントにある取付手段に固定できるように構成される。下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとの相対位置を変更可能とするため、本発明によれば、取付手段に固定された位置決め手段を、形状の異なる別の位置決め手段と交換することが可能となっている。このことは、取付手段に固定しようとするそれぞれの位置決め手段により、下顎側の成形スプリントと上顎側の成形スプリントとの相対位置を別個に規定できることを意味する。
【0018】
取付手段に固定される位置決め手段を交換可能とするのに伴い、基本的には交換可能であるものの、交換に用いる別の位置決め手段がなく、位置決め手段が1つしか存在しないようなことが起こりうる。
【0019】
本発明の基本概念は、複雑な機構を用いて相対位置の調整を行うものではなく、単純な方法で位置決め手段を取付手段に固定するだけですみ、必要なときに迅速に交換することができることである。従って、複雑性は最小限度まで低減され、特に清浄も容易に行うことが可能となる。この点に関し、具体的には、使用の度にそれぞれの成形スプリントを薬品で洗浄する必要がなくなる。その代わりに、通常は単純に成形スプリントをすすぎ洗いし、ときおり薬品による洗浄を行うだけでよい。
【0020】
この態様においては、担当医師または担当歯科医師が、必要となる相対位置を決定しさえすれば、それに対応する位置決め手段を提供することが可能である点で、更に有用である。従って、相対位置の変更が必要となったとしても、担当医師から患者宛に、必要な位置決め手段を容易に郵送することができる。不適切な位置調整は行われずにすみ、患者は自身で位置決め手段を取り付け手段に固定することができる。これに対し、現状の技術では、担当医師または担当歯科医師による調整が必要であって、担当医師または担当歯科医師を訪れることなく、患者自身により相対位置を変更することは事実上不可能である。仮に患者が雑に位置調整を行ってしまうと、不適切な位置調整となる危険性が大きく伴うものとなる。
【0021】
本発明により、上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントは、互いに対向する接触面を有して構成される。これにより、上下の歯を閉じたときに、接触面において、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが互いに押圧し合うことになる。このため、この接触面は、咬合平面に位置するのが好ましく、凹凸のない、即ち平坦な面となっているのが好ましい。
【0022】
横方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が定まるように、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接した状態を得るため、具体的に有用な態様として、上顎側の位置決め手段は、実質的に前後方向及び上下方向に延びる上顎側の案内面を備える。同様に、下顎側の位置決め手段は、実質的に前後方向及び上下方向に延びる下顎側の案内面を備える。この点に関し、これら案内面は、互いに相補的形状を有していると特に有効である。このようにして、上顎側の案内面と下顎側の案内面とが密接した状態、即ち上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とが密接した状態が、上下の歯を閉じたときに得られる。基本的に上下方向に延びると共に中心面にほぼ平行なこれら案内面の位置が確定することにより、横方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が良好に定まる。
【0023】
更に、特に好ましい態様として、上顎側の位置決め手段は、実質的に前後方向及び主として上下方向に延びる上顎側の位置決め面を備える。同様に、下顎側の位置決め手段は、実質的に横方向及び主として上下方向に延びる下顎側の位置決め面を備える。また、これら位置決め面も、互いに相補的形状を有していると特に有効である。上顎側の位置決め面と下顎側の位置決め面との密接により、前後方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を定めることができる。
【0024】
従って、案内面及び位置決め面の両方をそれぞれの位置決め手段に設けると特に有効であり、前後方向及び横方向で、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を定めることが可能となる。
【0025】
この点に関し、上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントを装着する前に、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段とを密接させながら、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが接するようにすることも可能であるが、まず上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントをそれぞれ対応する歯列に装着し、上下の歯を閉じていくときに、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段との密接が生じるようにするのが好ましい。この点に関し、密接及びそれに伴う相対的な位置決めが、上下の歯を閉じ始めると生じるのか、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが十分に押圧し合うようになってから生じるのかは、そもそも重要なことではない。
【0026】
上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントの快適な装着感、及び必要とされる相対位置の確保に関し、上顎側の案内面及び下顎側の案内面は、上下方向からそれるように、1度から10度の角度で外方に向けて傾斜していると、特に有効である。上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが、横方向において、互いに正確に中心を合わせて対向していないような場合、上下の歯を閉じようとする際に、このような案内面の傾斜によって、支障なく歯を閉じることが可能であり、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが横方向において所望の相対位置となった状態で上下の歯が完全に閉じるまで、これら案内面を互いに摺動させることが可能である。
【0027】
同様に、上顎側の位置決め面及び下顎側の位置決め面が、上下方向からそれるように、10度から40度の角度で前方に向けて傾斜していると、特に有効である。上下の歯を開いた状態のときに、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとが、前後方向で互いに大きくずれている可能性がある場合、このような位置決め面の傾斜によって、上下の歯を閉じたときに、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとを、それぞれ相手側に向けて良好に案内することができる。これら案内面及び位置決め面を、上下方向からそれるように傾斜させる方向は、上下の歯を開いた状態から上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントを閉じていくことができるようにすることを考慮すれば、当業者に明らかである。
【0028】
本発明によれば、位置決め手段は、臼歯の領域において、それぞれの成形スプリントの右側及び左側に配置される。これにより、成形スプリント毎に少なくとも2つの位置決め手段がなければならないことになる。このような配置は、位置決め手段に必要な構造的スペース、即ちそれぞれの臼歯の領域に必要なスペースが、これら成形スプリントを装着する患者を不当に害することなく確保可能であれば特に有効である。この点に関して、位置決め手段を歯列の外側に配置すると、より一層有効である。これは、位置決め手段が、歯とほおとの間となるほお領域に位置することを意味する。
【0029】
これに関連して、下顎側の位置決め手段が、上顎側の位置決め手段の外側且つ前方に配置されると、睡眠時無呼吸症候群の治療に用いる場合に特に有効である。有効な案内面とする場合、このことは、ほおと上顎側の位置決め手段との間に下顎側の位置決め手段が位置していて、歯列と下顎側の位置決め手段との間に上顎側の案内面が位置することを意味する。
【0030】
上顎側の歯列に対して下顎側の歯列の前方への相対的移動を伴いながら上下の歯を閉じていくと、下顎側の成形スプリント及び下顎側の歯列が案内されて、上顎側の位置決め面の前方に、下顎側の案内面が効果的に配置される。従って、上顎側の位置決め面が傾斜していれば、上下の歯を閉じることにより、上顎側の位置決め面に沿って、下顎側の成形スプリントを同様に前方に移動させることができる。
【0031】
特に快適な装着方法、及び特に安価での実現と共に効果的な清浄の点で有効となる具体的な構成は、それぞれの位置決め手段が、噛合平面より上方に位置する場合、即ちそれぞれの成形スプリントに対する相対位置が、接触面より上方にある場合に得られる。このことは、上顎側の位置決め手段と共に上顎側の成形スプリントの全体が、接触面より上方、即ち噛合平面より上方に位置することを意味する。これに対し、下顎側の成形スプリントは、下顎側の位置決め手段が、噛合平面より上方に位置して接触面より上方に配置されることにより、上顎側の成形スプリントの高さにあるように構成される。
【0032】
咬合スプリント装置において、上顎側の成形スプリントが、一体的な位置決め手段を備えていると、特にコストの面で有効な態様とすると共に、清浄の容易性を確保することができる。上顎側の成形スプリント及び下顎側の成形スプリントのそれぞれに2つずつの位置決め手段が設けられる場合、対となる2つの位置決め手段が、一体的部材として上顎側の成形スプリントに設けられる。このようにすることで、製造コストが低減され、特に一体的な構成により、不要な継ぎ目や隙間がなくなり、汚れの堆積を最小限にすることができる。また、一体的構造の採用は、上顎側の成形スプリントにおける位置決め手段の安定性に効果的に寄与するので有効である。
【0033】
更に、成形スプリントが、単一の材料により単一部材として製造される場合には、特に有効である。但し、このことは、例えばワイヤフレームなど、成形スプリント内に埋め込まれる補強部材を備えた態様、または対応する歯列に成形スプリントを装着するための受け口が、少なくとも位置決め手段と一体的に構成される成形スプリントの本体とは異なる材料で形成される態様には適用されない。
【0034】
交換可能な本発明の位置決め手段について、これら位置決め手段が、前後方向に見て、取付手段に対する位置を互いに異ならせた位置決め面を有していると、特に有効である。これは、それぞれの位置決め手段が、位置決め面から取付手段までの距離を異ならせることで、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置に変化が生じることを意味する。従って、位置決め手段を交換することにより、位置決め面の位置が変化するので、前後方向における上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置が変化する。
【0035】
取付手段の具体的構成として、本発明では、下顎側の成形スプリントの成形時に埋め込まれた位置決めピンを用いる。このようにした場合、位置決めピンは、位置決め手段の位置決めを行うと同時に、位置決め手段の固定に用いることができる。これに対応して、交換可能な位置決め手段は、位置決めピンと相補的な形状を有して下顎側の成形スプリントへの取り付けを行うための位置決め凹部を有している。例えば、位置決めピンは、金属板から型抜きした部材であってもよく、例えば型成形によって下顎側の成形スプリントに固定することができる。
【0036】
位置決め凹部を有した位置決め手段の構成に対応し、各位置決め面は、上顎側の成形スプリントと下顎側の成形スプリントとの相対位置を異ならせるように、位置決め凹部までの距離を様々に設定して形成される。
【0037】
傾斜した位置決め面を考慮すると、特に僅かに傾斜した案内面の場合で、口腔内での装着性を考慮する場合に、本発明により、交換可能な位置決め手段がひれ状に形成される。この場合、位置決め手段は、当該位置決め手段が組み付けられる成形スプリントの接触面に下部が押し付けられ、側面の少なくとも一部が案内面を形成すると共に、前後方向端部の少なくとも一部が位置決め面を形成する。
【0038】
成形スプリントの予測される大きさ、及び快適性を阻害することなく利用可能なスペースを考慮すると、交換可能な位置決め手段は、接触面から5mm〜30mmの高さ、特に12mm〜18mmの高さを有していると有効である。この点に関し、交換可能な位置決め手段は、相手側の成形スプリントよりも僅かに突出していてもよい。このようにして、上顎側の位置決め手段と下顎側の位置決め手段との間での、信頼性の高い案内、及び信頼性の高い密接が確保される。
【0039】
上下の歯を閉じたときに位置決め手段が密接し、それぞれの成形スプリントの頂面同士の接合が可能である限り、案内面の形状は、そもそも重要なことではない。この点に関して、案内面は、曲面または平面とすることができる。成形スプリントの一般的な形状及び成形スプリントにおける位置決め手段の配置を考慮すると共に、上下方向から僅かにそれるような傾斜を考慮すると、案内面は、大部分を平坦に、または極めて僅かな湾曲を有して形成されるのが好ましい。
【0040】
また、上下の歯を閉じたときに双方の位置決め面が密接可能である限り、位置決め面の形状も、そもそも重要なことではない。位置決め面は、曲面または平面とすることができる。位置決め面を曲面で形成した場合、前後方向における上顎側の成形スプリントの位置と下顎側の成形スプリントの位置とが厳密に一致していなければ、上下の歯が近づくことにより、組み付けられた成形スプリントと共に、前方に位置する位置決め手段の前方への急速な移動がはじめに生じた後、この位置決め手段がゆっくりと前方に移動することになる。但し、下顎側の位置決め面と上顎側の位置決め面との間での相補的な形状を実現することに関し、特に位置決め手段の交換可能性を考慮すると、更に複雑な形状は不都合である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係る咬合スプリント装置の一実施形態を示す斜視図である。
図2図1の構成における上顎側の成形スプリントの斜視図である。
図3図1の構成における下顎側の成形スプリントの斜視図である。
図4図1の咬合スプリント装置の側面図である。
図5図4に示す上顎側の成形スプリントの側面図である。
図6図4の咬合スプリント装置に用いる交換可能な位置決め手段を示す図である。
図7図4の咬合スプリント装置に用いる下顎側の成形スプリントの側面図である。
図8】咬合スプリント装置の断面図である。
図9a】様々な相対位置に対応した様々な位置決め手段の1つを示す図である。
図9b】様々な相対位置に対応した様々な位置決め手段の1つを示す図である。
図9c】様々な相対位置に対応した様々な位置決め手段の1つを示す図である。
図10u】位置決め面の代替例を示す図である。
図10v】位置決め面の代替例を示す図である。
図10w】位置決め面の代替例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
添付の図は、本発明に係る咬合スプリント装置の好適な実施形態、及び交換可能な位置決め手段の変形例の概略を示すものである。
【0043】
図1には、咬合スプリント装置01の一実施形態の概要が示され、上顎側の成形スプリント02の構成、及びその下方にある下顎側成形スプリント12の構成を見ることができる。上顎側の成形スプリント02は、上顎側の歯列に上顎側の成形スプリント02を装着するための歯受容部03を備える。同様に、下顎側の成形スプリント12は、下顎側の歯列に下顎側の成形スプリント12を装着するための歯受容部13(下方に位置して隠れている)を備える。上顎側の成形スプリント02は、左右の臼歯領域に上顎側の位置決め手段05を備え、下顎側の成形スプリント12は、左右の臼歯領域に下顎側の位置決め手段22を備える。右側にある上顎側の位置決め手段05r及び左側にある上顎側の位置決め手段05lは、上顎側の成形スプリント02の一体的構成部材となっている。一方、下顎側の位置決め手段22は、交換可能な右側用の交換式位置決め手段22r及び左側用の交換式位置決め手段22lとして構成される。交換式位置決め手段22rは、位置決めピン15rからなる取付手段に、また交換式位置決め手段22lは、位置決めピン15lからなる取付手段に、それぞれ取り付けられる。
【0044】
上顎側の位置決め手段05は案内面07を有し、下顎側の位置決め手段22は案内面24を有しており、これら案内面は、横方向(Y)において、上顎側の成形スプリント02と下顎側の成形スプリント12との相対的な位置決め及び案内を行う機能を有する。前後方向(X)の位置決めは、互いに対向する上顎側の位置決め面06及び下顎側の位置決め面23によって行われる。
【0045】
図2には、上顎側の成形スプリント02の概要が示されており、患者の上顎側の歯列に上顎側の成形スプリント02を装着するために設けられた歯受容部03が見えている。また、臼歯領域にある上顎側の位置決め手段05r及び上顎側の位置決め手段05lが見えており、これら位置決め手段05r及び位置決め手段05lのそれぞれは、案内面07及び位置決め面06を有している。下部(図中では隠れて見えない)には接触面04が設けられ、本実施形態の場合、この接触面04は、平坦な形状を有しており、相手となる下顎側の成形スプリント12に押し付けられるようになっている。
【0046】
図3は、図1に示した下顎側の成形スプリント12の概要を示しており、歯受容部13が下部(図1と同様に隠れている)に設けられている。上部には接触面14が設けられ、この接触面14も平坦な形状を有しており、上顎側の成形スプリント02の接触面04に押し付けられるようになっている。
【0047】
本実施形態において、上顎側の成形スプリント02と下顎側の成形スプリント12との相対位置は、交換式位置決め手段22r及び交換式位置決め手段22lを用いることにより定められ、これら交換式位置決め手段22r及び交換式位置決め手段22lのそれぞれは、上顎側の位置決め手段05と相補的形状をなす下顎側の案内面24、及び上顎側の位置決め手段05と相補的形状をなす下顎側の位置決め面23を有している。また、下顎側の成形スプリント12への位置決め手段22の取り付け方法の概要を見ることができ、この取り付けは、下顎側の成形スプリント12の基材に固定された位置決めピン15l及び位置決めピン15rを用いて行われる。本実施形態では、下顎側の位置決め手段22がひれ状に形成され、内側を向く面が下顎側の案内面24となると共に、後方を向くひれ状体の前後方向端部が下顎側の位置決め面23となる。
【0048】
図4には、図1の咬合スプリント装置01の概要が側面図で示されている。下顎側の成形スプリント12の接触面14に対向して配置された上顎側の成形スプリント02の接触面04が示されており、この接触面04は、上下の歯を閉じたときに、実質的に咬合平面09に位置する。ここでは、更に、上顎側の成形スプリント02の位置決め手段05が、全体的に上顎側の接触面04より上方に位置すると共に、下顎側の位置決め手段22が、下顎側の成形スプリント12の接触面14より上方に位置することが判る。また、上顎側の位置決め面06及び下顎側の位置決め面23の形状が見えており、これらは基本的に平坦な形状となっているが、上下方向(Z)に対して前方に傾斜している。更に、下顎側の位置決め手段22が、上顎側の位置決め手段05の外側前方に位置していることが判る。このような構成により、下顎側の成形スプリント12、即ち下顎が、上下の歯を閉じたときに前方に押し出される。
【0049】
図5には、図4に加え、横方向(Y)及び上下方向(Z)に指向された上顎側の位置決め面06と、前後方向(X)及び上下方向(Z)に指向された上顎側の位置決め手段05の案内面07とを有した上顎側の成形スプリント02の概要が側面図で示されている。
【0050】
図6には、図4に加えて、相手側の位置決めピン15に組み付けるための位置決め凹部25を有してひれ状に形成された、下顎側の交換式位置決め手段22の概要が示されている。ここで、下顎側の交換式位置決め手段22を構成するひれ状体の側面が、案内面24となり、ひれ状体の前後方向端部が、交換式位置決め手段22の位置決め面23となる。また、位置決め面23と位置決め凹部25との間の距離26が示されており、この距離26が、上顎側の成形スプリント02と下顎側の成形スプリント12との相対位置を定める上で重要となる。
【0051】
図4に加えて、図7には、交換式位置決め手段22を取り付けない状態にある下顎側の成形スプリント12が示されている。取付手段として位置決めピン15が見えており、この位置決めピン15は、接触面14から突出すると共に、アンカ部16が下顎側の成形スプリント12内に埋め込まれている。
【0052】
更に、図8には、咬合スプリント装置01の断面の概要が示されており、同図中の左側には分解した状態が示され、右側にはそれぞれが所定位置に設けられた状態が示されている。上顎側の歯受容部03を有した上顎側の成形スプリント02、及び下顎側の歯受容部13を有し、上顎側の成形スプリント02に対向する下顎側の成形スプリント12が見えている。上顎側の成形スプリント02は接触面04を有し、下顎側の成形スプリント12は接触面14を有しており、これら上顎側の接触面04及び下顎側の接触面14は、上下の歯を閉じたときに、互いに押し付け合うようになる。横方向(Y)における相互の案内は、上顎側の案内面07が下顎側の案内面24に接することによって確実に行われる。これら上顎側の案内面07及び下顎側の案内面24は、上下方向(Z)に対して傾斜角19だけ外側に傾斜している。従って、上下の歯を閉じていくときに、上顎側の案内面07と下顎側の案内面24とは、下顎側の位置決め手段22が上顎側の成形スプリント02の接触面04にぶつかることなく、確実に互いに当接する。
【0053】
更に、位置決め凹部25への位置決めピン15の挿入による、下顎側の成形スプリント12への交換式位置決め手段22の装着方法が示されている。
【0054】
図9a〜図9cには、本発明の本質である上顎側の成形スプリント02と下顎側の成形スプリント12との相対的な位置決めの可能性について、概要が示されている。各図においては、下顎側の位置決め面23と位置決め凹部25との間の距離26が異なっており、図9aでは比較的短い距離26aが、図9cでは比較的長い距離26cが、図9bではこれらの中間的な距離26bが、それぞれ設定されている。
【0055】
最後に、図10には、下顎側の交換式位置決め手段22の位置決め面23に関し、代替例の概要が示されており、相補関係にある上顎側の位置決め面06がこれに対応した形状を有することは明らかである。図10uには、下顎側の位置決め面23uが凹面状をなして示され、図10vには、下顎側の位置決め面23vが凸面状をなして示され、図10wには、下顎側の位置決め面23wが角を有して示されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9a
図9b
図9c
図10u
図10v
図10w