(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157905
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】人工歯用ワックス分離材
(51)【国際特許分類】
A61K 6/087 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
A61K6/087
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-82060(P2013-82060)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-201586(P2014-201586A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2016年3月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会名 義歯円形重合セミナー 2.開催日 平成24年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000181228
【氏名又は名称】株式会社ジーシーデンタルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100103953
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 量
(72)【発明者】
【氏名】大藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】小島 健嗣
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−046403(JP,A)
【文献】
特開平06−056621(JP,A)
【文献】
特開昭61−109704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
A61C 5/70− 5/88
A61C 8/00−13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非イオン性界面活性剤、沸点が100℃以下で常温で液状の低分子量アルコール、及び、水を含有する人工歯用ワックス分離材であって、
前記非イオン性界面活性剤、前記低分子量アルコール、及び、前記水の合計重量に対し、前記非イオン性界面活性剤が4〜10重量%、低分子量アルコールが70〜86重量%、水が4〜20重量%であることを特徴とする人工歯用ワックス分離材。
【請求項2】
前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の人工歯用ワックス分離材。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が、SNデフォーマー444(商品名)であることを特徴とする請求項1または2記載の人工歯用ワックス分離材。
【請求項4】
前記低分子量アルコールが、炭素数が1〜4のアルコールであることを特徴とする請求項1、2または3記載の人工歯用ワックス分離材。
【請求項5】
蝋堤に排列された人工歯の唇側面および/または頬側面に塗布されて、前記非イオン性界面活性剤の皮膜を形成することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の人工歯用ワックス分離材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蝋義歯製作において使用する人工歯用ワックス分離材に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、例えば、蝋義歯の歯肉形成において、蝋堤に排列された人工歯の唇側面および/または頬側面に塗布されて皮膜を形成し、歯肉形成に伴う余剰ワックスを前記人工歯から分離して除去するのに好適な人工歯用ワックス分離材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業模型上に作製された蝋義歯は、加熱重合型の餅状レジンを用いた加圧成形法、射出成形法、常温重合型のペースト状または泥状レジンを用いた射出成形法、流し込み成形法等によって義歯とされる。
このうち、加熱重合型の餅状レジンを用いた加圧成形法による義歯の製作が一般的である。
加熱重合型の餅状レジンを用いた全部床義歯の製作は、概略、以下のような工程によって行われている。
通法に従って人工歯が排列され歯肉形成された蝋義歯を、フラスコ内に作業模型ごと石膏で埋没し、流蝋して、義歯床成形用の空隙を有する石膏型を得、得られた石膏型の空隙に餅状レジンを填入し、フラスコを加圧し、加圧状態において餅状レジンを加熱重合させ、重合後、加圧状態のまま徐冷し、フラスコから義歯を石膏型ごと取り出し、石膏型から作業模型とともに義歯を割り出し、義歯を作業模型から取り外し、義歯のバリ取り、研磨等の仕上げを施す。
【0003】
歯肉形成工程では、人工歯が排列された蝋堤や人工歯の歯頸部等に歯肉形成に必要なワックス(例えば、パラフィンワックス)をワックススパチュラ等で盛り上げたり、軟化して盛り上げ焼き付けたりし(以下、両者を区別することなく「盛り上げ」という。)、ワックスが冷えた後、余剰となるワックスを除去したりして審美性や機能性のある歯肉形態とする。
例えば、唇側及び頬側の歯肉形成において、人工歯の唇側(前歯の場合)及び頬側(臼歯の場合)には、義歯に自然観を与え、審美性を高めるため、患者の年齢、性別等を勘案して、適切な歯肉縁をワックスで形成することが必要である。そのため、蝋堤の一部も含んで少なくとも人工歯の唇側面及び頬側面の歯頸部を覆うようにワックスをワックススパチュラ等で稍多めに盛り上げ、歯科技工用の彫刻刀等を用いて盛り上げたワックスを患者に適した歯肉縁が得られるように切断する。歯肉縁を形成したことで不要となった余剰ワックスは、歯面に貼り付いていることから、彫刻刀等で人工歯面から削り取る等して除去することになる。
なお、ワックスは、人工歯の唇側及び頬側全面を覆う程過剰に盛り上げる必要はなく、患者の年齢、性別等にふさわしい歯肉縁を形成することができる位置にまで盛り上げればよい。
【0004】
しかしながら、歯肉形成において不要となった余剰ワックスは剥がれにくいことから、彫刻刀等で完全に削り取る等して除去するのは容易ではなく、多大な手間がかかる。人工歯面からワックスを除去しきれないで薄く残ったままの蝋義歯を作業模型ごと石膏でフラスコ埋没し、流蝋すると、人工歯面に残ったワックスも流蝋され、石膏型には義歯床成形用の空隙に加え石膏と人工歯との間にも僅かな隙間が生じる。
このような状態において、義歯床成形用の空隙へ餅状レジンを填入すると、それに伴って石膏と人工歯面との間の僅かな隙間にも餅状レジンが浸入する。餅状レジンを重合させると、人工歯の唇側面及び頬側面に薄膜状のレジンが貼り付いた義歯が得られることになる。薄膜状のレジンを人工歯面から研磨等して除去するには、熟練を要するとともに多大な手間もかかり、義歯が高価となる一因ともなり、また、人工歯面を損傷する恐れもある。
上記の説明は、全部床義歯について行ったが、部分床義歯でも同様である。部分床義歯においては、前歯だけを対象とする場合や臼歯だけを対象とする場合が含まれる。
【0005】
特許文献1には、修復用のレジンと歯質表面との接着を防止する歯科用分離材が記載されているに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−302122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上記のような実情に鑑み鋭意研究の結果創案されたものであり、蝋義歯の歯肉形成において、蝋堤に排列された人工歯の唇側面および/または頬側面に塗布されて皮膜を形成し、歯肉形成に伴う余剰ワックスを人工歯から容易に分離して除去できるようにする安価な人工歯用ワックス分離材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発
明は、(1)非イオン性界面活性剤、沸点が100℃以下で常温で液状の低分子量アルコール、及び、水を含有す
る人工歯用ワックス分離材であって、前記非イオン性界面活性剤、前記低分子量アルコール、及び、前記水の合計重量に対し、前記非イオン性界面活性剤が4〜10重量%、低分子量アルコールが70〜86重量%、水が4〜20重量%であることを特徴とする。
(2)前記(1)において、前記非イオン性界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
(3)前記(1)または(2)において、前記非イオン性界面活性剤が、SNデフォーマー444(商品名)であることが好ましい。
(4)前記(1)、(2)または
(3)において、前記低分子量アルコールが、炭素数が1〜4のアルコールであることが好ましい。
(5)前記(1)ないし
(4)のいずれかの人工歯用ワックス分離材は、蝋堤に排列された人工歯の唇側面および/または頬側面に塗布されて、前記非イオン性界面活性剤の皮膜を形成することを特徴とする。
ここにおいて、「人工歯の唇側面および/または頬側面」といった表現を用いているのは、全部床義歯の場合は、「人工歯の唇側面および頬側面」が該当し、部分床義歯の場合は、対象となる人工歯が前歯だけの場合や臼歯だけの場合があり、そのような場合は、「人工歯の唇側面または頬側面」が該当することによる。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、以上説明したように構成されているので、以下に記載されるような効果を奏する。
すなわち、この発明の人工歯用ワックス分離材は、液状であって、人工歯用ワックス分離材に含まれる非イオン性界面活性剤が消泡性であることから、歯科技工用の筆等による塗布操作において、泡立ちが抑制されて均一かつ容易に塗布できる。
従って、歯肉形成に先立ち、この発明の人工歯用ワックス分離材を、蝋堤に排列された人工歯の唇側面および/または頬側面の、例えば、略全面に、筆等を用いて塗布することにより、沸点が100℃以下で常温で液状の低分子量アルコール、及び、水が蒸散し、人工歯の唇側面および/または頬側面に非イオン性界面活性剤の均一な皮膜が迅速、確実かつ容易に形成される。
そして、歯肉形成に際し、蝋堤の一部も含んで少なくとも人工歯の唇側面および/または頬側面の歯頸部を覆うようにワックスをワックススパチュラ等で稍多めに盛り上げ、ワックスと人工歯の唇側面および/または頬側面との間に非イオン性界面活性剤の皮膜を介在させた状態とする。これによって、ワックスが直接人工歯の唇側面および/または頬側面に貼り付くのが防止される。盛り上げたワックスが冷えた後、歯科技工用の彫刻刀等を用いて盛り上げたワックスを患者の年齢、性別等を勘案して、患者に適した歯肉縁が得られるように切断する。ワックスと人工歯の唇側面および/または頬側面との間に非イオン性界面活性剤の皮膜が介在していることから、歯科技工用の彫刻刀等でワックスを切断して歯肉縁を形成することで、盛り上げられたワックスのうち余剰ワックスは容易に分離され、確実に除去される。
従って、この発明の人工歯用ワックス分離材によれば、これまでのような盛り上げたワックスを彫刻刀で切断して歯肉縁を形成した後、余剰となったワックスを彫刻刀等によって人工歯面から削り取る等して除去するといった、困難で手間のかかる作業をする必要がない。
【0010】
そして、この発明の人工歯用ワックス分離材を使用して得られた蝋義歯を義歯とするには、例えば、加熱重合型の餅状レジンを用いて以下のように製作すればよい。
すなわち、蝋義歯を作業模型ごと石膏でフラスコ埋没し、流蝋して、義歯床成形用の空隙を有する石膏型を得る。
流蝋によって、人工歯の基底面及び歯頸部が石膏型の空隙を形成する石膏面から露出した状態となる。露出した歯頸部の唇側面および/または頬側面に流蝋時に除去しきれなかった非イオン性界面活性剤の皮膜が残っていたり、空隙内に流蝋時に除去しきれなかったワックスが小量残っていたりしても、これらは、熱湯で洗浄することで容易かつ確実に除去することができる。
【0011】
このようにして得られた石膏型の義歯床成形用の空隙に、餅状レジンを填入し、フラスコを加圧し、加圧状態において餅状レジンを加熱重合させ、重合後、加圧状態のまま徐冷し、フラスコから義歯を石膏型ごと取り出し、石膏型から作業模型とともに義歯を割り出し、義歯を作業模型から取り外す。作業模型から取り外した義歯は、人工歯の唇側面および/または頬側面にレジンが貼り付いていない義歯であることから、従来の義歯のようなレジンを人工歯の表面から研磨等して除去するといった煩雑で多大の時間を要する人工歯面を損傷させる恐れのある操作が必要ない。作業模型から取り外した義歯はバリ取り、研磨等の仕上げを施せばよい。
このように、この発明の人工歯用ワックス分離材を使用することで、義歯の製作に要する時間が短縮され、生産性も向上し、高品質の義歯を安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明を実施するための形態を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。もちろんこの発明は以下の実施の形態によって限定されるものではない。
非イオン性界面活性剤としては、泡立ち等がなく均一で薄い皮膜形成能があり、人工歯、蝋堤を劣化させたりせず、人体、とりわけ、蝋義歯の口腔内試適において、為害性がないものであれば特に限定されないが、ポリエーテル型の非イオン性界面活性剤が好ましい。
ポリエーテル型の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル型の非イオン性界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル型の非イオン性界面活性剤を挙げることができる。
非イオン性界面活性剤として入手可能な商品を具体的に例示すれば、エマルゲンシリーズ(花王株式会社製)、ニューコール2309−FZ、ニューコール3240、EHD−F90(以上日本乳化剤株式会社製)、SNデフォーマー170、SNデフォーマー171、SNデフォーマー247、SNデフォーマー260、SNデフォーマー265、SNデフォーマー444、SNデフォーマー464、SNデフォーマー465、SNデフォーマー470、SNデフォーマー485、SNデフォーマーPC(以上サンノプコ株式会社製)、ライオノールTDシリーズ、ライオノールLシリーズ、ライオノールTDMシリーズ(以上ライオン株式会社製)、DKS NL−Dash、ノイゲンLP、ノイゲンCL、ノイゲンLF(以上第一工業製薬株式会社製)等を挙げることができる。これらの非イオン性界面活性剤は、1種または2種以上を用いることができる。
【0013】
沸点が100℃以下で常温で液状の低分子量アルコールは、非イオン性界面活性剤を均一に溶解し、人工歯面に塗布した後、迅速に蒸散し、人工歯、蝋堤を劣化させたりしないものであれば、特に限定されないが、炭素数が1〜4のアルコールであることが好ましい。
具体的には、低分子量アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール等が例示される。これらは1種または2種以上を用いることができるが、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0014】
水としては、不純物を含んでいないものであればよく、イオン交換水、蒸留水が好ましい。
【0015】
人工歯用ワックス分離材は、例えば、前記した非イオン性界面活性剤、低分子量アルコール、水等を適宜混合することで得ることができる。
非イオン性界面活性剤、低分子量アルコール、及び、水の合計重量に対し、前記非イオン性界面活性剤が4〜10重量%、低分子量アルコールが70〜86重量%、水が4〜20重量%であることが好ましい。
これらの数値範囲であれば、塗布し易い粘性の液体とすることができ、歯肉形成に先立ち、人工歯の唇側面および/または頬側面に、泡立たせずに人工歯用ワックス分離材を均一に筆等で塗布することができ、塗布後には、低分子量アルコールが迅速に蒸散し、非イオン性界面活性剤の均一な被膜が迅速、確実かつ容易に人工歯の唇側面および/または頬側面に形成される。
そして、歯肉形成において、蝋堤の一部も含んで少なくとも人工歯の唇側および/または頬側の歯頸部を覆うようにワックスをワックススパチュラ等で稍多めに盛り上げても、人工歯の唇側面および/または頬側面に形成された非イオン性界面活性剤の皮膜が損傷したり、劣化したりすることがなく、安定した皮膜を維持することができ、ワックスが人工歯面に直接貼り付くような箇所が生ずることがない。
また、ワックスと人工歯の唇側面および/または頬側面との間に非イオン性界面活性剤の皮膜を介在させた状態において、歯科技工用の彫刻刀等を用いて盛り上げたワックスを患者の年齢、性別等を勘案して、患者に適した歯肉縁が得られるように切断すれば、ワックスと人工歯の唇側面および/または頬側面との間に非イオン性界面活性剤の皮膜が介在していることから、歯科技工用の彫刻刀等でワックスを切断して歯肉縁を形成することで、盛り上げられたワックスのうち余剰ワックスは容易に分離され、確実に除去される。
【0016】
次に、この発明の人工歯用ワックス分離材を用いて義歯を製作する方法の一例を説明する。
蝋義歯製作において、この発明の人工歯用ワックス分離材を、蝋堤に排列された人工歯の唇側面および/または頬側面の、例えば、略全面に、筆等を用いて塗布し、非イオン性界面活性剤の均一な皮膜を人工歯の唇側面および/または頬側面に形成させる。
【0017】
そして、歯肉形成に際し、蝋堤の一部も含んで少なくとも人工歯の唇側および/または頬側の歯頸部を覆うようにワックスをワックススパチュラ等で稍多めに盛り上げ、ワックスと人工歯の唇側面および/または頬側面との間に非イオン性界面活性剤の皮膜を介在させた状態とする。そして、盛り上げたワックスが冷えた後、歯科技工用の彫刻刀等を用いて盛り上げたワックスを患者の年齢、性別等を勘案して、患者に適した歯肉縁が得られるように切断し、盛り上げられたワックスのうち余剰ワックスを分離、除去する。
【0018】
従って、この発明の人工歯用ワックス分離材によれば、これまでのような盛り上げたワックスを彫刻刀で切断して歯肉縁を形成した後、余剰となったワックスを彫刻刀等によって人工歯面から削り取る等して除去するといった、困難で手間のかかる作業をする必要がない。
【0019】
そして、唇側および/または頬側においてさらにワックスを削る等して歯間乳頭部等の形成を行ったり、舌側において必要な歯肉を形成したりすることで、歯肉形成され蝋義歯としての形態を整える。
そして、得られた蝋義歯を義歯とするには、例えば、加熱重合型の餅状レジンを用いた加圧成形法による場合は、以下のようにすればよい。
すなわち、蝋義歯を作業模型ごと石膏でフラスコ埋没し、流蝋して、義歯床成形用の空隙を有する石膏型を得る。
流蝋によって、人工歯の基底面及び歯頸部が石膏型の空隙を形成する石膏面から露出した状態となる。露出した歯頸部の唇側面および/または頬側面に流蝋時に除去しきれなかった非イオン性界面活性剤の皮膜が残っていたり、空隙内に流蝋時に除去しきれなかったワックスが小量残っていたりすることもあるので、これらを除去するために熱湯で洗浄する。
【0020】
このようにして得られた石膏型の義歯床成形用の空隙に、餅状レジンを填入し、フラスコを加圧し、加圧状態において餅状レジンを加熱重合させ、重合後、加圧状態のまま徐冷し、フラスコから義歯を石膏型ごと取り出し、石膏型から作業模型とともに義歯を割り出し、義歯を作業模型から取り外し、バリ取り、研磨等の仕上げを施す。
このように、この発明の人工歯用ワックス分離材を使用することで、義歯の製作に要する時間が短縮され、生産性も向上し、高品質の義歯を安価に提供することができる。
この発明の人工歯用ワックス分離材を用いた義歯の製作については、加熱重合型の餅状レジンを用いた加圧成形法に限られるものではない。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を比較例とともに示しさらに詳しく説明する。
(実施例1〜5)
非イオン性界面活性剤としてサンノプコ株式会社製のSNデフォーマー444(商品名)を使用した。低分子量アルコールとして、2−プロパノール(すなわち、イソプロピルアルコール)、メタノールを使用した。
表1の実施例1〜5に示される重量%の配合割合となるように非イオン性界面活性剤、イソプロピルアルコール、メタノール、イオン交換水を秤量し、非イオン性界面活性剤をイソプロピルアルコールに溶解し、これにメタノール及びイオン交換水を添加して人工歯用ワックス分離材をそれぞれ製造した。
【0022】
得られた実施例1〜5の人工歯用ワックス分離材を用いて、以下の方法により、ワックス切削性、塗布操作性の試験を行った。
結果は、表1の通りである。
【0023】
<ワックス切削性>
上顎全部床義歯用の作業模型に設けられた蝋堤に人工歯が排列された状態において、排列されたそれぞれの人工歯の唇側面及び頬側面の略全面に、人工歯用ワックス分離材を歯科技工用の筆で塗布し、歯面に非イオン性界面活性剤の皮膜を形成させ、次いで、蝋堤の一部も含んで人工歯の唇側面及び頬側面の歯頸部を覆うように、パラフィンワックス(商品名;ジーシーパラフィンワックス、ジーシー株式会社製)をワックススパチュラで稍多めに盛り上げた後、パラフィンワックスを冷却させ、盛り上げたパラフィンワックスと人工歯の唇側面及び頬側面との間に非イオン性界面活性剤の皮膜が介在した状態とし、歯科技工用の彫刻刀を用いて盛り上げたパラフィンワックスを切断して人工歯の唇側面及び頬側面に歯肉縁を形成させた。その際のワックス切削性を、切断に伴って余剰ワックスが歯面から容易に除去できかつ歯面に余剰ワックスが残らなければ○、歯面から容易に除去できないかまたは歯面に余剰ワックスが残った場合を×として官能評価した。
【0024】
<塗布操作性>
人工歯用ワックス分離材を歯科技工用の筆を用い、ガラス板表面に一筆で塗布し、ムラなく塗布でき、しかも、塗布後のガラス表面に形成された皮膜にムラがない場合を○、そうでない場合を×として官能評価した。
【0025】
(比較例1〜3)
表1の比較例1〜3に示される重量%の配合割合となるように非イオン性界面活性剤、イソプロピルアルコール、メチルアルコール、イオン交換水を秤量し、非イオン性界面活性剤をイソプロピルアルコールに溶解し、これにメチルアルコール及びイオン交換水を添加して人工歯用ワックス分離材をそれぞれ製造した。
得られた比較例1〜3の人工歯用ワックス分離材を用いて、前記した方法により、ワックス切削性、塗布操作性の試験を行った。
結果は、表1の通りである。
【0026】
【表1】
【0027】
表1からも明らかなように、実施例1〜5の人工歯用ワックス分離材は、いずれも良好な評価が得られた。
比較例1〜3で、良好な結果が得られなかったのは、イオン交換水の配合割合が多く、イソプロピルアルコール、メタノールの配合割合が低いことによると考えられる。