特許第6157910号(P6157910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157910
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】基材一体ガスケットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20170626BHJP
   B29L 31/26 20060101ALN20170626BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29L31:26
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-85641(P2013-85641)
(22)【出願日】2013年4月16日
(65)【公開番号】特開2014-205334(P2014-205334A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】古賀 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】黒木 雄一
【審査官】 長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−282940(JP,A)
【文献】 特開2011−113768(JP,A)
【文献】 特開2011−096419(JP,A)
【文献】 特開2012−071574(JP,A)
【文献】 特開2006−026923(JP,A)
【文献】 特開昭61−040129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
H01M 8/00− 8/24
B29L 31/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを主成分とするパルプ繊維よりなる繊維基材とゴム状弾性体よりなるガスケット本体とをゴム含浸により一体化する基材一体ガスケットの製造方法であって、
複数段のゴム金型による射出成形を実施することにより前記基材一体ガスケットを複数個取りし、
前記基材一体ガスケットは、燃料電池用ガスケットであり、
前記ゴム金型は、平行ランナー部および製品キャビティ空間を当該ゴム金型の型締め型開き方向に交互に配置するとともに前記平行ランナー部同士を当該ゴム金型の型締め型開き方向と平行な同一直線上に配置した分割型構造を備え、
前記繊維基材を前記製品キャビティ空間内で前記ゴム金型におけるゴム材料流動経路を閉塞するように配置し、
前記平行ランナー部から前記製品キャビティ空間へ流入したゴム材料をその射出圧で前記繊維基材の空隙部を貫通させることにより前記製品キャビティ空間に充填し、さらに次段の平行ランナー部および製品キャビティ空間のほうへ流入させ、最終段の製品キャビティ空間まで到達させることを特徴とする基材一体ガスケットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係るガスケットの製造方法に関し、更に詳しくは、基材に対してガスケット本体を一体成形した基材一体ガスケットの製造方法に関する。本発明の基材一体ガスケットは例えば、燃料電池用ガスケットとして用いられ、またはその他一般のガスケットとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
これからの燃料電池の普及にはセパレータやガスケットなどの小型化、低コスト化が必要である。ガスケットについては、ゴム単体よりなるガスケットが有望であるが、成形時のバリ処理や工程内でのハンドリングによる工数増が課題となっている。例えば図7(A)に示すガスケット51を製造する場合、図7(B)に示すように金型52に平面度や平行度の不足による隙間dが存在すると、図7(C)に示すように薄膜状のゴムバリ53が発生し、バリ除去や金型清掃のための工数が必要となる。またバリ処理後の成形品には、ねじれが発生しやすい等、取扱い性に課題があり、多段での個取りでは成形品離型後の工数増が避けられない。またゴム単体よりなるガスケットは、工程内でのハンドリング時にチャックするのが難しい。
【0003】
また、ガスケットについては、射出成形の採用により成形材料(ゴム材料)の廃棄量を削減することが可能であるが、金型を用いて複数のガスケットを同時に成形する場合、複数の製品キャビティ空間を金型の同一平面上(金型の型締め型開き方向と直交する方向)に並べると、金型が大型化し、製造効率が良くない。
【0004】
尚、金型を用いて複数の成形品を同時に成形する技術が下記特許文献1公報に掲載されているが、この従来技術は、射出成形ではなく、圧縮成形用の成形機である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−026923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて、成形時におけるゴムバリの発生を抑制し、もってバリ除去や金型清掃のための工数を削減することができる基材一体ガスケットの製造方法を提供することを目的とし、併せて、成形材料の廃棄量を削減することが可能で、しかも金型を用いて複数のガスケットを同時に成形する際に金型が平面上大型化せず、よって製造効率が良い基材一体ガスケットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による基材一体ガスケットの製造方法は、セルロースを主成分とするパルプ繊維よりなる繊維基材とゴム状弾性体よりなるガスケット本体とをゴム含浸により一体化する基材一体ガスケットの製造方法であって、複数段のゴム金型による射出成形を実施することにより前記基材一体ガスケットを複数個取りし、前記基材一体ガスケットは、燃料電池用ガスケットであり、前記ゴム金型は、平行ランナー部および製品キャビティ空間を当該ゴム金型の型締め型開き方向に交互に配置するとともに前記平行ランナー部同士を当該ゴム金型の型締め型開き方向と平行な同一直線上に配置した分割型構造を備え、前記繊維基材を前記製品キャビティ空間内で前記ゴム金型におけるゴム材料流動経路を閉塞するように配置し、前記平行ランナー部から前記製品キャビティ空間へ流入したゴム材料をその射出圧で前記繊維基材の空隙部を貫通させることにより前記製品キャビティ空間に充填し、さらに次段の平行ランナー部および製品キャビティ空間のほうへ流入させ、最終段の製品キャビティ空間まで到達させることを特徴とする。
【0011】
上記構成を備える本発明の製造方法においては、不水溶性の繊維原料、具体的にはセルロースを主成分とするパルプ繊維よりなる繊維基材とゴム状弾性体よりなるガスケット本体とを一体化(一体成形)することにより基材一体ガスケットを製造する。繊維基材は多孔質基材であり、多孔質基材へのゴムの一体化は接着剤等が不要であり、基材へのゴム含浸による。この含浸には、ゴム材料として液状ゴムを用いる。また金型キャビティへのゴム材料の充填に関しては、金型におけるゴム材料流動経路を閉塞した繊維基材に対しゴム材料をその射出圧で貫通させることにより複数段の金型キャビティにゴム材料を充填するので、繊維基材に材料流路としてのスルーホール(貫通孔)を加工する必要はない。
【0012】
通常、紙は水に溶けるとの印象があるが、繊維長による繊維絡まりを制御することにより水中での繊維分散性を抑制しており、主成分のセルロース繊維は耐水性、耐酸性、塩基性を有している。但し、水によるセルロースの膨潤が繊維の破断を発生させることは懸念事項である。そこで液状ゴム含浸によりこの繊維の絡まりを固定化することより繊維の絡まりを保ち、さらに繊維周囲の含浸ゴムにより繊維の膨潤を抑制する。
【0013】
このような繊維基材をインサート部品としてインサート成形を実施することにより、成形時のゴムバリ発生が抑制され、バリ処理や金型清掃のための工数が削減される。また基材を備えるガスケットは成形後の工程での取扱い性に優れるため、ハンドリングの自動化に活用可能である。
【0014】
一方、複数段よりなるゴム金型を使用することでガスケットの複数個取りが可能となるが、実際はバリ処理やハンドリング工数増により複数個取りの効果はあまり大きくない。しかしながら上述の特徴を活かすことで、バリ処理が不要かつ繊維基材部をハンドリングに活用することができ、ゴム加工コストの大幅な低減が可能となる。尚、ハンドリング機能を付加するために繊維基材部の一部にゴムを形成させる等、従来の基材一体ガスケットの技術も活用できる。また、繊維基材として安価なコピー用紙等を用いることにより、部品コストの低減も可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0016】
すなわち、本発明によれば以上説明したように、基材としてセルロースを主成分とするパルプ繊維よりなる繊維基材を用い、この繊維基材は金型の平面度や平行度の不足を補って金型パーティング部の隙間を閉塞可能であるため、成形時におけるゴムバリの発生を抑制し、バリ処理や金型清掃のための工数を削減することができる。基材一体ガスケットは基材を備えているため、成形後の工程での取扱い性に優れている。繊維基材は多孔質基材であってゴム材料が射出圧により貫通するため、スルーホールを設ける必要はない。ゴム材料は架橋後、繊維基材の繊維の絡まりを固定化するため、繊維の分散・膨潤を抑制することができる。また、金型を用いてガスケットを成形する際に射出成形を実施するため、成形材料の廃棄量を削減することが可能とされ、しかも複数段よりなるゴム金型を用いてガスケットを複数個取りするため、金型が平面上大型化することがなく、よって金型の設置面積が小さくて良い等、製造効率を向上させることが可能とされる。また、基材一体ガスケットは例えば燃料電池用ガスケットである。したがって燃料電池用ガスケットを製造する技術分野において、上記の作用効果を獲得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例に係る製造方法の実施に使用する金型の型開き時・射出前の状態を示す断面図
図2】同金型の型閉め時・射出前の状態を示す断面図
図3】同金型の型閉め時・射出後の状態を示す断面図
図4図3の一部拡大図
図5】同金型の射出架橋後・型開き時の状態を示す断面図
図6図6(A)は離型後の成形品の斜視図、図6(B)は図6(A)におけるB−B線断面図、図6(C)は基材カット後の第1例を示す断面図、図6(D)は基材カット後の第2例を示す断面図
図7図7(A)は従来例に係るガスケットの断面図、図7(B)は従来例に係る金型の不具合発生状態を示す断面図、図7(C)は従来例に係るガスケットの不具合発生状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施例に係る製造方法の実施に用いる金型1の断面を示している。この金型1は、射出成形用のゴム金型であって、同形同大の複数(当該実施例では4つ)の製品キャビティ空間51が当該金型1の型締め型開き方向(図では上下方向)に所定の間隔をあけて並んで設けられ、当該金型1を用いて同形同大の複数(当該実施例では4つ)の成形品(基材一体ガスケット)を同時に成形することが可能とされている。
【0020】
またこの金型1は、当該金型1の型締め型開き方向に積層配置された第1ないし第6に亙る6枚の分割型11〜16を備え、このうちスプル21を設けた第1型(上型)11以外の、第2型(第1中型)12および第3型(第2中型)13のパーティング部、第3型13および第4型(第3中型)14のパーティング部、第4型14および第5型(第4中型)15のパーティング部ならびに第5型15および第6型(下型)16のパーティング部にそれぞれ製品キャビティ空間51が設けられている。
【0021】
尚、この金型1は、平面長方形のフレーム状を呈するゴム状弾性体(液状ゴム)よりなる燃料電池用ガスケットを複数個取りすることを想定しているので、複数の製品キャビティ空間51もそれぞれ平面長方形のフレーム状のものとされている。
【0022】
またこの金型1は、プレート状のインサート部品として、セルロースを主成分とするパルプ繊維よりなるプレート状の繊維基材102をセットした状態で両面タイプの燃料電池用ガスケットを一体成形(インサート成形)することを想定しているので、第2型12および第3型13の間、第3型13および第4型14の間、第4型14および第5型15の間ならびに第5型15および第6型16の間にそれぞれこのプレート状の繊維基材102が配置されている。
【0023】
また、金型1は、複数の製品キャビティ空間51に通じるスプル21、ランナー31およびゲート41を備えている。
【0024】
スプル21は、第1型11の平面中央にてノズルタッチするように開口し、ここから当該金型1の型締め型開き方向の一方(図では下方)へ向けて直下の第2型12の上面まで設けられている。
【0025】
ランナー31は、スプル21から当該金型1の型締め型開き方向と直交する方向(図では左右方向)へ向けて延設された直交ランナー部32と、直交ランナー部32の先端から当該金型1の型締め型開き方向と平行な方向の一方へ向けて延設された平行ランナー部33とを備えている。直交ランナー部32は、スプル21を設けた第2型12の上面に設けられている。平行ランナー部33は、複数の製品キャビティ空間51と同一平面上に設けられ、その結果として製品キャビティ空間51と上下方向に交互に設けられている。具体的には以下のとおりとされている。
【0026】
第2型12には、その上面に直交ランナー部32が設けられるとともにその下面に第1段の製品キャビティ空間51の上半空間が設けられているので、この直交ランナー部32と第1段の製品キャビティ空間51を連通するように第1段の平行ランナー部33が設けられている。
【0027】
第3型13には、その上面に第1段の製品キャビティ空間51の下半空間が設けられるとともにその下面に第2段の製品キャビティ空間51の上半空間が設けられているので、この第1段の製品キャビティ空間51と第2段の製品キャビティ空間51を連通するように第2段の平行ランナー部33が設けられている。
【0028】
第4型14には、その上面に第2段の製品キャビティ空間51の下半空間が設けられるとともにその下面に第3段の製品キャビティ空間51の上半空間が設けられているので、この第2段の製品キャビティ空間51と第3段の製品キャビティ空間51を連通するように第3段の平行ランナー部33が設けられている。
【0029】
第5型15には、その上面に第3段の製品キャビティ空間51の下半空間が設けられるとともにその下面に第4段の製品キャビティ空間51の上半空間が設けられているので、この第3段の製品キャビティ空間51と第4段の製品キャビティ空間51を連通するように第4段の平行ランナー部33が設けられている。
【0030】
これらの平行ランナー部33は、金型1の型締め型開き方向と平行な同一直線上に配置されている。またこれらの平行ランナー部33はそれぞれ、成形材料の流れの上流側(図では上方)から下流側(図では下方)へ向けてその開口断面積が徐々に縮小するテーパー構造とされ、その最も窄まった下端部にそれぞれゲート41が設けられている。
【0031】
図1は、金型1の型開き時・ゴム材料(未架橋ゴム)射出前の状態を示しており、この状態で図示するように、第2ないし第6の分割型12〜16間にそれぞれプレート状の繊維基材102をセットする。
【0032】
次いで、図2に示すように型締めし、第2ないし第6の分割型12〜16間にそれぞれプレート状の繊維基材102を挟み込む。上記材質よりなる繊維基材102は型締め力によって厚み方向に若干変形する柔軟性を備えているので、金型1の各分割型に平面度や平行度のばらつきがあっても、これらのばらつきを吸収することが可能である。
【0033】
次いで、図3に示すようにゴム材料Gを射出し、射出したゴム材料Gを全段に亙る製品キャビティ空間51に充填する。このとき、スプル21から最下段の第6型16に至るゴム材料Gの流動経路は、第2ないし第6の分割型12〜16間に挟み込んだプレート状の繊維基材102によって所々閉塞された状態となっているが、射出されたゴム材料Gはその射出圧により繊維基材102の空隙部を貫通し、最終的に最下段の第6型16まで到達する。このときの繊維基材102の断面をミクロ的に見ると図4に示すように、ゴム材料Gが貫通したゲート41直下の基材貫通部102Aの空隙はゴム材料Gで密に充填され、ゴム材料近傍範囲(基材貫通部102A以外の製品キャビティ空間51近傍範囲)102Bの空隙はゴム材料Gで含浸されている。
【0034】
次いで、ゴム材料Gの架橋工程を実施し、さらに型開きする。図5は射出架橋後・型開き時の状態を示し、セルロースを主成分とするパルプ繊維よりなる繊維基材102とゴム状弾性体(架橋ゴム)よりなるガスケット本体103とがゴム含浸により一体化された成形品(基材一体ガスケット)101を離型することが可能となる。この離型には、図6(A)(B)に示すハンドリング部(繊維基材102のうちガスケット本体103に埋設されていない部分)102Cを活用することができるため、離型の自動化が容易となる。また従来例(図7(C))のような薄膜状のゴムバリ53が発生しないため、バリ由来の金型清掃が不要となる。さらには離型後の搬送等の工程でも、ハンドリング部102Cを活用することにより大幅な工数削減を期待することができる。
【0035】
次いで、成形品101のうち、製品として不要な部分をカットする。図6(C)は、図6(A)(B)の成形品101における繊維基材102の外周部をゴム不要部とともにカットした形状となり、これにて製品の一形態となる。また図6(D)は、図6(A)(B)の成形品101における繊維基材102の内周部および外周部をゴム不要部とともにカットした形状となり、これもこれにて製品の一形態となる。したがって繊維基材102のうちガスケット本体103に埋設されていない部分については、その一部が製品として残される態様と、その全部が不要としてカットされる態様とがあり、本発明のガスケットにはこの両態様が共に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 金型
11〜16 分割型
21 スプル
31 ランナー
32 直交ランナー部
33 平行ランナー部
41 ゲート
51 製品キャビティ空間
101 成形品
102 繊維基材
102A 基材貫通部
102B ゴム材料近傍範囲
102C ハンドリング部
103 ガスケット本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7