特許第6157916号(P6157916)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6157916
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】脱硝触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20170626BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20170626BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20170626BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20170626BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   B01J23/30 AZAB
   B01D53/86 222
   B01J35/10 301F
   B01J37/02 101C
   B01J37/08
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-95400(P2013-95400)
(22)【出願日】2013年4月30日
(65)【公開番号】特開2014-213307(P2014-213307A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】増田 具承
(72)【発明者】
【氏名】野地 勝己
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−291628(JP,A)
【文献】 特開平01−317545(JP,A)
【文献】 特開2012−139625(JP,A)
【文献】 特開2001−269576(JP,A)
【文献】 特開2002−159862(JP,A)
【文献】 特許第2707330(JP,B2)
【文献】 特公昭63−048584(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90
B01D 53/94−53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと五酸化バナジウムと酸化タングステンとを含むハニカム成形体に、硫酸マグネシウムが担持された脱硝触媒であって、
エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナリシス(EPMA)測定における前記脱硝触媒の表面近傍のマグネシウムの含有量が、触媒中央部より多く、
前記表面近傍は、前記脱硝触媒において、排ガスの流れ方向に貫通孔を形成する触媒内部の壁であって、排ガスと接触する壁の表面から当該壁の内部へ200μmまで侵入した深さであり、前記触媒中央部は、脱硝触媒における前記壁の壁内部の中心より±100μmの幅の部分であり、
比表面積が33m/g〜100m/gであり、
細孔容積が0.17cm/g〜0.40cm/gであり、
前記ハニカム成形体に対して前記硫酸マグネシウムの担持量が7質量%〜14.5質量%である脱硝触媒。
【請求項2】
前記酸化チタンと五酸化バナジウムと酸化タングステンを含むハニカム成形体に、硫酸マグネシウムが担持された請求項1に記載の脱硝触媒であって、硫酸バナジウムをさらに担持してなる請求項1に記載の脱硝触媒。
【請求項3】
酸化チタンと五酸化バナジウムと酸化タングステンとを含むハニカム成形体を30℃〜70℃の硫酸マグネシウム水溶液に浸漬することにより、前記ハニカム成形体に対して前記硫酸マグネシウムを7質量%〜14.5質量%増加担持させる硫酸マグネシウム担持工程と、
前記硫酸マグネシウム担持工程後、前記ハニカム成形体を510℃〜550℃で焼成する焼成工程と
を少なくとも実行することにより、脱硝触媒を製造するようにしてなり、
エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナリシス(EPMA)測定における前記脱硝触媒の表面近傍のマグネシウムの含有量が、触媒中央部より多く、
前記表面近傍は、前記脱硝触媒において、排ガスの流れ方向に貫通孔を形成する触媒内部の壁であって、排ガスと接触する壁の表面から当該壁の内部へ200μmまで侵入した深さであり、前記触媒中央部は、脱硝触媒における前記壁の壁内部の中心より±100μmの幅の部分である脱硝触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスに含まれる窒素酸化物を還元剤を用いて還元除去するための脱硝触媒に関し、特に排ガスに含まれるダストによる摩耗に対する抵抗性を有する脱硝触媒、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスに含まれる窒素酸化物を触媒の存在下にアンモニア等の還元剤と接触させて還元除去する、いわゆる脱硝触媒や脱硝方法としては、既に種々のものが知られている。脱硝触媒のなかでも、ハニカム形状の触媒(ハニカム触媒)は、触媒反応器において排ガスの流れ方向に貫通孔を有する固定床を構成するため、ガス流れによる圧力損失が少なく、他の形状の固定床触媒を充填した触媒反応器に比べて、排ガスの線速度を大きくすることができる。さらに、ハニカム触媒であれば、排ガスがダストを含む場合であっても、ダストによって貫通孔が目詰まりを起こすことが少ないため、効率よくガス接触反応を行わせることができる。これらの利点により、ハニカム触媒は、例えば、ボイラ等から発生する窒素酸化物を含む燃焼排ガスの脱硝反応のために広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ハニカム触媒であっても、カルシウムやマグネシウム、シリカ、アルミナ、鉄等といった硬度の高いダストを含む排ガスを処理する場合には、これらのダストが衝突してハニカム触媒を徐々に摩耗するため、ハニカム触媒は形状を失って使用に耐えなくなる場合もある。
【0004】
このようなハニカム触媒の摩耗を防止するべく、排ガスの入り口を含むハニカム触媒の先端部分を焼結して強度を高める方法や、ガラス物質でハニカム触媒の表面を被覆することにより強化して、耐摩耗性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。ハニカム触媒の先端部分を強化することにより、ダストによる先端部分の摩耗を緩和することができる。
【0005】
しかしながら、石炭焚きボイラから排出される燃焼排ガスの場合、石炭の種類によっては硬度の高いダストが多量に含まれている。ダストが多量にあると、先端部分の強度を強化したハニカム触媒であっても、先端部分とは異なる箇所において、ハニカム触媒が局部的に摩耗することとなる。
【0006】
また、プラント内において脱硝装置を追設する場合には、設備の配置の関係により、触媒の断面積が十分に取れない。そのため、煙道脱硝のように高流速で燃焼排ガスを処理する方法をとる場合には、ハニカム触媒の摩耗がより著しくなることが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭57−14211号公報
【特許文献2】特公昭57−26820号公報
【特許文献3】米国特許第4,294,806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明は、耐摩耗性に優れ、排ガスに含まれる窒素酸化物を長期間にわたって安定して還元除去することができる脱硝触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明者は、脱硝触媒の耐摩耗性を向上させるべく、種々の検討を行った。そうしたところ、酸化チタンと五酸化バナジウムを含むハニカム成形体に結晶化した硫酸マグネシウムを一定量担持させることにより、脱硝触媒の耐摩耗性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る第一の形態は、酸化チタンと五酸化バナジウムを少なくとも含むハニカム成形体に、硫酸マグネシウムが担持した脱硝触媒であって、X線回折における前記酸化チタンの第1ピークと前記硫酸マグネシウムの第1ピークとのピーク強度比が0.06〜0.15であり、前記硫酸マグネシウムの含有量が6質量%〜22質量%増加の処理を加えた脱硝触媒、である。
【0011】
また、本発明に係る第二の形態は、酸化チタンと五酸化バナジウムを少なくとも含むハニカム成形体を30℃〜70℃の硫酸マグネシウム水溶液に浸漬することにより、前記硫酸マグネシウムを6質量%〜22質量%担持させる硫酸マグネシウム担持工程と、前記硫酸マグネシウム担持工程後、前記ハニカム成形体を510℃〜550℃で焼成する焼成工程とを少なくとも含む脱硝触媒の製造方法である。
【0012】
また、本発明に係る第三の形態は、酸化チタンと五酸化バナジウムを少なくとも含むハニカム成形体を30℃〜70℃の硫酸マグネシウム水溶液と硫酸バナジウム水溶液との混合溶液に浸漬することにより、前記硫酸マグネシウムを6質量%〜22質量%増加担持させ、かつ前記硫酸バナジウムを0.3質量%〜1質量%増加担持させる担持工程と、前記担持工程後、前記ハニカム成形体を510℃〜550℃で焼成する焼成工程とを少なくとも含む脱硝触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脱硝触媒の耐摩耗性を向上させることが可能となり、排ガスに含まれる窒素酸化物を長期間にわたって安定して還元除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】硫酸マグネシウムの含有量と耐摩耗性との関係を示す図。
図2】硫酸マグネシウムの含有量が12質量%である脱硝触媒における焼成温度と耐摩耗性との関係を示す図。
図3】脱硝触媒について、X線回折法による結晶構造解析を行った結果を示す図。
図4】脱硝触媒について、X線回折におけるアナターゼ型酸化チタンの第1ピークA、と前記硫酸マグネシウムの第1ピークBとのピーク強度比(B/A)を示す図である。
図5】硫酸バナジウムを含有させた脱硝触媒の耐摩耗性を示す図。
図6】硫酸バナジウムの含有量が与える脱硝触媒の耐摩耗性への影響について示す図。
図7】EPMA測定により、脱硝触媒のマグネシウム等の分布状態を測定した結果、および脱硝触媒の表面近傍、ならびに中央部のマグネシウム等の含有量を算出した結果を示す図。
図8】硫酸バナジウムの含有量が与える脱硝触媒の比表面積、および細孔容積への影響について示す図。
図9】焼成温度が与える脱硝触媒の比表面積、および細孔容積への影響について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について、その一般的形態を詳細に説明する。
まず、本発明の脱硝触媒は、酸化チタンと五酸化バナジウムを少なくとも含むハニカム成形体に、硫酸マグネシウムが担持した触媒である。ハニカム成形体は、その形状が一定のものではなく、ハニカム面が四角形や五角形、六角形といった多角形形状である多角柱状のものや、ハニカム面が円形状である円柱状のものが挙げられる。ハニカム形状の成形体を脱硝触媒とすれば、触媒反応器において排ガスの流れ方向に貫通孔を有する固定床を構成するため、ガス流れによる圧力損失が少なく、粒状、環状、筒状といった他の形状の脱硝触媒に比べて、排ガスの線速度を大きくすることができる。さらに、ハニカム形状であれば、排ガスが含むダストによって貫通孔が目詰まりを起こすことが少ないため、効率よくガス接触反応を行わせることができる。
【0016】
酸化チタンは、ハニカム成形体に実用可能な強度を付与することができ、特にアナターゼ型酸化チタンを用いることができる。また、五酸化バナジウムは、脱硝反応を促進する活性成分である。
【0017】
ハニカム成形体は、酸化チタンや五酸化バナジウムの他、脱硝反応の促進やハニカム成形体の成形性の観点から、三酸化タングステン、シリカ等を含むことができる。三酸化タングステンやシリカを含む場合は、酸化チタンと三酸化タングステンとの複合酸化物や、酸化チタンとシリカとの複合酸化物としてハニカム成形体に含むことができる。
【0018】
硫酸マグネシウムは、ハニカム成形体に一定量担持させることにより、脱硝触媒の触媒活性を損なうことなく、排ガスに含まれる硬度の高いダストによる摩耗に対する耐性を脱硝触媒に付与することができる。
【0019】
本発明の脱硝触媒は、X線回折における前記酸化チタンの第1ピークと前記硫酸マグネシウムの第1ピークとのピーク強度比が0.06〜0.15である。脱硝触媒の結晶構造をX線回折において測定し、ハニカム成形体に含まれる酸化チタンに由来するピークのうち最も強いピークを酸化チタンの第1ピークとし、ハニカム成形体に担持した硫酸マグネシウムに由来するピークのうち最も強いピークを硫酸マグネシウムの第1ピークとする。硫酸マグネシウムが結晶としてハニカム成形体に担持し、かつ、酸化チタンの第1ピークと硫酸マグネシウムの第1ピークとのピーク強度比が0.06〜0.15の範囲内であるように、硫酸マグネシウムの結晶性が高い場合には、硫酸マグネシウムの結晶が、排ガスに含まれる硬度の高いダストによる摩耗に対する耐性を脱硝触媒に付与することができる。
【0020】
本発明の脱硝触媒は、前記硫酸マグネシウムの含有量が6質量%〜22質量%増加の処理を加えた脱硝触媒である。6質量%〜22質量%増加は、触媒100gに対して6g〜22g含有させることである。例えば、硫酸マグネシウムの含有量が6質量%〜22質量%増加の場合、脱硝触媒100gに対して硫酸マグネシウムを6g〜22g含有している。上記した酸化チタンの第1ピークと硫酸マグネシウムの第1ピークとのピーク強度比が0.06〜0.15の範囲内となる結晶性が高い硫酸マグネシウムが6質量%〜22質量%含有することにより、脱硝触媒は、排ガスに含まれる硬度の高いダストによる摩耗に対して、耐性を有することができる。
【0021】
本発明の脱硝触媒は、細孔容積が0.17cm/g〜0.40cm/gである。結晶性が高い硫酸マグネシウムが担持した場合において、細孔容積が小さいと脱硝活性が低くなり、細孔容積が大きいと脱硝触媒としての機械的強度が低くなる。細孔容積が0.17cm/g〜0.40cm/gであれば、脱硝活性および機械的強度を十分に満足することができる。細孔容積は、例えば水銀圧入法により測定することができる。
【0022】
本発明の脱硝触媒は、比表面積が33m/g〜100m/gである。結晶性が高い硫酸マグネシウムが担持した場合において、比表面積が小さいと脱硝活性が低くなり、比表面積が大きいと脱硝触媒としての機械的強度が低くなる。比表面積が33m/g〜100m/gであれば、脱硝活性および機械的強度を十分に満足することができる。比表面積は、例えばBET法により測定することができる。
【0023】
本発明の脱硝触媒は、エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナリシス(EPMA)測定における前記脱硝触媒の表面近傍のマグネシウムの含有量が、触媒中央部より多いことが好ましい。EPMAは、電子線を対象物に照射することにより発生する特性X線の波長と強度から構成元素を分析する電子マイクロプローブ装置の1つである。このEPMA測定により、脱硝触媒の表面近傍のマグネシウムの含有量を測定することができ、硫酸マグネシウムの分布状態を知ることができる。表面近傍は、脱硝触媒において、排ガスの流れ方向に貫通孔を形成する触媒内部の壁であって、排ガスと接触する壁の表面から当該壁の内部へ200μmまで侵入した深さである。また、触媒中央部は、脱硝触媒における前記壁の壁内部の中心より±100μmの幅の部分である。脱硝触媒の表面から200μm深さまでの厚みに含有しているマグネシウムが触媒中央部より多いことにより、排ガスに含まれる硬度の高いダストによる摩耗に対する耐性を、脱硝触媒へさらに付与することができる。
【0024】
本発明の脱硝触媒は、エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナリシス(EPMA)測定における前記脱硝触媒の表面近傍の硫黄の含有量が、触媒中央部より多いことが好ましい。このEPMA測定により、脱硝触媒の表面近傍の硫黄の含有量を測定することができ、硫酸マグネシウムの分布状態を知ることができる。脱硝触媒の表面近傍の硫黄の含有量が触媒中央部より多いことにより、排ガスに含まれる硬度の高いダストによる摩耗に対する耐性を、脱硝触媒へさらに付与することができる。
【0025】
次に、本発明の脱硝触媒の製造方法について、以下に説明する。
本発明の脱硝触媒の製造方法は、硫酸マグネシウム担持工程と、焼成工程とを少なくとも含む。硫酸マグネシウム担持工程は、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム水溶液に浸漬することにより、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持させる工程である。
【0026】
ハニカム成形体は、その形状が一定のものではなく、ハニカム面が四角形や五角形、六角形といった多角形形状である多角柱状のものや、ハニカム面が円形状である円柱状のものが挙げられる。このようなハニカム成形体を製造する場合は、まず、セラミックスを主原料として用い、水や添加剤等を混練して均一な坏土状とした後、押出成形等によりハニカム形状とし、その後、乾燥、焼成する方法が一般的に用いられている。
【0027】
本発明の脱硝触媒の製造方法では、酸化チタンと五酸化バナジウムを少なくとも含むハニカム成形体を用いる。酸化チタンは、ハニカム成形体の主原料として用いることができる。酸化チタンの原料としては、予め調整された酸化チタンのほか、チタン酸、水酸化チタン、硫酸チタン等のチタン化合物を用いることができる。また、五酸化バナジウムは、脱硝反応を促進する活性成分である。五酸化バナジウムの原料としては、五酸化バナジウムそれ自体の他、メタバナジン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0028】
本発明の脱硝触媒の製造方法では、ハニカム成形体を浸漬する硫酸マグネシウム水溶液の温度を、30℃〜70℃とする。この温度の範囲内であれば、ハニカム成形体への硫酸マグネシウムの含浸が容易となり、効率良く担持することができる。また、低濃度の硫酸マグネシウム水溶液を用いた場合にも、ハニカム成形体の浸漬および浸漬後の乾燥を繰り返すことにより、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを6質量%〜22質量%担持させることができるものの、硫酸マグネシウム水溶液の硫酸マグネシウムの濃度を15質量%〜36質量%とすれば、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム水溶液に1回浸漬することにより、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを6質量%〜22質量%担持させることができる。硫酸マグネシウムの濃度を上記範囲とするためには、水への溶解度の関係から、硫酸マグネシウム水溶液を30℃〜70℃とすることが好ましい。
【0029】
本発明の脱硝触媒の製造方法において、乾燥工程は、硫酸マグネシウム担持工程後にハニカム成形体を乾燥させる工程である。硫酸マグネシウム水溶液に浸漬後のハニカム成形体から余分な水分を除去すると共に、担持した硫酸マグネシウムがハニカム成形体中を移行することを防止し、固定化するためである。乾燥方法としては、自然乾燥、温風乾燥等を単独または組み合わせて行うことができる。製造効率を考慮すれば、自然乾燥によりある程度の水分を除去した後、100℃〜120℃の温風で乾燥する工程とすることができる。乾燥工程は、1時間〜5時間程の工程となることが一般的である。
【0030】
本発明の脱硝触媒の製造方法において、焼成工程は、乾燥工程後にハニカム成形体を焼成する工程である。ハニカム成形体に担持した硝酸マグネシウムを、加熱により結晶化させるためである。焼成方法としては、電気炉等により、510℃〜550℃で3時間程ハニカム成形体を焼結することが好ましい。焼結温度が低いと排ガスに含まれる硬度の高いダストに対する耐摩耗性が十分に向上しない場合があり、また、焼結温度が高いと、脱硝性能が著しく低下する場合がある。焼結温度が510℃〜550℃であれば、脱硝性能を維持しつつ、耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0031】
本発明の脱硝触媒の製造方法では、硫酸マグネシウム担持工程前に、ハニカム成形体を硫酸バナジウム水溶液に浸漬する硫酸バナジウム担持工程を含むことができる。この工程により、耐摩耗性を向上させつつ、脱硝性能の低下を抑制することができる。硫酸バナジウムは、脱硝反応を促進する活性成分としての機能を有する。硝酸バナジウムの担持量が少ないと、脱硝性能の低下を抑制することが出来ない場合がある。また、硝酸バナジウムの担持量を過剰に増加させても、それに見合う抑制効果は見込めない。硫酸バナジウムは、ハニカム成形体に0.3質量%〜1質量%担持させることにより、脱硝性能の低下を効果的に抑制することができる。低濃度の硫酸バナジウム水溶液を用いた場合にも、ハニカム成形体の浸漬および浸漬後の乾燥を繰り返すことにより、ハニカム成形体に硫酸バナジウムを0.3質量%〜1質量%担持させることができるものの、硫酸バナジウム水溶液の硫酸バナジウムの濃度を1.5質量%〜5.2質量%とすれば、ハニカム成形体を硫酸バナジウム水溶液に1回浸漬することにより、ハニカム成形体に硫酸バナジウムを0.3質量%〜1質量%担持させることができる。
【0032】
本発明の脱硝触媒の製造方法では、硫酸マグネシウム担持工程に替えて、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム水溶液と硫酸バナジウム水溶液との混合溶液に浸漬し、硫酸マグネシウムと硫酸バナジウムを担持させる担持工程を含むことができる。この工程により、耐摩耗性を向上させつつ、脱硝性能の低下を抑制することができる。
【0033】
硫酸マグネシウム水溶液と硫酸バナジウム水溶液との混合溶液は、30℃〜70℃の温度とすることが好ましい。この温度の範囲内であれば、ハニカム成形体への硫酸マグネシウムのみならず、硫酸バナジウムの含浸が容易となり、効率良く担持することができる。硫酸マグネシウム水溶液の硫酸マグネシウムの濃度を15質量%〜36質量%とし、硫酸バナジウム水溶液の硫酸バナジウムの濃度を1.5質量%〜5.2質量%とし、混合した混合溶液とすれば、ハニカム成形体を当該混合溶液に1回または2回浸漬することにより、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを6質量%〜22質量%担持させ、かつ硫酸バナジウムを0.3質量%〜1質量%担持させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
[ハニカム成形体の製造]
硫酸法による酸化チタン製造工程から得られるメタチタン酸を中和した後、濾過、水洗して、ケーキ状のメタチタン酸を得た。このメタチタン酸(二酸化チタン換算にて820kg)に67.5%硝酸8kgを加え、メタチタン酸を部分的に解膠した後、得られたゾル液を蒸発乾固し、さらに、500℃で3時間焼成した。この後、冷却し、微粉砕し、その粒度を調整して、二酸化チタン粉末を得た。
【0036】
モノエタノールアミン水溶液に五酸化バナジウム5.2kgとパラタングステン酸アンモニウム112kgを溶解した水溶液300L、ポリビニルアルコール50kg及び炭化ケイ素繊維(繊維径11μm、繊維長さ3mm、日本カーボン(株)社製)100kgを上記二酸化チタン粉末800kgに水約100Lと共に加え、ニーダーにてこれらを混練した。
【0037】
次いで、この混練物をハニカム押出ノズルを備えたスクリュー付き真空押出機によってハニカム成形体を押出成形した。このハニカム成形体を十分に時間をかけて自然乾燥させた後、100℃で5時間通風乾燥した。この後、軸方向の両端を切り揃え、電気炉内にて500℃で5時間焼成して、外径150mm×150mm、軸方向長さ800mm、セルピッチ7.4mm、内壁厚さ1.15mmのハニカム成形体Iを得た。
【0038】
[脱硝触媒の製造]
[実施例1]
硫酸マグネシウム7水塩の結晶を温水に溶解させて60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液を調製し、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。硫酸マグネシウム水溶液から取り出したハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払い、110℃で4時間以上乾燥した後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0039】
[比較例1]
硫酸マグネシウムを担持せず、無処理のハニカム成形体Iを脱硝触媒とした。
【0040】
[比較例2]
焼成工程における焼成温度を500℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0041】
[比較例3]
60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬し、その後ハニカム成形体Iを通風する操作を2回繰り返し、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が23質量%となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。また、焼成工程における焼成温度を500℃とした。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0042】
[比較例4]
焼成工程における焼成温度を550℃とする他は、比較例3と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0043】
[比較例5]
焼成工程における焼成温度を650℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0044】
[脱硝触媒の製造]
[実施例2]
60℃の15質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が7質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0045】
[実施例3]
60℃の19質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が9質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0046】
[実施例4]
60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が14.5質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0047】
[実施例5]
60℃の25質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出してハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払った。その後、60℃の25質量%増加硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを再度1分浸漬した後、通風乾燥し、110℃で3時間乾燥した。このように、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム水溶液へ2回浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が22質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0048】
[耐摩耗性の評価]
実施例1〜実施例5、および比較例1の脱硝触媒を、それぞれ断面45mm×45mm、長さ100mmに裁断し、触媒反応器に充填した。摩耗材であるケイ砂(平均粒子径40μm)を硬度の高いダストに見立て、当該ケイ砂を濃度70g/mにて含むガスを大気圧下、20℃で脱硝触媒断面当たり、40m/秒の流速にて30分間、脱硝触媒に通過させて、その間の脱硝触媒の摩耗量から、摩耗率を算出した。摩耗率は、下記式(1)で与えられる。ここで、Wは摩耗試験前の脱硝触媒の質量であり、Wは摩耗試験後の脱硝触媒の質量である。結果を図1に示す。
【0049】
[数1]
[(W−W)/W]×100(%)・・・(1)
【0050】
図1より、実施例1〜実施例5の脱硝触媒の摩耗率は、いずれも5質量%以下であり、比較例1の脱硝触媒の摩耗率が8質量%であることと比較すると、耐摩耗性が向上していることは明らかである。
【0051】
図1の結果から、硫酸マグネシウムの含有量が7質量%〜22質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持することで、耐摩耗性が向上した脱硝触媒となることがわかった。
【0052】
[脱硝触媒の製造]
[実施例6]
焼成工程における焼成温度を510℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0053】
[実施例7]
焼成工程における焼成温度を530℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0054】
[比較例6]
焼成工程における焼成温度を650℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0055】
実施例6、実施例7、および比較例6の脱硝触媒について、耐摩耗性の評価をした。実施例1、比較例1、および比較例2の結果と共に、耐摩耗性の評価結果を図2に示す。
【0056】
図2より、実施例8、および実施例9の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して若干増加する程度であり、十分に良好な耐摩耗性を示した。一方で、比較例7の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して約3倍増加しており、耐摩耗性に劣る結果となった。
【0057】
焼成温度が650℃の場合には(比較例6)、反応速度定数比が低下したことから、焼成温度が高温になると、脱硝触媒の脱硝性能に影響を与える結果となった。
【0058】
図3は、実施例1(焼成温度550℃)、実施例6(焼成温度510℃)、実施例7(焼成温度530℃)、および比較例2(焼成温度500℃)の脱硝触媒について、X線回折法による結晶構造解析を行った結果である。得られたピークから、アナターゼ型酸化チタンおよび硫酸マグネシウムの結晶に起因するピークが認められた。
【0059】
図4は、実施例1(焼成温度550℃)、実施例2(焼成温度550℃)、実施例3(焼成温度550℃)、実施例5(焼成温度550℃)、実施例6(焼成温度510℃)、実施例7(焼成温度530℃)、比較例2(焼成温度500℃)、および比較例6(焼成温度650℃)の脱硝触媒について、X線回折におけるアナターゼ型酸化チタンの第1ピークA、と前記硫酸マグネシウムの第1ピークBとのピーク強度比(B/A)を示す図である。実施例1〜3、および実施例5〜7のピーク強度比は、0.05〜0.15の範囲となっている。
【0060】
図2図4の結果から、焼成温度が510℃〜550℃の範囲内であれば、脱硝性能を維持しつつ、耐摩耗性が向上した脱硝触媒となることがわかった。また、このような脱硝触媒のピーク強度比(B/A)は、0.05〜0.15の範囲内であった。
【0061】
[脱硝触媒の製造]
[実施例8]
3.4質量%硫酸バナジウム水溶液と26質量%硫酸マグネシウム水溶液となるように試薬を調製し、60℃の混合溶液を調製した。この混合溶液にハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出して通風し、過剰に付着している硫酸バナジウム水溶液および硫酸マグネシウム水溶液を吹き払った後、110℃で3時間乾燥した。これらの浸漬工程により、脱硝触媒における硫酸バナジウムの含有量が五酸化バナジウム換算で0.66質量%増加であり、また、硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。その後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0062】
[実施例9]
まず、20℃の34質量%硫酸バナジウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出してハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸バナジウム水溶液を吹き払った。続いて、60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液を調製し、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、硫酸マグネシウム水溶液から取り出したハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払い、110℃で3時間乾燥した。これらの浸漬工程により、脱硝触媒における硫酸バナジウムの含有量が五酸化バナジウム換算で0.66質量%増加であり、また、硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。その後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0063】
[比較例7]
まず、60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出してハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払った。続いて、20℃の3.4質量%硫酸バナジウム水溶液を調製し、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、硫酸バナジウム水溶液から取り出したハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸バナジウム水溶液を吹き払い、110℃で3時間乾燥した。これらの浸漬工程により、脱硝触媒における硫酸バナジウムの含有量が五酸化バナジウム換算で0.66質量%増加であり、また、硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。その後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0064】
実施例8、実施例9、および比較例7の脱硝触媒について、耐摩耗性の評価と共に、脱硝性能を評価した。実施例1、および比較例1の結果と共に、耐摩耗性の評価結果を図5に示す。
【0065】
図5より、実施例8、および実施例9の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して若干増加する程度であり、十分に良好な耐摩耗性を示した。一方で、比較例7の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して約3倍増加しており、耐摩耗性に劣る結果となった。
【0066】
以上の結果より、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム溶液へ浸漬する前に、予め硫酸バナジウム溶液へ浸漬することにより、耐摩耗性をほぼ保持しつつ、脱硝性能を向上させることが可能であることがわかった(実施例)。また、硫酸バナジウムと硫酸マグネシウムが共存する混合溶液に、ハニカム成形体を浸漬した場合にも、耐摩耗性をほぼ保持しつつ、脱硝性能を向上させることが可能であることがわかった(実施例)。一方で、ハニカム成形体を硫酸バナジウム溶液へ浸漬する前に、予め硫酸マグネシウム溶液へ浸漬すると、耐摩耗性が低下することがわかった(比較例7)。
【0067】
図6は、硫酸バナジウムの含有量が与える脱硝触媒の耐摩耗性への影響について示す図である。実施例1と実施例9との間にプロットされた実施例10、および実施例11の脱硝触媒は、実施例9の製造工程を基に、硫酸バナジウムの含有量を調製して製造したものである。この結果から、硫酸バナジウムの含有量が増加しても、脱硝触媒の摩耗量はほぼ横ばいであり、耐摩耗性に問題ないことが明らかとなった。
【0068】
図7は、エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナリシス(EPMA)測定により、実施例1(硫酸マグネシウムの含有量:12質量%増加)、実施例2(硫酸マグネシウムの含有量:7質量%増加)、および実施例5(硫酸マグネシウムの含有量:22質量%増加)の脱硝触媒のチタン(図7(a))、マグネシウム(図7(b))、および硫黄(図7(c))の分布状態を測定した結果、および脱硝触媒の表面近傍、ならびに触媒中央部のマグネシウムおよび硫黄の含有量を算出した結果を示す図である。触媒中央部1は、脱硝触媒における前記壁の壁内部の中心より±100μmの幅の部分とした。また、表面近傍2は、脱硝触媒において、排ガスの流れ方向に貫通孔を形成する触媒内部の壁であって、排ガスと接触する壁の表面から当該壁の内部へ200μmまで侵入した深さとした。
【0069】
EPMA測定から得られた図7に示す写真では、測定対象となる元素が多く存在している領域は、他の領域と比べて白みを帯びる。図7(a)では、脱硝触媒のほぼ全領域が白くなっている。図7(b)、および図7(c)では、実施例1、2の写真において、触媒中央部よりも表面近傍の方が白みを帯びており、実施例5の写真においては、脱硝触媒のほぼ全領域が白くなっている。これらの結果より、図7(b)、および図7(c)より、硫酸マグネシウム水溶液へ1回含浸させた脱硝触媒は、マグネシウムおよび硫黄が脱硝触媒の表面およびその近傍に分布していることが明らかとなった(実施例1、実施例2)。硫酸マグネシウム水溶液へ2回含浸させた脱硝触媒(実施例5)は、1回含浸させた場合と比べて、マグネシウムおよび硫黄が、脱硝触媒の表面およびその近傍のみならず、内部へも浸透していることがわかった(図7(b)、図7(c))。また、図7(a)より、チタンは、硫酸マグネシウム水溶液への含浸回数にかかわらず、脱硝触媒に均一に分布していることがわかる。
【0070】
脱硝触媒の表面近傍のマグネシウムおよび硫黄の含有量は、実施例1、実施例2、および実施例5のいずれの脱硝触媒の場合も、中央部よりも表面近傍の方が多い傾向が認められ、表面近傍のマグネシウムの含有量が6.87質量%〜7.35質量%であり、硫黄の含有量が7.65質量%〜8.42質量%であった(図7)。
【0071】
図8は、硫酸マグネシウムの含有量が与える脱硝触媒の比表面積、および細孔容積への影響について示す図である。比表面積はBET法により測定し、細孔容積は水銀圧入法により測定した。脱硝触媒の比表面積、および細孔容積は、硫酸マグネシウムの含有量の増加に応じて減少する傾向が認められた。硫酸マグネシウムの含有量が6質量%(実施例2)〜20質量%増加(実施例13)の間において、脱硝触媒の比表面積は、27m/g〜55m/gであり、細孔容積は、0.20cm/g〜0.30cm/gであった。
【0072】
図9は、焼成温度が与える脱硝触媒の比表面積、および細孔容積への影響について示す図である。脱硝触媒の比表面積は、焼成温度の上昇に応じて減少する傾向が認められた。また、脱硝触媒の細孔容積は、焼成温度が530℃までは温度上昇に応じて減少し、530℃よりも温度が高くなると、これに応じて増加する傾向が認められた。焼成温度が510℃〜550℃の間において、脱硝触媒の比表面積は、33m/g〜38m/gであり、細孔容積は、0.17cm/g〜0.24cm/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の脱硝触媒およびその製造方法によれば、耐摩耗性が向上した脱硝触媒を提供することが可能となり、排ガスに含まれる窒素酸化物を長期間にわたって安定して還元除去することができるため、産業上有用である。
【符号の説明】
【0074】
A アナターゼ型酸化チタンのX線回折における第1ピーク
B 硫酸マグネシウムのX線回折における第1ピーク
1 触媒中央部
2 表面近傍
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9