【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
[ハニカム成形体の製造]
硫酸法による酸化チタン製造工程から得られるメタチタン酸を中和した後、濾過、水洗して、ケーキ状のメタチタン酸を得た。このメタチタン酸(二酸化チタン換算にて820kg)に67.5%硝酸8kgを加え、メタチタン酸を部分的に解膠した後、得られたゾル液を蒸発乾固し、さらに、500℃で3時間焼成した。この後、冷却し、微粉砕し、その粒度を調整して、二酸化チタン粉末を得た。
【0036】
モノエタノールアミン水溶液に五酸化バナジウム5.2kgとパラタングステン酸アンモニウム112kgを溶解した水溶液300L、ポリビニルアルコール50kg及び炭化ケイ素繊維(繊維径11μm、繊維長さ3mm、日本カーボン(株)社製)100kgを上記二酸化チタン粉末800kgに水約100Lと共に加え、ニーダーにてこれらを混練した。
【0037】
次いで、この混練物をハニカム押出ノズルを備えたスクリュー付き真空押出機によってハニカム成形体を押出成形した。このハニカム成形体を十分に時間をかけて自然乾燥させた後、100℃で5時間通風乾燥した。この後、軸方向の両端を切り揃え、電気炉内にて500℃で5時間焼成して、外径150mm×150mm、軸方向長さ800mm、セルピッチ7.4mm、内壁厚さ1.15mmのハニカム成形体Iを得た。
【0038】
[脱硝触媒の製造]
[実施例1]
硫酸マグネシウム7水塩の結晶を温水に溶解させて60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液を調製し、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。硫酸マグネシウム水溶液から取り出したハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払い、110℃で4時間以上乾燥した後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0039】
[比較例1]
硫酸マグネシウムを担持せず、無処理のハニカム成形体Iを脱硝触媒とした。
【0040】
[比較例2]
焼成工程における焼成温度を500℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0041】
[比較例3]
60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬し、その後ハニカム成形体Iを通風する操作を2回繰り返し、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が23質量%となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。また、焼成工程における焼成温度を500℃とした。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0042】
[比較例4]
焼成工程における焼成温度を550℃とする他は、比較例3と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0043】
[比較例5]
焼成工程における焼成温度を650℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0044】
[脱硝触媒の製造]
[実施例2]
60℃の15質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が7質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0045】
[実施例3]
60℃の19質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が9質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0046】
[実施例4]
60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が14.5質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0047】
[実施例5]
60℃の25質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出してハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払った。その後、60℃の25質量%増加硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを再度1分浸漬した後、通風乾燥し、110℃で3時間乾燥した。このように、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム水溶液へ2回浸漬することにより、脱硝触媒における硫酸マグネシウムの含有量が22質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。他の条件は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0048】
[耐摩耗性の評価]
実施例1〜実施例5、および比較例1の脱硝触媒を、それぞれ断面45mm×45mm、長さ100mmに裁断し、触媒反応器に充填した。摩耗材であるケイ砂(平均粒子径40μm)を硬度の高いダストに見立て、当該ケイ砂を濃度70g/m
3にて含むガスを大気圧下、20℃で脱硝触媒断面当たり、40m/秒の流速にて30分間、脱硝触媒に通過させて、その間の脱硝触媒の摩耗量から、摩耗率を算出した。摩耗率は、下記式(1)で与えられる。ここで、W
0は摩耗試験前の脱硝触媒の質量であり、Wは摩耗試験後の脱硝触媒の質量である。結果を
図1に示す。
【0049】
[数1]
[(W
0−W)/W
0]×100(%)・・・(1)
【0050】
図1より、実施例1〜実施例5の脱硝触媒の摩耗率は、いずれも5質量%以下であり、比較例1の脱硝触媒の摩耗率が8質量%であることと比較すると、耐摩耗性が向上していることは明らかである。
【0051】
図1の結果から、硫酸マグネシウムの含有量が7質量%〜22質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持することで、耐摩耗性が向上した脱硝触媒となることがわかった。
【0052】
[脱硝触媒の製造]
[実施例6]
焼成工程における焼成温度を510℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0053】
[実施例7]
焼成工程における焼成温度を530℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0054】
[比較例6]
焼成工程における焼成温度を650℃とする他は、実施例1と同様の条件とし、脱硝触媒を得た。
【0055】
実施例6、実施例7、および比較例6の脱硝触媒について、耐摩耗性の評価をした。実施例1、比較例1、および比較例2の結果と共に、耐摩耗性の評価結果を
図2に示す。
【0056】
図2より、実施例8、および実施例9の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して若干増加する程度であり、十分に良好な耐摩耗性を示した。一方で、比較例7の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して約3倍増加しており、耐摩耗性に劣る結果となった。
【0057】
焼成温度が650℃の場合には(比較例6)、反応速度定数比が低下したことから、焼成温度が高温になると、脱硝触媒の脱硝性能に影響を与える結果となった。
【0058】
図3は、実施例1(焼成温度550℃)、実施例6(焼成温度510℃)、実施例7(焼成温度530℃)、および比較例2(焼成温度500℃)の脱硝触媒について、X線回折法による結晶構造解析を行った結果である。得られたピークから、アナターゼ型酸化チタンおよび硫酸マグネシウムの結晶に起因するピークが認められた。
【0059】
図4は、実施例1(焼成温度550℃)、実施例2(焼成温度550℃)、実施例3(焼成温度550℃)、実施例5(焼成温度550℃)、実施例6(焼成温度510℃)、実施例7(焼成温度530℃)、比較例2(焼成温度500℃)、および比較例6(焼成温度650℃)の脱硝触媒について、X線回折におけるアナターゼ型酸化チタンの第1ピークA、と前記硫酸マグネシウムの第1ピークBとのピーク強度比(B/A)を示す図である。実施例1〜3、および実施例5〜7のピーク強度比は、0.05〜0.15の範囲となっている。
【0060】
図2〜
図4の結果から、焼成温度が510℃〜550℃の範囲内であれば、脱硝性能を維持しつつ、耐摩耗性が向上した脱硝触媒となることがわかった。また、このような脱硝触媒のピーク強度比(B/A)は、0.05〜0.15の範囲内であった。
【0061】
[脱硝触媒の製造]
[実施例8]
3.4質量%硫酸バナジウム水溶液と26質量%硫酸マグネシウム水溶液となるように試薬を調製し、60℃の混合溶液を調製した。この混合溶液にハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出して通風し、過剰に付着している硫酸バナジウム水溶液および硫酸マグネシウム水溶液を吹き払った後、110℃で3時間乾燥した。これらの浸漬工程により、脱硝触媒における硫酸バナジウムの含有量が五酸化バナジウム換算で0.66質量%増加であり、また、硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。その後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0062】
[実施例9]
まず、20℃の34質量%硫酸バナジウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出してハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸バナジウム水溶液を吹き払った。続いて、60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液を調製し、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、硫酸マグネシウム水溶液から取り出したハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払い、110℃で3時間乾燥した。これらの浸漬工程により、脱硝触媒における硫酸バナジウムの含有量が五酸化バナジウム換算で0.66質量%増加であり、また、硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。その後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0063】
[比較例7]
まず、60℃の26質量%硫酸マグネシウム水溶液に、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、ハニカム成形体を取り出してハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸マグネシウム水溶液を吹き払った。続いて、20℃の3.4質量%硫酸バナジウム水溶液を調製し、ハニカム成形体Iを1分浸漬した後、硫酸バナジウム水溶液から取り出したハニカム成形体に通風して、過剰に付着している硫酸バナジウム水溶液を吹き払い、110℃で3時間乾燥した。これらの浸漬工程により、脱硝触媒における硫酸バナジウムの含有量が五酸化バナジウム換算で0.66質量%増加であり、また、硫酸マグネシウムの含有量が12質量%増加となるように、ハニカム成形体に硫酸マグネシウムを担持した。その後、電気炉にて550℃で3時間焼成して、脱硝触媒を得た。
【0064】
実施例8、実施例9、および比較例7の脱硝触媒について、耐摩耗性の評価と共に、脱硝性能を評価した。実施例1、および比較例1の結果と共に、耐摩耗性の評価結果を
図5に示す。
【0065】
図5より、実施例8、および実施例9の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して若干増加する程度であり、十分に良好な耐摩耗性を示した。一方で、比較例7の脱硝触媒の摩耗量は、実施例1と比較して約3倍増加しており、耐摩耗性に劣る結果となった。
【0066】
以上の結果より、ハニカム成形体を硫酸マグネシウム溶液へ浸漬する前に、予め硫酸バナジウム溶液へ浸漬することにより、耐摩耗性をほぼ保持しつつ、脱硝性能を向上させることが可能であることがわかった(実施例
9)。また、硫酸バナジウムと硫酸マグネシウムが共存する混合溶液に、ハニカム成形体を浸漬した場合にも、耐摩耗性をほぼ保持しつつ、脱硝性能を向上させることが可能であることがわかった(実施例
8)。一方で、ハニカム成形体を硫酸バナジウム溶液へ浸漬する前に、予め硫酸マグネシウム溶液へ浸漬すると、耐摩耗性が低下することがわかった(比較例7)。
【0067】
図6は、硫酸バナジウムの含有量が与える脱硝触媒の耐摩耗性への影響について示す図である。実施例1と実施例9との間にプロットされた実施例10、および実施例11の脱硝触媒は、実施例9の製造工程を基に、硫酸バナジウムの含有量を調製して製造したものである。この結果から、硫酸バナジウムの含有量が増加しても、脱硝触媒の摩耗量はほぼ横ばいであり、耐摩耗性に問題ないことが明らかとなった。
【0068】
図7は、エレクトロン・プローブ・マイクロ・アナリシス(EPMA)測定により、実施例1(硫酸マグネシウムの含有量:12質量%増加)、実施例2(硫酸マグネシウムの含有量:7質量%増加)、および実施例5(硫酸マグネシウムの含有量:22質量%増加)の脱硝触媒のチタン(
図7(a))、マグネシウム(
図7(b))、および硫黄(
図7(c))の分布状態を測定した結果、および脱硝触媒の表面近傍、ならびに触媒中央部のマグネシウムおよび硫黄の含有量を算出した結果を示す図である。触媒中央部1は、脱硝触媒における前記壁の壁内部の中心より±100μmの幅の部分とした。また、表面近傍2は、脱硝触媒において、排ガスの流れ方向に貫通孔を形成する触媒内部の壁であって、排ガスと接触する壁の表面から当該壁の内部へ200μmまで侵入した深さとした。
【0069】
EPMA測定から得られた
図7に示す写真では、測定対象となる元素が多く存在している領域は、他の領域と比べて白みを帯びる。
図7(a)では、脱硝触媒のほぼ全領域が白くなっている。
図7(b)、および
図7(c)では、実施例1、2の写真において、触媒中央部よりも表面近傍の方が白みを帯びており、実施例5の写真においては、脱硝触媒のほぼ全領域が白くなっている。これらの結果より、
図7(b)、および
図7(c)より、硫酸マグネシウム水溶液へ1回含浸させた脱硝触媒は、マグネシウムおよび硫黄が脱硝触媒の表面およびその近傍に分布していることが明らかとなった(実施例1、実施例2)。硫酸マグネシウム水溶液へ2回含浸させた脱硝触媒(実施例5)は、1回含浸させた場合と比べて、マグネシウムおよび硫黄が、脱硝触媒の表面およびその近傍のみならず、内部へも浸透していることがわかった(
図7(b)、
図7(c))。また、
図7(a)より、チタンは、硫酸マグネシウム水溶液への含浸回数にかかわらず、脱硝触媒に均一に分布していることがわかる。
【0070】
脱硝触媒の表面近傍のマグネシウムおよび硫黄の含有量は、実施例1、実施例2、および実施例5のいずれの脱硝触媒の場合も、中央部よりも表面近傍の方が多い傾向が認められ、表面近傍のマグネシウムの含有量が6.87質量%〜7.35質量%であり、硫黄の含有量が7.65質量%〜8.42質量%であった(
図7)。
【0071】
図8は、
硫酸マグネシウムの含有量が与える脱硝触媒の比表面積、および細孔容積への影響について示す図である。比表面積はBET法により測定し、細孔容積は水銀圧入法により測定した。脱硝触媒の比表面積、および細孔容積は、硫酸マグネシウムの含有量の増加に応じて減少する傾向が認められた。硫酸マグネシウムの含有量が6質量%(実施例2)〜20質量%増加(実施例13)の間において、脱硝触媒の比表面積は、27m
2/g〜55m
2/gであり、細孔容積は、0.20
cm3/g〜0.30
cm3/gであった。
【0072】
図9は、焼成温度が与える脱硝触媒の比表面積、および細孔容積への影響について示す図である。脱硝触媒の比表面積は、焼成温度の上昇に応じて減少する傾向が認められた。また、脱硝触媒の細孔容積は、焼成温度が530℃までは温度上昇に応じて減少し、530℃よりも温度が高くなると、これに応じて増加する傾向が認められた。焼成温度が510℃〜550℃の間において、脱硝触媒の比表面積は、33m
2/g〜38m
2/gであり、細孔容積は、0.17
cm3/g〜0.24
cm3/gであった。