特許第6158077号(P6158077)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6158077ヘルペス感染症の予防措置及び治療措置のためのピロキシカム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158077
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】ヘルペス感染症の予防措置及び治療措置のためのピロキシカム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/5415 20060101AFI20170626BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   A61K31/5415
   A61P31/22
【請求項の数】5
【全頁数】4
(21)【出願番号】特願2013-503032(P2013-503032)
(86)(22)【出願日】2011年4月6日
(65)【公表番号】特表2013-523789(P2013-523789A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】EP2011001704
(87)【国際公開番号】WO2011124366
(87)【国際公開日】20111013
【審査請求日】2013年11月11日
【審判番号】不服2015-18601(P2015-18601/J1)
【審判請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】102010014290.5
(32)【優先日】2010年4月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512261366
【氏名又は名称】ハンス オットー マイアー ツー シュペルブリンク
【氏名又は名称原語表記】Hans Otto Meyer zu Spelbrink
(73)【特許権者】
【識別番号】512261377
【氏名又は名称】ヤン スロミアニー
【氏名又は名称原語表記】Jan Slomianny
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】ハンス オットー マイアー ツー シュペルブリンク
(72)【発明者】
【氏名】ヤン スロミアニー
【合議体】
【審判長】 内藤 伸一
【審判官】 山本 吾一
【審判官】 前田 佳与子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−269528(JP,A)
【文献】 荻野篤彦ら,フェルデンの帯状疱疹に対する治験,皮膚科紀要,1984年11月,79(4),315−319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/5415
CA,REGISTRY,MEDLINE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルペスウイルス科のファミリーからのウイルスによるウイルス感染症の予防措置及び治療措置のための薬剤において、該薬剤がキャリア物質中にピロキシカムを、殺ウイルス剤として0.1〜10質量%含有し、輸液又は注射のためであることを特徴とする殺ウイルス性薬剤。
【請求項2】
ピロキシカムの含分が1〜5質量%である、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
ウイルス感染症が、単純ヘルペスによる感染症である、請求項1または2記載の薬剤。
【請求項4】
単純ヘルペスが、口唇ヘルペスである、請求項3記載の薬剤。
【請求項5】
局所投与のための、請求項1から4までのいずれか1項記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染症、例えば、特に単純ヘルペスを含むヘルペス感染症の予防措置及び治療措置のための薬剤に関する。
【0002】
ヒト及び動物におけるウイルス感染症の治療は、ごく限られた数の作用物質しか利用することができず、このことはヘルペスウイルスのファミリーについても当てはまるために、常に極めて困難な課題であった。
【0003】
ヘルペスウイルス科のファミリーには、二本鎖DNAを有する多数のウイルスが含まれる。広く蔓延しているものは、HSV1型及びHSV2型の単純ヘルペスウイルス、並びに、ヘルペス水痘帯状疱疹ウイルスVZVである。いずれも、表層性炎症の形で疼痛性感染症を引き起こす。ヘルペスウイルスは長期にわたりヒトの体内に潜伏するため、疾患の発症は繰り返し生じ、深刻な症状が現れることさえある。
【0004】
単純ヘルペス感染症は、当初は口を冒し、かつ粘膜及び唇に水ぶくれ及び外傷の形で発現する。水痘帯状疱疹感染症は、小児期には主に水痘の形で発現し、成人では帯状疱疹の形で発現する。後者は、脊髄神経の範囲に、例えば腰、胸部の範囲に、さらには顔に、疼痛性発疹をもたらす。帯状疱疹感染症は発熱、食欲不振、四肢の痛みを伴い、かつ発疹の部位が痛む。
【0005】
ヘルペスウイルスに対して種々の薬剤が開発されてきたが、これらが主に効果的であるのは症状の緩和においてであり、一般に、疾患の経過に対しては限定的な影響しか有しない。多くの場合、該薬剤を使用しても疾患の持続期間がわずかに短縮されるに過ぎない。しばしば用いられる作用物質は、アシクロビルである。
【0006】
要するに、ウイルス感染症、特にヘルペス感染症にも効果的に対抗するのに好適な薬剤が求められている。
【0007】
刊行物EP1457202A2には、ヘルペス感染症の治療のためのいわゆる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用が記載されている。該出願では極めて多種のNSAIDsについて言及されているが、その有効性について記載されているのはこの群のうち2つの員、即ちジクロフェナク及びケトロラックのみであり、信頼に足るデータに基づく実質的な証明が示されているのはジクロフェナクのみである。該データによれば、局所的に投与されたジクロフェナクは該疾患の経過の緩和に好適であり、外傷の治癒には平均で5日間かかるものとみられる。このことは、通常の感染症の持続時間である10日以下の時間は短縮できたとはいえ、状況は患者にとって不満なものであったことを意味する。
【0008】
ここで意想外にも、NSAIDsの群に属する作用物質であるピロキシカムが、ウイルス感染症の予防措置及び治療措置に好適であることが見出された。ピロキシカムは種々のウイルス性疾患、例えばH11型インフルエンザウイルスによって引き起こされるインフルエンザの各症例に対してプラスの影響を示し、かつ、特にヘルペス感染症、即ち、HSV1型及びHSV2型のもの、特に口唇ヘルペスの予防又は迅速な治癒プロセスの提供に好適である。ピロキシカム(4−ヒドロキシ−2−メチル−N−ピリジン−2−イル−2H−1,2−ベンゾチアジン−3−カルボキサミド−1,1−ジオキシド)はCOX阻害薬であり、抗リウマチ薬として用いられている。
【0009】
従って本発明は、好適なキャリア物質中にピロキシカムを含有する上記種類の薬剤に関する。
【0010】
本発明によれば、該薬剤は有利にはピロキシカムを0.1〜10質量%、0.1〜5質量%の量で、特に有利には0.5〜5質量%の範囲の量で含有する。該薬剤は、局所的、経口的又は非経口的な投与が可能である。
【0011】
本発明による薬剤は、有利には、一般に口唇ヘルペスの用語で知られている、口の範囲での感染症の治療に用いられる。これは、HSV1型及びHSV2型の単純ヘルペスウイルスにより生じる感染症であり、該薬剤はヘルペス帯状疱疹VZVに対しても有効である。上記感染症はいずれも表層性の疼痛性発疹を引き起こす。
【0012】
一般に、該薬剤は、特にクリーム剤、軟膏剤又はチンキ剤の形で局所的に投与される。これらは通常はキャリア物質を含んでおり、これは診療での使用のために確立されたクリーム剤、軟膏剤、ゲル剤及びチンキ剤のための処方である。
【0013】
さらに、該薬剤は、錠剤、粉末剤、輸液又は注射の可能な液剤の形での投与も可能である。
【0014】
該薬剤は、患者に1〜5回、1日に1〜2回使用される。患者の大多数が、該薬剤の単回使用が好結果であったと述べている。
【0015】
しばしば単純ヘルペス感染症を患っている多くの患者が、典型的にヘルペス発疹の発生の原因となるストレス状況で該薬剤を投与することによって、そのような発疹の発症が阻止されたと報告している。
【実施例】
【0016】
試験報告1
作用物質含分0.5質量%を有する市販のピロキシカムゲル剤を使用して、本発明による薬剤を42名の被検者に対して試験した。結果は以下の通りである:
【0017】
42名の被験者のうち、26名の被験者は該薬剤を1回使用し、16名の被験者は該薬剤を5回以下使用した。
【0018】
42名の被験者のうち15名の被験者が、1日未満で回復の徴候を認め(これには、疾患の発症を予防できたことも含まれる)、21名の被験者が1〜3日間での回復を報告し、2名の被験者が4〜10日間での回復を報告した。該薬剤の忍容性に関しては、41名の被験者が良好であると報告し、1名の被験者がそれほど良好でないと報告した。1名の被験者は、該薬剤は役立たなかったと報告した。
【0019】
ピロキシカムの有効性は実際に意想外であった。もともとは抗リウマチ薬として開発され、化学的に正式には4−ヒドロキシ−2−メチル−N(2−ピリジニル)−2H−1,2−ベンゾチアジン−3−カルボキサミド−1,1−ジオキシドと称される作用物質が、さらには鎮痛薬として投与される。化学的な観点では、これは上記のNSAIDsであるジクロフェナク及びケトロラックとは完全に相違しているため、 −その化学構造に基づき− ヘルペスウイルス、特に単純ヘルペス/口唇ヘルペスに対する殺ウイルス性効果は予期し得ない。ジクロフェナク及びケトロラックとは対照的に、該薬剤は発疹の発症を防ぐのに好適である。
【0020】
試験報告2
スクリーニング試験において、作用物質含分0.4%を有するピロキシカム含有ゲル剤を、標準試験法を用いて、HSV1型のヘルペスウイルスに感染した培養物に対して試験した。最初にCD50値を求めたところ2.50であり、ウイルス力価は最初に7.00であった。1.5及び60分の滞留時間後にウイルス力価(log10 TCID50/ml)を求めたところ2.50未満であったが、これは99.99%を上回るウイルスカウントの低減に相当するものである。