(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
偏心型バタフライバルブは、一般的に、管状の流路を有する弁本体の内周に弁座となるシートリングが設けられており、流体は、シートリングを含む仮想平面と直交する方向に流れる。
【0003】
また、弁本体の内側には、バルブの全閉時に前記シートリングの内周面に当接する外周面を有する弁体が設けられている。弁体には、流路と直交する方向に軸孔が開設されており、当該軸孔には、前記中空部(流路)を貫通するように弁本体に設けられた弁軸が挿入されている。弁体は弁軸に固定されており、弁軸がその軸心を中心として回転されることにより弁体が回動されてバルブの開閉がなされる。
【0004】
ここで、シートリングにおける弁体との接触面となる外周面を「固定シール面」と称し、弁体における前記シートリングの前記外周面との接触面を「可動シール面」と称することとする。また、前記固定シール面の流路方向における中心を「シール面中心」と称することとする。
【0005】
偏心型バタフライバルブのタイプとして、単偏心型、二重偏心型、および三重偏心型がある。
単偏心型は、弁棒の軸心が流路の方向にシール面中心から離間しているバタフライバルブである(1次偏心)。また、固定シール面と可動シール面とは、円錐面の一部を成しており、当該円錐面の頂点が流路の中心線上に在るものである。
二重偏心型は、弁棒の軸心が、さらに流路の中心線から離間しているバタフライバルブである(2次偏心)。
三重偏心型は、二重偏心に加えて、さらに前記円錐面の中心軸を流路の中心線に対して傾けて(当該円錐面の頂点は流路の中心線から外れている)、固定シール面および可動シール面を形成したものである(3次偏心)。
【0006】
単偏心型および二重偏心型は、バルブの開閉時に弁体がシートリングの固定シール面を擦り押しつぶす(摺動する)。このため、シートリングは合成樹脂などの弾性を有するものに限られる。その結果、扱える流体の温度が限られる。
これに対し、三重偏心型は、バルブの開閉時に弁体の可動シール面とシートリングの固定シール面同士が摺動しないため、弁体のみならずシートリングを金属材料で形成することができる。このため、低温域(例えば、−196℃)から高温域(例えば、600℃)といった広範囲の流体に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る三重偏心型バタフライバルブ10(以下、単に「バタフライバルブ10」と言う。)について、図面を参照しながら説明する。なお、
図1、
図2、
図4、
図5、
図7において、各種ボルトの縦断面のハッチングは省略している。
【0020】
図1に示すように、バタフライバルブ10は、管状の流路12を有する弁本体14と、弁本体14に回転自在に設けられた弁棒16と、弁本体14の内周に設けられた弁座であるシートリング18と、弁棒16で回動自在に軸支されて弁本体14内側に収納された弁体20とを有する。弁本体14は、例えば、炭素鋼で形成されており、弁棒16は、例えば、ステンレス鋼で形成されている。シートリング18の材質等については、後述する。
【0021】
弁体20は、円盤状をした第1弁体部22と第1弁体部22が重ねられた第2弁体部24とを含む。第1弁体部22と第2弁体部24は、同種の材料、例えば、ステンレス鋼で形成されている。弁棒16は、第2弁体部24に開設された軸孔26に挿入されていて、弁棒16は、第2弁体部24において弁体20全体を軸支している。なお、第2弁体部24の軸孔26と弁棒16には、対応するキー溝(いずれも、不図示)が形成されており、両キー溝には、不図示のキーが嵌入されている。これにより、弁棒16のトルクが弁体20(第2弁体部24)に伝達されて、弁棒16により弁体20が回動されることとなる。
【0022】
図2に示すように、弁棒16は、流路12を貫通し、その上部と下部とがそれぞれ軸ブッシュ38,27を介して弁本体14に支持されている。なお、
図2において、弁棒16の縦断面のハッチングは省略している。
軸ブッシュ27は、フッ素樹脂等で形成され円筒状をしており、弁棒16の下部に外挿されている。
弁本体14の底部には、4本のボルト28(
図2では、1本のみが表れている)によって、底カバー30が取り付けられている。底カバー30と弁本体14との間には、リング状をしたガスケット31が挟み込まれており、これによって、流体が弁本体14の外部へ漏出するのが防止されている。
【0023】
底カバー30と弁棒16の下端との間には、円板部材32とリング部材34が設けられている。円板部材32は、フッ素樹脂や砲金等で形成されており、ボルト36で弁棒16の下端面に取り付けられている。リング部材34は、金属材料(例えば、ステンレス鋼)で形成されている。円板部材32とリング部材34とで、弁棒16に掛かるスラスト荷重を受けている。
【0024】
一方、弁棒16の上部には、下から順に、軸ブッシュ38、グランドパッキン40、パッキン押さえ42が外挿されている。パッキン押さえ42は、方形板状をしたグランドフランジ44によって、弁棒16の軸心方向、下向きに押圧されており、グランドパッキン40は、パッキン押さえ42によって締め付けられている。これにより、グランドパッキン40に弁棒16表面を押付ける力が発生し、グランドパッキン40が弁棒16に密着することにより、弁棒16伝いに弁本体14外部へ流体が漏出するのが防止されている。
【0025】
なお、弁本体14の上端には、2本の植込みボルト46(
図1)の一端側が螺入されている。植込みボルト46は、グランドフランジ44の対角近傍に開設された貫通孔(不図示)に挿入されており、グランドフランジ44から上方に突出した他端側には、ナット48(
図1)が螺合されている。そして、ナット48を締め付けることにより、グランドフランジ44が、パッキン押さえ42を下向きに押圧することとなる。
【0026】
上記のように弁本体14に取り付けられている弁棒16に軸支された第2弁体部24には、以下のように第1弁体部22やその他の部材が取り付けられている。第2弁体部24に対する第1弁体部22等の取付態様について、
図3、
図4、および
図5を参照しながら説明する。
【0027】
図3に示すように、第2弁体部24には、所定の複数位置に、ザグリ加工の施されたボルト挿通孔50(以下、単に「挿通孔50」と言う。)が厚み方向に開設されている。
一方、第1弁体部22には、第2弁体部24に重ねられた状態において、各挿通孔50に対応する位置にねじ穴52が形成されている。ねじ穴52の各々は、全て、第1弁体部22の厚み方向に貫通していない有底のねじ穴である。
【0028】
図4に示すように、第1弁体部22と第2弁体部24とは、締結部材である六角穴付きボルト54(以下、単に「ボルト54」と言う。)複数本によって、それらの厚み方向に締結される。本例において、各挿通孔50と対応するボルト54の大小関係はいずれも同様なので、一の挿通孔50とこれに対応するボルト54とについて、その大小関係を、
図5を参照しながら説明する。
【0029】
図5に示すように、挿通孔50の各々において、ボルト54のシャンク部(首下部)54Aが挿通される挿通孔50部分(以下、「シャンク挿通部50A」と言う。)の径D2は、シャンク部54Aの径D1よりも当然のことながら大きく設定されている。本例では、D2とD1の差(D2−D1)は、通常よりも大き目の2[mm]〜3[mm]の範囲で設定されている。D2とD1とに上記の差を設けていることにより、ボルト54の各々を対応するねじ穴52に螺入し、完全に締結する前において(仮止めの状態において)、第1弁体部22は、第2弁体部24に対し、任意の径方向に、D2とD1との差に応じた分、移動可能になっている。このように構成したことにより発揮される機能については後述する。
【0030】
また、
図3、
図4に示すように、第1弁体部22と第2弁体部24との間には、スペーサ部材56が差し挟まれて配されている。スペーサ部材56は、第1シム58と第2シム60とを含む。第1シム58は、円板状をしており第1弁体部22の中心領域に配されている。第2シム60は、環状をしていて、第1シム58を取り囲むように配されている。
【0031】
第2弁体部24の中央部には、第1シム58の厚みよりも浅い円形凹部62が形成されている。円形凹部62は第1シム58よりも僅かに大きく、第1シム58は、円形凹部62に嵌め込まれて、第2弁体部24、ひいては第1弁体部22の径方向における位置決めがなされる。また、第2弁体部24の外周に沿う環状をした段差部64が形成されている。段差部64に第2シム60が嵌め込まれて、第2弁体部24、ひいては第1弁体部22の径方向における位置決めがなされる。なお、第1シム58および第2シム60の役割については後述する。
【0032】
第1シム58および第2シム60を間に挟んで、第1弁体部22と第2弁体部24をボルト54で締結することにより、弁体20が組み立てられる。弁体20において、第1弁体部22の最外周面は、後述するように円錐面の一部を成し、当該最外周面がバタフライバルブ10の全閉時において、
図5に示すように、シートリング18の内周面18Aと接触する接触面となる。以下、シートリング18の内周面と接触する第1弁体部22の外周面を「可動シール面22A」と称することとする。また、可動シール面22Aと同様に円錐面の一部を成し、可動シール面22Aと接触するシートリング18の内周面を「固定シール面18A」と称することとする。
【0033】
次に、シートリング18等の弁本体14への取付構造について説明する。
図3に示すように、弁本体14に対し、環状をしたシートガスケット66、シートリング18、およびセットリング68がこの順で取り付けられる。
【0034】
図4、
図5に示すように、弁本体14の内周に、中心に向かって突出して形成された環状リブ14Aに対し、シートガスケット66、シートリング18、セットリング68がこの順で重ねられて取り付けられる。セットリング68には、その周方向に複数のボルト挿通孔70(
図3)が開設されており、弁本体14には、ボルト挿通孔70の各々に対応させてねじ穴14Bが形成されている。そして、ボルト挿通孔70に挿入した六角穴付きボルト72を弁本体14のねじ穴14Bに螺合することにより、セットリング68ひいてはシートリング18およびシートガスケット66が弁本体14に固定される。
シートガスケット66は、弁本体14の内壁(環状リブ14A)とシートリング18とで挟持されており、当該挟持部分において、全閉時に流体が上流側から下流側、並びに下流側から上流側へ漏れるのが防止されている。
【0035】
シートリング18は、薄い金属板(例えば、ステンレス鋼板)と膨張黒鉛をラミネートしたメタルシール材からなる。本例では、三層の金属板の間に膨張黒鉛をサンドイッチしてなるものである(すなわち、膨張黒鉛層は2層)。シートリング18の内周面、すなわち固定シール面18Aは、上述したように円錐面の一部からなる。
【0036】
なお、シートリング18は、ステンレス鋼からなる単板で構成しても構わない。
【0037】
バタフライバルブ10の全閉時において、第1弁体部22の可動シール面22Aとシートリング18の固定シール面18Aとが面接触することにより流体の流路が遮断される。
バタフライバルブ10は、
図2、
図4、および
図6に示す全閉状態から弁棒16を、
図4に示す矢印Bの向きに90度回転させることによって、
図1に示す全開状態となる。また、全開状態から、矢印Bとは反対向きに弁棒16を回転させることによって、全閉状態となる。弁棒16は、弁本体14の上端に取り付けられる不図示の動力ユニットによって、弁棒16上端部部分に形成された四角ボルト部16Aに回転動力が加えられて回転される。この動力ユニットは、レバー式、ギヤー式、シリンダ式、電動式などの公知のものが用いられる。
【0038】
三重偏心型バタフライバルブ10は、文字通り、三重偏心構造を有する。この三重偏心について、
図7を参照しながら説明する。なお、便宜上、
図7において切断面のハッチングは省略している。
図7において、符号Cで指し示すのは、弁本体14が形成する流路12の中心線である。中心線Cは、弁本体14の中心線でもある。なお、バタフライバルブ10は、流路12において流体が、いずれの向きに流れるように用いても構わないが、全閉時における流体の流れの遮断性の観点からは、矢印Fの向きに流れるように用いるのが好ましい。
【0039】
符号Sで指し示すのは、固定シール面18A(
図5)の流路方向(中心線Cの方向)における中心(シール面中心)である(以下、この中心を「シール面中心S」と言う。)。符号Rで指し示すのは、点Pを頂点とする円錐(厳密には、当該円錐の母線)であり、Qで示すのは当該円錐Rの軸心である。
【0040】
三重偏心は、(i)弁棒16の軸心Xが、シール面中心Sから流路12の方向(中心線Cの方向)に離間された一次偏心(E1)、(ii)弁棒16の軸心Xが、流路12の中心線C(弁本体14の中心線C)から、中心線Cと直交する方向に離間された二次偏心(E2)、および(iii)固定シール面18Aと可動シール面22A(
図5)の形状を規定する円錐Rの中心軸Qが中心線Cから傾けられた三次偏心(E3)の組み合わせからなるものである。
なお、
図7に示すように、円錐Rの頂点Pは、シール面中心Sに対し、弁棒16が偏心(E1)されている向きとは反対向きに離れたところに位置されている。
【0041】
三重偏心型バタフライバルブは、三重偏心構造を採用したことにより、[背景技術]欄で述べたような優れた性能が得られるのであるが、従来の三重偏心型バタフライバルブでは[発明が解決しようとする課題]欄で指摘したような課題を含んでいる。
そこで、本実施形態に係るバタフライバルブ10は、製造する際において、(A)弁棒16に支持された第2弁体部24に対し、第1弁体部22を任意の径方向に相対的に移動させて、全閉状態におけるシートリング18に対する第1弁体部22の位置決めが行えると共に、(B)全閉状態における第1弁体部2の弁棒16の軸心Xに対する距離を調整し得る構成としている。
【0042】
以下、上記(A)および上記(B)について説明する。
(A)第1弁体部22の第2弁体部24に対する径方向における位置決め
図5を参照して既述したように、第1弁体部22と第2弁体部24とを締結するボルト54の仮止めの状態において、第1弁体部22は、第2弁体部24に対し、任意の径方向に移動可能となっている。
【0043】
そこで、まず、
図4に示す状態に各部材が組み上がった状態(但し、ボルト54は仮止め状態)において、第2弁体部24が上側に、第1弁体部22が下側になり、かつ第1弁体部22の主面22Bが水平となる姿勢にバタフライバルブ10を保持する。
【0044】
そして、第1弁体部22を軽く揺すると、可動シール面22Aと固定シール面18Aとは、下方にすぼまった円錐面の一部であるため、第1弁体部22は、その可動シール面22Aが固定シール面18Aに案内されて、可動シール面22Aが固定シール面18Aと面接触する位置までに変位する。この状態で、すなわち、第1弁体部22が第2弁体部24に対して適性に位置決めされた状態で、全てのボルト54を締め付けることにより(本締めすることにより)、第1弁体部22と第2弁体部24とが厚み方向に締結される。
【0045】
以上の通り、弁棒16に取り付けられる弁体20を、弁棒16に軸支される第2弁体部24とシートリング18の固定シール面18Aに面接触する可動シール面22Aを有する円盤状をした第1弁体部22とに2分割すると共に、第1弁体部22と第2弁体部24のボルト54による締結前において(ボルト54の仮止め状態において)、第1弁体部22を第2弁体部24に対し、任意の径方向に相対的に移動自在に構成したことによって、全閉時に可動シール面22Aが固定シール面18Aに面接触するように、第1弁体部22の位置決めをすることが可能となっている。これにより、主として二次偏心方向における可動シール面22Aの固定シール面18Aに対する相対的な位置関係の調整が可能となる。
【0046】
(B)第1弁体部22の弁棒16の軸心Xに対する距離の調整
当該調整は、スペーサ部材56を構成する第1シム58および第2シム60の厚みにより行う。
図5に示すように、第1弁体部22には、その厚み方向に突出し、外周に沿う環状をした環状凸部74が形成されている。第2シム60は、環状凸部74と第2弁体部24の段差部64で挟持される。環状凸部74の高さH1と段差部64の高さH2とは等しく設定されている。
【0047】
ここで、第1シム58の厚みをT1、第2シム60の厚みをT2、第2弁体部24において、第1シム58がセットされる円形凹部62の深さをGとする。T1は、T1=T2+Gの関係となる大きさに設定されている。よって、本例では、実質的に、T2の大きさに応じて、第1弁体部22の弁棒16の軸心Xに対する距離が調整されることとなる。
【0048】
そして、第1シム58と第2シム60の各々は、厚みの異なるものが複数枚準備されている。例えば、標準厚みT2=1[mm]として、その前後に0.1[mm]間隔で厚みの異なるものが複数枚準備されている。なお、言うまでも無く、第1シム58の標準厚みT1は、T1=1[mm]+Gの大きさとなる。ここで、第1シム58と第2シム60の各々において、標準厚みよりも薄いものを「薄めのシム」、標準厚みよりも厚いものを「厚めのシム」と称することとする。
【0049】
まず、標準厚みの第1シム58と標準厚みの第2シム60をセットして、バタフライバルブ10を組み上げある。
【0050】
組み上がったバタフライバルブ10は、専用検査機にて性能確認試験を実施する。すなわち、バタフライバルブ10を実際に試験用配管に組み込んで、常温(5〜35℃)の流体(水または圧縮空気)を流す試験をする。その結果、弁体20を全閉位置に回動しても流体の流れが完全に止められていない場合には、固定シール面18Aと可動シール面22Aの間に隙間が生じているか、あるいは、隙間は無いものの両者間の接触圧不足が原因と考えられる。そこで、この場合、第1シム58と第2シム60を厚めのシムに取り替える。
【0051】
一方、流体の流れは完全に止められるものの、弁体20を全閉位置に回動するため、弁棒16に加えるトルクが過大となっている場合には、固定シール面18Aと可動シール面22Aの接触圧が高すぎるためと考えられる。そこで、この場合、第1シム58と第2シム60を薄めのシムに取り替える。
【0052】
そして、弁体20を全閉位置に回動したときに、流体の流れが完全に止まり、かつ、全閉位置に回動するために弁棒16に加えるトルク(以下、「全閉時トルク」と言う。)が適正な範囲に入っていれば、組立て完了となる。
【0053】
なお、1回の取替えで完了しない場合には、上記の作業を繰り返す。
【0054】
以上説明したように、実施形態に係るバタフライバルブ10によれば、第1弁体部22と第2弁体部24との間に第1シム58および第2シム60を挟む構造としているため、第1シム58と第2シム60の厚みを変更することにより、第2弁体部24を支持する弁棒16の軸心Xに対する第1弁体部22の距離を調整することができる。すなわち、第2弁体部24における軸孔26の開設位置に関する加工精度がそれほど高くなくても、主として一次偏心方向における可動シール面22Aの固定シール面18Aに対する相対的な位置関係の調整が可能となる。
【0055】
上記の例では、第1シム58と第2シム60の両方を用いたが、これに限らず、(a)第1シム58のみを用いることとしても、(b)第2シム6にみを用いることとしても構わない。
【0056】
(a)第1シム58のみを用いる例(すなわち、スペーサ部材56を第1シム58のみで構成する例)
こうすることにより、第1弁体部22の環状凸部74と第2弁体部24の段差部64との間に隙間が生じる。このため、全閉時において、第1弁体部22の可動シール面22Aがシートリング18の固定シール面18Aに押圧されると、第1弁体部22の周縁近傍が
図5に矢印Mで示す向きに弾性的に曲げられる。
【0057】
曲げられた第1弁体部22は、その復元力で、シートリング18を押し返すため、固定シール面18Aと可動シール面22Aとの接触面圧が大きくなり、シール性が向上することとなる。
【0058】
(b)第2シム60のみを用いる例(すなわち、スペーサ部材56を第2シム60のみで構成する例)
こうすることにより、第1弁体部22の中央部と第2弁体部24の中央部との間に隙間が生じる。このため、第1弁体部22と第2弁体部24をボルト54で締結すると、第2シム60を支点として第1弁体部22が第2弁体部24に引き寄せられ、
図4に示す断面において、第1弁体部22は、その中央部が弁棒16側に張り出した弓なりに弾性変形する。このため、全閉時には、
図5において、可動シール面22Aは、固定シール面18Aとの接触部位(接触面)において、上側程(第2弁体部24の存する側程)、強く当接することとなるため、すなわち、上記弾性変形させない場合と比較して、上側の接触圧が高くなるため、シール性が向上することとなる。
【0059】
また、スペーサ部材56を設けたことにより、バタフライバルブ10が用いられる管路に流通される流体の温度に対応させて、適した仕様とすることが可能となる。
【0060】
バタフライバルブ10を管路に組み込んで流体を流通させた場合(例えば、全開状態の場合)、弁体20は、その全体(全表面)が流体に接触するため、流体の温度の影響を大きく受けて、径方向に膨張あるいは収縮する。これに対し、弁本体14は、その内周は流体と接触するものの、外周は通常は、常温の外気と接触しているため、弁体20ほどには、流体の温度の影響を受けない。
【0061】
したがって、高温(例えば、600℃)の流体が流される場合、弁本体14と比較して弁体20の方の膨張が大きいため、弁体20が全閉位置に至る手前でそれ以上、回動しなくなるといった事態が発生する。
【0062】
一方、低温(例えば、−196℃)の流体が流される場合、弁本体14と比較して弁体20の方が良く収縮するため、弁体20を全閉位置まで回動させても、流体の流れを完全に止められないといった事態が発生する。
【0063】
そこで、上記専用検査機を用いた出荷前試験において、バタフライバルブ10が適用される流体の温度に応じて、スペーサ部材56の厚みを調整するのである。第1弁体部22の可動シール面22Aは、
図5において示される断面において、その径方向と交差する斜面になっている。よって、スペーサ部材56の厚みを変更すると、当該斜面(可動シール面22A)は、
図5において、上方または下方に変位することとなり、シール面中心Sにおける第1弁体部22(可動シール面22A)の径を変更することとなる。
【0064】
上記を踏まえ、高温の流体用には、スペーサ部材56を薄目のものとする。一方、低温の流体用には、スペーサ部材56を厚目のものとする。
【0065】
なお、どの程度の薄目とするかあるいはどの程度の厚目とするかは、常温、高温、低温の流体を実際に流して行う実験で予め求められる。
【0066】
(i)高温の流体の場合に、全閉時に流体の流れが完全に遮断され、全閉時トルクが適正範囲になるスペーサ部材56の厚み(以下、「高温用適正厚み」と称する。)と(ii)低温の流体の場合に、全閉時に流体の流れが完全に遮断され、全閉時トルクが適正範囲になるスペーサ部材56の厚み(以下、「低温用適正厚み」と称する。)と、を実験により求める。
【0067】
そして、(iii)高温用適正厚みのスペーサ部材56を用い、常温の流体を流した場合において、全閉時のおける流体の漏れ(バルブを通過する流体の量)および全閉に要するトルクを測定し、測定値各々と高温用適正厚みとの相関関係を求め、同じく(iv)低温用適正厚みのスペーサ部材56を用い、常温の流体を流した場合において、全閉時のおける流体の漏れ(バルブを通過する流体の量)および全閉に要するトルクを測定し、測定値各々と低温用適正厚みとの相関関係を求めておく。なお、言うまでもなく、常温域以外の高温域および低温域のそれぞれでは、複数の異なった温度においてサンプリングを行う。
【0068】
そして、常温の流体による出荷前試験において、全閉時のおける流体の漏れ(バルブを通過する流体の量)および全閉に要するトルクを測定し、前記相関関係を参照して、高温用または低温用として適切なスペーサ部材56の厚みを決定するのである。
【0069】
以上、本発明に係る三重偏心型バタフライバルブを実施形態に基いて説明してきたが、本発明は、上記した形態に限らないことは勿論であり、例えば、以下の形態とすることもできる。
【0070】
すなわち、上記の例では、第1シム58と第2シム60とを単板で構成したが、これに限らず、それぞれ、複数の薄板を重ねて構成することとしても構わない。すなわち、それぞれ、複数の薄板の枚数によって全体の厚みを調整することとしても構わない。この場合に、複数の薄板は、その全部が同じ厚みであっても、その一部が異なった厚みであっても、あるいは、その全部が異なった厚みであっても構わない。
【0071】
以上説明したように、本実施形態に係る三重偏心型バタフライバルブ10は、主として、一次偏心および二次偏心に関する量を調整することが可能な構成、言わば第4の調整機構を有するものである。