(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158142
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】旋回可能な上ユニットを備えた転写フィルム送り装置
(51)【国際特許分類】
B29C 45/17 20060101AFI20170626BHJP
B29C 45/16 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
B29C45/17
B29C45/16
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-146379(P2014-146379)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-22604(P2016-22604A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】日本写真印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】桁谷 拓人
(72)【発明者】
【氏名】畑山 武俊
【審査官】
内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−171117(JP,A)
【文献】
特開平04−185410(JP,A)
【文献】
特開2006−272883(JP,A)
【文献】
特開平04−158015(JP,A)
【文献】
特開2001−300974(JP,A)
【文献】
特開2004−098514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に絵付け用の箔が印刷されロール状に巻かれているフィルムを所定の長さ送り出し、該送り出されたフィルムを固定側金型と可動側金型のパーティング面間に挟んで型締めし、前記パーティング面間に構成されるキャビティに溶融樹脂を射出して、表面に前記箔が転写された成形品を得る転写成形を実施する射出成形機の、転写フイルム送り装置であつて、
前記転写フィルム送り装置は、前記射出成形機の可動盤の上部に設けられている上ユニットと、前記可動盤の下部に設けられている下ユニットとからなり、
前記上ユニットは、ロール状に巻かれたフィルムを送り出す送り出しロールと、フィルムをクランプする上側クランプとから構成され、
前記下ユニットは、フィルムをクランプする下側クランプと使用済みのフィルムを巻き取る巻き取りロールとから構成され、
前記上ユニットは、転写成形を実施する第1の回動位置と、該第1の回動位置に対して水平方向に旋回する第2の回動位置とを採ることができるようになっており、前記第2の回動位置を採ると、前記送り出しロールが前記射出成形機の側方に露出し、かつ前記射出成形機を上面から見たときに前記送り出しロールが前記可動盤の側部より内側に配置するようになっていることを特徴とする転写フィルム送り装置。
【請求項2】
請求項1に記載の転写フィルム送り装置において、前記上ユニットは、手動で第1、2の回動位置に旋回されるようになっていることを特徴とする転写フィルム送り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の面に絵付け用の箔が印刷されロール状に巻かれているフィルムを所定の長さ送り、該送られたフィルムを挟んで一対の金型を型締めして溶融樹脂を射出し、表面に前記箔が転写された成形品を得る、いわゆる転写成形を実施する射出成形機において、ロール状のフィルムを送り出す上ユニットに特徴がある転写フィルム送り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、文献を挙げるまでもなく周知であり、加熱シリンダと該加熱シリンダ内で回転方向と軸方向とに駆動可能に設けられているスクリュとからなる射出装置、可動側金型と固定側金型、これらの金型を型締めする型締装置等から概略構成されている。従って、射出材料である樹脂を射出装置において溶融し、型締装置によって型締めされた金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出し、冷却固化を待って金型を型開きすると成形品が得られる。また、射出成形によって成形品を得るとき成形と同時に絵付けをする、いわゆる転写成形も周知である。転写成形においては、その表面に絵付け用の箔が印刷されていると共にロール状に巻かれたフィルムを使用する。このフィルムを箔が印刷された面が固定側金型に向くようにして、可動側金型のパーティング面に沿って所定の長さだけ送る。送られたフィルムを挟むようにして金型を型締し、溶融樹脂をキャビティ内に射出すると成形品が成形される。このときフィルムは溶融樹脂によって可動側金型のキャビティに押し付けられ、成形品の表面の樹脂は箔と一体化する。冷却固化を待って型開きすると、成形品の表面に箔が転写された状態で、フィルムと成形品が分離する。すなわち絵付けされた成形品を得ることができる。
【0003】
上記したような転写成形を実施するには、いわゆる転写フィルム送り装置を射出成形機に設ける必要がある。転写フィルム送り装置も特許文献1において提案されているように従来周知であり、型締装置の可動盤に設けられている。転写フィルム送り装置は、可動盤の上部に固定されている上ユニットと、可動盤の下部に固定されている下ユニットと、これらを制御するコントローラとから概略構成され、上ユニットはフィルムを送り出すフィルム送り出しユニットとフィルムの水平位置を微調整する上横移動装置とから、下ユニットはフィルムを巻き取るフィルム巻き取りユニットとフィルムの水平位置を微調整する下横移動装置とから、それぞれ構成されている。フィルム送り出しユニットは、前述のロール状に巻かれているフィルムがセットされるフィルムロールと、送り出されるフィルムを所定のロールと摩擦部材とによって挟んで任意の位置で拘束できる上側クランプとから構成されている。フィルム巻き取りユニットは、所定のロールと摩擦部材とによってフィルムを挟んで拘束できる下側クランプと、フィルムを強制的に送る駆動ロールと、フィルムを巻き取るフィルム巻き取りロールとから構成されている。フィルムロールから供給されるフィルムは、上側クランプに掛け回されて下方に延び、可動側金型のパーティング面に沿ってさらに下方に延び、そして下側クランプと駆動ロールとに掛け回され、フィルム巻き取りロールに巻かれている。フィルムには等間隔に絵付け用の箔が印刷されており、同じ間隔でフィルムの縁部にマーキングが施されている。金型の上下には、このマーキングを検出する上センサと下センサとが設けられ、箔の位置を正確に検出できるようになっている。そして、この検出された信号に基づいて上横移動装置と下横移動装置が駆動されるようになっている。すなわち位置決めされるようになっている。このような転写フィルム送り装置が設けられている射出成形機においては次のように成形する。型締装置を型開きする。上側クランプと下側クランプを解除し、フィルムの拘束を解く。駆動ロールとフィルム巻き取りロールを駆動するとフィルムロールからフィルムが引き出され、フィルムが送られる。絵付け用の箔が可動側金型のキャビティに位置したら、駆動ロールとフィルム巻き取りロールを停止し、上・下横移動装置が同時に駆動して水平方向の位置決めをし、上側クランプと下側クランプとを駆動してフィルムがずれないように拘束する。型締して射出する。冷却固化を待って型開きすると箔が転写された成形品、換言すると絵付けされた成形品を得ることができる。同様にしてフィルムを送り成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特昭開61−297115号公報
【特許文献2】特開2012−17117号公報
【0005】
特許文献2は、本出願人が提案しているフィルム送り装置に関する文献であるが、この文献には第1、2の回動位置に旋回できるようになっている下ユニットが記載されている。フィルム送り装置の下ユニットは、第1の回動位置において、上ユニットから供給されるフィルムを巻き取ることができるようになっている。つまり転写成形を実施するときには下ユニットは第1の回動位置にして実施する。ところで、下ユニットは型締装置の可動盤の下方に設けられており、巻き取りロールに巻き取られたフィルムが満巻状態になったら、これを取り外して廃棄しなければならない。型締装置の下方に作業員が入るのは危険であるが、特許文献2に記載のフィルム送り装置は、下ユニットを第2の回動位置に旋回させると、下ユニットの巻き取りロールが、射出成形機の側方に位置することになる。そうすると、作業員は型締装置の側方で安全に満巻状態のフィルムを取り外すことができる。また、フィルムの取り外し作業は、型締装置の側方で実施できるので作業効率も高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような、従来の転写フィルム送り装置によっても、転写成形を実施することはできる。また特許文献2に記載の転写フィルム送り装置によれば、下ユニットにおいて満巻状態になった使用済みフィルムを、作業員が安全に取り外して廃棄することができる。さらにはその作業効率も高い。しかしながら、他の解決すべき問題も見受けられる。具体的には、フィルム交換の作業についてである。転写フィルム送り装置においては、前記したように上ユニットにフィルム送り出しユニットが設けられているが、この上ユニットにおいてフィルムを交換する作業に関して問題が見受けられる。フィルムの交換作業について説明すると、上ユニットにおいてフィルムが無くなったら、残されたフィルムの芯を取り外して、新しいフィルムを上ユニットにセットする。次いでセットしたフィルムから所定の長さだけフィルムを引き出して複数本のガイドロールに掛け回し、上側クランプに通した後に、可動側金型のパーティング面に沿って下方に垂らす。下ユニットにおいて、フィルムの端部を下側クランプに通し、その後巻き取りロールにフィルムを所定長さだけ巻き取るようにする。ところで、射出成形機は機械高さが高く、型締装置の可動盤も高い。従って可動盤の上部に設けられている転写フィルム送り装置の上ユニットも高い位置に配置されている。このような上ユニットにおいて前記のようなフィルムの交換作業を実施するには、作業員は可動盤の側方に設けられている作業ステージと呼ばれる台に乗り、高所で作業を実施する必要がある。そして上ユニットは可動盤の中央に設けられているので、作業員は可動盤の側方から手を横方向に伸ばした状態で重いフィルムを支持し、フィルム交換をしなければならない。そうすると作業が大変であるだけでなく、作業効率も悪い。フィルムの交換作業が長時間におよぶ可能性が高く、停止中の射出成形機において溶融樹脂が変質することもある。そうすると成形が再開されたときに不良品が成形されてしまう。このように上ユニットにおける作業性に問題があり、成形品の品質にも影響を与えてしまう。
【0007】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、転写フィルム送り装置を提供することを目的としており、具体的には上ユニットからフィルムがなくなったとき、新しいフィルムをセットするフィルム交換作業を安全に、かつ効率よく容易に実施することができる転写フィルム送り装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、転写成形を実施する射出成形機に設けられている転写フィルム送り装置として構成する。この転写フィルム送り装置は、従来の装置と同様に可動盤の上部に設けられてフィルムを送り出す上ユニットと、可動盤の下部に設けられて使用済みフィルムを巻き取る下ユニットとから構成し、上ユニットはロール状のフィルムを送り出す送り出しロールと、フィルムをクランプする上側クランプとから構成する。本発明の上ユニットは、転写成形を実施する第1の回動位置と、フィルムを交換する第2の回動位置の2位置に旋回できるようにする。第2の回動位置においては、送り出しロールが射出成形機の側方に露出
し、射出成形機を上面から見たときに送り出しロールが可動盤の側部より内側に配置する。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、一方の面に絵付け用の箔が印刷されロール状に巻かれているフィルムを所定の長さ送り出し、該送り出されたフィルムを固定側金型と可動側金型のパーティング面間に挟んで型締めし、前記パーティング面間に構成されるキャビティに溶融樹脂を射出して、表面に前記箔が転写された成形品を得る転写成形を実施する射出成形機の、転写フイルム送り装置であつて、前記転写フィルム送り装置は、前記射出成形機の可動盤の上部に設けられている上ユニットと、前記可動盤の下部に設けられている下ユニットとからなり、前記上ユニットは、ロール状に巻かれたフィルムを送り出す送り出しロールと、フィルムをクランプする上側クランプとから構成され、前記下ユニットは、フィルムをクランプする下側クランプと使用済みのフィルムを巻き取る巻き取りロールとから構成され、前記上ユニットは、転写成形を実施する第1の回動位置と、該第1の回動位置に対して水平方向に旋回する第2の回動位置とを採ることができるようになっており、前記第2の回動位置を採ると、前記送り出しロールが前記射出成形機の側方に露出し
、かつ前記射出成形機を上面から見たときに前記送り出しロールが前記可動盤の側部より内側に配置するようになっていることを特徴とする転写フィルム送り装置として構成する。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の転写フィルム送り装置において、前記上ユニットは、手動で第1、2の回動位置に旋回されるようになっていることを特徴とする転写フィルム送り装置として構成する。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によると、一方の面に絵付け用の箔が印刷されロール状に巻かれているフィルムを所定の長さ送り出し、該送り出されたフィルムを固定側金型と可動側金型のパーティング面間に挟んで型締めし、パーティング面間に構成されるキャビティに溶融樹脂を射出して、表面に前記箔が転写された成形品を得る転写成形を実施する射出成形機の、転写フイルム送り装置として構成されている。そして転写フィルム送り装置は、射出成形機の可動盤の上部に設けられている上ユニットと、可動盤の下部に設けられている下ユニットとからなり、上ユニットは、ロール状に巻かれたフィルムを送り出す送り出しロールと、フィルムをクランプする上側クランプとから構成され、下ユニットは、フィルムをクランプする下側クランプと使用済みのフィルムを巻き取る巻き取りロールとから構成されている。本発明によると、上ユニットは、転写成形を実施する第1の回動位置と、該第1の回動位置に対して水平方向に旋回する第2の回動位置とを採ることができるようになっており、第2の回動位置を採ると、送り出しロールが射出成形機の側方に露出し
、かつ射出成形機を上面から見たときに送り出しロールが可動盤の側部より内側に配置するようになっている。従って、作業者は容易に使用済みの芯を取りだして新しいロール状のフィルムを送り出しロールにセットすることができる。つまり、新しい満巻状態のロール状のフィルムは重量があるが、このように送り出しロールが射出成形機の側方に露出するので、この作業は安全かつ効率的に実施できる。
このとき上ユニットは旋回しても可動盤より側方には飛び出さないので、さらに作業者の安全が確保される効果も得られる。このようにして新しいロール状のフィルムをセットしたら、送り出しロールからフィルムを引き出して上側クランプに通す。その後上ユニットを第1の回動位置に旋回させ、さらにフィルムを引き出し、引き出したフィルムを下側クランプに通すと共に巻き取りロールにフィルムを取付けることになる。このように上ユニットを第1の回動位置に旋回させた後は、従来と同様に可動盤の側方の作業台に立っている作業者が手を伸ばして作業を実施することになる。しかしながらこれらは腕力を要することはなく、比較的容易かつ安全に作業は実施できる。本発明は、腕力を要し、危険を伴う作業である、満巻状態のロール状のフィルムを取付ける作業を、安全にかつ効率よく実施できるので、全体の作業の安全性が高く効率が向上する。また他の発明によると、上ユニットは、手動で第1、2の回動位置に旋回されるようになっている。つまり安全を確認しながら旋回させることができるので、安全性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る転写フィルム送り装置を備えた射出成形機において、転写成形を実施する通常の運転状態を模式的に示す図で、その(ア)(イ)は射出成形機の一部と転写フィルム送り装置を示す正面図と側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る転写フィルム送り装置の上ユニットを旋回させる旋回機構を示す上面図であり、その(ア)(イ)(ウ)は、上ユニットがそれぞれ第1の回動位置、中間位置、第2の回動位置に駆動された状態を示す、旋回機構の上面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る転写フィルム送り装置を備えた射出成形機において、保守作業を実施している状態を模式的に示す図で、その(ア)(イ)は射出成形機の一部と転写フィルム送り装置を示す正面図と側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態に係る射出成形機1も、所定の枠体からなるベッド2の上に、従来周知の射出成形機と同様に構成されている。すなわち、加熱シリンダとスクリュとからなる射出装置、可動側金型3と固定側金型4、これらの金型3、4を型締めする型締装置6、等から概略構成されている。
図1の(ア)、(イ)には、型締装置6の一部が示されているが、型締装置6も従来周知のように、ベッド2に固定されている固定盤8、可動盤9、型締駆動部、可動盤9をガイドしている4本のタイバー11、11、…、等から構成されている。そして固定盤8には固定側金型4が、可動盤9には可動側金型3がそれぞれ取り付けられている。従って、型締駆動部を駆動すると金型3、4は型開閉される。
【0013】
本実施の形態に係る射出成形機1の可動盤9には、本実施の形態に係る転写フィルム送り装置12が設けられている。この転写フィルム送り装置12によって、表面に絵付け用の箔が印刷されたフィルムが送り出され、いわゆる転写成形ができるようになっている。転写フィルム送り装置12は、可動盤9の上部に設けられている上ユニットU1と、下部に設けられている下ユニットU2とから構成されている。上ユニットU1は、箔が印刷されロール状に巻かれたフィルムを所定の長さずつ送り出すようになっているフィルム送り出しユニット13、上ユニットU1の水平位置を調整する上横移動装置10、上ユニットU1を旋回させる旋回機構14、等から構成されている。旋回機構14は本発明に特有の機構であり後で詳しく説明する。下ユニットU2は、転写成形後の使用済みのフィルムを巻き取るフィルム巻き取りユニット15、下ユニットU2の水平位置を調整する下横移動装置16、等から構成されている。フィルムにはその縁部に所定の間隔でマークが施されていると共に縁部と平行にラインが引かれている。前記した固定側金型4には、マークを検出する縦送り位置決めセンサS3と、ラインを検出する上横位置決めセンサS1と下横位置決めセンサS2とが設けられている。従って上横位置決めセンサS1からの信号に基づいて上横移動装置10を、下横位置決めセンサS2からの信号に基づいて下横移動装置16を、それぞれ駆動するとフィルムが正確に位置決めされる。またフィルムの送り出し長さは縦送り位置決めセンサS3によって検出されるようになっている。
【0014】
上ユニットU1のフィルム送り出しユニット13は、筐体23と、この筐体23に設けられている各種ロール、装置とから構成されている。すなわち筐体23内には、ロール状のフィルムがセットされる送り出しロール18、送り出しロール18から引き出されたフィルムをガイドするガイドロール19、19、所定のロールと摩擦部材とからフィルムをロックしたりロックを解除する上側クランプ20、送り出しロール18にセットされているフィルムの残量を検出する第1のセンサ21、フィルムの有無を検出する第2のセンサ22、等が設けられている。本実施の形態において上ユニットU1の筐体23は、その背面部、つまり送り出しロール18側が開閉可能な背面扉24になっており、後で説明するように背面扉24を開いてロール状のフィルムを送り出しロール18にセットできるようになっている。
【0015】
下ユニットU2のフィルム巻き取りユニット15も、従来の転写フィルム送り装置と同様に、筐体26と、この筐体26内に設けられている各種ロール、装置とから構成されている。すなわち筐体26内には、使用済みのフィルムをロックしたりロックを解除する下側クランプ28、下側クランプ28から送られるフィルムをガイドするガイドロール29、29、その下流でフィルムを強制的に送る駆動ロール30、使用済みフィルムを巻き取る巻き取りロール31、等が設けられている。また巻き取りロール31の近傍には、使用済みフィルムが満巻状態になっているか否かを検出する第3のセンサ54が設けられている。このようなフィルム巻き取りユニット15も前記した下横移動装置16と共に下ユニットU2として可動盤9の下部に設けられている。
【0016】
本実施の形態において特徴的な機構である、旋回機構14について説明する。旋回機構14は、可動盤9に動かないよう固定されている固定部材と、旋回したりスライドする可動部材とからなる。可動盤9を上面から見た様子が
図2の(ア)に示されているが、旋回機構14の固定部材は、可動盤9に固定されているプレート32と、このプレート32の上に互いに90度になるように固着されている長方形の板状の第1、2の固定板33、34とから構成されている。旋回機構14の可動部材は、上ユニットU1のフィルム送り出しユニット13がその上に設けられている旋回板36、作業者が操作する旋回レバー38、旋回板36と旋回レバー38とを連結するリンク機構39等から構成されている。
図2の(ア)にはフィルム送り出しユニット13は二点鎖線で示されている。なお、正確には旋回板36には上横移動装置10が固定され、フィルム送り出しユニット13は上横移動装置10の上に設けられているが、便宜上旋回板36にフィルム送り出しユニット13が設けられているとして簡単に説明している。このような旋回板36は、第1、2の固定板33、34の接合部分近傍に設けられている鉛直の旋回軸37によって回動可能に軸支されている。そして第1、2の固定板33、34は旋回板36の回動範囲を制限する部材になっており、旋回板36は第1、2の固定板33、34の内側で90度だけ旋回できるようになっている。旋回レバー38は、ハンドル部41と、このハンドル部41に対して略90度の角度で横向きに設けられているアーム部42とからなり、ハンドル部41とアーム部42の接合部分において、プレート32に設けられている鉛直のレバー軸43によって回動可能に軸支されている。リンク機構39は、短リンク45と、直動ブロック46と、長リンク47とからなり、旋回板36の所定の部分と直動ブロック46とが短リンク45によって接続され、そして直動ブロック46と旋回レバー38のアーム部42の先端部とが長リンク47によって接続されている。従って、ハンドル部41を持って左右に旋回レバー38を回動させると旋回板36が旋回し、それによって上ユニットU1のフィルム送り出しユニット13が水平方向に90度で旋回することになる。
図2の(ア)〜(ウ)には旋回レバー38の回動位置によってフィルム送り出しユニット13の回動位置が変化する様子が示されており、(ア)は転写成形を実施する第1の回動位置、(ウ)はフィルム交換を実施する第2の回動位置を示している。プレート32には、操作板48が固定されており、操作板48には第1、2の位置決め孔49、50が空けられている。旋回レバー38のハンドル部41にもピン挿入孔51が空けられており、ピン挿入孔51が第1、2の位置決め孔49、50のいずれかに整合した状態で位置決めピン52を挿入すると、旋回レバー38が動かないように拘束できるようになっている。なお、図には示されていないが、上ユニットU1が第1の回動位置に位置しているときには、所定の固定ボルトによって上ユニットU1を完全にプレート32に対して固定できるようになっている。つまり固定ボルトで固定すると、上ユニットU1は実質的に完全に可動盤9に固定される。
【0017】
図には示されていないが、本実施の形態に係る転写フィルム送り装置12にも、各ユニットを駆動するコントローラが設けられている。このコントローラは、射出成形機1のコントローラと接続されており、転写フィルム送り装置12は射出成形機1と同期して駆動されるようになっている。また、同様に図には示されていないが、上ユニットU1の旋回機構14には、上ユニットU1の回動位置を検出するリミッターが設けられており、第1、2の回動位置にあるときにこれが検出されるようになっている。また上ユニットU1が第1、2の回動位置のいずれでもない、中間の回動位置にあるときには、射出成形機1の型締装置6が駆動できないようにインターロックが採られている。
【0018】
本実施の形態に係る転写フィルム送り装置12及び射出成形機1の作用を説明する。従来と同様に一方の面に絵付け用の箔が印刷されロール状に巻かれているフィルムを使用する。このロール状のフィルムを転写フィルム送り装置12にセットするには以下のようにする。まず、転写フィルム送り装置12のコントローラを操作して転写フィルム送り装置12を自動モードから手動モードに切り換えて、転写フィルム送り装置12を止める。射出成形機1のコントローラを操作して、射出成形機1を手動モードにし、型締装置6を駆動して所定の位置まで型開きし、エジェクターを前進させる。このとき、転写フィルム送り装置12の上ユニットU1、すなわちフィルム送り出しユニット13は、
図1の(ア)(イ)および
図2の(ア)に示されているように、第1の回動位置になっている。作業者は、図に示されていない作業ステージの上に立って以下の作業を行う。作業ステージは作業用の台であり型締装置6の側部近傍に設けられている。前記したように上ユニットU1は、第1の回動位置から動かないように所定の固定ボルトによって固定されているので、この固定ボルトを取り外す。次いで、旋回機構14を操作する。具体的には、位置決めピン52を抜いて旋回レバー38の拘束を解除し、旋回レバー38を操作する。そうすると
図2の(イ)に示されている状態を経由し、
図2の(ウ)に示されている状態になる。つまりフィルム送り出しユニット13は水平方向に90度旋回して、第2の回動位置に移動する。位置決めピン52を旋回レバー38のピン挿入孔51に挿入して、旋回レバー38が動かないように拘束する。フィルム送り出しユニット13が第2の回動位置にあるとき、筐体23の背面扉24は射出成形機1の側方に寄っている。つまり可動盤9の側方に寄っている。背面扉24を開く。そうすると、
図3の(ア)(イ)に示されているように、フィルム送り出しユニット13の送り出しロール18が、射出成形機の側方つまり可動盤9の側方に露出する。第1のセンサ21を持ち上げて、新しいロール状のフィルム56を送り出しロール18にセットする。ところで第2の回動位置においてフィルム送り出しユニット13は、
図2の(ウ)に示されているように、射出成形機1を上面から見て、可動盤9の側部より外方に飛び出る状態にはならずに可動盤9の側部より内側に位置している。つまり上ユニットU1の旋回中においても、上ユニットU1の各部材は可動盤9の側部より外方には飛び出ない。従って作業者は安全に上ユニットU1を旋回させることができる。また新しいロール状のフィルム56は重量が大きく取り扱いが困難であるが、送り出しロール18も可動盤9の側部から外部に飛び出ていないので、作業者は比較的容易に送り出しロール18にセットすることができる。
【0019】
この第2の回動位置の状態で、送り出しロール18にセットされているロール状のフィルム56からフィルム56’を引き出して、ガイドロール19、19に掛け回し、上側クランプ20に通して、所定の長さだけ垂らす。この状態が
図3の(ア)に示されている。可動盤9の側方の作業ステージに立っている作業者にとっては、ガイドロール19、19や上側クランプ20は送り出しロール18より奥に配置されているが、フィルム56’を引き出したり上側クランプ20に通す作業は腕力を要さないので、比較的容易に実施することができる。つまり第2の回動位置は、比較的容易なこれらの作業をさらに容易にすることを目的とする回動位置ではなく、重量の大きいロール状のフィルム56を安全かつ容易にセットできるようにすることを目的とした回動位置になっており、射出成形機1の側方に露出するのは、上側クランプ20等ではなく送り出しロール18になるように考慮されている。作業者が実施する複数の作業を詳しく分析して決定された、最適な回動位置であると言える。
【0020】
図3の(ア)に示されている状態、すなわち上ユニットU1が第2の回動位置にあり、かつフィルム56’が所定長さだけ上側クランプ20から垂らされた状態から、第1の回動位置に移動させる。すなわち、
図2の(ウ)に示されている状態において、位置決めピン52を抜いて旋回レバー38を操作し、
図2の(ア)に示されているようにフィルム送り出しユニット13を第1の回動位置に旋回させ、位置決めピン52をピン挿入孔51に挿入して旋回レバー38を拘束する。次いで、図に示されていない固定ボルトによって上ユニットU1が動かないように固定する。以下、作業者は作業ステージから降りて作業を実施する。フィルム56’を可動側金型3に沿って引き出す。引き出したフィルム56’を下側クランプ28に通し、ガイドロール29、駆動ロール30に掛け回し、巻き取りロール31に所定の巻数だけ巻き付ける。この状態が
図1の(ア)(イ)に示されている。フィルムの取り付けが完了する。転写フィルム送り装置12のコントローラを操作して転写フィルム送り装置12を自動モードに切り換える。射出成形機1のコントローラにおいて自動モードに切り換えて運転を開始すると、従来の転写フィルム送り装置と同様に、本実施の形態に係る転写フィルム送り装置12も射出成形機1に連動して運転される。すなわち、射出成形サイクルに連動して、フィルム56’が所定の長さずつ送られ、転写成形に使用され、使用後のフィルム56’が巻き取りロール31に巻き取られる。
【0021】
送り出しロール18にセットされているフィルム56の残量が無くなったら、第1のセンサ21によって検出され、転写フィルム送り装置12のコントローラは、フィルム56の交換を促す警告を出す。さらに転写成形が継続されると送り出しロール18からフィルム56がなくなって、フィルム56’の終端が縦送り位置決めセンサS3にて検出される。あるいはフィルム56’がなくなったことが他のセンサによって検出される。そうすると転写フィルム送り装置12と射出成形機1は運転を停止する。下ユニットU2から巻き取られた古いフィルムを取り外し、既に説明しているロール状のフィルム56をセットする方法と同様の操作をすればフィルム56を交換することができる。なお、下ユニットU2に古いフィルムを残しておいてフィルム56を交換してもよい。つまり新しいフィルム56を上ユニットU1にセットして、フィルム56’を所定長さだけ上側クランプ28から垂らして、上ユニットU1を第1の回動位置に移動させる。上側クランプ28から所定長さだけフィルム56’を引き出し、古いフィルムの終端部に粘着テープ等でつなぐ。このようにすると新しいフィルム56’を下ユニットU2にセットしたのと実質的に同等の作業をしたことになる。フィルム56の交換が完了する。
【0022】
なお、下ユニットU2の巻き取りロール31に巻かれている使用済みのフィルム56’が満巻状態になったら、第3のセンサ54がこれを検出する。そうすると転写フィルム送り装置12のコントローラはフィルム56’の撤去を促す警告を表示して、転写フィルム送り装置12は停止する。その結果、射出成形機1も停止した状態で維持される。フィルム56’を所定の位置で切断して満巻状態の使用済みフィルム56’を巻き取りロール31から取り外す。その後フィルム56’を巻き取りロール31に所定巻き数だけ巻く。
【符号の説明】
【0023】
1 射出成形機 2 ベッド
3 可動側金型 4 固定側金型
6 型締め装置 8 固定盤
9 可動盤 10 上横移動装置
11 タイバー 12 転写フィルム送り装置
13 フィルム送り出しユニット 14 旋回機構
15 フィルム巻き取りユニット 16 下横移動装置
18 送り出しロール 20 上側クランプ
23 筐体 24 背面扉
28 下側クランプ 31 巻き取りロール
32 プレート 33 第1の固定板
34 第2の固定板 36 旋回板
38 旋回レバー 39 リンク機構
45 短リンク 46 直動ブロック
47 長リンク 49 第1の位置決め孔
50 第2の位置決め孔 51 ピン挿入孔
52 位置決めピン
U1 上ユニット U2 下ユニット