【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願人の同時係属中の特許出願GB 1100150.0は、突然変異型配列の優先的増幅に基づいて、標的遺伝子におけるSNPを検出および解析するための方法を記述している。二本鎖DNAの融解温度(Tm)は、塩基対ハイブリダイゼーションの程度に依存する。プローブと標的配列との間に(例えばSNPの存在により)ミスマッチがある場合には、ミスマッチが無い場合と比べてTmは異なってくる。GB 1100150.0に記述された方法は、標的配列の隣接領域に対するPCRプライマーと、野生型または突然変異型配列のどちらかに優先的にハイブリダイズする阻止プローブとの組合せの使用を含むものである。このプローブは、阻止すべき配列(例えば野生型配列)に結合する場合に、増幅すべき配列(例えば突然変異型配列)に結合する場合よりも低いTmを有するように設計される。増幅は、そのプローブが、阻止すべき配列にはハイブリダイズするが増幅すべき配列にはハイブリダイズしない温度において実行され、従って、その他方の配列のみが増幅される。それから、同じプローブを使用して、増幅配列の存在を検出し、増幅配列対非増幅配列の相対比を検出することができる。
【0008】
本発明は、関連する方法を、JAK2における突然変異の検出に応用する。
【0009】
本発明の第1の側面によれば、少なくとも第1の突然変異型アリルと野生型アリルとを有するJAK2遺伝子中の座位について、野生型アリルの欠如を検出する方法が提供され、その方法は、
a) 以下のものを含む反応混合物を提供する工程:
i) JAK2遺伝子の少なくとも一部分を提供する核酸を含む試料;
ii) 前記野生型アリルにハイブリダイズする融解温度(Tm)よりも低いTmにおいて前記突然変異型アリルにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブ;
iii) 核酸増幅のための一対のオリゴヌクレオチドプライマーであって、前記オリゴヌクレオチドプローブの結合部位の両側にある第1の部位および第2の部位において前記試料中の核酸にハイブリダイズし、ここで、プライマー対試料のTmはプローブ対突然変異型アリルのTmよりも高い、プライマー;
b) 前記プローブが、前記野生型アリルに優先的にハイブリダイズするように、前記反応混合物を、プローブ対突然変異型アリルのTmとプローブ対野生型アリルのTmとの間の温度に維持する工程、
c) 前記反応混合物について、融解段階、アニーリング段階、および伸長段階を含む熱サイクリング増幅を実行し、ここで、前記伸長段階およびアニーリング段階の温度は、これらの段階の際に前記プローブが前記野生型アリルにハイブリダイズするように、プローブ対突然変異型アリルのTmとプローブ対野生型アリルのTmとの間とされ、それによって前記突然変異型アリルを増幅する工程;ならびに
d) プローブ対突然変異型アリルのTm以下の温度にて、前記試料に対する前記プローブのハイブリダイゼーションを検出し、プローブ対野生型アリルのTm以下の温度における、より高い温度にて、前記試料に対する前記プローブのハイブリダイゼーションを検出し、これら2つを比較し、それによって前記野生型アリルの存在または欠如を検出する工程
を含む。
【0010】
このようにして、本発明は、第2の野生型アリルと比較して、第1の突然変異型アリルの方が優先的に増幅されることを可能とする。増幅の際に阻止プローブとして作用したその同じプローブが、検出段階において使用され得る。これは著しく手順を単純化する。本発明の一つの鍵となる特徴は、使用されるプローブが野生型アリルの存在または欠如を検出するということである。すなわち、もし野生型アリルが存在するならば、それは検出されるが、もしそれが欠如しているならば、それは検出されない。いかなる突然変異型配列であっても優先的に増幅され、従って、その突然変異が比較的稀少である場合(例えば、試料中の少数の細胞にのみ存在する場合)であっても、野生型配列の相対的コピー数が減少される。突然変異が存在する場合は、より低い温度において、突然変異型の検出と比較して野生型の検出が減少する。この方法は、何らかの特定の突然変異アリルの検出に縛られるものではなく、従って、1つの突然変異アリルに特異的なプローブの使用に依存する代替的方法よりも柔軟性がある。
【0011】
伸長段階およびアニーリング段階は、同じ温度において実行され得ることから、組み合わせることができる。
【0012】
好ましくは、工程a)のi)において試料により提供されるJAK2遺伝子の一部分は、JAK2遺伝子の第2343ヌクレオチドを包含する(
図1に示されている配列番号4を参照して定義される第2343ヌクレオチド)。突然変異アリルは、好ましくは第2343ヌクレオチドにおける突然変異である。好ましい一実施態様では、野生型がG2343であるのに対し、突然変異型はT2343である。これはV617F突然変異に対応する。
【0013】
しかしながら、本発明は、V617F突然変異についての使用に限定されない。例えば、プローブは、第2343ヌクレオチドと、第618アミノ酸残基における突然変異(例えば稀なC618F突然変異)に関して差次的Tmを有することができる十分な追加的ヌクレオチドとを包含するように設計され得る。これはヌクレオチド置換G2347Tに対応する。本発明は、プローブの野生型配列への結合と突然変異型配列への結合との間の差次的Tmに依存するので、突然変異型配列のアイデンティティーは重要ではない。
【0014】
好ましい実施態様において、プローブは第2343ヌクレオチドを包含する。プローブは好ましくは、野生型残基G2343に対応するヌクレオチドを含む。これに対するミスマッチは、より低いTmをもたらす。
【0015】
オリゴヌクレオチドプローブは、好ましくは、少なくとも15、20、25、26、27、28、29、30ヌクレオチドの長さである。
【0016】
特に好ましいオリゴヌクレオチドプローブは、TTT AAA TTA TGG AGT ATG TGT CTG TGG AGA(配列番号1)という配列を含むか、またはこの配列からなる。この配列は、
図1に示されているJAK2配列の第2324〜2353ヌクレオチドに対応する(プローブ結合領域には下線が引かれている)。
【0017】
プライマーは、好ましくは、少なくとも50、60、70、80、90、100ヌクレオチドの長さである、JAK2配列の一部分を増幅する。好ましいプライマーとしては、TCT TTG AAG CAG CAA GTA TGA TGA(配列番号2;センスプライマー)およびGCA TTA GAA AGC CTG TAG TTT TAC TT(配列番号3;アンチセンスプライマー)が含まれる。これらは112ヌクレオチドの長さの増幅産物を提供する。
【0018】
伸長段階およびアニーリング段階の温度は同じであってもよいが(その場合は、組み合わされた伸長-アニーリング段階が使用され得る)、好ましくは異なる温度である。融解段階の温度は、プライマー対試料のTmおよびプローブ対野生型アリルのTmの温度よりも高くし得る。しかしながらそのことは必須ではない。例えば、プライマー対試料のTmはプローブ対野生型アリルのTmよりも低くてもよく、その場合は、融解段階はそれら2つの値の間の温度であり得、従って事実上プローブは増幅反応全体を通して野生型アリルにハイブリダイズしたままであり続けることになる。
【0019】
伸長段階のあいだ、オリゴヌクレオチドプローブは、野生型アリルにハイブリダイズしたままであり続ける。これはその同じ核酸にハイブリダイズしたプライマーの鎖伸長を妨げ、その一方で、突然変異型アリルにハイブリダイズしたプライマーは、プローブがそのアリルにはハイブリダイズしていないことから、自由に鎖伸長を受ける。このようにして、突然変異型アリルが優先的に増幅される。後述するように、いくつかの実施態様では、片方または両方のプライマーをプローブ結合部位とオーバーラップさせて、結合に関してプローブがプライマーと競合するようにし得る。これはプライマーの結合を妨げ、ひいては鎖伸長を妨げることができる。他の(好ましい)実施態様では、プライマーとプローブはオーバーラップしないが、プライマーはさらなる鎖伸長を妨げる。
【0020】
座位は、複数アリル座位であり得る。すなわち、その座位には、可能なアリルが2つより多くある。そのような状況では、1つのアリルを野生型アリルと呼ぶことができ、それ以外のものは突然変異型アリルである。プローブは、プローブ対野生型アリルのTmがプローブ対突然変異型アリルのTmのいずれよりも高いように、好ましくは選択される。本方法は、存在する突然変異型アリルのいずれかを優先的に増幅するように使用することができる。これは、体細胞突然変異を調査することに本方法を使用する場合に特に有益である(体細胞突然変異では、異なる細胞系統においていくつかの異なる突然変異が存在し得る)。好ましい実施態様では、プローブ対アリルの可能な組合せのそれぞれのTmが異なる。好ましくは、Tmは少なくとも0.25℃異なり、より好ましくは少なくとも0.5℃、最も好ましくは少なくとも0.75℃異なる。これにより、各アリル間で微細な区別をすることが可能となる。例えば、もし4つのアリルが存在し、2つだけを増幅しようとするならば、プローブが他の2つのアリルにハイブリダイズするように、伸長温度を適切なレベルに設定することができる。
【0021】
プローブは、標的アリルの1つの鎖と、好ましくは実質的に、そしてより好ましくは完全に、相補的である。プローブは、野生型アリルの1つの鎖と完全に相補的であり得る。突然変異型アリルは、1つ以上の点突然変異(一塩基多型、SNP)によって、第2のアリルの配列から異なり得る。突然変異型アリルが(例えば異なるコドンにおいて)複数のSNPを含むこともあり得る。複数のSNPを含む可能性のある突然変異型アリルを優先的に増幅することが可能であることは、本方法の有利な点の1つである。あるいは、突然変異型アリルは、1つ以上の欠失によって野生型アリルの配列から異なり得る。
【0022】
プローブは好ましくはDNAである。
【0023】
突然変異型および野生型のアリル間の配列の違いは、好ましくは、プローブが結合する領域の内部にある。すなわち、プローブと突然変異型アリルとの間のミスマッチはプローブの端には位置しない。
【0024】
プローブは標識され得る。例えば、プローブは、蛍光もしくは放射性の標識を含むことができ、または、二次的なプローブが結合し得るリガンドで標識され得る。好ましくは、プローブは、蛍光標識で標識され、そして同じく好ましくは、その標識は、プローブが標的鎖にハイブリダイズしているか(すなわち、プローブが二重鎖核酸の一部となっているか)していないか(プローブが一本鎖であるか)によって差次的なシグナルを生じる。1つの好ましいプローブはハイビーコン(HyBeacon)(登録商標)プローブである(例えば、Mol Cell Probes. 2002 Oct;16(5):319-26, “Ultra-rapid DNA analysis using HyBeacon probes and direct PCR amplification from saliva”, French DJ, Archard CL, Andersen MT, McDowell DGを参照)。差次的なシグナルの生成は、プローブが標的に結合したか否かの簡易で迅速な分析を可能とする。
【0025】
ハイブリダイズしたプローブ分子を検出する工程は、増幅混合物中の突然変異型アリルおよび野生型アリルの相対量の定量化をさらに含み得る。本発明のいくつかの実施態様では、検出工程は、増幅工程の後だけでなくその前にも実行され得る。好ましい一実施態様では、突然変異型アリル対野生型アリルの比は、プローブ対突然変異型アリルのTm以下である第1の温度にて反応混合物を維持すること;ハイブリダイズしたプローブ分子を検出すること;反応混合物を、プローブ対突然変異型アリルのTmより高いがプローブ対野生型アリルのTm以下である第2の温度に上昇させること;ハイブリダイズしたプローブ分子を検出すること、によって測定され得る。より低い第1の温度においては、プローブは突然変異型と野生型の両方のアリルにハイブリダイズするのに対し、より高い第2の温度においては、プローブは野生型アリルだけにハイブリダイズする。
【0026】
座位が複数アリル性である場合は、検出工程は、反応混合物を1つ以上の中間温度に上昇させること、および、各々の中間温度においてハイブリダイズしたプローブ分子を検出することをさらに含み得る。これは、各々のプローブ対アリルの組合せが異なるTmを有する場合に特に好ましい。本発明のこの実施態様は、単一の実験において複数別個の突然変異アリルを増幅することおよび定量化することの両方を可能とする。
【0027】
プライマーは、好ましくは、プローブが結合する領域の外の領域において結合する。すなわち、第1のプライマーはプローブ標的の3’側に結合し、第2のプライマーはプローブ標的の5’側に結合する(プライマーは二重鎖DNAの別々の鎖に結合することを考慮に入れる)。プライマーが鎖伸長を受ける際に、結合したプローブによってこの伸長が阻止され、従って鎖が増幅できなくなる。いくつかの実施態様では、プライマーは、プローブが結合する領域に隣接して結合し得、あるいは、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上のヌクレオチドに渡ってプローブとオーバーラップさえし得るが、ただしこれは好ましくはない。いうまでもなく、2つのプライマーが異なる程度においてプローブ標的とオーバーラップしてもよいし、あるいは、1つがオーバーラップしていてもう1つはオーバーラップしていなくてもよい。プローブとプライマーとがオーバーラップする場合は、プローブは(好ましくはプライマーの3’末端において)結合に関してプライマーと競合し、このようにして伸長を妨げる。
【0028】
本発明の好ましい実施態様では、増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。いくつかの実施態様では、プライマーが異なる濃度で提供され得る。好ましくは、プライマーのうちの1つが律速的な量において提供され、増幅反応は非対称PCRである。非対称PCRでは、律速的プライマーが使い果たされて他方のプライマーだけが鎖伸長開始のために利用可能となるので、2つの標的DNA鎖のうちの1つが優先的に増幅される。優先的増幅の対象となる1つの鎖は、センス鎖またはアンチセンス鎖のどちらであってもよい。好ましくは、優先的に増幅される鎖は、プローブと相補的な鎖である。特に好ましい一実施態様では、プライマーは上述した配列番号2および3であって、過剰量プライマーは20μl反応液あたり12.5 pMolのリバースプライマーであり、律速量プライマーは20μl反応液あたり1.5 pMolのフォワードプライマーであり、プローブは20μl反応液あたり3 pMolである非対称PCRが実施される。
【0029】
本発明はまた、配列番号1のヌクレオチド配列を含むかまたはこの配列からなる、オリゴヌクレオチドプローブを提供する。プローブは好ましくはDNAである。プローブは、1つ以上の付随する標識をさらに含み得る。その標識は、好ましくは、配列の1つ以上のヌクレオチドに付随する蛍光標識である。標識は、プローブが標的配列と共に二重鎖となっているかまたは一本鎖であるかに依存して差次的なシグナルを生じるように選択され得る。
【0030】
上述したプローブ配列番号1により認識される標的配列の増幅を可能とするように選択されたプライマー配列も提供される。このプライマーは、配列番号2または配列番号3のヌクレオチド配列からなるかまたはこの配列を含み得る。好ましい一実施態様において、本発明は、配列番号2のヌクレオチド配列からなるかまたはこの配列を含む第1のプライマーと、配列番号3のヌクレオチド配列からなるかまたはこの配列を含む第2のプライマーとを有するプライマー対を提供する。
【0031】
本発明は、JAK2遺伝子における突然変異を検出するためのキットをさらに提供することができ、そのキットは、配列番号2のヌクレオチド配列からなるかまたはこの配列を含む第1のプライマーと、配列番号3のヌクレオチド配列からなるかまたはこの配列を含む第2のプライマーとを有するプライマー対;および、配列番号1のヌクレオチド配列を含むかまたはこの配列からなるプローブを含む。このキットは、使用説明書、ならびに/または、核酸の増幅および/もしくは検出を実施するために必要な追加的試薬を任意で含み得る。