特許第6158203号(P6158203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6158203パワートレーンを制御する方法、および対応する制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158203
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】パワートレーンを制御する方法、および対応する制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20170626BHJP
【FI】
   H02P21/22
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-541708(P2014-541708)
(86)(22)【出願日】2012年11月20日
(65)【公表番号】特表2015-512233(P2015-512233A)
(43)【公表日】2015年4月23日
(86)【国際出願番号】EP2012073126
(87)【国際公開番号】WO2013076091
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年11月11日
(31)【優先権主張番号】1160647
(32)【優先日】2011年11月22日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】メリエンヌ, リュドヴィック
(72)【発明者】
【氏名】マルーム, アブデルマーレク
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−327200(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0073281(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両に装備され、かつ回転子および固定子を備える電気モータを備えるパワートレーンを制御するための方法であって、前記電気モータの制御信号

を使用して、前記回転子内および前記固定子内の電流(I,I,I)を、所定の電流値

に到達するように調節することを含み、当該所定の電流値

は、車輪でのトルク要求に対応し、調節されるべき前記電流(I,I,I)および前記制御信号

は、複数の軸(d,q,f)を備える回転基準フレームの中で表示され、前記制御信号

は、前記複数の軸の各々に沿った調節の動的分離を可能にする変数変更を含む変換から生じる方法において、
前記調節は、前記複数の軸(d,q,f)の各々について、
前記軸の調節されるべき前記電流(I,I,I)の値と前記所定の電流値

との比較と、
前記比較に応じた、前記軸の調節されるべき前記電流(I,I,Iへの、第1の線形演算子(OP1d,OP2d,OP1q)または第2の線形演算子(OP2q,OP1f,OP2f)適用と、を含み、前記2つの線形演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)を適用した結果が、前記軸の前記制御信号

等しくなければならず、
前記各軸に対して、前記2つの線形演算子が、追加変数

を追加することを含み、前記追加変数は、前記2つの線形演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)に応じて異なっており、処理中の前記軸の前記電流(I,I,I)が前記所定の電流値

よりも低い場合、適用される前記線形演算子によって高い方の追加変数

が使用され、処理中の前記軸の前記電流(I,I,I)が前記所定の電流値

よりも高い場合、適用される前記線形演算子によって低い方の追加変数

が使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記各軸(d,q,f)に対して、前記2つの演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)は、処理中の前記軸の前記電流を調節するための数式に相当し、前記高い方の追加変数および低い方の追加変数

は、それぞれ前記調節数式の構成要素の最大値および最小値に、前記構成要素のパラメータが変化する特定の範囲内で相当し、前記調節数式の前記構成要素は、処理中の前記軸に対する前記電流(I,I,I)と前記所定の電流値

との差に追加されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記各軸に対して、前記2つの線形演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)は、処理中の前記軸に沿った前記電気モータのインダクタンス値(L,L,L)、処理中の前記軸に依存する定数(λ)、および処理中の前記軸に沿って調節されるべき前記電流(I,I,I)と前記所定の電流値

との差の間の乗算を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記調節は、前記軸に沿って調節されるべき前記電流が前記所定の電流値に十分接近している(21)場合に、処理中の前記軸に沿って調節されるべき電流(I,I,I)と前記所定の電流値

との間の差に応じた追加変数

の追加を含む第3の線形演算子(OP3d,OP3q,OP3f)の、前記各軸に対する適用(6)を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の線形演算子(OP3d,OP3q,OP3f)の前記追加変数が、所与の補間窓(ε)に対して前記高い方の追加変数

と前記低い方の追加変数

との間の補間を実行することによって決定されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
自動車両に装備され、かつ回転子および固定子を含む電気モータを備えるパワートレーンを制御するためのシステムであって、前記電気モータの制御信号

を使用して、前記回転子および前記固定子の電流(I,I,I)を、所定の電流値

に到達するように調節する手段を含み、当該所定の電流値

は、車輪でのトルク要求に対応し、調節されるべき前記電流(I,I,I)および前記制御信号

は、複数の軸(d,q,f)を備える回転基準フレームの中で表示され、前記制御信号

は、前記複数の軸の前記各軸に沿った調節の動的分離を可能にする変数変更を含む変換から生じるシステムにおいて、
前記調節手段(MR)は、前記複数の軸(d,q,f)の各々に対して、前記軸の調節されるべき前記電流(I,I,I)に第1の線形演算子を適用する手段(M_OP1d,M_OP1q,M_OP1f)と、前記軸の調節されるべき前記電流(I,I,I)に第2の線形演算子を適用する手段(M_OP2d,M_OP2q,M_OP2f)と、前記軸の調節されるべき前記電流(I,I,I)の値を前記所定の電流値

と比較する手段(MCd,MCq,MCf)と、
前記比較する手段による比較に応じて、第1の線形演算子を適用する前記手段(M_OP1d,M_OP1q,M_OP1f)または第2の線形演算子を適用する前記手段(M_OP2d,M_OP2q,M_OP2f)を稼動させるための管理手段(MGd,MGq,MGf)とを含み、前記2つの線形演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)の適用結果が、前記軸の前記制御信号

等しくなければならず、
前記各軸に対して、前記2つの線形演算子は追加変数

を追加することを含み、前記追加変数は、前記2つの線形演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)に応じて異なっており、処理中の前記軸の前記電流(I,I,I)が前記所定の電流値

よりも低い場合、適用される前記線形演算子によって高い方の追加変数

が使用され、処理中の前記軸の前記電流(I,I,I)が前記所定の電流値

よりも高い場合、適用される前記線形演算子によって低い方の追加変数

が使用されることを特徴とするシステム。
【請求項7】
前記各軸に対して、前記2つの演算子(OP1d,OP2d,OP1q,OP2q,OP1f,OP2f)は、処理中の前記軸の前記電流を前記調節するための数式に相当し、前記高い方の追加変数および低い方の追加変数

は、それぞれ前記調節数式の構成要素の最大値および最小値に、前記構成要素のパラメータが変化する特定の範囲内で相当し、前記調節数式の前記構成要素は、処理中の前記軸に対する前記電流(I,I,I)と前記所定の電流値

との差に追加されることを特徴とする、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記各軸に対して、前記2つの線形演算子は、処理中の前記軸に沿った電気モータのインダクタンス値(L,L,L)、処理中の前記軸に依存する定数(λ)、および処理中の前記軸に沿って調節されるべき前記電流(I,I,I)と前記所定の電流値

との差の間の乗算を含むことを特徴とする、請求項6または7に記載のシステム。
【請求項9】
前記調節手段は、前記軸の各々に対して、追加変数

の追加を含む第3の線形演算子(OP3d,OP3q,OP3f)を前記軸に沿った前記電流(I,I,I)に適用することができる第3の演算子を適用する手段(M_OP3d,M_OP3q,M_OP3f)を含み、前記追加変数は前記軸に沿った前記電流(I,I,I)と前記所定の電流値

との差に依存し、前記管理手段(MGd,MGq,MGf)は、前記軸に沿って調節されるべき前記電流(I,I,I)が前記所定の電流値

に十分接近している場合に前記第3の線形演算子を適用する手段(M_OP3d,M_OP3q,M_OP3f)を稼動させるように構成されていることを特徴とする、請求項6から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記第3の線形演算子の前記追加変数

は、所与の補間窓(ε)に対して前記高い方の追加変数

と前記低い方の追加変数

との間の補間を実行することによって決定されることを特徴とする、請求項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、電気モータの制御、特に巻線形回転子同期型の電気モータ制御の分野である。
【0002】
巻線形回転子同期型の電気モータは、固定子と呼ばれる固定された部品と、回転子と呼ばれる可動部品を備える。固定子は、120°の角度をなし、交流電流を供給される3つのコイルを備える。回転子は、直流電流を供給される1つのコイルを備える。固定子の相電流は、回転子および固定子の抵抗およびインダクタンス、ならびに固定子と回転子との間の相互インダクタンスに依存する。
【0003】
そのようなシステムの制御は、一般的にPI(Proportional Integral:比例積分)型の補正器を使用する。この型の補正器を使用する例が、特許文献1に提供されている。
【0004】
それゆえに、この型の補正器は、高速システムを備えることが所望される場合に顕著である不安定性という問題を提示する可能性がある。不安定性の問題を回避するために、従来技術によれば、安定余裕を保証するような態様で、これらの補正器のパラメータを計算することが公知である。より堅牢なシステムを得るために、これらの安定余裕を増加させ、それによって補正器の性能を低減させることが公知である。
【0005】
従来技術では、更に、比例積分補正器以外の補正器を使用することが既知である。比例積分補正器を使用しない補正器の例は、特許文献2に記載されており、その文献は、データテーブルを有する巻線形回転子同期機のオープンループ制御について記載している。比例積分補正器を使用しない補正器の別の例は、特許文献3に記載されており、その文献は、モータの荷重変動に応答する永久磁石同期機の速度制御について記載している。
【0006】
それゆえに、これらのシステムでは、モータ速度が変動し、それが干渉とみなされる可能性がある自動車の分野には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1341293号明細書
【特許文献2】米国特許第5,015,937号明細書
【特許文献3】欧州特許第0702451号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、補正器の性能を低減せずに、巻線形回転子同期型の電気モータを調節することにおける安定性を向上させることである。
【0009】
別の目的は、速度変化に耐え、電流を必要値に維持する調節であり、その調節によって、変動する速度でも機械によって供給されるトルクを制御することが可能になる。
【0010】
したがって、比例積分制御器を使用しない、パワートレーンを制御するための制御器、および制御方法が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、自動車両に装備され、かつ回転子および固定子を備える電気モータを備えるパワートレーンを制御するための方法に関し、その方法は、電気モータの制御信号を使用して、回転子内、および固定子内の電流を、必要電流値に到達するように調節することを含み、前記調節されるべき電流および前記制御信号が、複数の軸を備える回転基準フレームの中で表示され、前記制御信号が、前記複数の軸の各軸に沿った調節の動的減結合を可能にする変数変化を含む変換から生じる。
【0012】
一般的な特徴によれば、調節することが、前記複数の軸の各軸に対して、必要値に関するその軸の調節されるべき電流の値の関数として、2つの異なる線形演算子をその軸の調節されるべき電流に適用することを含み、2つの異なる線形演算子を適用した結果が、前記軸の制御信号に概ね等しくなければならない。
【0013】
したがって、すべての場合、電流の導関数が必要値に関して正確な符号を有することが保証される。常に、必要値に向かって移動する電流が得られる。
【0014】
一特徴によれば、各軸に対して、2つの線形演算子が、追加変数を追加することを含み、前記追加変数が、2つの線形演算子の関数として異なっており、処理中の軸の電流がその必要値よりも低い場合、高い方の追加変数が適用される線形演算子によって使用され、処理中の軸の電流がその必要値よりも高い場合、低い方の追加変数が適用される線形演算子によって使用される。
【0015】
したがって、調節は複雑な演算子を必要とせず、2つの演算子の相違は、一般的に追加変数にだけ起因する。
【0016】
別の特徴によれば、各軸に対して、2つの演算子が、処理中の軸の電流を調節するための数式に相当し、高い方の追加変数および低い方の追加変数が、それぞれ前記調節数式の構成要素の最大値および最小値に、前記構成要素のパラメータが変化する特定の範囲内で相当し、調節数式の前記構成要素が、処理中の軸に対する電流とその必要値との差に追加される。
【0017】
調節は常に最悪の場合を考慮に入れるので、より迅速である。もはや平均パラメータを推定する必要はなく、ただパラメータに対して限界を設定しさえすればよく、その方がはるかに簡単である。パラメータの分散を考慮しない従来の調節器を用いるよりも一層高い安定性が保証される。したがって、機械の実際のパラメータが選択された範囲内である場合、効果的な制御を保証することが可能である。
【0018】
別の特徴によれば、各軸に対して2つの線形演算子が、処理中の軸に沿った電気モータのインダクタンス値、処理中の軸に依存する定数、および処理中の軸に沿って調節されるべき電流とその必要値との差の乗算を含む。
【0019】
演算子は、Park基準フレーム(Park rference frame)中の電気モータの作動を説明する調節数式に直接由来する。
【0020】
一実施形態によると、処理中の軸に沿って調節されるべき電流がその必要値に十分接近しているとき、調節は、各軸に対して、軸に沿って調節されるべき電流とその必要値との差応じた追加変数の追加を含む、第3の線形演算子の適用を含む。
【0021】
したがって、2つの演算子が連続して使用されることに起因する振動を除去するために、電流がその必要値に十分接近する場合、制御の円滑化が実行される。
【0022】
一特徴によれば、第3の線形演算子の追加変数が、所与の補間窓に対して、高い方の追加変数と低い方の追加変数との間の補間を実行することによって決定される。
【0023】
したがって、第3の演算子の追加変数は、第1の演算子から第3の演算子に変化する間、または第2の演算子から第3の演算子に変化する間に連続的に変化する。
【0024】
本発明は、更に、自動車両に装備され、かつ回転子および固定子を備える電気モータを備えるパワートレーンを制御するためのシステムであって、電流が電気モータの制御信号を使用して、回転子内、および固定子内の電流を、必要電流値に到達するように調節する手段を含み、調節されるべき前記電流および前記制御信号が、複数の軸を備える回転基準フレームの中で表示され、前記制御信号が、前記複数の軸の各軸に沿った調節の動的減結合を可能にする変数変化を含む変換から生じるシステムに関する。
【0025】
一般的な特徴によれば、前記調節手段は、前記複数の軸の各軸に対して、その軸の調節されるべき電流に第1の線形演算子を適用する手段と、その軸の調節されるべき電流に第2の線形演算子を適用する手段と、その軸の調節されるべき電流の値をその必要値と比較する手段と、その必要値に関するその軸の調節されるべき電流の値の関数として第1の演算子を適用する手段または第2の線形演算子を適用する手段を稼動させるための管理手段とを含み、2つの線形演算子の適用結果はその軸の制御信号に概ね等しくなければならない。
【0026】
一特徴によれば、各軸に対して、2つの線形演算子が、追加変数を追加することを含み、前記追加変数が、2つの線形演算子の関数として異なっており、処理中の軸の電流がその必要値よりも低い場合、高い方の追加変数が適用される線形演算子によって使用され、処理中の軸の電流がその必要値よりも高い場合、低い方の追加変数が適用される線形演算子によって使用される。
【0027】
別の特徴によれば、各軸に対して、2つの演算子が、処理中の軸の電流を調節するための数式に相当し、高い方の追加変数、および低い方の追加変数が、それぞれ前記調節数式の構成要素の最大値、および最小値に、前記構成要素のパラメータが変化する特定の範囲内で相当し、調節数式の前記構成要素が、処理中の軸に対する電流とその必要値との差に追加される。
【0028】
別の追加の特徴によれば、各軸に対して、2つの線形演算子は、処理中の軸に沿った電気モータのインダクタンス値、処理中の軸に依存する定数、処理中の軸に沿って調節されるべき電流とその必要値との差の乗算を含む。
【0029】
一実施形態によれば、軸のそれぞれに対して、調節手段が、追加変数の追加を含む第3の線形演算子をその軸に沿った電流に適用することができる、第3の演算子を適用する手段を含み、前記追加変数が、その軸に沿った電流とその必要値との差に依存し、前記管理手段が、その軸に沿って調節されるべき電流がその必要値に十分接近している場合に第3の線形演算子を適用する手段を稼動させるように構成されている。
【0030】
一特徴によれば、第3の線形演算子の追加変数が、所与の補間窓に対して、高い方の追加変数と低い方の追加変数との間の補間を実行することによって決定される。
【0031】
添付の図面を参照して、限定しない実施例としてのみ与えられる以下の説明を読めば、他の目的、特徴および利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】電気パワートレーンを制御するための方法を示す図である。
図2図1に示す方法の結果を示す図である。
図3】演算子の一実施形態を示す図である。
図4】電気パワートレーンを制御するための別の方法を示す図である。
図5図4に示す制御方法の結果を示す図である。
図6図4に示す方法を使用する制御システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
固定子および回転子を備え、車両に装備される同期型モータを備えるパワートレーンの調節を提供するために、Park基準フレームが使用され、Park基準フレームによって、同期型モータの場合、例えば回転子と連結される回転基準フレームの中の電気的値を表示することが可能になる。この基準フレームは、3つの軸d、q、およびfを備える。軸dおよび軸qは固定子に関連し、軸fは回転子に関連する。
【0034】
電気モータの制御信号V、V、V、および適用される電流の必要値I、I、Iは、制御信号の構成要素、およびそれぞれ軸d、軸q、軸fに沿った電流の構成要素に相当する。
【0035】
Park基準フレームでは、同期型モータを備えるパワートレーンが、以下の数式によって管理される。
(数式1)
このとき、
は、軸d上の等価電機子インダクタンスである。
は、軸q上の等価電機子インダクタンスである。
は、回転子のインダクタンスである。
は、固定子巻線の等価抵抗である。
は、回転子の抵抗である。
は、固定子と回転子との間の相互インダクタンスである。
は、軸d上の電流である。
は、軸q上の電流である。
は、軸f上の電流である。
ωは、機械の電磁場の回転速度である(同期型機械であるので、回転子の回転速度に機械の対の電極数を乗じたものに等しい)(単位はrad/s)。
は、軸dに沿った電気モータの制御信号である。
は、軸qに沿った電気モータの制御信号である。
は、軸fに沿った電気モータの制御信号である。
αは係数であり、α=3/2であることが好ましい。
【0036】
この型のシステムの制御によって提示される主要な困難さは、軸dと軸fとの間の動的結合によるものである。
【0037】
軸dと軸fとの間の動的結合を回避するために、変数の変化が提供され、以下の数式を使用すると、
で表わされる。
(数式2)
【0038】
したがって、制御されるべきシステムは、以下の調節数式によって表わされる。
(数式3)
このとき、
は、軸d上の減結合された固定子電圧である。
は、軸q上の固定子電圧である。
は、回転子の減結合された電圧である。
加えて、α=3/2であることが好ましい。
【0039】
したがって、この調節数式によれば、軸dに沿った電圧
を用いて、軸dに沿った電流(I)の導関数構成要素を独自に制御することが可能である。同様に、軸qに沿った電圧
および軸fに沿った回転子の電圧
は、それぞれ軸qに沿った電流(I)の構成要素、および軸fに沿った電流(I)の構成要素によってのみ電流の導関数に依存する。したがって、軸d、軸f、軸q間の動的結合は、この調節数式を使用する調節器の中で除去される。
【0040】
理解されるように、動的結合を示さない軸q上の変数の変化はない。動的結合は軸dと軸fとの間にあるので、したがって新たな減結合制御はこれら2つの軸上にある。
【0041】
新たな空間の中で以下の数式に留意することができる。
(数式4)
項A、A、Aは、インダクタンス、抵抗、および相互インダクタンスなどのパラメータに依存する。可能な変化の範囲は、各軸に対する各パラメータについて定義される。
軸d:
である。
軸q:
である。
軸f:
である。
【0042】
これらの範囲を用いて、軸dに対して、項Aaが所与の3つの項I、I、Iについて有することができる最小値に相当する構成要素
、および最大値に相当する構成要素
を計算することが可能であり、同様に、軸qに対して、項Aが所与の3つの項I、I、Iについて有することができる最小値に相当する構成要素
、および最大値に相当する構成要素
を計算することが可能であり、最後に、軸fに対して、項Aが所与の3つの項I、I、Iについて有することができる最小値に相当する構成要素
、および最大値に相当する構成要素
を計算することが可能である。
【0043】
パラメータが実際に定義された範囲内にある場合、そのときは以下の式が真でなければならない。
軸d上で:
軸f上で:
軸q上で:
【0044】
したがって、制御の原理は以下の数式に基づく。
(数式5)
このとき、
は、各軸上の電流の必要値である。
【0045】
したがって、すべての場合、電流の導関数は、必要値に関して正確な符号を有する。例えば、
である場合の軸d上で、かつ数式(4)および(5)によって、
となる。
【0046】
したがって、必要値に向かって常に移動している電流が得られる。
【0047】
複数の軸の1つに対して、上記の数式を使用する調節方法の例が、図1に示される。
【0048】
この制御方法は、軸の1つの制御信号
から、対応する軸の調節されるべき電流I、I、またはIを、車輪でのトルク要求に対応する電流の必要値
に一致させるように制御することを可能にする。方法の以下の説明は軸qに関係しているが、それゆえに、軸dまたは軸fに関係する方法も同様である。
【0049】
方法は、
−電流の必要値、すなわち軸q上の固定子電流の必要値である、必要値
を獲得する第1のステップと、
−軸qに沿った電流Iが測定される第2のステップと、
−軸qに沿って測定された電流Iが、その必要値
と比較される第3のステップと
を含む。
【0050】
測定された電流がその必要値
よりも高い場合、そのときステップ4が開始され、測定された電流がその必要値
よりも低い場合、そのときステップ5が開始される。
【0051】
ステップ4は、
に対して
という数式による線形演算子OP1qを軸qに沿った電流に適用することに相当する。
【0052】
同様に、ステップ5は、
に対して
という数式による線形演算子OP2qを軸qに沿った電流に適用することに相当する。
【0053】
数式5(Eq.5)によれば、演算子OP1qおよびOP2qの適用結果は、
に等しくなければならず、したがって、ステップ4またはステップ5を用いて、
を変化させることによって電流Iを制御することが可能である。言い換えれば、Iは、演算子OP1qおよびOP2qの結果を制御することによって間接的に制御される。
【0054】
ステップ4またはステップ5を実行した後、方法はステップ2に戻る。
【0055】
図2は、図1に示す方法による電流制御の結果を示す。図2は、時間を示す水平軸、およびアンペア(amps)で表示される電流を示す垂直軸の2つの軸を備える基準フレームを備える。この基準フレームの中に、必要値
を示す第1の矩形状の曲線、および振動し、電流Iを示す第2の曲線が存在する。電流Iが必要値
に接近しようとしているが、同時に必要値の近くに多くの振動を生成しながら接近しているということが分かるであろう。
【0056】
実際に、この調節器の問題は、特定の周波数で作動しており、この周波数がどれほど高くとも、連続的な態様で適用され、計算される制御が可能にはならない。したがって、それにより電流は必要値近くで振動することになり、制御は、演算子OP1q、またはOP2qを適用する関数として時間ごとに急に上昇することになろう。
【0057】
振動を除去するために、図1に示す方法の改良によって、電流がそれらの必要値に十分接近している場合、2つの値
との間に線形補間を実施することによって制御の円滑化が実行される。
【0058】
改良された調節方法の例が、図3に示されている。方法の以下の説明は、軸qに関連し、それゆえに、軸dまたは軸fに関する方法は同様である。
【0059】
図1に示す方法のステップと同一であるステップ1、2、3、4、5に加えて、図3に示す方法は、
−軸qに沿った電流Iをその必要値
と比較するステップ21を備える。このステップの間、
であるかどうか検査され、このとき、eは補間窓(以下に詳細に説明する)の値である。したがって、電流Iがその必要値
に十分接近しているかどうかが検査される。更に、図3に示す方法は、
−電流Iがその必要値
に十分接近している場合、図4を参照して以下に説明する演算子OP3qが適用されるステップ6を備える。
【0060】
それとは逆に、電流Iがその必要値
に十分接近していない場合、そのとき方法はステップ3、4および5に進む。
【0061】
演算子OP3qを適用した結果は、数式5によって、
に等しくなければならない。したがって、図3のステップ6によって、ステップ4および5と同一の方法で、
を変化させることにより電流Iを制御することが可能である。
【0062】
図4は演算子OP3xの実施形態を示し、xは各軸に対する値d、値q、または値fを取る。その実施形態は、
−調節されるべき電流Iから必要値の電流
を減じるための減算器と、
−減算の結果に
は軸xに沿ったインダクタンスの最大値であり、xは値d、q、またはfを取る)を乗じるためのモジュール
と、
−追加変数
が決定される補間モジュールと
を備える。この追加変数は、調節されるべき電流Iとその必要値
との間の差に顕著に依存する。それは、所与の補間窓εについての
との間の補間の結果である。言い換えれば、調節されるべき電流Iとその必要値
との間の差の絶対値がεよりも小さい場合、そのとき追加変数
の値が、前記差に縦座標値
の2つの直線を結合する直線の勾配を乗じることによって決定される。これら2つの直線は、調節されるべき電流Iとその必要値
との間の差の絶対値がεよりも大きい場合、演算子OP1xおよびOP2x(縦座標値
のOP2x、および縦座標値
のOP1x)の追加変数を表す。したがって、OP3xの追加変数の値が得られるが、その値は演算子OP1xから演算子OP3xに変化する間、または演算子OP2xからOP3xに変化する間に連続的に変化する。
【0063】
したがって、3つの軸d、q、およびfのそれぞれに対して、適用される演算子は、
であり、xは値d、q、およびfを取る。
【0064】
したがって、2つのパラメータ、比例構成要素λおよび線形補間の振幅εは各軸に対して定義されなければならない。また、制御の作動を保証するために、パラメータの変化範囲を推定することも必要である。
【0065】
したがって、パラメータに誤りがある場合、発散するという不都合を有する積分項を使用せずに、正確な電流の変化を保証する制御が得られる。
【0066】
図5は、図3で説明されるような方法による電流制御の結果を示す。図5の基準フレームは、図2の基準フレームと同一であり、必要値
を示す第1の矩形状の曲線、および電流Iを示す第2の丸みを帯びた曲線を備える。図2に見られる必要値付近の振動なしに、電流Iが必要値
に接近しようとしていることが分かる。
【0067】
図6は、図3に示す方法を実施することを可能にする制御システムSYSを示す。システムSYSは、回転子の中、および固定子内の電流I、I、Iの調節手段MRを備える。
【0068】
調節手段MRは、軸dに対して、
−3つの異なる線形演算子M_OP1d、M_OP2dおよびM_OP3dを軸dの調節されるべき電流Iに適用する方法と、
−電流Iの値をその必要値
と比較する手段MCdと、
−電流Iの値のその必要値
に関する関数として、手段M_OP1dおよびM_OP2dを稼働させるように構成されている管理手段MGdと
を備える。また、管理手段MGdは、調節されるべき電流Iがその必要値
に十分接近している場合に適用手段M_OP3dを稼動させるようにも構成されている。
【0069】
同様に、調節手段MRが、軸qに対して、および軸fに対して、
−一方では軸qの調節されるべき電流に3つの異なる線形演算子M_OP1q、M_OP2q、M_OP3qを適用し、他方では軸fの調節されるべき電流に3つの異なる線形演算子M_OP1f、M_OP2f、M_OP3fを適用する手段と、
−電流Iの値をその必要値
と比較する手段MCq、および電流Iの値をその必要値
と比較する手段MCfと、
−電流Iの値のその必要値
に関する関数として、手段M_OP1qおよびM_OP2qを稼動させるように構成されている管理手段MGq、および電流Iの値のその必要値に
関する関数として、手段M_OP1fおよびM_OP2fを稼動させるように構成されている管理手段MGfと
を備える。管理手段MGqは、調節されるべき電流Iがその必要値
に十分接近している場合に適用手段M_OP3qを稼動させるようにも構成されている。管理手段MGfは、調節されるべき電流Iがその必要値
に十分接近している場合に適用手段M_OP3fを稼動させるようにも構成されている。
【0070】
この調節方法は、機械の実際のパラメータが選択された範囲内にある限り、必要値の方向に常に電流が変化しているという利点を有する。したがって、パラメータの分散を考慮しない従来の調節器を用いるよりも、一層高い安定性がもたらされる。
【0071】
更に、調節は常に最悪の場合を考慮に入れるので、調節はより迅速である。もはや平均パラメータを推定する必要はなく、ただパラメータに対して限界を設定しさえすればよく、その方がはるかに簡単である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6