(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記改質工程において、前記樹脂製品の表面の一部分に243nm以下の波長を有する紫外線を照射することを特徴とする、請求項1又は2に記載のめっき皮膜付樹脂製品の製造方法。
前記改質工程において、前記樹脂製品の表面の一部分に243nm以下の波長を有する紫外線レーザを照射することを特徴とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載のめっき皮膜付樹脂製品の製造方法。
前記改質工程において、酸素とオゾンとの少なくとも一方を含む雰囲気下で紫外線を照射することを特徴とする、請求項3又は4に記載のめっき皮膜付樹脂製品の製造方法。
前記再改質工程において、前記改質工程で改質された部分と、前記改質された部分に隣接する部分と、の双方に対して紫外線を照射することを特徴とする、請求項1乃至7の何れか1項に記載のめっき皮膜付樹脂製品の製造方法。
前記樹脂製品の表面がシクロオレフィンポリマー、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリマー樹脂、又はビニル樹脂を含むことを特徴とする、請求項1乃至9の何れか1項に記載のめっき皮膜付樹脂製品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用できる実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
[実施形態1]
本実施形態に係るめっき皮膜付物品の製造方法は、改質工程と、立体化工程と、紫外線照射工程と、めっき工程とを含む。以下、これらの工程について、
図2のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。
【0013】
(改質工程)
改質工程(S210)においては、無電解めっき皮膜が析出するように樹脂の表面の一部分が選択的に改質される。
図1(A)に示されるように、改質工程においては、樹脂製品110上の無電解めっき皮膜を析出させる部分120が改質される。
【0014】
樹脂製品110の種類は特に限定されないが、例えばシクロオレフィンポリマー等の
環状ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリマー樹脂等の、熱可塑性樹脂が挙げられる。樹脂製品110は、2種以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0015】
樹脂製品110は一般に販売されており、容易に入手することができる。一実施形態において、樹脂製品110の形状は、後述する紫外線照射による改質が容易に行えるように選択される。例えば、一部分に平坦な表面を有している樹脂製品110を用いることができる。このような平坦な表面は、例えば、紫外線ランプを用いて、又はライン状の照射範囲を有する紫外線レーザのスキャン照射により、低い生産コストで一括して改質することができる。また、後述する立体化工程における立体化が容易となるように、樹脂製品110は、一部分に平板状部分を有していてもよい。具体的な一実施形態においては、樹脂製品110の形状は平面状である。一実施形態においては、市販のフィルム状の樹脂製品110を用いてもよい。フィルム状の樹脂製品110の厚さは特に限定されないが、例えば10μm以上1.0mm以下であってもよい。
【0016】
フィルム状の樹脂製品110は、例えば以下のようにして製造することができる。原料である樹脂ビーズを加熱し溶融させ、押出ダイより押出してフィルム状に成形し、冷却することにより、樹脂フィルムが得られる。
【0017】
樹脂製品110の改質は、樹脂に対する無電解めっきの前処理として既に用いられている様々な方法により行われる。改質方法としては、光励起アッシング処理、プラズマアッシング処理、紫外線照射、クロム酸等による酸処理、及び水酸化ナトリウム等によるアルカリ処理等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0018】
本実施形態においては、樹脂製品110の表面のうち、無電解めっき皮膜を析出させる部分が選択的に改質される。例えば紫外線照射による選択的な改質は、例えば、析出させるめっきパターンに対応する紫外線透過部を有するマスクを介して紫外線を照射することにより、所望の改質部分120に選択的に紫外線を照射することができる。マスクの例を
図3に示す。
図3に示すフォトマスク300は、紫外線が透過する基板310と、基板310上に設けられ、紫外線が透過しない金属薄膜320とを有する。金属薄膜320は、開口が改質部分120に対応する形状を有するようにパターニングされている。このようなマスクの例としては石英クロムマスク等が挙げられる。また
図3において、320に相当する部分を紫外線が透過しない金属、セラミック、樹脂等の板やフィルムで形成し、310に相当する部分を開口部分としてもよい。このようなマスクの例としてはメタルマスク等が挙げられる。また、酸処理により改質を行う場合には、析出させるめっきパターンに対応した開口を有するマスクを樹脂製品110上に貼り付けて酸に浸漬することにより、所望の部分120を選択的に改質することができる。本実施形態では、選択的な改質を容易に行うことができる、紫外線照射により改質を行う方法が採用される。
【0019】
具体的には、酸素とオゾンとの少なくとも一方を含む雰囲気下で紫外線を照射することにより、樹脂製品110の表面が改質される。一実施形態においては、243nm以下の波長の紫外線が照射される。酸素を含む雰囲気下においては、243nm以下の波長を有する紫外線により、雰囲気中の酸素分子が分解されて、オゾンが発生する。更にオゾンが分解する過程で活性酸素が発生する。こうして発生した活性酸素が、同様に紫外線によって活性化された樹脂製品110の表面と反応して、樹脂製品110の表面が酸化されることにより、樹脂製品110の表面にカルボキシル基等の親水性基が形成される。このようにして、樹脂製品110の表面が、触媒イオンまたは樹脂製品110と触媒イオンを結合させるバインダー材を吸着しやすいように改質されると考えられる。
【0020】
改質原理を更に詳細に述べる。特定波長のフォトンのエネルギーは次の式で表せる。
E=Nhc/λ(KJ・mol
−1)
N=6.022×10
23mol
−1(アボガドロ数)
h=6.626×10
−37KJ・s(プランク定数)
c=2.988×10
8m・s
−1(光速)
λ=光の波長(nm)
【0021】
ここで、酸素分子の結合エネルギーは490.4KJ・mol
−1である。フォトンのエネルギーの式から、この結合エネルギーを光の波長へと換算すると約243nmとなる。このことは、雰囲気中の酸素分子は、波長243nm以下の紫外線を吸収し分解することを示している。これによりオゾンO
3が発生する。さらに、オゾンが分解する過程で活性酸素が発生する。このとき、波長310nm以下の紫外線が存在すると、効率よくオゾンが分解され、活性酸素が発生する。さらには、波長254nmの紫外線がオゾンを最も効率よく分解する。
O
2+hν(243nm以下)→O(3P)+O(3P)
O
2+O(3P)→O
3(オゾン)
O
3+hν(310nm以下)→O
2+O(1D)(活性酸素)
O(3P):基底状態酸素原子
O(1D):励起酸素原子(活性酸素)
【0022】
具体的には、波長243nm以下の紫外線を照射すると、雰囲気中の酸素は分解されてオゾンが生成する。さらに、オゾンが分解する過程で活性酸素が発生する。また、樹脂製品110の表面において、樹脂製品110を構成する分子中の結合も切断される。このとき、樹脂製品110を構成する分子と活性酸素とが反応し、樹脂製品110の表面が酸化され、すなわち樹脂製品110の表面にC−O結合、C=O結合、C(=O)−O結合(カルボキシル基の骨格部分)等が形成される。このような親水性基は、樹脂製品110とめっき皮膜130との化学的吸着性を増大させる。また、樹脂製品110表面の酸化により、特にめっきの前処理を行った後に微細な粗面が形成されるため、投錨効果により樹脂製品110とめっき皮膜130との物理的吸着性が増大する。さらに、改質された部分については、無電解めっきを行う場合に触媒イオンまたは樹脂製品110と触媒イオンを結合させるバインダーを選択的に吸着させることができる。
【0023】
このような紫外線は、継続的に紫外線を放射する紫外線ランプ又は紫外線LEDを用いて照射することができる。紫外線ランプの例としては、低圧水銀ランプ及びエキシマランプ等が挙げられる。低圧水銀ランプは、波長185nm及び254nmの紫外線を照射することができる。また、参考として、大気中で使用できるエキシマランプの例を以下に挙げる。エキシマランプとしては、一般的にはXe
2エキシマランプが用いられている。
Xe
2エキシマランプ :波長172nm
KrBrエキシマランプ:波長206nm
KrClエキシマランプ:波長222nm
【0024】
紫外線を樹脂製品110へと照射する際には、照射量が所望の値となるように、紫外線の照射が制御される。照射量は、照射時間を変えることにより制御することができる。また、照射量は、紫外線ランプの出力、本数、又は照射距離等を変えることにより制御することもできる。
【0025】
一実施形態において、より短い時間で十分にめっきを析出させる観点から、改質工程における紫外線の照射量は、波長185nmにおいて400mJ/cm
2以上、810mJ/cm
2以下である。例えば、波長185nmにおいて紫外線の照射強度が1.35mW/cm
2である一実施形態において、紫外線の照射時間は、十分に改質させる観点から5分間以上である。一方、一実施形態において、生産性を向上させる観点から、紫外線の照射時間は15分間以下である。以下、特に断りがない限り、紫外線の照射量及び照射強度は、波長185nmにおける値を指す。
【0026】
もっとも、めっきの析出条件は、めっき液の種類、樹脂の種類、再活性化工程の条件、樹脂表面の汚染度、めっき液の濃度、温度、pH、及び経時劣化、及び紫外線ランプの出力の変動等により変化するかもしれない。したがって、紫外線が照射された部分にのみ選択的にめっきが析出するように、紫外線ランプからの照射量を決定すればよい。
【0027】
また、紫外線源として紫外線レーザを用いることもできる。必要に応じて、紫外線ランプ又は紫外線LED、及び紫外線レーザを併用してもよい。例えば、無電解めっき皮膜を析出させる部分120を紫外線レーザで照射した後に、樹脂製品110全体に対して紫外線ランプ又は紫外線LEDを照射してもよい。この場合、所望の部分120は無電解めっき皮膜が析出する程度に改質され、その他の部分は無電解めっき皮膜が析出しない程度にしか改質されないように、紫外線レーザ、紫外線ランプ及び紫外線LEDの照射量が制御される。
【0028】
(立体化工程)
立体化工程(S220)では、改質工程において改質された樹脂製品110が、立体状に形成される。例えば、一実施形態においては、樹脂製品110を加熱することで形状を変化させた後、樹脂製品110を冷却することにより立体状に形成する。例えば、樹脂製品110を加熱により軟化させ、この状態で加圧することにより樹脂製品110を変形させることができる。その後樹脂製品110を冷却することにより、樹脂製品110を立体状に形成することができる。別の実施形態においては、樹脂製品110を加熱により軟化させることなく、加圧することにより樹脂製品110を変形させ、樹脂製品110を立体状に形成する。具体的な形成方法は特に限定されないが、一実施形態においては、樹脂製品110に対して熱プレスまたはプレスを行うことにより形成が行われる。立体状に形成された樹脂製品110の一例を
図1(B)に示す。
【0029】
加熱温度は、樹脂製品110が変形して立体化できるように、樹脂製品110の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、80℃以上200℃以下に樹脂製品110を加熱することにより、樹脂製品110を立体化させることができる。一実施形態においては、成形がより容易となるように、樹脂製品110のガラス転移温度Tgよりも高い温度に樹脂製品110が加熱される。
【0030】
加熱しない場合の加圧方法は特に限定されず、樹脂製品110が変形して立体化できるように、樹脂製品110に対して力を加える方法を適宜選択することができる。例えば、平板状の樹脂製品110を折り曲げるように力を加えることにより、樹脂製品110を変形させて立体化させることができる。
【0031】
熱プレス方法は特に限定されず、ヒーター、ホットプレート、ドライヤー、オーブン又は熱水等を用いて加熱を行いながら、機械等を用いてプレスを行うことができる。一実施形態においては、市販の加熱プレス機を用いてもよい。立体形状は特に限定されず、任意の形状にすることができる。
【0032】
(照射工程)
照射工程(S230)においては、立体状に形成された樹脂製品110の表面の所望の改質部分120を含む領域に、追加で改質工程が行われる。改質方法は特に限定されないが、本実施例では改質が容易な243nm以下の波長を有する紫外線が照射される。このとき、所望の改質部分120のみに、めっき皮膜が形成されるよう照射量は適宜調整される。
【0033】
本発明者は、樹脂製品110を改質した後に樹脂製品110を立体状に形成した場合、樹脂製品110にめっきを行っても改質部分120に十分にめっき皮膜が析出しないことがあることを見出した。例えば、熱プレスを用いて樹脂製品110を立体状に形成した場合、及び樹脂製品110に圧力を加えて折り曲げた場合には、改質部分120の一部にめっき皮膜が析出しなかった。特に、加熱された部分及び折り曲げられた部分においてめっき皮膜が析出しにくい傾向が見られた。本発明者による検討の結果、樹脂製品110を立体状に形成した後に追加的に紫外線を照射して再度樹脂製品110を改質することにより、改質部分120の全面にめっき皮膜を析出させることができることが判明した。一実施形態においては少なくとも樹脂製品110の加熱された部分及び折り曲げられた部分に対して再改質が行われる。もっとも、照射工程において、紫外線照射を用いて樹脂製品110を再改質することは必須ではない。例えば、光励起アッシング処理、プラズマアッシング処理、クロム酸等による酸処理、又は水酸化ナトリウム等によるアルカリ処理等により樹脂製品110を再改質することもできる。
【0034】
このような現象について、本発明者は以下のように推定している。すなわち、樹脂製品110の改質部分120が、樹脂製品110を立体状に形成する処理により失活したことが考えられる。その理由の1つとしては、改質部分を加熱した場合、吸着基の脱水縮合反応により吸着基が減少すること、及びガラス転移温度以上に加熱することで改質部分が酸化して消失することが考えられる。例えば、脱水縮合反応は−COOH + −OH → −COO−(エステル結合)+ H
2O↑ で表される。また、改質部分に圧力を加えた場合に、改質部分が樹脂製品110内に埋没すること考えられる。さらに、改質部分を折り曲げた場合に、折り曲げ部において樹脂が伸ばされた結果改質された樹脂の層が薄くなるため、めっき皮膜が析出しにくくなることが考えられる。また、改質部分を折り曲げた場合には、触媒イオンやバインダー材を吸着するためにはある程度の表面酸化が必要であるが、その酸化密度が低下するために、めっき皮膜が析出しにくくなることも考えられる。
【0035】
照射工程では、照射は立体状に形成された樹脂製品110の表面全体にされることができる。一実施形態において、照射は改質部分120と、改質部分120に隣接する部分との双方に対してされることができる。または、照射は樹脂製品110の表面上の所望の改質部分120を含む領域の一部分だけにされてもよい。失活した改質部分を再活性化する程度に照射量を設定することにより、改質部分120以外の部分にはめっき皮膜を析出させないことができる。このように、照射工程においてマスキング等により照射範囲を制限することは必須ではない。マスキング処理等を必要としない照射工程は、生産性の向上を可能にする。
【0036】
紫外線ランプ(装置)の例、紫外線照射量、紫外線源は、改質工程と同様であり詳細な説明は省略する。紫外線照射時間は、所望するパターンが析出するように、失活した部分を再活性化する程度の照射時間を設定する。照射時間が再活性するまでに足りなければ、所望するパターンのめっきの析出が不足するが、照射時間が長すぎる場合は、所望するパターン以外の部分に析出する。照射時間の設定は、樹脂の材質、紫外線照射の条件、めっきの条件、温度等により変化してもよい。例えば、波長185nmにおいて紫外線の照射強度が1.35mW/cm
2である一実施形態において、紫外線の照射時間は1分以上2分30秒未満である。紫外線の照射時間が1分未満では、再活性化が十分ではなく、所望するパターンのめっき皮膜の析出が不足する可能性がある。また、紫外線の照射時間が2分30秒以上では、所望するパターン以外の部分にめっき皮膜が析出する可能性がある。
【0037】
(無電解めっき工程)
無電解めっき工程(S240)においては、照射工程において紫外線が照射された樹脂製品110に無電解めっきが行われる。無電解めっきにより、樹脂製品110の改質部分120上にめっき皮膜を設けることができる。無電解めっき工程では、樹脂に対する無電解めっきにおいて既に用いられている方法と同様の方法を用いることができる。例えば、無電解めっき工程はJCU社製Cu−Niめっき液セット「AISL」等の無電解めっき液セットを用いて行うことができる。
【0038】
無電解めっき工程においては、
図1(C)に示すように、樹脂製品110に無電解めっきを行うことにより、樹脂製品110の改質部分120に選択的にめっき皮膜130が析出する。一実施形態において、めっき皮膜は、立体状である樹脂製品110の改質部分120の上に、連続的に、且つ、薄く形成される。ここで連続的にとは、めっき皮膜が、ひび割れ、断裂、断線がない状態を意味する。連続的なめっき皮膜130を得るために、めっき皮膜130の厚さは、一実施形態においては0.01μm以上であり、さらなる実施形態においては0.1μm以上である。また、本実施形態の方法によれば薄いめっき皮膜130を得ることが容易であり、めっき皮膜130の厚さは一実施形態においては5.0μm以下であり、さらなる実施形態においては0.4μmである。紫外線により樹脂製品110を改質する一実施形態においては、改質部分120にはナノレベルの凹凸が生じているため、析出しためっき皮膜130と樹脂製品110との間の投錨効果により高い密着が得られる。
【0039】
具体的な無電解めっきの方法については、特に限定されない。採用可能な無電解めっきの例としては、ホルマリン系無電解めっき浴を用いた無電解めっき、及び析出速度は遅いが取り扱いが容易である次亜リン酸を還元剤として用いた無電解めっき等が挙げられる。析出されるめっき皮膜の種類は、触媒により析出可能であるならば金属には限定されない。一実施形態においては、金属酸化物であるセラミックの皮膜が形成される。また、より厚いめっき膜を形成するために、高速無電解めっき法によりめっき皮膜130を形成してもよい。無電解めっきのさらなる具体例としては、無電解ニッケルめっき、無電解銅めっき、無電解銅ニッケルめっき、酸化亜鉛めっき等があげられる。
【0040】
一実施形態において、無電解めっきは以下の方法で行うことができる。
1.樹脂製品をアルカリ溶液に浸漬し、脱脂を行い、親水性を高める。
2.カチオンポリマーのような、樹脂製品と触媒イオンとのバインダーを含有する溶液に浸漬する。
3.樹脂製品を触媒イオン入りの溶液に浸漬する。
4.樹脂製品を還元剤を含有する溶液に浸漬し、触媒イオンを還元及び析出させる。
5.析出した触媒上にめっきを析出させる。
【0041】
図1(D)に示すように、めっき皮膜130の膜厚を増加させるために、樹脂製品110に対してさらに電解めっきを行ってもよい。電解めっきの具体的な方法は特に限定されず、例えばニッケルめっき、銅めっき、又は銅ニッケルめっき等を行うことができる。さらに、電解めっきの材料として、亜鉛、銀、カドミウム、鉄、コバルト、クロム、ニッケル−クロム合金、スズ、スズ−鉛合金、スズ−銀合金、スズ−ビスマス合金、スズ−銅合金、金、白金、ロジウム、パラジウム、パラジウム−ニッケル合金、又は酸化亜鉛等が挙げられる。また、必要に応じて銀などの置換めっき処理を追加しても差し支えない。本実施形態の方法によれば、めっき皮膜140の厚さは一実施形態においては100μm以下である。
【0042】
上記の工程により、めっき皮膜付樹脂製品110が得られる。所望の配線パターンに従って樹脂製品110をめっきすることにより得られためっき皮膜付樹脂製品110は、配線板として用いることが可能である。
【0043】
また、めっき皮膜付樹脂製品110は、ディスプレイ用の導電膜として使用可能である。近年、テレビ及びスマートフォン等のディスプレイを備える装置において、装置自体の小型化が求められる一方、視認性向上のための大画面化が求められている。ディスプレイにおいては、中央領域が表示領域に対応し、周辺領域に配線が設けられている導電膜が用いられることが多い。装置を大型化させずに表示領域を大きくするという相反する要求を満足させるため、配線が設けられたディスプレイの周辺領域(いわゆる額縁領域)を小さくするための競争が盛んである。しかしながら、額縁領域を小さくするために配線ピッチを小さくするというアプローチは、一般にレーザ加工等の高いコストを伴うプロセスを必要とする。一方で、本実施形態によれば、中央領域の配線と周辺領域の配線とが導通している状態で、中央部分と周辺領域との間が折り曲げられている導電膜を容易に製造することができる。周辺領域を内側に折り曲げることにより、額縁領域を可能な限り小さくすることが可能となる。
【0044】
[実施形態2]
一般に、タッチパネルは、液晶画面等のディスプレイ上に、接触を感知するための透明導電膜が積層された構造を有する。透明導電膜としては、例えば、接触を感知するためのメッシュ状の配線パターンが形成された樹脂フィルムを用いることができる。
【0045】
一般的なタッチパネルの表面は平面又は平滑な曲面である。このため、いわゆるブラインドタッチを行うことは困難であった。例えば、視覚障害者がタッチパネルを操作することは容易ではなかった。また、タッチパネルに注目することが困難な状況、例えば運転中において、タッチパネルを操作することも容易ではなかった。特開2015−5279号公報には、タッチパネル上にカバーを設けることによりこのような課題を解決することが記載されているが、一方で表示画面の視認性が損なわれ、またカバー部分についてはセンサー機能が働かないという課題が生じていた。
【0046】
このような課題を解決するためには、タッチパネルに凹凸をつけて操作を容易にすることが望まれる。例えば、キーボード形状の凹凸又はスイッチ形状の凹凸を設けることにより、タッチパネルを見ないで操作することが容易になると考えられる。例えば、特開201
4−127017号公報には、タッチセンサシートに凹凸を設けることが記載されている。特に、特開201
4−127017号公報には、タッチパネルでよく用いられるITO透明電極は柔軟性が低く凹凸を設けた際に断線しやすいという課題に鑑み、凹凸部における電極の材料として伸縮性のある銀ペースト等を用いることが記載されている。
【0047】
しかしながら、銀ペーストで構成された電極は抵抗が大きいという課題があり、特に大きいタッチパネルを作製する場合にこの課題は顕著になる。また、銀ペーストを用いる方法では微細な電極パターンを設けることが容易ではないことに加え、生産工程が複雑になるため生産コストの点で課題を有していた。
【0048】
実施形態2では、実施形態1の方法を応用して、表面に凹凸を有するディスプレイ用導電膜を作製する。本実施形態に係る製造方法においては、樹脂製品110として、ディスプレイ用導電膜の基材として使用可能な、フィルム状の樹脂製品が用いられる。また、ステップS210においては導電膜用の配線パターンに従って無電解めっき皮膜が析出するように改質が行われる。さらに、ステップS220においては樹脂製品110の表面に凹凸を設けるように、樹脂製品110が立体状に成形される。その他の工程は、実施形態1と同様に行うことができる。
【0049】
ステップS220においては、例えば、所望の凹凸形状を有する型を用いて樹脂製品110を熱プレスすることにより、樹脂製品110の表面に凹凸を設けることができる。設けられる凹凸は、例えば、樹脂製品110の表面を規定する平面又は曲面から突出した又はへこんだ部分であってもよい。ステップS220において設けることができる凹凸形状の例を
図7に示す。隣接する樹脂製品110の表面からの凸部の高さ又は凹部の深さは特に制限されないが、例えば0.1mm以上1cm以下であってもよい。
【0050】
本実施形態によれば、凸部又は凹部の表面と、この凸部又は凹部に隣接する樹脂製品110の表面と、の間に連続して設けられているめっき皮膜130により構成される配線パターンと、を備える導電膜が得られる。ステップS230において改質部分120、特に凸部又は凹部とこの凸部又は凹部に隣接する部分との間が再活性化されるため、ステップS240において連続した配線パターンを形成することができる。
【0051】
本実施形態の方法によれば、導電膜の配線パターンは、導電膜に凹凸形状をつけた後にめっきにより形成される。このため、凹凸部位においても連続している配線パターンを導電膜に設けることができる。また、形成される凹凸形状に特に制限はない。さらに、配線パターンは連続しためっき皮膜で構成されるため、配線パターンの電気抵抗が低い。このため、本実施形態により得られた導電膜は大画面のタッチパネルに適用することが容易である。また、紫外線による改質の位置選択性が高いため、微細な配線パターンを設けることが容易である。このため、本実施形態によれば光透過性が高く、導電膜の裏側の視認性が高い透明導電膜を容易に作製することができる。
【0052】
(変形例)
図8は、ステップS210において凹凸が形成された樹脂製品110の例を示す。
図8(A)に示すように、フィルム状の樹脂製品110が均一な厚さを有するように、例えば熱プレスを用いて凹凸を形成することができる。一方で、
図8(B)に示すように、フィルム状の樹脂製品110の厚さが異なるように、例えば熱プレスを用いて凹凸を形成することもできる。具体例としては、樹脂製品110の凸部においては他の部分よりも樹脂製品110の厚みが大きくなるように、樹脂製品110に凹凸を形成することができる。また、樹脂製品110の凹部においては他の部分よりも樹脂製品110の厚みが小さくなるように、樹脂製品110に凹凸を形成することができる。このような実施形態によれば、得られた導電膜をディスプレイに貼り付けた際に、樹脂製品110の凸部等を押しても透明導電膜が変形しないという効果が得られる。
図8(B)に示す実施形態において、配線パターンは樹脂製品110のどちらの面に形成されてもよいが、一実施形態においては、配線パターンは凹凸を有する面に形成される。いずれにしろ、熱プレス等を用いて樹脂製品110を立体状に成形する際には改質部分120が消失しやすいが、ステップS230における照射工程により改質部分120は再活性化される。
【0053】
さらなる実施形態においては、
図8(C)に示すように樹脂製品110の凹部には充填物810が充填される。このような構成によれば、フィルム状の樹脂製品110が均一な厚さを有する場合であっても、得られた導電膜をディスプレイに貼り付けた際に、樹脂製品110の凸部等を押しても透明導電膜が変形しないという効果が得られる。充填物810としては、視認性を確保するために透明充填物を用いることができる。透明充填物としては特に限定されず、例えば透明樹脂を用いることができる。
【0054】
充填物810の例としては、複数の繊維状の結晶により構成された固体が挙げられ、具体例としてはウレキサイト(テレビ石)が挙げられる。また、石英ガラスを束ねた人工テレビ石を用いることもできる。このような固体は、光ファイバーを束ねたような構造を有しており、一方向から入った光を反対側に届ける機能を有する。このような固体を用いることにより、ユーザにはディスプレイ上の画像が固体表面上に浮き出しているように視認されるという効果が得られる。
【0055】
充填物810の別の例としてはアクチュエータが挙げられる。アクチュエータは、信号に応じて長さ又は大きさ等を変更可能な装置であり、アクチュエータを挿入することにより、充填物810が挿入されている樹脂製品110の凸部を変形させることができる。例えば、樹脂製品110に矩形のボタン状の凸部を形成した場合、アクチュエータを用いて、凸部上に文字又は数字等の図形を浮かびあがらせることができる。
【0056】
また、樹脂製品110上に、接触入力を感知するための配線パターンに加えて、文字又は数字等の図形パターンをめっきにより設けることもできる。このような構成によれば、例えば、樹脂製品110に矩形のボタン状の凸部を形成するとともに、この凸部上にボタンを説明する文字又は数字等を設けることができる。この場合、樹脂製品110の片方の面には配線パターンを形成し、他方の面には図形パターンを形成することができる。また、樹脂製品110上に文字又は数字等の形状を有する凸部を直接形成し、その上に配線パターンを形成してもよい。
【0057】
[実施形態3]
実施形態1の方法は、樹脂製品110の一部、例えば樹脂製品110の1つの面全体にめっきを行う場合だけでなく、樹脂製品110の全面にめっきを行う際に利用することもできる。立体状の樹脂製品110の全面に紫外線を照射するためには特殊な紫外線照射装置が必要とされる。しかしながら、実施形態1の方法によれば、平面状の樹脂製品110に紫外線を照射した後に、樹脂製品110は立体状に成形される。このため、特殊な紫外線照射装置を用いることは必須ではない。このような場合でも、熱プレス等を用いて樹脂製品110を立体状に成形する際には改質部分120が消失しやすいが、ステップS230における照射工程により改質部分120は再活性化されるため、均一なめっき被膜が得られるという効果が期待される。
【0058】
また、実施形態1の方法は、装飾めっきが施された3次元形状のめっき皮膜付樹脂製品を製造するためにも利用可能である。例えば、実施形態1の方法を応用して、全面にめっきがなされたキーボードを作製することも可能であるし、キートップ部分に文字または数字等の図形形状のめっき被膜が設けられたキーボードを作製することもできる。
【0059】
さらに、配線パターンは樹脂製品110の片面だけでなく両面に形成してもよい。これにより例えば、タッチパネルのX電極とY電極とを1つの樹脂製品110に形成することができる。
【0060】
上述の各実施形態に従って形成されためっき皮膜付樹脂製品は、例えば、導電膜、透明導電膜、ディスプレイ用電極、タッチパネル用電極、太陽電池用電極、電磁波シールド、又はアンテナとして用いることができる。
【0061】
[実施例1]
樹脂製品としては、シート状のシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製,ゼオノアフィルムZF−16,厚さ100μm)を用いた。この樹脂製品のガラス遷移温度は160℃である。
【0062】
[改質工程]
まず、
図3に示すフォトマスク300を樹脂製品上にセットした。基板310としては合成石英基板が用いられ、金属薄膜320としてはクロム薄膜が用いられた。
図3において、ハッチング部は紫外線を透過しない部分を示す。
【0063】
次に、紫外線マスクを介して紫外線を照射した。本実施例で用いた紫外線ランプ(低圧水銀ランプ)の詳細について以下に示す。
低圧水銀ランプ:サムコ社製UV−300(主波長185nm,254nm)
照射距離3.5cmにおける照度:5.40mW/cm
2(254nm)
1.35mW/cm
2(185nm)
【0064】
具体的には、樹脂製品に対して、上記の紫外線ランプを用いて、1.35mW/cm
2(185nm)の紫外線を、紫外線ランプから3.5cm離して10分間照射した。この場合、積算露光量は1.35mW/cm
2×600秒=810mJ/cm
2となる。
【0065】
改質後の樹脂製品400を
図4(A)に示す。樹脂製品400は、紫外線が照射された改質部分410を有している。
【0066】
[立体化工程]
次に、樹脂製品に対して190℃で熱プレスを行うことにより、樹脂製品を立体状に形成した。具体的には、
図5に示す装置500を用いて形成を行った。
図5(A)に示されるように、樹脂製品510は、固定部材530により固定された状態で、温度が190℃に設定されたヒーター540により加熱された。ヒーター540としてはアズワン社製、ディジタルホットプレートDP−2Sを用いた。この状態で、加熱した押圧部材520で樹脂製品510に5分間圧力を加えた。樹脂製品510に圧力が加えられている様子を
図5(B)に示す。こうして、樹脂製品510は立体状に形成された。得られた樹脂製品400を
図4(B)に示す。
【0067】
[照射工程]
次に、樹脂製品400に紫外線を1分30秒間照射した。紫外線の照射条件は、改質工程と同様であった。
【0068】
[めっき工程]
次に、JCU社製Cu−Niめっき液セット「AISL」を使用して、樹脂製品400に対して無電解めっきを行った。具体的な処理条件は以下の通りである。各工程の終了後には、1次水洗(常温の純水中で樹脂製品400を3往復させる)及び2次水洗(50℃の純水中で1分間(コンディショナ工程後は5分間)攪拌する)を行った。
【0070】
表1に示す工程に従って無電解めっきを行ったところ、改質工程において紫外線照射により改質された改質部分410の全面にめっき皮膜が形成されていた。一方で、改質部分410以外にはめっき皮膜は形成されていなかった。本実施例においてめっき皮膜420が形成された樹脂製品400を
図4(C)に示す。
【0071】
[実施例2]
実施例2では、照射工程において樹脂製品400への紫外線照射時間を1分間とした。照射工程以外は実施例1と同様に行われた。
【0072】
表1に示す工程に従って無電解めっきを行ったところ、改質工程において紫外線照射により改質された改質部分410の一部分にめっき皮膜が形成されなかった領域があった。だが、改質部分410の細い領域は断線していなかった。一方で、改質部分410以外にはめっき皮膜は形成されていなかった。
【0073】
[実施例3]
実施例3では、照射工程において樹脂製品400への紫外線照射時間を2分30秒間とした。照射工程以外は実施例1と同様に行われた。
【0074】
表1に示す工程に従って無電解めっきを行ったところ、改質工程において紫外線照射により改質された改質部分410の全面にめっき皮膜が形成されていた。一方で、改質部分410以外にも部分的にめっき皮膜の形成がみられた。
【0075】
[比較例1]
比較例1では、照射工程を行わなかった。改質工程、立体化工程、及びめっき工程は実施例1と同様に行われた。
【0076】
表1に示す工程に従って無電解めっきを行ったところ、改質工程において紫外線照射により改質された改質部分410の中にはめっき皮膜が形成されていない領域が存在した。また、改質部分410の細い領域は断線していた。本実施例においてめっき皮膜420が形成された樹脂製品400を
図4(D)に示す。
【0077】
[比較例2]
比較例2では、改質工程の後、めっき工程を行い、その後立体化工程を行った。一方で、照射工程は行わなかった。改質工程、立体化工程、及びめっき工程は実施例1と同様に行われた。
【0078】
得られた樹脂製品400を確認したところ、めっき皮膜420のうち熱プレス時に圧力が加えられた部分に黒化変色及びひび割れが見られた。
【0079】
[実施例4]
実施例4では、樹脂製品としては、シート状のシクロオレフィンポリマー(日本ゼオン株式会社製,ゼオノアフィルムZF−14,厚さ100μm)を用いた。改質工程は実施例1と同様に行われた。改質後の樹脂製品600を
図6(A)に示す。樹脂製品600は、紫外線が照射された改質部分610を有している。
【0080】
立体化工程において、樹脂製品に加熱を行うことなく力を加え折り曲げることにより、樹脂製品を立体状に形成した。具体的には、
図6(B)に示されるように、樹脂製品600は立体化された。次に、
図6(C)に示されるように、照射工程において、固定部材630によって立体形状が固定された状態で、樹脂製品600への紫外線の照射が行われた。具体的には、紫外線ランプ640を用いて、樹脂製品600の折り曲げ部620に紫外線が照射された。紫外線の照射時間は2分間であった。紫外線の照射条件は、照射距離が折り曲げ部620から3.5cmであったことを除き、改質工程と同様であった。次に、めっき工程が実施例1と同様に行われた。
【0081】
めっき工程後の樹脂製品600を
図6(D)に示す。樹脂製品600は、無電解銅ニッケルめっきにより形成されためっき皮膜611を有していた。無電解めっきを行ったところ、改質工程において紫外線照射により改質された改質部分610の全面にめっき皮膜611が形成されていた。一方で、改質部分610以外にはめっき皮膜は形成されていなかった。折り曲げ部621においても改質部分610にめっき皮膜611が形成されていた。折り曲げ部621を挟んでめっき皮膜611に電流を流す実験により、折り曲げ部621を挟んでめっき皮膜611は導通していること、すなわちめっき皮膜611が連続していることが確認された。
【0082】
[比較例3]
比較例3においては、照射工程を行わず、改質工程、立体化工程、及びめっき工程を実施例4と同様に行うことにより、めっき皮膜付樹脂製品を作製した。比較例3で得られためっき皮膜付樹脂製品においては、折り曲げ部においてめっき皮膜が十分に形成されていなかった。また、折り曲げ部を挟んでめっき皮膜が導通していることは確認できなかった。
【0083】
以上のように、まず改質工程を行い、次に立体化工程を行い、後に照射工程を行い、最後にめっき工程を行うことにより、改質工程において改質された部分に十分にめっき皮膜が析出することが確認された。