(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.第1実施形態:
A1.スパークプラグの構成:
図1は、本発明の一実施形態におけるスパークプラグ100の部分断面図である。スパークプラグ100は、軸線Oに沿った細長形状を有している。
図1において、一点破線で示す軸線Oの右側は、外観正面図を示し、軸線Oの左側は、軸線Oを通る断面図を示している。以下の説明では、
図1の下方側をスパークプラグ100の先端側と呼び、
図1の上方側を後端側と呼ぶ。
図1のXYZ軸は、他の図のXYZ軸と対応している。軸線OとZ軸とは平行であり、+Z方向は軸線方向でもある。
図1において、スパークプラグ100の先端側が+Z方向であり、スパークプラグ100の後端側が−Z方向である。単に「Z方向」というときは、Z軸に平行な方向(Z軸に沿った方向)をいう。このことは、X軸及びY軸についても同様である。
【0013】
スパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、主体金具50とを備える。絶縁体10は、自身の外周の少なくとも一部が筒状の主体金具50によって保持され、軸線Oに沿った軸孔12を有する。この軸孔12には、中心電極20が設けられている。接地電極30は、主体金具50の先端面57に固定され、中心電極20との間に放電ギャップGを形成する。
【0014】
絶縁体10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成された絶縁碍子である。絶縁体10は、先端側に中心電極20の一部を収容し、後端側に端子金具40の一部を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の部材である。絶縁体10の軸方向中央には外径を大きくした中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも後端側には、後端側胴部18が形成されている。中央胴部19よりも先端側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成され、先端側胴部17のさらに先には、先端側胴部17よりも小さい外径であって先端側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。脚長部13の基端には、後述する金具内段部56に対向する対向部15が形成されている。
【0015】
主体金具50は、軸線方向に延び、絶縁体10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を包囲して保持する筒穴を備える円筒状の金具である。主体金具50は、例えば、低炭素鋼により形成され、全体にニッケルめっきや亜鉛めっき等のめっき処理が施されている。主体金具50は、後端側から順に、工具係合部51と、シール部54と、取付ネジ部52とを備える。工具係合部51は、スパークプラグ100をエンジンヘッドに取り付けるための工具が嵌合する。取付ネジ部52は、エンジンヘッドの取付ネジ孔に螺合するネジ山を有する。本実施形態では、取付ネジ部52の径は、12mmである。取付ネジ部52の径のことを、呼び径Mとも呼ぶ。シール部54は、取付ネジ部52の根元に鍔状に形成されている。シール部54とエンジンヘッドとの間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。主体金具50の先端面57は、中空の円状であり、その中央からは、絶縁体10の脚長部13と中心電極20とが突出する。
【0016】
主体金具50の工具係合部51より後端側には厚みの薄い加締部53が設けられている。また、シール部54と工具係合部51との間には、加締部53と同様に厚みの薄い圧縮変形部58が設けられている。工具係合部51から加締部53にかけての主体金具50の内周面と絶縁体10の後端側胴部18の外周面との間には、円環状のリング部材6,7が介在されており、さらに両リング部材6,7間にタルク(滑石)9の粉末が充填されている。スパークプラグ100の製造時には、加締部53を内側に折り曲げるようにして先端側に押圧することにより圧縮変形部58が圧縮変形し、この圧縮変形部58の圧縮変形により、リング部材6,7及びタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。この押圧により、タルク9が+Z方向に圧縮されて主体金具50内の気密性が高められる。
【0017】
主体金具50の内周においては、取付ネジ部52の位置に形成され、内周方向に張り出した金具内段部56に、環状の板パッキン8を介し、絶縁体10の脚長部13の基端に位置する対向部15が押圧されている。この板パッキン8は、主体金具50と絶縁体10との間の気密性を保持する部材であり、燃焼ガスの流出を防止する。
【0018】
中心電極20は、中心電極母材21の内部に、中心電極母材21よりも熱伝導性に優れる芯材22が埋設された棒状の部材である。中心電極母材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金からなり、芯材22は、銅又は銅を主成分とする合金からなる。
【0019】
中心電極20の後端部近傍には、外周方向に張り出した形状の鍔部23が形成されている。鍔部23は、軸孔12に形成された軸孔内段部14に後端側から当接して、中心電極20を絶縁体10内で位置決めする。中心電極20は、セラミック抵抗体3及びシール体4を介して端子金具40に電気的に接続される。シール体4は、絶縁体10と中心電極20とを封着する。
【0020】
中心電極20は、シール体4によって、次のように軸孔12内に固着されている。まず、軸孔12の後端側から中心電極20を挿入し、その上から、シール体4の材料粉末(例えば、銅粉末とホウケイ酸ガラス粉末とを1:1に混合した粉末)を充填し、押し棒で押圧する。さらに、その上からセラミック抵抗体3の材料粉末(ZrO
2粉末、アルミナ粉末、カーボンブラック、ガラス粉末、PVAバインダー等を混合した粉末)を充填し、押し棒で押圧する。さらに、その上から再度、シール体4の材料粉末を充填し、押し棒で押圧した後、軸孔12の後端に端子金具40を差し込む。そして、端子金具40を押し込みながら絶縁体10を加熱して、軸孔12内のシール体4の材料粉末とセラミック抵抗体3の材料粉末とを溶融させ、その後冷却する。すると、軸孔12内でシール体4とセラミック抵抗体3とが凝固し、中心電極20が軸孔12内に固着される。中心電極20をシール体4によって軸孔12内に固着する工程を、「ガラスシール工程」とも呼ぶ。
【0021】
接地電極30は、耐腐食性の高い金属から構成される。耐腐食性の高い金属としては、例えば、インコネル(商標名)600やインコネル601等の、ニッケルを主成分とするニッケル合金が用いられる。接地電極30の基端は、主体金具50の先端面57に溶接されている。本実施形態では、接地電極30は、接地電極30の先端部分の一側面が中心電極20と対向するように、中間部分が屈曲されている。接地電極30は、その先端部32に、もう一方の電極である中心電極20に向けて突出し、放電ギャップGを形成する放電チップ80を備えている。
【0022】
図2は、スパークプラグ100の一部を拡大して示す拡大断面図である。
図2に示す断面は、軸線Oを含み、軸線Oに沿った断面である。上述したように、主体金具50の金具内段部56には、板パッキン8を介在して、絶縁体10の対向部15が後端側から接触する。また、絶縁体10は、自身の内周に、中心電極20の鍔部23が接触する部分(接触部16)を有する軸孔内段部14を備えており、この接触部16には、後端側から中心電極20の鍔部23が接触する。
【0023】
図2には、対向部15の後端P1から、接触部16の後端P2までの、軸線Oに沿った距離L(mm)が示されている。本実施形態では、距離Lは、以下の式(1)を満たす。
【0025】
また、
図2には、シール体4が配置された部分の軸孔12の径Rsと、鍔部23よりも先端側の中心電極20の最大の径Rcとを示している。径Rsと径Rcとは、Y方向と平行である。本実施形態では、径Rsは以下の式(2)を満たし、径Rcは、以下の式(3)を満たすことが好ましい。
【0026】
Rs≦3.9(mm)・・・式(2)
Rc≦2.3(mm)・・・式(3)
【0027】
以上で説明した本実施形態のスパークプラグ100は、式(1)を満たすため、対向部15の後端P1を含むXY平面を底面とし、接触部16の後端P2を含むXY平面を上面とした、底面から上面までの領域(距離Lの領域)の静電容量を低下させることができるので、スパークプラグ100の電極の消耗を抑制することができる。
【0028】
以下、式(1)を満たすようにスパークプラグ100を構成することの根拠について、実験結果に基づいて説明する。
【0029】
A2.実験内容及びその実験結果:
図3は、距離Lとギャップ増加量の変化率との関係を示す図である。本実験では、まず、径Rcが2.3mm、径Rsが3.9mmであり距離Lがそれぞれ異なるスパークプラグ100のサンプル1〜7と、径Rcが2.3mm、径Rsが3.0mmであり距離Lがそれぞれ異なるサンプル8〜14と、径Rcが1.9mm、径Rsが3.9mmであり距離Lがそれぞれ異なるサンプル15〜24と、を作製した。スパークプラグ100の呼び径Mは、12mmである。次に、以下の条件において実験を行った。測定条件としては、大気雰囲気下で圧力を2.6Mpaとし、1秒間に100回(100Hz)の点火を5時間行った。そして、実験開始前と開始後の接地電極と中心電極の消耗度合いであるギャップの増加量(ギャップ増加量(mm))を測定し、ギャップ増加量の変化率(%)を算出した。「ギャップ増加量の変化率(%)」は、従来品に対する電極の消耗の変化率を示し、以下の式(4)により算出される。なお、
図3に示した各サンプルのギャップ増加量と変化率は、同じ径Rcと径Rsと距離Lとを有するサンプルを3つ作製して実験を行った結果の平均値である。
【0030】
{(サンプルの電極間のギャップ増加量/従来品(L=1.8mm)の電極間のギャップ増加量)−1}×100・・・式(4)
【0031】
実験後のギャップ増加量が小さいほど、電極の消耗が抑制されていると言え、変化率(%)が小さいほど、従来品に対して電極の消耗が少ないと言える。また、「判定」の欄は、以下の基準により、「○」または「×」を付した。なお、「判定」の欄が「−」のスパークプラグは、従来品であり、比較対象であることを示す。
【0032】
変化率が−5%以上の場合:×
変化率が−5%未満の場合:○
【0033】
図3の結果から、上記式(1)を満たすことにより、変化率が減少しており、電極の消耗が抑制されていることがわかる。具体的には、
図3の結果から、上記式(1)を満たすスパークプラグであるサンプル3〜7、10〜14、17〜21は、変化率が−5%未満であったことがわかる。
【0034】
図4は、距離Lと変化率との関係を示す図である。
図4において、径Rcが2.3mm、径Rsが3.9mmのデータを「◆」で示し、径Rcが2.3mm、径Rsが3.0mmのデータを「
■」で示し、径Rcが1.9mm、径Rsが3.9mmのデータを「
▲」で示す。
【0035】
図4の結果から、径Rcと径Rsとの値の組合せにより多少の差はあるが、距離Lが短くなるほど変化率が減少しており、電極の消耗が抑制されていることがわかる。以上の結果より、距離L(mm)は式(1)を満たすことが好ましいことが示された。
【0036】
図5は、距離Lと変化率と呼び径Mとの関係を示す図である。本実験では、さらに、呼び径Mによる、距離Lと変化率との関係を調査するため、呼び径Mごとに、距離Lが異なる複数のスパークプラグを作製した。なお、いずれのスパークプラグも、径Rcは2.3mm、径Rsは3.9mmである。実験条件は、
図3及び
図4で説明した距離Lと変化率の関係を求めるために用いた条件と同じである。
【0037】
図5には、呼び径Mが12mmのデータを「◆」で示し、呼び径Mが10mmのデータを「■」で示す。
図5の結果から、呼び径Mが12mm以下のスパークプラグでは、距離Lが短くなるほど変化率が減少していることがわかる。さらに、呼び径Mが小さいスパークプラグほど、距離Lが短くなるにつれ、変化率が減少しており、電極の消耗がより抑制されていることがわかる。以上の結果より、呼び径Mが12mm以下の場合において、距離L(mm)は式(1)を満たすことが好ましいことが示された。
【0038】
A3.推定メカニズム:
距離Lを式(1)の範囲とすることにより、変化率が向上する推定メカニズムを、以下に説明する。
【0039】
図6は、スパークプラグ100を同軸円筒コンデンサーとみなした模式図である。
図2で説明した距離Lの領域は、
図6における中心電極20を中心導体とし、主体金具50を外部導体とする、同軸円筒コンデンサー(cylindrical condenser)とみなすことができる。同軸円筒コンデンサーの静電容量Cは、以下の式(5)によって求められる。式(5)において、「a」は中心導体の外径の半径であり、「b」は外部導体の内径の半径であり、Lは同軸の長さであり、ε
0は真空の誘電率である。スパークプラグ100に置きかえると、「a」は中心電極20の外径の半径(Rc/2)に相当し、距離「b」は主体金具50の内径の半径に相当し、Lは距離Lに相当する。
【0041】
式(5)から明らかなように、同軸円筒コンデンサーでは、同軸の長さLが短くなるほど静電容量が低くなる。すなわち、スパークプラグ100では、距離Lが短くなるほど静電容量が低くなる。本実施形態のスパークプラグ100では、距離Lが式(1)の範囲であり比較的短いため、距離Lの領域の静電容量を低下させることができる。
【0042】
図7は、スパークプラグ100の等価回路を示す図である。スパークプラグ100は、コンデンサーとみなすことができ、スパークプラグ100に溜められた電荷は、放電時にギャップG間を流れる。このため、スパークプラグ100の静電容量を抑えることにより、放電発生時のエネルギー(容量電流)が下がる。この結果として、中心電極20および接地電極30の消耗を抑制することができると考えられる。
図7においては、セラミック抵抗体3と先端側のシール体4と、の境界よりも先端側をコンデンサーC1で示し、セラミック抵抗体3と先端側のシール体4と、の境界よりも後端側をコンデンサーC2で示す。また、
図7において、セラミック抵抗体3の内部抵抗を抵抗Rと示し、中心電極20と接地電極30とのギャップをギャップGと示す。
【0043】
コンデンサーC2から流れる電流は、抵抗Rを流れることにより、電流値が大きく下げられる。一方、コンデンサーC1から流れる電流は、抵抗Rを経由せず電流がギャップG間に流れる。このため、ギャップG間での放電発生時の容量電流に対しては、コンデンサーC1から流れる電流の寄与が大きいと考えられる。式(5)より、「a」の値と「b」の値とが近くなるほど、静電容量は高くなる。スパークプラグ100の距離Lの領域では、主体金具50の内周面と中心電極20の外周との距離が、スパークプラグ100の他の領域と比較して短いために、他の領域と比べて容量電流に影響を与えやすいと考えられる。そのため、コンデンサーC1の静電容量を抑えることにより、中心電極20および接地電極30の消耗を抑制することができる。
【0044】
本実施形態では、距離Lの値を短くすることにより、コンデンサーC1の静電容量を小さくすることができ、この結果として電極の消耗を抑制できると考えられる。また、距離Lの値を短くしても、スパークプラグ100の他の性能(例えば、耐熱性、耐汚損性、耐リーク性)に影響を与える割合が小さいにもかかわらず、電極の消耗を抑制できる。さらに、電極の材料を変更することなく、電極の消耗を抑制できる。
【0045】
なお、スパークプラグ100の呼び径Mが小さくなるほど、主体金具50の内周面と中心電極20の外周との距離が近くなるため、静電容量は高くなる。しかし、本実施形態のスパークプラグは、距離Lを式(1)の範囲とすることで、呼び径Mが12mm以下と比較的小さいスパークプラグ100であっても、距離Lの領域の静電容量を抑えることにより、電極の消耗を抑制することができる。
【0046】
B:第2実施形態:
B1.スパークプラグの構成:
図8は、第2実施形態のスパークプラグ100aの一部を拡大して示す拡大断面図である。
図8に示す断面は、軸線Oを含み、軸線Oに沿った断面である。
図8には、距離Lと、角度θAと、角度θBと、が示されている。角度θAは、断面において、軸線Oに直交する基準線(軸孔内段部14の先端P3から前記軸線Oに引いた垂線)と、絶縁体10に中心電極20の鍔部23が接触する部分である接触部16と、で形成される鋭角の角度である。角度θBは、断面において、軸線Oに直交する基準線(絶縁体10の対向部15の先端P4から軸線Oに引いた垂線)と、対向部15の先端P4と接触部16の後端P2とを結ぶ直線と、で形成される鋭角の角度である。本実施形態のスパークプラグ100aは、上述の式(1)を満たすのに加えて、さらに、距離Lが以下の式(
7)を満たす。また、角度θAと角度θBとの合計(θA+θB)(°)は、以下の式(
6)を満たす。なお、スパークプラグ100aのその他の構成は、第1実施形態のスパークプラグ100と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
θA+θB≧90°・・・(6)
L≧0.5(mm)・・・(7)
【0048】
以上で説明した本実施形態のスパークプラグ100aは、式(1)を満たすため、第1実施形態のスパークプラグ100と同様の効果を奏する。さらに、スパークプラグ100aは、式(6)(7)を満たすため、ガラスシール工程において、絶縁体10aの強度を十分に確保することができる。
【0049】
なお、絶縁体10の強度を確保する観点から、θAの値は、20°以上であることが好ましく、25°以上であることがより好ましく、30°以上であることがより好ましい。
【0050】
以下、式(1)に加え、式(6)(7)を満たすようにスパークプラグ100aを構成することの根拠について、実験結果に基づいて説明する。
【0051】
B2.実験内容及びその実験結果:
図9は、距離Lと、(θA+θB)の値と、絶縁体10の強度と、の関係を示す図である。本実験では、距離Lの値と、(θA+θB)の値と、が異なるスパークプラグ100aを作製するための絶縁体10と中心電極20と主体金具50とを用意した。サンプルは、各仕様において10本ずつである。そして、それらの絶縁体10と中心電極20と主体金具50とを用いて、中心電極20をシール体4によって軸孔12内に固着させるガラスシール工程を行った。本実験のガラスシール工程では、軸孔内段部14とシール体4とが接触する部分(接触部16)付近において、シール体4が軸孔内段部14部分を突き抜けることによる絶縁体10の破損の有無を調べた。「判定」の欄は、以下の基準により「○」または「×」を付した。絶縁体10の破損が発生しない場合には、絶縁体10の強度は十分に確保されていると言える。
【0052】
サンプル10本中、1本以上破損:×
サンプル10本中、破損なし:○
【0053】
図9の結果に示すように、距離Lが0.4mmと短いサンプル36〜42では、(θA+θB)の値が100°以上であるサンプル40〜42において、絶縁体10の破損が発生していないことがわかる。距離Lが0.5mm以上のサンプル22〜35では、(θA+θB)の値が90°以上のサンプル24〜28、サンプル31〜35において、絶縁体10の破損が発生していないことがわかる。以上の結果より、式(1)に加え、距離L(mm)は式(
7)を満たし、(θA+θB)は式(
6)を満たすことにより、スパークプラグ100の電極の消耗を抑制するとともに、絶縁体10の強度が確保されることが示された。
【0054】
B3.推定メカニズム:
距離L、(θA+θB)を特定の範囲とすることにより、絶縁体10の強度が確保される推定メカニズムを、以下に説明する。
【0055】
図10は、ガラスシール工程において絶縁体10に作用する力Wを示す図である。
図10に示す力Wは、シール体4の材料粉末が押圧される場合に、絶縁体10の軸孔内段部14付近に発生する+Z方向の力Wである。力W1は、軸孔内段部14の接触部16に垂直に作用する、力Wの分力(Wcosθ)である。力W2は、接触部16と平行な方向に作用する、Wの分力(Wsinθ)である。ガラスシール工程において、力Wでシール体4の材料粉末を押圧すると、絶縁体10の軸孔内段部14、特に接触部16付近は、力W1で押圧される。このとき、静電容量を低減させるために距離Lを短くすると、
図8に示した先端P3から先端P4までの距離である絶縁体10の肉厚が薄くなるため、絶縁体10の強度が低下するおそれがある。
【0056】
図11は、ガラスシール工程において絶縁体10に作用する力Wを示す別の図である。
図11に示す角度θAは、
図10に示した角度θAよりも大きい。このように角度θAを大きくすると、角度θAが小さい場合に比べて、接触部16に垂直に作用する力W1(Wcosθ)を小さくすることができる。したがって、(θA+θB)が式(6)の範囲内ではない場合、すなわち、(θA+θB)が90°よりも小さい場合に比べて、軸孔内段部14の接触部16近傍に生じる応力は小さくなる。このことから、静電容量を低減させるために距離Lを短くした場合であっても、角度θAをこのように変更させて、(θA+θB)を式(6)の範囲とすることで、絶縁体10の強度を十分に確保することができると考えられる。
【0057】
また、絶縁体10の肉厚は、呼び径Mが小さくなるほど薄くなる。そのため、呼び径Mが12mm以下と比較的小さいスパークプラグでは、絶縁体10の強度を十分に確保することが望ましい。本実施形態のスパークプラグ100aは、(θA+θB)を式(6)の範囲とすることで、呼び径Mが12mm以下であっても、絶縁体10の強度を十分に確保することができる。
【0058】
C.変形例:
上述の種々の実施形態では、呼び径Mは12mm以下であるが、呼び径Mは、12mmより大きくてもよい。スパークプラグ100、100aは、放電チップを備えているが、スパークプラグ100、100aは、放電チップを備えていなくともよい。
【0059】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。