【文献】
Acta Biomaterialia, 2010Sep, vol.6, no.9, p.3640-3648 の要約 ,URL,http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1742706110001303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔性多糖ビーズが、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、および重炭酸ナトリウムおよびその混合物からなる群より選択されるポロゲン剤により孔を形成している、請求項4記載のビーズ。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、多糖ビーズを調製するための方法に関する。本発明はさらに、ビーズおよび種々の生物医学的分野におけるその使用を提供する。
【0002】
発明の背景
生体適合性材料は、さまざまな生物医学的適用のために多大な関心を集めている。理想的な生体適合性材料の特質は、in vitroまたはin vivoのいずれかで細胞の成長を支持する能力、多種多様な細胞型または系統の成長を支持する能力、必要とされる種々の程度の柔軟性および剛性を賦与される能力、種々の程度の生分解性を有する能力、有害事象を誘発することなくin vivoにおいて目的の部位に導入される能力、並びに所望の作用部位への細胞、薬物または生理活性物質の送達のためのビヒクルまたは容器として機能する能力を含む。
【0003】
この目的のために、多糖は、その確証された生物学的特性に因り、最適な材料であることが示された。実際に、多くの研究が現在、向イオン性ゲル化(ペクチン、アルギネート、カラゲニンおよびジェランなどの多糖が、多価イオンの存在下においてゲルを形成する能力)によって得られる材料に向けられている。しかしながら、そうした技術には限界がある。なぜなら、それらは狭い範囲の多糖型を用いて行なわれるからである。さらに、そうしたゲルは、標的組織のサイズおよび場所に関係なく、ヒトまたは動物組織内への容易かつ効率的な投与には適していない。Lee CS et al.は、骨の組織工学のためのアルギン酸カルシウムビーズの使用を示した(Lee CS et al, Regulating in vivo calcification of alginate microbeads, Biomaterials 2010, Jun;31(18):4926-34)。薬物送達システムのためにキトサンに基づいた多価電解質から多糖ビーズを調製した者もいた。さらに、キトサンに基づいた多価電解質複合体は、薬物送達システムにおける可能性あるキャリア材料として提案された(Hamman JH et al., Chitosan based polyelectrolyte complexes as potential carrier materials in drug delivery systems, J Biomed Mater Res , 2010)。
【0004】
しかしながら、前記の多糖ビーズは、生理的条件下における二価カチオン複合体の不安定性、および使用される可能性ある多糖の範囲が狭いことから適応しない。さらに、現在使用されている生体適合性材料を、標的組織のサイズおよび場所に関係なく、ヒトまたは動物組織内へ容易に投与することができない。
【0005】
従って、ヒトまたは動物身体内への注入に適応し、そして生物学的および治療的目的のために使用することのできる生体適合性材料の必要性は依然としてある。特に、作用部位および標的化領域のサイズに関係なく、ヒトまたは動物組織への注入によって容易に投与される生体適合性材料が必要である。
【0006】
発明の要約
本発明者らは、多糖に前以て化学的修飾することなく、そして有機溶媒を使用することなく、ビーズを得ることを可能とする多糖上での架橋法を提供することによって前記の必要性を満たした。従って、多糖は全く修飾にかけられないので、前記方法は実施が容易である。従って、ビーズは治療使用に適しているという利点を提示する。なぜなら、それらは全く汚染物質および有機溶媒を含まないからである。懸濁液中の得られたビーズは、生理学的液体中において安定である。前記ビーズは、組織工学、in situ組織再生、並びに薬物および/生理活性物質の送達のために有用である生体適合性および注入可能な材料である。さらに前記ビーズは、in vitroおよびin vivoにおいて細胞キャリアなどのバイオテクノロジー適用を支持し得る。
【0007】
第1の目的において、本発明は、以下の工程:
a)少なくとも1つの多糖の量および架橋剤の量を含むアルカリ水溶液を調製する工程;
b)前記のアルカリ水溶液を疎水相に分散させてw/oエマルションを得る工程;および
c)前記のw/oエマルションを約4℃から約80℃の温度で前記の量の多糖の架橋が可能となるに十分な時間かけて置くことによってw/oエマルションを多糖ビーズに変換する工程
を含む多糖ビーズを調製するための方法であって、
前記多糖は、デキストラン、プルラン、寒天、アルギン酸、スターチ、ヒアルロン酸、イヌリン、ヘパリン、フコイダン、キトサンおよびその混合物からなる群より選択される。
【0008】
1つの態様において、アルカリ水溶液はポロゲン剤を含む。従って、本発明は多孔性多糖ビーズを提供する。
【0009】
別の態様において、アルカリ水溶液は、活性成分、例えばヒドロキシアパタイトまたは好ましくはナノヒドロキシアパタイトを含む。
【0010】
さらなる態様において、アルカリ水溶液は薬物または生理活性物質を含む。
【0011】
第2の局面において、本発明は、本発明の方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。
【0012】
第3の局面において、本発明は、in situでの組織再生に使用するための本発明の方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。
【0013】
第4の局面において、本発明は、ミネラル化骨組織形成を刺激するために使用するための本発明の方法によって得ることのできるヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトを含む多糖ビーズに関する。
【0014】
第5の局面において、本発明は、細胞マイクロキャリアとして使用するための本発明の方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。
【0015】
第6の局面において、本発明は、薬物、生理活性物質および/または細胞の送達に使用するための本発明の方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。
【0016】
第7の局面において、本発明は、癌の処置に使用するための本発明の方法によって得ることのできる薬物を含む多糖ビーズに関する。
【0017】
本発明の詳細な説明
定義
本明細書において使用する「多糖」という用語は、2つ以上の単糖単位を含む分子を指す。
【0018】
本明細書において使用する「アルカリ溶液」という用語は、厳密に7を超えるpHを有する溶液を指す。
【0019】
本明細書において使用する「水溶液」という用語は、溶媒が水である溶液を指す。
【0020】
本明細書において使用する「ポロゲン剤」という用語は、固体構造内で孔を形成する能力を有する任意の固体の作用剤を指す。
【0021】
本明細書において使用する「架橋」という用語は、共有結合を用いてのある多糖鎖と別の多糖鎖との連結を指す。
【0022】
本明細書において使用する「架橋剤」という用語は、本発明の多糖鎖間に架橋を導入することのできる任意の作用剤を包含する。
【0023】
本発明の脈絡において、「ビーズ」、「粒子」および「球」という用語は、同義語として使用され、そして実質的に球状または卵形の形状を有する本発明の多糖組成物を指す。
【0024】
本明細書において使用する「ナノビーズ」という用語は、少なくとも1nmから1000nmより小さいサイズを有するビーズを包含し、「マイクロビーズ」という用語は、少なくとも1μmから1000μmより小さいサイズを有するビーズを包含し、「マクロビーズ」という用語は、少なくとも1mmのサイズを有するビーズを包含する。
【0025】
本明細書において使用する「生分解性」という用語は、in vivoにおいて無毒性化合物へと分解する材料を指し、この無毒性化合物は排泄され得るかまたはさらに代謝され得る。
【0026】
本明細書において使用する「凍結乾燥」という用語は、溶媒(すなわち水)を凍結させ、そしてその後、それを凍結した状態で蒸発させることによる、高真空下における急速冷凍した材料の乾燥を指す。
【0027】
その最も広い意味において、「処置する」、「処置」および「療法」という用語は、このような用語を適用する疾患もしくは状態、またはこのような疾患もしくは状態の1つ以上の症状の進行を逆行、軽減、阻害、または前記を予防することを指す。
【0028】
本明細書において使用する「骨組織」という表現は、石灰化した組織(例えば頭頂骨、脛骨、大腿骨、椎骨、歯)、骨梁、骨髄腔、皮質骨(骨梁および骨髄腔の外側周辺を覆う)などを指す。「骨組織」という表現はまた、ミネラル化コラーゲンのマトリックス内に一般的に位置する骨細胞;骨細胞に栄養を提供する血管;骨髄液;滑液;骨組織に由来する骨細胞を包含し;そして脂肪骨髄も含み得る。最後に、骨組織は、骨生成物、例えば完全な骨、完全な骨の一部、骨片、骨粉、骨組織生検材料、コラーゲン調製物またはその混合物を含む。本発明の目的のために、「骨組織」という用語は、特記しない限り、ヒトまたは動物の、前記の骨組織および生成物の全てを包含するために使用される。
【0029】
本明細書において使用する「骨関連疾患」という表現は、骨形成および骨吸収の疾患を含む。好ましくは、「骨関連疾患」という表現は、骨形成または骨量減少の機能不全に関連した疾病を指す。骨関連疾患の非制限的な例は、くる病、骨粗鬆症、骨軟化症、骨減少症、骨癌、関節炎、くる病、骨折、骨の欠損、溶骨性骨疾病、骨軟化症、骨の脆弱化、骨塩量の減少、軟骨無形成症、鎖骨頭蓋異形成症、ページェット病、骨形成不全症、大理石骨病、硬化性病変、仮関節、歯周病、抗てんかん薬により誘発される骨量減少、無重力により誘発される骨量減少、閉経後骨量減少、骨関節炎、骨の浸潤性疾患、代謝性骨疾病、臓器移植に関連した骨量減少、青年期特発性側弯症、グルココルチコイドにより誘発される骨量減少、ヘパリンにより誘発される骨量減少、骨髄疾患、栄養障害、カルシウム欠損症、関節リウマチ、性腺機能低下症、HIV関連骨量減少、腫瘍により誘発される骨量減少、癌に関連した骨量減少、ホルモン除去による骨量減少、多発性骨髄腫、薬物により誘発される骨量減少、加齢に関連した顔面骨量減少、加齢に関連した頭蓋骨量減少、加齢に関連した顎骨量減少、加齢に関連した頭蓋骨量減少、および宇宙旅行に関連した骨量減少である。好ましくは、本明細書において使用する骨関連疾患は、骨折、大規模な骨欠損、くる病、骨粗鬆症、骨形成不全症、骨軟化症、骨減少症、骨癌、溶骨性骨疾病、骨の脆弱化および/または骨塩量の減少である。
【0030】
本明細書において使用する「心臓組織」という表現は、心臓内の組織を指す。この表現は、心外膜、心筋および心内膜を包含する。
【0031】
本明細書において使用する「心臓関連疾患」という表現は、心臓組織の欠損に関連した病態を指す。この表現は、心臓組織内の傷害または損傷を受けた組織の存在、および心臓組織の再吸収を包含する。
【0032】
心臓関連疾患の非制限的な例は、心筋梗塞、発作、高血圧、冠動脈心疾患、うっ血性心不全、リウマチ性心臓病、先天性心血管異常、心筋炎または不整脈である。
【0033】
本明細書において使用する「ヒドロキシアパタイト」すなわち「HA」という用語は、式Ca
5(PO
4)
3(OH)を有する天然に存在するミネラル形のカルシウムアパタイトを指すが、結晶単位格子が2つの実体を含むことを示すために通常Ca
10(PO
4)
6(OH)
2と記載される。OH
−イオンは、フルオライド、クロライドまたは炭酸によって置換され得、フルオロアパタイトまたはクロロアパタイトを生成する。好ましくは、本発明の目的のためには、OH
−は置換されない。ヒドロキシアパタイトは骨および歯マトリックスの主要成分であり、そして骨および歯にその剛性を付与する。
【0034】
本明細書において使用する「ナノ結晶ヒドロキシアパタイト」または「ナノヒドロキシアパタイト」すなわち「n−HA」という用語は、10〜100nm、好ましくは30〜60nm、最も好ましくは約50nmのサイズを有するヒドロキシアパタイト結晶粒子を指す。本発明を実施するのに適したn−HAは、例えば、リン酸溶液を水酸化カルシウム溶液を用いて沈降させることによって得られる。
【0035】
本明細書において使用する「非水相」、「親油性相」、「疎水相」および「油相」は同義語として使用され得る。
【0036】
本明細書において使用する「w/oエマルション」または「油中水滴型エマルション」は、親油性相への水相の分散を指す。「w/oエマルション」という用語は、安定および不安定なエマルションを包含する。好ましい態様において、w/oエマルションは、実質的な量のあらゆる界面活性剤の非存在下において得られる。最も好ましい態様において、w/oエマルションは、あらゆる界面活性剤の非存在下において得られる。
【0037】
本明細書において使用する「界面活性剤」または「乳化剤」は、液体の表面張力、2つの液体間の界面張力、または液体と固体との間の界面張力を下げる化合物を指す。
【0038】
本明細書において使用する「実質的な量の界面活性剤の非存在下において」という表現は、界面活性剤の不在、またはw/oエマルションを得る過程に干渉しない量の界面活性剤の存在を指す。それ故、前記表現は、表面張力を下げるというその役割を果たさない、それ故、本発明の方法によって得られる多糖ビーズの特性またはサイズに干渉しない、量の界面活性剤の存在の可能性を包含する。本明細書において使用する「in situでの組織再生」は、傷害を受けたまたは損傷を受けた組織の再生を指し、これによりおそらく前記組織の機能の回復に至る。この用語は、組織、特に欠損組織の再生を促進するための、本発明の多糖ビーズなどの手段を提供する全ての戦略を包含する。
【0039】
架橋多糖ビーズおよびそれを調製するための方法
第1の目的において、本発明は、以下の工程:
a)少なくとも1つの多糖の量および架橋剤の量を含むアルカリ水溶液を調製する工程;
b)前記のアルカリ水溶液を疎水相に分散させてw/oエマルションを得る工程;および
c)前記のw/oエマルションを約4℃から約80℃の温度で前記の量の多糖の架橋が可能となるに十分な時間かけて置くことによってw/oエマルションをビーズに変換する工程
を含む多糖ビーズを調製するための方法であって、
前記多糖は、デキストラン、プルラン、寒天、アルギン酸、ヒアルロン酸、イヌリン、ヘパリン、フコイダン、キトサンおよびその混合物からなる群より選択される。
【0040】
典型的には、アルカリ水溶液を疎水相に分散させる工程b)は、機械的撹拌下で実施される。典型的には、このような分散工程は10分間かけて実施される。あるいは、乳化過程を、高速分散機、例えばPolytron(登録商標)ホモジナイザーを使用して実施することができる。
【0041】
好ましい態様において、工程b)は、実質的な量のあらゆる界面活性剤の非存在下において実施される。最も好ましい態様において、工程b)はあらゆる界面活性剤の非存在下において実施される。それから得られた多糖ビーズは、約10μmより大きな平均直径を有する。
【0042】
特定の態様において、本発明の方法はさらに、以下の工程:
d)前記多糖ビーズを水溶液に浸す工程;および
e)前記多糖ビーズを洗浄する工程
を含む。
【0043】
典型的には、多糖ビーズは、水またはリン酸緩衝食塩水(PBS)中で洗浄される。
【0044】
別の態様において、本発明の方法はさらに、そのサイズに従って多糖ビーズを較正する工程f)を含む。前記の較正工程を実施した後、当業者は約10μmから約5000μmのサイズのビーズを得ることができる。典型的には、多糖ビーズは、適切なナイロンフィルターを使用してそのサイズに従ってキャリブレーションされる。当業者は、本発明の目的に適応したナイロンフィルターを知っている。
【0045】
さらに別の態様において、本発明の方法はさらに、前記多糖ビーズを凍結乾燥する工程g)を含む。凍結乾燥は当技術分野において公知の任意の装置を用いて実施され得る。フリーズドライヤーは本質的に以下の3つのカテゴリーに分類される:回転蒸発器、マニホールド(manifold)フリーズドライヤー、およびトレイ(tray)フリーズドライヤー。このような装置は当技術分野において周知であり、そしてフリーズドライヤーLyovac (GT2, STERIS Rotary vane pump, BOC EDWARDS)などのように市販されている。基本的には、チャンバーの真空は、0.1mBarから約6.5mBarである。凍結乾燥は、少なくとも98.5%の水、好ましくは少なくとも99%の水、より好ましくは少なくとも99.5%の水を除去するに十分な時間をかけて実施される。典型的には、凍結乾燥工程は24時間かけて実施される。
【0046】
好ましくは、多糖は、プルラン/デキストランの混合物である。典型的には、プルランとデキストランの重量比は75:25w/wである。
【0047】
典型的には、前記架橋剤は、トリメタリン酸三ナトリウム(STMP)、オキシ塩化リン(POCl
3)、エピクロロヒドリン、ホルムアルデヒド、カルボジイミドおよびグルタルアルデヒドからなる群より選択される。好ましくは、本発明の目的のために、前記架橋剤はSTMPである。
【0048】
典型的には、多糖と架橋剤の重量比は、15:1から1:1の範囲、好ましくは6:1である。
【0049】
当業者は、本発明の目的に適した疎水相を知っている。疎水相の非制限的な例は、植物油、例えばキャノーラ油、コーン油、綿実油、ベニバナ油、ダイズ油、エキストラバージンオリーブ油、ヒマワリ油、パーム油、MCT油およびトリオレイン酸(trioleic)油である。好ましくは、本発明の目的のために、前記疎水相はキャノーラ油である。あるいは、前記疎水相はシリコン液(silicon fluid)である。典型的には、w/oエマルションにおける疎水相の量(親油性相の容量/油中水滴型エマルションの容量;v/v)は、w/oエマルションの約10%から約90%v/v、好ましくは約20%から約80%v/v、好ましくは約50%から約80%v/v、最も好ましくは約70%v/vである。
【0050】
本発明の1つの態様において、アルカリ水溶液はさらにポロゲン剤の量を含む。従って、本発明はまた、多孔性多糖ビーズも提供する。ポロゲン剤の非制限的な例は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、および重炭酸ナトリウムおよびその混合物である。好ましくは、本発明の目的のために、前記ポロゲン剤は塩化ナトリウムである。典型的には、多糖とポロゲン剤の重量比は、50:1から1:50の範囲である。好ましい態様において、多糖とポロゲン剤のこのような重量比は約12:14である。
【0051】
典型的には、孔の密度は約4%から約75%、好ましくは約4%から約50%である。当業者は、アルカリ溶液中に加えられるポロゲン剤の量を適応させることによって、本発明の方法によって得られたビーズの多孔度を容易に適応させることができる。
【0052】
典型的には、本発明の多糖ビーズの孔のサイズは約1μmから約1000μmである。前記の孔の存在は、本発明の多糖ビーズの表面上に薬物または細胞を取り込むために非常に便利である。
【0053】
さらに別の態様において、アルカリ水溶液はさらにヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトを含む。従って、本発明は、n−HAを含む多糖ビーズを提供する。前記多糖ビーズは、骨疾患の処置に使用するのに非常に適切であることが判明している。
【0054】
本発明の脈絡において、ナノヒドロキシアパタイトは、市販のナノヒドロキシアパタイトであり、例えばInframat社またはFluidinovaによって市販されているものである。好ましくは、本発明の脈絡において有用なナノ結晶ヒドロキシアパタイトは、0.3から1M、好ましくは0.6Mの濃度のリン酸溶液を、0.5から1.5M、好ましくは1Mの濃度の水酸化カルシウム溶液を用いて室温で化学的に沈降させることにより得られる。
【0055】
典型的には、アルカリ水溶液中のナノヒドロキシアパタイトの濃度(w/v)は、1から10%w/v、好ましくは1から5%w/v、より好ましくは1から3%w/vである。
【0056】
さらなる態様において、アルカリ溶液はさらに薬物を含む。従って、本発明は薬物を含む多糖ビーズを提供し、前記多糖ビーズは、ヒトまたは動物の身体における標的組織内に前記薬物を投与するのに非常に適応している。典型的には、前記薬物は、認められている治療効果を有する薬物、例えば、ホルモン、放射性物質、蛍光物質、走化性剤、抗生物質、ステロイドまたは非ステロイド鎮痛剤、免疫抑制剤、または抗癌薬である。好ましくは、前記薬物は抗癌薬である。
【0057】
さらなる態様において、アルカリ溶液はさらに生理活性物質を含む。典型的には、前記生理活性物質は、細胞経路の修飾および細胞性もしくは組織性応答の修飾などの、種々の機序において重要な役割を果たすことが知られている物質である。前記生理活性物質は、増殖因子、サイトカイン(リンホカイン、インターロイキンおよびケモカイン)、抗酸化分子、血管新生分子、抗血管新生剤、免疫調節剤、炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカイン、血漿由来生理活性物質、PRP(多血小板血漿)由来物質、可溶性接着分子の中から選択される。
【0058】
さらなる態様において、アルカリ溶液はさらに酸化鉄を含む。従って、本発明は、温熱療法に基づいた癌処置に使用するのに非常に適応した、酸化鉄粒子を含む多糖ビーズを提供する。
【0059】
典型的には、酸化鉄粒子(Fe
2O
3)を、鉄(III)および鉄(II)塩のアルカリ共沈降によって得ることができる。典型的には、アルカリ水溶液中の酸化鉄の濃度は、0.005から0.5mol/L、好ましくは0.01から0.05mol/Lである。
【0060】
1つの態様において、ゼラチンを、本発明の方法の工程b)で得られたw/oエマルションに加える。好ましくは、前記ゼラチンを、本発明の方法の工程c)の間に、すなわち架橋工程の間に加える。典型的には、w/oエマルション溶液中のゼラチンの濃度(w/v)は、1から20%w/v、好ましくは1から10%w/v、より好ましくは5から10%w/vである。ゼラチンの添加は、in vitro培養中においてビーズ上への足場依存性細胞の接着を増強することが示されている。
【0061】
さらなる態様において、本発明の多糖は、蛍光色素を用いて標識される。本明細書において使用する「蛍光色素」という用語は、特定の波長の電磁放射線を吸収し、そして、ランプ、光ダイオードまたはレーザーなどの電磁放射線の源による照射時に蛍光機序によってより長い波長の電磁放射線を放出する、任意の有機または無機分子を指す。従って、本発明は、10μm未満のサイズを有し、そして蛍光剤を含む、多糖ビーズを提供する。前記ビーズは、血栓の発達をモニタリングするのに非常に適している。実際に、本発明者らは、血栓症を患う可能性のある患者に注入した場合に、蛍光ビーズは、評価することを可能とし、従って血栓が起こるのを防ぐことを可能とし得ることを示した。蛍光ビーズは、in vitro培養中に細胞浸潤をモニタリングするのに適している。
【0062】
本発明の脈絡において適切である蛍光色素の非制限的なリストは、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、Cyファミリーの蛍光色素、例えばCy2、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、Alexaファミリーの蛍光色素、例えばAlexa488、Alexa532、Alexa546、Alexa548、Alexa568、Alexa594、Alexa633、Alexa647、Alexa660、およびインドシアニングリーンである。
【0063】
好ましくは、前記多糖は、FITCを用いて標識されたデキストラン、ローダミンを用いて標識されたプルラン、およびその混合物からなる群より選択される。
【0064】
1つの特定の態様において、本発明の方法は、本発明に従って調製された多糖ビーズを水和することからなるさらなる工程を含み得る。前記水和は、多糖ビーズを溶液に、好ましくは水溶液に(例えば、脱イオン水、逆浸透圧を介してろ過された水、食塩水溶液、または適切な活性成分を含む水溶液)、所望の水分含量を有する多糖ビーズを生成するのに十分な時間をかけて浸すことによって実施され得る。典型的には、最大水分含量を含む多糖ビーズを所望である場合、多糖ビーズを、多糖ビーズがその最大サイズまたは容量まで膨潤することを可能とするために十分な時間をかけて水溶液に浸す。典型的には、多糖ビーズを少なくとも約1時間、好ましくは少なくとも約2時間、より好ましくは約4時間から約24時間かけて水溶液に浸す。所望のレベルまで多糖ビーズを水和するに必要な時間は、いくつかの要因、例えば使用する多糖の組成、多糖ビーズのサイズ(例えば厚さ)、および溶液の温度、並びに、他の要因に依存することが理解される。
【0065】
第2の局面において、本発明は、本発明の方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。これらの多糖ビーズは実際に、本発明によって提供される顕著な特性を有する唯一のものである。
【0066】
典型的には、前記多糖ビーズは、約5nmから約5mm、好ましくは約10nmから約1mm、好ましくは約1μmから約100μm、好ましくは約1μmから約3μmのサイズを有する。
【0067】
本発明の1つの態様において、本発明の方法の工程b)を界面活性剤の非存在下において実施する場合、その得られる多糖ビーズのサイズは少なくとも約10μmである。本発明の別の態様において、本発明の方法の工程b)を界面活性剤の存在下において実施する場合、その得られる多糖ビーズのサイズは約10μmであり、好ましくは約5nmから約10μmである。
【0068】
多糖ビーズのサイズは、所望の用途により当業者によって注意深く選択される。本発明の多糖ビーズのサイズは、このような多糖ビーズを調製する方法の特徴およびパラメーターに依存する。典型的には、本発明の多糖ビーズのサイズは、多糖の性質、過程の間に与えられる撹拌、および多糖ビーズ内における多糖の分布に依存し得る。当業者は、所望のサイズを得るために、ビーズを容易に適応および較正し得る。典型的には、前記適応および/または較正は、以下の技術(ふるいまたはナイロンフィルターを通してのろ過)によって実施され得る。
【0069】
本発明の方法はさらに、任意の適切な過程を使用して多糖ビーズを滅菌する工程を含み得る。多糖ビーズは任意の適切な時点で滅菌され得る。適切な放射能照射による滅菌技術は、例えば、35グレイのセシウム137を用いての10分間かけての放射能照射である。適切な放射能照射ではない滅菌技術としては、当技術分野において公知であるUV曝露、ガスプラズマまたはエチレンオキシド法が挙げられるがそれらに限定されない。例えば、多糖ビーズは、商標名PlazLyteでイリノイ州マンデラインのAbtox, Incから入手できる滅菌システムを使用して、またはUS-5413760およびUS-5603895に開示されたガスプラズマ滅菌過程に従って滅菌され得る。
【0070】
本発明の方法によって生成される多糖ビーズは、任意の適切なパッケージング材料にパッケージングされ得る。望ましくは、パッケージング材料が破られるまで、パッケージング材料は多糖ビーズの無菌性を維持する。
【0071】
当業者は、所望の特性を、本発明による多糖ビーズに付与し得る。典型的には、当業者は、生体分子、抗微生物剤、界面活性剤、分化剤、増殖因子および蛍光剤からなる群より選択される化合物を加え得る。
【0072】
前記の化合物を本発明の多糖ビーズに取り込む技術は、完全に当業者の能力の範囲内に該当する。
【0073】
典型的には、本発明による多糖ビーズの表面上の孔の存在のために、前記化合物は、好ましくは播種によって、前記ビーズ上に取り込まれ得る。この特定の態様において、前記化合物は、本発明の多糖ビーズの表面上にあるだろう。あるいは、前記化合物は、本発明の方法の工程a)のアルカリ溶液に直接的に加えられてもよい。この特定の態様において、前記化合物は、本発明の多糖ビーズの構造内にあるだろう。あるいは、前記化合物は、多糖ビーズを、前記化合物の溶液を用いて水和することからなる工程の間にビーズに取り込まれてもよい。
【0074】
1つの態様において、本発明の多糖ビーズはさらに1つ以上の生体分子を含む。生体分子の非制限的な例は、薬物、ホルモン、抗生物質、例えばゲンタマイシンまたはバンコマイシン、プロテアーゼおよび抗プロテアーゼ、走化性剤、抗生物質、ステロイドまたは非ステロイド鎮痛剤、免疫抑制剤、抗癌薬、短鎖ペプチド、糖タンパク質、リポタンパク質、細胞接着メディエーター、生物学的に活性なリガンド、インテグリン結合配列、リガンド、特定の増殖因子のアップレギュレーションに影響を及ぼす小分子、テネイシンC、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチン、フィブロネクチン、デコリン、トロンボエラスチン(thromboelastin)、トロンビン由来ペプチド、およびその混合物である。前記生体分子の使用は、処置の効果を増強し、適切な方向を指し示し、感染に抵抗し、治癒を促進し、柔軟性または任意の他の望ましい効果を増加させ得る。従って、生体分子を含む本発明の多糖ビーズは、薬物を送達するために使用するのに非常に適応している。本発明者らは、組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)と呼ばれる血栓溶解剤として使用される活性薬物を含めた。
【0075】
別の態様において、本発明の多糖ビーズはさらに抗炎症剤を含む。抗炎症剤の非制限的な例は、インドメタシン、アセチルサリチル酸、イブプロフェン、スリンダク、ピロキシカム、およびナプロキセン;血栓形成剤、例えばトロンビン、フィブリノーゲン、ホモシステインおよびエストラムスチン;および、放射線不透過性化合物、例えば硫酸バリウム、金粒子および酸化鉄ナノ粒子(USPIOs)およびその混合物である。さらに別の態様において、本発明の多糖ビーズはさらに添加剤を含む。使用される添加剤の量は特定の適用に依存し、そしてこれは慣用的な実験を使用して当業者によって容易に決定され得る。
【0076】
さらに別の態様において、本発明の多糖ビーズはさらに抗微生物剤を含む。適切な抗微生物剤は当技術分野において周知である。適切な抗微生物剤の非制限的な例は、アルキルパラベン、例えばメチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベン;クレゾール;クロロクレゾール;ヒドロキノン;安息香酸ナトリウム;安息香酸カリウム;トリクロサンおよびクロルヘキシジンおよびその混合物である。使用され得る抗微生物剤および抗感染剤の他の例は、非制限的には、リファンピシン、ミノサイクリン、クロルヘキシジン、銀イオン剤および銀に基づいた組成物およびその混合物である。
【0077】
さらに別の態様において、本発明の多糖ビーズはさらに少なくとも1つの界面活性剤を含む。本明細書において使用する界面活性剤は、水の表面張力を下げる化合物を指す。界面活性剤は、イオン性界面活性剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム、または中性界面活性剤、例えばポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンエステル、およびポリオキシエチレンソルビタンおよびその混合物であり得る。
【0078】
1つの態様において、本発明の多糖ビーズはさらに分化剤を含む。好ましくは、このような分化剤は、骨形成に関与する作用剤である。あるいは、このような分化剤は、骨形成、血管新生または創傷治癒に関与する作用剤である。好ましくは、前記分化剤は増殖因子である。本発明の目的のために適した増殖因子の非制限的な例は、上皮増殖因子(EGF)、インシュリン様増殖因子(IGF−I、IGF−II)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、ヘパリン結合性増殖因子(HBGF)、ストロマ細胞由来因子(SDF−1);血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGFs)、血小板由来増殖因子(PDGF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、副甲状腺ホルモン関連ペプチド(PTHrP)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF);TGFβスーパーファミリー因子;骨形成タンパク質(BMP)、好ましくはBMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP7、ソマトロピン、増殖分化因子(GDF)およびその混合物である。
【0079】
典型的には、増殖因子は、多糖ビーズ1gあたり1ngから100μgの濃度で存在する。
【0080】
別の態様において、本発明の多糖ビーズはさらに、細胞、例えば酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞および植物細胞を含む。好ましくは、このような細胞は哺乳動物細胞である。本発明の目的に適した哺乳動物細胞の非制限的な例は、分化した細胞、例えば内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、線維軟骨細胞(fibrochondrocytes)、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、滑膜細胞、上皮細胞、および肝細胞または幹細胞、胚性幹細胞、ヒト臍静脈内皮細胞、人工多能性幹細胞(iPS)、種々の起源に由来する間葉系幹細胞、骨髄、脂肪組織、末梢血前駆細胞、臍帯血前駆細胞、遺伝子的に形質転換された細胞およびその混合物である。典型的には、本発明による多糖ビーズの表面上の孔の存在のために、本発明の多糖ビーズを、前記細胞を含む水溶液に浸すことを通しての浸潤などの周知の技術によって、前記細胞は前記ビーズ上に取り込まれる。典型的には、細胞の懸濁液を、凍結乾燥された本発明の多糖ビーズ上に置く。その後、前記細胞を含むビーズをインキュベーションして、前記細胞を培養する。
【0081】
本発明による架橋多糖ビーズの使用
第3の局面において、本発明は、in situでの組織再生に使用するための本発明の方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。本発明の多糖ビーズは実際に細胞によって浸潤され得、従って組織再生を促進し得る。従って、前記多糖ビーズは実際に、欠損組織内への注入または沈着に非常に適応している。好ましくは、前記欠損組織は、心臓組織、骨もしくは軟骨組織、または筋肉組織である。従って、本発明の多糖ビーズは心臓および筋肉の再生を刺激するのに非常に有用である。
【0082】
1つの特定の態様において、前記多糖ビーズは、心筋梗塞の処置のために心臓組織内に植え込まれ得る。それ故、本発明の多糖ビーズは、心臓の修復および発達に有用である。
【0083】
別の態様において、本発明は、骨再生のための本発明の方法によって得ることのできるn−HAを含む多糖ビーズに関する。本発明者らは実際に、細胞外ミネラル化マトリックスの産生を、おそらく細胞の骨細胞への分化を通して刺激する、本発明による多孔性多糖ビーズの能力を示した。従って、前記多糖ビーズは骨関連疾患の処置に使用するために非常に適応している。実際に、そのサイズを、処置または再生しようとする骨のサイズおよび場所に適応させることができるので、それらは非常に効果的である。
【0084】
本発明の目的のために、本発明の多糖ビーズを、当業者には公知の適切な任意の方法を用いて所望の位置内に投与し得る。典型的には、多糖ビーズは、針を用いて植え込まれ得る。針は、投与しようとする多糖ビーズのサイズに応じて選択される。あるいは、多糖ビーズは、カテーテルを用いて植え込まれ得る。このようなカテーテルは多孔性であり得るか、または所望の位置内への投与を改善するために針を提示し得る。例えば骨欠損におけるマクロビーズもまた、スパーテルまたは任意の適切なグリップを介して沈着させ得る。
【0085】
第4の局面において、本発明は、異所性骨ミネラル化組織形成を刺激するために使用するための、本発明の方法によって得ることのできる、ヒドロキシアパタイト、好ましくはナノヒドロキシアパタイトを含む多糖ビーズに関する。本発明の脈絡において、「異所性」という表現は、骨ではない組織を指す。それ故、本発明はまた、骨ではない部位においてミネラル化組織を誘導するために使用するための、本発明の方法に従って得ることのできる多糖ビーズに関する。
【0086】
本発明者らは、本発明によるn−HAを含む多糖ビーズを投与することにより、高密度なコラーゲンネットワークおよび血管形成の刺激、並びに、骨芽細胞様の細胞の補充がもたらされることを示した。皮下部位へのこのような多糖ビーズの投与により、高密度なミネラル化組織の形成がもたらされ、従って骨の形成がもたらされる。好ましくは、このような異所性ミネラル化の刺激は、注入前に多糖ビーズに含まれる幹細胞の非存在下および増殖因子の非存在下において起こる。実際に、本発明者らは、本発明によるn−HAを含む多糖ビーズは、骨ではない部位および骨の部位においてミネラル化組織を誘導する能力を有することを示した。それ故、本発明は、幹細胞および/または増殖因子の存在下並びに非存在下において、骨の部位並びに骨ではない部位においてミネラル化組織形成を刺激するために使用するための多糖ビーズを提供する。
【0087】
第5の局面において、本発明は、細胞マイクロキャリアとして使用するための本発明による方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。本発明の多糖ビーズは実際にまた、細胞マイクロキャリアとして使用するために、特にバイオリアクターにおいて使用するために非常に適応していることが判明した。このような戦略は、本発明によるマイクロスフィアの表面上で、動物細胞などの足場依存性細胞を増殖させるのに有用であり得る。従って、この戦略は、懸濁培養液における足場依存性細胞の増殖を可能とする。従って、こうした多糖ビーズの使用は、慣用的な単層細胞培養法の魅力的な代替物である。
【0088】
第6の局面において、本発明は、薬物および/または細胞の送達に使用するための本発明による方法によって得ることのできる多糖ビーズに関する。1つの態様において、本発明の多糖ビーズは薬物または細胞を含み得、そして特定の組織内に前記薬物または細胞を送達することができる。多糖におけるまさにその性質および組成のために、本発明の多糖ビーズは、特定の組織内で分解する傾向が非常に高い。このような崩壊により、薬物または細胞は目的の位置に送達され得る。対象の多糖ビーズは、適用および送達のタイプに応じて多孔性またはそうではない。別の態様において、本発明の多糖ビーズは、薬物、生理活性物質および/または細胞によって浸潤される。前記浸潤は、本発明の多糖ビーズを、前記薬物および/または細胞を含む水溶液に浸すことによって行なわれる。典型的には、前記溶液は、多糖ビーズ内に浸潤させようとする薬物の性質に依存して、親水性または疎水性であり得る。あるいは、本発明の方法の工程a)のアルカリ溶液は薬物を含み、それ故、薬物送達に有用な多糖ビーズが提供される。
【0089】
典型的には、適切な薬物は、認められている治療効果を有する薬物、例えばホルモン、放射性物質、蛍光物質、走化性剤、抗生物質、ステロイドまたは非ステロイド鎮痛剤、免疫抑制剤、抗癌薬である。
【0090】
典型的には、生理活性物質は、増殖因子、サイトカイン(リンホカイン、インターロイキンおよびケモカイン)、抗酸化分子、血管新生分子、抗血管新生剤、免疫調節剤、炎症性サイトカイン、抗炎症性サイトカイン、血漿由来生理活性物質、PRP(多血小板血漿)由来物質、可溶性接着分子の中から選択される。
【0091】
典型的には、薬物および/または生理活性物質の添加された本発明の多糖ビーズは、通常、皮下、筋肉内または骨内への注入によってヒトまたは動物身体内に投与される。その後、添加された多糖ビーズは、長時間にわたり持続的に薬物および/または生理活性物質を放出することができる。
【0092】
好ましくは、前記薬物は抗癌薬である。従って、本発明は、癌を処置するのに非常に有用である、抗癌薬を含む多糖ビーズを提供する。抗癌薬を添加された本発明の多糖ビーズは、固形腫瘍、例えば肉腫、細胞腫およびリンパ腫を処置するために使用するのに適切である。固形腫瘍の処置は、腫瘍のタイプ、位置およびステージに基づいて変化する。標的部位に一旦来ると、薬物は多糖ビーズから放出されて、腫瘍組織において局所的に高い濃度を作る。
【0093】
本発明の多糖ビーズはまた、薬物デポー植込錠として使用され得る。前記の薬物投与方法は有利である。なぜなら、長時間におよび所望の位置への前記薬物の有効治療量の遅延放出を可能とするからである。従って、薬物は最適な条件で送達される。薬物デポー植込錠として使用される薬物の添加された前記多糖ビーズは、当業者には公知の適切な技術に従って投与され得る。例えば、前記多糖ビーズは、シリンジおよび/またはカテーテルによる注入によって、または銃による効果的な注入により投与され得る。薬物デポー植込錠戦略は、デカン酸塩またはエステルなどの種々のタイプの薬物を用いて実施され得る。典型的には、薬物デポー植込錠として使用される前記多糖ビーズは、欠損骨内に抗生物質および/または抗癌薬を投与するのに有利である。例えば、前記多糖ビーズはゲンタマイシンおよび/またはバンコマイシンを含み得、そして骨内投与を介して適用され得る。
【0094】
第7の局面において、本発明は、癌の処置に使用するための本発明による方法によって得ることのできる酸化鉄を含む多糖ビーズに関する。酸化鉄を含む本発明の多糖ビーズは、癌処置における局所的な熱生成(温熱療法)に使用するために適応している。高周波の磁場にさらされると、酸化鉄を含む多糖ビーズは、振動によって熱を発生する。前記多糖ビーズを固形腫瘍内に直接注入し、その後、交流磁場にさらされることにより、腫瘍退縮を誘導することができる。磁気ナノ粒子および抗癌薬(例えばドキソルビシンまたはパクリタキセル)の両方の添加された多糖ビーズは、癌を処置するための温熱療法と薬物送達戦略とを複合させることを可能とする。
【0095】
第8の局面において、本発明は、心灌流および急性血管内血栓のリアルタイム評価に使用するための、本発明による方法によって得ることのできる蛍光色素を含む多糖ビーズに関する。好ましくは、前記ビーズは10μm未満のサイズを有する。好ましくは、本発明は、血栓を発達させる可能性のある被験者における血栓を評価するために使用するための、本発明による方法によって得ることのできる蛍光色素を含む多糖ビーズに関する。実際に、蛍光色素を含む本発明の多糖ビーズは、静脈内注入に非常に適している。その後、心灌流をリアルタイムで容易にイメージングできる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】マクロ/マイクロキャリアとしてのビーズの肉眼図。上のパネルは、架橋後(左)、凍結乾燥後(中央)および水和後(右)のビーズを証明する。下のパネルは、in vitroにおいてバイオリアクターにおいて、またはin vivoにおいて細胞の送達のためにさらに使用するための、ビーズ表面に付着した血管細胞と共にインキュベーションした共焦点顕微鏡で観察されたビーズの例である。FITC−デキストランをビーズの組成に使用し、そして細胞を、ビーズ表面上での同定のためにTRITC−ファロイジンを用いて前以て標識した。
【
図2】凍結乾燥した多孔性ビーズの形態を、走査型電子顕微鏡によって分析した(左、尺度バー:50μm)。PBSでの再水和後、水和したビーズを環境制御型走査電子顕微鏡(ESEM Philips XL 30, Netherlands)を用いて観察した(右、尺度バー:200μm)。
【
図3】FITC−デキストランを用いて調製された蛍光多孔性ビーズは、較正前(左、サイズの範囲は20μmから1mm)および較正後(中央、直径:620μm)に蛍光顕微鏡を用いて観察された。多孔性ビーズ内の細胞浸潤を、共焦点顕微鏡を使用して評価した(右)。細胞を、TRITC−ファロイジンを用いて標識することによって同定した。細胞はビーズに浸潤し、そして孔内に観察された(ビーズの平均直径:660μm)。
【
図4】注入可能な多孔性マイクロビーズの巨視的な図および共焦点イメージ。上の左のパネルでは、ビーズをアルシアンブルーを用いて標識することにより、ビーズが針から出てきたことを証明した。そのサイズが異なる種々のビーズを調製した:22±2μm、97±7μmおよび146±23μm。
【
図5】蛍光ビーズを、G25ゲージの針を使用して雌C57ブラックマウスに漏出させることなく皮下に注入した(左)。皮下組織を、病理組織学的分析のために24時間後に切り出した(右)。ビーズは植込み部位に留まり、そして皮下試料において眼で評価した。
【
図6】蛍光ビーズ(矢印)は、注入から24時間後に皮下組織の8μmの切片に観察された(左、蛍光顕微鏡)。ビーズ(矢印)はまた、アルシアンブルー/ヌクレアーレッド(nuclear red)で染色された切片上で観察された(右、光学顕微鏡)。尺度バー:100μm。
【
図7】2日間培養した後の線維芽細胞3T3で覆われた本発明による多糖ビーズ。
【0097】
実施例
マクロ/マイクロビーズの調製
油中水滴型(w/o)乳化過程を実施して、多糖マイクロ/マクロビーズを得た。
【0098】
9gのプルランおよび3gのデキストランを40mLの蒸留水に溶解することによって調製されたプルラン/デキストラン75:25(プルラン、MW200,000、Hayashibara Inc;デキストランMW500,000、Pharmacia)のブレンドを使用して、ビーズを調製した。
【0099】
化学的架橋を、アルカリ条件下でトリメタリン酸三ナトリウムSTMP(Sigma)を使用して実施した。100μLの10M水酸化ナトリウムを1gの多糖ブレンドに加え、その後、30mgのSTMPを含む100μLの水を加えた。その後、この多糖/NaOH/STMP混合物を、10分間かけて機械的撹拌下で100mLのキャノーラ油中に分散させた。
【0100】
その後、w/oエマルションを50℃で20分間かけて架橋させた。得られたビーズを遠心分離(2000rpm、3分間)によって回収し、PBS(10×)、その後0.025%NaCl溶液を用いて十分に洗浄し、ナイロンフィルターを使用してそのサイズに従って較正し、そして完全に水が除去されるまで24時間かけて凍結乾燥した(
図1、上)。
【0101】
ビーズと共に培養したヒト内皮細胞を、その表面上に観察することができる(
図1、下)。共焦点分析のために、FITC−デキストランを使用し、そして細胞をTRITC−ファロイジンを用いて標識した。
【0102】
別の実験において、(w/o)乳化過程を高速分散機(Polytron(登録商標)ホモジナイザー)を使用して実施して、より小さなビーズ(<50μm)を得た。
【0103】
多孔性マクロ/マイクロビーズの調製
別の実験において、多孔性マイクロビーズを調製することができた。この過程においては、NaCl(14g)などのポロゲン剤を、架橋前に多糖溶液に加えた。
【0104】
得られたマクロ/マイクロビーズを共焦点分析および電子顕微鏡によってさらに特徴付けた。ポロゲン剤としてのNaClと共に調製されたビーズは多孔性であった(
図2)。凍結乾燥した多孔性ビーズの形態は、走査型電子顕微鏡によって証明された(
図2、左)。PBS中での再水和後、水和した多孔性ビーズは、環境走査型電子顕微鏡を用いて観察された(
図2、右)。
【0105】
興味深いことに、架橋の過程を使用して、多孔性マイクロまたはマクロビーズが得られた(
図3、左)。実験条件を変化させることによって、1μmから1mmよりも大きなサイズまでの、種々のサイズのマイクロ/マクロビーズを得ることができた。Polytron装置により、1から30μmのサイズを有するビーズが得られ、一方、機械的撹拌を使用すると、10μmから1mmまでのサイズを有するビーズが得られる(
図4)。
【0106】
較正を通して、本発明者らは、種々のサイズを有する幅広い範囲のビーズを得るという責任を果たした。より正確には、本発明者らは、
−100から200μm;
−200から300μm;
−300から500μm;
−500から700μm;および
−700から1000μm
というサイズの本発明による多糖ビーズを得た。
【0107】
細胞浸潤
本発明者らは、共焦点顕微鏡を使用して多孔性マイクロビーズ内の細胞浸潤を評価した。従って、ヒト内皮細胞と共にビーズをインキュベーションした後、FITC標識多孔性ビーズ内の細胞浸潤を観察した(
図3、中央および右のパネル)。
【0108】
ビーズの注入
本発明のマイクロビーズは針を通しての注入に非常に適したサイズを有し(
図4)、そしてビーズ懸濁液のデポーを可能とする。蛍光ビーズ(100〜200μm)を、G25ゲージ針を使用して雌C57ブラックマウスに皮下注入し、直ちにも後にも漏出は観察されなかった(
図5)。24時間後に注入部位において何の反応も観察されなかった。屠殺後、皮下組織を切り出し、そして病理組織学的技術を用いて分析した。
【0109】
ビーズを、8μmの切片上で、アルシアンブルー/ヌクレアーレッド染色プロトコールに従って蛍光顕微鏡(FITC標識緑色ビーズおよび赤色自己蛍光バックグラウンド)または光学顕微鏡のいずれかを使用して観察した(
図6)。
【0110】
ナノヒドロキシアパタイトの取り込み
ナノヒドロキシアパタイト(n−HA)を、0.6Mのリン酸溶液(H3PO4Rectapur, Prolabo(登録商標), France)および1Mの水酸化カルシウム溶液(CaOH2Alfa Aesar, Germany)を使用した湿性化学的沈降によって調製した。n−HAの懸濁液は、出発溶液中の多糖のアルカリ溶液中に6%w/wで含められた。得られた多糖マクロビーズは、ビーズの3次元構造に分散されたn−HAを含んでいた。その後、本発明者らは、ラットの顆部欠損に前記ビーズを植え込んだ後に骨形成を発見した。
【0111】
血栓溶解剤を用いての本発明による多糖ビーズの調製
tPA(American Diagnostica、tPA一本鎖組換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA))を含む1から10ミクロンの範囲の本発明によるビーズを調製した。
【0112】
9gのプルラン、3gのデキストラン、1.2gのフコイダンおよび14gのNaClを、40mlの水中で混合した。300mgの溶液を単離し、そして30μLの10M NaOHを加え、その後、混合した。その後、30μLのSTMP(300mgを1mLのSTMP水に溶解)を加えた。混合物を油中(30mlのキャノーラ油、0.35mgのSpan80+0.12mgのTween80)に注入し、そして混合物をPolytron(小さなプロペラ)を用いて全速力で2分間かけて撹拌した。その後、破砕機を50℃のオーブンに20分間入れる。破砕機をオーブンから取り出した後、混合物を、30分間かけてマグネチックスターラーでの撹拌下で10×PBS中で平衡化させる。上清を除去し、そして0.01%SDS中での2回の濯ぎ、食塩水0.025%NaCl中での3回のリンス(1時間)を実施した。最後に、凍結乾燥工程を実施する。
【0113】
本発明者らは、以下の多糖の組成を有する種々のタイプのビーズを得た:
75%プルラン+25%デキストラン
25%DEAEプルラン、75%中性プルラン
50%プルラン+(25%デキストラン、25%中性デキストラン)
25%DEAEプルラン、75%中性プルラン
50%DEAEデキストラン、50%中性デキストラン。
【0114】
その後、活性を、エッペンドルフチューブ中の5mgのビーズを用いて評価した。この目的のために、50μLのt−PA(200UI/mL)またはt−Paを含む本発明によるビーズを1時間インキュベーションし、そして500Lの緩衝溶液(PBS−0.1%HSA−0.01%Tween20)を用いて3回リンスした。
【0115】
S444に50μLの2mM基質を添加した後の比色測定は、天然t−PA活性の30%超が、ビーズ中に維持されていたことを実証した。
【0116】
本発明による多糖ビーズ上への細胞の浸潤
細胞の播種を、無菌の1.5mlのエッペンドルフチューブにおいて実施する。こうしたチューブの各々において、4mgの凍結乾燥したビーズを各チューブ内に入れる。各エッペンドルフチューブについて、15〜20μLの培養培地中に2〜3×10
6個の細胞を含む、細胞懸濁液を調製する。細胞懸濁液を各エッペンドルフチューブ内に入れ、その後これを30分間インキュベーションする。その後、500μLの培養培地を各チューブに加える。その後、チューブを37℃で2時間インキュベーションして、ビーズ上への細胞の接着を最適化する。その後、ビーズを培養ウェルに移す。500μLの培養培地を各ウェルに加える。従って、細胞は本発明のビーズに浸潤し、そして適切な時間かけて培養する。
【0117】
本発明者らは、ビーズを、線維芽細胞3T3(
図7参照)、ヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒト間葉系幹細胞またはルイスラット間葉系幹細胞で浸潤させた前記技術を実施した。
【0118】
本発明者らはこのようにして、培養した細胞を含む多糖ビーズを得た。