【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 平成25年11月25日 集会名 The 7▲th▼Asian Conference on Electrochemical Power Sources 主催者名 公益社団法人電気化学会電池技術委員会、キャパシタ技術委員会、燃料電池研究会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成25年11月24日 刊行物名 Book of Abstracts ACEPS−7 12頁 発行者名 公益社団法人電気化学会電池技術委員会、キャパシタ技術委員会、燃料電池研究会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成25年10月6日 刊行物名 第54回電池討論会講演要旨集 発行者名 公益社団法人電気化学会電池技術委員会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 平成25年10月9日 集会名 第54回電池討論会主催者名 公益社団法人電気化学会電池技術委員会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成26年1月7日 掲載アドレス http://www.nature.com/srep/2014/140107/srep03591/full/srep03591.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極活物質に含まれるキノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方は、前記正極活物質に含まれるキノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方よりベンゼン環を多く含むことを特徴とする請求項5記載の蓄電装置。
前記負極活物質に含まれるキノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方と、前記正極活物質に含まれるキノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方と、はともに前記ハロゲン基を有することを特徴とする請求項5または6記載の蓄電装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1(a)および
図1(b)は、本発明の実施形態に係る蓄電装置の模式図である。
図1(a)および
図1(b)を参照し、蓄電装置50は、正極10、負極12および電解質14を有している。正極10は、正極多孔質体30と正極活物質34とを含む。正極多孔質体30は正極活物質34を担持している。負極12は、負極多孔質体32と負極活物質36とを含む。負極多孔質体32は負極活物質36を担持している。
図1(a)を参照し、蓄電装置50を充電するときには、正極10に正電圧、負極12に負電圧が印加されるように、直流電源16を接続する。これにより、直流電源16を介し負極12から正極10に電流I1が流れる。電解質14内を正極10から負極12にプロトン24(H
+)が伝導する。
図1(b)を参照し、蓄電装置50を放電するときには、正極10と負極12との間に負荷18を接続する。これにより、負荷18内を正極10から負極12に電流I2が流れる。電解質14内を負極12から正極10にプロトン24(H
+)が伝導する。
【0018】
正極活物質34としてテトラヒドロキノン、負極活物質36としてアントラキノンを用いた場合を例に説明する。
図2(a)は、放電状態における正極活物質および負極活物質の例を示す図であり、
図2(b)は、充電状態における正極活物質および負極活物質の例を示す図である。
図2(a)を参照し、放電状態では、正極活物質34はテトラクロロヒドロキノンであり、負極活物質36はアントラキノンである。
図2(b)を参照し、蓄電装置50を充電すると、正極10において、テトラクロロヒドロキノンのOHが電子とプロトンを放出し、キノンのOとなる。プロトンは電解質14内を負極12に伝導する。負極12において、キノンのOがプロトンと電子を受容しOHとなる。以上により、正極活物質34はテトラクロロキノンとなり、負極活物質36はアントラヒドロキノンとなる。
【0019】
以上のように、正極活物質34は、放電状態ではヒドロキノンであり、充電状態ではキノンであり、放電または充電途中ではキノンとヒドロキノンとの混合状態である。負極活物質36は、放電状態ではキノンであり、充電状態ではヒドロキノンであり、放電または充電途中ではヒドロキノンとキノンとの混合状態である。これにより、プロトンが伝導する蓄電装置が実現できる。
【0020】
正極活物質34および負極活物質36であるキノンおよび/またはヒドロキノンは、活性炭等の正極多孔質体30および負極多孔質体32に担持される。しかしながら、このような蓄電装置は、充電および放電のサイクルを繰り返すと、蓄電性能が劣化してしまう。
【0021】
本発明者らは、このように蓄電性能が劣化する原因として、キノンおよび/またはヒドロキノンが電解質14に溶出してしまうためと考えた。
【0022】
そこで、本実施形態においては、キノンおよび/またはヒドロキノンがハロゲン基を有する。ハロゲン基は、電子求引性が大きいため正極多孔質体30および負極多孔質体32の炭素等の官能基との分子間力が増大する。このため、キノンおよび/またはヒドロキノンが電解質14に溶出し難くなる。
【0023】
以上のように、蓄電装置の正極10および負極12の少なくとも一方に含まれる電極用材料は、ハロゲン基を有するキノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方を含む活物質と、活物質を担持した多孔質体と、を含む。これにより、キノンおよび/またはヒドロキノンが電解質14に溶出し難くなる。よって、蓄電装置の長寿命化が可能となる。
【0024】
さらに、正極10は、キノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方を含む正極活物質34と、正極活物質34を担持する正極多孔質体30を含む。負極12は、キノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方を含む負極活物質36と、負極活物質36を担持する負極多孔質体32と、を含む。さらに、正極活物質34と負極活物質36との少なくとも一方に含まれるキノンおよびヒドロキノンの少なくとも一方は、ハロゲン基を有する。これにより、エネルギー密度が高く、長寿命な蓄電装置を提供することができる。
【0025】
本実施形態で用いられるキノンおよび/またはヒドロキノンは、環式有機化合物であり、例えばベンゼン環を1または複数含む。正極活物質34に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンは、反応電位を下げるためベンゼン環が少ないことが好ましい。負極活物質36に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンは、反応電位を上げるためベンゼン環が多いことが好ましい。このように、正極活物質34に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンは負極活物質36よりベンゼン環が少ないことが好ましい。例えば、正極活物質34に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンはベンゼン環を1個有し、負極活物質36に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンはベンゼン環を3個以上含むことが好ましい。
【0026】
正極多孔質体30および/または負極多孔質体32が活性炭の場合、キノンおよび/またはヒドロキノンのベンゼン環と多孔質体のベンゼン環とのπ−π相互作用によりキノンおよび/またはヒドロキノンが電解質14に溶出し難くなる。よって、キノンおよび/またはヒドロキノンはベンゼン環を多く含むことが好ましい。しかしながら、前述のように、正極活物質34に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンは、ベンゼン環が少ないことが好ましい。このため、正極活物質34と正極多孔質体30とのπ−π相互作用が小さくなる。よって、正極活物質34に含まれるキノンおよび/またはヒドロキノンは、ハロゲン基を有することが好ましい。
【0027】
図3(a)から
図3(d)は、正極活物質に含まれるヒドロキノンの例の化学式を示す図である。
図3(a)から
図3(c)を参照し、正極活物質34としては、例えばテトラクロロヒドロキノン、2,5ジクロロ3,5エチルヒドロキノンまたはナフトヒドロキノンを用いることができる。正極活物質34としては、
図3(d)に示す化学式のRがそれぞれハロゲン基、アルキル基および水素原子のいずれかであるヒドロキノンであってもよい。なお、
図3(a)および
図3(b)は
図3(d)の一例である。
【0028】
図4(a)から
図6(d)は、負極活物質に含まれるキノンの例の化学式を示す図である。
図4(a)から
図4(f)を参照し、負極活物質36としては、例えば1,4−ジクロロアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,8−ジクロロアントラキノン、アントラキノン、5,12−ナフタセンキノンまたはナフトキノンを用いることができる。
【0029】
図5(a)から
図5(d)を参照し、例えば5,7,12,14−ペンタセンテトロン、1,2,4,8,9,11−ヘキサクロロ5,7,12,14−ペンタセンテトロン、1,2,3,4,8,9,10,11−オクタクロロ5,7,12,14−ペンタセンテトロンまたは1,2,3,4,6,8,9,10,11,13−オクタクロロ5,7,12,14−ペンタセンテトロンを用いることができる。
【0030】
さらに、負極活物質36は、
図6(a)から
図6(d)に示す化学式のRがそれぞれハロゲン基、アルキル基および水素原子のいずれかであるヒドロキノンであってもよい。
図4(f)は、
図6(a)の一例である。
図4(e)は、
図6(b)の一例である。
図5(b)から
図5(d)は、
図6(c)の一例である。
図4(a)から
図4(d)は、
図6(d)の一例である。
【0031】
キノンにおいて、ケトン構造およびハロゲン基の配置および個数は任意である。ヒドロキノンにおいて、OH基およびハロゲン基の配置および個数は任意である。キノンおよび/またはヒドロキノンは、アルキル基、ビニル基およびアリール基の少なくとも1つを有してもよい。アルキル基、ビニル基およびアリール基の少なくとも1つの配置および個数は任意である。
【0032】
ハロゲン基は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基およびアスタト基の少なくとも1つであればよい。ハロゲン基としては、電子求引性を適度に有するクロロ基が好ましい。
【0033】
正極多孔質体30および/または負極多孔質体32の粉体の径は、例えば2μmから100μmである。正極多孔質体30および/または負極多孔質体32は、半径が3nm以下の細孔を有することが好ましい。正極多孔質体30および/または負極多孔質体32は、キノンおよび/またはヒドロキノンとの間にπ−π相互作用が生じるように、活性炭またはナノメータサイズカーボン(ナノカーボン)を含むことが好ましい。ナノカーボンを凝集することにより空隙を有し、多孔質体となる。ナノカーボンとしては、例えば、グラフェン、カーボンナノチューブおよびカーボンナノファイバを少なくとも1つを含む。
【0034】
電解質14としては、水溶性電解質、固体電解質および有機系電解質を用いることができる。プロトンを伝導させるため、電解質14はpHが7以上の酸性であることが好ましい。電解質14は、硫酸、硝酸または塩酸等の酸を含むことが好ましい。また、蓄電装置の長寿命化のため、電解質14内の酸素濃度が低いことが好ましい。
【実施例1】
【0035】
図7は、実施例1から5に係る蓄電装置を示す図である。蓄電装置52は、正極10、集電体11、負極12、集電体13、電解質14、参照電極20および管22を備えている。正極10および負極12は、それぞれ集電体11および13を介し、直流電源16または負荷に接続される。集電体11はAu(金)メッシュであり、集電体13はAu(金)メッシュである。電解質14は硫酸(H
2SO
4)水溶液である。参照電極20は、Ag(銀)とAgCl(塩化銀)の混合物である。管22は、電解質14内に窒素ガスを供給しバブリングする。これにより、電解質14内の酸素が脱気される。
【0036】
実施例1から5における正極10および負極12の作製方法は以下である。
有機溶剤(実施例ではアセトン)にキノンまたはヒドロキノンと活性炭とを分散させる。
室温より高温(実施例では約70℃)とし、有機溶剤を蒸発させる。これにより、活性炭にキノンまたはヒドロキノンが担持される。
活性炭と結合剤(実施例ではPTFE)を混合する。
活性炭と結合剤との混合体を成型する。
【0037】
表1は、実施例1における正極10の材料、負極12の材料、正極10と負極12との重量比、電解質14の硫酸濃度、参照電極20およびCレートを示す表である。
【表1】
【0038】
表1を参照し、正極10には、テトラクロロヒドロキノン(Chloranol
:TCHQ)、活性炭1およびPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を用いた。負極12には、アントラキノン(AQ)、活性炭1およびPTFEを用いた。活性炭1は、比較的高価であるが半径が3nm以下の細孔の多いMaxsorb(登録商標)である。正極10と負極12との重量比は、1:1である。電解質14の硫酸濃度は、0.5モル/リットルである。参照電極20は、AgとAgClの混合体である。充電特性および放電特性の測定のCレートは、AQ基準で5Cとした。
【0039】
図8は、実施例1における容量に対する電圧を示す図である。実線は充電時の正極10と負極12との間の電圧を示し、破線は放電時の正極10と負極12との間の電圧を示す。容量は、正極10の単位質量あたりで表している。
図8を参照し、充電時において、電圧は、40mAh/g程度まで急激に上がり、40mAh/gから180mAh/g程度まで傾斜がなだらかとなり、180mAh/g以上で再び急激に上がる。放電時において、電圧は、40mAh/g程度まで急激に下がり、40mAh/gから150mAh/g程度まで傾斜がなだらかとなり、150mAh/g以上で再びで急激に下がり、220mAh/g程度において0Vとなる。
【0040】
電圧が急激に下がるまたは上がる領域40および44においては、電気二重層キャパシタとして電荷が蓄積されている。電圧の傾斜がなだらかな領域42においては、プロトンが伝導するロッキングチェア型電気化学キャパシタとして電荷が蓄積されている。このように、実施例1に係る蓄電装置52は、電気二重層キャパシタとロッキングチェア型電気化学キャパシタとの機能を有するため、容量を大きくできる。
図8から二極式容量を算出すると、電気二重層キャパシタとしては41.5F/g、電気化学キャパシタとしては104.3F/gとなる。また最大容量は220mAh/gである。
【0041】
図9は、実施例1における時間に対する電位を示す図である。実線は参照電極20に対する正極10の電位を示し、破線は参照電極20対する負極12の電位を示している。時間が0秒から約650秒までが充電過程であり、約650秒から約1250秒までが放電過程である。正極10の平均電位は0.501Vであり、負極12の平均電位は−0.159Vである。反応電位は約0.65Vである。
図9の正極10と負極12との電位差が
図8の電圧に相当する。
【0042】
図10は、実施例1における各サイクルの時間に対する電位を示す図である。
図10内の曲線に付した数字はサイクルを示している。サイクルは充電および放電を繰り返した回数である。太線は参照電極20に対する正極10の電位を示し、細線は参照電極20に対する負極12の電位を示す。以下、
図11から
図13および
図15において同じである。
【0043】
表2は、実施例1における各サイクルのエネルギー密度、電気二重層キャパシタ(EDLC)の容量(二極式)を示す表である。
【表2】
【0044】
図10および表2を参照し、1サイクル目から50サイクル目において、エネルギー密度は約14Wh/kgから約18Wh/kgである。EDLC容量は、E(エネルギー密度)=1/2×C(EDLC容量)×V(電圧)
2により算出した。10サイクル目は1サイクル目に比べエネルギー密度およびEDLC容量が増加している。50サイクル目と10サイクル目とは、エネルギー密度およびEDLC容量がほぼ同じである。示していないが100サイクル目までエネルギー密度はほぼ同じである。100サイクル目に窒素ガスのバブリングを停止した。150サイクル目においては、エネルギー密度が低下している。このように、窒素バブリングにより、電解質14中の酸素濃度を低下させることにより、長寿命化できる。
【実施例2】
【0045】
表3は、実施例2における正極10の材料、負極12の材料、正極10と負極12との重量比、電解質14の硫酸濃度、参照電極20およびCレートを示す表である。
【表3】
【0046】
表3を参照し、正極10と負極12との重量比を1:1.2とした。Cレートをテトラクロロヒドロキノン基準とした。その他の使用した材料、正極10および負極12の作製方法、および充電特性および放電特性の測定方法は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0047】
図11は、実施例2における各サイクルの時間に対する電位を示す図である。表4は、実施例2における各サイクルのエネルギー密度を示す表である。
【表4】
【0048】
図11および表4を参照し、エネルギー密度は約10Wh/kgから13Wh/kgである。また、100サイクル目までエネルギー密度はほとんど低下していない。実施例2は、実施例1に比べエネルギー密度が小さいものの10Wh/kg以上である。
【実施例3】
【0049】
表5は、実施例3における正極10の材料、負極12の材料、正極10と負極12との重量比、電解質14の硫酸濃度、参照電極20およびCレートを示す表である。
【表5】
【0050】
表5を参照し、電解質14の濃度を1.75モル/リットルとした。その他の使用した材料、正極10および負極12の作製方法、および充電特性および放電特性の測定方法は実施例2と同じであり、説明を省略する。
【0051】
図12は、実施例3における各サイクルの時間に対する電位を示す図である。表6は、実施例3における各サイクルのエネルギー密度を示す表である。
【表6】
【0052】
図12および表6を参照し、エネルギー密度は約13Wh/kgから18Wh/kgである。また、150サイクル目までエネルギー密度はほとんど低下していない。実施例3では、実施例1に比べCレートを2倍としてもエネルギー密度は実施例1と同じである。
【0053】
実施例1から3のように、正極10と負極12との比率および電解質14の硫酸濃度を適宜設定することにより、エネルギー密度およびCレートを最適化できる。
【実施例4】
【0054】
表7は、実施例4における正極10の材料、負極12の材料、正極10と負極12との重量比、電解質14の硫酸濃度、参照電極20およびCレートを示す表である。
【表7】
【0055】
表7を参照し、正極10および負極12の活性炭として活性炭2を使用した。活性炭2としては椰子柄炭を用いている。椰子柄炭はMaxsorb(登録商標)と比べ安価であるが、半径が3nm以下の細孔が少ない。また、正極10および負極12にカーボンブラック(KB)を加えている。一般的な蓄電装置と同様にカーボンブラックを添加すると容量が向上する。その他の使用した材料、正極10および負極12の作製方法、および充電特性および放電特性の測定方法は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0056】
図13は、実施例4における各サイクルの時間に対する電位を示す図である。
図14は、実施例4におけるサイクルに対するエネルギー密度を示す図である。
図13および
図14を参照し、エネルギー密度は8Wh/kgから12Wh/kgである。サイクル数とともにエネルギー密度が低下するが、1800サイクル目においてもエネルギー密度は1サイクル目の約80%程度である。このように、充放電サイクルによるエネルギー密度の低下は小さい。
【0057】
実施例4によれば、安価な椰子柄炭を用いても10Wh/kg程度の大きなエネルギー密度を実現できる。また、約2000サイクルの充放電を行っても劣化は少ない。
【実施例5】
【0058】
表8は、実施例5における正極10の材料、負極12の材料、正極10と負極12との重量比、電解質14の硫酸濃度、参照電極20およびCレートを示す表である。
【表8】
【0059】
表8を参照し、負極活物質として1,5−ジクロロアントラキノン(DCAQ)を用いている。Cレートは、1,5−ジクロロアントラキノン基準である。その他の使用した材料、正極10および負極12の作製方法、および充電特性および放電特性の測定方法は実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0060】
図15は、実施例5における各サイクルの時間に対する電位を示す図である。表9は、実施例5における各サイクルのエネルギー密度を示す表である。
【表9】
【0061】
図15および表9を参照し、エネルギー密度は約9Wh/kgから約16Wh/kgである。200サイクル目までエネルギー密度が向上している。実施例1では、10サイクル目以降エネルギー密度が若干低下しているのに対し、実施例5においては、200サイクル目までエネルギー密度が向上している。これは、正極活物質に加え負極活物質がハロゲン基を有することにより、負極活物質の電解質への溶出を抑制するためと考えられる。1,8−ジクロロアントラキノンを活物質として用いた場合、1,5−ジクロロアントラキノンに比べ電解質14への溶質を抑制しにくかった。この結果からハロゲン基は、キノンまたはヒドロキノン内の点対称な位置に配置されることが好ましいと考えられる。
【0062】
実施例1から5のように、正極活物質および/または負極活物質がハロゲン基を有することにより、正極活物質および/または負極活物質の電解質への溶出を抑制し、充放電のサイクル特性を向上できる。負極活物質が主に含むキノンおよび/またはヒドロキノンは、ベンゼン環が少ないため、ハロゲン基を有することが好ましい。実施例5のように、負極活物質が主に含むキノンおよび/またはヒドロキノンと、正極活物質が主に含むキノンおよび/またはヒドロキノンと、がともにハロゲン基を有することが好ましい。
【0063】
実施例1から5によれば、鉛二次電池のエネルギー密度である20Wh/kg程度のエネルギー密度を希少元素および毒性の高い元素を用いることにより実現することができる。多孔質体、活物質および電解質を最適化することにより、より高いエネルギー密度を実現することができる。
【0064】
次に、活物質が多孔質体の細孔内に位置しているか調査した。まず、活性炭1(Maxsorb(登録商標))とアントラキノン(AQ)の複合体を2:5の重量比で実施例と同じ方法で作製した。さらに、活性炭1とナフタキノン(NQ)の複合体を2:5の重量比で実施例と同じ方法で作製した。
【0065】
AQ単体、NQ単体、活性炭1単体、AQと活性炭1の複合体、NQと活性炭1の複合体についてXRD(X線回折分析)法を用い結晶構造を調べた。
図16は、X線回折分析結果を示す図である。
図16を参照し、AQおよびNQは結晶の信号が観測される。活性炭1は多数の細孔を有するため、なだらかな信号となる。AQと活性炭1の複合体、NQと活性炭1の複合体においては、なだらかな信号となる。これは、活性炭1に担持されたAQまたはNQの結晶がナノメータサイズになっていることを示している。
【0066】
活性炭1単体、活性炭1に10wt%から50wt%のAQを添加した複合体を作製した。細孔半径に対する活性炭1の単位重量あたりの面積分布をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)を用い測定した。細孔半径に対するdV
m/dr
mを窒素吸脱着測定MP(Micropore analysis)法を用い測定した。活性炭2(椰子柄炭)の細孔半径に対する単位重量あたりの面積分布をBJH法を用い測定した。
【0067】
図17は、細孔半径に対する面積分布を示す図である。
図18は、細孔半径に対するdV
m/dr
mを示す図である。
図17および
図18を参照し、AQ濃度が高くなると半径が小さい細孔が少なくなる。また、dV
m/dr
mが小さくなる。なお、dV
m/dr
m(cm
3・g
−1・nm
−1)は各細孔面積の2倍の値である。これは、AQ濃度が大きくなると、細孔内でAQ粒子が成長していることを示している。
【0068】
図19は、細孔半径に対する面積分布を示す図である。
図19を参照し、実線が活性炭1を示し、破線が活性炭2を示す。活性炭1は半径が3nm以下の細孔が活性炭2に比べ多く、特に半径が2nm以下の細孔が非常に多い。実施例1が実施例4に比べエネルギー密度が高いのは、半径の小さな細孔(例えば径が2nm以下のマイクロ孔)が多いためと考えられる。
【0069】
図20は、細孔内のキノンを示す模式図である。多孔質体の分子54に細孔56が形成されている。細孔56内にキノンおよび/またはヒドロキノンとしてAQが粒子化している。このように、活物質であるキノンおよび/またはヒドロキノンが多孔質体の細孔56内において結晶化している。
【0070】
以上のように、多孔質体内の半径が小さい細孔の面積分布が多いことにより、多孔質体はキノンおよび/またはヒドロキノンを細孔内により多く担持できる。よって、蓄電装置のエネルギー密度を向上できる。多孔質体は、直径が2nm以下であるマイクロ孔の面積が全体表面積の50%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましい。これにより、蓄電装置のエネルギー密度を向上できる。
【実施例6】
【0071】
実施例6は、実施例1の表1と同じ構成の蓄電装置について、1000サイクルまで充放電特性を測定した例である。
図21(a)は、実施例6における時間に対す電圧を示す図、
図21(b)は、サイクルに対するエネルギー密度を示す図である。
図21(a)内の曲線に付した数字はサイクル数を示している。
図21(a)に示すように、1000サイクル目では、100サイクル目に比べ、セル電圧が0Vのときの電圧が正極側に上昇している(矢印参照)。これは、負極の劣化により、エネルギー損失が生じていることを示している。
図21(b)に示すように、最大のエネルギー密度は、約19Wh/kgであり、その後、サイクル数が増すとエネルギー密度は低下する。1000サイクル目でのエネルギー密度は最大のエネルギー密度の約71%である。以上のように、1000サイクル目まで充放電特性は良好である。
【0072】
また、実施例6の蓄電装置について、50サイクル目の充放電曲線から負極および正極の容量を測定した。負極の容量は199mAh/gであった。これは、アントラキノンの理論容量257mAh/gの77%である。正極の容量は186mAh/gであった、これはテトラクロロヒドロキノンの理論容量216mAh/gの86%である。このように、理論容量に近い容量を得ることができた。
【実施例7】
【0073】
実施例7は、実施例5の表8と同じ構成の蓄電装置について、1000サイクルまで充放電特性を測定した例である。
図22(a)は、実施例7における時間に対す電圧を示す図、
図22(b)は、サイクルに対するエネルギー密度を示す図である。
図22(a)内の曲線に付した数字はサイクル数を示している。
図22(b)は、実施例6と実施例7を示している。
図22(a)に示すように、100サイクル目と1000サイクル目では、充放電特性はほとんど変化しない。
図22(b)に示すように、実施例7の最大のエネルギー密度は、約12Wh/kgである。1000サイクル目でのエネルギー密度は最大のエネルギー密度の約95%である。以上のように、負極活物質を、実施例6のアントラキノンから実施例7の1,5−ジクロロアントラキノンにすることにより、充放電サイクルによるエネルギー密度の劣化を抑制できる。これは、負極活物質がハロゲン基を有することにより、負極活物質の電界質への溶出を抑制でるためと考えられる。
【実施例8】
【0074】
ハイドロ基の効果を確認するため、正極活物質をハイドロキノン(比較例1)またはテトラクロロヒドロキノン(実施例8)、負極を活性炭のみとした。その他は実施例1と同じである。
図23(a)は、ハイドロキノンの分子式を示す図である。
図23(a)に示すように、ハイドロキノンは
図2(b)のテトラクロロキノンと比べクロロ基が結合していない。
【0075】
電圧と電流密度特性より、実施例8は比較例1より高電位となることを確認した。これは、クロロ基の電子吸引性によるものである。
図23(b)は、サイクル数に対する放電容量レートを示す図である。
図23(b)示すように、比較例1では、サイクル数が増加すると放電容量レートが低下する。一方、実施例8では、サイクル数が増加しても放電容量レートはほとんど変化しない。このように、活物質がハロゲン基を有することにより、高電位反応とサイクル特性を両立することができる。
【0076】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。