(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
得られた酸化水酸化鉄非結晶体及び/またはその凝集体分散液をアルカリ剤によってpH調整を行うことで、粒度調整を行う請求項1に記載の硫黄化合物除去剤の製造方法。
【背景技術】
【0002】
例えば、下水処理場、し尿処理場、製紙パルプ工場、製鉄場等では悪臭の発生が問題となっているが、悪臭物質主成分の一つとして硫化水素が挙げられる。従来、硫化水素を除去する方法としては、廃液または汚泥等に亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)等を利用して硫酸還元菌の増殖を抑えて硫化水素の発生を抑える方法や、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、塩化第二鉄(FeCl
3)、硫酸第二鉄(Fe
2(SO
4)
3)、ポリ鉄(Fe
2(SO
4)
2+n(OH)
2−n)等の酸化剤を用いて硫化水素を酸化し、イオウとして固定する方法が採用されていた。
【0003】
しかしながら、下水処理場、し尿処理場、製紙パルプ工場、製鉄所等において発生する汚染物質には、硫化水素以外に多量の有機質が含まれているので、硫化水素以外の有機質と酸化剤とが反応することで酸化剤による硫化水素の除去効率が低下し、酸化剤を多量に添加しながらも硫化水素を十分に除去することができないと共に、大きな反応速度が得られるpH領域が狭いため処理操作が面倒であるという問題がある。
【0004】
また、酸化剤として上述した三価の鉄系化合物を用いる場合には、実質的に硫化水素の除去率が低いため鉄系酸化剤の投入量が多いことから、有機化合物及び硫化水素が三価の鉄イオンを還元した時に多量の含水酸化第二鉄(Fe
2O
3・nH
2O)となるが、この含水酸化第二鉄は凝集作用が弱いためコロイド溶液になり、この為放流水が濁ってしまうという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
こういった問題を解決するために、針状結晶が球状に密集したアカガナイト((格子定数a=10.48、c=3.06)の結晶構造を有する化学式β−FeOOHの鉄化合物)よりなる硫化水素除去剤が提案されているが(特許文献1)、アカガナイトは、温度75〜85℃、装置内圧力1.9kg/cm
2状態で16〜17時間反応させ、その沈殿物をフィルターでろ過して結晶化を行うため、大掛かりな装置が必要であり、そのため製造コストもかさむので硫化水素のような大量に処理を必要とする使用用途には適していない。しかも、アカガナイトは、結晶構造を有しているので硫黄化合物との反応速度が比較的遅く、除去速度が重視される下水、し尿処理場、製紙パルプ工場、製鉄所等において使用される硫黄化合物除去剤には適していない。
【0007】
また、下水処理場、し尿処理場、ごみなどのバイオマス化工場、埋め立て地、アスファルトなどの大量に作業処理を行うところでは、低濃度の硫化水素が大量に発生し続けるが、低濃度の硫化水素を完全に除去することは難しく、大量に発生する低濃度の硫化水素を完全に除去可能な硫黄化合物除去剤が求められている。
【0008】
そこで、この発明の課題は、簡単に低コストで製造することができ、硫黄化合物との反応速度が早く、低濃度の硫黄化合物の除去能力に優れた硫黄化合物除去
剤の製造方
法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、酸化水酸化鉄非結晶体及び/またはその凝集体分散液からなる硫黄化合物除去剤の製造方法であって、反応初期温度が0℃〜30℃下において、塩化第一鉄の塩素量1モルに対してアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属が0.01〜0.9モル、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属1モルに対して過酸化水素の酸素量が9.9モル、
塩化第一鉄の塩素量1モルに対してアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と過酸化水素の酸素量の合計が1〜2モルとなるように、塩化第一鉄水溶液にアルカリ化合物もしくはアルカリ土類化合物と過酸化水素を加えて反応させることを特徴としている。
【0012】
また、請求項
2に係る発明は、
請求項1に記載の硫黄化合物除去剤
の製
造方法において、
得られた酸化水酸化鉄非結晶体及び/またはその凝集体分散液をアルカリ剤によってpH調整を行うことで、粒度調整を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、請求項1に係る発明の
方法により製造された硫黄化合物除去剤は、含有してい
る酸化水酸化鉄および/またはその凝集体が結晶化していないので、硫黄化合物との反応に寄与する表面積が大きく、結晶構造を有するアカガナイト等に比べて、硫黄化合物との反応速度が大きいだけでなく、低濃度の硫黄化合物を完全に除去することができるという特性を有している。従って、硫黄化合物の除去速度が重視される下水、し尿処理場、製紙パルプ工場、製鉄所等において使用される硫黄化合物除去剤として、特に、低濃度の硫化水素が大量に発生し続ける下水、し尿処理場等において使用される硫黄化合物除去剤として好適である。
【0014】
また、この硫黄化合物除去剤
の製造方法は
、塩化第一鉄、アルカリ化合物また
はアルカリ土類化合物、過酸化水素を反応させるだけでよく、大掛かりな製造装置を使用しなくても、簡単に低コストで製造することができるので、硫化水素のような大量に処理を必要とする場合に適している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の硫黄化合物除去剤及びその製造方法について詳細に説明する。本発明の硫黄化合物除去剤は、酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体及び/またはその凝集体分散液であり、塩化第一鉄水溶液にアルカリ化合物またはアルカリ土類化合物と過酸化水素を加えて反応させることによって製造される。
【0018】
アルカリ化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属やそういったアルカリ金属化合物が、アルカリ土類化合物としては、べリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属やそういったアルカリ土類金属化合物が挙げられ、その中でも、リチウム、ナトリウム、カリウム、べリリウム、マグネシウム、カルシウムやそういった金属化合物が好適である。また、アルカリ化合物やアルカリ土類化合物は、アルカリ金属やアルカリ土類金属単体ではなく、化合物として使用するのが好ましく、特に、水酸化物として使用することがより好ましい。
【0019】
本発明の硫黄化合物除去剤の製造方法をより詳しく説明する。反応初期温度が常温(0℃〜30℃)下において、塩化第一鉄の塩素量1モルに対してアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属が0.01〜0.9モル、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属1モルに対して過酸化水素の酸素量が9.9モル、
塩化第一鉄の塩素量1モルに対してアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属と過酸化水素の酸素量の合計が1〜2モルとなるように、塩化第一鉄水溶液にアルカリ化合物もしくはアルカリ土類化合物と過酸化水素を加えて反応させることによって製造される。
【0020】
このようにして製造された酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体及び/またはその凝集体分散液をアルカリ剤によってpH調整を行うことで、本発明の硫黄化合物除去剤の粒度調整を行うことができ、酸性度が高ければ粒度は小さく、アルカリ度が高ければ粒度は大きくなる。
【0021】
Ph調整するためのアルカリ剤は、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム及びアンモニアからなる群より選択される1以上のアルカリ性化合物又はその水溶液が好ましい。
【0022】
また、製造された酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体及び/またはその凝集体分散液を濾過した後乾燥させることにより、酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体やその凝集体を粉末化することができ、このように粉末化された本発明の硫黄化合物除去剤は、活性炭等の多孔質体に担持することが可能となる。
【0023】
本発明は水溶液中において塩化第一鉄の塩素の一部を、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩化物に変えて過酸化水素により酸化水酸化鉄に変化させることにより、塩素イオンと塩化物の相互作用において凝集体が生成される。この過程は自然界においてアカガナイトが出来る途中課程に類似しているが、
図1に示すようにあくまでも非結晶アモルファス体及び/またはその凝集体であり、このことが微粒子でありながら凝集体として表面積の大きい硫黄化合物除去剤となり、硫黄化合物の除去能力の高さに由来していると予測される。
【0024】
また、上述したように、酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体及び/またはその凝集体からなる硫黄化合物除去剤は、常温下における過酸化水素との化学反応により製造することができるので、大量かつ廉価に製造することが可能である。
【0025】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0026】
(実施例1)
水酸化ナトリウムフレーク(東ソー株式会社製)3gを精製水30gに溶解させた水酸化ナトリウム水溶液に過酸化水素水35%(保土谷化学工業株式会社製)7gを加えて十分に撹拌しておき、これを安定化塩化第一鉄水溶液31%(ラサ工業株式会社製)60gにゆっくりと加えてスターラーにて撹拌しながら反応させ、反応が収束するまでさらに撹拌して得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液と、さらにこの酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液を濾過した酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体ウエット検体と、さらに乾燥機で80℃にて1時間乾燥させて酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体乾燥粉末検体を得た。
【0027】
このようにして得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体ウエット検体と、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体乾燥粉末検体とについてそれぞれX線結晶回折を行い、それぞれの回析チャートを
図1に示した。なお、
図1における下位の回析チャートは凝集体ウエット検体を、上位の回析チャートは凝集体乾燥粉末検体をそれぞれ示している。
【0028】
上記凝集体ウエット検体の回析チャートから分かるように、凝集体ウエット検体の回析ピークは、反応により形成された塩化ナトリウムの結晶ピークであり、塩化ナトリウム以外に回析ピークは現れていない為、凝集体ウエット検体が非結晶アモルファス体であることは明らかである。また、凝集体乾燥粉末検体の回析チャートについては、塩化ナトリウムの結晶ピークが大きく、塩化ナトリウムの結晶が成長していることが分かるが、塩化ナトリウム以外はほとんど結晶として成長しておらず、凝集体乾燥粉末検体についても非結晶アモルファス体であることは明らかである。
【0029】
また、
図2は凝集体乾燥粉末検体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であるが、このSEM写真からも凝集体乾燥粉末検体が非結晶アモルファスの凝集体であることが確認できた。
【0030】
上記実施例の硫黄化合物除去剤(酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液)を用いた本発明検体1、2、従来の硫黄化合物除去剤を用いた比較検体1〜4及び硫黄化合物除去剤を用いない比較検体5、6について、低濃度の硫化水素に対する脱臭無害化能力試験を実施し、その試験結果を表1に示した。なお、本試験は、微量の硫黄化合物除去剤が水に溶解した微量(低濃度)の硫化水素を吸着する速度を確認することを目的としている。
【0031】
(本発明検体1)
上記実施例で得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液を、pH6.8のイオン交換水によって希釈して100ppmに調整したものを本発明検体1とした。
(本発明検体2)
上記実施例で得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液を、リン酸によって弱酸性(pH5)に調整したイオン交換水によって希釈して100ppmに調整したものを本発明検体2とした。
(比較検体1)
ポリ硫酸第二鉄をpH6.8のイオン交換水によって希釈して100ppmに調整したものを比較検体1とした。
(比較検体2)
ポリ硫酸第二鉄をリン酸によって弱酸性(pH5)に調整したイオン交換水によって希釈して100ppmに調整したものを比較検体2とした。
(比較検体3)
塩化第一鉄をオートクレーブ内で、温度80℃、装置内圧力1.9kg/cm2 状態で17時間反応させ、その沈殿物をフィルターでろ過して得られた固形分を水で3回洗浄し、さらに乾燥機で80℃にて1時間乾燥させて得られた荒い粉末生成物をボールミルにて5時間かけて粉砕して少量の微粉末の結晶性アカガナイトを生成し、この結晶性アカガナイト粉末をpH6.8のイオン交換水によって希釈して100ppmに調整したものを比較検体3とした。
(比較検体4)
比較検体3と同様に生成した結晶性アカガナイト粉末をリン酸によって弱酸性(pH5)に調整したイオン交換水によって希釈して100ppmに調整ものを比較検体4とした。
(比較検体5)
pH6.8のイオン交換水を比較検体5とした。
(比較検体6)
リン酸によって弱酸性(pH5)に調整したイオン交換水を比較検体6とした。
【0032】
なお、それぞれの硫黄化合物除去剤について、中性(pH6.8)のイオン交換水に希釈したものと、リン酸によって弱酸性(pH5)に調整したイオン交換水によって希釈したものとの二種類の検体を用意したのは、実際の現場における硫化水素の除去作業が酸性状態で行われることが多いことから、現実に近い状況下での各硫黄化合物除去剤の脱臭無害化能力を検証するためである。
【0033】
(試験方法)
それぞれの検体10mlをバイヤルビン22mlに注入して密閉した後、硫化水素をそれぞれにバイヤル気相が10ppmになるようにガスタイトシリンジにて注入調整し、振り子振動機(シェイカー)にてゆっくり撹拌し続けながら10分後、1時間後におけるそれぞれのバイヤル気相をGC−FPD(ガスクロマトグラフィー炎光光度検出器)にて測定して硫化水素濃度を確認した。なお、振り子振動機(シェイカー)によって撹拌しながら測定を行ったのは、硫化水素は水に溶解するが、振動を与えると気相中に吐き出されることが知られているためである。
【0035】
<比較検体5、6>
表1に示すように、硫黄化合物除去剤を含まない比較検体5、6についても、試験開始後10分経時点において気相中の硫化水素濃度が初期濃度に対して7ppm程度低下しているが、これは、硫化水素が水に溶解したためであると考えられる。また、pH6.8のイオン交換水からなる比較検体5は1時間経過時点においても10分経過時点と略同様の状態を維持しているのに対して、pH5のイオン交換水からなる比較検体6の場合は、1時間経過時点では10分経過時点よりも気相中の硫化水素濃度がさらに1ppm程度低下していることから、酸性水は硫化水素の溶解を促進することが分かる。
【0036】
<比較検体1、2>
表1に示すように、硫黄化合物除去剤としてポリ硫酸第二鉄を使用した比較検体1、2は、試験開始後10分経過時点で気相中の硫化水素濃度が大きく低下しているが、1時間経過時点では、10分経過時点よりも気相中の硫化水素濃度が0.3ppm程度増加していることが分かる。ポリ硫酸第二鉄は、結晶性及び粒子性を有しておらず、検体中に鉄イオンや硫酸イオンとして存在しているため、鉄イオンの硫化水素に対する初期反応速度は大きいが、検体中の硫酸イオンの存在により、一旦鉄イオンと反応した硫化水素が時間と共に気相中に吐き出されるためであると考えられる。
【0037】
<比較検体3、4>
表1に示すように、硫黄化合物除去剤として結晶性アカガナイト粉末を使用した比較検体3、4は、試験開始後10分経過時点では気相中の硫化水素濃度が初期濃度に対して1.2ppm程度しか低下していないが、1時間経過時点では気相中の硫化水素濃度が0.01ppmを下回っていることが分かる。これは、結晶性アカガナイトがイオン交換水中に入ると、硫化水素のイオン交換水への溶解が阻害されること、結晶性アカガナイトの結晶粒径が大きいことによる硫化水素との接触面積が小さいこと等が原因であると考えられる。このことから、結晶性アカガナイトは、硫化水素の吸着量は大きいが、吸着速度が遅いのが難点であり、除去速度が重視される下水処理場、し尿処理場、製紙パルプ工場、製鉄所等において使用される硫黄化合物除去剤には適していないといえる。
【0038】
<本発明検体1、2>
表1に示すように、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液からなる硫黄化合物除去剤を使用した本発明検体1、2は、試験開始後10分経過時点において、既に気相中の硫化水素濃度が0.01ppmを下回っており、1時間経過時点においても、その状態が維持されていることが分かる。従って、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液からなる本発明の硫黄化合物除去剤は、結晶性アカガナイトとは異なり、イオン交換水中に入れても硫化水素のイオン交換水への溶解が阻害されることがないと共に、ポリ硫酸第二鉄とは異なり、時間の経過と共に硫化水素の吐き出し現象が発生することもなく、効率よく短時間で確実に硫化水素を除去(脱臭無害化)することができる。
【0039】
特に、本発明検体1、2は、シェイク開始直後に硫化水素と反応して沈殿物を発生させており、このことから、低濃度の硫化水素であっても即時に反応が始まり、硫黄化合物除去剤の濃度が硫化水素の濃度に対して10倍という極少量の酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体の凝集体分散希釈液では、硫黄化合物除去剤が同濃度の結晶体アカガナイトに比べ吸着速度が著しく早く、硫化水素除去(脱臭無害化)ができる能力を持つことが明らかになった。
【0040】
上記実施例1で得られた硫黄化合物除去剤(酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液)を用いた本発明検体3及び硫黄化合物除去剤を用いない上記比較検体5について、高濃度の硫化水素に対する脱臭無害化能力試験を実施し、その試験結果を表2に示した。
【0041】
(本発明検体3)
上記実施例1で得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液を、pH6.8のイオン交換水によって希釈して10000ppmに調整したものを本発明検体3とした。
【0042】
(試験方法)
本発明検体3及び比較検体5をそれぞれ10mlバイヤルビン22mlに注入して密閉した後、それぞれのバイヤルビンにバイヤル気相が略所定濃度(本発明検体:1300ppm、比較検体5:1200ppm)になるように硫化水素をガスタイトシリンジにて注入調整し、振り子振動機(シェイカー)にてゆっくり撹拌し続けながら10分後、1時間後におけるそれぞれのバイヤル気相をGC−FPDにて測定して硫化水素濃度を確認した。
【0044】
表2に示すように、硫黄化合物除去剤を含まない比較検体5についても、硫化水素が水に溶解するため、試験開始後10分経過時点において気相中の硫化水素濃度が280ppm、1時間経過時点において210ppmまで低下しているが、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液からなる硫黄化合物除去剤を使用した本発明検体3は、試験開始後10分経過時点において、既に気相中の硫化水素濃度が0.05ppmを下回っており、1時間経過時点においても、硫化水素の吐き出し現象が発生することもなく、その状態が維持されていることが分かる。
【0045】
以上のように、1000ppm以上の高濃度の硫化水素であっても、硫化水素の10倍の濃度の酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体の凝集体分散希釈液を用いることで、確実に除去(脱臭無害化)できることが明らかになった。
【0046】
上記実施例で得られた硫黄化合物除去剤(酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液)を用いた本発明検体4及び硫黄化合物除去剤を用いない上記比較検体5について、メチルメルカプタンに対する脱臭無害化能力試験を実施し、その試験結果を表3に示した。
【0047】
(本発明検体4)
上記実施例1で得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液を、pH6.8のイオン交換水によって希釈して5,000ppmに調整したものを本発明検体4とした。
【0048】
(試験方法)
それぞれの検体10mlをバイヤルビン22mlに注入して密閉した後、メチルメルカプタンをそれぞれにバイヤル気相が10ppmになるようにガスタイトシリンジにて注入調整し、振り子振動機(シェイカー)にてゆっくり撹拌し続けながら1分後、5分後におけるそれぞれのバイヤル気相をGC−FPDにて測定してメチルメルカプタン濃度を確認した。
【0050】
表3に示すように、硫黄化合物除去剤を含まない比較検体5については、試験開始後1分経時点及び5分経過時点において気相中のメチルメルカプタン濃度が初期濃度に対して0.4ppm〜0.5ppm程度しか低下していないが、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液からなる硫黄化合物除去剤を使用した本発明検体4は、試験開始後1分経過時点において、既に気相中の硫化水素濃度が0.1ppmを下回っており、5分経過時点においても、メチルメルカプタンの吐き出し現象が発生することもなく、その状態が維持されていることが分かる。このことから、酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体の凝集体分散希釈液はメチルメルカプタンに対しても除去能力を十分発揮し得ることが明らかになった。
【0051】
上記本発明検体4及び硫黄化合物除去剤を用いない上記比較検体5について、硫化ジメチル(ジメチルスルフィド)に対する脱臭無害化能力試験を実施し、その試験結果を表4に示した。
【0052】
(試験方法)
それぞれの検体10mlをバイヤルビン22mlに注入して密閉した後、硫化ジメチルをそれぞれにバイヤル気相が23ppmになるようにガスタイトシリンジにて注入調整し、振り子振動機(シェイカー)にてゆっくり撹拌し続けながら1分後、5分後におけるそれぞれのバイヤル気相をGC−FPDにて測定して硫化ジメチル濃度を確認した。
【0054】
表4に示すように、硫黄化合物除去剤を含まない比較検体5については、試験開始後1分経過時点及び5分経過時点において気相中の硫化ジメチル濃度が初期濃度に対して1ppm〜4ppm程度しか低下していないが、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液からなる硫黄化合物除去剤を使用した本発明検体4は、試験開始後1分経過時点において、既に気相中の硫化水素濃度が1.1ppmまで低下しており、5分経過時点においては0.6ppmmまで低下していることが分かる。このことから、酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体の凝集体分散希釈液は硫化ジメチルに対しても除去能力を十分発揮し得ることが明らかになった。なお、硫化ジメチルに対しては短時間で完全除去できなかったのは、硫化ジメチルは、水には溶解しないので本発明検体4との反応に時間がかかるためであると考えられる。
【0055】
(実施例2)
実施例1で得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液2gをイオン交換水にて5倍に希釈して、活性アルミナ(住友アルミニウム製錬株式会社製)100gに浸透させ、乾燥機で80℃にて1時間乾燥させることにより、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体が担持された活性アルミナを得た。
【0056】
このようにして得られた酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体の凝集体担持活性アルミナからなる本発明検体5について、低濃度の硫化水素に対する脱臭無害化能力試験を実施し、その試験結果を表5に示した。
【0057】
(試験方法)
10gの本発明検体5をバイヤルビン22mlに導入して密閉した後、バイヤル気相が略10ppmになるように硫化水素をガスタイトシリンジにて注入調整し、振り子振動機(シェイカー)にてゆっくり撹拌し続けながら1分後、10分後におけるバイヤル気相をGC−FPDにて測定して硫化水素濃度を確認した。なお、比較検体7として、バイヤルビン22mlに何も入れずに密封した後、バイヤル気相が略10ppmになるように硫化水素をガスタイトシリンジにて注入調整し、比較検体7についても同様の測定を行った。
【0059】
表5に示すように、酸化水酸化鉄非結晶アモルファス体の凝集体担持活性アルミナからなる本発明検体5は、試験開始後1分経過時点において、既に気相中の硫化水素濃度が0.05ppmを下回っており、10分経過時点においても、その状態が維持されていることが分かる。
【0060】
従って、酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体からなる本発明の硫黄化合物除去剤は、その分散液のみならず、多孔質体に担持した状態であっても、時間の経過と共に硫化水素の吐き出し現象が発生することなく、効率よく短時間で確実に硫化水素を除去(脱臭無害化)できることが明らかになった。
【課題】簡単に低コストで製造することができ、硫黄化合物との反応速度が早く、低濃度の硫黄化合物の除去能力に優れた硫黄化合物除去剤及びその製造方法並びに硫黄化合物を除去または脱臭無害化する方法を提供する。
【解決手段】水酸化ナトリウムフレーク3gを精製水30gに溶解させた水酸化ナトリウム水溶液に過酸化水素水35%7gを加えて十分に撹拌しておき、これを安定化塩化第一鉄水溶液31%60gにゆっくりと加えてスターラーにて撹拌しながら反応させ、反応が収束するまでさらに撹拌して得られた酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液と、さらにこの酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体分散液を濾過した酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体ウエット検体と、さらに乾燥機で80℃にて1時間乾燥させて酸化水酸化鉄の非結晶アモルファス体の凝集体乾燥粉末検体を得た。