特許第6158448号(P6158448)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158448
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】カップリング
(51)【国際特許分類】
   F16D 3/74 20060101AFI20170626BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20170626BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   F16D3/74 Z
   F16D1/02 110
   B62D5/04
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-568981(P2016-568981)
(86)(22)【出願日】2016年7月12日
(86)【国際出願番号】JP2016003295
(87)【国際公開番号】WO2017010087
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2016年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-140030(P2015-140030)
(32)【優先日】2015年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸 隆一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 元祥
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−35040(JP,A)
【文献】 特開平11−270571(JP,A)
【文献】 特開2011−173464(JP,A)
【文献】 特開2011−1055(JP,A)
【文献】 特開2009−269518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/74
B62D 5/04
F16D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端部が互いに突き合わされた駆動軸と従動軸とを同心状態ないし偏心変位量が変動する偏心状態でトルク伝達のために連結するようにしたカップリングであって、
前記駆動軸および従動軸の端部にそれぞれ設けられ、互いに突き合わされて配置される一対のジョイント部と、
前記一対のジョイント部間に外嵌合され、両ジョイント部を連結する円筒状のスリーブと、
を備え、
前記スリーブの内周面には、該スリーブの中心線に沿った方向に延びる一定の溝幅を有する複数のスプライン溝が周方向に間隔をあけて設けられている一方、
前記一対のジョイント部の外周面には、前記スプライン溝に歯合する複数の歯部が形成されており、
前記歯部は、前記歯部の幅が軸心方向に沿って一定となっている均一幅部と、前記均一幅部の相対する前記ジョイント部側に連続して設けられ前記歯部の幅が相対する前記ジョイント部に向かうにつれて狭くなった先細部とを含み、且つ前記均一幅部及び前記先細部を含む前記歯部の高さが軸心方向に沿って一定であるカップリング。
【請求項2】
請求項1において、
前記先細部は軸心方向に対して傾斜する傾斜面によって、前記歯部の幅が狭くなっているカップリング。
【請求項3】
請求項2において、
前記ジョイント部と前記スリーブの接触長さをS、前記一対のジョイント部間の間隙をG、前記駆動軸と従動軸との遊びが必要な最大偏心変位量をD、並びに前記先細部における歯部側面が駆動軸及び従動軸の軸心方向となす傾斜角をAとしたときに、
tanA≧D/(S+G)
となるカップリング。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つにおいて、
前記ジョイント部と前記スリーブの接触長さをS、及び前記先細部の軸心方向の長さをLとしたときに、
0.8S<L<0.99S
となるカップリング。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
従動軸は、自動車用の電動パワーステアリング装置のステアリングシャフトにウォームホイールを介して駆動連結されたウォームであり、
駆動軸は前記ウォームを駆動する制御モータの出力軸であるカップリング。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つにおいて、
前記ジョイント部は高弾性体で構成され、前記スリーブは低弾性体で構成されているカップリング。
【請求項7】
端部が互いに突き合わされた駆動軸と従動軸とを同心状態ないし偏心変位量が変動する偏心状態でトルク伝達のために連結するようにしたカップリングであって、
前記駆動軸および従動軸の端部にそれぞれ設けられ、互いに突き合わされて配置される一対のジョイント部と、
前記一対のジョイント部間に外嵌合され、両ジョイント部を連結する円筒状のスリーブと、
を備え、
前記スリーブの内周面には、該スリーブの中心線に沿った方向に延びる一定の溝幅を有する複数のスプライン溝が周方向に間隔をあけて設けられている一方、
前記一対のジョイント部の外周面には、前記スプライン溝に歯合する複数の歯部が形成されており、
前記歯部には、軸心方向に沿って歯部の幅が一定となっている均一幅部と、相対するジョイント部に向かうにつれて歯部の幅が狭くなる先細部とが設けられており、
前記先細部は軸心方向に対して傾斜する傾斜面によって、前記歯部の幅が狭くなっており、
前記ジョイント部と前記スリーブの接触長さをS、前記一対のジョイント部間の間隙をG、前記駆動軸と従動軸との遊びが必要な最大偏心変位量をD、及び前記先細部における歯部側面が駆動軸及び従動軸の軸心方向となす傾斜角をAとしたときに、
tanA≧D/(S+G)
となるカップリング。
【請求項8】
端部が互いに突き合わされた駆動軸と従動軸とを同心状態ないし偏心変位量が変動する偏心状態でトルク伝達のために連結するようにしたカップリングであって、
前記駆動軸および従動軸の端部にそれぞれ設けられ、互いに突き合わされて配置される一対のジョイント部と、
前記一対のジョイント部間に外嵌合され、両ジョイント部を連結する円筒状のスリーブと、
を備え、
前記スリーブの内周面には、該スリーブの中心線に沿った方向に延びる一定の溝幅を有する複数のスプライン溝が周方向に間隔をあけて設けられている一方、
前記一対のジョイント部の外周面には、前記スプライン溝に歯合する複数の歯部が形成されており、
前記歯部には、軸心方向に沿って歯部の幅が一定となっている均一幅部と、相対するジョイント部に向かうにつれて歯部の幅が狭くなる先細部とが設けられており、
前記ジョイント部と前記スリーブの接触長さをS、及び前記先細部の軸心方向の長さをLとしたときに、
0.8S<L<0.99S
となるカップリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップリングに関し、特にたわみ継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに端部を突き合わされた駆動軸と従動軸とを連結する構造として、カップリングが知られている(特許文献1参照)。このカップリングでは、駆動軸および従動軸の各端部に駆動連結される高弾性体で構成された一対のジョイント部と、該ジョイント部に外嵌合する低弾性体で構成された円筒状のスリーブとが設けられており、該ジョイント部の外周には軸心に沿った方向に延びる複数の歯部が形成されている。それに対し、スリーブの内周面には中心線に平行な複数のスプライン溝が形成されており、これらのスプライン溝にジョイント部の歯部を歯合させることで、駆動軸の回転によるトルクをスリーブを介して従動軸に伝達する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3539925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなカップリングにおいては、スリーブの弾力性と、スリーブおよびジョイントの歯部の間に設けた遊びとによって、駆動および従動軸(2つの回転軸)間のミスアライメントを順応させ、両軸間の静かな伝動を実現することができる。この際、ジョイント部の歯部とスプライン溝との間の遊びが少ないほど、高剛性の伝動が可能となって駆動軸から従動軸へ効率よくトルクが伝達されることが知られており、例えば、自動車用の電動パワーステアリング装置におけるウォームと、該ウォームを駆動する電動モータからなる制御モータの出力軸との連結部などに当該技術が利用されている。
【0005】
ところで、前述の自動車用の電動パワーステアリング装置においては、ウォームとウォームホイールとの間のバックラッシをなくすために、ウォームに軸心と垂直な方向へ与圧をかけてウォームホイールに押し付ける技術が知られている。このような場合には、ウォームと制御モータの出力軸とが偏心し、それに伴いカップリングのスリーブ内においてジョイントの歯部とスプライン溝の内壁とが接触することにより反力が生じ、回転によるトルク伝達を阻害してしまう。よって、このような場合には、偏心の初期段階には極めて低い剛性、つまり若干の「遊び」の効果が要求される。しかし、ジョイント部の歯部とスプライン溝との間の遊びを設けると、トルク伝達方向への高剛性を満足できなくなることになる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、カップリングの構造に改良を加えることにより、トルク伝達(回転)方向には高剛性を実現しつつ、駆動軸および従動軸が偏心する方向にはその初期において極めて低い剛性を実現するようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明では、ジョイント部の歯部に先細部を設けることで、駆動軸と従動軸とが偏心した際に先細部がスプライン溝の内壁に接触しないようにして、偏心反力の発生を抑えつつ、トルク伝達方向には歯部の均一幅を有する部分がスプライン溝に直ぐに干渉して、高いトルク伝達を実現できるようにした。
【0008】
具体的には、第1の発明は、端部が互いに突き合わされた駆動軸と従動軸とを同心状態ないし偏心変位量が変動する偏心状態でトルク伝達のために連結するようにしたカップリングであって、前記駆動軸および従動軸の端部にそれぞれ設けられ、互いに突き合わされて配置される一対のジョイント部と、前記一対のジョイント部間に外嵌合され、両ジョイント部を連結する円筒状のスリーブとを備え、前記スリーブの内周面には、該スリーブの中心線に沿った方向に延びる一定の溝幅を有する複数のスプライン溝が周方向に間隔をあけて設けられている一方、前記一対のジョイント部の外周面には、前記スプライン溝に歯合する複数の歯部が形成されており、前記歯部には、軸心方向に沿って歯部の幅が一定となっている均一幅部と、相対するジョイント部に向かうにつれて歯部の幅が狭くなる先細部とが設けられていることを特徴とする。
【0009】
上記構成とすることで、ジョイント部の歯部が先細部において相対するジョイント部に向かうにつれて先細形状になっているため、駆動軸と従動軸とが偏心したときでも、ジョイント部の歯部の先細部とスプライン溝の内壁の接触による反力が発生することがなく、トルク伝達を阻害しない。このことで、駆動軸と従動軸とが偏心する方向にはその初期において極めて低い剛性が実現する。
【0010】
一方、駆動軸と従動軸との間でトルクの伝達をするときには、ジョイント部の歯部の均一幅部とスプライン溝とが直ぐに接触するので、高剛性で効率のよいトルク伝達を行うことができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記先細部は軸心方向に対して傾斜を持つ傾斜面によって、前記歯部の幅が狭くなっていることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第2の発明において、前記ジョイント部と前記スリーブの接触長さをS、前記一対のジョイント部間の間隙をG、前記駆動軸と従動軸との遊びが必要な最大偏心変位量をD、前記先細部における歯部側面が駆動軸及び従動軸の軸心方向となす傾斜角をAとしたときに、tanA≧D/(S+G)となることを特徴とする。
【0013】
これらの発明の構成とすることで、駆動軸と従動軸との偏心変位量が最大となっても、ジョイント部の歯部の先細部がスリーブ内のスプライン溝の内壁と接触することがなく、トルク伝達を阻害する反力の発生を防ぐことができる。
【0014】
第4の発明は、第1〜第3の発明のいずれか1つにおいて、前記ジョイント部と前記スリーブの接触長さをS、前記先細部の軸心方向の長さをLとしたときに、0.8S<L<0.99Sとなることを特徴とする。
【0015】
上記構成とすることで、製造時のバラツキを考慮しつつ、所定の偏心変位量に対して満足できる偏心反力の抑止を実現することができる。
【0016】
第5の発明は、第1〜第4の発明のいずれか1つにおいて、従動軸は、自動車用の電動パワーステアリング装置のステアリングシャフトにウォームホイールを介して駆動連結されたウォームであり、駆動軸は前記ウォームを駆動する制御モータの出力軸であることを特徴とする。
【0017】
第6の発明は、第1〜第5の発明のいずれか1つにおいて、前記ジョイント部は高弾性体で構成され、前記スリーブは低弾性体で構成されていることを特徴とする。
【0018】
これらの発明の構成とすることで、偏心の発生しうる電動パワーステアリング装置のウォームと該ウォームを駆動する制御モータの出力軸との間に、本発明のカップリングを適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、ジョイント部とスリーブとを組み合わせたカップリングによって駆動軸および従動軸間のトルク伝達を行う場合に、ジョイント外周の歯部に先細部を設けたことにより、駆動軸と従動軸とが偏心した際に、ジョイント部の歯部の先細部がスリーブのスプライン溝の内壁と接触してトルク伝達を阻害する偏心反力が発生するのを抑止しつつ、均一幅部とスプライン溝との接触により効率の良いトルク伝達を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態に係る自動車用の電動パワーステアリング装置の概要を示す斜視図である。
図2図1における制御モータおよび減速ギア部を一部破断して示す拡大図である。
図3】実施形態に係るカップリングのジョイント部の斜視図である。
図4】実施形態に係るカップリングのジョイント部およびスリーブの連結構造を示す斜視図である。
図5】実施形態に係る駆動軸と従動軸とが同心状態のときのジョイント部の歯部とスプライン溝との連結状態を表す模式図である。
図6】実施形態に係る駆動軸と従動軸とが最大偏心状態のときの図5相当図である。
図7】実施例においてねじり角度と伝達トルクとの関係の測定結果を示す図である。
図8】実施例において偏心変位と偏心反力との関係の測定結果を示す図である。
図9】比較例1に係る測定結果を示す図7相当図である。
図10】比較例1に係る測定結果を示す図8相当図である。
図11】比較例2に係る測定結果を示す図7相当図である。
図12】比較例2に係る測定結果を示す図8相当図である。
図13】比較例1に係るカップリングの側面図である。
図14】比較例2に係る図13相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態の説明は本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1は、実施形態に係る自動車用の電動パワーステアリング装置10の概要を示す。運転手が操舵するステアリングホイール1はその中心部でコラムシャフト2の後端部に回転一体に取り付けられている。コラムシャフト2の前端部は、減速ギア部3を介してインタミディエットシャフト6(中間シャフト)の上端部と連結されている。インタミディエットシャフト6の下端部はピニオン軸7に連結されている。このピニオン軸7にはピニオン(図示せず)が設けられ、このピニオンは車幅方向に延びるラックハウジング8内のラック(図示せず)に噛合されている。ラックはラックハウジング8内を摺動可能で、その両端部はタイロッド9を介して左右の前輪(図示せず)と連結されており、これにより運転手によるステアリングホイール1の操舵力が前輪に伝わって前輪が転舵される構成となっている。減速ギア部3にはトルクセンサ5が設けられており、トルクセンサ5によって運転手によるステアリングホイール1の操舵トルクを検出し、制御モータ4を制御する構成となっている。
【0023】
図2に拡大して示すように、減速ギア部3内部には、ウォームホイール33がコラムシャフト2に回転一体に取付固定されて配置され、このウォームホイール33はウォーム31と歯合されており、ウォーム31の回転に伴いウォームホイール33が回転するように構成されている。ウォーム31は、本発明の従動軸を構成しており、その一端側には、電動モータからなる制御モータ4の出力軸41がその端部をウォーム31の一端部に同心状態で突き合わせた状態で配置されている。この制御モータ4の出力軸41は駆動軸を構成しており、その出力軸41(駆動軸)とウォーム31(従動軸)とを連結するために本発明の実施形態に係るカップリング50が設けられている。そして、制御モータは図外のコントローラからの制御信号を受けて作動制御され、コントローラには前記トルクセンサ5の出力信号が入力されるようになっており、これにより、トルクセンサ5で検出したトルクに基づいて制御モータ4が作動し、その出力軸41の回転によるトルクがカップリング50を介してウォーム31に伝達されて、ウォーム31と歯合したウォームホイール33を回転させ、この回転がコラムシャフト2に伝わることにより、ステアリング操舵で発生したトルクに応じたステアリングホイール1の操舵補助(アシスト)を行い、電動パワーステアリング装置10としての機能を実現する。
【0024】
図3および図4は前記カップリング50を拡大して示しており、このカップリング50は、一対のジョイント部51,51と、それら一対のジョイント部51,51間に外嵌合された円筒状のスリーブ56とを備えている。図3においては、ジョイント部51に外嵌合するスリーブ56は仮想線で示している。また、図4は、カップリング50のジョイント部51およびスリーブ56の連結構造を示しており、構造を判り易くするため、スリーブ56の半分および一方(紙面手前)のジョイント部51の半分を省略している。
【0025】
前記一対のジョイント部51,51はいずれも径が均一な円筒状のもので、例えば鉄などの高弾性体(弾性率:206GPa)で構成されている。両ジョイント部51,51は互いに対向して突き合わされて配置され、一方のジョイント部51には、前記ウォーム31の一端部(制御モータ4側の端部)が、また他方のジョイント部51には、制御モータ4の出力軸41がそれぞれ回転一体に嵌入されるようになっている。このことで、一対のジョイント部51,51は、それぞれ駆動軸としての制御モータ4の出力軸41の端部と、従動軸としてのウォーム31の端部とに駆動連結されている。
【0026】
各ジョイント部51の外周面には、その相対するジョイント部51側に、ジョイント部51の軸心と平行に延びる複数(例えば10本乃至15本程度)の歯部52,52,…が周方向に等ピッチで間隔を空けて並んだ状態で突設されている。歯部52,52,…の高さは軸心に沿って一定となっている。
【0027】
一方、円筒状のスリーブ56は、両ジョイント部51,51に外嵌合されて両ジョイント部51,51を連結するものであり、ゴムや樹脂などの低弾性体(弾性率:100MPa以上1000MPa以下)からなっている。スリーブ56の内周面には、そのスリーブ56の長さ方向の両端間に亘ってスリーブ56の中心線に沿った方向に延びる複数のスプライン溝57,57,…が周方向に等ピッチで間隔を空けて設けられている。この各スプライン溝57は、その全長(スリーブ56の長さ方向の両端間)に亘って一定の溝幅および溝深さを有しており、このスリーブ56のスプライン溝57に前記ジョイント部51の歯部52が歯合するように構成されている。
【0028】
そして、本発明の特徴として、前記各ジョイント部51の外周面の各歯部52は一定の幅を有している均一幅部53aと、相対するジョイント部51に向かうにつれて歯部52の幅が狭くなる先細部53bとが設けられている。この先細部53bは、図示の例では軸心方向に対して傾斜する傾斜面を有しており、歯部52の幅がテーパ状に細くなっている。
【0029】
ここで、図4に示すように、ジョイント部51とスリーブ56の接触長さをS、先細部53bの軸心方向の長さをL、一対のジョイント部51,51間の間隙をG、出力軸41(駆動軸)とウォーム31(従動軸)との遊びが必要な最大偏心変位量をD、先細部53bにおける歯部側面が出力軸41およびウォーム31の軸心方向となす傾斜角をAとしたとき、ジョイント部51とスリーブ56との幾何学的関係を考慮すると、tanA≧D/(S+G)の関係を満たす傾斜角Aをジョイント部51の歯部52の先細部53bにつけることが好ましく、さらには0.8S<L<0.99Sの関係を満たすことが好ましい。ここで、「遊びが必要な最大偏心変位量」とは、出力軸41(駆動軸)とウォーム31(従動軸)とが偏心した場合において、偏心反力を抑制する必要がある偏心変位量の最大値を意味する。
【0030】
以下において、電動パワーステアリング装置10の作動について説明する。運転手によるステアリングホイール1の操舵による回転トルクがトルクセンサ5で検出され、その大きさに応じてコントローラにより制御モータ4が作動制御され、この制御モータ4の出力軸41が回転する。ここで、出力軸41と減速ギア部3内部のウォーム31とがカップリング50を介して連結されているため、出力軸41の回転がウォーム31に伝達され、それによってウォーム31と、ウォーム31に歯合されたウォームホイール33とが回転されることになる。
【0031】
このとき、ウォーム31とウォームホイール33との歯合面とのバックラッシをなくすために、ウォーム31はその軸心と垂直な方向(ウォームホイール33に押し付ける方向)に与圧が加えられる。この予圧は、ウォーム31の制御モータ4と反対側の端部に備えられた与圧部32によって制御されるが、この予圧により、ウォーム31の軸心は制御モータ4の出力軸41の軸心と偏心した状態となる。
【0032】
図6は、制御モータ4の出力軸41(駆動軸)とウォーム31(従動軸)とが最大偏心状態となった場合のジョイント部51とスリーブ56との連結状態を模式的に示しており、スリーブ56の構成は仮想線で描かれている。ここでは、ウォーム31に連結された図6下側のジョイント部51が、制御モータ4の出力軸41に連結された図6上側のジョイント部51に対し、図で右側へ遊びが必要な最大偏心変位量Dだけ偏心している状態である。このとき、ウォーム31と連結されたジョイント部51の偏心によりスリーブ56が傾き、それに伴いスリーブ56の内周面に設けられたスプライン溝57も傾くこととなる。しかし、その際、ジョイント部51の歯部52には、相対するジョイント部51に向かうにつれて歯部52の幅が狭くなる先細部53bが設けられているため、この先細部53bがスリーブ56内のスプライン溝57の内壁と接触せず、トルク伝達を妨げる偏心反力が発生しない。このことで、制御モータ4の出力軸41(駆動軸)とウォーム31(従動軸)とが偏心する方向の初期において極めて低い剛性が実現する。
【0033】
これに対し、トルク伝達方向にはスプライン溝57と歯部52の均一幅部53aとが直ぐに干渉するため、高いトルク伝達を実現することができる。
【0034】
これらにより、制御モータ4の出力軸41とウォーム31の偏心に伴い、連結されたジョイント部51,51同士が偏心しても、トルク伝達(回転)方向には高剛性を実現しつつ、出力軸41とウォーム31とが偏心する方向にはその初期において極めて低い剛性を実現できる。
【0035】
また、この実施形態では、ジョイント部51とスリーブ56の接触長さS、先細部53bの軸心方向の長さL、一対のジョイント部51,51間の間隙G、出力軸41(駆動軸)とウォーム31(従動軸)との遊びが必要な最大偏心変位量をD、先細部53bにおける歯部側面が出力軸41およびウォーム31の軸心方向となす傾斜角Aの関係が、tanA≧D/(S+G)であるので、出力軸41とウォーム31との偏心変位量が最大となっても、ジョイント部51の歯部52の先細部53bがスリーブ56内のスプライン溝57の内壁と接触することがなく、トルク伝達を阻害する反力の発生をより確実に防ぐことができる。
【0036】
さらに、このとき、0.8S<Lの関係を満たすことで、偏心変位量に対して偏心反力を十分に抑えることができる。また、L<0.99Sであるので、先細部53bが接触長さSの範囲内に収まり、ジョイント部51とスリーブ56との間隔が0となる区間が必ず存在するため、トルク伝達のときに直ぐに干渉する。
【0037】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、自動車用の電動パワーステアリング装置10の制御モータ4の出力軸41とウォーム31との間の連結に本発明のカップリングを用いているが、他の偏心の発生し得る駆動軸と従動軸との連結においても本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0038】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0039】
(実施例)
上記実施形態で説明した構造のカップリング50である。
【0040】
(比較例1)
図13に示すように、ジョイント部51の歯部52に先細部53bは設けずにスリーブ−ジョイント間の遊びをなくしたものである。
【0041】
(比較例2)
図14に示すように、ジョイント部51の歯部52に先細部53bは設けずにスリーブ−ジョイント間の遊びを設けたものである。
【0042】
これら実施例および比較例について、ねじり角度と伝達トルクとの関係、および偏心変位と偏心反力との関係を有限要素法を用いた数値解析で求め、発明の効果を検証した。その結果を図7図12に示す。
【0043】
図7に示すように、実施例では、ねじり角度と伝達トルクとの関係はほぼ比例関係となっており、高いトルク伝達効率を実現していることを読み取ることができる。
【0044】
図8では、歯部52の駆動軸および従動軸の軸心に沿った軸心方向の長さSと、先細部53bの軸心方向の長さLとの関係を変化させたときの偏心変位と偏心反力との関係が示されている。この図より、Lの値を大きくしていくことで、大きな偏心変位量に対しても偏心反力の発生を抑えられることを読み取ることができる。ここで、L=0.85Sのときのグラフにおける幅Pにおいて、ジョイント部51の歯部52に先細部53bを設けたことによる遊びの効果が現れている。
【0045】
図9および図10は比較例1における伝達トルクと偏心反力との測定結果を示している。図9に示すように、スリーブ−ジョイント間の遊びをなくした場合、ねじり角度に比例した高い伝達トルクを実現することができる。しかし、図10に示すように、偏心反力についても偏心変位に比例する形で高い比率で増加してしまう。これは、スリーブ−ジョイント間に遊びがないことにより、ジョイントの偏心の影響をまともに受けた結果である。
【0046】
図11および図12は比較例2における伝達トルクと偏心反力との測定結果を示している。図12に示すように、スリーブ−ジョイント間に遊びを設けた場合、偏心反力については偏心変位が所定の値を超えるまでほとんど発生しておらず、図12における幅Pの分だけ遊びの効果が現れている。しかし、図11に示すように、ねじり角度が所定の値を超えるまで、伝達トルクがほとんど発生していない。これは、スリーブ−ジョイント間に遊びを設けた影響が、図11における幅Pの分だけ現れているためである。
【0047】
以上を検証することにより、実施例において、ねじり角度に対するトルク伝達についてはスリーブ−ジョイント間の遊びをなくした場合において現れるような高いトルク伝達効率を実現できる一方で、偏心変位が発生したときの現れる偏心反力についてはスリーブ−ジョイント間に遊びを設けた場合のおいて現れるような偏心反力を抑えることが実現できている。これにより、本発明のカップリングにおいては、トルク伝達方向には高剛性を実現しつつ、2つの回転軸が偏心する方向にはその初期において極めて低い剛性を実現できていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明は、例えば自動車の電動パワーステアリング装置に利用されるような、偏心の発生しうる駆動軸と従動軸との連結に用いるカップリングに極めて有用である。
【符号の説明】
【0049】
3 減速ギア部
4 制御モータ
10 電動パワーステアリング装置
31 ウォーム(従動軸)
32 与圧部
33 ウォームホイール
41 出力軸(駆動軸)
50 カップリング
51 ジョイント部
52 歯部
53a 均一幅部
53b 先細部
56 スリーブ
57 スプライン溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14