(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
700℃以上800℃以下の温度範囲で焼成したときに得られる銀焼成物の電気抵抗率が2μΩ・cm以下を達成するよう構成されている、請求項4に記載の銀ペースト。
600℃以上900℃以下の温度範囲で焼成したときに得られる銀焼成物の電気抵抗率が2.1μΩ・cm以下を達成するよう構成されている、請求項4または5に記載の銀ペースト。
600℃以上800℃以下の温度範囲で焼成したときに得られる銀焼成物の電気抵抗率が2μΩ・cm以下を達成するよう構成されている、請求項4〜6のいずれか1項に記載の銀ペースト。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)配線基板用の導電性ペーストに関する技術であって、クラックやデラミネーションの発生を抑制するために、表面に凹凸を有する多面体状の銀粒子を使用することが開示されている。また特許文献2は、太陽電池素子の電極形成用の導電性ペーストに関する技術であって、導電性ペースト中に所定の性状の銀粒子とガラスフリットとを含むことが開示されている。
【0006】
このような焼成型の導電性ペーストは、比較的高い焼成温度で焼成したときに抵抗率のより低い銀電極(配線)を形成できることが知られている。例えば、従来の導電性ペーストについては、600℃〜700℃の焼成温度としては比較的低温で焼成した場合に得られる電極の電気抵抗率(比抵抗)が2.3μΩ・cm程度以上であるのに対し、800℃以上の高温で焼成した場合に得られる電極の電気抵抗率は2.1μΩ・cm程度以上である。この値は、用途によっては十分に低い電気抵抗率であるといえる。しかしながら、例えば、バルク銀の電気抵抗率の理論値が1.6μΩ・cmであることから、銀電極についてはより高いレベル(例えば2μΩ・cm以下)の低抵抗化が求められている。さらには、より低い焼成温度でかかる低抵抗値を達成することが求められている。本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気抵抗率の低い配線を形成可能な導電性材料としての銀粉末を提供することにある。また他の側面において、かかる銀粉末を用いた導電性ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の従来技術の課題を解決するために、ここに開示される技術は、電子素子の電極を形成するために用いられる銀粉末を提供する。この銀粉末は、次の(1)〜(4):(1)
乾燥温度110℃で乾燥した試料について600℃まで加熱したときの強熱減量が0.05%以下である;(2)タップ密度が5g/cm
3以上である;(3)最大アスペクト比が1.4以下である;(4)BET法に基づく比表面積が0.8m
2/g以下である;の条件をいずれも満たす。
【0008】
本発明者らは鋭意検討を重ね、銀粉末の上記4つの性状を所定の範囲で好適に組み合わせて調整することで、これまでにない低い電気抵抗率を実現し得る電極形成用の銀粉末が実現されることを見出し、本発明を完成させるに至った。上記構成によれば、例えば銀粉末を基材上に供給して焼成することにより、電極中の気孔の形成が抑制されて、従来よりも低抵抗の電極(配線)を形成することができる。例えば、電気抵抗率が2μΩ・cm以下の低抵抗な電極を実現することができる。さらには、従来よりも低い焼成温度における焼成で、かかる低抵抗な電極を形成することができる。
【0009】
なお、本明細書において「強熱減量(Ig-loss)」とは、
乾燥温度110℃で乾燥した銀粉末
を600℃にまで加熱したときの質量減少の割合(%)を示す指標である。この強熱減量は、JIS K0067:1992にて規定される化学製品の減量及び残分試験方法に準じて測定することができる。
また、本明細書において「タップ密度」とは、所定容器内で銀粉末を1000回タップした後の粉末の見掛け密度を示す指標である。タップ密度の測定は、JIS Z2512:2012に規定される金属粉−タップ密度測定方法に準じて測定することができる。
【0010】
さらに、本明細書において「最大アスペクト比」とは、電子顕微鏡観察における3視野以上の観察像のそれぞれにおいて、アスペクト比が最も高いと思われる3つの銀粒子について測定されるアスペクト比の算術平均値を意味する。
本明細書において「比表面積」とは、ガス吸着法によって測定された銀粉末のガス分子吸着等温特性を、BET法に基づき解析して得られる比表面積である。この比表面積は、JIS Z8830:2013(ISO 9277:2010)に規定されるガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法に準じて測定することができる。
【0011】
ここで開示される銀粉末の好ましい一態様では、(5)電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径が1μm以上3μm以下であることを特徴とする。このような構成により、上記4つの性状が実現し易く、低抵抗な電極を形成し易くなるために好ましい。
【0012】
ここで開示される銀粉末の好ましい一態様では、(6)比重が10.4g/cm
3以上であることを特徴とする。ここに開示される技術は、より高いレベルでの電極の低抵抗率化を目的としている。したがって、銀粉末を構成する銀粒子自体が気孔を含まず、比重が高いものであることが好ましい。このような構成により、抵抗率の低い銀電極をより確実に形成することができる。
【0013】
他の側面において、ここに開示される発明は、銀ペーストを提供する。かかる銀ペーストは、上記のいずれかの銀粉末と、バインダ樹脂と、分散媒とを含む。このような構成により、上記の銀粉末を好適に所望の基材に供給することができ、低抵抗な電極を効率よく簡便に形成することができる。例えば、印刷技術を利用して、微細な電極パターンを一枚の基材に複数印刷することができて効率的である。
【0014】
ここで開示される銀ペーストの好ましい一態様では、700℃以上800℃以下の温度範囲で焼成したときに得られる銀焼成物の電気抵抗率が2μΩ・cm以下を達成するよう構成されている。これにより、電気抵抗率が2μΩ・cm以下の電極を安定して形成することができる。
【0015】
ここで開示される銀ペーストの好ましい一態様では、600℃以上900℃以下の温度範囲で焼成したときに得られる銀焼成物の電気抵抗率が2.1μΩ・cm以下を達成するよう構成されている。これにより、比較的低温から高温に至る広い焼成温度において、電気抵抗率が2.1μΩ・cm以下の電極を安定して形成することができる。
【0016】
ここで開示される銀ペーストの好ましい一態様では、600℃以上800℃以下の温度範囲で焼成したときに得られる銀焼成物の電気抵抗率が2μΩ・cm以下を達成するよう構成されている。これにより、600℃という比較的低い焼成温度においても、電気抵抗率が2μΩ・cm以下の電極を安定して形成することができる。
【0017】
以上のように、ここに開示される技術によると、焼成により気孔の形成が抑制された低抵抗な銀電極を作製することができる。また、この銀電極は、基材上に任意の形状で印刷した印刷体を焼成することにより簡便に形成することができる。したがって、高温で使用されたり、高温で製造されたりする電子素子であって、特に低い抵抗率の電極が求められる用途で特に好適に適用することができる。かかる観点から、ここに開示される技術は、この銀電極を備えた電子素子をも提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、銀粉末の性状)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、銀ペーストの供給方法や、電子素子の構成等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A〜B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0020】
[銀粉末]
ここに開示される銀粉末は、電子素子等における導線たる電気伝導性(以下、単に「導電性」という場合がある。)の高い配線を形成するため材料である。銀(Ag)は、金(Au)ほど高価ではなく、酸化され難くかつ導電性に優れることから電極材料として好ましい。銀粉末は、銀を主成分とする粉末(粒子の集合)であればその組成は特に制限されず、所望の導電性やその他の物性を備える銀粉末を用いることができる。ここで主成分とは、銀粉末を構成する成分のうちの最大成分であることを意味する。銀粉末としては、例えば、銀および銀合金ならびにそれらの混合物または複合体等から構成されたものが一例として挙げられる。銀合金としては、例えば、銀−パラジウム(Ag−Pd)合金、銀−白金(Ag−Pt)合金、銀−銅(Ag−Cu)合金等が好ましい例として挙げられる。例えば、コアが銀以外の銅や銀合金等の金属から構成され、コアを覆うシェルが銀からなるコアシェル粒子等を用いることもできる。銀粉末は、その純度(含有量)が高いほど導電性が高くなる傾向があることから、純度の高いものを使用することが好ましい。銀粉末は、純度95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上が特に好ましい。ここに開示される技術によると、例えば、純度が99.5%程度以上(例えば99.8%程度以上)の銀粉末を使用することでも、極めて低抵抗の電極を形成することが可能とされる。なお、かかる観点において、ここに開示される技術においては、例えば、純度99.99%以下(99.9%以下)の銀粉末を用いても、十分に低抵抗の電極を形成することが可能である。
【0021】
上記の銀粉末は焼成されることにより一体化されて、電極を形成する。銀粉末を構成する銀粒子は、焼成の際に焼結に伴い複数の粒子が一体化され、見掛けの体積が減少する。つまり、銀粒子は焼結に際して位置が移動する。また、銀粒子は焼結に伴い、粒子間隙が失われるように形状が変化する。ここに開示される技術においては、焼成時に銀粒子がより緻密に充填されて気孔の少ない電極を形成するように、銀粉末の各種性状を調整している。すなわち、銀粉末は、(1)強熱減量、(2)タップ密度、(3)最大アスペクト比および(4)比表面積が、所定の範囲となるように定められている。以下に、各物性値について説明する。
【0022】
(1)強熱減量(Ig−loss)
強熱減量は、
乾燥温度110℃で乾燥した銀粉末
を600℃にまで加熱したときの質量減少量の割合(%)を示す指標である。このような加熱により減少する成分は、焼成の際に燃えぬける成分(揮発成分)であり、銀粉末を焼成したときに銀粒子の円滑な移動および充填を阻害し得る。この揮発成分は主に有機物からなると考えられ、例えば銀粉末の分散性を高めるために銀粉末の表面に付着される分散剤、界面活性剤などに由来する成分であり得る。ここに開示される技術では、上記銀粒子の充填性の低下を抑制するべく、銀粉末の強熱減量を0.05%以下に制限している。この強熱減量は0.045%以下が好ましく、0.04%以下がより好ましく、0.035%以下が特に好ましい。強熱減量は、測定装置の性能にもよるが、実質的に0%であってもよい。
【0023】
(2)タップ密度
タップ密度は、容器に自然充填された粉体の凝集による空隙を、所定のタッピング条件による衝撃によって解消したときの、軽い圧密状態における嵩密度を示す指標である。ここでは、タッピングの条件を、タップ高さ:5cm、タップ速度:100回/分、タッピング回数:1000回としたときのタップ密度を採用している。銀粉末のタップ密度が低すぎると、基材上に供給したときの銀粒子の配列が空隙の大きいものとなりやすく、さらに、焼成時に銀粒子が移動するときにも充填性が高まり難くなるために好ましくない。かかる観点から、ここに開示される技術では、銀粉末のタップ密度を5g/cm
3以上に規定している。タップ密度は5.1g/cm
3以上が好ましく、5.2g/cm
3以上がより好ましく、5.3g/cm
3以上が特に好ましい。タップ密度の上限は特に制限されない。粉体の密度には、タップ密度<見掛け密度≦比重の関係がある。したがって、銀粉末の平均粒子径等から算出される最密充填密度や、さらには銀の比重(10.50g/cm
3)により近いことが好ましい。
【0024】
(3)最大アスペクト比
ここに開示される銀粉末は焼成に供されることから、銀粉末を構成する銀粒子は真球形に近いほど充填性が良くなり、焼成物である電極を密に構成し得る。したがって、かかる焼成時の充填性を妨げる非球形粒子の存在は好ましくない。ここに開示される技術においては、銀粒子の最大アスペクト比を1.4以下に制限することで、銀粉末を構成する銀粒子の充填性を確保するようにしている。なお、粒子の充填性は、形状が真球から離れた粒子によりもっとも阻害され得、このことが電極のより大きな気孔の形成に繋がるとの観点から、平均アスペクト比ではなく、最大アスペクト比を評価の指標としている。銀粉末の最大アスペクト比は、1.35以下が好ましく、1.3以下がより好ましく、1.25以下が特に好ましい。
なお、最大アスペクト比とは、電子顕微鏡観察における3視野以上の観察像のそれぞれにおいて、アスペクト比が最も高いと思われる3つの銀粒子を選択し、これらの銀粒子について測定されるアスペクト比の算術平均値を意味する。また、アスペクト比は、観察像内における銀粒子の最大長径(最大長)をa、この最大長径に直交する銀粒子の最大幅をbとしたとき、「a/b」として算出される指標である。
【0025】
(4)比表面積
比表面積は、銀粉末が備える表面積を単位重量当たりで示した値であり、銀粉末を構成する銀粒子の大きさと表面形態とを反映した指標であり得る。一般に平均粒子径が同じ粉体については、比表面積が大きいほど粒子の形状が真球形から遠ざかる傾向にあり得る。したがって、ここに開示される技術においては、BET法に基づく比表面積が0.8m
2/g以下の銀粉末を用いるように規定している。なお、この0.8m
2/gとの比表面積は、直径が約0.7μmの真球の銀粒子についての比表面積に相当する。本発明においては、電子素子の電極を形成するために用いる銀粉末として、かかる値により適否を評価するようにしている。銀粉末の比表面積は、0.75m
2/g以下が好ましく、0.65m
2/g以下がより好ましく、0.6m
2/g以下が特に好ましい。なお、比表面積が小さいことは銀粉末の平均粒子径が粗大であることをも意味する。したがって、電子素子の用途にもよるため一概には言えないが、BET法に基づく比表面積は、概ね0.1m
2/g以上であることが好ましく、0.15m
2/g以上であることがより好ましい。
【0026】
ここに開示される技術は、上記のとおり、銀粉末の焼成時の充填性をより良く高めるよう、上記4つの指標を組み合わせて採用し、その値を最適なものに調整している。したがって、より低抵抗な電極を形成するために、銀粉末が上記4つの要件を同時に満たすことは欠かせない。これにより、この銀粉末をバルク銀の融点(約962℃)よりも低温で焼成したときにより緻密な焼成物を得ることができる。延いては抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0027】
(5)平均粒子径
なお、銀粉末の平均粒子径は上記要件を満たす限り特に限定されない。しかしながら、現時点における電子素子の製造に好適に用いることができるとの観点から、平均粒子径を所定の範囲のものとすることも好ましい態様である。銀粉末の平均粒子径が小さすぎると、より低温で焼結が進行するものの、一次粒子が凝集しやすくなり焼成時の銀粒子の充填性が低下するために好ましくない。そこで、銀粉末は、一次粒子および二次粒子(凝集粒子)を区別して観察することが可能な電子顕微鏡に基づいて、例えば一次粒子の平均粒子径が1μm以上のものであることが好適である。平均粒子径は1.1μm以上であることが好ましく、1.2μm以上がより好ましく、1.3μm以上が特に好ましい。例えば、1.5μm以上とすることができる。また、銀粉末の一次粒子の平均粒子径が大きすぎると、焼結のために高温に長時間晒す必要があり、また低温で焼結を実現するとの要望を満たさないという点で好ましくない。したがって、銀粉末の電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径は、例えば5μm以下を目安とすることができる。平均粒子径は4.5μm以下であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、3.5μm以下が特に好ましい。
【0028】
なお、本明細書において「電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径」とは、例えば走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)や透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)等に代表される電子顕微鏡により観察された100個の銀粉末粒子の、円相当径に基づく粒度分布(個数基準)における累積50%粒径(D
EM50)である。
【0029】
なお、粉末の平均粒子径としては、レーザ回折・散乱法によっても評価が為されている。レーザ回折・散乱法によると、一次粒子と二次粒子とを完全には区別することなく平均粒子径を測定する。ここに開示される銀粉末は、レーザ回折・散乱法に基づく銀粉末の平均粒子径については、例えば0.5μm以上を目安とすることが好適である。レーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径は0.7μm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、1.2μm以上が特に好ましい。一方、銀粉末の平均粒子径の上限については、レーザ回折・散乱法と電子顕微鏡観察法とで大きな差異は見られず、例えば5μm以下を好適範囲の目安とすることができる。平均粒子径は4.5μm以下であることが好ましく、4μm以下がより好ましく、3.5μm以下が特に好ましい。
なお、本明細書における「レーザ回折・散乱法に基づく平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法によって測定される体積基準の粒度分布における累積体積50%時の粒径(D
L50)を採用している。
【0030】
また、銀粉末としては、粒度分布のシャープな(狭い)ものが好ましい。例えば、平均粒子径が10μm以上の粒子を実質的に含まないような銀粉末を好ましく用いることができる。さらに、粒度分布がシャープであることの指標として、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布における小粒径側からの累積10%体積時の粒径(D
L10)と累積90%体積時の粒径(D
L90)との比(D
L10/D
L90)が採用できる。粉末を構成する粒径が全て等しい場合はD
L10/D
L90の値は1となり、逆に粒度分布が広くなる程このD
L10/D
L90の値は0に近づくことになる。D
L10/D
L90の値が0.15以上、例えば0.15以上0.5以下であるような、比較的狭い粒度分布の粉末の使用が好ましい。
【0031】
また他の側面において、銀粉末は、平均粒子径の異なる2つの粒子群を混合して用いることもできる。この場合、例えば、第1の粒子群の平均粒子径(D
L50)を2μm〜5μm(例えば2μm)の範囲とし、第2の粒子群の平均粒子径(D
L50)を0.5μm〜2μm(例えば0.5μm)の範囲とすることが好適例として挙げられる。このとき各粒子群の粒度分布は、上記のとおりシャープなものであることが好ましい。そして、例えば、第1の粒子群が65〜90質量%(例えば、70質量%)の割合で、第2の粒子群が35〜10質量%(例えば、30質量%)の割合となるように混合する。これにより、充填性の良好な銀粉末を用意することができる。
このような平均粒子径および粒度分布特性を有する銀粉末は、充填性がよく緻密な電極を形成し得る。このことは、抵抗率のより低い電極を形成するにあたって有利である。
【0032】
(6)比重
銀粉末の比重は厳密には限定されないものの、例えば、銀粉末を構成する銀粒子自体に含まれる気孔の割合が少ないことがより好ましい。したがって、例えば、銀粉末について定容積膨張法により測定される比重(真密度ともいう。)が高いことが好ましい。本明細書において、銀粉末の比重は、ヘリウムガスを使用した定容積膨張法により測定される値を採用している。銀粉末の比重は、概ね10.3g/cm
3以上を目安とすることができ、例えば10.35g/cm
3以上とすることができる。さらに、銀粉末の比重は、10.4g/cm
3以上であることが好ましく、10.45g/cm
3以上がより好ましく、10.5g/cm
3以上が特に好ましい。
【0033】
以上の銀粉末は、任意の基材に供給したのち焼成し、銀粉末を構成する銀粒子を一体的に焼結させることで、焼結物としての銀電極(配線であり得る。)を得ることができる。焼成温度は、銀粉末の組成にもよるが、純銀(例えば純度99.9%以上)と見なせる銀粉末については融点である962℃よりも低い温度とすることができる。したがって、焼成温度は、例えば従来の銀粉末と同様に800℃〜900℃程度の温度範囲とすることができる。しかしながら、ここに開示される銀粉末は、従来の銀粉末を同じ温度で焼成したときよりも低抵抗の銀電極を得ることができる。さらには、従来の銀粉末よりも低い温度で焼成した場合であっても、従来と同程度かより低い抵抗率の電極を実現し得る。したがって、この銀粉末は、例えば、900℃以下(900℃未満)の温度で焼成することが好ましい。焼成温度は、850℃以下(850℃未満)がより好ましく、800℃以下(800℃未満)がさらに好ましく、750℃以下(750℃未満)が特に好ましい。例えば、焼成温度は、700℃以下(700℃未満)、特に650℃以下(650℃未満)、例えば600℃程度(典型的には580℃〜620℃)とすることができる。焼成温度の下限については特に制限されず、例えば、550℃以上とすることが例示される。
【0034】
[銀ペースト]
上記の銀粉末のバインダ樹脂への供給手法は特に制限されない。ここに開示される技術においては、上記銀粉末の供給性およびハンドリング性を良好なものとするために、銀粉末を有機ビヒクル成分に分散させた銀ペーストの形態で提供することもできる。かかる銀ペーストは、本質的に、銀粉末と、有機ビヒクル成分とを含んでいる。
有機ビヒクル成分としては、所望の目的に応じて、従来よりこの種の銀ペーストに用いられている各種のものを特に制限なく使用することができる。典型的には、有機ビヒクル成分は、種々の組成のバインダ樹脂と分散媒との混合物として構成される。かかる有機ビヒクル成分において、バインダ樹脂は分散媒に全てが溶解していても良いし、一部が溶解または分散(いわゆるエマルジョンタイプの有機ビヒクルであり得る。)していても良い。
【0035】
バインダ樹脂は、調整した銀ペーストを、印刷,乾燥等を行うことで成膜化した段階において、銀粒子同士、および、銀粒子と基材とを結合させる役割を担う成分である。したがって、銀粒子が焼成により一体化された後は、バインダ樹脂は不要な抵抗成分となり得る。したがって、このバインダ樹脂は、焼成温度よりも低い温度で消失し、電極中に残存しない成分であることが好ましい。このようなバインダ樹脂としては、バインダ機能を有する有機化合物を特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリブチルメタクリレート,ポリメチルメタクリレート,ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等のビニル系樹脂、ロジンやマレイン化ロジン等のロジン系樹脂等をベースとするバインダ樹脂が好適に用いられる。特に、良好なスクリーン印刷を行うことができる粘度特性を好適に実現し得ることから、セルロース系高分子(例えばエチルセルロース)の使用が好ましい。
【0036】
なお、上記のとおり、この銀粉末は焼結性および焼結時の充填性に優れている。したがって、より抵抗率の低い電極を形成する目的においては、銀ペーストは、銀粉末および有機ビヒクル成分以外の成分を含まないことが好ましい。例えば、この銀ペーストは、有機ビヒクル成分以外に、例えば、無機バインダともいえるガラスフリットを含まないことが好ましい態様である。
【0037】
有機ビヒクルを構成する分散媒として好ましいものは、沸点がおよそ200℃以上(典型的には約200℃〜260℃)の有機溶剤である。沸点がおよそ230℃以上(典型的にはほぼ230℃〜260℃)の有機溶剤がより好ましく用いられる。このような有機溶剤としては、ブチルセロソルブアセテート,ブチルカルビトールアセテート(BCA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール(BC:ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のエーテル系溶剤、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン,キシレン,ミネラルスピリット,ターピネオール,メンタノール,テキサノール等の有機溶剤を好適に用いることができる。特に好ましい溶剤成分として、ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。
【0038】
銀ペーストに含まれる各構成成分の配合割合は、電極の形成方法、典型的には印刷方法等によっても適宜調整することができ、概ね、従来より採用されているこの種の導電性組成物に準じた配合割合をもとに構成することができる。一例として、例えば、以下の配合を目安に各構成成分の割合を決定することができる。
【0039】
すなわち、銀ペースト中に占める銀粉末の含有割合は、ペースト全体を100質量%としたとき、およそ80質量%以上(典型的には80質量%〜98質量%)とすることが適当であり、より好ましくは83質量%〜96質量%程度、例えば85質量%〜95質量%程度とすることが好ましい。銀粉末の含有割合を高くすることは、バインダ樹脂の割合を低下することに繋がり、気孔が少なく緻密な電極パターンを形状精度よく形成することができるという観点から好ましい。一方、この含有割合が高すぎると、ペーストの取扱性や、各種の印刷性に対する適性等が低下することがある。
【0040】
そして、有機ビヒクル成分のうちバインダ樹脂は、銀粉末の質量を100質量%としたとき、およそ10質量%以下、典型的には0.3質量%〜8質量%程度の割合で含有されることが好ましい。特に好ましくは、銀粉末100質量%に対して0.5質量%〜6質量%の割合で含有される。なお、かかるバインダ樹脂は、例えば、有機溶剤中に溶解しているバインダ樹脂成分と、有機溶剤中に溶解していないバインダ樹脂成分とが含まれていても良い。有機溶剤中に溶解しているバインダ樹脂成分と、溶解していないバインダ樹脂成分とが含まれる場合、それらの割合に特に制限はないものの、例えば、有機溶剤中に溶解しているバインダ樹脂成分が(1割〜10割)を占めるようにすることができる。
なお、上記有機ビヒクルの全体としての含有割合は、得られるペーストの性状に合わせて可変であり、おおよその目安として、導電性組成物全体を100質量%としたとき、例えば2質量%〜20質量%となる量が適当であり、5質量%〜15質量%であるのが好ましく、特に5質量%〜10質量%となる量がより好ましい。
【0041】
また、ここに開示される導電性組成物は、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の無機および/または有機質の添加剤を含ませることができる。かかる添加剤の好適例として、例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、粘度調整剤等の添加剤が挙げられる。
【0042】
このような銀ペーストは、上述した材料を所定の配合(質量比率)となるよう秤量し、均質になるよう混合することで調製することができる。材料の撹拌混合は、例えば三本ロールミル、ロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等公知の種々の撹拌混合装置を用いて実施することができる。
ペーストの好適な粘度は、目的とする電極の厚み(延いては、ペースト印刷体の厚み)等によっても異なるため特に限定されない。例えば、積層セラミックチップの内部電極に適した形状状の(例えば厚みが50μm程度の)印刷体を形成する場合には、銀ペーストの粘度が350〜450Pa・s(10rpm,25℃)となるよう調製するとよい。これによって、電極パターンを、位置精度と形状精度とを高めて印刷することができる。
【0043】
かかるペーストは、基材上に供給したのち、50〜150℃で15〜30分間ほど静置して分散媒を除去したのち焼成することが好ましい。焼成温度は、上記の銀粉末の焼成温度と同様に決定することができる。これにより、基材上に、銀粒子が緻密に焼結してなる銀電極が形成される。
【0044】
以上の銀ペーストの焼成物は、抵抗率が特に低い(例えば2μΩ・cm以下)ために、特に低い電気抵抗率が求められる用途の電極として好適に利用することが考慮される。例えば、様々な構成および用途の電子素子の電極として利用することができる。好適例として、例えば、焼成温度が900℃程度以下にまで低下されたLTCCを基材とするセラミック配線基板が好適例として挙げられる。かかるLTCCの製造に際しては、セラミック基板のグリーンシート上に銀ペーストで配線パターンすることで、セラミック基板と電極とを共焼成できる点においても好ましい。したがって、かかる配線パターンが印刷されたグリーンシートが積層されて焼成され、電極が内部電極(内層配線)として備えられる積層セラミックチップが特に望ましい用途として挙げられる。かかる積層セラミックチップとしては、特に制限されるものではないが、積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor:MLCC)、積層セラミックインダクタ、積層セラミックバリスタ、積層PTCサーミスタ、積層NTCサーミスタ等が挙げられる。なかでも、内部電極によるジュール熱の損失を抑制するため、電極により低い抵抗率が要求される積層セラミックインダクタが望ましい適用例として挙げられる。
【0045】
図1は、積層チップインダクタ1を模式的に示した断面図である。この図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)や誘電体層の積層数等の構成は、必ずしも実際の寸法関係および態様を反映するものではない。
積層チップインダクタ1は、例えば、フェライト粉末を用いて形成された複数の誘電体層(セラミック層)12が積層一体化されて形成されたモノリシックタイプの積層セラミックチップである。各誘電体層12の間には、内部電極22としてのコイル導体が備えられている。コイル導体は、各誘電体層12の間にはコイルの一部が形成されており、誘電体層12シートに設けられたビアホールを通じて、誘電体層12を挟む2つのコイル導体が導通されている。このことにより、内部電極22の全体で3次元的なコイル形状(螺旋)となるように構成されている。また、積層チップインダクタ1は、その外表面のうち誘電体層12の側面にあたる部位に外部電極20が備えられている。
【0046】
この積層チップインダクタ1は、典型的には、以下の手順で製造することができる。すなわち、まず、フェライト粉末を主体とする分散体をキャリアシート上に供給し、誘電体材料からなるグリーンシートを形成する。このグリーンシートの焼成温度は900℃程度以下にまで低下された配合とされている。そしてこのグリーンシートの所定の位置に、レーザ照射等によりビアホールが形成される。次いで、ここに開示される銀ペーストを、所定の位置に、所定の電極パターン(コイルパターン)で印刷する。必要であれば、ビアホールに、スルーホール用に調製した銀ペーストを印刷してもよい。このような電極パターン付きグリーンシートを複数枚(例えば100枚以上)作製し、これらを積層、圧着することによって未焼成の電子素子本体10を作製する。次いで、かかる積層チップを乾燥させ、所定の加熱条件(最高焼成温度が900℃以下)で所定時間(最高焼成温度を維持する時間としては、例えば、10分〜5時間程度)焼成する。これによって、グリーンシートが焼成されるとともに、グリーンシートが一体的に焼成され、モノシリックな誘電体層12が形成される。また電極ペーストが焼成されて内部電極22が形成される。これにより、複数の誘電体層12の間に内部電極22が挟まれた形態の積層チップインダクタ1の電子素子本体10が作製される。その後、この電子素子本体10の所望の箇所に、外部電極形成用の導電性ペーストを塗布し、焼成することによって、外部電極20を形成する。このようにして、積層チップインダクタ1を製造することができる。換言すると、セラミック基材としての誘電体の内部に内部電極が配設された積層チップインダクタ1の形態の電子素子本体10が実現される。なお、上述した積層チップインダクタ1の構築プロセスは、特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明を省略している。
【0047】
ここで内部電極22の形成に用いた銀ペーストは、使用する銀粉末の強熱減量が低く抑えられており、気孔の少ない緻密な銀電極を形成し得る。また、例えば600℃〜700℃程度の低温にて焼成することが可能である。このような低温で焼成した場合においても、内部電極22は、例えば2μΩ・cm以下の低い抵抗率を実現し得る。そして誘電体層12は、直流重畳特性に優れた誘電体材料から構成されている。内部電極22は2Ω・cm以下の低抵抗率を実現し得ることから、電極によるジュール熱の損失が小さく、大電流を流すことが可能な電源回路に用いられるチップインダクタ1が提供される。例えばチップの形状は1608形状(1.6mm×0.8mm)、2520形状(2.5mm×2.0mm)等のサイズで実現することができる。
【0048】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0049】
(銀粉末)
まず、銀ペーストの主体となる銀粉末として例1〜8の銀粉末を用意した。
例1および例6の銀粉末は、アトマイズ法により製造した銀粉末である。平均粒子径の比較的大きい例1の粉末と、平均粒子径の比較的小さい例6の粉末とを用意した。
例2,例7および例8の銀粉末は、湿式法により製造した銀粉末である。平均粒子径が比較的小さい例8の粉末と、平均粒子径が比較的大きい例2および例7の粉末とを用意した。
例3〜例5の銀粉末は、PVD法により製造した銀粉末である。平均粒子径が比較的小さい例3の粉末と、平均粒子径が比較的大きい例5の粉末と、その中間の例4の粉末とを用意した。
そして、これらの粉末の強熱減量、タップ密度、最大アスペクト比、比表面積、平均粒子径、嵩密度および乾燥密度を下記の手順で測定した。
【0050】
[強熱減量(Ig−loss)]
各銀粉末を約25mgずつ秤量し、示差熱天秤(株式会社リガク製、TG8120)を用いて強熱減量を測定した。測定条件は、乾燥温度を110℃とし、乾燥後の試料の質量に対する、室温から600℃にまで加熱したときの質量減少量の割合(%)を強熱減量とした。なお、測定雰囲気は乾燥空気とし、昇温速度は10℃/分とした。得られた強熱減量を、表1の「Ig−loss」の欄に示した。
【0051】
[タップ密度]
各銀粉末を20g(20.00±0.02g)ずつ秤量し、容量20mLのメスシリンダーに投入したのち、タッピング装置によりタップした。タッピングの条件は、タップ高さ:5cm、タップ速度:100回/min、タップ回数:1000回とした。そしてタップ後の粉末体積を測定し、銀粉末の質量をタップ後の粉末体積(見かけ体積)で除することでタップ密度を算出した。なお、タップ密度の測定は、JIS Z2512:2012に規定される金属粉−タップ密度測定方法に準じて行った。得られたタップ密度を、表1の「Tap密度」の欄に示した。
【0052】
[最大アスペクト比]
各銀粉末を、走査型電子顕微鏡(株式会社キーエンス製、VE−9800)にて観察し、10000倍の倍率の観察像を3視野について取得した。そしてこれらの観察像のそれぞれについて、最も大きいと判断される3つの銀粒子を選定し、アスペクト比を測定した。そして計9つの粒子について得たアスペクト比の平均値を最大アスペクト比とした。なお、アスペクト比は、観察像内における銀粒子の最大長径(最大長)をa、この最大長径に直交する幅をbとしたとき、「a/b」として算出される指標である。得られた最大アスペクト比を、表1の「最大アスペクト比」の欄に示した。
【0053】
[比表面積]
各銀粉末の比表面積を、自動比表面積・細孔分布測定装置((株)マウンテック製、Macsorb HM model−1210)を用いて測定した。吸着ガスとしては、窒素ガスを用いた。また、比表面積は、BET1点法により算出した。得られた比表面積を、表1の「BET比表面積」の欄に示した。
【0054】
[平均粒子径]
各銀粉末の平均粒子径を、電子顕微鏡観察法と、レーザ回折・散乱法との二通りで測定した。
電子顕微鏡観察法では、まず、SEM観察用の試料ステージに両面テープを貼り、その上に測定対象の銀粉末を薄くまばらに供給して、ステージに粉末を固定した。次いで、銀粉末を固定したステージに金蒸着を施し、電子顕微鏡((株)キーエンス製、VE−9800)にセットして、加速電圧20kV、倍率1万倍の条件で、ステージ上に固定された粉末を粒子がまばらに存在し得る粉末端部領域において撮影した。そして、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア((株)マウンテック製、Mac-View Ver. 4)を用い、得られたSEMの粒子画像から任意の100個の粒子に基づき粒度分布を自動計測した。かかる粒度分布から累積50%粒径を求め、電子顕微鏡観察に基づく平均粒子径とした。その結果を、表1の「D
SEM50」の欄に示した。
【0055】
また、レーザ回折・散乱法では、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、LA−920)を用いて粒度分布を自動計測した。平均粒子径は、粒度分布測定により得られた体積基準の粒度分布における積算50%粒径とした。その結果を、表1の「D
L50」の欄に示した。
【0056】
[比重]
各銀粉末の比重を、乾式自動密度計((株)島津製作所製、マイクロメリティックス アキュピックII1340)を用いて、定容積膨張法により測定した。置換ガスとしてはヘリウム(He)を用いた。
得られた真比重を、表1の「比重」の欄に示した。
【0057】
(銀ペースト)
用意した銀粉末90質量部に対し、バインダとしてのエチルセルロースを1.5質量部、分散媒としてのブチルカルビトールを8.5質量部の割合で配合し、3本ロールミルで均一に混合することで、例1〜8の銀ペーストを調製した。なお、本実施形態では、各例の銀ペーストの印刷性を揃えるために、ペーストの粘度が350〜450Pa・s(10rpm,25℃)となるよう調整した。
【0058】
[乾燥密度]
各銀ペーストを、アプリケーターを用いて基材上に約150μmの厚みに供給し、130℃で1時間乾燥させることで乾燥塗膜を形成した。そしてこの乾燥塗膜を、直径15mmの円盤状にくり抜くことで、5つの測定用試料を用意した。そしてこの測定用試料の重量、半径および厚みを測定することで、下式に基づき、乾燥塗膜の密度(乾燥密度)を算出した。
(乾燥密度)=(重量)/{π×(半径)
2×(厚み)};
重量および半径は、各測定用試料について1回ずつ測定した。厚みは、デジタル電子マイクロメーター(アンリツ株式会社製、K351C)を用い、各測定用試料につき3か所で測定し、その平均値を採用した。乾燥密度は、5つの測定用試料について得られた値の平均値(n=5)を採用し、表1の「乾燥密度」の欄に示した。
【0059】
(電極)
この銀ペーストを、スクリーン印刷法により基材上にパターン印刷し、130℃で30分間乾燥させたのち焼成することで、基材上に銀ライン電極(焼成物)を作製した。基材としては、アルミナ板を用いた。また、銀ペーストは、焼成後のライン幅が200μm、焼成厚みが20〜40μm、ライン間ピッチが200μmの縞状になるよう印刷した。焼成温度は、600℃,700℃,800℃,900℃の4通りとした。
参考のために、
図2に例4(または例5)の銀ペーストを、
図3に例7(または例3,6)の銀ペーストを、900℃で焼成して得られた銀電極の断面SEM像を示した。
【0060】
[電気抵抗率]
以上のように作製した銀パターン配線の電気抵抗率を、デジタルマルチメーター(岩通計測(株)製、SC−7401)を用いて測定した。得られた電気抵抗率を、焼成温度ごとに、表1の「抵抗率」の欄に示した。
【0062】
表1に示したように、全ての銀ペーストの焼成温度と電気抵抗率との関係をみると、概ね高温で焼成することで電気抵抗率の低い電極を形成できる傾向があることがわかる。しかしながら、バルク銀の融点である962℃に近い900℃で焼成すると、一部の銀ペースト(例7)については抵抗率が急激に高くなってしまうことがわかる。これは電極内部に含有された有機物やガスに起因し、これらが燃焼・膨張することにより電極内部に大きな空隙がたくさんできるためと考えられる。また、電極内部の有機物やガスは、使用した銀粉や焼成時のバインダ樹脂の燃え残りに由来すると考えられる。
【0063】
ここに開示された性状を備える例2,例4,例5の銀粉末を用いた銀ペーストについては、比較的低温での焼成により電気抵抗率の低い電極を形成できることがわかった。また、
図2に示されるように、ここに開示される銀ペーストにより形成された電極は、電極内に残された空隙が小さいことがわかる。これに対し、
図3に示されるように、従来の銀ペーストにより形成された電極は、電極内に大きな空隙がたくさん形成されていることがわかる。大きな空隙は、電極内の導電パスの形成を大きく阻害するため、電極の抵抗率を高めてしまうために好ましくないといえる。
【0064】
より詳細には、例えば例2の銀ペーストについては、焼成温度が900℃よりも低い範囲では、600℃の低温であっても、焼成により得られる焼成物の抵抗率が2.0μΩ・cm以下という、低い抵抗率を実現し得ることがわかった。焼成温度が700℃〜800℃の範囲では、焼成物の抵抗率が1.9μΩ・cm以下という低い抵抗率を実現し得ることもわかった。
また、例4および例5の銀ペーストについては、焼成温度が600℃よりも高い範囲で、焼成により得られる焼成物の抵抗率が2.0μΩ・cm以下(1.9μΩ・cm以下)という、低い抵抗率を実現し得ることがわかった。また例4および例5の銀ペーストは、600℃で焼成したときの焼成物の抵抗率も2.1μΩ・cmと比較的低いことが確認できた。
【0065】
これに対し、例1の銀ペーストについては、800℃〜900℃の高温での焼成によると比較的低抵抗の焼成物が得られるものの、600℃〜700℃の低温においては他の例と比較して抵抗率が高めとなった。特に600℃での焼成では、焼成物の抵抗率が全例を通じて最も高くなることがわかった。これはアスペクト比が大きな銀粒子が混入しているため、焼成時にアスペクト比の大きな粒子の動きが阻害され、銀粉末の充填性が損なわれ、結果として焼成物中に比較的大きな空隙が形成されたことによるものと考えられる。
【0066】
例3の銀ペーストについては、焼成物の抵抗率焼成温度の影響をさほど受けず、2.1〜2.3μΩ・cmで安定して低めの抵抗率を実現し得ることがわかった。しかしながら、2.1μΩ・cmの低抵抗を実現するためには900℃での焼成が必要であり、低温焼成による低抵抗な電極形成は不可能であることがわかった。例3のペーストに用いた銀粉末は、平均粒子径が小さいことからもわかるように比表面積が高く、銀粉末が凝集し易いためにタップ密度が低い。このような性状により、焼成中の電極においても銀粒子間に空隙が形成されたまま残存しやすいことによるものと考えられる。
【0067】
例6の銀ペーストについては、800℃〜900℃の高温での焼成によると比較的低抵抗の焼成物が得られるものの、例1ほどではないが、600℃での低温焼成によると他の例と比較して焼成物の抵抗率が高めとなることがわかった。例6の銀粉末は、平均粒子径はさほど小さくないものの、アスペクト比の高い粒子が存在し、比表面積も高く、真球形に近い粒子が少ないといえる。そのため、タップ密度が低くなり、焼成中の電極においても銀粒子間に空隙が形成されたまま残存しやすいことによるものと考えられる。
【0068】
例7および例8の銀ペーストについては、焼成温度によらずに全体的に抵抗率が高い焼成物が得られている。これは、例7および8の銀粉末のIg−lossが高く、電極の焼成中の有機成分の揮発量も多いことから、電極に空隙が形成され易いことによるものと考えられる。Ig−lossが少ないことは、例えば、MLCCの製造に際しても有利な特徴となり得るために好ましい。なお、例7および例8の銀ペーストの間の比較では、例8のペーストの方がより微細な銀粉末を使用している。そのため例8の銀ペーストの方が焼結性が高く、若干低い抵抗率が達成されたものと考えられる。
【0069】
なお、銀粉末は、大まかにはその製法により性状がある程度特徴づけられる。例えば、湿式法やアトマイズ法等により、銀粉末を形成する際の原料液に保護材等を多く含ませると、製造された銀粉末のIg−lossが高くなり得る。また、PVD法によると、比較的真球形に近く最大アスペクト比の小さい銀粉末を容易に作製することができる。しかしながら、上記例に示されるように、電極形成用の銀粉末としては、製法のみに限定されるものではなく、銀粒子自身の性状により適否が判断され得ることがわかる。
【0070】
なお、ここに開示される性状を満たす例2,例4,例5の銀粉末は、いずれも比重が10.4g/cm
3以上である。また、例2,例4,例5の銀粉末を用いた銀ペーストは、乾燥膜を形成したときに、その乾燥密度が6.9g/cm
3以上の高い値を実現することがわかる。このように、ここに開示される性状を満たす銀粉末は、ペーストの形態で基材上に供給されて電極を形成する用途に特に有用であることがわかる。
【0071】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。例えば、上記例では銀ペーストの配合を一定のものとしたが、かかる銀ペーストにおけるバインダおよび分散剤は、焼成により焼失する成分であり、また印刷法および印刷条件にもよるため、ここに開示される技術に本質的な影響を与えるものでないことは当業者に理解される。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
電気抵抗率の低い配線を形成可能な銀粉末を提供する。本発明により、電子素子の電極を形成するために用いられる銀粉末が提供される。この銀粉末は、下記の(1)〜(4):(1)600℃まで加熱したときの強熱減量が0.05%以下である;(2)タップ密度が5g/cm