特許第6158484号(P6158484)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6158484対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれを用いた間欠型摺動部品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158484
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれを用いた間欠型摺動部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/04 20060101AFI20170626BHJP
   C08J 5/16 20060101ALI20170626BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20170626BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20170626BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   C08L59/04
   C08J5/16
   F16C33/20 A
   F16C17/02 Z
   F16C17/04 Z
【請求項の数】9
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2012-184509(P2012-184509)
(22)【出願日】2012年8月23日
(65)【公開番号】特開2014-40547(P2014-40547A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小山 敦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 佳幸
【審査官】 杉江 渉
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−503162(JP,A)
【文献】 特開2009−269996(JP,A)
【文献】 特開2009−155480(JP,A)
【文献】 特開2006−063107(JP,A)
【文献】 特開2012−057180(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0253113(US,A1)
【文献】 特開2005−187591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
C08J 5/00 − 5/24
F16C 17/00 − 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性が2500MPa以上であり、耐衝撃性が10kJ/m2以上であり、摩擦係数が0.15以下であり、
ポリオキシメチレン、及び、融点が23℃以上である潤滑剤を含み、
前記ポリオキシメチレンが、オキシメチレン基のみを主鎖に有したポリオキシメチレンホモポリマー、及び/又はオキシメチレンユニット100molに対して1.0mol以下のコモノマーユニットを含有するポリオキシメチレンコポリマーでありかつメルトフローレートが1〜5g/10minである、対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項2】
前記融点が23℃以上である潤滑剤を、前記ポリオキシメチレン100質量部に対し0.01質量部以上5質量部未満で含む、請求項1に記載の対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)と、金属製の相手材(II)とを有し、前記部材(I)と前記相手材(II)とが接している、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【請求項4】
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物の剛性が、2650MPa以上である、請求項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【請求項5】
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物の耐衝撃性が、13kJ/m2以上である、請求項又はに記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【請求項6】
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物の摩擦係数が、0.12以下である、請求項のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【請求項7】
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物に含まれる前記ポリオキシメチレンが、ポリオキシメチレンホモポリマーである、請求項のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【請求項8】
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、脂肪酸エステル系潤滑剤を含む、請求項〜7のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【請求項9】
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、ヒドラジド系化合物を含む、請求項〜8のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれを用いた間欠型摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオキシメチレン樹脂は、機械的強度・剛性が高く、耐油性・耐有機溶剤性に優れ、広い温度範囲でバランスがとれた樹脂であり、且つその加工性が容易であることから、電気機器や電気機器の機構部品、自動車部品及びその他の機構部品を中心に広範囲の用途に用いられている。また、ポリオキシメチレン樹脂は、もともと自己潤滑性に優れるため種々の摺動部品及び摺動部品の一部に使用されている。
【0003】
ポリオキシメチレン製の摺動部品において、部品の動き(摺動時の連続運動又は往復運動等)、各種の摺動部の形状(面と面、面と線、面と点等)、摺動面の接触状態(摺動面が常に一定だったり(以下、「連続」とも表現する)、更新されたり(以下、「不連続」とも表現する)という状態)、摺動時の使用環境(温度、湿度、グリースの有無等)等により、部材の耐摩擦・摩耗性は変化する。特に、樹脂が介在する耐摩擦・摩耗性については、耐摩擦・摩耗性を向上させるための単純な傾向が導出されておらず、これまで多くの提案がなされている。
【0004】
ポリオキシメチレン樹脂組成物については、耐摩擦・摩耗性を高めるため、種々の構成が挙げられている。例えば、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、炭化ケイ素及び四フッ化エチレン重合樹脂(PTFE)を含有する合成樹脂摺動部材組成物が、該組成物によるピンとステンレスとからなる不連続的な接触・不連続な動きにおいて耐摩擦・摩耗性に優れることが報告されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、脂肪酸エステルからなる組成物で形成された部材と、ポリオキシメチレン樹脂以外の特定のロックウェル硬度で形成された相手材とを、不連続な接触・不連続な動きにおいて摺動する場合、優れた摺動性・静音性が得られることが報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
また、摺動するときの部材と該部材の相手材との組み合わせについて、種々の報告がなされている。例えば、ウインド昇降機構用のシャフトスライダにおいて、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂からなる球状物とポリオキシメチレン樹脂からなるシャフトとを組み合わせることにより、不連続な接触・不連続な動きにおいてガタ等の発生が改善されることが報告されている(例えば、特許文献3参照。)。また、モジュラーリンク式コンベヤベルトのための耐摩コネクタにおいて、ポリエステルやポリアミドでコーティングされたロッドとアセタール製リンクとを組み合わせることにより、連続的な接触・不連続な動きにおいて耐摩擦・摩耗性に優れること等の報告がなされている(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
また、ポリオキシメチレン樹脂やその成形体の寸法精度向上についても、種々の検討がなされている。例えば、特定のオキシアルキレン単位から構成される分岐を有するポリオキシメチレンを含むことで溶融物の流動性に優れるため、外観や寸法安定性に優れた成形品を容易に得られること等の提案がなされている(例えば、特許文献5参照。)。また、特定の結晶性樹脂と二酸化炭素を用いて、金型キャビティへ充填することにより得られる成形体は、樹脂の分子量分布、樹脂組成を制限することなく、寸法精度を向上できることが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−239682号公報
【特許文献2】特開2011−252566号公報
【特許文献3】特開平10−227176号公報
【特許文献4】特表2009−506962号公報
【特許文献5】特開2003−105048号公報
【特許文献6】特開2002−331554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、繰り返し摺動したときの寸法変化を抑制できるポリオキシメチレン製間欠型摺動部品が求められている。また、当然これらのポリオキシメチレン製間欠型摺動部品に対して、従来と同様の生産性と良好な耐久性とが要求されている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1〜6に開示されているポリオキシメチレン樹脂を用いた各種部材は、摺動した際の寸法変化及び耐久性の向上に関して、未だ改良の余地がある。
【0010】
そこで、本発明においては、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性を有する対金属間欠型摺動部品となるポリオキシメチレン樹脂組成物及びそれを用いた間欠型摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定のポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部品を用いることによって、金属と間欠的に摺動した際に、寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性を有するポリオキシメチレン製間欠型摺動部品が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
〔1〕
剛性が2500MPa以上であり、耐衝撃性が10kJ/m以上であり、摩擦係数が0.15以下であり、
オキシメチレンユニット100molに対して0〜1.0molのコモノマーユニットを含有するポリオキシメチレンを含む、対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物。
〔2〕
前項〔1〕に記載の対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)と、金属製の相手材(II)とを有し、前記部材(I)と前記相手材(II)とが接している、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔3〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物の剛性が、2650MPa以上である、前項〔2〕に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔4〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物の耐衝撃性が、13kJ/m以上である、前項〔2〕又は〔3〕に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔5〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物の摩擦係数が、0.12以下である、前項〔2〕〜〔4〕のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔6〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、ポリオキシメチレンホモポリマーを含む、前項〔2〕〜〔5〕のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔7〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、常温で固形の潤滑剤を含む、前項〔2〕〜〔6〕のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔8〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、脂肪酸エステル系潤滑剤を含む、前項〔2〕〜〔7〕のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
〔9〕
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物が、ヒドラジド系化合物を含む、前項〔2〕〜〔8〕のいずれか1項に記載のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、実用上充分な生産性を確保しつつ、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性を有する対金属間欠型摺動部品となるポリオキシメチレン樹脂組成物、及びポリオキシメチレン製間欠型摺動部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の一例(例1)を示した図である。
図2】本実施形態に係るポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の一例(例2)を示した図である。
図3】本実施形態に係るポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の一例(例3)を示した図である。
図4】本実施形態に係るポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の一例(例4)を示した図である。
図5】本実施形態に係るポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の一例(例5)を示した図である。
図6-1】本実施例でポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価に用いた試験片の写真である。
図6-2】本実施例でポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価に用いた試験片の寸法イメージ図である。
図6-3】本実施例でポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価に用いた試験片のギア部の形状を示す写真である。
図6-4】本実施例でポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価に用いた評価装置の評価部分のイメージ図である。
図6-5】本実施例でポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価に用いた評価装置の評価部分を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」を言う。)について説明する。本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
本実施形態の対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品及びポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の使用態様について、順次詳細に説明する。
【0017】
[ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品]
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、
ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)と、金属製の相手材(II)とを有し、
前記部材(I)と前記相手材(II)とが接しており、
前記ポリオキシメチレン樹脂組成物は、剛性が2500MPa以上であり、耐衝撃性が10kJ/m以上であり、摩擦係数が0.15以下であり、オキシメチレンユニット100molに対して0〜1.0molのコモノマーユニットを含有するポリオキシメチレンを含む。
【0018】
[ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の部材(I)]
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を有する。
【0019】
[ポリオキシメチレン樹脂組成物]
本実施形態に用いる対金属間欠型摺動部品用ポリオキシメチレン樹脂組成物は、主成分として下記のポリオキシメチレン(A)を含み、剛性が2500MPa以上であり、耐衝撃性が10kJ/m以上であり、摩擦係数が0.15以下であり、含まれるポリオキシメチレン(A)がオキシメチレンユニット100molに対して0〜1.0molのコモノマーユニットを含有すれば特に限定されず、さらに各種添加剤を含んでいてもよい。主成分となり得るポリオキシメチレン(A)について以下説明する。
【0020】
(ポリオキシメチレン(A))
本実施形態に用いることのできるポリオキシメチレン(A)としては、具体的には、オキシメチレン基のみを主鎖に有したポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)、又は、好ましくは分子中に炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを有する、ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)が挙げられる。特に、本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物は、ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)を含むことが好ましい。これにより、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性が得られる傾向にある。
【0021】
前記ポリオキシメチレン(A)は、オキシメチレンユニット100molに対して、0〜1.0molのコモノマーユニットを含有しており、0〜0.8mol含有していることが好ましく、0〜0.5mol含有していることがより好ましい。オキシメチレンユニット以外のコモノマーユニットの含有量が前記好ましい範囲内であることにより、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性が得られる傾向にある。
【0022】
前記コモノマーユニットの定量については、H−NMR法を用いて、以下の手順で求めることができる。得られたポリオキシメチレン(A)を、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)により濃度1.5質量%となるように24時間かけて溶解させ、この溶解液を用いてH−NMR解析を行い、オキシメチレンユニットと、オキシメチレンユニット以外のコモノマーユニット(例えば、オキシアルキレンユニット)と、の帰属ピ−クの積分値の比率から、オキシメチレンユニット100mol(a)に対するコモノマーユニット(b)のmol割合(b/a)を求めることができる。
【0023】
ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)及びポリオキシメチレンコポリマー(A−2)は、下記の重合工程、末端安定化工程及び造粒工程により製造することができる。
【0024】
<ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)>
(1)重合工程
本実施形態に用いるポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)とは、オキシメチレン基を主鎖に有する重合体を表す。重合体連鎖の両末端がエステル基又はエーテル基により封鎖されていてもよい。ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の製造における重合形態は、公知のスラリー重合法(例えば、特公昭47−6420号公報又は特公昭47−10059号公報に記載の方法)を用いて実施することができる。これにより、末端が安定化されていない粗ポリオキシメチレンを得ることができる。
【0025】
1)モノマー
ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の製造に使用するモノマーとしては、ホルムアルデヒド又はその3量体であるトリオキサン若しくは4量体であるテトラオキサン等の環状オリゴマー等を用いることができる。このとき安定した分子量のポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)を継続的に得るために、精製され、かつ不純物濃度が低く安定したホルムアルデヒドガスを用いることが好ましい。ホルムアルデヒドの精製方法は公知の方法(例えば、特公平5−32374号公報及び特表2001−521916号公報に記載の方法)を用いることができる。
【0026】
本実施形態に用いるホルムアルデヒドガスは、水、メタノール、蟻酸等の重合反応中の重合停止及び連鎖移動作用を有する不純物を極力含まないものが好ましい。これらの不純物を極力含まなければ、予期せぬ連鎖移動反応を回避でき目的の分子量のポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)が得られ易くなる。中でも特に水の含有量については、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。
【0027】
2)連鎖移動剤
ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の製造に使用する連鎖移動剤としては、特に限定されないが、具体的には、一般にはアルコール類、酸無水物が用いることができる。また、ブロックポリマーや分岐ポリマーを得るために、ポリオール、ポリエーテルポリオール、又はポリエーテルポリオール・アルキレンオキサイドを用いてもかまわない。
【0028】
また、連鎖移動剤についても不純物を極力含まないものを用いることが好ましい。中でも特に水については、2000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましい。これらの不純物の少ない連鎖移動剤を得る方法としては、例えば、汎用的であり水分含有量が規定量を超える連鎖移動剤を入手し、これを乾燥窒素でバブリングし、活性炭やゼオライト等の吸着剤により不純物を除去して、精製する方法等が挙げられる。ここで用いる連鎖移動剤は、一種又は二種類以上を併用してもかまわない。
【0029】
3)重合触媒
ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の製造における重合反応に使用する重合触媒としては、特に限定されないが、具体的には、オニウム塩系重合触媒が挙げられる。重合反応に使用するオニウム塩系重合触媒は、例えば下記式(1)で表されるものを用いることができる。
[RM] ・・・(1)
【0030】
上記式(1)中、R、R、R及びRは各々独立にアルキル基を示し、Mは孤立電子対を持つ元素、Xは求核性基を示す。
【0031】
上記式(1)で表されるオニウム塩系重合触媒のなかでも、第4級アンモニウム塩系化合物や第4級ホスホニウム塩系化合物が好ましく用いられる。より好ましくはテトラメチルアンモニウムブロミド、ジメチルジステアリルアンモニウムアセタート、テトラエチルホスホニウムヨージド、トリブチルエチルホスホニウムヨージドが用いられる。
【0032】
4)反応器
ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の製造における重合の反応器としては、特に限定されないが、具体的には、バッチ式の攪拌機付き反応槽、連続式のコニーダー、二軸スクリュー式連続押し出し混練機、又は二軸パドル型連続混合機等を用いることができる。これらの胴の外周は反応混合物を加熱又は冷却できる構造を有することが好ましい。
【0033】
(2)末端安定化工程
上記粗ポリオキシメチレンの末端安定化をエーテル基で封鎖する方法としては、特公昭63−452号公報に記載の方法があり、アセチル基で封鎖する方法としては、米国特許第3,459,709号明細書に記載の大量の酸無水物を用い、スラリー状態で行う方法と、米国特許第3,172,736号明細書に記載の酸無水物のガスを用いて気相で行う方法とがある。本実施形態においては、上記いずれの方法も採用でき、特に限定されるものではない。
【0034】
粗ポリオキシメチレンの不安定末端をエーテル基で封鎖する際に用いるエーテル化剤としては、特に限定されないが、具体的には、オルトエステルが挙げられ、通常は脂肪族酸又は芳香族酸と、脂肪族アルコール、脂環式族アルコール又は芳香族アルコールと、のオルトエステルが挙げられる。このようなオルトエステルの具体例としては、メチル又はエチルオルトホルメート、メチル又はエチルオルトアセテート、メチル又はエチルオルトベンゾエート、及びオルトカーボネート、例えばエチルオルトカーボネートが挙げられる。
【0035】
エーテル化反応は、特に限定されないが、具体的には、p−トルエンスルホン酸、酢酸及び臭化水素酸のような中強度有機酸、又はジメチル及びジエチルスルフェートのような中強度鉱酸等のルイス酸型の触媒を、エーテル化剤1質量部に対して0.001〜0.02質量部導入して行うことが挙げられる。
【0036】
エーテル化反応に用いる好ましい溶媒としては、特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン及びベンゼン等の低沸点脂肪族;脂環式族及び芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム及び四塩化炭素等のハロゲン化低級脂肪族化合物等の有機溶媒が挙げられる。
【0037】
一方、粗ポリオキシメチレンの不安定末端をエステル基で封鎖する場合、エステル化に用いられる有機酸無水物としては、特に限定されないが、具体的には、下記式(2)で表される有機酸無水物が挙げられる。
COOCOR ・・・(2)
【0038】
上記式(2)中、R及びRは、各々独立にアルキル基又はアリール基を示す。R及びRは、同じであっても異なっていてもよい。
【0039】
上記式(2)で表される有機酸無水物の中でも、無水プロピオン酸、無水安息香酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等が好ましく、無水酢酸がより好ましい。有機酸無水物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0040】
また、気相でエステル基封鎖を行う方法においては、特開平11−92542号公報記載の方法によってオニウム塩系重合触媒を除去した後に末端封鎖を行うことが好ましい。ポリオキシメチレン中のオニウム塩系重合触媒が除去されていれば、末端封鎖する際に、オニウム塩系重合触媒のポリオキシメチレンの分解反応を回避することができ、安定化反応におけるポリマー収率を良好にすることができると共に、ポリオキシメチレンの着色を抑制することができる。
【0041】
ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の末端はエーテル基及び/又はエステル基で封鎖されることにより、末端水酸基の濃度が5×10−7mol/g以下に低減されることが好ましい。末端水酸基の濃度が5×10−7mol/g以下であると熱安定性により優れ、本来のポリオキシメチレン樹脂が有する品質を維持できる傾向にあるため好ましい。より好ましくは末端水酸基の濃度は0.5×10−7mol/g以下であり、さらに好ましくは、0.3×10−7mol/g以下である。
【0042】
(3)造粒工程
末端安定化を行ったポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)のパウダーは乾燥を行った後、取扱い性を良くするために押出機を用いて造粒してもよい。このとき、通常のポリオキシメチレンに添加することの可能な公知の安定剤を加えながら溶融混練し、造粒を行うことが好ましい。溶融混練を行う場合には、品質や作業環境の保持のために、不活性ガスによる置換、並びに一段及び多段ベントによる脱気をすることが好ましい。溶融混練の際の温度は、ポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)の融点以上250℃以下とすることが好ましい。
【0043】
<ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)>
(1)重合工程
本実施形態に用いるポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の製造における重合形態においては、オキシメチレンユニット以外のコモノマーユニットを、オキシメチレンユニット100molに対して、1.0mol以下含有し、0.8mol以下含有していることが好ましく、0.5mol以下含有していることがより好ましい。
【0044】
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の両末端がエステル基又はエーテル基により封鎖されていてもよい。ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の製造における重合形態は、公知の重合法(例えば、米国特許第3027352号明細書、米国特許3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、独国特許発明第1495228号明細書、独国特許発明第1720358、独国特許発明第3018898号明細書、特開昭58−98322号公報、及び特開平7−70267号公報に記載の方法)を用いることができる。このような重合工程により、ポリオキシメチレンコポリマーの末端が安定化されていない状態の粗ポリマーが得られる。
重合工程において用いる主モノマー等の材料を下記に説明する。
【0045】
1)主モノマー
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の製造に用いる主モノマーとしては、ホルムアルデヒド、又はその3量体であるトリオキサン若しくは4量体であるテトラオキサン等の環状オリゴマーを用いることが好ましい。ここで、本明細書における「主モノマー」とは、全モノマー量に対して50質量%以上含有されているモノマーユニットをいう。
【0046】
2)コモノマー
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の製造に用いるコモノマーとしては、分子中に炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを有する環状エーテル化合物及び/又は環状ホルマール化合物を用いることが好ましい。
【0047】
このような環状エーテル化合物及び環状ホルマール化合物としては、特に限定されないが、具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,3−ジオキソラン、1,3−プロパンジオールホルマール、1,4−ブタンジオールホルマール、1,5−ペンタンジオールホルマール、1,6−ヘキサンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、1,3,5−トリオキセパン、1,3,6−トリオキオカン、及び得られる高分子に分岐又は架橋構造を構成しうる、モノ−又はジ−グリシジル化合物からなる群より選ばれる1種の化合物又は2種以上の混合物が、好適なものとして挙げられる。
【0048】
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)を重合する際において、主モノマー及びコモノマーには、水、メタノール及び蟻酸等の重合反応中の重合停止作用及び連鎖移動作用を有する不純物を極力含まないものを用いることが好ましい。
【0049】
不純物を極力含まない主モノマー及びコモノマーを用いることにより、想定していない連鎖移動反応を回避でき、これにより所望の分子量を有するポリマーが得られる。特に、ポリマー末端基に水酸基を誘導する不純物の含有量は、全モノマー量に対して、好ましくは30質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、さらに好ましくは3質量ppm以下である。
【0050】
所望の低不純物の主モノマー及びコモノマーを得るための方法としては、公知の方法(例えば、主モノマーについては、特開平3−123777号公報又は特開平7−33761号公報に記載の方法、コモノマーについては、特開昭49−62469号公報又は特開平5−271217号公報に記載の方法)を用いることができる。
【0051】
3)連鎖移動剤
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の重合工程においては、連鎖移動剤を用いることが好ましい。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、具体的には、ホルムアルデヒドのジアルキルアセタール及びそのオリゴマー、並びにメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノール等の低級脂肪族アルコールを用いることが好ましい。前記ジアルキルアセタールのアルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル及びブチル等の低級脂肪族アルキル基であることが好ましい。
【0052】
長鎖分岐ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)を得るためには、ポリエーテルポリオール、及びポリエーテルポリオールのアルキレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。また、上記以外の連鎖移動剤としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基及びアルコキシ基からなる群より選択される1種以上の基を有する重合体を用いてもよい。
【0053】
さらに上記連鎖移動剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を使用してもよい。いずれの場合においても、不安定末端数の少ないポリオキシメチレンコポリマー(A−2)を得ることが好ましい。
【0054】
4)重合触媒
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の重合工程に用いる重合触媒としては、ルイス酸、プロトン酸、及びプロトン酸のエステル又は無水物等の、カチオン活性触媒が好ましい。
【0055】
ルイス酸としては、特に限定されないが、具体的には、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられる。より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン及び五フッ化アンチモン、並びにそれらの錯化合物又は塩が挙げられる。これらの中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテルがより好ましい。
【0056】
また、プロトン酸、そのエステル又は無水物としては、特に限定されないが、具体的には、パークロル酸、パークロル酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、及びトリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられる。また、必要に応じて、例えば特開平05−05017号報の記載にある末端ホルメート基の生成を低減するような触媒を併用してもよい。
【0057】
重合触媒の使用量は、例えばトリオキサンと環状エーテル化合物及び/又は環状ホルマール化合物を用いる場合、モノマーの合計量1molに対して、1×10−6〜1×10−3molが好ましく、5×10−6〜1×10−4molがより好ましい。重合触媒の使用量が上記範囲内であると、重合時の反応安定性や得られる成形体の熱安定性がより向上する。
【0058】
重合触媒は、重合工程後、触媒中和失活剤を含む、水溶液又は有機溶剤溶液中に、重合物を投入し、スラリー状態で一般的には数分〜数時間攪拌することにより失活させることができる。
【0059】
このような触媒中和失活剤としては、特に限定されないが、具体的には、アンモニア、トリエチルアミン及びトリ−n−ブチルアミン等のアミン類;アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物;無機酸塩;及び有機酸塩からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
【0060】
また、アンモニア又はトリエチルアミン等の蒸気と、ポリオキシメチレンとを接触させて重合触媒を失活させる方法や、ヒンダードアミン類、トリフェニルホスフィン及び水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種と、ポリオキシメチレンとを混合機で接触させることにより触媒を失活させる方法も用いることができる。
【0061】
(2)末端安定化工程及び造粒工程
上述した重合工程により得られたポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の粗ポリマーに含まれる不安定末端部分を分解除去することによって、熱安定性のより高いポリオキシメチレンコポリマー(A−2)が得られる。
【0062】
粗ポリマーに含まれる不安定末端部分の分解除去方法としては、特に限定されないが、例えば、ベント付き単軸スクリュー式押出機やベント付き2軸スクリュー式押出機等を用いて、公知の塩基性物質である後述する分解除去剤の存在下、粗ポリマーを溶融して不安定末端部分を分解除去する方法が挙げられる。
【0063】
末端安定化における溶融混練を行う場合には、品質や作業環境の保持のために、不活性ガスによる置換、及び一段又は多段ベントによる脱気をすることが好ましい。
【0064】
溶融混練の際の温度は、ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の融点以上260℃以下とすることが好ましい。
【0065】
さらに、通常のポリオキシメチレンに添加することが可能な公知の安定剤を加えながら溶融混合し、造粒を行うことが好ましい。
【0066】
1)分解除去剤
ポリオキシメチレンコポリマー(A−2)の粗ポリマーに含まれる不安定末端部分の分解除去に用いる分解除去剤としては、特に限定されないが、具体的には、アンモニア、トリエチルアミン及びトリブチルアミン等の脂肪族アミン;水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;無機弱酸塩;及び有機弱酸塩等の、公知の塩基性物質が挙げられる。
【0067】
上記分解除去剤の中でも、下記式(3)で表される、第4級アンモニウム化合物を少なくとも一種含むものが好ましい。このような第4級アンモニウム化合物であれば、熱的に不安定な末端を処理する方法に好適に利用できる。
[R10n− ・・・(3)
前記式(3)中、R、R、R及びR10は、各々独立して、炭素数1〜30の非置換アルキル基又は置換アルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の非置換アルキル基又は置換アルキル基が少なくとも1個の炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;及び炭素数6〜20のアリール基が少なくとも1個の炭素数1〜30の非置換アルキル基又は置換アルキル基で置換されたアルキルアリール基からなる群より選ばれるいずれかを表す。上記の非置換アルキル基又は置換アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。上記の非置換アルキル基、アリール基、アラルキル基、及びアルキルアリール基は、水素原子がハロゲンで置換されてもよい。nは1〜3の整数を表す。Yは、水酸基、炭素数1〜20のカルボン酸、水素酸、オキソ酸無機チオ酸、及び炭素数1〜20の有機チオ酸からなる群より選ばれるいずれかの酸残基を表す。
【0068】
上記第4級アンモニウム化合物としては、特に限定されないが、具体的には、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクダデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化物が挙げられる。
【0069】
また、第4級アンモニウム化合物のその他の例としては、アジ化水素等のハロゲン化以外の水素酸塩;硫酸、硝酸、燐酸、炭酸、ホウ酸、塩素酸、よう素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸等のオキソ酸塩;チオ硫酸等のチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプーリル酸、カプーリン酸、安息香酸、シュウ酸等のカルボン酸塩も挙げられる。
【0070】
これらの中でも、水酸化物(OH)、硫酸(HSO4−、SO2−)、炭酸(HCO、CO2−)、ホウ酸(B(OH))、及びカルボン酸の塩が好ましい。このようなカルボン酸の中でも、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸がより好ましい。
【0071】
上記第4級アンモニウム化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
第4級アンモニウム化合物の添加量は、粗ポリマーに対して、下記式(α)で表される第4級アンモニウム化合物由来の窒素の量に換算して、0.05〜50質量ppmであることが好ましい。
第4級アンモニウム化合物の添加量=P×14/Q ・・・(α)
【0073】
上記式(α)中、Pは第4級アンモニウム化合物の粗ポリマーに対する濃度(質量ppm)を表し、「14」は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を表す。
【0074】
第4級アンモニウム化合物等の分解除去剤は、粗ポリマーを溶融する前に、予め添加してもよいし、溶融させた粗ポリマーに添加してもよい。
【0075】
なお、分解除去剤は、公知の分解除去剤であるアンモニア、トリエチルアミン及びホウ酸化合物と、第4級アンモニウム化合物とを併用してもよい。
【0076】
(添加剤)
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品を形成するために用いるポリオキシメチレン樹脂組成物は、添加剤を含んでいてもよい。特に、潤滑剤(B)を特定量含んでいることが好ましい。加えて、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)を特定量含んでいることが好ましい。また、その他の添加剤(D)を含んでいてもよい。なお、本実施形態において、「常温」とは、23℃を意味する。
【0077】
<潤滑剤(B)>
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品を形成するために用いるポリオキシメチレン樹脂組成物は、添加剤として、潤滑剤(B)を特定量含んでいることが好ましい。
【0078】
ポリオキシメチレン樹脂組成物において、潤滑剤(B)の含有量は、(A)100質量部に対し、0.01質量部以上5質量部未満が好ましく、0.05質量部以上2質量部未満であることがより好ましく、0.1質量部以上1質量部未満であることがさらに好ましい。潤滑剤(B)の含有量を好ましい範囲にすることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性が得られる傾向にある。
【0079】
また、潤滑剤(B)は、常温で固形であることが好ましく、融点が40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。潤滑剤(B)の融点を上記好ましい範囲にすることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性が得られる傾向にある。一般に融点とは、固体が融解し液体化する温度のことをいうが、本実施形態における融点とは、これに加えて非晶性物質の場合は軟化点、熱硬化性樹脂の場合は分解点とする。また、本実施形態において、融点は後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0080】
ポリオキシメチレン樹脂組成物において、潤滑剤(B)の分散状態は均一であることが好ましいが、潤滑剤の種類によっては、表面に偏在していてもかまわない。
【0081】
潤滑剤(B)としては、特に限定されないが、具体的には、炭化水素系潤滑剤(パラフィンワックス、オレフィンワックス等)、高級脂肪酸系潤滑剤(ステアリン酸やパルミチン酸等)又はこれら高級脂肪酸の塩、高級アルコール系潤滑剤(ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、脂肪酸アマイド系潤滑剤(オレイン酸アマイド、ステアリン酸アマイド等)、エステル系潤滑剤(脂肪酸エステル、芳香族エステル等)、合成樹脂系潤滑剤(ポリオレフィン、フッ素系樹脂)、窒化ほう素、黒鉛や二硫化モリブデン等が挙げられる。
【0082】
本実施形態に用いる潤滑剤(B)としては、特には脂肪酸エステル系潤滑剤が好ましい。これにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性が得られる傾向にある。
【0083】
本実施形態において脂肪酸エステル系潤滑剤とは、脂肪族アルコールの水酸基と脂肪酸のカルボキシル基がエステル結合した化合物をいう。
【0084】
ここでいう脂肪族アルコールとは、脂肪族炭化水素の水素原子を水酸基で置換した形態の化合物である。このような形態としては、例えば、水酸基の数による一価、二価及びそれより多い多価のアルコール、分子内の結合による飽和アルコール及び二重結合、三重結合を有する不飽和アルコール、水酸基の結合している炭素原子による第一アルコール、第二アルコール、第三アルコールがある。このような脂肪族アルコールとしては、特に限定されないが、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−アミルアルコール、2−ペンタノール、n−ペプチルアルコール、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ビニルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、メチルビニルカルビノール、アリルカルビノール等の飽和・不飽和モノアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、β−ブチレングリコール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ブタンジオール、γ−ペンチレングリコール、1,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、2−メチル−2−オキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−イソプロピル−2−オキシメチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、エリスリトール、1,2,3,4−ペンタンテトロール、アドニット、アリット等の脂肪族多価アルコール等が挙げられる。この中でも、脂肪族飽和炭化水素系の多価アルコールが好ましい。
【0085】
ここでいう脂肪酸とは、脂肪族炭化水素の一部をカルボキシル基で置換した形態の化合物である。このような形態としては、例えば、飽和脂肪酸(飽和脂肪族モノカルボン酸、飽和脂肪族ジカルボン酸、飽和脂肪族トリカルボン酸、又はそれ以上に分岐したもの)、不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪族モノカルボン酸としては、特に限定されないが、具体的には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピバル酸、カプロン酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。また、飽和脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、具体的には、蓚酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。さらに、飽和脂肪族トリカルボン酸としては、特に限定されないが、具体的には、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、クエン酸やイソクエン酸等が挙げられる。またさらに、不飽和脂肪酸としては、特に限定されないが、具体的には、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、オレイン酸、リシノレン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。この中でも、炭素数4〜18の脂肪族炭化水素系の脂肪酸が好ましい。上記潤滑剤(B)は、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもかまわない。
【0086】
<ホルムアルデヒド捕捉剤(C)>
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品を形成するために用いるポリオキシメチレン樹脂組成物は、添加剤として、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)を特定量含んでいることが好ましい。ホルムアルデヒド捕捉剤(C)を含むことにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、生産性が向上し、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性が得られる傾向にある。
【0087】
ポリオキシメチレン樹脂組成物において、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)の含有量は、(A)100質量部に対し、0.01質量部以上5質量部未満が好ましく、0.03質量部以上2質量部未満であることがより好ましく、0.05質量部以上1質量部未満であることがさらに好ましい。
【0088】
ホルムアルデヒド捕捉剤(C)としては、特に限定されないが、具体的には、アミノトリアジン系化合物、グアナミン系化合物、尿素系化合物、及びヒドラジド系化合物が挙げられる。これらのホルムアルデヒド捕捉剤(C)は1種を単独で用いてもよいし又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
アミノトリアジン系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、メラミン;メラム、メレム、メロン等のメラミン縮合体;メラミンホルムアルデヒド樹脂等のメラミン樹脂;N,N’,N’’−モノ、ビス、トリス、テトラキス、ペンタキス、又はヘキサキス(o−、m−又はp−ヒドロキシフェニルメチル)メラミン等のN−ヒドロキシアリールアルキルメラミン系化合物が挙げられる。
【0090】
グアナミン系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、バレログアナミン、カプログアナミン、ヘプタノグアナミン、カプーリログアナミン、ステアログアナミン等の脂肪族グアナミン系化合物;サクシノグアナミン、グルタログアナミン、アジポグアナミン、ピメログアナミン、スベログアナミン、アゼログアナミン、セバコグアナミン等のアルキレンビスグアナミン類;シクロヘキサンカルボグアナミン、ノルボルネンカルボグアナミン、シクロヘキセンカルボグアナミン、ノルボルナンカルボグアナミン及びそれらの官能基置換誘導体等の脂環族グアナミン系化合物;ベンゾグアナミン、α−又はβ−ナフトグアナミン及びそれらの官能基置換誘導体等の芳香族グアナミン系化合物;フタログアナミン、イソフタログアナミン、テレフタログアナミン、ナフタレンジグアナミン、ビフェニレンジグアナミン等のポリグアナミン類;フェニルアセトグアナミン、β−フェニルプロピオグアナミン、o−、m−又はp−キシリレンビスグアナミン等のアラルキル又はアラルキレングアナミン類;アセタール基含有グアナミン類、ジオキサン環含有グアナミン類、テトラオキソスピロ環含有グアナミン類、イソシアヌル環含有グアナミン類等のヘテロ原子含有グアナミン系化合物が挙げられる。
【0091】
脂環族グアナミン系化合物における官能基置換誘導体としては、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセトアミノ基、ニトリル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルコキシ基、フェニル基、クミル基、ヒドロキシフェニル基等の官能基がシクロアルカン残基に1〜3個置換した誘導体が挙げられる。また、芳香族グアナミン系化合物における官能基置換誘導体としては、特に限定されないが、具体的には、アルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、アセトアミノ基、ニトリル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルコキシ基、フェニル基、クミル基、ヒドロキシフェニル基等の官能基がベンゾグアナミンのフェニル残基又はナフトグアナミンのナフチル残基に1〜5個置換した誘導体が挙げられ、例えば、o−、m−又はp−トルグアナミン、o−、m−又はp−キシログアナミン、o−、m−又はp−フェニルベンゾグアナミン、o−、m−又はp−ヒドロキシベンゾグアナミン、4−(4’−ヒドロキシフェニル)ベンゾグアナミン、o−、m−又はp−ニトリルベンゾグアナミン、3,5−ジメチル−4−ヒドロキシベンゾグアナミン、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾグアナミンが例示される。
【0092】
アセタール基含有グアナミン類としては、特に限定されないが、具体的には、2,4−ジアミノ−6−(3,3−ジメトキシプロピル−s−トリアジンが挙げられる。また、ジオキサン環含有グアナミン類としては、特に限定されないが、具体的には、[2−(4’−6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)エチル]−1,3−ジオキサン、[2−(4’−6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)エチル]−4−エチル−4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキサンが挙げられる。さらに、テトラオキソスピロ環含有グアナミン類としては、特に限定されないが、具体的には、CTU−グアナミン(3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−卜リアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)、CMTU−グアナミン(3,9−ビス[1−(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアザフェニル)メチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)が挙げられる。またさらに、イソシアヌル環含有グアナミン類としては、特に限定されないが、具体的には、1,3,5−トリス[2−(4’,6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)エチル]イソシアヌレート、1,3,5−トリス[3−(4’,6’−ジアミノ−s−トリアジン−2’−イル)プロピル]イソシアヌレートが挙げられる。
【0093】
尿素系化合物としては、例えば、鎖状尿素系化合物及び環状尿素系化合物が挙げられる。鎖状尿素系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、ビウレア、ビウレット、ホルム窒素等の尿素とホルムアルデヒドとの縮合体;及びポリノナメチレン尿素等のポリアルキレン又はアリーレン尿素が挙げられる。環状尿素系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、ヒダントイン類、クロチリデンジウレア、アセチレン尿素、モノ、ジ、トリ又はテトラメトキシメチルグリコールウリル等のモノ、ジ、トリ又はテトラアルコキシメチルグリコールウリル、シアヌル酸、イソシアヌル酸、尿酸、及びウラゾールが挙げられる。このなかで、ヒダントイン類としては、特に限定されないが、具体的には、ヒダントイン、5−メチルヒダントイン、5−エチルヒダントイン、5−イソプロピルヒダントイン、5−フェニルヒダントイン、5−ベンジルヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、5,5−ペンタメチレンヒダントイン、5−メチル−5−フェニルヒダントイン、5,5−ジフェニルヒダントイン、5−(o−、m−又はp−ヒドロキシフェニル)ヒダントイン、5−(o−、m−又はp−アミノフェニル)ヒダントイン、アラントイン、5−メチルアラントイン、及びアラントインジヒドロキシアルミニウム塩等のアラントインのAl塩等の金属塩が挙げられる。
【0094】
ヒドラジド系化合物としては、例えば、脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物、脂環族カルボン酸ヒドラジド系化合物、及び芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物が挙げられる。脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、ラウリン酸ヒドラジド、ステアリン酸ヒドラジド、12−ヒドロキシステアリン酸ヒドラジド、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸ヒドラジド等のモノカルボン酸ヒドラジド類;コハク酸モノ又はジヒドラジド、グルタル酸モノ又はジヒドラジド、アジピン酸モノ又はジヒドラジド、ピメリン酸モノ又はジヒドラジド、スベリン酸モノ又はジヒドラジド、アゼライン酸モノ又はジヒドラジド、セバシン酸モノ又はジヒドラジド、ドデカン二酸モノ又はジヒドラジド、ヘキサデカン二酸モノ又はジヒドラジド、エイコサン二酸モノ又はジヒドラジド、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド類が挙げられる。脂環族カルボン酸ヒドラジド系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、シクロヘキサンカルボン酸ヒドラジド等のモノカルボン酸ヒドラジド類;ダイマー酸モノ又はジヒドラジド、トリマー酸モノ、ジ又はトリヒドラジド、1,2−、1,3−又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸モノ、ジ又はトリヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド類が挙げられる。芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物としては、特に限定されないが、具体的には、安息香酸ヒドラジド及びその官能基置換誘導体、α−又はβ−ナフトエ酸ヒドラジド及びそれらの官能基置換誘導体等のモノカルボン酸ヒドラジド類;イソフタル酸モノ又はジヒドラジド、テレフタル酸モノ又はジヒドラジド、1,4−又は2,6−ナフタレンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、3,3’−、3,4’−又は4,4’−ジフェニルジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、ジフェニルエーテルジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、ジフェニルメタンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、ジフェニルエタンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、ジフェノキシエタンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、ジフェニルスルホンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、ジフェニルケトンジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、4,4’’−ターフェニルジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、4,4’’’−クォーターフェニルジカルボン酸モノ又はジヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸モノ、ジ又はトリヒドラジド、ピロメリット酸モノ、ジ、トリ又はテトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸モノ、ジ、トリ又はテトラヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド類が挙げられる。安息香酸ヒドラジド及びその官能基置換誘導体としては、特に限定されないが、具体的には、o−、m−又はp−メチル安息香酸ヒドラジド、2,4−、3,4−、3,5−又は2,5−ジメチル安息香酸ヒドラジド、o−、m−又はp−ヒドロキシ安息香酸ヒドラジド、o−、m−又はp−アセトキシ安息香酸ヒドラジド、4−ヒドロキシ−3−フェニル安息香酸ヒドラジド、4−アセトキシ−3−フェニル安息香酸ヒドラジド、4−フェニル安息香酸ヒドラジド、4−(4’−フェニル)安息香酸ヒドラジド、4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル安息香酸ヒドラジド、4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル安息香酸ヒドラジド等の、アルキル基、ヒドロキシ基、アセトキシ基、アミノ基、アセトアミノ基、ニトリル基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アルコキシ基、フェニル基、ベンジル基、クミル基、ヒドロキシフェニル基等の官能基がベンゾグアナミンのフェニル残基に1〜5個置換した誘導体が挙げられる。α−又はβ−ナフトエ酸ヒドラジド及びそれらの官能基置換誘導体としては、例えば、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジドが挙げられる。
【0095】
なお、上記のホルムアルデヒド捕捉剤(C)は、層状物質、多孔性物質(ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、シリカゲル、アルミナ、チタニア、ジルコニア、セピオライト、スメクタイト、パリゴルスカイト、イモゴライト、ゼオライト、活性炭等)に担持された形での使用も可能である。
【0096】
上記ホルムアルデヒド捕捉剤(C)の中でも、アミノトリアジン系化合物、グアナミン系化合物、特に芳香族グアナミン系化合物;尿素系化合物、特に環状尿素系化合物;カルボン酸ヒドラジド化合物、特に脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物及び芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物が好ましく用いられる。これらの中でも、特に脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物及び芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物が好ましい。脂肪族カルボン酸ヒドラジド系化合物及び芳香族カルボン酸ヒドラジド系化合物の中では、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカ二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド及びテレフタル酸ジヒドラジド等のジヒドラジドがホルムアルデヒドの捕捉効果の点で好ましい。
【0097】
<その他の添加剤(D)>
本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物は、必要に応じて従来公知のその他の添加剤(D)を含んでもよい。
【0098】
上記以外のその他の添加剤(D)として、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、蟻酸の中和剤、耐候(光)剤、滑剤、各種無機・有機充填剤、結晶核剤、離型剤、顔料・染料といった外観改良剤等が挙げられる。
【0099】
ポリオキシメチレン樹脂組成物中の添加剤(D)の含有量は、ポリオキシメチレン(A)100質量部に対し、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。
【0100】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、具体的には、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物等が挙げられる。
【0101】
熱安定剤としては、特に限定されないが、具体的には、上記以外のホルムアルデヒド捕捉剤、ギ酸捕捉剤等が挙げられる。
【0102】
蟻酸の中和剤としては、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩またはアルコキシド等が挙げられる。
【0103】
耐候(光)剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾリトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、及び2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0104】
滑剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレンビスステロアミド、ブチルステアレート、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス等の脂肪酸炭化水素系滑剤、高級脂肪酸滑剤、脂肪酸アミド系滑剤、及び脂肪酸エステル滑剤等が挙げられる。
【0105】
各種無機・有機充填剤としては、特に限定されないが、具体的には、繊維状、粉粒子状、板状及び中空状の充填剤等の無機充填剤、及び澱粉、酸化澱粉、及び変性澱粉、セルロース及びカルボキシル変性セルロース、寒天、キサントン等の有機充填剤が挙げられる。
【0106】
結晶核剤としては、特に限定されないが、具体的には、窒化ホウ素等が挙げられる。
【0107】
離型剤としては、特に限定されないが、具体的には、アルコール、脂肪酸及びそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、平均重合度が10〜500であるオレフィン化合物、シリコーン等が挙げられる。
【0108】
顔料・染料としては、特に限定されないが、具体的には、カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、及びベンガラ等が挙げられる。
【0109】
(ポリオキシメチレン樹脂組成物の製造方法)
ポリオキシメチレン樹脂組成物は、本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品を構成する成分であり、上述のように、ポリオキシメチレン(A)を含有し、さらに必要に応じて上記潤滑剤(B)、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)、及びその他の添加剤(D)を含有するものである。以下においては、ポリオキシメチレン(A)、潤滑剤(B)、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)及びその他の添加剤(D)を全て含有するポリオキシメチレン樹脂組成物の製造方法を例示的に説明する。
【0110】
上記のポリオキシメチレン(A)、潤滑剤(B)、ホルムアルデヒド捕捉剤(C)及びその他の添加剤(D)の混合は、ポリオキシメチレン(A)の造粒時に、(B)成分、(C)成分及び(D)成分を添加し、溶融混練することにより行ってもよい。
【0111】
また、(A)成分の造粒後に、ヘンシェルミキサー、タンブラーやV字型ブレンダーを用いて(A)成分〜(D)成分を混合した後、ニーダー、ロールミル、単軸押出機、二軸押出機や多軸押出機を用いて溶融混錬することにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を得ることもできる。
【0112】
また、ポリオキシメチレン(A)に対する(B)成分〜(D)成分の分散性を高めるために、混合するポリオキシメチレン(A)のペレットの一部又は全量を粉砕して予め混合した後、溶融混合してもよい。この場合、展着剤を用いてさらに分散性を高めてもよい。このような展着剤としては、特に限定されないが、具体的には、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素、これらの変性物及びこれらの混合物、並びにポリオールの脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0113】
当該溶融混合の温度は、180〜230℃であることが好ましい。さらに、品質や作業環境を保持する観点から、不活性ガスによる置換や、一段又は多段ベントで脱気することが好ましい。
【0114】
さらに、本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物は、成形品より得てもかまわない。例えば、成形品を粉砕し、得られたフレークをペレットの代わりに使用してもかまわない。また粉砕したフレークの一部を上記より得られたペレットに混合してもよい。
【0115】
(ポリオキシメチレン樹脂組成物の物性)
本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物の物性は、剛性が2500MPa以上、耐衝撃性が10kJ/m以上、往復動摺動試験時の摩擦係数が0.15以下である。ここで示している物性は、環境温度23±2℃、湿度50±10%にて測定した値である。ポリオキシメチレン樹脂組成物の剛性、耐衝撃性及び摩擦係数を上記範囲内とすることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られるものとなる。
【0116】
ここでの物性は、得られたポリオキシメチレン樹脂組成物のペレットから得られた評価用試験片の物性でもよいし、本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品を粉砕したフレークから得られた評価用試験片の物性でもよい。
【0117】
<剛性>
本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物の剛性は、2500MPa以上であり、2600MPa以上であることが好ましく、2650MPa以上であることがより好ましい。剛性が、2600MPa以上であることにより、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性を有するポリオキシメチレン製間欠型摺動部品となる。
【0118】
剛性の測定に用いた評価用試験片は、ISO3167に準拠したISO (マルチキャビティー)金型Aタイプ射出成形片である。評価用試験片は、例えば成形機(東芝機械;IS−100E、シリンダー温度200℃、金型温度80℃、冷却時間30秒)等を用いて、ショートショットやバリがでていないことを確認しながら成形することができる。さらに成形後、環境温度23±2℃、湿度50±10%に16時間以上放置調整を行なうことができる。
【0119】
剛性の評価は、ISO527−1、−2に準拠して行なうことができる。具体的には、評価用試験片を用いて、例えば万能試験機(島津製作所;オートグラフAGS−X、伸び計装着)等により、試験速度1mm/minで引張試験を行い、50mm標線間で0.05〜0.25%の変位の傾きにより、引張弾性率を測定しポリオキシメチレン樹脂組成物の剛性とする。なお、より詳細には実施例に記載の方法に従って行なうことができる。
【0120】
<耐衝撃性>
本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物の耐衝撃性は、10kJ/m以上であり、11kJ/m以上であることが好ましく、11.5kJ/m以上であることがより好ましく、13kJ/m以上であることがさらに好ましい。耐衝撃性が、13kJ/m以上であることにより、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性を有するポリオキシメチレン製間欠型摺動部品となる。
【0121】
耐衝撃性に用いた評価用試験片としては、上記剛性評価に用いた評価用試験片の標線間部分から、ISO179−1に準拠して、切り出しノッチを入れたものを成形し、さらに成形後、上記同様調整を行なったものを用いた。耐衝撃性の評価は、ISO179−1に準拠して行なった。より具体的には、評価用試験片を用いて、例えば衝撃試験機(安田精機;振子式衝撃試験機No.141)により、シャルピー衝撃試験を行い、ポリオキシメチレン樹脂組成物の耐衝撃性とした。なお、より詳細には実施例に記載の方法に従って行なうことができる。
【0122】
<摩擦係数>
本実施形態に用いるポリオキシメチレン樹脂組成物の往復動摺動時の最大摩擦係数は、0.15以下であり、0.12以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。摩擦係数測定に用いた評価用試験片としては、上記剛性の評価に用いた評価用試験片の標線間部分を用いた。摩擦係数が、0.12以下であることにより、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化がより小さく、かつより優れた耐久性を有するポリオキシメチレン製間欠型摺動部品となる。
【0123】
摩擦係数の評価は、具体的には、評価用試験片を用いて、例えば往復動試験機(東測精密社製AFT−15MS型)等を用いて、先端径直径5mmのSUS304製球を用いて、常温で2kgfの荷重をかけて摺動速度30cm/sec、摺動距離20mmの条件で、試験片の成形時の流動方向に往復動摺動を1000回行なったときの最大の摩擦係数を測定し、ポリオキシメチレン樹脂組成物の摩擦係数とした。なお、より詳細には実施例に記載の方法に従って行なうことができる。
【0124】
〔部材(I)の製造方法〕
本実施形態に用いる部材(I)は、上述したポリオキシメチレン樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
【0125】
本実施形態に用いる部材(I)の製造方法としては、原材料となる従来のポリオキシメチレン樹脂組成物を用いた多様な公知の成形方法が挙げられる。当該成形方法としては、特に制限されないが、具体的には、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、多色成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法によって成形することができる。特に、生産性の面から、押出成形・射出成形・射出圧縮成形、又は異材を組み合わせる多色成形・金型内複合成形が好ましい。
【0126】
当該成形条件としては、通常ポリオキシメチレンが成形される推奨条件を用いる。例えば、樹脂温度180〜230℃、金型温度60〜120℃で成形を行なうことが好ましい。
【0127】
また、本実施形態に用いる部材(I)の表面状態は、平滑なものでも、各種シボ加工を施したものであってもよい。
【0128】
〔相手材(II)〕
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、上述した部材(I)に接する相手材(II)を有する。本実施形態に用いる相手材(II)とは、摺動するときに部材(I)に対向する材料をいう。
【0129】
また、本実施形態に用いる相手材(II)は、金属である。金属としては、特に限定されないが、具体的には、鉄鋼系(炭素鋼、合金鋼、鋳鉄等)や非鉄金属系(銅、アルミニウム、ニッケル、貴金属、低融点金属及びそれらの合金等)が挙げられる。本実施形態では、ポリオキシメチレン樹脂組成物よりなる部材(I)と摺動する相手材(II)が金属である。金属は樹脂組成物に比べて概ね表面硬度が高く熱伝導に優れるため、同様な表面の粗さ状態であれば、どの金属も同じような傾向の物理的性質を示すことが多い。相手材(II)を金属とすることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、優れた耐久性が得られる。
【0130】
〔相手材(II)の製造方法〕
本実施形態に用いる相手材(II)の製造方法としては、公知の金属加工法が挙げられる。例えば、当該加工法としては、特に制限されないが、鋳造(砂型、金型、ダイキャスト、精密鋳造等)や塑性加工(圧延、引抜き、押出し、打抜き等)がある。また、表面硬度を高めるため、焼入れ・焼き戻しや鍛造等を施してもよい。摺動性の観点からは、金属がどの製造方法・加工方法を用いたものであっても、バリ等が少なく滑らかな表面性を有することで安定した効果を得ることが可能となるため、中心線平均粗さRaが25μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。さらに相手材(II)である金属は、サビ抑制や意匠性向上等のためにコーティング処理を施してもよい。
【0131】
〔ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の使用態様〕
本実施形態のポリオキシメチレン製摺動部品は、間欠型の摺動部品である。摺動時の動きを間欠型とすることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、優れた耐久性が得られる。
【0132】
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の部材(I)又は相手材(II)の定常的な摺動時の動きは、断続的、間欠的、又は可逆的な動きをする。例えば、手動で上下や左右に動かしたり、動力源より伝達時にカムやクラッチ、電気的な正転・反転等を用いたりして、往復運動、断続運動、可逆回転等、作動と停止とを繰り返し行なうような動きである。ここでの動きとは部材(I)からみて、相手材(II)がどのように動いているかである。例えばレコード針とレコードとが摺動する場合を考えると、レコード針からみるとレコードは連続的な動きとなる。本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、連続的な動きで面圧や速度が大きくなると、摺動面の温度が上がって摩耗が激しくなり、効果が得られない場合があるため、間欠型の摺動部品として用いる。
【0133】
また、本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、部材(I)と相手材(II)との接触面が、線又は面である場合の接触形態に用いられることが好ましい。接触面とは、巨視的にみたときの部材(I)と相手材(II)との摺動前又は摺動後の接触する形状をいう。例えば、上記同様レコード針とレコードとが摺動する場合を考えると、接触面は点となる。本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、接触形態が点ではなく、線又は面であり面圧が比較的小さいことにより、引掻くような摺動による摩耗が抑制される傾向にある。
【0134】
加えて、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の接触面の摺動形態は、連続・不連続、不連続・連続、又は連続・連続に接触する場合に用いられることが好ましい。摺動形態とは、接触面が連続して摺動するか、不連続で摺動するかの形態をいう。ここで、「連続」とは、摺動面が常に一定である形態をいい、「不連続」とは、摺動面が更新される状態をいう。例えば、上記同様レコード針とレコードが摺動する場合を考えると、レコード針側の摺動面は連続で摺動しているが、レコード側の摺動面は不連続で摺動しているので、摺動形態は連続・不連続となる。本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、不連続・不連続ではなく、連続・不連続、不連続・連続、又は連続・連続に接触する摺動形態において、より効果が得られ易くなる傾向にある。
【0135】
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品とは、装置の摺動部品の全てであってもよく、また摺動部品の摺動面を含む一部であってもよい。
【0136】
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、作業性や機能性の改善を目的として、異材のインサート部及び/又は異材との接合部を有していてもよい。本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、上述のポリオキシメチレン樹脂組成物が優れた生産性を有し、さらには加工性にも優れていることから、複雑な形状に成形したり、後加工したりすることが容易であり、寸法変化や耐久性を一層優れたものとすることができる。
【0137】
上記好ましい使用形態とすることにより、ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)を含むポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られる傾向を示す。
【0138】
本実施形態のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の具体的な形態の例を、図1図5に示す。なお、部材(I)は、図1図5中部材(x)、部材(y)のいずれかどちらでもよい。すなわち、部材(I)と相手材(II)との組み合わせであれば、どちらが部材(x)であっても、部材(y)であってもかまわない。また、図では摺動する動きが可逆的な記載をしているが、断続的又はそれらの複合的な動きでもかまわない。さらに動く側が部材(I)と相手材(II)で入れ替わってもかまわない。なお、図1〜5中、直線矢印は部材(x)と部材(y)との対向方向を示し、曲線矢印は部材(x)の摺動方向を示している。また、図1は直線矢印に部材(x)と部材(y)が対向する軸固定の例を示し、図2は直線矢印に部材(x)と部材(y)が対向する受け固定の例を示し、図3は直線矢印に部材(x)と部材(y)が対向する穴固定の例を示し、図4は直線矢印に部材(x)と部材(y)が対向する面固定、図5は直線矢印に部材(x)と部材(y)が対向する軸押し付け固定の例を示している。
【0139】
具体的なポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の用途としては、電気機器、自動車部品やその他の種々の機構部品において使用され、また容器、カバー、ケース、扉等に一部前記の機能を有した部品として使用されてもよい。特に部品の部位としては、間欠的な摺動を行う、軸部、軸受け部、軸穴部、ローラ部、ブッシュ部、ワッシャー部、ベルト部等に使用されることが好ましい。さらに、レバーやハンドル類の正転・反転部品、ベルトやテープ類の巻出し・巻き取り部品に使用されることが好ましい。
【実施例】
【0140】
以下、本発明を、実施例と、比較例を挙げて説明するが、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0141】
先ず、実施例及び比較例におけるポリオキシメチレン製間欠型摺動部品に含まれる部材(I)を形成するポリオキシメチレン樹脂組成物(P)及び相手材(II)等について説明する。
【0142】
〔部材(I)を形成するポリオキシメチレン樹脂組成物(P)〕
ポリオキシメチレン樹脂組成物(P)を調製する原材料としては、以下に示すポリオキシメチレン(A)と、必要に応じて、潤滑剤(B)、(C)、又は(D)とを用いた。
【0143】
(原材料)
<ポリオキシメチレン(A)>
ポリオキシメチレン(A)としては、次の手順により得たポリオキシメチレンホモポリマー(A−1)及びポリオキシメチレンコポリマー(A−2)を用いた。使用したポリオキシメチレン(A)と、そのメルトフローレートとを表1に示す。
【0144】
・ポリオキシメチレン(A)のメルトフローレートの測定)
下記ポリオキシメチレン(A)のペレットを、測定前に80℃、2時間オーブン(エスペック(株)社製、GPH−102)にて乾燥した。このポリオキシメチレン(A)のペレットのメルトフローレートは、メルトインデクサ(東洋精機(株)社製、F−W01)を用いて、ISO1133(条件D・温度190℃)に準拠して測定した。
【0145】
・(A−1−1〜5)ポリオキシメチレンホモポリマーの合成
(重合工程)
ポリオキシメチレンホモポリマーは、以下のようにして調製した。撹拌機を付帯したジャケット付き5Lタンク重合器にn−ヘキサンを2L満たし循環ライン(内径:6mm、長さ:2.5m)を設けた。前記n−ヘキサンをポンプにより20L/hrで循環させた。この循環ラインに脱水したホルムアルデヒドガス200g/hrを直接供給した。また、触媒(ジメチルジステアリルアンモニウムアセテート)をホルムアルデヒドガスに対し、モル比で1×10−5〜1×10−4の範囲で調整を行い反応器直前の循環ラインに供給した。さらに、連鎖移動剤(無水酢酸)を、末端安定化工程に送られる重合スラリーの減少分を補うために、供給するヘキサンに添加し、0.13〜0.52g/hrの範囲で調整を行ない、連続的にフィードした。この状態で、58℃で重合を行い、(A−1−1)の粗ポリマーを含む重合スラリーを得た。
【0146】
また、メルトフローレートを表1に記載のように調整した以外は、上記同様の操作を行い(A−1−2〜5)の粗ポリマーを含む重合スラリーもそれぞれ得た。なお、メルトフローレートの調整は、連鎖移動剤や重合触媒の添加量を制御することにより行なった。続く、末端安定化工程や、造粒工程については(A−1−1)の粗ポリマーと同様の処理を行なった。
【0147】
(末端安定化工程)
得られた重合スラリーをヘキサンと無水酢酸との1対1混合物中で140℃×2時間反応させ、分子末端をアセチル化することにより安定化を行った。反応後のポリマーを濾取し、濾取したポリマーを、2mmHg以下に減圧し、80℃に設定した減圧乾燥機で3時間かけて乾燥を行い、ポリオキシメチレンホモポリマーのパウダーを得た。
【0148】
(造粒工程)
さらにこのパウダー100質量部と、安定剤としてイルガノックス245(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)0.2質量部と、H−3(旭化成ファインケム(株)社製)0.2質量部とをヘンシェルミキサーにて1分間混合した。その後、得られた混合物を、200℃に設定したベント付きスクリュー型二軸押出機(プラスチック工業(株)社製 BT−30、L/D=44、L:二軸押出機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:二軸押出機の内径(m)。以下、同じ。)にてスクリュー回転数80rpmとし、24アンペアで溶融混練してポリオキシメチレンホモポリマー(A−1−1〜5)のペレットを得た。原料投入からペレット採取まで、できるだけ酸素の混入を避けて操作を行った。
【0149】
・(A−2−1〜2)ポリオキシメチレンコポリマーの合成
(重合工程)
ポリオキシメチレンコポリマーは、以下のようにして調製した。まず、熱媒を通すことのできるジャケット付セルフ・クリーニングタイプの二軸パドル型連続混合反応機(スクリュー径3インチ、径に対する長さの比(L/D)=10)を80℃に調整した。主モノマーとしてトリオキサンを3750g/hr、コモノマーとして1,3−ジオキソランを25〜150g/hr、かつ、連鎖移動剤(メチラール)を2.0〜8.0g/hrの範囲で調整を行ない、前記連続混合反応機に連続的にフィードした。
【0150】
また、重合触媒として三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートの1質量%シクロヘキサン溶液を、当該触媒がトリオキサン1molに対して2.0×10−5molになるように、前記連続混合反応機に添加して重合を行い、(A−2−1)の重合フレークを得た。また、メルトフローレートを表1に記載のように調整した以外は、上記同様の操作を行い(A−2−2)の重合フレークも得た。なお、メルトフローレートの調整は、連鎖移動剤や重合触媒の添加量を制御することにより行なった。
【0151】
得られた重合フレークを粉砕した後、トリエチルアミン1質量%水溶液中に、前記粉砕物を投入して撹拌し、重合触媒を失活させた。その後、重合フレークを含むトリエチルアミン1質量%水溶液を、濾過、洗浄及び乾燥を順次行い、粗ポリマーを得た。
【0152】
(末端安定化工程)
得られた粗ポリマー1質量部に対し、第4級アンモニウム化合物としてトリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム蟻酸塩を、下記数式(α)を用いて窒素の量に換算した場合に20ppmとなる量相当を添加し、均一に混合した後120℃で3時間乾燥し、乾燥ポリマーを得た。
第4級アンモニウム化合物の添加量=P×14/Q ・・・(α)
(式(α)中、Pは第4級アンモニウム化合物の粗ポリマーに対する濃度(質量ppm)を表し、「14」は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を表す。)
【0153】
次に、得られた乾燥ポリマーを用いて末端安定化を以下のとおり実施した。ベント付きスクリュー型二軸押出機(プラスチック工業社製、BT−30、L/D=44、設定温度200℃、回転数80rpm)の前段部分に、得られた乾燥ポリマーを添加し、さらに当該乾燥ポリマー100質量部に対して0.5質量部の水を添加し、ポリマー末端を安定化させつつ減圧脱気を行って、乾燥ポリマーを得た。
【0154】
(造粒工程)
次に、上記乾燥ポリマー100質量部に対し、安定剤としてイルガノックス245(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)0.2質量部と、H−3(旭化成ファインケム(株)社製)0.2質量部とを予めヘンシェルミキサーにて1分間混合した。得られた混合物を、上記二軸押出機の後段部分にあるサイドフィーダーから添加し、200℃に設定したベント付きスクリュー型二軸押出機(プラスチック工業(株)社製 BT−30、L/D=44)にてスクリュー回転数80rpmとし、24アンペアで溶融混練してポリオキシメチレンコポリマーのペレットを得た。原料投入からペレット採取まで、できるだけ酸素の混入を避けて操作を行った。
【0155】
上記コモノマー量の調整により得られた2種のポリオキシメチレンコポリマーにおけるオキシメチレンユニットa(100mol)に対するオキシアルキレンユニットb(mol)の割合(以下「b/a」とも記す。)を表1に示した。
【0156】
ここで(b/a)は、以下のようにして求めた。得られたポリオキシメチレンコポリマーを、溶媒であるヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)−d2(D化率97%、和光純薬98%assay)中に、24時間かけて溶解させることにより、ポリオキシメチレンコポリマーの1.5質量%溶液を調製した。上記のポリオキシメチレンコポリマーの1.5質量%溶液を検体として、JEOL−400核磁気共鳴分光計(1H:400MHz)を用い、55℃及び積算回数500回の条件下、オキシメチレンユニットaと、当該ユニットaを除くオキシアルキレンユニットbとの帰属ピークを積分した。このようにして得られた積分値から、オキシメチレンユニットa(100mol)に対するオキシアルキレンユニットb(mol)の割合を求めた。
【0157】
【表1】
なお、A−1−0はテナック2010(旭化成ケミカルズ(株)社製)である。
【0158】
<潤滑剤(B)>
潤滑剤(B)として、下記(B−1)〜(B−5)を用いた。
(B−1):エステル系潤滑剤(エチレングリコールジステアレート、日本油脂(株)社製、融点>50℃)
(B−2):エステル系潤滑剤(ミリスチン酸セチル、日本油脂(株)社製、融点>50℃)
(B−3):エステル系潤滑剤(セバシン酸ジブチル、大八化学工業(株)社製、常温で液体、融点<23℃)
(B−4):アミド系潤滑剤(エチレンビスステアリルアミド、日本油脂(株)社製、融点>50℃)
(B−5):アルコール系潤滑剤(PEG6000、三洋化成(株)社製、融点>50℃)
【0159】
なお、潤滑剤(B)の融点は、カタログ値又は示差走査熱量測定装置(DSC測定装置:STA6000パーキンエルマー社製)により測定した。測定は、常温で固形の潤滑剤を常温から200℃まで2.5℃/minで昇温し、横軸に温度、縦軸に熱流をとったときの発熱ピークを融点とした。
【0160】
<ホルムアルデヒド捕捉剤(C)>
(C−1):ヒドラジド系ホルムアルデヒド捕捉剤(セバシン酸ジヒドラジド、日本ファインケム(株)社製)
(C−2):ヒドラジド系ホルムアルデヒド捕捉剤(ドデカ二酸ジヒドラジド、日本ファインケム(株)社製)
(C−3):尿素系ホルムアルデヒド捕捉剤(ヒダントイン、昭和電工(株)社製)
【0161】
<その他の添加剤(D)>
GF:ガラスファイバー(ECS03T−851:日本電気硝子(株)社製)
【0162】
(ポリオキシメチレン樹脂組成物(P)の調製)
上記の原材料(A)と、及び必要に応じて、(B)、(C)又は(D)とを、表2に示す組成に従って配合し、ヘンシェルミキサーを用いて均一に混合した。得られた混合物を、ベント付きスクリュー型二軸押出機(プラスチック工業社製、BT−30、L/D=44、設定温度200℃、回転数80rpm)を用いて、溶融混合し、造粒を行ない、ポリオキシメチレン樹脂組成物(P1)〜(P5)、(P7)〜(P18)のペレットを得た。また、ポリオキシメチレン樹脂組成物(P6)は、(A−1−3)に何も加えないで、再度溶融し造粒を行なうことで作製した。ポリオキシメチレン樹脂組成物(P19)は、P3を用いて成形したプーリを粉砕機(槇野産業(株)社製、粉砕機DD−2−3.7)により粉砕し最大3mm大のフレーク(P3’)とすることで作製した。なお、ポリオキシメチレン樹脂組成物(P0)は、A−1−0を用いて作製したものである。
【0163】
【表2】
【0164】
(ポリオキシメチレン樹脂組成物(P)の物性)
下記方法により上記ポリオキシメチレン樹脂組成物のペレット(P0)〜(P19)の物性(剛性、耐衝撃性、摩擦係数)を測定した。測定は全て5回ずつ行い、その平均値を各物性値とした。結果を表3に示した。
【0165】
<剛性>
剛性の評価に使用した試験片として、成形機(東芝機械;IS−100E、シリンダー温度200℃、金型温度80℃、冷却時間30秒)を用いて、上記ポリオキシメチレン樹脂組成物のペレット(P0)〜(P19)それぞれからISO3167に準拠したISO (マルチキャビティー)Aタイプを作製する。このときショートショットやバリが発生していないことを確認しながら成形を行なった。さらに成形後、環境温度23±2℃、湿度50±10%に16時間以上放置調整を行なった。
【0166】
剛性の評価としては、ISO527−1、ISO527−2に準拠して、例えば万能試験機(島津製作所;オートグラフAGS−X、伸び計装着)により、試験速度1mm/minで引張試験を行い、50mm標線間で0.05〜0.25%の変位の傾きにより、引張弾性率を測定し各ポリオキシメチレン樹脂組成物の剛性とした。ここで示している物性は、環境温度23±2℃、湿度50±10%にて測定した値である。
【0167】
<耐衝撃性>
耐衝撃性の評価に使用した試験片は、上記剛性評価に用いた成形片の標線間部分から、ISO179−1に準拠して、切り出しノッチを入れたものを、上記同様調整を行ない作製した。
【0168】
耐衝撃性の評価としては、ISO179に準拠して、衝撃試験機(安田精機;振子式衝撃試験機No.141)により、シャルピー衝撃試験を行い、ポリオキシメチレン樹脂組成物の耐衝撃性とした。ここで示している物性は、環境温度23±2℃、湿度50±10%にて測定した値である。
【0169】
<摩擦係数>
摩擦係数の評価に使用した試験片は、上記剛性評価に用いた成形片の標線間部分を、上記同様調整を行ない作製した。
【0170】
摩擦係数の評価としては、往復動試験機(東測精密社製AFT−15MS型)を用いて、先端径5mmφのSUS304製の球に2kgfの荷重をかけて摺動速度30cm/secの条件で、試験片の成形時の流動方向に往復動摺動を1000回行なったときの最大摩擦係数を測定し、ポリオキシメチレン樹脂組成物の摩擦係数とした。
【0171】
【表3】
【0172】
〔相手材(II)を形成する金属〕
相手材(II)を形成する金属として以下を使用した。
(b−1):炭素鋼(S45C−Q)
(b−2):ステンレス鋼(SUS416)
(b′) :ポリオキシメチレン樹脂(旭化成ケミカルズ(株)社製、テナック2010)の丸棒。
【0173】
〔ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の作製〕
上記ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて形成された部材(I)として、上部にギアが構成されているプーリ(Ia)を以下の通り作製した。また、該部材(I)に接する相手材(II)として、上記(b−1)、(b−2)、又は(b′)からなるシャフト(IIb)を準備した。作製したプーリ(Ia)及びシャフト(IIb)を用いて、シャフトをプーリに挿入し、抵抗なく回転することを確認した。
【0174】
(プーリ(Ia)の作製)
上記調製したポリオキシメチレン樹脂組成物(P0)〜(P19)を用いて、以下のとおり射出成形することにより図6−1に示すようなプーリ(Ia)を作製した。当該射出成形は、射出成形機(東洋機械金属(株)社製、TI30G−2)を用いて、シリンダー温度200℃、金型温度70℃を目安とし、十分に充填しバリが出ていないことを確認しながら実施した。なお、プーリ(Ia)は、図6−2にあるように円周上等間隔3点のプーリの底部の端部より0.5mm内側に中心をもつ0.3mm径のピンゲートにより射出成形される。以降、この底の部分(図6−2下部)の側をゲート側といい。ギアを有する部分(図6−2上部)の側を反ゲート側という。
【0175】
プーリ(Ia)の金型からの寸法は、図6−2に示すようにプーリの内径6.0mm、ギア部の歯先円直径12.4mm、底部外径20.0mm、底部高さ2.0mm、プーリ高さ17.0mmとした。ギア部の形状は、図6−3に示すようにゲイツ・ユニッタ(株)社製P20MXLに準拠した。
【0176】
(シャフト(IIb))
上記の相手材を形成する金属を用い、直径5.98mm、長さ60.0mm、表面磨き▽=4で円柱状に加工した倉敷ボーリング(株)社製のシャフトを使用した。加工されたシャフトは、プーリに挿入する前に一度アセトンにより脱脂を行い、表面からできるだけ油分を除去した状態とした。(b′)のポリオキシメチレン樹脂製丸棒からも同様の寸法に切り出し、シャフト形状とした。
【0177】
〔ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価〕
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品について以下のとおり評価した。評価結果を表4、表5に示した。
【0178】
(ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の生産性の評価)
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の生産性の評価を、以下のポリオキシメチレン樹脂組成物の生産性及びプーリ(Ia)の品質評価により行った。
【0179】
<ポリオキシメチレン樹脂組成物の生産性評価>
ポリオキシメチレン樹脂組成物の生産性評価は、押出機のトルクを25アンペアで一定となるように調整して造粒したときの、ポリオキシメチレン樹脂組成物の単位時間当たりの平均造粒量、ストランドの状態、並びにペレットの外観及び臭気により、総合的に行った。
【0180】
評価基準としては、市販されているポリオキシメチレン樹脂組成物(P0)(テナック2010からなる樹脂組成物)を押出し機に通したときの生産性の評価と比較して、以下のように規定した。以下の評価基準に従って、各ポリオキシメチレン樹脂組成物の生産性評価を行った。
【0181】
評価基準
○:テナック2010の生産性評価に比して、良好の場合
◇:同等のレベルであった場合
△:若干低下した場合
×:明らかに低下した場合
【0182】
なお、上記「良好」とは、テナック2010と比較した場合、単位時間当たりの平均造粒量の増加が10%以上であった状態を言う。上記「若干低下」とは、テナック2010と比較した場合、単位時間当たりの平均造粒量の低下が20%〜40%以内であり、得られたストランドにフクレや切れがなく安定して巻き取りが可能であり、得られたペレットは、外観が多少の切子があり、臭気があったものの作業性を低下させなかった状態を言う。上記「明らかに低下」とは、テナック2010と比較した場合、単位時間当たりの平均造粒量の低下が40%より大きい場合、食い込み不良やストランドに切れ等が発生して巻き取りが不安定になったことがある場合、ペレットの外観(色や形状)が悪い場合、又はペレットの臭気が強かったりして作業性に影響を与えた場合である。
【0183】
<プーリ(Ia)の品質評価>
ポリオキシメチレン樹脂組成物を用いて作製した上記プーリ(Ia)の品質評価は、成形品の外観(シルバーやフローマーク等)や着色等を目視で確認し、以下の評価基準に従って総合的に行なった。なお、評価は作製したプーリ(Ia)の5つの平均をとった。
【0184】
評価基準
○:金型転写性が良く平滑性・光沢性等外観が良好だった場合
◇:市販のポリオキシメチレン樹脂テナック2010と同等の場合
△:シルバーやフローマーク等若干の不良が確認された場合
×:摺動面に明らかに不良が確認された場合
【0185】
(ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の寸法変化及び耐久性の評価)
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の寸法変化及び耐久性の評価は、後述する摺動部品評価装置を用いた。
【0186】
寸法変化は、下記摺動試験前後のプーリの軸穴径の変化で、耐久性は、下記摺動前後のプーリの質量変化とプーリとシャフトの外観変化の観察、及び下記作動性試験により行なった。評価は全て3回行い、その平均を評価値とした。
【0187】
<摺動部品評価装置>
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の寸法変化及び耐久性の評価には、摺動部品評価装置(神鋼造機株式会社製、樹脂製小型軸受摩擦摩耗試験機158273)を用いた。
【0188】
図6−4は、摺動部品評価装置の測定部の概略図である。この摺動部品評価装置は、図6−5に示すようにプーリ(Ia)とシャフト(IIb)とを設置し、プーリ(Ia)には幅12.7mmの荷重付与式駆動ベルトB(ゲイツ・ユニッタ(株)社製、B166MXL)を介して、間欠回転(例えば5秒回転/1秒停止等)ができ、さらに上部への荷重(矢印F)がかかるようになっている。なお、荷重付与式駆動ベルトBを、曲線矢印方向に動かせることでプーリ(Ia)が間欠回転させた。
【0189】
<摺動試験>
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の摺動試験は、上記摺動部品評価装置を用いて行なった。当該試験は、シャフト(IIb)をプーリ(Ia)に差込み、プーリのシャフトへの押し当て荷重を4.5kgfにして、プーリの最大回転数を1260rpmとして5秒間回転させ、クラッチにより1秒停止することを一回とし、この回数を50000回とした。このときのプーリの寸法、質量、プーリ及びシャフトの状態観察からポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の寸法変化と一部の耐久性の評価を行なった。
【0190】
<作動性試験>
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の作動性試験は、負荷を与えた後に摺動させたときの作動性の変化や音の発生状況を観察した。試験はプーリ(Ia)をシャフト(IIb)に差込み、プーリを固定した状態にしてベルトをかけ、ベルトに荷重20kgfを1時間加え、プーリにトルクを与えた。この後上記同様、最大回転数を1260rpmとして5秒間回転させ、クラッチにより1秒停止することを一回とし、このクラッチ回数を50回したときの作動性からポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の一部の耐久性の評価を行なった。
【0191】
<寸法変化及び耐久性の評価基準>
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の寸法変化及び耐久性の評価は、上記試験を実施し、以下のとおりの評価基準で行った。なお、ゲート側の寸法変化とは、上記図6−2のプーリの底部すなわちゲートがある側の軸穴径の寸法変化をいう。
【0192】
(1)寸法変化
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の寸法変化は、上記摺動試験前後でのプーリ(Ia)の反ゲート側の軸穴寸法をマイクロスコープ(キーエンス(株)社製、VHX−1000)を用いて測定した。以下の評価基準に従って寸法変化の評価をした。なお、市販のポリオキシメチレン樹脂テナック2010は350μmであった。
評価基準
◎:測定した寸法の差が50μm未満の場合
○:50μm以上200μm未満の場合
◇:200μm以上400μm未満の場合
×:400μm以上の場合
【0193】
(2)耐久性
ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の耐久性(外観変化、質量変化及び負荷後の作動性)の評価は、以下の評価基準で行なった。
1)摺動前後の外観変化
◎:上記摺動試験前後のプーリとシャフトを目視にて観察し、極めて良好であった場合
○:大変良好であった場合
◇:良好であった場合
×:不良であった場合
なお評価基準として、上記「極めて良好」とは、プーリとシャフトに変化がほとんど見られなかった状態を言う。上記「大変良好」とは、粉の発生が少量確認された状態を言う。上記「良好」とは、粉の発生が少なく、シャフトへの傷がなかった状態を言う。上記「不良」とは、粉の発生が多い及び/又はシャフトに傷が見られた状態を言う。市販のポリオキシメチレン樹脂テナック2010は、良好であった。
【0194】
2)摺動前後の質量変化
質量変化は、上記摺動試験前後のプーリの質量を精密天秤(島津製作所(株)社製、ATX−84)を用いて測定した。なお、市販のポリオキシメチレン樹脂テナック2010は、40mgであった。
質量変化の評価基準
◎:測定した質量の差が10mg未満の場合
○:10mg以上30mg未満の場合
◇:30mg以上50mg未満の場合
×:50mg以上の場合
【0195】
3)負荷後の作動性評価
作動性評価は、上記作動性試験を行ない、負荷を与えた後に摺動させたときの作動性の変化や音の発生状況を観察することにより行なった。音の発生については、摺動部品評価装置の摺動部から30cmの距離から聞いて、音の有無を確認することにより評価した。市販のポリオキシメチレン樹脂テナック2010は、◇であった。
作動性の評価基準
◎:回転中ガタがなく音も発生しなかった場合
○:回転中ガタがないが音の発生がわずかに確認された場合
◇:回転中ガタがないが周期的に音が確認された場合
×:回転が安定せずガタが発生した場合
【0196】
[実施例1〜4、比較例1〜5]
実施例1〜4、比較例1〜5のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価結果を表4に記した。実施例1〜4、比較例1〜5の評価結果より、本発明の範囲の剛性、耐衝撃性、摩擦係数にすることで、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られることがわかった。特にポリオキシメチレン樹脂組成物にフィラー(GF)を含むことで、摺動後のシャフトに傷が確認された。
【0197】
[実施例5、参考例1、2]
実施例5、参考例1、2のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価結果を表4に記した。実施例2と5、参考例1と2の評価結果より、金属と間欠的に摺動した際にポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られることがわかった。特に相手材を樹脂にしたり、連続で摺動させたりすると、多くの粉の発生が確認された。
【0198】
【表4】
【0199】
[実施例6、7]
実施例6と7のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価結果を表5に記した。実施例2と6、7の評価結果より、ポリオキシメチレン樹脂組成物が本発明の好ましい潤滑剤の添加量含み、本発明の範囲の剛性、耐衝撃性、摩擦係数にすることで、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られる傾向があることがわかった。
【0200】
[実施例8〜11]
実施例8〜11のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価結果を表5に記した。実施例2と8〜11の評価結果より、ポリオキシメチレン樹脂組成物が本発明の好ましい潤滑剤種を含み、本発明の範囲の剛性、耐衝撃性、摩擦係数にすることで、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られる傾向があることがわかった。
【0201】
[実施例12〜14]
実施例12〜14のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価結果を表5に記した。実施例2と12〜14の評価結果より、ポリオキシメチレン樹脂組成物が本発明の好ましいホルムアルデヒド捕捉剤を含み、本発明の範囲の剛性、耐衝撃性、摩擦係数にすることで、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を向上でき、金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られる傾向があることがわかった。
【0202】
[実施例15]
実施例15のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品の評価結果を表5に記した。実施例2と15の評価結果より、ポリオキシメチレン樹脂組成物が成形された間欠型摺動部品を粉砕したフレークを原料としても、それが本発明の範囲の剛性、耐衝撃性、摩擦係数となっていれば、ポリオキシメチレン製間欠型摺動部品は、実用上充分な生産性を確保しながら、金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られることがわかった。また、間欠型摺動部品を粉砕したフレークの物性が、本発明の範囲の剛性、耐衝撃性、摩擦係数となっていれば、粉砕前の間欠型摺動部品も金属と間欠的に摺動した際に寸法変化が小さく、かつ優れた耐久性が得られることがわかった。
【0203】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明は、実用上充分な生産性を確保しつつ、金属と間欠的に摺動した際の寸法変化が小さく、かつ耐久性に優れた摺動部品が得られるため、電気機器、自動車部品やその他の種々の摺動部品において、車輪、ローラ、コロ、ワッシャ、スペーサ、ブッシュ、ロータ、バッド、スイベル、軸受け、軸穴、軸、プーリ、ギア及びそれらの一部等からなる群より選択される1種以上のポリオキシメチレン製間欠型摺動部品及びそれらの一部として、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0205】
(x) : 部材
(y) : 部材
(Ia) : プーリ
(IIb) : シャフト
B : 荷重付与式駆動ベルト
F : 荷重方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】