(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されているコアは、例えば、MnZn系のフェライトコアのように、初期透磁率が高く比抵抗が低いコアの渦電流損失を低減することに関しては不十分である。
【0005】
本発明は、特に、MnZn系のフェライトコアにおいて、渦電流損失を低減することのできるコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、第1の積層コアとして、
Mn−Zn系フェライトで構成される複数の磁芯を所定方向に積層した積層コアであって、
前記磁芯の比抵抗(Ωcm)をρ、平均結晶粒径(cm)をdとした場合に、1×10
−4≦ρ≦50、及び100≦1/d≦600を満たし、且つ、前記複数の磁芯夫々の前記所定方向における厚み(cm)をDとした場合に、D
2/ρ≦10を満たす、
積層コアが得られる。
【0007】
本発明によれば、第2の積層コアとして、第1の積層コアであって、
ρ≦30、且つ、120≦1/d≦500を満たす、
積層コアが得られる。
【0008】
本発明によれば、第3の積層コアとして、第1又は第2の積層コアであって、
前記Mn−Zn系フェライトは、51mol%≦Fe
2O
3≦53mol%、20mol%≦ZnO≦30mol%を満たし且つ残部をMnOとする組成を有する、
積層コアが得られる。
【0009】
本発明によれば、第1乃至第3のいずれかに記載の積層コアを備えるインダクタ部品が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記磁芯の比抵抗ρ(Ωcm)、平均結晶粒径d(cm)、及び磁芯夫々の所定方向における厚みD(cm)の範囲を工夫し、且つ、各磁芯を積層することにより、渦電流損失を低減すると共に積層コアのインピーダンスを高めることを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態による積層コアを示す斜視図である。積層コアは、同一形状からなる3つの磁芯を垂直方向に沿って積層してなるものである。
【
図2】本発明の実施の形態による他の積層コアを示す斜視図である。積層コアは、同一形状からなる5つの磁芯を垂直方向に沿って積層してなるものである。
【
図3】本発明の実施の形態による他の積層コアを示す斜視図である。積層コアは、2つの磁芯を同心円状(半径方向)に積層してなるものである。
【
図4】本発明の実施の形態による他の積層コアを示す斜視図である。積層コアは、3つの磁芯を同心円状(半径方向)に積層してなるものである。
【
図5】本発明の実施の形態による他の積層コアを示す斜視図である。積層コアは、3つの磁芯を垂直方向に沿って積層した内側磁芯と、3つの磁芯を垂直方向に沿って積層した外側磁芯とを同心円状に積層してなるものである。
【
図7】本発明の実施の形態による積層コアの特性を表す図面である。
【
図8】本発明の実施の形態による積層コアに用いられる磁芯の変形例を表す図である。図においては、垂直方向に沿って積層される磁芯が示されている。
【
図9】本発明の実施の形態による積層コアに用いられる磁芯の他の変形例を表す図である。図においては、垂直方向に沿って積層される磁芯が示されている。
【
図10】本発明の実施の形態による積層コアに用いられる磁芯の変形例を表す図である。図においては、同心円状に(即ち、半径方向に沿って)積層される磁芯が示されている。
【
図11】本発明の実施の形態による積層コアに用いられる磁芯に塗布される接着剤料の塗布位置を示す図である。図においては、垂直方向に沿って積層される磁芯上の接着箇所が示されている。
【
図12】本発明の実施の形態による積層コアに用いられる磁芯に塗布される接着剤料の塗布位置を示す図である。図においては、同心円状に沿って積層された積層コア(
図4の積層コア)における接着箇所が示されている。
【
図13】
図2の積層コアを絶縁ケースに収容する様子を表す分解斜視図である。
【
図14】
図13の絶縁ケースに巻線を巻回してコイルを構成した状態を表す図である。
【
図15】
図13の絶縁ケースの変形例を表す図である。図においては、絶縁ケースの一方の部材のみ示されている。
【
図16】
図13の絶縁ケースの他の変形例を表す分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
本発明の実施の形態による積層コアは、Mn−Zn系フェライトで構成される複数の磁芯を所定方向に積層した積層コアである。ここで、本実施の形態においては、磁芯の比抵抗(Ωcm)をρ、平均結晶粒径(cm)をdとした場合に、1×10
−4≦ρ≦50、及び100≦1/d≦600を満たし、且つ、磁芯夫々の所定方向における厚み(cm)をDとした場合に、D
2/ρ≦10を満たしている。
【0013】
本実施の形態による磁芯の比抵抗ρ(Ωcm)の範囲において、積層コアを構成する個々の磁芯にある程度の厚み(強度)を持たせるためにはρは1×10
−4以上である必要がある。また、効果的に渦電流損失を低減するためにはρは50以下である必要がある。なお、渦電流損失をより低減させ、併せて高い透磁率をも確保するためには、ρは、30以下であることが好ましい。
【0014】
また、本実施の形態による磁芯の平均結晶粒径d(cm)の逆数である1/dの範囲において、磁芯の透磁率を確保するためには、1/dは100以上である必要がある。また、磁芯を積層することによって渦電流損失を低減可能な効果を得るためには、1/dは600以下である必要がある。なお、透磁率の確保及び積層による渦電流損失低減効果の双方を効果的に得るためには、120≦1/d≦500であることが好ましい。
【0015】
また、本実施の形態による磁芯夫々の所定方向における厚みD(cm)の平方と、比抵抗ρとの比D
2/ρを10以下とすることにより、渦電流の発生を低減することができ、積層コアのインピーダンスを高めることができる。
【0016】
また、本実施の形態によるMn−Zn系フェライトは、51mol%≦Fe
2O
3≦53mol%、20mol%≦ZnO≦30mol%を満たし且つ残部をMnOとする組成を有している。ここで、同一焼成条件下でFe
2O
3の割合を増加させると比抵抗は減少する傾向にあり、Fe
2O
3が53mol%より多いと、磁芯に必要な比抵抗を確保することができなくなる。また、Fe
2O
3が51mol%より少ないとキュリー温度が80℃以下となり実用上好ましくない。
【0017】
以下、本実施の形態による積層コアにおける磁芯の積層方法について説明する。
【0018】
図1乃至
図6に示されるように、本実施の形態における磁芯の積層方法としては、各磁芯は垂直方向(下から上に積み上げるよう)に沿って積層する方法(
図1及び
図2参照)、各磁芯が同心円状に(半径方向に)積層する方法(
図3及び
図4参照)、これらの積層方法を組み合わせた方法(
図5及び
図6参照)とがある。なお、以下の説明において、「積層コア」の語は、個々の磁芯が積層されてなる全体を示すために用いることとし、「磁芯」の語は「積層コア」を構成する個々の磁芯の一つを示すために用いることとする。
【0019】
図1に示されるように、積層コア10は、Mn−Zn系フェライトで構成される3つの磁芯101、102、103を垂直方向に積層したものである。磁芯101、102、103は、薄型のトロイダル形状を有している。積層コア10において、磁芯101〜103同士は互いに同一形状を有しており、垂直方向における厚みも同一である。なお、積層コアの厚みに応じて、磁芯の厚みを互いに異なるように構成してもよい。また、磁芯101〜103間は低粘度の弾性接着剤料で接着されている(接着方法についての詳細は、後述する)。
【0020】
図2に示されるように、積層コア10aは、5つの磁芯101a〜105aを垂直方向に積層したものである。当該積層コア10aにおいても、各磁芯101a〜105a同士は、互いに同一形状を有しており、垂直方向における厚みも同一であるが、磁芯の厚みを互いに異なるように構成してもよい。また、各磁芯間は低粘度の弾性接着剤料で接着されている。
【0021】
図3に示されるように、積層コア10bは、2つの磁芯101b、102bを同心円状に積層したものである。本実施の形態による積層コア10bにおいて、内側の磁芯101bの半径方向における厚みは、外側の磁芯102bよりも小さい。即ち、磁芯101b、102b同士の半径方向における厚みは異なっている。しかしながら、磁芯同士の厚みを同一としてもよい。本実施の形態による磁芯102bの内周径は後述する接着剤料を塗布するためのクリアランスが設けられている。即ち、磁芯101bの外周側面と、磁芯102bの内周側面との間には隙間が設けられている。かかる構造により、磁芯101b、102bを積層した後に積層コア10bの上面から接着材料を滴下することで磁芯101b、102b間を接着することができる。
【0022】
図4に示されるように、積層コア10cは、3つの磁芯101c、102c、103cを同心円状に積層したものである。本実施の形態による積層コア10cにおいては、各磁芯101c、102c、103cの半径方向における厚みは同一である。しかしながら、磁芯同士の厚みを異なるものとしてもよい。本実施の形態においても、磁芯101c及び磁芯102cの間と、磁芯102c及び磁芯103cの間には接着剤料を塗布するためのクリアランスが設けられている。
【0023】
図5及び
図6に示されるように、積層コア10dは、計6つの磁芯101d〜106dを積層したものである。本実施の形態による積層コア10dは、内側の磁芯101d〜103dと、外側の磁芯104d〜106dとを同心円状に積層させ、且つ、内側の磁芯101d、102d、103dを垂直方向に沿って積層し、外側の磁芯104d、105d、106dを垂直方向に沿って積層したものである。なお、6つの磁芯101d〜106dの垂直方向における厚みは全て同一である。また、内側の磁芯101d〜103dの半径方向における厚みは互いに同一であり、外側の磁芯104d〜106dの半径方向における厚みも互いに同一である。更に、内側の磁芯101d〜103dと、外側の磁芯104d〜106dとの間には、接着剤料を塗布するためのクリアランスが設けられている。
【0024】
図7は本発明の実施の形態における特性曲線を示し、上述した磁芯を垂直方向に積層させた構造(即ち、
図1及び
図2のような構造)において10turnの巻き線を施した場合の特性図面である。特性曲線110は従来コアとして積層させないコア(以下、「一体コア」と呼ぶ)のインピーダンス特性曲線を示す。特性曲線111は3つの磁芯を積層した場合のインピーダンス特性曲線を示す。特性曲線112は4つの磁芯を積層した場合のインピーダンス特性曲線を示す。特性曲線113は5つの磁芯を積層した場合のインピーダンス特性曲線を示す。ここで一体コアの寸法は磁芯の外径38.1mm、内径19.0mm、厚み12.7mmである。ここで、特性曲線111〜113に対応する積層コアも総厚は12.7mmである。即ち、各磁芯の垂直方向における厚みは12.7mmを積層数で除した厚みとなる。
図7に示されるように、一体コアと比較して、本実施の形態による積層コアの方が高いインピーダンスZを得られることがわかる。また、積層数が増えるほど、より高いインピーダンスZを得られることがわかる。
【0025】
なお、磁芯表面における高比抵抗の層を利用するために、磁芯の表面積を多くすることとしてもよい。これにより、更に高いインピーダンスZを得ることができる。詳しくは、
図8乃至
図10に示されるように、積層コアを構成する各磁芯に溝20、21、22を入れることとしてもよい。なお、溝の幅、深さ、数、位置等は、適宜変更可能である。
【0026】
更に、
図11に示されるように、上述した積層コア10〜10d(
図1〜
図6参照)の各磁心の接着に用いられる接着材料30は、磁芯101上面または磁芯101下面に点状に塗布される。接着材料30の塗布位置は、2点〜4点程度とし、磁芯101上面又は下面の全面を覆うようには塗布しない。また、非弾性接着剤は硬化時応力による特性劣化が生じるため、本実施の形態による接着材料30は、低粘度の弾性接着剤である必要がある。磁芯全面を覆うように接着材料30を塗布した場合、硬化時応力などにより特性劣化を招く恐れがある。また、粘度の高い材料にあっては接着材料30の塗布後に磁芯を積層した際の積層コア内における磁芯間の距離の不均一の原因となるため望ましくない。
【0027】
図12に示されるように、同心円状に積層するタイプの積層コア10cにおいては、接着剤料31の塗布位置は、磁芯101c〜103cの上面又は下面から滴下により塗布される。接着剤料31は、各磁芯間に設けられたクリアランス(隙間)を通じて流れ込み磁芯101c〜103c同士は接着・固定される。本実施の形態においても、硬化時応力などによる特性劣化を防ぐために、接着材料31の滴下塗布は2点から4点程度とし、磁芯の外周側面(内周側面)全周に亘って塗布はしない。また、非弾性接着剤においては硬化時応力による特性劣化が生じるため、本実施の形態による接着材料31は、低粘度の弾性接着剤である必要がある。
【0028】
以上説明した積層コアは、絶縁ケース内に収容される。
図13は、積層コア10a(
図2参照)を例にとった図である。絶縁ケース40は、第1キャップ41と第2キャップ42を合わせることにより、内部に絶縁コア10aを収容する。なお、絶縁ケース40と、積層コア10aとの間にも上述した接着材料が塗布されて、これらの間が接着・固定されている。本実施の形態による絶縁ケース40はプラスチック等の樹脂にて構成される。
【0029】
積層コア10aが絶縁ケース40に収納された後、
図14に示されるように、巻線50が巻回される。巻線50は、第1の巻線50aと、第2の巻線50bとからなる。
【0030】
図15は巻線が細線時に適する他の絶縁ケース(ケース自体は図示せず)の片方である第1(第2)キャップ44を表している。本実施の形態においては、図示されている第1(第2)キャップ44を2個1組にて使用する。この際、外周嵌合部45a及び外周嵌合部45bが、他方のキャップの外周嵌合部45b及び外周嵌合部45aと対応し、内周嵌合部46a及び内周嵌合部46bが、他方のキャップの内周嵌合部46b及び内周嵌合部46aとが対応する。更に、仕切部47に設けられた凸型の突合せ部47a及び凹型の突合せ部47bが、他方のキャップの突合せ部47b及び突合せ部47aと対応する。
【0031】
絶縁ケースにφ1.0を超える太線にて巻線を行う場合、巻線の巻き付け応力により樹脂より成る絶縁ケースに歪みやズレ等が生じる恐れがあり、結果として、内部に組み込まれる積層コアを押しつぶすような力が加わり、積層コアに応力がかかることで特性の劣化や積層構造のために薄くなった磁芯が割れるといった問題が生じる可能性がある。
図16に示される絶縁ケース60は、巻線が太線時に適するものである。絶縁ケース60はプラスチック等の樹脂にて構成される。絶縁ケース60は、第1キャップ61と第2キャップ62の2個1組にて使用され、第1キャップ61に設けられた外周嵌合部61aと内周嵌合部62aと凹部63aが、第2キャップ62に設けられた外周嵌合部61bと内周嵌合部62bと凸63bが合うように嵌合される。これにより、φ1.0を超える太線にて巻線を行った場合でも第1キャップ61及び第2キャップ62がズレることがなくなり、嵌合が外れることによる前記の特性劣化を防ぐことが可能となる。ここで凹部63aと凸部63bが形成されている仕切り部63の幅は歪みを防ぐために可能な限り幅広くとることが望ましい。また、凹凸部は2箇所以上に施されることが望ましい。
【実施例】
【0032】
(実施例1〜実施例3、比較例)
実施例1として、
図1に示される積層コア10と同様の形状を有する積層コアを作製した。外径38mm、内径19mm、厚さ4.3mmのMnZnフェライト焼結体3つを垂直方向に積層することにより積層コアを構成し、当該積層コアに10turnの巻き線を施した後、10kHzにおける透磁率と1MHzにおけるインピーダンスを測定した。
【0033】
実施例2として、
図3に示される積層コア10bと同様の形状を有する積層コアを作製した。外径29.5mm、内径19mm、厚さ12.9mmのMnZnフェライト焼結体からなる内側磁芯と、外径38mm、内径30mm、厚さ12.9mmのMnZnフェライト焼結体からなる外側磁芯とを組み合わせて積層コアを構成し、10turnの巻き線を施し透磁率とインピーダンスを測定した。なお、実施例2においては、半径方向における磁芯の厚みは同一(12.9mm)である。
【0034】
実施例3として、
図5に示される積層コア10bと同様の形状を有する積層コアを作製した。外径29.5mm、内径19mm、厚さ4.3mmのMnZnフェライト焼結体を3つ垂直方向に積層して内側磁芯とした。また、外径38mm、内径30mm、厚さ4.3mmのMnZnフェライト焼結体を3つ垂直方向に積層して外側磁芯とした。これら内側磁芯と、外側磁芯とを組み合わせて積層コアを構成し、10turnの巻き線を施し透磁率とインピーダンスを測定した。
【0035】
また、比較例として、外径38mm、内径19mm、厚さ12.9mmのMnZnフェライト焼結体からなる一体コアに10turnの巻き線を施し透磁率とインピーダンスを測定した。
【0036】
なお、インピーダンスは、インピーダンスアナライザ(HP-4194A)を用いて、定電流によるRとXの周波数特性を測定し、μ’とインピーダンスを算出することによって測定した。
【0037】
表1に示すように、本実施例1〜3の積層コアは、比較例よりも、1MHzにおけるインピーダンスの値が高くなっており、本発明が有用であることがわかる。
【0038】
【表1】
【0039】
(実施例4〜実施例7、比較例2)
垂直方向に積層した積層コア(即ち
図1及び
図2に示される積層コアと同タイプ)を下記表2記載の寸法により作成した。実施例4〜実施例6及び比較例2の積層コアにおける垂直方向の総厚は、全て13mmである。実施例4の積層コアGは一体コアEと一体コアFとを組み合わせてなるものである。実施例5においては、積層コアHを構成する各磁心の垂直方向の厚みは、当該積層コアHの総厚13mmの3等分(約4.3mm)となるようにした。実施例6の積層コアIを構成する各磁芯の垂直方向における厚みは3.25mmである。実施例7の積層コアIを構成する各磁芯の垂直方向における厚みは2.6mmである。なお、比抵抗の測定は、磁芯の両面にInGa合金を塗布し、電極間の抵抗をインピーダンスアナライザ(HP-4194A)で測定した。インピーダンスZの測定は上述した方法と同様に行った。
【0040】
【表2】
【0041】
表2から理解されるように、比較例2の一体コアDよりも、実施例4の積層コアGの方がよりインピーダンスZが高い。また、実施例4〜実施例7を比較すると、積層数が増加するほどインピーダンスZも増加していることがわかる。