(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)の順に積層して成る積層フィルムから成り、、前記ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)の合計厚みが30〜50μmであり、前記ヒートシール性ポリオレフィンフィルム(D)の厚みが60〜100μmであることを特徴とする電子レンジ加熱用包装材。
前記ポリエステルフィルム(A)がポリエチレンテレフタレートフィルム、前記バリア層を有するポリエステルフィルム(B)が無機蒸着層又はバリア樹脂コーティング層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム、前記直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)が直線引裂き性ポリエチレンテレフタレートフィルム、前記ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)がポリプロピレンである請求項1記載の電子レンジ加熱用包装材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記電子レンジ加熱用包装食品においては、500Wや600W等の比較的低出力の電子レンジでの短時間での加熱に耐え得る耐熱性を有するとしても、長時間の加熱や、近年の電子レンジの高出力化、或いは内容物の種類によって、局部的な温度上昇に起因して包装袋に穴が開いてしまう事態が発生し、耐熱性の点で未だ十分満足するものではなかった。
すなわち、家庭用電子レンジの加熱出力設定は500W又は600Wが主であるが、マイクロ波の発生装置である民生用のマグネトロンは世界基準に則り、1000W,900W,800Wが主流であり、しかもコンビニエンスストアやレストラン等に設置されている業務用電子レンジでは1700〜1900Wと高出力であることから、電子レンジ加熱用包装食品においても高出力の電子レンジに対応可能な耐熱性を有することが望まれている。
【0006】
また、電子レンジ加熱用包装食品は加熱終了後、袋の表面温度が95℃以上に達する。これは部分的な過加熱により沸騰している部分から蒸気が出て、袋内に充満し、また表面過加熱により温度が上昇するものである。
摂食時に電子レンジ加熱用包装食品袋を開封する際に、包装袋が引裂きやすくないと、内容物のこぼれによるやけど等が懸念される。また、従来の湯煎による加熱方法はお湯から出した直後でも、内容物が沸騰することはないため、蒸気の発生はなく表面温度は低下していくため、包装袋の開封時に、やけど等の懸念はなかった。また、はさみを使用するケースも推奨されていたが、電子レンジ加熱用包装袋の場合は高温となった袋を片手で持ち、片手ではさみを持つことにより不安定さが増し、こぼれやすく、安全に開封できるとはいえない状態となる。よって、安全かつ、容易に開封できるようにすることが望まれている。
【0007】
従って本発明の目的は、高出力の電子レンジにも対応可能な優れた耐熱性を有すると共に、易開封性にも優れた電子レンジ加熱用包装材及び電子レンジ加熱用包装袋を提供することである。
本発明の他の目的は、局所的な温度上昇を生じやすい内容物が充填された場合にも、包装袋が損傷することがない、優れた耐熱性を有していると共に、包装袋の開封性にも優れた電子レンジ加熱用包装食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)の順に積層して成る積層フィルムから成り、
前記ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)の合計厚みが30〜50μmであり、前記ヒートシール性ポリオレフィンフィルム(D)の厚みが60〜100μmであることを特徴とする電子レンジ加熱用包装材が提供される。
本発明の電子レンジ加熱用包装食品においては、
1.ポリエステルフィルム(A)がポリエチレンテレフタレートフィルム、前記バリア層を有するポリエステルフィルム(B)が無機蒸着層又はバリア樹脂コーティング層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム、前記直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)が直線引裂き性ポリエチレンテレフタレートフィルム、前記ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)がポリプロピレンであること、
2.ポリエステルフィルム(A)が印刷層を有すること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、上記電子レンジ加熱用包装材から形成されて成る電子レンジ加熱用包装袋が提供される。
本発明によれば更に、上記電子レンジ加熱用包装袋に食品を充填密封して成る電子レンジ加熱用包装食品が提供される。
本発明の電子レンジ加熱用包装食品においては、
1.食品が、比誘電率が50〜80、誘電体損失角が0.2〜0.7、塩分濃度が2.5重量%以下であること、
2.出力が500〜1900Wの電子レンジに対応可能であること、
が好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電子レンジ加熱用包装材は、従来の電子レンジ加熱用包装材料に比して耐熱性が顕著に改善されていることから、1900Wの高出力の電子レンジでの加熱や、長時間の加熱、或いは局所的に温度上昇を生じやすい内容物を充填密封した場合にも、包装材の穴開き等の熱損傷の発生が有効に防止されている。
また易引裂き性にも優れているため、電子レンジ加熱用包装袋とした場合の易開封性が確保されており、加熱された電子レンジ加熱用包装食品を開封する際に、内容物のこぼれによるやけど等のおそれがなく、安全且つ容易に開封することができる。
更に包装材の厚みが厚いことから、落下強度等の機械的強度が向上し、食品を充填密封して包装食品としたときの破袋を防止することもできる。
更に、バリア層よりも外側且つポリエステルフィルム(A)よりも内側に印刷層を形成することで、バリア層により内容物へのインキの影響を抑制することができると共に、ポリエステルフィルム(A)によって印刷層を保護することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(包装材)
本発明の電子レンジ加熱用包装材は、ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)の順に積層して成る積層フィルムからなることが重要な特徴である。
電子レンジによるマイクロ波加熱は一般的に内部加熱といわれるが、マイクロ波が直接浸透しエネルギーを50%使い切る深さが、水(25℃)の場合約3cm、カレー等の塩分を含むものでは約5mm以下であることから、2450MHzのマイクロ波誘電加熱で塩分を含む食品を温める場合は、食品の表面付近で熱に変換されるため、食品の比誘電率と誘電体損失角の値が大きいほど発熱量が大きく、加熱されやすいことから、包装材表面近傍に熱が蓄積し、その結果、包装材に穴が開く等の熱損傷を起こすことになる。
本発明においては、このような電子レンジ加熱による包装材の穴開き等の熱損傷を防止するために、ポリエステルフィルムからなる層を3層積層して、包装材全体の中のポリエステルフィルムの厚みを厚くすることによって耐熱性を向上させている。その一方、包装材の厚みが増加すると、包装材の引裂き性が低下するが、本発明においては、ポリエステル層の1層に直線引裂き性を有するポリエステルフィルムを用いることによって、包装材に易引裂き性を付与し、包装袋とした際の易開封性を確保できる。
【0013】
図1は本発明の包装材の層構成の一例を示すものであり、包装袋としたとき外面になる側から順に、ポリエステルフィルム(A)1、印刷層2、接着層3a、バリア層4、バリア層の基材となるポリエステルフィルム(B)5、接着層3b、直線引裂き性を有するポリエステルフィルム(C)6、接着層3c、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)7から成っている。
【0014】
[ポリエステルフィルム(A)]
本発明の包装材において、包装袋としたとき外面側になるポリエステルフィルム(A)としては、従来より包装材料の分野で使用されているポリエステル樹脂を使用することができる。
このようなポリエステル樹脂としては、芳香族カルボン酸成分の50モル%以上がテレフタル酸成分から成り、且つ脂肪族ジオールを主体とするアルコール成分の50%以上がエチレングリコール成分から成るエチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステル樹脂を好適に使用することができる。上記条件を満足する限り、このポリエステルは、ホモポリエステルでも共重合ポリエステルでも、或いはこれらの2種以上のブレンド物であってもよい。
【0015】
テレフタル酸成分以外のカルボン酸成分としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p−β−オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸、ジフェノキシエタン−4,4’−ジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等を挙げることができる。
一方、エチレングリコール以外のアルコール成分としては、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン等のアルコール成分を挙げることができる。
ポリエステル樹脂は、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度[η]は0.5以上、特に0.6乃至1.5の範囲にあるのが腐食成分に対するバリア性や機械的性質の観点から好ましい。
ポリエステルフィルム(A)は、包装材の引裂き性及び機械的強度の点から、二軸延伸されていることが好ましい。
ポリエステルフィルム(A)の厚みは、9〜25μmの範囲にあることが好ましい。
【0016】
[バリア層を有するポリエステルフィルム(B)]
バリア層を有するポリエステルフィルム(B)は、上述したポリエステルフィルム(A)と同様のポリエステルフィルムにバリア層を形成して成るものである。
バリア層は、ポリエステルフィルム(B)の、ポリエステルフィルム(A)側、或いは直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)側、の何れの面に形成されていてもよいが、ポリエステルフィルム(A)の内面側に印刷層が形成されている場合には、ポリエステルフィルム(A)側に形成することが、包装材内面側へのインキの移行をバリア層によって直接阻止できるので望ましい。
バリア層としては、ケミカルベーパーデポジション(CVD)、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等で、シリコンオキサイド等の無機物、アルミナ等のセラミック、カーボン等を蒸着することにより形成される蒸着層、或いはポリカルボン酸系ポリマー、塩化ビニリデン、或いはエチレンビニルアルコール共重合体等から成るバリア性樹脂コーティング剤から成る塗膜層を挙げることができ、特にアルミナの蒸着層が好適に使用される。
バリア層を形成するポリエステルフィルム面には、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネート系樹脂、エポキシ樹脂、メラミン系樹脂から選ばれた樹脂との混合物等のプライマー層を設けることもできる。
バリア層を形成するポリエステルフィルムは、二軸延伸されていることが好ましい。
バリア層を形成するポリエステルフィルム(B)の厚みは、9〜25μmの範囲にあることが好ましい。
またバリア層の厚みは、これに限定されないが、蒸着層の場合、5〜300nm、コーティング層の場合は、1〜10μmの範囲にあることが、バリア性の点から望ましい。
【0017】
[直線引裂き性を有するポリエステルフィルム(C)]
電子レンジ加熱用包装材の易開封性を確保するためには、直線引裂き性のポリエステルが必要不可欠であり、このような直線引裂き性を有するポリエステルフィルム(C)としては、従来公知の直線引裂き性を有するポリエステルフィルムを使用することができる。
直線引裂き性を有するポリエステルフィルムは、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)と隣接していることが重要であり、これにより引裂き性に劣るポリオレフィンフィルムをこのポリエステルフィルム(C)に追従させることが可能になり、包装材の引裂き性が改良される。
直線引裂き性を有するポリエステルフィルムとしては、これに限定されないが、ポリテトラメチレングリコール単位を含有したポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとのブレンド物から成るフィルムや、或いはポリエチレンテレフタレートとポリエステルエラストマーから成り、ポリエチレンテレフタレート中にポリエステルエラストマーが分散してなるブレンド物からなるフィルム等、を二軸延伸してなるフィルムを挙げることができる。また、ポリエステルフィルムをレーザー等にて加工を施し、引裂き性を付与したフィルムを用いることもできる。
ポリエステルフィルム(C)の厚みは、9〜25μmの範囲にあることが好ましい。
【0018】
[ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)]
本発明の包装材の最内層となるヒートシール性ポリオレフィンフィルムとしては、従来公知のものを使用することができる。
このようなポリオレフィンとしては、例えば低−、中−或いは高−密度のポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、ポリ4−メチル−1−ペンテン、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。これらは単独でも、或いは2種以上のブレンド物の形でも使用することができる。
特に耐熱性の観点からはプロピレン系重合体が適当であり、ホモポリプロピレンや、プロピレンを主体とするランダム共重合体やブロック共重合体を使用することができる。
またヒートシール性の観点から、ポリオレフィンフィルムは無延伸であることが特に望ましい。
ポリオレフィンフィルム(D)の厚みは、60〜100μm、特に70〜80μmの範囲にあることが落下強度及び引裂き性の点から好ましい。上記範囲よりもポリオレフィンフィルムの厚みが薄いと、上記範囲にある場合に比して、落下強度及びヒートシール性が劣るようになり、一方上記範囲よりも厚いと、引裂き性及び経済性に劣るようになる。
【0019】
[その他の層]
本発明の包装材においては、上記(A)〜(D)のフィルムを必須の構成要件とするものであるが、本発明の包装材が有する優れた耐熱性及び易引裂き性を損なわない限り、他の層を具備することができる。
本発明の包装材においては、印刷層を形成することができるが、
図1に示したとおり、印刷層はポリエステルフィルム(A)のポリエステルフィルム(B)と接する面に形成することが特に好適である。これにより、印刷層をポリエステルフィルム(A)で保護することができる。
印刷層は、紫外線硬化型、電子線硬化型、溶剤型等の従来公知の印刷インキを用い、グラビア印刷方式、フレキソ印刷方式、オフセット印刷方式、インクジェット印刷方式、スクリーン印刷方式等の従来公知の方式で印刷することができる。また印刷層は、ベタ印刷層と絵柄層との二層構成とすることもできる。更に、印刷層を形成する際にポリエステルフィルム(A)にアンカーコート層を予め形成し、このアンカーコート層上に印刷層を形成することもできる。
【0020】
[積層フィルム]
本発明の包装材は、ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)の順に積層して成る積層フィルムから成るが、この積層フィルムはドライラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出ラミネート法等従来公知の積層方法によって積層することができる。
例えば、これに限定されないが、各フィルム(A)〜(D)をそれぞれ作成し、これをドライラミネート法によって積層することができる。
またバリア層を有するポリエステルフィルム(B)に、ポリエステルフィルム(A)を構成するポリエステル樹脂を押出ラミネートして、ポリエステルフィルム(A)及び(B)の二層から成る積層体を作成し、同様に直線引裂き性を有するポリエステルフィルム(C)にヒートシール性ポリオレフィン(D)を接着樹脂を介して押出ラミネートして、ポリエステルフィルム(C)及びポリオレフィンフィルム(B)の二層から成る積層体を作成し、これらの二層の積層体同士を積層してもよい。
本発明の包装材に用いることができる接着剤としては、従来公知のポリエーテルポリウレタン系又はポリエステルポリウレタン系のウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤、或いは無水マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性熱可塑性樹脂接着剤等を挙げることができる。
【0021】
また本発明の包装材においては、ポリエステルフィルム(A)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)、直線引裂き性ポリエステルフィルム(C)の合計厚みが30〜50μmの範囲にあることが好ましい。上記範囲によりも合計厚みが薄い場合には、上記範囲にある場合に比して包装材の耐熱性を充分に向上させることができず、その一方上記範囲よりも合計厚みが厚い場合には、上記範囲にある場合に比して、易開封性に劣るようになると共に、経済性の点で劣るようになる。
【0022】
(包装袋)
本発明の電子レンジ加熱用包装袋は、前述した電子レンジ加熱用包装材から形成されてなるものであり、前記包装材を用い、ヒートシール性ポリオレフィンフィルム(D)同士が向き合うように重ね合わせてヒートシールすることにより成形することができる。包装袋の形態は特に限定されず、三方或いは四方シールの通常のパウチ類、ガセット付パウチ類、スタンディングパウチ類、ピロー包装袋等の形態に成形することができる。また、電子レンジ加熱中に自動開口する蒸気抜きを備えることが望ましい。
本発明の包装袋は、直線引裂き性を有するポリエステルフィルム(C)を備えていることから引裂き性に優れ、容易に開封することができる。また包装体の端縁に切り込み又は切り欠きを形成することにより、より簡単に開封することができる。
【0023】
(包装食品)
本発明の電子レンジ加熱用包装食品は、前述した電子レンジ加熱用包装袋に食品を充填密封してなるものである。
本発明の電子レンジ加熱用包装袋は、優れた耐熱性を有することから、従来の包装袋に充填密封して高出力の電子レンジにより加熱、或いは長時間加熱した場合には、包装袋の穴あきが生じていたような局部的な過加熱を生じやすい食品を内容物として充填することが可能である。
【0024】
マイクロ波加熱における誘電体の温度上昇は下記式(1)で示される。
Δt(℃)=(10
−8/2.1)・f・E
2・εr・tanδ/cρ …(1)
また、マイクロ波が誘電体の表面から内部に浸透する深さ電力半減深度(マイクロ波電力が表面の50%になる深さ)は、下記式(2)で示される。
D(m)=3.32・10
7/f・εr
1/2・tanδ …(2)
(1)(2)式中、f:周波数(2450MHz)、E:電界強度、εr:比誘電率、tanδ:誘電体損失角、c:比熱、ρ:密度
【0025】
上記式(1)から、マイクロ波加熱における温度上昇には、比誘電率(εr)、誘電体損失角(tanδ)が大きく関わっていることがわかる。比誘電率と誘電体損失角の値が大きいほど発熱量が大きく、加熱されやすい(温度上昇が大きい)ことを示している。更に、電子レンジ出力が高出力となると、電界強度Eが大きくなり短時間加熱が更に進む。
また、上記式(2)から、マイクロ波の浸透深さにも、比誘電率(εr)、誘電体損失角(tanδ)が関わり、比誘電率と誘電体損失角の値が大きいほど浸透深さは浅くなり、表面近傍が集中的に加熱されることとなる。
従って、比誘電率(εr)、誘電体損失角(tanδ)が大きくなると、食品表面近傍すなわち食品の包装材との接触部が局部的に発熱量が大きくなり、その結果、包装材に穴が開く等の熱損傷を起こすことになる。
塩分を含む食品の場合は、食品の表面付近で熱に変換され、表面では沸騰しながら、内部は冷たい状態のまま残るケースが見られる。表1に食塩濃度と電力半減深度(D)の関係を示す。食塩濃度が高くなると、大部分のエネルギーが表面付近4〜6mmで熱に変わることが測定値から判断できる。
【0027】
このような観点から、本発明の電子レンジ加熱用包装食品においては、比誘電率が50〜80、特に50〜70の範囲にあり、誘電体損失角が0.2〜0.7、特に0.35〜0.7の範囲にあり、塩分濃度が2.5重量%以下であり熱伝導性が悪く、局部的な過加熱を生じやすい食品を内容物として本発明の包装袋に充填密封し、内容物が完全に温められるまで電子レンジにより加熱した場合にも、包装袋の穴開き等の熱損傷が生じることがない。また、本発明の電子レンジ加熱用包装食品においては、充填する食品の粘度は25000mPa・s以下、特に3000mPa・s以下の範囲が好ましい。
このような食品としては、これに限定されないが、カレー、シチュー、丼等の調理済み食品を挙げることができる。
【実施例】
【0028】
本発明について、実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(包装材の作成)
ポリエステルフィルム(A)としてポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)としてアルミナ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(バリアPET)、直進引裂き性ポリエステルフィルム(C)として2軸延伸ポリブチレン変性ポリエチレンテレフタレートフィルム(易カットPET)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)として無延伸ポリプロピレンフィルムを用い、ポリウレタン系接着剤を使用してドライラミネートにより表8,9に示す包装材を作成した。
比較例1〜2では、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)としてアルミナ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(バリアPET)、ポリエステルフィルム(C)としてポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)としてポリプロピレンフィルムを用いて上記と同様に包装材を作成した。
また、比較例3は、バリア層を有するポリエステルフィルム(B)としてアルミナ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(バリアPET)、直進引裂き性ポリエステルフィルム(C)として2軸延伸ポリブチレン変性ポリエチレンテレフタレートフィルム(易カットPET)、ヒートシール性を有するポリオレフィンフィルム(D)としてポリプロピレンフィルムを用いて上記と同様に包装材を作成した。表にはフィルム厚みを併せて示す。
【0029】
(包装袋の作成)
上記包装材のポリプロピレン層を内側にして包装材同士を重ね合わせて、周縁部3方をヒートシールし、幅134mm、長さ165mmの平パウチ形状の包装袋を作成した。また、周縁部をシールすると同時に、所定位置に自動開口機構である蒸気抜きシールを施した。
【0030】
(食品の調製)
用いた材料の割合は重量%にて表2〜7に示す。
(1)カレーソース サラダ油を熱した鍋にタマネギのみじん切りを投入し、あめ色になるまで炒めてソテーオニオンを得る。別の鍋に食用油脂を投入し、昇温させた後、小麦粉を投入し、弱火で約1時間かけ、なめらかになるまで攪拌する。所定温度(品温目安120℃)になったところで火を止め、カレー粉、香辛料加え攪拌し、カレールウを得た。鍋に炒めたタマネギ、カレールウ、食塩、上白糖、エキス、チャツネなどの調味料と必要量の水を加え、品温95℃まで昇温させる。さらに調理中の加熱での蒸発分の水を加え、カレーソースを得た。そこに下ごしらえした牛肉、じゃがいも、人参を混ぜ合わせ、カレーを得た。
【0031】
【表2】
【0032】
(2)カレードリア
サラダ油を熱した鍋にタマネギのみじん切りを投入し、あめ色になるまで炒めてソテーオニオンを得る。別の鍋に食用油脂を投入し、昇温させた後、小麦粉を投入し、弱火で約1時間かけなめらかになるまで攪拌する。所定温度(品温目安120℃)になったところで火を止め、カレー粉、香辛料加え攪拌し、カレールウを得た。
鍋に炒めたタマネギ、カレールウ、食塩、上白糖、エキス、チャツネなどの調味料と必要量の水を加え、品温95℃まで昇温させ、さらに調理中の加熱での蒸発分の水を加え、 カレーソースを得た。そこに下ごしらえした牛肉、じゃがいも、チーズを加え、ドリア用カレーを得た。
【0033】
【表3】
【0034】
(3)牛丼の素
鍋に砂糖、醤油、みりん、酒、香辛料、加工デンプンなどを投入し、品温90℃まで昇温させる。さらに調理中の加熱での蒸発分の水を加え、下ごしらえした牛肉、タマネギを混ぜ合わせ、牛丼ソースを得た。
【0035】
【表4】
【0036】
(4)中華丼
鍋にひき肉、エキス、酒、食塩、砂糖、食用油脂、加工デンプン、水などを入れ、品温95℃まで昇温させる。さらに調理中の加熱での蒸発分の水を加え、下ごしらえした白菜、たけのこ、しいたけ、人参、枝豆などを混ぜ合わせ、中華ソースを得た。
【0037】
【表5】
【0038】
(5)マーボソース
鍋にひき肉、食塩、砂糖、豆板醤、エキス香辛料、食用油脂、加工デンプン、水などを投入し、品温95℃まで昇温させる。 さらに調理中の加熱での蒸発分の水を加え、カットした豆腐と下ごしらえした人参、たけのこ、しいたけを混ぜ合わせ、麻婆ソースを得た。
【0039】
【表6】
【0040】
(6)チーズソース
鍋にすりおろしたニンニク、白ワインを投入し品温50℃まで昇温させ、チーズを加え、弱火で品温80℃まで攪拌し、チーズソースを得た。
【0041】
【表7】
【0042】
(包装食品の作成)
表8、9に示す包装袋に表8,9に示す食品180gを充填し、ヒートシールにて密封した後、127℃30分でレトルト殺菌して包装食品を作成した。
【0043】
実施例、比較例の評価法は次の通りである。
(耐熱性)
電子レンジ用包装食品を700Wの電子レンジにて1分40秒間、及び1700Wの電子レンジにて50秒間加熱し、穴あきの有無を確認した。穴が開いたもの・過加熱された部分が線状にあるものを×、表面に凹凸があるが穴が無いものを△、問題なく穴が開かなかったものを○とした。
【0044】
(落下強度)
JIS Z0200 に準じて室温に保管した電子レンジ加熱用包装食品を高さ80cmから落下し、破袋の有無を確認した。破袋が有ったものを×、無かったものを○とした。また、高さ120cm以上でも破袋がなかったものを◎とした。
【0045】
(引裂き性)
700Wの電子レンジにて1分40秒間加熱した電子レンジ加熱用包装食品を、パネラーに開封してもらい、開封時に直線的に、かつ包装袋の表裏のフィルムのずれが小さく最後まで引裂けたものを良、できなかったものを不良で評価してもらった。良とした人数の割合が10割を◎、10割未満8割以上を○、8割未満×とした。
【0046】
(誘電率)
誘電率測定にはネットワークアナライザーを使用した誘電体プローブ法により行った。測定にはヒューレッドパッカード社製ネットワークアナライザーHP8572A及び85070B DIELECTRIC PROBE KITを接続して300KHz〜3GHzにおける値を測定した。
キャリブレーションは水・空気と短絡で行った。水は直径約65mm高さ約70mmの100CC容量のビーカーに入れ行った。また短絡の測定はプローブの先を上記DIELECTRIC PROBE KITに付属している遮蔽装置を使用して行った。
電子レンジ包装袋を開けて、10メッシュの篩を通し固形物を分離し直径約65mm高さ約70mmの100CC容量のビーカーに入れ検体とした。検体を湯煎しながら温度を正確に25℃に調温し測定した。また温度を可変して測定する場合は指定の温度に調製をした。比誘電率εrと誘電体損失角tanδの値から電力半減深度(D)を計算で算出した。
【0047】
(粘度の測定方法)
電子レンジ包装袋を沸騰水中にて10分間加熱した後、取り出して開封し10メッシュの篩を通し固形物を分離し直径約45mm高さ約75mmの50CC容量の縦長のビーカーに入れ検体とした。検体を冷却しながら温度を正確に50℃に調温しB型粘度計にて粘度を測定した。測定に使用するローターは粘性に応じて変更した。ローターの回転数は60rpm、測定時間は30秒間とし、測定は3回行い平均値を測定値とした。
【0048】
(実施例1〜12、比較例1〜7)
表8、9に示す電子レンジ加熱用包装食品の落下強度を評価した。また、700Wの電子レンジを用い1分40秒間加熱した後、引裂き性及び耐熱性を評価した。結果を表8、9に示す。
【0049】
(実施例13〜16)
表8に示す電子レンジ加熱用包装食品の落下強度を評価した。また、1700Wの電子レンジを用い50秒間加熱した後、引裂き性及び耐熱性を評価した。結果を表8に示す。
【0050】
【表8】
【0051】
【表9】
【0052】
表8によれば、実施例1〜9は、耐熱性があり、落下強度も十分であり、引裂き性よく、電子レンジ加熱用包装食品として問題ない。
実施例2はPET層の総厚みが厚くなることにより、若干引裂き性低下が起きるため、それ以上の厚さとなると引裂き性の低下が大きくなり、開けにくくなってしまう。
実施例4は、ポリプロピレンフィルムが厚くなり、若干引裂き性低下が起きるため、これ以上厚くなると、引裂き性の低下が大きくなり、開けにくくなってしまう。
一方、比較例1は、最外層のPETがなく、易カットPETがないため、耐熱性が低下し、局部加熱による穴が開きやすい食品では、電子レンジ加熱により穴あきが生じてしまう。また、引裂き性も悪くなり開けにくい。
比較例2は、PET層の総厚みは、実施例1とほぼ同等のため、耐熱性、落下強度は問題ないが、易カットPETがないため引裂き性が低下し、開けにくい。
比較例3は、易カットPETを使用している分、引裂き性はよくなるが、比較例1と同様に最外層のPETがないため、耐熱性が低下し、局部加熱による穴が開きやすい食品では、電子レンジ加熱により穴あきが生じてしまう。また、易カットPETはPETよりも,機械的強度が劣るため、落下強度も低下してしまう。
比較例4は、ポリプロピレンフィルムが薄くなるため、落下強度が低下し、落下時に破袋が起きてしまう。
比較例5は、PET層の層厚みが厚くなりすぎ、引裂き性が低下し、開けにくくなる。
比較例6,7のように食品の比誘電率が50〜80、誘電体損失角が0.2〜0.7、塩分濃度が2.5重量%以下、の範囲にない食品では、電子レンジ加熱時に局部加熱による穴あきが生じてしまう。
以上のように、本願の電子レンジ加熱用包装袋は、耐熱性を付与するために4層の構成が必要であり、高出力に対応し、開封時の引裂き性が良好である。