【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)朝日ウッドテック60周年記念フェア,東京国際フォーラム ホールB7,平成24年10月2日〜3日 (2)朝日ウッドテック60周年記念フェア,グランキューブ大阪(大阪国際会議場)3Fイベントホール,平成24年10月9日〜10日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に示すような内装用の木質パネルは、コストを抑えつつ、重厚感や高級感を持たせるために、様々な工夫を凝らしており、構造の複雑化を来してしまう。その結果、製造が困難になるとともに、コストも増大してしまうという傾向にあった。
【0006】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、コストを削減しつつ、簡単に製造することができる内装用壁面パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0008】
[1]屋内壁面に沿って取り付けられる内装用壁面パネルであって、
表材と、その表材の裏面側に貼り付けられた裏材とを備えた2層構造を有し、
前記表材は、辺材製の板目材である板目辺材が複数積層された積層体が、その積層方向を巾方向とする形態に切断された積層挽板材によって構成されるとともに、
前記裏材は、少なくとも一部に心材を含む板目材である板目心材によって構成されていることを特徴とする内装用壁面パネル。
【0009】
[2]前記表材および前記裏材の含水率が4%〜8%に調整されている前項1に記載の内装用壁面パネル。
【0010】
[3]前記表材において「(初期の巾寸法−全乾燥後の巾寸法)/初期の巾寸法×100/含水率」で算出れる表材の寸法変化率が0.1〜0.2に調整されるとともに、
前記裏材において「(初期の巾寸法−全乾燥後の巾寸法)/初期の巾寸法×100/含水率」で算出される裏材の寸法変化率が0.1〜0.25に調整されている前項1または2に記載の内装用壁面パネル。
【0011】
[4]屋内壁面から離間して配置されている前項1〜3のいずれか1項に記載の内装用壁面パネル。
【0012】
なお、本発明においては、以下の構成も好適に採用することができる。
【0013】
[a1]屋内壁面に沿って並べて配置される複数の壁面パネルを屋内壁面に固定するためのパネル取付治具であって、
両側縁部が、隣り合う壁面パネルの対向縁部にそれぞれ対応して配置された状態で屋内壁面に固定される治具本体を備え、
前記治具本体の一方の側縁部に前位置支持片が設けられるとともに、残り一方の側縁部に後位置支持片が設けられ、
前記前位置支持片および前記後位置支持片によって、隣り合う壁面パネルの対向縁部を支持可能に構成され、
前記前位置支持片が、前記後位置支持片に対し、壁面からの離間距離が長く設定されて前方に配置されていることを特徴とするパネル取付治具。
【0014】
[a2]前記治具本体の前面に着脱自在にアダプタが取り付けられ、
前記アダプタに前記前位置支持片が形成されるとともに、前記治具本体に前記後位置支持片が形成されている前項a1に記載のパネル取付治具。
【0015】
[a3]前記治具本体の両側縁部に前記後位置支持片がそれぞれ形成され、
前記アダプタを前記治具本体に対し、前記前位置支持片を前記治具本体の一側縁部に対応させて取り付ける第1の取付形態と、前記前位置支持片を前記治具本体の他側縁部に対応させて取り付ける第2の取付形態とのいずれの取付形態にも取付可能となっている前項a2に記載のパネル取付治具。
【0016】
[a4]1つの前記治具本体に対し2つの前記アダプタが取り付けられ、
前記2つのアダプタが、前記パネル配列方向に対し直交するパネル継ぎ合わせ方向に並んで配置されている前項a2またはa3に記載のパネル取付治具。
【0017】
[a5]前記治具本体の両側縁部にそれぞれ前記後位置支持片が形成され、
前記治具本体が、前記後位置支持片のうち、一方の後位置支持片を含む第1分割体と、他方の後位置支持片を含む第2分割体とに分割可能となっている前項a2〜a4のいずれか1項に記載のパネル取付治具。
【0018】
[a6]前項a1〜a5のいずれか1項に記載のパネル取付治具を用いて、屋内壁面に沿って複数の壁面パネルを並べて配置した状態に取り付けるようにした壁面パネルの取付構造であって、
前記壁面パネルが、その一側縁部が前記パネル取付治具の前位置支持片によって支持されるとともに、他側縁部が前記パネル取付治具の後位置支持片によって支持されて、当該壁面パネルがその一側縁部が他側縁部よりも屋内壁面から離間距離が長くなるように屋内壁面に対し傾斜した状態に取り付けられていることを特徴とする壁面パネルの取付構造。
【0019】
[a7]前項a1〜a5のいずれか1項に記載のパネル取付治具を用いて、屋内壁面に沿って複数の壁面パネルを並べて配置した状態に取り付けるようにした壁面パネルの取付構造であって、
前記複数の壁面パネルのうちいずれかの壁面パネルが、その両側縁部が前記パネル取付治具の前位置支持片によってそれぞれ支持されるとともに、
前記いずれかの壁面パネルに対し隣り合う他の壁面パネルが、その両側縁部が前記パネル取付治具の後位置支持片によってそれぞれ支持されることにより、
前記いずれかの壁面パネルが前記他の壁面パネルに対し前方に浮き上がった状態に取り付けられていることを特徴とする壁面パネルの取付構造。
【0020】
[a8]前項a3またはa5に記載のパネル取付治具を用いて、屋内壁面に沿って複数の壁面パネルを並べて配置した状態に取り付けるようにした壁面パネルの取付構造であって、
全ての壁面パネルの両側縁部が、前記アダプタが取り除かれた前記治具本体の後位置支持片にそれぞれ支持されることにより、
前記複数の壁面パネルが同一平面上に配置された状態に取り付けられていることを特徴とする壁面パネルの取付構造。
【発明の効果】
【0021】
発明[1]の内装用壁面パネルによれば、表材と、裏材とのたった2層の積層体によって構成されているため、構造が簡素になり、コストを削減できるとともに、簡単に製造することができる。さらに表材として積層挽板材を使用するとともに、裏材として板目心材を使用しているため、両板材の伸縮挙動を近似させることとができ、反りが発生するのを防止することができる。
【0022】
発明[2][3]の内装用壁面パネルによれば、反りの発生をより確実に防止することができる。
【0023】
発明[4]の内装用壁面パネルによれば、パネルの室内雰囲気との接触面積を大きく確保できるため、木材自体を保有する調湿性能を十分に発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1はこの発明の実施形態である木質パネル1を用いて施工されたパネル壁構造を示す正面図、
図2および
図3はそのパネル壁構造の側面断面図である。これらの図に示すように、本実施形態のパネル壁構造においては、一般住宅における基準壁面としての室内の壁面(屋内壁面)Wに、帯板状の木質パネル1が、左右方向(水平方向)に沿って配置された状態で、上下方向に並列に複数並べて施工されている。
【0026】
本実施形態では、木質パネル1によって内装用壁面パネルが構成されるとともに、施工された多数の木質パネル1によって、壁面Wの前面側を覆うパネル壁構造が構成されている。
【0027】
なお、本実施形態では、室内側から壁面Wに近づいていく方向を、後側方向(裏面側方向)とし、その逆方向、つまり壁面Wから遠ざかっていく方向を、前側方向(表面側方向)として説明する。
【0028】
また
図1〜
図5に示すように、各木質パネル1は、その一側縁部2側が下方側に配置されるとともに、他側縁部3側が上方に配置されるように施工される。従って本実施形態においては、必要に応じて、木質パネル1の「一側縁部2」を「下側縁部2」と称し、「他側縁部3」を「上側縁部3」と称する。
【0029】
さらに本実施形態において、隣り合う木質パネル1,1の対向縁部2,3は、上下に隣り合う木質パネル1,1のうち、上側の木質パネル1における一側縁部(下側縁部)2と、下側の木質パネル1における他側縁部(上側縁部)3によって構成されるものである。
【0030】
また本実施形態では、上下方向がパネル配列方向に相当する。さらに後に説明するが、木質パネル1の長さ方向(左右方向)がパネル継ぎ合わせ方向に相当する。
【0031】
以下、本実施形態についてさらに詳細に説明する。
【0032】
壁面Wは、例えば間柱や胴縁の室内側に、多数の合板が面状に並べて貼り付けられるとともに、その合板上に、多数の石膏ボードが面状に並べて貼り付けられることによって構成されている。
【0033】
木質パネル1は、所定の長さを有する帯板形状に形成されている。
図4Aおよび
図4Bに示すように本実施形態において、木質パネル1は、表面側(前面側)に配置される表材11と、表材11の裏面側(後面側)に積層される裏材12とを備えた2層構造を有している。
【0034】
表材11は、板目材を用いて作製された柾目風板材(積層挽板材)によって構成されるとともに、裏材12は、板目材によって構成されている。
【0035】
図19に示すように、表材11を構成する板目材は、木材の樹皮に近い周辺部(外周部)に位置する白太や白材とも称される辺材11aによって構成されている。さらに裏材11を構成する板目材は、内部(内周部)に位置し、かつ辺材11aよりも一般的に濃い色を有する赤味や赤肌とも称される心材12aを含む板材によって構成されている。なお、発明の理解を容易にするため、
図19の切株における心材12aに対応する部分にはハッチングを施し、辺材11aに対応する部分にはハッチングを施していない。
【0036】
図20に示すように、表材11は、辺材11aからなる板目材(板目辺材)11bを複数枚(実施形態では15〜16枚程度)積層した積層板材11cを、その積層方向を巾方向とする形態に厚さ6mmでスライス状に切断された積層挽板材11dによって構成されている。換言すれば、積層板材11cを、その板目辺材11bの巾方向に対し直交する平面でスライス状に切断された積層挽板材11dによって構成されている。この積層挽板材11dとしての柾目風板材の幅方向は、
図20の積層板材11cの積層方向、つまり積層板材11cを構成する板目辺材11bの厚さ方向に対応し、積層挽板材11dの厚さ方向は、積層板材11cを構成する板目辺材11bの幅方向に対応している。言うまでもなく、積層挽板材11dの長さ方向は、積層板材11cを構成する板目辺材11bの長さ方向に対応している。
【0037】
なお本実施形態において、表材11は、積層挽板材11dを継ぎ合わせたものではなく、いわゆる一枚ものによって構成されているが、必要に応じて、積層挽板材11dを幅方向や長さ方向に適宜継ぎ合わせた集成材によって構成するようにしても良い。ただし、本実施形態においては、積層挽板材11dは、表材11として用いられるため、長さ方向に継ぎ合わせると、表面に巾方向に沿って継ぎ合わせ線が表出されるおそれがある。
【0038】
また
図4Bおよび
図19に示すように裏材11は、少なくとも一部に心材12aを含む板目材(板目心材)12bによって構成されている。なお本実施形態において、裏材11は、板目心材12bを、幅方向や長さ方向に適宜継ぎ合わせた集成材によって構成しているが、継ぎ合わせていない一枚ものによって構成するようにしても良い。
【0039】
ところで、通常の柾目材は、通常の板目材に対し吸放湿による伸縮率が非常に小さいため、通常の柾目材と通常の板目材を貼り合わせた積層板材では、反りの発生が懸念される。
【0040】
これに対し、本実施形態において、積層挽板材11dからなる表材11と、板目心材12bからなる裏材12とは、吸放湿による伸縮率を近付けることができ、表材11と裏材12とを貼り合わせた積層板材(木質パネル1)では、反りの発生を有効に防止することができる。
【0041】
すなわち本実施形態において、表材11は、既述したように板目辺材11bを積層した積層板材11cをスライス状に裁断した積層挽板材11dによって構成されている。この積層挽板材11dは、
図4B等に示すように、真柾模様とは異なり、細い板目模様が集約された追柾模様となる。つまり、表材11を構成する積層挽板材11dは、構造的に、柾目材の中でも板目材に近い追柾材の構成となる。従って積層挽板材11によって構成される表材11は、通常の柾目材よりも吸放湿による伸縮率が大きく、この表材11の伸縮挙動は、板目心材12bによって構成される裏材12の伸縮挙動に近付く傾向にある。
【0042】
一方、裏材12は、板目心材12bによって構成されているが通常、心材製の板目材は、板目辺材11bに比べて、吸放湿による伸縮率が小さくなっている。すなわち、板目材は年輪方向の伸縮率が大きいものであり、辺材からなる通常の板目材(板目辺材)では、年輪の曲率半径が大きくて、年輪方向がほぼ幅方向に対応して配置されるため、幅方向に大きく伸縮する。これに対し、板目心材12bは、年輪の曲率半径が小さくて、年輪方向がほぼ厚み方向に対応して配置されるため、板目心材12b自体の幅方向の伸縮率が小さくなる。従ってこの板目心材12bによって構成される裏材12は、通常の板目材よりも吸放湿による伸縮率が小さく、この裏材12の伸縮挙動は、追柾構造の表材11の伸縮挙動に近付く傾向にある。加えて本実施形態では、裏材12を構成する板目心材12bは、小径木の心材部分を木取りした心材12aによって構成されている。この小径木の板目心材12bは、板目材の中でも、柾目材に近い半板材となる。従ってこの点からも、裏材12は、伸縮率が小さくなり、裏材12の伸縮挙動が、追柾構造の表材11の伸縮挙動により一層近付く傾向にある。
【0043】
このように表材11は、半板材に近似した追柾材の構造であり、裏材12は、追柾材に近似した半板材であり、互いの伸縮挙動が近似し、表裏材11,12を貼り合わせた積層板材(木質パネル1)では、反りの発生を有効に防止することができる。
【0044】
ここで、本実施形態において、小径木とは、直径(末口)が40cm以下、好ましくは30cm以下の木材を言う。
【0045】
なお本実施形態において、木質パネル1における表材11および裏12の伸縮率が近似している点や、木質パネル1に反りが発生しない点については、後の実施例(実験例)からも明らかとなる。
【0046】
図5Aに示すように本実施形態の木質パネル1において、一側縁部(下側縁部)2は、その裏面側が切り欠かれることによって、表面側にカバー片21が一側方(下方)に突出するように形成されている。カバー片21の先端面には、パネル長さ方向に連続して延びる凹条部22が形成されている。
【0047】
さらに木質パネル1の一側縁部2には、カバー片21よりも裏面側(壁面側)に、パネル長さ方向に連続して延びる切込溝23が形成されている。
【0048】
図5Bに示すように、木質パネル1の他側縁部(上側縁部)3は、その裏面側が切り欠かれることによって、表面側カバー片31が他側方(上方)に突出するように形成されている。カバー片31の先端面には、パネル長さ方向に連続して延びる突条部32が形成されている。
【0049】
さらに木質パネル1の他側縁部3には、カバー片31よりも裏面側(壁面側)に、パネル長さ方向に連続して延びる切込溝33が形成されている。
【0050】
一方、
図6〜
図10に示すように、パネル取付治具5は、壁面Wに固定される治具本体6と、治具本体6に着脱自在に取り付けられるアダプタ7とを備えている。
【0051】
なお以下の説明においては、
図8(a)に向かって上下方向を「上下方向」として説明し、左右方向(横方向)を「左右方向(横方向)」として説明する。さらに
図8(b)に向かって左側を「前方(表面側)」、右側を「後方(裏面側)」として説明する。なお、
図9の治具本体6、
図10のアダプタ7においても同様である。
【0052】
治具本体6は、正面視(
図9(a)参照)において、長方形状を有しており、本実施形態では、長さ方向を横方向(水平方向)に一致させて壁面Wに固定するものである。本実施形態においては、治具本体6の両側縁部のうち、一方の側縁部が下側に配置されて下側縁部を構成し、残り一方(他方)の側縁部が上側に配置されて上側縁部を構成することになる。
【0053】
治具本体6は、例えば硬質合成樹脂の一体成形品によって構成されている。この治具本体6の表面側には、長さ方向に連続して延び、かつ長さ方向の両端部が開放されたアダプタ取付溝65が形成されている。アダプタ取付溝65の上下両側壁の前端には、アダプタ取付溝65の前面側(表面側)開口における上下両側部を閉塞する態様に突出する複数の抜け止め突片66が形成されている。
【0054】
さらにアダプタ取付溝65の上下両側壁のうち下側壁、つまり下側縁部には、下方に向けて突出し、かつ治具本体6の長さ方向(横方向)に連続して延びる下部後位置支持片62が形成されるとともに、上側壁、つまり上側縁部には、上方に向けて突出し、かつ治具本体6の長さ方向に連続して延びる上部後位置支持片63が形成されている。各後位置支持片62,63は、木質パネル1の両側縁部2,3の切込溝23,33に挿入できて、パネル1を支持できるようになっている。
【0055】
本実施形態において、後述するように、治具本体6を壁面Wに固定した状態では、両後位置支持片62,63は、壁面Wからの離間距離(離間寸法)が共に等しくなるようになっている。
【0056】
なお本実施形態においては、下部後位置支持片62および上部後位置支持片63は、それぞれ支持片部材を構成するものである。
【0057】
また治具本体6のアダプタ取付溝65における底壁の上側部には、その底壁を貫通し、かつ長さ方向に所定の間隔おきに配置される3つのビス止め孔67が形成されている。さらに治具本体6のアダプタ取付溝65の底壁の下側部には、長さ方向に連続して延び、かつ薄肉状に形成された分割線部68が形成されている。なお後に詳述するが、治具本体6は、この分割線部68を境にして折り曲げるような力を加えると、
図11に示すように分割線部68で分裂して、上部後位置支持片63およびビス止め孔67を含む第1分割体6aと、下部後位置支持片62を含む第2分割体6bとに分割できるようになっている。
【0058】
本実施形態において、治具本体6は、下部後位置支持片62および上部後位置支持片63は、上下対称の形状となっており、上下を反転させて壁面Wに固定した状態であっても、両後位置支持片62,63を、木質パネル1の両側縁部2,3を支持することが可能となっている。
【0059】
アダプタ7は、治具本体6と同様に硬質合成樹脂の一体成形品等によって構成されている。アダプタ7は、正面視において(
図10(a)参照)、矩形状のスライド板75を備えている。このスライド板75は、治具本体6のアダプタ取付溝65にその両端開放部から挿入することにより、溝方向(横方向)に沿ってスライド自在に収容できるようになっている。さらにこの収容状態においては、治具本体6の抜け止め片66,66に係合することにより、前方への抜け出しが防止されるようになっている。
【0060】
スライド板75における左右方向(スライド方向)の中央部には、スライド板75を貫通し、かつ上下に並んで配置される2つのビス止め孔77が形成されている。
【0061】
アダプタ7におけるスライド板75の前面上縁部には、前方に向けて斜め上方に延び、かつ横方向に連続して形成される前方突出片71が形成されている。この前方突出片71には、上方に向けて突出し、かつ横方向に連続して延びる前位置支持片72が形成されている。この前位置支持片72は、木質パネル1の両側縁部2,3の切込溝23,33に挿入できて、パネル1を支持できるようになっている。
【0062】
図6および
図8に示すように、このアダプタ7において、前位置支持片72が上方側に配置されるようにして、スライド板75を治具本体6のアダプタ取付溝65内に収容した際には、アダプタ7の前位置支持片72が、治具本体6の上側縁部に対応する位置において、治具本体6の上部後位置支持片63よりも前方(表面側)に配置されるようになっている。従ってこの状態で、後述するように、パネル取付治具5を壁面Wに固定した際には、アダプタ7の前位置支持片72は、治具本体6の上部後位置支持片63に対し壁面Wからの離間距離が長くなり、前方に配置されるようになっている。
【0063】
また本実施形態においては、アダプタ7をその上下を反転させて治具本体6に取り付けることも可能である。すなわち
図12に示すように、このアダプタ7において、前位置支持片72が下方側に配置されるようにして、スライド板75を治具本体6のアダプタ取付溝65内に収容した際には、アダプタ7の前位置支持片72が、治具本体6の下側縁部に対応する位置において、治具本体6の下部後位置支持片62よりも前方(表面側)に配置されるようになっている。この状態で、後述するように、パネル取付治具5を壁面Wに固定した際には、アダプタ7の前位置支持片72は、治具本体6の下部後位置支持片62に対し壁面Wからの離間距離が長くなり、前方に配置されるようになっている。
【0064】
さらに本実施形態においては、アダプタ7を治具本体6のアダプタ取付溝65に収容した状態では、アダプタ7をスライド操作することによって、アダプタ7の上側に配置されるビス止め孔77を、治具本体6の3つのビス止め孔67のいずれにも対応させることができるようになっている。なお、アダプタ7は、
図8に示すようにパネル支持片72を上側に配置した状態でも、
図12に示すようにパネル支持片72を下側に配置した状態でも、上下のビス止め孔77のうち、上側に配置されるビス止め孔77が、治具本体6のビス止め孔67に対応するようになっている。
【0065】
ここで本実施形態においては、
図8に示すようにアダプタ7をその前位置支持片72を上方に向けて治具本体5に取り付ける取付形態と、
図12に示すようにアダプタ7をその前位置支持片72を下方に向けて治具本体5に取り付ける取付形態とのいずれか一方の取付形態が、第1の取付形態として構成されるとともに、残り一方の取付形態が、第2の取付形態として構成されるものである。
【0066】
本実施形態では、上記構成のパネル取付治具5を用いて、木質パネル1をその長さ方向を横方向にして、上下方向に複数並べるように壁面Wに施工するものである。
【0067】
この場合、例えば
図2および
図3に示すように、各木質パネル1を斜め上向きに配置されるように下見貼りで施工したパネル壁構造、
図14および
図15に示すように各木質パネル1が同一平面上に配置されるようにフラット貼りで施工したパネル壁構造、
図16および
図17に示すようにいずれかの木質パネル1を前方に張り出すように凹凸貼りで施工したパネル壁構造等、多くの種類のパネル壁構造を構築することができる。
【0068】
まず
図2に示すように下見貼り施工について説明する。なお言うまでもなく、本発明において施工手順は以下の実施形態のものに限定されるものではなく、どのような手順で施工しても良い。
【0069】
例えば下側から順に下見貼り施工を行う場合には、壁面Wにおけるパネル貼付予定領域の下端縁に対応する位置に、上記パネル取付治具5を横方向に所定間隔おきに複数取り付ける。
【0070】
この場合
図8に示すように、各パネル取付治具5において、治具本体6のアダプタ取付溝65に、アダプタ7をその前位置支持片72が上側に配置されるようにして収容する。さらにアダプタ7を治具本体6に対し横方向の中間位置に配置させて、アダプタ7の上側のビス止め孔77を治具本体6の中央のビス止め孔67に対応させて配置する。その状態で、両ビス止め孔77,67にビス8を挿入して壁面Wにねじ込んで、パネル取付治具5を壁面Wに固定する。
【0071】
こうして壁面Wにおけるパネル貼付予定領域の下端縁に沿って、複数のパネル取付治具5を所定間隔おきに固定する。
【0072】
次に、最下端に配置される木質パネル1の下側縁部2における切込溝23内に、上記各パネル取付治具5におけるアダプタ7の前位置支持片72を挿入することによって、木質パネル1を各パネル取付治具5に支持させる。
【0073】
続いて、最下端の木質パネル1の上側縁部3をパネル取付治具5によって支持する。すなわち、上記同様に、治具本体6のアダプタ取付溝65にアダプタ7をそのパネル支持片72が上側に配置されるようにして収容したパネル取付治具5を、その治具本体6における下部後位置支持片62を、最下端の木質パネル1の上側縁部3における切込溝33内に挿入した状態に配置する。その状態で、パネル取付治具5のビス止め孔77,67にビス8を挿入して壁面Wにねじ込む。
【0074】
こうして最下端の木質パネル1の上側縁部3を、複数のパネル取付治具5を介して壁面Wに固定する。
【0075】
この取付状態においては、木質パネル1の下側縁部2は、パネル取付治具5におけるアダプタ7の前位置支持片72に支持されるとともに、上側縁部3は、治具本体6の下部後位置支持片62に支持されている。既述したようにアダプタ7の前位置支持片72は、治具本体6の後位置支持片62,63よりも前方に配置され、壁面Wからの離間距離が長くなっている。従って、木質パネル1は、下側縁部2が上側縁部3よりも壁面Wから大きく離間するように、斜め上向き(下見貼り)の形態に配置される。
【0076】
次に、最下端の木質パネル1の上側縁部3を支持しているパネル取付治具5におけるアダプタ7の前位置支持片72を、下から2番目に配置する木質パネル1の下側縁部2における切込溝23内に挿入することにより、2番目の木質パネル1の下側縁部2をパネル取付治具5を介して壁面Wに固定する。なおこの取付状態においては、パネル取付治具5の下部後位置支持片62は、使用しないものである。
【0077】
さらに2番目の木質パネル1の上側縁部3を、上記の最下端の木質パネル1と同様に、パネル取付治具5を介して壁面Wに固定する。
【0078】
以下同様にして、下から順に木質パネル1をパネル取付治具5を介して壁面Wに固定していき、パネル貼付予定領域の全域に、所要枚数の木質パネル1を貼り付ける。これにより、壁面W上に複数の木質パネル1が貼り付けられたパネル壁構造が構築される。
【0079】
なお、最上端の木質パネル1の上側縁部3を固定するための最上端固定手段は、パネル取付治具5の一部のみによって構成しても良い。
【0080】
すなわち最上端固定手段としては、
図11に示すように治具本体6を、分割線部68で折り曲げて第1および第2分割体6a,6bに分割し、その2つの分割体6a,6bのうち、ビス止め孔67を有する第1分割体6aを使用するものである。なお最上端固定手段としては、第2分割体6bや、アダプタ7は使用しない。
【0081】
この第1分割体6aを
図11に示す状態に対し上下を反転させて、つまり同図の状態では上側に配置されている後位置支持片63を下向きに配置しておき、その下向きの他方側パネル支持片63を、最上端の木質パネル1の上側縁部3の切込溝33に挿入する。さらにその状態で、第1分割体6aをそのビス止め孔67にビス8を挿通して壁面Wにねじ込むことにより、最上端の木質パネル1の上側縁部3を第1分割体6aを介して壁面Wに固定する。
【0082】
このように最上端の木質パネル1の上側縁部3を、パネル取付治具5で固定する際に、そのパネル取付治具5のうち不要な部位、つまりアダプタ7および第2分割体6bを除去することによって、当該不要な部位がパネル壁の上端縁から突出するのを防止することができる。このため、不要な部位が目視されることによる美観の低下を防止でき、良好な美観を得ることができる。
【0083】
また本実施形態においては、最下端の木質パネル1の下側縁部3を壁面Wに固定する場合、治具本体6のうち、第2分割体6bを用いずに、第1分割体6aとアダプタ7とを用いて固定するようにしても良い。この場合においても、上記と同様に、不要な部位である第2分割体6bを除去することにより、その不要な部位が目視されることがなく、良好な美観を得ることができる。
【0084】
また本実施形態において、複数の木質パネル1を横方向(パネル長さ方向)に継ぎ合わせて取り付ける場合には、その横方向であるパネル継ぎ合わせ方向に隣り合う木質パネル1,1の互いの対向端部を、実質的に1つのパネル取付治具5によって壁面Wに固定することができる。
【0085】
すなわち
図13に示すように、横方向に隣り合う木質パネル1,1における対向端部1a,1aの下側縁部2,2を支持する場合には、1つの治具本体6に対し2つのアダプタ7,7を収容しておく。このとき、アダプタ7,7の各ビス止め孔77,77を治具本体6の両側のビス止め孔67,67にそれぞれ対応させておく。そして隣り合う木質パネル1,1のうち一方の木質パネル1の対向端部1aの下側縁部2を、2つのアダプタ7,7のうち一方のアダプタ7の前位置支持片72によって支持させるとともに、他方の木質パネル1の対向端部1aの下側縁部2を、他方のアダプタ7の前位置支持片72によって支持させるようにして、両アダプタ7,7のビス孔77,77および治具本体6の両側のビス止め孔67,67にビス8,8を挿通して壁面Wにねじ込んで固定する。
【0086】
なお、横方向に隣り合う木質パネル1,1における対向端部1a,1aの上側縁部3,3を支持する場合には、一方の対向端部1aの上側縁部3を、パネル取付治具5の治具本体6における下部後位置支持片62の一方側半分によって支持させるともに、他方の対向端部1aの上側縁部3を、下部後位置支持片62の他方側半分によって支持させるようにする。
【0087】
このように横方向に継ぎ合わせて木質パネル1を取り付ける場合、隣り合う木質パネル1,1の対向端部1a,1aを、実質的に1つのパネル取付治具5によって壁面Wに固定することができる。
【0088】
上記
図2に示すパネル壁構造では、各木質パネル1を斜め上向きに配置した下見貼りの形態に施工しているが、本実施形態においては、各木質パネル1を斜め下向きに配置した形態(下見貼りに対し逆の形態)に施工することもできる。
【0089】
この場合には、パネル取付治具5を
図12に示す形態とする。すなわちパネル取付治具5における治具本体6のアダプタ取付溝65に、アダプタ7をその前位置支持片72が下側に配置されるようにして収容しておく。そして上下に隣り合う木質パネル1,1のうち上側に配置される木質パネル1の下側縁部2を、パネル取付治具5における治具本体6の上部後位置支持片63によって支持させるとともに、下側に配置される木質パネル1の上側縁部3を、パネル取付治具5におけるアダプタ7の前位置支持片72によって支持させる。これにより、各木質パネル1を斜め下向きに配置したパネル壁を構築することができる。なおこの形態においては、治具本体6の下部後支持片62は使用しないものである。
【0090】
またこの形態において、各パネル取付治具5は、
図12に示す形態としているが、それだけに限られず、
図8に示す形態のパネル取付治具5全体を、上下に反転させて壁面Wに固定することにより、上記と同様な形態(下見貼りとは逆の形態)に施工することができる。
【0091】
さらにパネルを斜め下向き(下見貼りとは逆の形態)に施工する場合でも、最下端や最上端に配置されるパネル取付治具5は、必要に応じて、分割体6bやアダプタ7等を取り除いて固定するようにしても良い。
【0092】
一方、本実施形態においては、各木質パネル1を壁面Wと平行にしてフラット貼りの形態に施工することもできる。
【0093】
この場合には
図14および
図15に示すように、パネル取付治具5として、アダプタ7を使用せず、治具本体6のみを使用する。すなわち上下に隣り合う木質パネル1,1のうち上側に配置される木質パネル1の下側縁部2を、治具本体6の上部後位置支持片63によって支持させるとともに、下側に配置される木質パネル1の上側縁部3を、治具本体6の下部後位置支持片62によって支持させるようにする。これにより、各木質パネル1が同一平面上に配置されたフラットなパネル壁面が形成される。
【0094】
このように隣り合う木質パネル1,1が壁面Wに対し共に平行に配置される場合には、上側の木質パネル1の下側縁部2における凹条部22内に、下側の木質パネル1の上側縁部3における突条部32が配置される(
図15参照)。これにより隣り合う木質パネル1,1間に隙間が形成されないようになっている。
【0095】
なお本実施形態において、フラット貼りの形態であっても、各木質パネル1は、壁面Wに対し接触しておらず、少し離間している。
【0096】
本実施形態においては、施工される複数の木質パネル1のうち、いずれかの木質パネル1を他の木質パネル1に対し、前方に浮き上がらせるような凹凸貼りの形態に施工することもできる。
【0097】
この場合には
図16および
図17に示すように、前方に浮き上がらせない他の木質パネル1は、上記フラット貼り形態(
図14および
図15参照)と同様に壁面Wに固定するものである。また前方に浮き上がらせる木質パネル1の下側縁部2を支持するパネル取付治具5は、治具本体6のアダプタ取付溝65に、アダプタ7をその前位置支持片72が上側に配置されるように収容しておく(
図8参照)。そしてそのパネル取付治具5における前位置支持片72によって、木質パネル1の下側縁部2を支持させるようにする。さらに前方に浮き上がらせる木質パネル1の上側縁部3を支持するパネル取付治具5は、治具本体6のアダプタ取付溝65に、アダプタ7をその前位置支持片72が下側に配置されるように収容しておく(
図12参照)。そしてそのパネル取付治具5における前位置支持片72によって、木質パネル1の上側縁部3を支持させるようにする。なお、凹凸貼り形態において、前方に浮き上がった木質パネル1の上側縁部16を支持するパネル取付治具5を
図12に示す形態としているが、それだけに限られず、
図8に示す形態のパネル取付治具5全体を、上下に反転させて壁面Wに固定することにより、上記と同様な凹凸貼りの形態に施工することができる。
【0098】
これにより、所定の木質パネル1の上下両側縁部2,3が、パネル取付治具5,5におけるアダプタ7,7の前位置支持片72,72に支持されることにより、当該木質パネル1が、壁面Wに対し平行に配置され、かつ治具本体6の後位置支持片62,63に支持された他の木質パネル1に対し、前方に浮き上がった状態に配置される。
【0099】
なお、このように凹凸貼りの形態で施工する場合、1つおき毎に木質パネル1を浮き上がらせたり、2つおき毎に木質パネル1を浮き上がらせたり、3つ以上おきに木質パネル1を浮き上がらせるように、規則的な凹凸形状を形成するようにしても良いし、不規則的に木質パネル1を適宜浮き上がらせるようにしても良い。さらに上下に連続する2つ以上の木質パネル1をまとめて浮き上がらせるようにしても良い。
【0100】
なお上下に隣り合う木質パネル1,1を共に浮き上がらせる場合には、そのパネル1,1間に配置されるパネル取付治具5としては、例えば1つの治具本体6にアダプタ7を2つ取り付け、一方のアダプタ7をその前位置支持片72を上方に配置するとともに、他方のアダプタ5をその前位置支持片72を下方に配置しておく。そして一方のアダプタ7の前位置支持片72に上側の木質パネル1の下縁部2を支持させるとともに、他方のアダプタ7の前位置支持片72に下側の木質パネル1の上側縁3を支持させるようにすれば良い。あるいは、木質パネル1,1間に、
図8に示す形態のパネル取付治具5と、
図12に示すパネル取付治具5とを交互に配置しておき、
図8のパネル取付治具5の前位置支持片72に上側の木質パネル1の下縁部2を支持させるとともに、
図12のパネル取付治具5の前位置支持片72に下側の木質パネル1の上側縁3を支持させるようにすれば良い。
【0101】
また横方向に木質パネル1を複数継ぎ合わせて施工する場合には、横方向に並ぶいずれかの木質パネル1を浮き上がらせても良いし、横方向に並ぶ全ての木質パネル1を浮き上がらせるようにしても良い。
【0102】
以上のように本実施形態のパネル壁構造によれば、下見貼り形態、下見貼りに対し逆の形態、フラット貼り形態、規則的な凹凸貼り形態、不規則的な凹凸貼り形態等の多種多様な形態で、木質パネル1を壁面Wに取り付けることができ、室内の状況や居住者の好みに応じた形態で木質パネル1を取り付けることができる。
【0103】
また上記実施形態においては、アダプタ7を取り付けずに治具本体6だけを用いれば、フラット貼りで施工することができるため、フラット貼り専用のパネル取付手段(パネル取付治具)を別途準備する必要がなく、部材の兼用による部品点数およびコストの削減を図ることができる。
【0104】
また本実施形態に採用された木質パネル1は、表材11と、裏材12との2層構造の積層体によって構成されているため、従来より木質パネル用に一般に用いられる3層の積層体に比べて、構造が簡素になり、コストを削減できるとともに、簡単に製造することができる。
【0105】
さらに本実施形態の木質パネル1を構成する表材11および裏材12は、通常の柾目材に比べて入手が容易で安価な板目材11b,12bを材料としているため、一層コストの削減を図ることができる。
【0106】
その上さらに、裏材12は、高級用木材として利用度が低い心材12aからなる板目材12bを使用しているため、資源の有効利用を図ることができるとともに、より一層コストを削減することができる。
【0107】
しかも本実施形態の木質パネル1の表材11は、板目辺材11bを積層してスライス状に切断した積層挽板11dによって構成しているため、良好な色合いの柾目模様を表出することができ、高級感のある重厚なパネル壁を構築することができる。
【0108】
また本実施形態の木質パネル1は、2層構造の積層体であるにもかかわらず、反りの発生を有効に防止することができる。
【0109】
すなわち、2層構造の積層体は、表裏間での張力バランスが異なるため、反りが発生し易くなる。
【0110】
そこで、本実施形態の木質パネル1は、既述したように表材11および裏材12における吸放湿時の伸縮挙動を近似させるようにしているため、反りが発生するのを防止でき、良好な美観を長期間維持することができる。
【0111】
また本実施形態において、木質パネル1を壁面Wから離間させた状態で取り付けた場合には、裏材12の裏面側も室内空気と接触するため、木質パネル1の室内空気との接触面積が大きくなる。このため、木質パネル1を構成する木材自体を保有する調湿性能を十分に発揮することができ、快適な居住空間を得ることができる。
【0112】
なお、木質パネル1を壁面Wから離間させた状態で取り付けた場合、裏材12も吸放湿の影響を受け易くなる。このような場合、表材11と裏材12との伸縮挙動が異なっていると、より一層反りが発生し易くなるが、本実施形態の木質パネル1では、既述したように表材11と裏材12との伸縮挙動が近似しているため、壁面Wから離間させたとしても、反りの発生を有効に防止することができる。
【0113】
また本実施形態において、木質パネル1を構成する表材11および裏材12は予め、高温乾燥等を行うことによって、含水率を4%〜8%に調整しておくのが好ましい。すなわち含水率をこの範囲に調整しておくことによって、木質パネル1における反りの発生をより確実に防止することができる。この点については、後の実施例からも明らかとなる。
【0114】
ここで本実施形態においては、重厚感および高級感を十分に引き出すために、木質パネル1の全体厚みを9mm〜30mm、より好ましくは13mm〜23mmに設定するのが良い。さらに表材11に彫り込みによって重厚感および高級感のある模様を形成するために、表材11の厚みを3mm〜10mm、より好ましくは5mm〜8mmに設定するのが良い。さらに表材11とのバランス等を考慮すると、裏材12の厚みを6mm〜20mm、より好ましくは8mm〜15mmに設定するのが良い。
【0115】
なお、上記実施形態においては、木質パネル1をその長さ方向を横方向(水平方向)に一致させて、上下方向に並べて施工する場合を例に挙げて説明したが、それだけに限られず、本発明においては、木質パネル1をその長さ方向を縦方向(垂直方向)に一致させて、左右方向(水平方向)に並べて施工するようにしても良い。さらに木質パネル1をその長さ方向を垂直方向または水平方向に対し傾斜する方向に一致させるように施工するようにしても良い。
【0116】
また上記実施形態においては、木質パネル1として、帯板形状ないし長板形状のものを使用しているが、それだけに限られず、本発明においては、正方形状の木質パネルを用いることも可能である。
【0117】
また上記実施形態においては、治具本体6やアダプタ7等のパネル取付治具5を硬質合成樹脂の一体成形品によって構成しているが、本発明においてこれらの部材の素材は、特に限定されるものではなく、金属の加工品等によって構成するようにしても良い。
【実施例】
【0118】
次に本発明の内装用壁面パネル(木質パネル)1の表材11および裏材2に関連した実施例について説明する。
【0119】
<寸法変化率に関する実施例>
【0120】
【表1】
【0121】
表1に示すように、木質パネル1の表材11として利用可能な積層挽板材11dを準備した。すなわち
図20に示すように上記実施形態と同様に、板目辺材11bを積層した積層板材11cを、その積層方向が巾方向となる形態で所定の間隔おきにスライス状に切断してサンプルNo.A1〜A20の計20枚の柾目風板材(積層挽板材)11dを準備した。例えばサンプルNo.A1の積層挽板材11dは、初期重量が63.38g、初期サイズが長さ100.64mm×幅153.17mm×厚み10.40mmであり、全乾燥後重量は53.45g、全乾燥後サイズが長さ99.86mm×幅149.48mm×厚み9.87mmであった。この積層挽板材14dの含水率=「(初期重量−全乾燥後重量)/全乾燥後重量×100」は18.6%となる。さらに長さの寸法変化率(含水率1%当たり、以下同じ)=「(初期長さ−全乾燥後長さ)/初期長さ×100/含水率」は、0.04[%/%]、巾の寸法変化率=「(初期巾−全乾燥後巾)/初期巾×100/含水率」は、0.13[%/%]、厚みの寸法変化率=「(初期厚み−全乾燥後厚み)/初期厚み×100/含水率」は、0.27[%/%]となる。
【0122】
またサンプルNo.A2〜A20の表材用積層挽板材11dにおける各重量、各サイズ、各含水率および各寸法変化率は、表1に示す通りである。
【0123】
【表2】
【0124】
表2に示すように、木質パネル1の裏材12として利用可能な巾集成板材を準備した。すなわち上記実施形態と同様に、板目心材12bを、巾方向に適宜継ぎ合わせてサンプルNo.B1〜B20の計20枚の巾集成板材を準備した。例えばサンプルNo.B1の巾集成板材は、初期重量が59.13g、初期サイズが長さ99.85mm×幅157.58mm×厚み9.40mmであり、全乾燥後重量は51.08g、全乾燥後サイズが長さ99.63mm×幅152.91mm×厚み9.23mmであった。この巾集成材(板目心材12b)の含水率=「(初期重量−全乾燥後重量)/全乾燥後重量×100」は15.8%となる。さらに長さの寸法変化率=「(初期長さ−全乾燥後長さ)/初期長さ×100/含水率」は、0.01[%/%]、巾の寸法変化率=「(初期巾−全乾燥後巾)/初期巾×100/含水率」は、0.19[%/%]、厚みの寸法変化率=「(初期厚み−全乾燥後厚み)/初期厚み×100/含水率」は、0.11[%/%]となる。
【0125】
またサンプルNo.B2〜B20の裏材用巾集成板材における各重量、各サイズ、各含水率および各寸法変化率は、表2に示す通りである。
【0126】
表1および表2から明らかなように、表材用の積層挽板材11dと、裏材用の巾集成板材(板目心材12b)とは寸法変化率が大きく異なるものではなく、こられらの板材11d、12bを貼り合わせた積層板材である本発明の木質パネルにおいては、吸放湿時の伸縮挙動が近似し、反りの発生を有効に防止することができると考えられる。特に表材用の積層挽板材11dと、裏材用の巾集成板材との巾方向における寸法変化率は、互いに近似しており、これらの積層板材によって構成される本発明の木質パネルは、巾方向の反りを、より確実に防止できると考えられる。
【0127】
参考までに、本発明の木質パネルに関連した板材と、一般の木質パネル用に使用される板材とを比較すると以下の通りとなる。
【0128】
【表3】
【0129】
表3において、実施例1は、上記サンプルA1〜A20に示す表材用の積層挽板材11dであり、巾方向の寸法変化率は、平均が0.14、最大が0.17、最小が0.11である。また実施例2は、上記サンプルB1〜B20に示す裏材用の巾集成板材(板目心材12b)であり、巾方向の寸法変化率は、平均が0.14、最大が0.20、最小が0.13である。このように実施例1,2の板材11d,12bの寸法変化率は非常に近似しているため、実施例1,2の板材11d,12bを貼り合わせた積層板材(木質パネル)においては、反りの発生を有効に防止できると考えられる。
【0130】
一方表3において、参考例1は、一般的な木質パネルの表材として使用可能な杉製の柾目材であり、巾方向の寸法変化率は、最大が0.21、最小が0.05である。また参考例2は、一般的な木質パネルの裏材として使用可能な杉製の板目材であり、巾方向の寸法変化率は、最大が0.34、最小が0.21であった。このように参考例1,2の両板材における寸法変化率は大きく異なっており、参考例1,2の板材を貼り合わせた積層板材(木質パネル)においては、有害な反りが発生する可能性が高いと考えられる。
【0131】
なお、これらの実施例や他の実験例等も含めた結果、本発明の木質パネルにおいては、表材11における巾方向の寸法変化率[%/%]を0.1〜0.2、好ましくは0.11〜0.17に調整した場合、さらに裏材12における巾方向の寸法変化率[%/%]を0.1〜0.25、好ましくは0.13〜0.20に調整した場合には、反りの発生を、より効果的に抑制できると考えられる。
【0132】
<反りと含水率との関係についての実施例>
図18Aは本発明に関連した実施例の木質パネル1における吸湿による巾反りの経時変化を示すグラフ、
図18Bは実施例の木質パネル1の放湿による巾反りの経時変化を示すグラフである。これらのグラフに示すように、実施例11として、含水率が5%の表材(積層挽板材)11と、含水率が10%の裏材(巾集成材)12とが貼り合わされた2層構造の木質パネル1、実施例12として、含水率が5%の表材(積層挽板材)11と、含水率が5%の裏材(巾集成材)12とが貼り合わされた2層構造の木質パネル1、実施例13として、含水率が10%の表材(積層挽板材)11と、含水率が10%の裏材(巾集成材)12とが貼り合わされた2層構造の木質パネル1、実施例14として、含水率が10%の表材(積層挽板材)11と、含水率が5%の裏材(巾集成材)12とが貼り合わされた2層構造の木質パネル1を準備した。
【0133】
そして
図18Aに示すように、実施例11〜14の木質パネル1を、吸湿(湿潤)環境下において11日間放置し、各木質パネル1の巾反りを測定した。
【0134】
さらに
図18Bに示すように、実施例11〜14の木質パネル1を、放湿(乾燥)環境下において11日間放置し、各木質パネル1の巾反りを測定した。
【0135】
これらのグラフから明らかなように、表材11および裏材12の含水率が低い低含水率の実施例12の木質パネル1においては、含水率が高い他の実施例11,13,14の木質パネル1に比べて、巾反りの発生が抑制されていた。
【0136】
これらの実施例や他の実験例等も含めた結果、本発明の木質パネルにおいては、表材11および裏材12を高温乾燥によって、含水率を6%±2%の低含水率に調整した場合には、反りの発生を、より効果的に抑制できると思われる。