(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車の排気管内を流れる排気ガス等の温度を検知するためのサーミスタ素子が知られている。この種のサーミスタ素子には、例えば、サーミスタ部、電極部、及びリード線を備えたものがある。サーミスタ部は、温度に応じて抵抗値が変化する板状の金属酸化物焼結体である。電極部は、板状のサーミスタ部の第一面及び第一面とは反対側の第二面に形成された導電性金属を含む層である。リード線は、電極部に接合されている。サーミスタ素子は、サーミスタ部の抵抗値の変化をリード線を介して取り出すことによって、周囲の温度を検知可能である。
【0003】
サーミスタ素子が高熱衝撃又は高熱振動の環境下で使用される場合、サーミスタ部から電極部が剥離するという問題があった。そこでサーミスタ部と、電極部との接合強度を高める技術が種々検討されている。例えば、特許文献1に記載のサーミスタ素子では、サーミスタ部と電極部とに共材となる同一の絶縁性の金属酸化物を含ませている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のサーミスタ素子では、サーミスタ部と電極部との間の化学的結合力は向上しているが、サーミスタ部と電極部との接合強度を向上させるための物理的な条件についての検討はされていなかった。
【0006】
本発明は、サーミスタ部と電極部との接合部分に剥離が生じにくいサーミスタ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るサーミスタ素子は、温度に応じて抵抗値が変化する板状の金属酸化物焼結体であるサーミスタ部と、板状の前記サーミスタ部の第一面及び前記第一面とは反対側の第二面の各々に形成された一対の電極部と、前記一対の電極部の各々に接続された一対のリード線とを備えたサーミスタ素子であって、前記サーミスタ部の前記第一面及び前記第二面は各々研磨されており、前記サーミスタ部の前記第一面及び前記第二面は各々、前記サーミスタ部の厚み方向に凹んだ凹部であって、前記厚み方向と垂直な面に対して前記凹部全体を投影した場合の第一投影図形が、前記垂直な面に対して前記凹部の開口を投影した場合の第二投影図形の外側となる部分を有する凹部を複数備え、前記一対の電極部の各々は、前記凹部の少なくとも一部を満たす凸部であって、前記垂直な面に対して自身を投影した場合の第三投影図形が前記第二投影図形の外側となる部分を有する凸部を複数有する。
【0008】
本態様のサーミスタ素子によれば、サーミスタ部の第一面及び第二面の各々が備える凹部に、電極部の凸部が形成されている。凹部の形状は、第一投影図形が、第二投影図形の外側となる部分を有する形状である。凸部の形状は、第三投影図形が、第二投影図形の外側となる部分を有する形状である。サーミスタ素子に、サーミスタ部と電極部とを引き剥がす力が加わった場合、凸部は、厚み方向と垂直な面において凹部の開口よりも外側になる部位を有しているため、凹部に引っかかる。このため、凹部又は凸部が変形されることなく凸部が凹部から引き抜かれない。したがって本態様のサーミスタ素子は、凹凸のみが形成されたサーミスタ部の第一面及び第二面に電極部が形成される従来のサーミスタ素子よりも、サーミスタ部と電極部との接合強度が大きく、電極部がサーミスタ部から剥がれにくい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置の構成等は、単なる説明例である。
図1の上側、下側、左側、右側、左斜め下側、及び右斜め上側を各々、サーミスタ素子1の上側、下側、左側、右側、前側、及び後ろ側と定義する。
【0011】
サーミスタ素子1は、例えば、温度センサに組み込まれ、自動車の排気ガス等の被測定流体の温度を検知する等の用途に用いられる素子である。サーミスタ素子1は、サーミスタ部10,一対の電極部20,一対のリード線40及び接合部30を主に備える。サーミスタ部10は、温度に応じて抵抗値が変化する板状(直方体状)の金属酸化物焼結体である。サーミスタ部10には、(Y
0.9Sr
0.1)(Al
0.60Mn
0.38Cr
0.02)O
3の組成を有するペロブスカイト型の結晶構造の金属酸化物である導電体と、サーミスタ素子1の抵抗値を調整するための絶縁性の金属酸化物とが含まれている。サーミスタ部10の第一面11及び第二面12は各々研磨され、凹凸の度合いが調整されている。第一面11及び第二面12は各々、最大高さ粗さRzが、0.8(μm)以下であることが好ましい。
【0012】
図2に模式的に示すように、板状をなすサーミスタ部10の第一面11及び第二面12(
図1参照)は各々、サーミスタ部10の厚み方向Dに凹んだ第一特定形状の凹部15を複数備える。第二面12は、第一面11とは反対側の面である。第一特定形状とは、
図3に示すように、サーミスタ部10の厚み方向Dと垂直な面50に対して凹部15全体を投影した場合の第一投影図形51が、面50に対して凹部15の開口14を投影した場合の第二投影図形52の外側となる部分を有する形状である。即ち、第一投影図形51は、厚み方向Dと垂直な一部又は全部の方向において、第二投影図形52の外側となる部位を有する。本実施形態の第一投影図形51は、厚み方向Dと垂直な全ての方向において、第二投影図形52の外側になる。本実施形態の凹部15の第一投影図形51は、凹部15の厚み方向Dに垂直な切断面のうち、面積が最大となる切断面と等しい。
【0013】
本実施形態の凹部15は、後述するように、サーミスタ部10を構成する金属酸化物焼結体を焼結する過程で形成された円状又は楕円状の気泡(ポア)が、研磨によって金属酸化物焼結体の表面に露出されて形成される。したがって、第一面11及び第二面12の各々には、第一特定形状を有しない凹部18も形成される場合がある。図示しないが、第一特定形状を有しない凹部18では、第一投影図は、第二投影図と等しい。即ち、凹部18には、厚み方向Dと垂直ないずれの方向にも、開口17の外側になる部位がない。
【0014】
一対の電極部20は、板状をなすサーミスタ部10の第一面11及び第二面12に形成されている。
図3に模式的に示すように、一対の電極部20は、サーミスタ部10と対向する側の面21及び面22(
図1参照)に、凹部15の少なくとも一部を満たす第二特定形状の凸部23を備える。第二特定形状とは、サーミスタ部10の厚み方向Dと垂直な面50に対して自身を投影した場合の第三投影図形53が第二投影図形52の外側となる部分を有する形状である。即ち、第三投影図形53は、厚み方向Dと垂直な一部又は全部の方向において、第二投影図形52の外側となる部位をもつ。本実施形態の第三投影図形53は、厚み方向Dと垂直な全ての方向において、第二投影図形52の外側になる。本実施形態の凸部23は、凹部15の形状に沿うように形成されている。即ち、凸部23は凹部15を満たしている。本実施形態の第三投影図形53は、凸部23の厚み方向Dに垂直な切断面のうち、面積が最大となる切断面と等しい。サーミスタ部10と、一対の電極部20との間の接合強度の観点からは、凸部23が凹部15を満たす割合が大きい方が、凸部23が凹部15を満たす割合が小さい場合に比べ好ましい。凸部23と凹部15との間に隙間が存在すると、サーミスタ部10と一対の電極部20との間の接触面積が減少するためである。凹部15及び凸部23は、第一面11及び第二面12の各々に略均一に分布していることが好ましい。この場合、第一面11及び第二面12の全体に亘って接合強度が略均一になり、接合強度のムラに起因して電極部20がサーミスタ部10から剥離することを回避できるからである。
【0015】
一対のリード線40の右端は各々、接合部30によって一対の電極部20の中央付近に接合されている。リード線40としては、例えば、ジュメット線、又はPt若しくはPt合金製の線材を用いることができる。一対のリード線40は互いに略平行であり、左右方向に伸びる。
【0016】
サーミスタ素子1の製造方法について説明する。サーミスタ素子1の製造方法は、金属酸化物焼結体形成工程、研磨工程、塗布工程、熱処理工程、切断工程、及び接合工程を備え、各工程はこの順で実施される。以下、サーミスタ素子1の製造方法が備える各工程について詳述する。
【0017】
(1)金属酸化物焼結体形成工程
Y,Sr,Cr,Mn,Alの酸化物、又は該元素の炭酸塩を、サーミスタ部10に含まれる、化学式(Y
0.9Sr
0.1)(Al
0.60Mn
0.38Cr
0.02)O
3のペロブスカイト型の結晶構造を有する導電体の組成となるよう秤量し、混合、仮焼により導電体仮焼粉を得る。導電体仮焼粉を粉砕し、得られた粉末に絶縁性の金属酸化物を所定量加えると共に適宜バインダー等を添加した後、金型に充填し、一軸プレス機を用いて直径40(mm)、厚さ1.5(mm)の円板状に成形する。円板状に成形された粉末(換言すれば、成形体)を、大気雰囲気下にて所定の温度で焼成し、導電性の金属酸化物焼結体を得る。所定の温度は、従来の金属酸化物焼結体形成工程の焼成温度よりも高い。従来の焼成温度で焼成した場合、焼成後のサーミスタウエハには気泡(ポア)がほとんど発生しない。円板状に成形された粉末(成形体)を所定の温度で焼成した場合、材料の一部が溶融し、凝固時に複数のポアが不規則に形成される。ポアは、例えば、球状及び楕円状である。焼成温度及び焼成時間は、ポアの最大径が5から20(μm)程度の大きさとなるように設定されることが好ましい。例えば、円板状に成形された粉末(成形体)は、1570(℃)、4時間の条件で焼成される。
【0018】
(2)研磨工程
円板状の金属酸化物焼結体の第一面11及び第二面12を研磨し、厚さ0.5(mm)のサーミスタウエハを得る。本実施形態の円板状の金属酸化物焼結体の第一面11及び第二面12は、円板状の金属酸化物焼結体が備える面のうち、最も面積が大きい円状の面である。研磨工程によって、上記した焼成によって金属酸化物焼結体内に形成された、不規則に存在する複数のポアの一部が研磨されて、金属酸化物焼結体の外部に露出した凹部状のポアであるオープンポアとなる。それにより第一面11及び第二面12の各々に凹部15が形成される。第一面11及び第二面12は各々、最大高さ粗さRzが、0.8(μm)以下となるように研磨されていることが好ましい。最大高さ粗さRzが第一面11及び第二面12の各々が研磨された場合、サーミスタ部10の第一面11及び第二面12の各々に電極部20を形成する際に、電極部20の材料である金属ペーストが凹部15に行き渡りやすい。即ち、凸部23が凹部15を満たす形状となりやすい。
【0019】
(3)塗布工程
研磨工程を経た板状の金属酸化物焼結体の第一面11及び第二面12の各々に、導電性金属を含む金属ペーストを塗布する。具体的にはまず、導電性金属の粉末をバインダーと共に混練して金属ペーストを得る。導電性金属の粉末は、例えば平均粒径2(μm)のPtの粉末である。バインダーは、例えば、エトセル及びターピネオールである。金属ペーストの粘度は、研磨工程を経た導電性酸化物の表面粗さを考慮して定められる。その後、研磨工程を経たサーミスタウエハの第一面11及び第二面12の各々に、金属ペーストをスクリーン印刷する。金属ペーストは、第一面11及び第二面12の各々に形成された凹部15に行き渡る。
【0020】
(5)熱処理工程
塗布工程を経たサーミスタウエハを熱処理し、電極部20を焼き付ける。1250℃で48時間という条件下で行われる。熱処理工程によって、金属ペーストからなる電極部20が金属酸化物焼結体の第一面11及び第二面12に形成される。
【0021】
(6)切断工程
熱処理工程を経た金属酸化物焼結体及び金属層を切断して、金属酸化物焼結体をサーミスタ部10とし、金属層を一対の電極部20とする複数のサーミスタチップにする。サーミスタチップは、例えば、0.50(mm)×0.50(mm)×0.35(mm)の直方体状である。
(7)接合工程
切断工程で切り出されたサーミスタチップが備える一対の電極部20に、一対のリード線40を金属ペーストを用いて接合する。金属ペーストは、導電性金属の粉末とバインダーとを混練して得られる。導電性金属は、例えば、Auであり、バインダーは、例えば、エトセル及びターピネオールである。以上の工程によって、サーミスタ素子1が得られる。
【0022】
上記サーミスタ素子1によれば、サーミスタ素子1に、サーミスタ部10と電極部20とを引き剥がす、厚み方向Dの力が加わった場合、凸部23は、厚み方向Dと垂直な面50において凹部15の開口14よりも外側になる部位を有しているため、凹部15に引っかかる。このため、凹部15又は凸部23が変形されることなく凸部23が凹部15から引き抜かれない。したがってサーミスタ素子1は、凹凸のみが形成されたサーミスタ部の第一面及び第二面に電極部が形成される従来のサーミスタ素子よりも、サーミスタ部10と電極部20との接合強度が大きく、電極部20がサーミスタ部10から剥がれにくい。サーミスタ素子1は、サーミスタ部10と一対の電極部20との間の化学的結合力のみでは十分な接合強度が得られない場合にも、凹部15と凸部23による物理的結合力によって一対の電極部20とサーミスタ部10との間の接合強度を高めることができる。
【0023】
本発明のサーミスタ素子1の製造方法は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更が加えられてもよい。例えば、以下の(A)から(E)までの変形が適宜加えられてもよい。
【0024】
(A)本実施形態のサーミスタ素子1のサーミスタ部10には、(Y
0.9Sr
0.1)(Al
0.60Mn
0.38Cr
0.02)O
3の組成を有するペロブスカイト型の結晶構造の金属酸化物である導電体が含まれているが、これに限定されることはない。具体的には、ペロブスカイト型結晶構造を示す化学式ABO
3のAサイトとして、Y,Nd,Sm,Gd,Yb,Sr,Ca,Mg等を含んでもよい。また、Bサイトとして、Al,Cr,Mn,Fe,Co等をサーミスタ部10に含ませて、サーミスタ素子1を構成してもよい。このような場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0025】
(B)サーミスタ素子1は、特開2012−74604号公報の
図3に示すように、サーミスタ部10,電極部20,接合部30,及びリード線40の一部が、ガラス層で被覆されてもよい。ガラス層の材料としては、結晶化ガラスであってもよいし、非晶質ガラスであってもよい。このようにした場合、サーミスタ素子1の実使用時に、サーミスタ部10が外部の雰囲気の影響を受けて特性が変化するのを効果的に抑制することができる。また、接合部30がガラス層で被覆されるため、リード線40及び電極部20の接続状態を安定して維持することができる。この場合上記サーミスタ素子1の製造工程において、S7の接合工程の後に、公知のガラス層を形成する工程が実行されればよい。
【0026】
(C)凹部15の形状は、上述の第一特定形状であればどのような形状でもよい。したがって、例えば、
図4の変形例1の凹部15のように、厚み方向Dに対して傾いた楕円形状であってもよい。他の例では、
図4の変形例2及び3の凹部15のように円状及び楕円形状以外の形状であってもよい。変形例1及び2のように、第一特定形状を有する凹部15の第一投影図形51は、サーミスタ部10の厚み方向Dと垂直な方向のうちの一部の方向において、第二投影図形52の外側になる部位をもってもよい。第一投影図形51の形状は、厚み方向Dに垂直な方向毎の開口14に対して最も外側になる部位の位置を示している。
【0027】
変形例1のように、第一特定形状を有する凹部15の第二投影図形52は、凹部15の厚み方向Dに垂直な切断面のうち、面積が最大となる切断面であってもよい。つまり、第一特定形状を有する凹部15の第一投影図形51は、凹部15の厚み方向Dに垂直な切断面のうち、面積が最大となる切断面にならなくてもよい。変形例1において複数の凹部15の形状が全て同様な形状である場合、複数の凹部15の少なくとも一部は、厚み方向Dに対して互いに異なる方向に傾いている方が好ましい。
【0028】
(D)凸部23の形状は、上述の第二特定形状を有する形状であればどのような形状でもよい。凸部23は、凹部15の一部を満たす形状であってもよい。全ての凹部15に、第二特定形状を有する凸部23が形成される必要はない。サーミスタ部10と一対の電極部20との間の接合強度を高める観点から、凹部15の数に対する凸部23の数である凸部形成割合が大きいほど、凸部形成割合が小さい場合に比べ好ましい。
【0029】
(E)サーミスタ素子1の製造方法は適宜変更されてよい。例えば、本実施形態のサーミスタ部10の前駆体である金属酸化物焼結体は、上記した(1)金属酸化物焼結体工程では、一軸プレス機を用いて得られた成形体を得て、その成形体を焼成するようにしているが、これに限定されることはない。例えば、導電体仮焼粉に絶縁性の金属酸化物、適宜のバインダー等を添加してシート成形を行い、得られたシート成形体(例えば、厚み1.0mm)を所定の温度で焼成して、金属酸化物焼結体内に複数のポアを形成するようにしてもよい。他の例では、凹部15の形成方法は適宜変更されてよい。