特許第6158609号(P6158609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158609
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】油脂固化剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/01 20060101AFI20170626BHJP
   A23D 7/02 20060101ALI20170626BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20170626BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20170626BHJP
   C11B 15/00 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   A23D7/01
   A23D7/02 500
   A23D9/013
   A23D9/02
   C11B15/00
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-132199(P2013-132199)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7161(P2015-7161A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年6月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山根 晋哉
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209350(JP,A)
【文献】 特開2000−116322(JP,A)
【文献】 特開2010−142152(JP,A)
【文献】 特開平01−252246(JP,A)
【文献】 特開2007−097419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/
C11B
C11C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分とB成分とを添加し、食用油脂組成物に含有される油脂100質量部に対して、当該A成分の含有量が0.1〜0.6質量部であり、且つ当該B成分の含有量が0.1〜0.6質量部となるように調整することを特徴とする保存中における液体の油脂の染み出しが抑制された食用油脂組成物の製造方法
A成分:炭素数16〜18の脂肪酸を主構成脂肪酸とし、且つエステル化率が40〜55%のソルビタン脂肪酸エステル;
B成分:炭素数16の脂肪酸を主構成脂肪酸とし、且つエステル化率が6580%のソルビタン脂肪酸エステル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂固化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油脂を固化するため水素添加等により油脂の融点を上昇させる方法が知られていた。しかし、この方法で製造される油脂は、通常トランス脂肪酸を含有するため、該油脂を食用に供することは健康への影響が懸念される。そこで、乳化剤を油脂固化剤として使用することにより、トランス脂肪酸を生成せずに油脂を固化する方法が種々提案されている。
【0003】
これらは、例えば、炭素数20以上の脂肪酸のエステルである油脂固化剤を含有すること特徴とする請求項1記載のマーガリン(特許文献1)、油脂固化剤が炭素数20以上の脂肪酸のエステルである油脂固化剤を含有する特徴とする請求項1記載のショートニング(特許文献2)、炭素数20以上の脂肪酸のエステルと、HLBが3以下のポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖脂肪酸エステルとを併用する油脂固化剤を含有する油脂固化剤(特許文献3)、ポリグリセリンの平均重合度が20〜40量体であり、構成脂肪酸は、全構成脂肪酸の内60%以上がベヘン酸であり、且つ(A)炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸を少なくとも1種類以上、(B)炭素数8〜14の直鎖飽和脂肪酸、炭素数18〜22の分岐脂肪酸及び炭素数18〜22の不飽和脂肪酸からなる群より選ばれた少なくとも1種類以上を含み、(A):(B)のモル比が、0.91:0.09〜0.99:0.01であり、且つエステル化率が70%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする油脂固化剤(特許文献4)等である。
【0004】
しかし、上記方法で使用される乳化剤の構成脂肪酸は、ベヘン酸等の炭素数20以上の脂肪酸が主体であるため、このような乳化剤を添加した油脂を食用に供した場合、その口解け等の食感が悪くなる虞があることから、これらの方法は必ずしも満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−116322号公報(請求項2)
【特許文献2】特開2000−116323号公報(請求項2)
【特許文献3】特開2000−119687号公報(請求項2)
【特許文献4】特開2012−082236号公報(請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、乳化剤の構成脂肪酸が炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まなくても油脂を固化することが可能な油脂固化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、脂肪酸組成及びエステル化率に特徴のある2種類の乳化剤を併用することにより上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)下記のA成分とB成分とを含有することを特徴とする油脂固化剤、
A成分:炭素数16〜18の脂肪酸を主構成脂肪酸とし、且つエステル化率が35%以上60%未満のソルビタン脂肪酸エステル;
B成分:炭素数16の脂肪酸を主構成脂肪酸とし、且つエステル化率が60〜85%のソルビタン脂肪酸エステル、
(2)前記(1)に記載の油脂固化剤を含有することを特徴とする食用油脂組成物、
からなっている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油脂固化剤を添加した食用油脂組成物は、十分な硬度が付与されるとともに、その保存中における液体の油脂の染み出し抑制の効果にも優れている。
本発明の油脂固化剤によれば、乳化剤の構成脂肪酸が炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まなくても上記の効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明でA成分として用いられるソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビトールと脂肪酸との直接エステル化反応により製造されるものであって、炭素数16〜18の脂肪酸を主構成脂肪酸とし、且つエステル化率が35%以上60%未満、好ましくは37〜58%である。エステル化率が35%未満又は60%を超える場合は、本発明の油脂固化剤の効果が十分に得られず、好ましくない。ここで、エステル化率(%)は下記式により算出される。なお、下記式中のエステル価及び水酸基価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.3−1996 エステル価]及び[2.3.6−1996 ヒドロキシル価]に準じて測定される。
【0011】
【数1】
【0012】
A成分の原料として用いられるソルビトールとしては、例えば、D−ソルビトールを50.0〜70.0質量%含有するD−ソルビトール液或いは白色粉末又は粒状のD−ソルビトールが挙げられる。
【0013】
A成分の原料として用いられる脂肪酸は炭素数16〜18の脂肪酸であり、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸等の飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸が挙げられる。これらの脂肪酸は、一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。本発明の油脂固化剤の効果を高める観点からは、好ましくは炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、さらに好ましくはパルミチン酸、ステアリン酸である。
【0014】
ここで、A成分について「炭素数16〜18の脂肪酸を主構成脂肪酸とする」とは、A成分を構成する脂肪酸(構成脂肪酸)の大部分は前記脂肪酸よりなるが、本発明の目的及び効果が達成される範囲で、他の脂肪酸が一種類又は二種類以上含まれてもよいとの意味である。より具体的には、A成分の構成脂肪酸100質量%中の炭素数16〜18の脂肪酸の含有量は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。
【0015】
また、A成分の構成脂肪酸は、本発明の油脂固化剤を添加した食用油脂組成物の食感に与える影響の観点からは、炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まないことが好ましい。「炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まない」とは、A成分の構成脂肪酸100質量%中の炭素数20以上の脂肪酸の含有量が5%未満、好ましくは1%未満であることを指す。
【0016】
ここで、A成分の構成脂肪酸100質量%中の炭素数16〜18の脂肪酸、炭素数20以上の脂肪酸その他の脂肪酸の含有量とは、該A成分の製造の原料である脂肪酸100質量%中の含有量を指すが、この含有量は、製造されたA成分について下記工程(1)〜(3)を実施して測定しても良い。
(1)試料の調製
「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.4.1.2−1996 メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)]に準じて試料を調製する。
(2)測定方法
「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)]に準じて測定する。
(3)定量
データ処理装置により記録されたピーク面積の総和に対する各ピーク面積の百分率をもって構成脂肪酸の含有量とする。
【0017】
A成分の製造(エステル化反応)において、ソルビトールに対する脂肪酸の仕込み量は、ソルビトール1モルに対して1.5〜2.7モル程度であるのが好ましい。
【0018】
A成分の製造方法は特に限定されないが、例えばソルビトールと脂肪酸とのエステル化反応は無触媒で行って良く、又は酸触媒あるいはアルカリ触媒を用いて行っても良いが、アルカリ触媒の存在下で行われるのが好ましい。酸触媒としては、例えば、濃硫酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。アルカリ触媒としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ触媒の使用量は、全仕込み量(乾燥物換算)の0.01〜1.0質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0019】
A成分の製造装置としては特に限定されないが、例えば上記エステル化反応は、例えば攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板、不活性ガス吹き込み管、温度計及び冷却器付き水分分離器等を備えた通常の反応容器に、ソルビトール、脂肪酸、及び触媒を供給して攪拌混合し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で一定時間加熱して行われる。反応温度は通常、180〜260℃の範囲、好ましくは200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下又は常圧下で、反応時間は0.5〜15時間、好ましくは1〜4時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、10以下を目安に決められる。
【0020】
エステル化反応終了後、触媒を用いた場合は、反応混合物中に残存する触媒を中和しても良い。その際、エステル化反応の温度が200℃以上の場合は液温を180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行って良い。中和後、その温度で好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1〜10時間放置する。未反応のソルビトール又はソルビトール分子内縮合物が下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0021】
本発明でB成分として用いられるソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビトールと脂肪酸との直接エステル化反応により製造されるものであって、炭素数16の脂肪酸を主構成脂肪酸とし、且つエステル化率が60〜85%、好ましくは62〜83%である。エステル化率が60%未満である場合は、本発明の油脂固化剤の効果が十分に得られず、好ましくない。またエステル化率が85%を超えるソルビタン脂肪酸エステルは、反応時間が著しく延長することや、得られるソルビタン脂肪酸エステルが着色する等の問題があるため、工業的な生産又は商業的に販売されている市販品の入手が困難であるため好ましくない。ここで、エステル化率(%)は下記式により算出される。なお、下記式中のエステル価及び水酸基価は、「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.3.3−1996 エステル価]及び[2.3.6−1996 ヒドロキシル価]に準じて測定される。
【0022】
【数2】
【0023】
B成分の原料として用いられるソルビトールとしては、例えば、D−ソルビトールを50.0〜70.0質量%含有するD−ソルビトール液或いは白色粉末又は粒状のD−ソルビトールが挙げられる。
【0024】
B成分の原料として用いられる脂肪酸は、炭素数16の脂肪酸であり、例えばパルミチン酸、パルミトレイン酸等が挙げられ、好ましくはパルミチン酸である。
【0025】
ここで、B成分について「炭素数16の脂肪酸を主構成脂肪酸とする」とは、B成分の構成脂肪酸の大部分は前記脂肪酸よりなるが、本発明の目的及び効果が達成される範囲で、他の脂肪酸が一種類又は二種類以上含まれてもよいとの意味である。より具体的には、B成分の構成脂肪酸100質量%中の炭素数16の脂肪酸の含有量は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。
【0026】
また、B成分の構成脂肪酸は、本発明の油脂固化剤を添加した食用油脂組成物の食感に与える影響の観点からは、炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まないことが好ましい。「炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まない」とは、B成分の構成脂肪酸100質量%中の炭素数20以上の脂肪酸の含有量が5%未満、好ましくは1%未満であることを指す。
【0027】
ここで、B成分の構成脂肪酸100質量%中の炭素数16の脂肪酸、炭素数20以上の脂肪酸その他の脂肪酸の含有量とは、該B成分の製造の原料である脂肪酸100質量%中の含有量を指すが、この含有量は、製造されたB成分について下記工程(1)〜(3)を実施して測定しても良い。
(1)試料の調製
「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.4.1.2−1996 メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)]に準じて試料を調製する。
(2)測定方法
「基準油脂分析試験法(I)」(社団法人 日本油化学会編)の[2.4.2.2−1996 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)]に準じて測定する。
(3)定量
データ処理装置により記録されたピーク面積の総和に対する各ピーク面積の百分率をもって構成脂肪酸の含有量とする。
【0028】
B成分の製造(エステル化反応)において、ソルビトールに対する脂肪酸の仕込み量は、ソルビトール1モルに対して2.7〜3.6モル程度であるのが好ましい。
【0029】
B成分の製造方法は特に限定されないが、例えばソルビトールと脂肪酸とのエステル化反応は無触媒で行って良く、又は酸触媒あるいはアルカリ触媒を用いて行っても良いが、アルカリ触媒の存在下で行われるのが好ましい。酸触媒としては、例えば、濃硫酸、p−トルエンスルホン酸等が挙げられる。アルカリ触媒としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ触媒の使用量は、全仕込み量(乾燥物換算)の0.01〜1.0質量%、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0030】
B成分の製造装置としては特に限定されないが、例えば上記エステル化反応は、例えば攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板、不活性ガス吹き込み管、温度計及び冷却器付き水分分離器等を備えた通常の反応容器に、ソルビトール、脂肪酸、及び触媒を供給して攪拌混合し、窒素又は二酸化炭素等の任意の不活性ガス雰囲気下で、エステル化反応により生成する水を系外に除去しながら、所定温度で一定時間加熱して行われる。反応温度は通常、180〜260℃の範囲、好ましくは200〜250℃の範囲である。また、反応圧力条件は減圧下又は常圧下で、反応時間は0.5〜15時間、好ましくは1〜4時間である。反応の終点は、通常反応混合物の酸価を測定し、10以下を目安に決められる。
【0031】
エステル化反応終了後、触媒を用いた場合は、反応混合物中に残存する触媒を中和しても良い。その際、エステル化反応の温度が200℃以上の場合は液温を180〜200℃に冷却してから中和処理を行うのが好ましい。また反応温度が200℃以下の場合は、そのままの温度で中和処理を行って良い。中和後、その温度で好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1〜10時間放置する。未反応のソルビトール又はソルビトール分子内縮合物が下層に分離した場合はそれを除去するのが好ましい。
【0032】
本発明の油脂固化剤は、食用油脂組成物の製造の際にA成分及びB成分を直接添加して用いても良く、又はこれらを予め混合し製剤化したものを用いても良い。また、これらを添加することにより得られるA成分及びB成分を含有する食用油脂組成物も本発明に含まれる。
【0033】
本発明の食用油脂組成物の形態に特に制限はないが、例えば油中水型乳化組成物であるマーガリン、ファットスプレッド、及び水分をほとんど含まないショートニング等の可塑性油脂組成物が挙げられる。ここで、マーガリンは、油脂含有率が80質量%以上のものをいい、ファットスプレッドは油脂含有率が80質量%未満のものをいう。
【0034】
本発明の食用油脂組成物の原料として用いられる油脂(即ち、本発明の油脂固化剤が対象とする油脂)に特に制限はないが、本発明の油脂固化剤により油脂の固化乃至増粘が可能になるため、20℃で液体である油脂が好ましい。そのような油脂としては、例えば大豆油、菜種油(菜種白絞油を含む)、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、綿実油、ぶどう種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、オリーブ油、カラシ油、米油、米糠油、小麦麦芽油、サフラワー油、ひまわり油及びこれらの油脂を分別処理したもの又はエステル交換処理したもの等が挙げられる。これらの油脂は、一種類で用いても良いし、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0035】
また、本発明の食用油脂組成物の原料として用いられる油脂としては、20℃で液体である油脂以外の油脂を適宜使用することができる。そのような油脂としては、例えば、パーム油(精製パーム油を含む)、パーム核油、カカオ脂、ヤシ油、ラード、乳脂、鶏脂、牛脂及びこれらの油脂を分別処理したもの又はエステル交換処理したもの等が挙げられ、中でも、可塑性油脂組成物の原料としては、温度の関数としての固体脂含量(SFC)曲線の勾配が大きくなり過ぎないため可塑性油脂組成物に適した植物油脂であるという観点から、パーム系油脂が好ましい。パーム系油脂としては、天然パーム油を精製して得られる精製パーム油や天然パーム油を分別して得られるパームオレインあるいはパームステアリンが好ましい。
【0036】
なお、20℃で液体である油脂及び20℃で液体である油脂以外の油脂として具体的に列挙した上記油脂は、いずれもトランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂であることからも本発明において好ましく用いられる。本発明の食用油脂組成物は、このようなトランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂のみを原料油脂として製造されることが好ましい。ここで、トランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂とは、該油脂を構成する脂肪酸100%中、トランス脂肪酸の含有量が5%未満、好ましくは1%未満の油脂をいう。
【0037】
本発明の食用油脂組成物の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法を用いることができる。以下に、マーガリンの製造方法を例示する。例えば、油脂及び本発明の油脂固化剤を混合し、50〜80℃、好ましくは60〜70℃に加熱して溶解し、所望により酸化防止剤(例えば抽出トコフェロール等)、着色料(例えばβ−カロテン等)、香料(例えばミルクフレーバー等)、乳化剤(例えばレシチン、グリセリン脂肪酸エステル等)等を添加して油相とする。一方、精製水に、所望により乳又は乳製品(例えば全粉乳、脱脂粉乳等)、食塩、砂糖類、酸味料(例えばクエン酸等)等を加え、50〜70℃に加熱して溶解し水相とする。次に、油相と水相を通常の攪拌・混合槽を用いて混合し、得られた混合液を送液ポンプで急冷捏和装置に送液し、油脂の結晶化と練捏を連続的に行いマーガリンを得る。また乳化工程をとらず、油相と水相をそれぞれ定量ポンプで急冷捏和装置に送液し、以下同様に処理しマーガリンを得ることもできる。
【0038】
本発明の食用油脂組成物中のA成分及びB成分の含有量は、食用油脂組成物の形態、食用油脂組成物中の20℃で液体である油脂の含有量、目的とする食用油脂組成物の硬度等により異なり一様ではないが、例えば食用油脂組成物に含有される油脂100質量部に対して、A成分の含有量が通常0.05〜1.0質量部、好ましくは0.1〜0.6質量部であり、B成分の含有量が通常0.05〜1.0質量部、好ましくは0.1〜0.6質量部となるように調整することができる。
【0039】
また、本発明の食用油脂組成物は、20℃で液体である油脂の含有量を30質量%以上とすることができる。特に食用油脂組成物の形態が可塑性油脂組成物である場合には、20℃で液体である油脂の含有量がこのように高い値であっても、本発明の油脂固化剤の効果が発揮されることにより、可塑性油脂組成物として十分な硬度が付与される。
【0040】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[製造例1]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にミリスチン酸(商品名:ミリスチン酸98;ミリスチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を479g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム1.1gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで1.5時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品A;エステル化率43%)590gを得た。
【0042】
[製造例2]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にパルミチン酸(商品名:パルミチン酸98;パルミチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を538g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム1.2gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで1.5時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品B;エステル化率44%)635gを得た。
【0043】
[製造例3]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にステアリン酸(商品名:NAA−180;ステアリン酸含有量99.5%;日油脂社製)を596g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム1.3gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで1.5時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品C;エステル化率44%)690gを得た。
【0044】
[製造例4]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にベヘニン酸(商品名:ベヘニン酸85;ベヘニン酸含有量91.0%;ミヨシ油脂社製)を704g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム1.4gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで1.5時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品D;エステル化率45%)770gを得た。
【0045】
[製造例5]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にミリスチン酸(商品名:ミリスチン酸98;ミリスチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を684g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.5gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで3時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品E;エステル化率70%)775gを得た。
【0046】
[製造例6]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にパルミチン酸(商品名:パルミチン酸98;パルミチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を768g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.5gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで3時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品F;エステル化率70%)840gを得た。
【0047】
[製造例7]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にステアリン酸(商品名:NAA−180;ステアリン酸含有量99.5%;日油脂社製)を852g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.5gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで3時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品G;エステル化率71%)910gを得た。
【0048】
[製造例8]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にベヘニン酸(商品名:ベヘニン酸85;ベヘニン酸含有量91.0%;ミヨシ油脂社製)を1005g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.6gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで3時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品H;エステル化率72%)1040gを得た。
【0049】
[製造例9]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にパルミチン酸(商品名:パルミチン酸98;パルミチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を461g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム1.1gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで1.5時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品I;エステル化率40%)560gを得た。
【0050】
[製造例10]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にパルミチン酸(商品名:パルミチン酸98;パルミチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を614g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム1.3gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで2時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品J;エステル化率55%)708gを得た。
【0051】
[製造例11]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にパルミチン酸(商品名:パルミチン酸98;パルミチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を717g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.5gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで3時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品K;エステル化率65%)800gを得た。
【0052】
[製造例12]
撹拌機、温度計、ガス吹込管及び水分離器を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、ソルビトール(商品名:ソルビトールS;日研化成社製)を260g仕込み、次にパルミチン酸(商品名:パルミチン酸98;パルミチン酸含有量99.5%;ミヨシ油脂社製)を870g仕込み、触媒として水酸化ナトリウム0.6gを加え、常圧下、窒素ガス気流中、235℃で酸価10以下となるまで4時間エステル化反応を行なった。得られた反応生成物を冷却し、ソルビタン脂肪酸エステル(試作品L;エステル化率80%)940gを得た。
【0053】
ここで、製造例1〜12で製造したソルビタン脂肪酸エステル(試作品A〜L)について主構成脂肪酸の炭素数及びエステル化率を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
[油脂固化剤の配合組成]
製造例1〜12で製造したソルビタン脂肪酸エステル(試作品A〜L)を原材料として用いて製造した油脂固化剤1〜15について、エステル化率35%以上60%未満のソルビタン脂肪酸エステル及びエステル化率が60〜85%のソルビタン脂肪酸エステルの配合割合並びにこれらソルビタン脂肪酸エステルの主構成脂肪酸の炭素数及びエステル化率を表2に示す。この内、油脂固化剤1〜6は本発明に係る実施例であり、油脂固化剤7〜15は、それらに対する比較例である。
【0056】
【表2】
【0057】
[油脂固化剤の製造方法]
表2に示した原材料の配合に基づき、油脂固化剤1〜15各50gを製造した。これら油脂固化剤の製造方法を以下に示す。
【0058】
即ち、先ず、ワーリングブレンダー(型式:7012G;ワーリング社製)に原材料を投入した。次に、該ブレンダーのスイッチを4(回転速度8000rpm)に設定し、該ブレンダーにて原材料を3分間粉砕及び混合し、粉末状の油脂固化剤各50gを得た。
【0059】
[試験例]
[マーガリンの製造及び評価]
(1)マーガリンの原材料
1)精製水
2)食塩
3)菜種白絞油(商品名;さらさらキャノーラ油;J−オイルミルズ社製)
4)精製パーム油(商品名:RPO;植田製油社製)
5)油脂固化剤1〜15
6)グリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムS−95;エステル化率70%;理研ビ
タミン社製)
7)レシチン(商品名:レシチンA;日清オイリオ社製)
【0060】
(2)マーガリンの製造方法
表3に示した原材料の配合割合及び下記1)〜4)の工程に従いマーガリン1〜15を作製した。マーガリンの作製量は各3000gとした。
1)精製水に食塩を加えて溶解し、60℃に加温して水相とした。
2)菜種白絞油及び精製パーム油からなる配合油に油脂固化剤1〜15、グリセリン脂肪酸エステル並びにレシチンを加えて溶解し、70℃に加温して油相とした。
3)2)の油相をTKホモミキサー(型式:MARKII;プライミクス社製)で低速で攪拌しながら、1)の水相を徐々に加え、全て加えた後、高速で撹拌し、W/O乳化させた。
4)得られた乳化液を常法により急冷捏和後、円柱型のプラスチック製容器(直径65mm、高さ40mm)に充填したものを25℃で24時間テンパリング処理をした後5℃で48時間保存し、マーガリン1〜15を得た。
5)対照として、油脂固化剤を使用せずに上記1)〜4)を同様に実施し、油脂固化剤を含有しないマーガリン16を得た。
【0061】
【表3】
【0062】
(3)硬度の測定
プラスチック製容器に充填された5℃のマーガリン1〜16について、テクスチャーアナライザー(製品名:Ez Test;島津製作所社製)を用いて25℃の環境下で硬度を測定した。硬度の測定では、直径14mmの円柱プランジャーを使用し、該プランジャーをマーガリン表面より8mm押し込んだ際の応力(N)を測定した。
【0063】
(4)油脂の染み出し抑制効果の測定
プラスチック製容器に充填されたマーガリン1〜16の表面に、濾紙(商品名:No.5C;アドバンテック東洋社製、幅10mm、高さ200mm短冊)の短側面の片方に垂直に接触させ、25℃の恒温器内で24時間静置した。24時間静置した後、濾紙に染み込んだ油脂の移動距離(mm)を測定した。
【0064】
(5)25℃での保存安定性の評価
プラスチック製容器に充填されたマーガリン1〜16を25℃の恒温器内内に1週間保存した後、その表面上に分離した液体の油脂(液体油)の状態を目視で観察して評価した。結果は、以下の評価基準に従い記号化した。
○:表面に液体油は全く見られない
△:表面にわずかな液体油が見られる
×:分離した液体油がその表面で層をなしている
【0065】
(6)結果
(3)〜(5)の結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4の結果から明らかなように、本発明の油脂固化剤1〜6を添加したマーガリン1〜6は、20℃で液体である油脂を30質量%以上含有していながら、可塑性油脂組成物として十分な硬度が付与されているとともに、染み出し抑制効果及び保存安定性にも優れていた。これに対し、油脂固化剤7〜15を添加したマーガリン7〜15及び対照のマーガリン16では、いずれの評価項目においても本発明のものに比べて劣っていた。また、本発明のこのような効果は、炭素数20以上の脂肪酸を実質的に含まない乳化剤のみを使用して実現されたものであり、この点においても本発明は優れている。