特許第6158632号(P6158632)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6158632
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】地下水誘導装置及び地下水誘導方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 19/10 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
   E02D19/10
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-163475(P2013-163475)
(22)【出願日】2013年8月6日
(65)【公開番号】特開2015-31124(P2015-31124A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 一三
(72)【発明者】
【氏名】上本 勝広
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 剛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】永谷 英基
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−121743(JP,A)
【文献】 特開平03−069793(JP,A)
【文献】 特開2001−279654(JP,A)
【文献】 特開平04−323493(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0278398(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 19/00〜 25/00
E03B 1/00〜 11/16
E21B 1/00〜 49/10
E02D 1/00〜 3/115
F24J 1/00〜 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透水層の上部に位置する上部帯水層と、前記不透水層の下部に位置する下部帯水層とを有する地盤を掘削して地表から前記下部帯水層まで延在する掘削孔を形成し、前記上部帯水層及び前記下部帯水層のいずれか一方の帯水層から他方の帯水層に地下水を移送させる地下水誘導装置において、
前記掘削孔に上方から挿入される管状部と、
前記管状部の上部又は上下部を封止する封止部と、
前記管状部に設けられ、前記管状部を前記掘削孔に挿入したときに前記一方の帯水層に対面し、前記一方の帯水層から地下水を前記管状部内に受け入れる地下水導入部と、
前記管状部に設けられ、前記管状部を前記掘削孔に挿入したときに前記他方の帯水層に対面し、前記管状部から地下水を前記他方の帯水層に排出する地下水導出部と、
前記地下水導入部から導入された地下水を前記地下水導出部に導く流路と、前記流路を開閉する逆止弁と、を有し、前記管状部内で上下に摺動して往復運動を行うピストン部と、
を備え
前記ピストン部は、前記封止部が前記管状部の上部又は上下部を封止した状態において、前記管状部内で摺動することにより、地下水を前記他方の帯水層に移送させる、
地下水誘導装置。
【請求項2】
前記ピストン部に往復運動を行わせる駆動手段を備え、前記駆動手段は、前記地表よりも上方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の地下水誘導装置。
【請求項3】
前記地下水導入部は、前記管状部の一端側に設けられて地下水を前記管状部内に導入するための複数の地下水導入孔を有し、前記地下水導出部は、前記管状部の他端側に設けられて前記管状部内の地下水を導出するための複数の地下水導出孔を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の地下水誘導装置。
【請求項4】
前記ピストン部の外側には、前記管状部の内側面上で摺動するシール部が配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項の地下水誘導装置。
【請求項5】
不透水層の上部に位置する上部帯水層と、前記不透水層の下部に位置する下部帯水層とを有する地盤を掘削して地表から少なくとも前記下部帯水層まで延在する掘削孔を形成し、前記上部帯水層及び前記下部帯水層のいずれか一方の帯水層から他方の帯水層に地下水を移送させる地下水誘導方法において、
上部又は上下部が封止された管状部を前記掘削孔に上方から挿入し、前記管状部に設けられた地下水導入部を前記一方の帯水層に対面させると共に、前記管状部に設けられた地下水導出部を前記他方の帯水層に対面させる管状部挿入工程と、
前記地下水導入部から導入された地下水を前記地下水導出部に導く流路と、前記流路を開閉する逆止弁と、を有するピストン部を、前記管状部内で上下に摺動させて往復運動を行わせるピストン往復工程と、
を備え
前記ピストン往復工程では、前記管状部の上部又は上下部が封止された状態において、前記ピストン部が前記管状部内で摺動することにより、地下水を前記他方の帯水層に移送させる、
地下水誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の帯水層を有する地盤において一方の帯水層から他方の帯水層に地下水を移送させる地下水誘導装置及び地下水誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤を掘削してトンネル等の構造物を造るための空間を形成する際には、地盤が崩れることを防止するための土留め壁が造られる。このように土留め壁が造られれば、周囲に地下水を含む帯水層が存在していても、土留め壁によって地下水の流入が遮られることとなる。しかし、土留め壁を配置した場合でも、掘削空間の底面より高い位置に帯水層の地下水位が位置する場合には、帯水層内の地下水が土留め壁を下から回りこんで下から掘削空間に地下水が浸み出してくることがある。そこで、帯水層の地下水を移送させて地下水位を下げ地下水の水圧を低下させることにより、地下水が掘削空間に浸み出す事態を回避することができる。
【0003】
このように帯水層の地下水を移送させる工法は、特開平6−322797号公報に開示されている。この公報には、複数の帯水層を有する地盤を掘削して井戸を形成し、この井戸内で層別揚水注水装置を稼動させることによって、下部帯水層から上部帯水層に地下水を移送させる工法が記載されている。層別揚水注水装置は、地下水を通す複数の処理水管と、下部帯水層の地下水を汲み上げるポンプと、上部帯水層と下部帯水層の間に位置する不透水層に対面する遮水パッカと、を備えている。この層別揚水注水装置では、下部帯水層から地下水をくみ上げて上部帯水層に移送させており、地下水を地上まで汲み上げていないので、地下水を下水道に流す作業が不要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−322797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
地下水を地上まで汲み上げて下水道に流す場合、下水道使用料金等、下水処理に関するコストが掛かるという問題がある。また、上述したように、層別揚水注水装置では、地下水の移送を行う際に、地下水をくみ上げるためのポンプや複数の処理水管等の配管設備を掘削孔に挿入しなければならない。また、ポンプの大きさは移送させる地下水の量によって変わり、地下水の量によってはポンプのサイズが大きくなる場合がある。このようにポンプが大きいと、掘削しなければならない掘削孔も大きくなるので、掘削孔の掘削時間が長期化することがある。従って、帯水層の地下水を移送させる時間を短縮させることができず、地下水の移送を容易に行えないという問題がある。
【0006】
本発明は、地下水の移送を容易に行うことができる地下水誘導装置及び地下水誘導方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の地下水誘導装置は、不透水層の上部に位置する上部帯水層と、不透水層の下部に位置する下部帯水層とを有する地盤を掘削して地表から下部帯水層まで延在する掘削孔を形成し、上部帯水層及び下部帯水層のいずれか一方の帯水層から他方の帯水層に地下水を移送させる地下水誘導装置において、掘削孔に上方から挿入される管状部と、管状部の上部又は上下部を封止する封止部と、管状部に設けられ、管状部を掘削孔に挿入したときに一方の帯水層に対面し、一方の帯水層から地下水を管状部内に受け入れる地下水導入部と、管状部に設けられ、管状部を掘削孔に挿入したときに他方の帯水層に対面し、管状部から地下水を他方の帯水層に排出する地下水導出部と、地下水導入部から導入された地下水を地下水導出部に導く流路と、流路を開閉する逆止弁と、を有し、管状部内で上下に摺動して往復運動を行うピストン部と、を備え、ピストン部は、封止部が管状部の上部又は上下部を封止した状態において、管状部内で摺動することにより、地下水を他方の帯水層に移送させる
【0008】
一方の帯水層における地下水を他方の帯水層に移送させる場合において、地下水が地表にまで汲み上げられると、地下水が空気に触れることによって変質することがある。このように地下水が変質すると、地下水の処理が困難になるという問題を生じさせる。そこで、本発明の地下水誘導装置では、地下水が一方の帯水層から管状部に入り込み、管状部内の地下水は、ピストン部の往復運動によって地下水導出部側に押し込まれた後に他方の帯水層に排出される。よって、地下水が地表まで汲み上げられることはないので、地下水が変質する事態を回避することができると共に下水処理に関するコストを抑えることができる。また、ピストン部の往復運動によって地下水を移送させているので、地下水を移送させるためのポンプや複数の処理水管は不要となる。よって、移送させる地下水の量が多い場合には、ピストン部の往復回数を増やしたりピストン部の往復速度を速めたりすればよく、掘削孔を大きくする必要はないので、掘削孔の掘削時間が長期化する事態を回避することができる。従って、地下水の移送を容易に行うことが可能となる。更に、封止部によって管状部の上部又は上下部を封止しているので、封止部の上下位置を調整することによって地下水を移送させる対象の帯水層の位置を正確に定めることができる。従って、地下水の移送量を必要最小限に減少させることができるので、環境負荷を低減させることが可能となる。
【0009】
また、ピストン部に往復運動を行わせる駆動手段を備え、駆動手段は、地表よりも上方に設置されている。
【0010】
ここで、上述した従来の層別揚水注水装置のように、ポンプや複数の処理水管が掘削孔内に挿入されている場合には、メンテナンス時にポンプや複数の処理水管を掘削孔から抜き取らなければならないので手間がかかる。更に、ポンプや複数の処理水管が掘削孔内にあると、土や水が詰まり易いという問題もある。これに対して、本発明の地下水誘導装置のように、ピストン運動を利用して地下水の移送を行わせているので、駆動手段を地表よりも上方に設置することを可能にし、駆動手段に土や水が詰まることなく、メンテナンスを容易に行うことが可能となる。
【0011】
また、地下水導入部は、管状部の一端側に設けられて地下水を管状部内に導入するための複数の地下水導入孔を有し、地下水導出部は、管状部の他端側に設けられて管状部内の地下水を導出するための複数の地下水導出孔を有する。
【0012】
このように、管状部の一端側に設けられた地下水導入部が複数の地下水導入孔を有し、管状部の他端側に設けられた地下水導出部が複数の地下水導出孔を有する構成にすると、管状部の一端側及び他端側に穴を開けるだけで、大きな石を通さないフィルタとして地下水導入部及び地下水導出部を構成することができる。
【0013】
また、ピストン部の外側には、管状部の内側面上で摺動するシール部が配置されている。
【0014】
このようにシール部が配置されていると、シール部が管状部の内側面に密着した状態となるので、ピストン部の往復運動によって管状部内を加圧又は減圧させ易くなる。よって、地下水導入部から管状部内に地下水を導入させ易くなると共に、ピストン部の下流側に移送した地下水をより効率よく地下水導出部から排出させることができる。
【0015】
本発明の地下水誘導方法は、不透水層の上部に位置する上部帯水層と、不透水層の下部に位置する下部帯水層とを有する地盤を掘削して地表から少なくとも下部帯水層まで延在する掘削孔を形成し、上部帯水層及び下部帯水層のいずれか一方の帯水層から他方の帯水層に地下水を移送させる地下水誘導方法において、上部又は上下部が封止された管状部を掘削孔に上方から挿入し、管状部に設けられた地下水導入部を一方の帯水層に対面させると共に、管状部に設けられた地下水導出部を他方の帯水層に対面させる管状部挿入工程と、地下水導入部から導入された地下水を地下水導出部に導く流路と、流路を開閉する逆止弁と、を有するピストン部を、管状部内で上下に摺動させて往復運動を行わせるピストン往復工程と、を備え、ピストン往復工程では、管状部の上部又は上下部が封止された状態において、ピストン部が管状部内で摺動することにより、地下水を他方の帯水層に移送させる
【0016】
本発明の地下水誘導方法では、管状部挿入工程で管状部が掘削孔に挿入されると、一方の帯水層における地下水が地下水導入部から管状部に入り込む。そして、ピストン往復工程では、ピストン部の往復運動によって管状部内の地下水を、地下水導出部側に押し込んで地下水導出部から他方の帯水層に排出させる。よって、地下水が地上に汲み上げられることが無いので、地下水が変質する事態を回避することができると共に下水処理に関するコストを抑えることができる。また、ピストン部の往復運動によって地下水を移送させているので、ポンプや複数の処理水管は不要である。よって、移送させる地下水の量が多い場合には、ピストン部の往復回数を増やしたりピストン部の往復速度を速めたりすればよく、掘削孔を大きくする必要はないので掘削孔の掘削時間が長期化する事態を回避することができる。従って、地下水の移送を容易に行うことが可能となる。更に、管状部の上部又は上下部が封止されているので、管状部の上下位置を調整することによって地下水を移送させる対象の帯水層の位置を正確に定めることができる。従って、地下水の移送量を必要最小限に減少させることができるので、環境負荷を低減させることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、地下水の移送を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る地下水誘導装置の一実施形態を示す断面図である。
図2】地下水導入部及び地下水導出部を拡大した断面図である。
図3図1の地下水誘導装置のピストン部を拡大した斜視図である。
図4】地下水誘導装置を用いて地下水を移送させる手法を示す断面図である。
図5】軟弱地盤層で用いる地下水誘導装置を示す断面図である。
図6】地下水誘導装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る地下水誘導装置及び地下水誘導方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図1に示されるように、地盤1を掘削して形成した掘削空間Sに地下構造物を建設する際には、地盤1が掘削空間Sに崩れるのを防止するために土留め壁2が用いられる。地盤1は、第1〜第3の帯水層3,5,7と、第1〜第3の不透水層4,6,8とを有しており、地表9から、第1の帯水層3、第1の不透水層4、第2の帯水層(上部帯水層)5、第2の不透水層6、第3の帯水層(下部帯水層)7、第3の不透水層8の順で積層されている。第1〜第3の帯水層3,5,7は、砂礫で構成されており、地下水を含む層である。第1〜第3の不透水層4,6,8は、粘度質で水を通しにくい層である。また、掘削空間Sは、第3の帯水層7における途中の深さまで地盤1が掘削されて形成されている。
【0021】
以上のような地盤1では、掘削空間Sの底面Bより高い位置に帯水層5の地下水位H1が位置しているので、帯水層5内の地下水が土留め壁2を下から回りこんで掘削空間Sの底面Bから地下水が浸み出してくることがある。そこで、地下水誘導装置10を用いて、第2の帯水層5の地下水を第3の帯水層7に移送させて地下水位H1を下げることによって地下水の水圧を低下させれば、上記の問題を回避することができる。
【0022】
第2の帯水層5における地下水を移送させる地下水誘導装置10は、地盤1を地表9から不透水層8まで鉛直方向に掘削して断面が円形に形成された掘削孔Aに上方から挿入される管状部11を備えている。地下水誘導装置10は、管状部11内に第2の帯水層5における地下水を流入させて第3の帯水層7に移送させる。図1及び図2に示されるように、地下水誘導装置10は、管状部11と、管状部11内に地下水を流入させるための地下水導入部12と、地下水を管状部11から排出させるための地下水導出部13と、管状部11を上方から封止する第1のパッカ(封止部)14と、管状部11を下方から封止する第2のパッカ(封止部)15と、管状部11内で上下に往復運動するピストン部20と、を備えている。
【0023】
地下水導入部12は、円管状となっており、管状部11の上側で連続している。地下水導入部12は、縦長の地下水流入孔12aを多数有している。各地下水導入孔12aは、帯水層5の砂礫が入らない程度の小さな穴となっているので、帯水層5に含まれた地下水のみを通すことが可能となっている。また、地下水導出部13は、地下水導入部12と同様、縦長の地下水導出孔13aを多数有している。地下水導出部13は、管状部11の下部で連続している点以外は、地下水導入部12と同一構成となっている。
【0024】
図1に示されるように、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13における上下方向の長さの合計は、不透水層6の上下方向の長さより長く、第2の帯水層5の上端と第3の帯水層7の下端との間における上下方向の長さより短くなっている。よって、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13を掘削孔A内に挿入したときには、地下水導入部12を第2の帯水層5に対面させると共に地下水導出部13を第3の帯水層7に対面させることが可能となっている。また、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13の径は、掘削孔Aの径と同程度か掘削孔Aの径より若干小さい程度となっており、掘削孔Aに挿入したときに、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13の外側が掘削孔Aの内側面Nに接触するようになっている。
【0025】
図2に示されるように、第1のパッカ14は、管状部11の上端に配置されており、内部に窒素ガスが供給されることにより膨張する。この窒素ガスは、地上の窒素ガスボンベ(不図示)から第1のパッカ14に供給される。第1のパッカ14には、管状部11の内部でピストン部20を保持するピストン保持部16を挿通する挿通孔14aが設けられている。棒状のピストン保持部16は、Oリング14bを介して挿通孔14a内に挿入されることにより第1のパッカ14を保持する。
【0026】
第1のパッカ14は、地下水の移送作業を行う前は図2に示されるように収縮した状態となっている。そして、管状部11が掘削孔Aに挿入されて第1のパッカ14が膨張したときには、第1のパッカ14が掘削孔Aの内側面Nとピストン保持部16に密着する。よって、管状部11の上端を封止することが可能となる。また、第2のパッカ15は、第1のパッカ14と同様、挿通孔15aとOリング15bとを備えている。第2のパッカ15は、地下水導出部13の下部に配置されている点以外は、第1のパッカ14と同一の構成となっている。
【0027】
ピストン保持部16は、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13の内部に挿通されており、管状部11内でピストン部20を保持している。よって、ピストン保持部16が上下に移動することによってピストン部20の往復運動が可能となっている。ピストン部20は、略円柱状となっており、ピストン部20の外側には第1のOリング(シール部)21を保持する第1の環状凹部20aと、第2のOリング(シール部)22を保持する第2の環状凹部20bとが上下一対として設けられている。
【0028】
図2及び図3に示されるように、第1の環状凹部20aに保持された第1のOリング21と、第2の環状凹部20bに保持された第2のOリング22は、掘削孔Aの内側面Nに密着する。また、ピストン部20は、上下に貫通する一対の流路23と、ピストン部20の下面20cで流路23を開閉する一対の逆止弁24とを備えている。逆止弁24は、ピストン部20の下面20cに沿って延在する軸部24aを中心として板状の開閉部24bが揺動する構成となっている。よって、流路23を通って上から下に地下水が流れると軸部24aを中心として開閉部24bが開き、下から上に向かって地下水が流れると軸部24aを中心として開閉部24bが閉じる。このような軸部24aと開閉部24bによって逆止弁24が構成されているので、簡易な構造となっている。
【0029】
図1に示されるように、ピストン保持部16の上端は、ピストン部20を上下に往復運動させる駆動手段30に連結されている。駆動手段30は、地表9に設置される架台31と、架台31に連結されると共に棒状のピストン保持部16を上下に移動させる棒保持部32と、を備えている。棒保持部32は、筒状の雌螺子部32aを有しており、この雌螺子部32aにピストン保持部16の上部側の雄螺子部16aを螺合させることによって、ピストン保持部16を保持している。棒保持部32の内部には、モータと、モータの駆動力を雌螺子部32aに伝達させるギヤ群と、が設けられている。駆動手段30は、モータで雌螺子部32aを回転させることにより、ピストン保持部16を上下に移動させてピストン部20を管状部11内で上下に往復運動させる。
【0030】
次に、地下水誘導装置10を用いて第2の帯水層5から第3の帯水層7に地下水を移送させる地下水誘導方法について、図1図2及び図4を参照しながら説明する。まず、地盤1を地表9から第3の不透水層8まで掘削して掘削孔Aを形成する。そして、地下水導出部13、管状部11及び地下水導入部12を掘削孔Aに上方から挿入し、地下水導入部12の外側を第2の帯水層5の下端部分に対面させると共に地下水導出部13の外側を第3の帯水層7に対面させる(管状部挿入工程)。
【0031】
その後、パッカ14,15とピストン部20とを保持するピストン保持部16を上方から掘削孔Aに挿入し、ピストン部20を管状部11に挿入させてOリング21,22を管状部11の内側面11a上で摺動させた状態にしておく。この状態でパッカ14,15に窒素ガスを供給してパッカ14,15を膨張させ、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13の内部を密封する。そして、図4(a)に示されるように、第2の帯水層5の下端から地下水W1が地下水導入部12の地下水導入孔12aに入り込んで管状部11内部に移送される。管状部11内に移送された地下水W1は、管状部11内を落下してピストン部20の流路23に上方から入り込み、この地下水W1によって逆止弁24は開放される。
【0032】
このように帯水層5の下端から地下水導入部12を介して管状部11に流入した地下水W1は、ピストン部20の下方に移送されるが、これと同時に駆動手段30の駆動によってピストン部20が上下に往復運動する。すなわち、パッカ14,15を膨張させた後に駆動手段30のモータを駆動させるとピストン保持部16が上下移動し、これに伴いピストン部20が上下に往復運動する(ピストン往復工程)。
【0033】
ここで、図4(a)及び図4(b)に示されるように、ピストン部20を上方に移動させると、ピストン部20に対して地下水W1は下方に相対移動するので逆止弁24が流路23を開放し、地下水W1はピストン部20の下方に移送される。また、ピストン部20を下方に移動させると、地下水W1はピストン部20に対して上方に相対移動することとなるので、逆止弁24が流路23を閉塞させる。そして、逆止弁24が流路23を閉塞させることによりピストン部20の上方が減圧されピストン部20の下方が加圧されるので、第2の帯水層5から地下水W1が管状部11内に流入すると共に、ピストン部20の下方に移送された地下水W1は地下水導出部13の地下水導出孔13aから第3の帯水層7に押し出されることとなる。
【0034】
このように地下水誘導装置10では、第2の帯水層5における地下水W1を第3の帯水層7に移送させることができるので、ピストン部20の往復運動によって第2の帯水層5の地下水位H1を地下水位H2のように低下させることができる。
【0035】
以上のように地下水誘導装置10及び地下水誘導装置10を用いた地下水誘導方法では、地下水W1が第2の帯水層5から管状部11に入り込み、管状部11内の地下水W1は、ピストン部20の往復運動によって地下水導出部13側に押し込まれた後に第3の帯水層7に排出される。よって、地下水W1が地表9まで汲み上げられることはないので地下水W1が空気に触れて変質する事態を回避することができると共に下水処理に関するコストを抑えることができる。
【0036】
また、ピストン部20の往復運動で地下水W1を移送させているので、地下水W1を移送させるためのポンプや複雑な処理水管は不要である。よって、移送させる地下水W1の量が多い場合には、ピストン部20の往復回数を増やしたりピストン部20の往復速度を速めたりすればよく、大きい掘削孔Aを形成する必要がないので、掘削孔Aの掘削時間が長期化する事態を回避することができる。従って、地下水W1の移送を容易に行うことができる。更に、地下水誘導装置10では、第1及び第2のパッカ14,15によって管状部11の上下部を封止しているので、パッカ14,15の上下位置を調整することによって地下水を移送させる対象の帯水層(この場合は第2の帯水層5と第3の帯水層7)の位置を正確に定めることができる。従って、地下水の移送量を必要最小限に減少させることができるので、環境負荷を低減させることが可能となる。
【0037】
また、地下水誘導装置10では、ピストン部20によるピストン運動を利用して地下水W1の移送を行っているので、駆動手段30を地表9よりも上方に設置することを可能にしている。よって、駆動手段30に土や水が詰まることを回避すると共に、メンテナンスを容易に行うことができる。
【0038】
また、地下水誘導装置10では、管状部11の上側に設けられた地下水導入部12が複数の地下水導入孔12aを有し、管状部11の下端に設けられた地下水導出部13が複数の地下水導出孔13aを有する構成となっている。このように、管状部11に穴を開けるだけで、大きな石を通さないフィルタとして地下水導入部12及び地下水導出部13を構成することができる。
【0039】
また、ピストン部20の外側には、管状部11の内側面11a上で摺動するOリング21,22が配置されているので、Oリング21,22は管状部11の内側面11aに密着した状態となっている。よって、地下水導入部12から管状部11内に地下水W1を導入させ易くなると共に、ピストン部20の下流側に移送された地下水W1をより効率よく地下水導出部13から排出させることができる。
【0040】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0041】
上記実施形態では、地下水誘導装置10を用いて土留め壁2の背後における第2の帯水層5の地下水位H1を低下させたが、図5に示されるように、軟弱地盤51の液状化対策として自然地下水位H4を低下させる場合でも地下水誘導装置10を用いることは可能である。すなわち、地盤中の帯水層における地下水位を低下させる用途であれば、地下水誘導装置10を採用することが可能である。
【0042】
図5に示されるように、地盤51の上部には構造物K1,K2が設けられており、地盤51には、構造物K1,K2の直下に地下水が流入するのを防止するための一対の止水壁52が打設されている。地盤51における止水壁52で挟まれた領域51Aには、地下水誘導装置10の管状部11を挿入するための掘削孔Aが3箇所に形成されている。各掘削孔Aに管状部11を挿入して地下水誘導装置10を稼動させることにより、第2の帯水層5における地下水を第3の帯水層7に移送する。このように止水壁52で挟まれた領域51Aにおける地下水を移送することにより、領域51A内における地下水位を自然地下水位H4から地下水位H3に低下させることも可能となる。
【0043】
また、地下水誘導装置10は、ポンプではなくピストン部20で地下水を移送しているので、ポンプを使用した場合と比較して、地下水の移送量の微調整が可能になると共に地下水の移送量を低減させることも可能となる。このように地下水の移送量が低減可能となっているので、地上に位置する構造物K1,K2への影響を低減させることも可能となる。
【0044】
また、上記実施形態では、上側の帯水層5から下側の帯水層7に地下水W1を移送させる地下水誘導装置10について説明したが、建設現場によっては下側の帯水層7から上側の帯水層5に地下水を移送させなければならない場合もある。このような場合には、図6に示されるように、下側の帯水層7から上側の帯水層5に地下水W2を移送する変形例の地下水誘導装置60を用いることができる。
【0045】
変形例の地下水誘導装置60が上記実施形態の地下水誘導装置10と異なる点は、地下水導入部及び地下水導出部の上下位置と、逆止弁の上下位置とが逆になっている点のみである。すなわち、変形例の地下水誘導装置60において、地下水導入部62は管状部11の下部に連続しており、地下水導出部63は管状部11の上部に連続している。また、ピストン部70は、上下に貫通する一対の流路73の上部で流路73を開閉する逆止弁74を備えており、逆止弁74は、ピストン部70の上面で流路73を開閉する。
【0046】
図6(a)に示されるように、上記実施形態の地下水誘導装置10と同様、パッカ14,15を膨張させて管状部11、地下水導入部62及び地下水導出部63を密封させた状態とすると、地下水導入部62から管状部11内に地下水W2が入り込み管状部11内における地下水W2の水位が上昇する。そして、ピストン部70を下方に移動させると、ピストン部70に対して地下水W2が上方に相対移動するので、逆止弁74が流路73を開放し、地下水W2はピストン部70の上方に向かって流れる。
【0047】
また、ピストン部70を上方に移動させると、逆止弁74が流路73を閉塞させることによりピストン部70の上方が加圧されピストン部70の下方が減圧される。よって、第3の帯水層7から地下水W2が管状部11に流入すると共に、ピストン部70の上方に移送された地下水W2は地下水導出部63の地下水流出孔から第2の帯水層5に押し出されることとなる。このように地下水誘導装置60では、第3の帯水層7における地下水W2を第2の帯水層5に移送させることができる。
【0048】
また、上記実施形態では、ピストン部が流路及び逆止弁を2個ずつ備えていたが、流路及び逆止弁の個数は1個又は3個以上であってもよい。また、逆止弁はピストン部における流路の下流側に設けられていたが、ピストン部における逆止弁の配置位置や形状も上記に限定されず、例えば流路の途中部分に逆止弁を配置してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、管状部の上端を封止する第1のパッカ14と管状部の下端を封止する第2のパッカ15とを備えていた。しかし、例えば管状部の下端が不透水層8に接触するときは、不透水層8によって管状部の下端が封止されるので、第2のパッカ15が不要となる。更に、上記実施形態では、パッカ14,15として、窒素ガスの供給によって膨張するエアパッカを用いたが、メカニカルパッカ等、他の種類のパッカを用いてもよい。
【0050】
上記実施形態では、地下水導入部12の外側を第2の帯水層5の下端部分に対面させたが、第2の帯水層5の下端部分以外の箇所に地下水導入部12の外側を対面させてもよい。また、地下水導入部及び地下水導出部は、管状部における上端、下端及び途中部分のいずれに設けられていてもよく、要は、地下水導入部及び地下水導出部のいずれか一方が管状部の上端側に設けられ、他方が管状部の下端側に設けられていればよい。更に、地下水導入部は縦長の地下水導入孔を有していたが、地下水導入孔の形状や配置態様については上記実施形態の態様に限定されず、適宜変更可能である。
【0051】
鉛直方向に掘削して断面が円形に形成された掘削孔Aに代えて、地表9から斜めに掘削した掘削孔に管状部を挿入させてもよい。また、地盤1を地表9から第3の不透水層8まで掘削して掘削孔Aを形成したが、地表9から第3の帯水層7まで掘削して掘削孔を形成してもよい。更に、掘削孔A、管状部11、地下水導入部12及び地下水導出部13の断面は円形であったが、角形等、他の形状であってもよい。
【0052】
また、地下水誘導装置を適用する地盤としては、地盤1に限定されず、不透水層の上部に位置する上部帯水層と不透水層の下部に位置する下部帯水層とを有する地盤であれば本発明を適用可能である。更に、地盤における帯水層の数は2層又は4層以上であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…地盤、5,7…帯水層、6…不透水層、9…地表、10,60…地下水誘導装置、11…管状部、12,62…地下水導入部、12a…地下水導入孔、13,63…地下水導出部、13a…地下水流出孔、14,15…パッカ(封止部)、20,70…ピストン部、21,22…Oリング(シール部)、23,73…流路、24,74…逆止弁、30…駆動手段、A…掘削孔、N…内側面、W1,W2…地下水。
図1
図2
図3
図4
図5
図6