(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ショウガ抽出物を、クエン酸、コハク酸及びリンゴ酸から選ばれる有機酸の存在下、系内の水分量が5〜10%の状態で、110〜150℃で加熱する工程を含む、ショウガ抽出処理物の製造方法。
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法により製造されるショウガ抽出処理物であって、6−ジンゲロール(A)に対する6−ショウガオール(B)の含有量の比(B/A)が100以上である、前記ショウガ抽出処理物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において用いられるショウガは、ショウガ科の多年草であるショウガ(Zingiber officinale)を意味する。斯かるショウガは、根茎、茎、葉から構成されるが、本発明においては主として根茎が使用される。
当該ショウガは、生のままであっても乾燥された状態であってもよい。ショウガは、抽出に際してそのまま用いることもできるが、粉砕したり、摩り下ろした状態、圧搾して絞り汁とした状態として用いることもできる。
【0010】
ショウガ抽出物としては、ショウガを常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出される各種溶媒抽出物、超臨界二酸化炭素等の超臨界抽出によって得られる抽出物、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末等が挙げられる。
【0011】
抽出に用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、このうち、アルコール類、水−アルコール混液、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンが好ましく、特にエタノール、アセトンを用いるのが好ましい。
【0012】
抽出条件は、使用する溶媒によっても異なるが、例えばエタノール、アセトンにより抽出する場合、ショウガ1質量部に対して1〜100質量部の溶剤を用い、0℃〜溶媒沸点、好ましくは5〜35℃の温度で0.5時間〜30日間、好ましくは1時間〜14日間抽出するのがよい。
また、二酸化炭素を用いた超臨界抽出を行う場合、二酸化炭素を超臨界状態とする際の温度や圧力は適宜調節することができる。例えば、ショウガ1質量部に対して5〜100質量部の二酸化炭素を用い、31〜100℃、好ましくは31〜50℃の温度で、7.1〜50MPa、好ましくは7.1〜30MPaの圧力で、0.5〜12時間抽出するのが好ましい。
【0013】
得られたショウガ抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、液々分配等の技術により、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもできる。
【0014】
斯くして得られたショウガ抽出物には、通常、ジンゲロール(6−ジンゲロール)が抽出物全量に対して4〜35質量%含有され、ショウガオール(6−ショウガオール)は、抽出物全量に対して1〜10質量%含有される(後記参考例参照)。
【0015】
本発明においては、上記のショウガ抽出物について、クエン酸、コハク酸及びリンゴ酸から選ばれる有機酸の存在下、系内の水分量が5〜10%の状態で、110〜150℃で加熱する処理(以下、「酸・加熱処理」とも称する)が施される。
斯かる処理を施すことで、抽出物に含有される6−ジンゲロールの6−ショウガオールへの変換が促進される。
【0016】
本発明において用いられるクエン酸、コハク酸及びリンゴ酸から選ばれる有機酸は、いずれも常温で固体の有機酸である。ここで、クエン酸としては、クエン酸無水物及びクエン酸水和物のいずれを用いてもよい。また、リンゴ酸としては、L−リンゴ酸、DL−リンゴ酸、及び、D−リンゴ酸のいずれを用いてもよい。
クエン酸、コハク酸及びリンゴ酸は、天然物からの抽出品、或いは化学合成品のいずれであっても良い。本発明のショウガ抽出物の食品への利用を考慮すると、食品添加物として使用されるものを用いるのが好ましい。
【0017】
有機酸の使用量は、6−ショウガオールの生成量向上及び分解物生成抑制の点から、ショウガ抽出物に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。また、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜30質量%、5〜20質量%、更に好ましくは10〜20質量%である。
【0018】
加熱は、110〜150℃で行われるが、6−ジンゲロールから6−ショウガオールへの変換速度の向上、及び6−ショウガオールの分解をはじめとする過剰反応の抑制、風味も劣化の抑制の点から、好ましくは130〜150℃、更に好ましくは130〜140℃である。
加熱時間は、反応温度に応じて適宜設定できるが、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上であり、好ましくは10時間以下、より好ましくは9時間以下である。また、1〜8.5時間、3〜10時間、3〜9時間、5〜9時間、1〜3時間等である。
変換速度の向上、過剰反応の抑制及び風味の劣化の抑制の点から、好適な加熱処理としては、例えば110〜130℃で3〜9時間、130〜140℃で1〜8.5時間、140〜150℃で1〜3時間が挙げられる。
【0019】
上記の、酸・加熱処理は、系内の水分量が5〜10%の状態で行われる。
酸・加熱処理においては、6−ショウガオール生成の点から、反応系内の水分量は低い方が好ましいが、使用する有機酸との関係から5%程度の水分は必要である。
水分量の調整は、適宜、イオン交換水等の水を加えて行うことができる。
また、加熱温度が130〜150℃の場合は水分量は10%程度(例えば、8〜10%)であるのが好ましく、加熱温度が110〜130℃の場合は水分量は5%程度(例えば、5〜7%)であるのが好ましい。
上記の観点から、酸・加熱処理は、密閉系よりも開放系で行うことが、反応によって系内に生成する水分が蒸散するので好ましい。さらに、窒素バブリングなどして、反応系内の水分を積極的に除去することも効果的である。
【0020】
斯くして得られたショウガ抽出処理物は、粗精製物のまま用いることもできるが、添加した酸を中和・除去したり、公知の分離精製方法を適宜組み合わせてその純度を高めてもよい。精製手段としては、有機溶剤沈殿、遠心分離、限界濾過膜、高速液体クロマトグラフやカラムクロマトグラフ等が挙げられる。
【0021】
斯くして得られるショウガ抽出処理物は、ジンゲロールからショウガオールへの変換が促進され、且つロスなく変換が行われ、ショウガオールの含有量がより高められている。 すなわち、ショウガ抽出処理物における6−ショウガオール(B)の6−ジンゲロール(A)に対する含有量の比(重量比:B/A)は、3以上、好ましくは4以上であり、より具体的には、3〜100、好ましくは4〜100である。
また、ショウガ抽出処理物における6−ショウガオール(B)の含有量は、13質量%以上であるのが好ましく、16質量%以上であるのがより好ましい。更に、過剰反応低減の点から、6−ジンゲロール(A)と6−ショウガオール(B)の含有量の総和(A+B)が、13質量%以上であるのが好ましく、16質量%以上であるのがより好ましい。
【0022】
本発明のショウガ抽出処理物を、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等として使用する場合又はこれらに配合して使用する場合、抽出処理液或いは画分のまま用いてもよいが、適当な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、或いは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製して用いることができる。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、水・エタノール混液、水・プロピレングリコール混液、水・ブチレングリコール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0023】
本発明のショウガ抽出処理物は、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品等に添加、配合して使用することできる。この場合、ショウガ抽出処理物を単独で用いるものであってもよく、あるいは油分、色素、香料、防腐剤、キレート剤、顔料、酸化防止剤、ビタミン、ミネラル、甘味料、調味料、保存料、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、被膜剤、担体、希釈剤等の、食品、医薬品、化粧品、医薬部外品等の各種製剤に用いられる添加剤や賦形剤等と組み合わせて用いることでもよい。
【0024】
上述した実施形態に関し、本発明においては以下の態様が開示される。
<1>ショウガ抽出物を、クエン酸、コハク酸及びリンゴ酸から選ばれる有機酸の存在下、系内の水分量が5〜10%の状態で、110〜150℃で加熱する工程を含む、ショウガ抽出処理物の製造方法。
<2>130〜150℃で加熱する、上記<1>の製造方法。
<3>110〜130℃で3〜9時間、130〜140℃で1〜8.5時間、又は140〜150℃で1〜3時間加熱する、上記<1>の製造方法。
<4><1>〜<3>において、酸の使用量は、ショウガ抽出物に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。また、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは10〜30質量%、5〜20質量%、更に好ましくは10〜20質量%である。
<5>有機酸がクエン酸又はリンゴ酸である、上記<1>〜<4>の方法。
<6>上記<1>〜<5>の方法により製造されるショウガ抽出処理物であって、6−ジンゲロール(A)に対する6−ショウガオール(B)の含有量の比(B/A)が3以上である、前記ショウガ抽出処理物。
【実施例】
【0025】
<材料及び試験方法>
(1)ショウガ抽出物
富士フレーバー社製の「ジンジャーエキストラクトKOK−0002」(超臨界CO
2抽出物)を使用した。
【0026】
(2)ジンゲロール、ショウガオールの定量
抽出物50mgをメタノールに溶解し、10mLにメスアップした。これを10マイクロリットルHPLCにインジェクトし、分析を行った。6−ジンゲロール、6−ショウガオールともに、6−ギンゲロール標準品(和光純薬より購入、純度98.1%)を用いて作成した検量線をもとに定量値を算出した。HPLC分析条件は以下のとおりである。
【0027】
[HPLC分析条件]
カラム:TSK−gel ODS 120T 4.6×250mm 5μm(トーソー株式会社)
流速:0.5mL/min
温度:35℃
検出:UV=280nm
溶媒:A=0.1%ギ酸水溶液、B=0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
グラジエントプログラム
A/B=70/30→10/90(20min)→10/90(10min)→70/30(5min)
6−ジンゲロールの溶出時間:19.0分
6−ショウガオールの溶出時間:23.6分
【0028】
<参考例> ショウガ抽出物中の6−ジンゲロール及び6−ショウガオールの定量
ジンジャーエキストラクトKOK−0002について、上記の定量法に従って、6−ジンゲロール及び6−ショウガオールを測定した。
その結果、6−ジンゲロールは16.3%、6−ショウガオールは4.5%であった。
【0029】
<実施例>
(1)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水100μLを添加し、ボルテックスミキサーで撹拌した後、栓をせずにヒートブロックで110℃に加熱した。1時間後、3時間後、8.5時間後に、ボルテックスミキサー撹拌と遠心分離を行ない、抽出処理物(本発明品1)を調製した。
【0030】
(2)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにL−リンゴ酸(東京化成)100mgおよびイオン交換水100μLを添加し、(1)と同様に処理して抽出処理物(本発明品2)を調製した。
【0031】
(3)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水50μLを添加し、(1)と同様に処理して抽出処理物(本発明品3)を調製した。
【0032】
(4)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水100μLを添加し、加熱温度を130℃とし、(1)と同様に処理して抽出処理物(本発明品4)を調製した。
【0033】
(5)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水100μLを添加し、加熱温度を150℃とし、(1)と同様に処理して抽出処理物(本発明品5)を調製した。
【0034】
(6)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)200mgおよびイオン交換水100μLを添加し、(1)と同様に処理して抽出処理物(本発明品6)を調製した。
【0035】
<比較例>
(1)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gに有機酸を添加せず、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品1)を調製した。
【0036】
(2)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gに酢酸(関東化学)250μLを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品2)を調製した。
【0037】
(3)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにDL−酒石酸(関東化学)100mgおよびイオン交換水100μLを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品3)を調製した。
【0038】
(4)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gに有機酸を添加せず、加熱温度を90℃とし、実施例1と同様にして抽出処理物(比較品4)を調製した。
【0039】
(5)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gに有機酸を添加せず、加熱温度を130℃とし、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品5)を調製した。
【0040】
(6)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gに有機酸を添加せず、加熱温度150℃とし、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品6)を調製した。
【0041】
(7)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品7)を調製した。なお、本条件では、添加したクエン酸はほとんど溶解していなかった。
【0042】
(8)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水250μLを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品8)を調製した。
【0043】
(9)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水500μLを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品9)を調製した。
【0044】
(10)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水1000μLを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品10)を調製した。
【0045】
(11)ジンジャーエキストラクトKOK−0002 1gにクエン酸・無水(和光純薬)100mgおよびイオン交換水150μLを添加し、実施例1と同様に処理して抽出処理物(比較品11)を調製した。
【0046】
本発明品1−6、比較品1〜11について、各々50mgをサンプリングし、HPLCで6−ジンゲロール、6−ショウガオールを定量した。結果を表1及び表2に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
表1及び表2より、クエン酸又はリンゴ酸を添加した場合には、6−ショウガオールの生成量が向上することが確認され、反応系の水分量は5〜10%であるのが好ましく、加熱温度は110〜150℃が適当であった。また、150℃付近で加熱する場合には、反応時間は1〜3時間とすることが好ましいと考えられた。