(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6159042
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】着物
(51)【国際特許分類】
A41D 1/00 20060101AFI20170626BHJP
【FI】
A41D1/00 101C
A41D1/00 101A
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-29041(P2017-29041)
(22)【出願日】2017年2月20日
【審査請求日】2017年2月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】715008506
【氏名又は名称】兵庫 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】兵庫 裕嗣
【審査官】
一ノ瀬 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−43654(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3124666(JP,U)
【文献】
実開昭49−32805(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3159501(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3140714(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着物の左右の前身頃とそれに連なる衽(おくみ)部分において、それぞれ衿先から脇付近の裾に向けて斜めに褄部分を切り取った形状であることを特徴とする着物。
【請求項2】
前記褄部分が斜めに切り取られた前合わせの裾の左右は、股下にあたる位置で交差している請求項1に記載の着物。
【請求項3】
前記着物の後身頃の背縫いに相当する部分(背の中心線)に沿って、裾から股下あたりまでのスリット(切れ込み)が形成されている請求項1〜2の何れかに記載の着物。
【請求項4】
前記着物の袖において、袖口、および袖付けの下方の袂が、手先に向けて下向きに傾斜している請求項1〜3の何れかに記載の着物。
【請求項5】
前記着物の両脇には、帯を締める位置の少し下に、ポケットが設けられている請求項1〜4の何れかに記載の着物。
【請求項6】
前記着物の衿部分は、着用時に上前となる着用者から見て左側にのみ、衿(地衿)と掛け衿(共衿)の間に装飾上の工夫が縫い込まれた請求項1〜5の何れかに記載の着物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袴を装着する時に上半身に着る着物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の着物の中で、特に上着の腰回りを袴の下に入れる着物(以下、これを袴下着物と言う)には、伸縮部や係止具を取り付けて、着用の容易化と着崩れ対策を施したものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−355106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のこの袴下着物では、伸縮部や係止具を取り付けることで着用上の利便性を図ったり、着崩れを防止したりしているが、どれも袴下着物自体の形状を変化させているものではない。
【0005】
従来の袴下着物は、あくまで長着の着丈を膝丈程度に短くしたものであり、前身頃では上前と下前を重ねた前合わせとなる。前合わせ部分の生地の摩擦力により、丈を短くしても下半身、特に足の腿の部分の可動性が優れているとは言えない。
【0006】
また、従来のものは、袴に合わせる袴下としての用途に限定されるので、袴を着用せずに単体で着用するには袴下着物は見映えが悪い。つまり 袴下限定のため、着こなしの多様性は無と言える。
【0007】
本発明は、袴着用時には高い可動性を実現する袴下着物として、さらに袴を着用せずに単体でも着用可能な形状に装飾上の工夫をすることで、別の用途にも使える多様性の高い着物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の着物は、左右の前身頃とそれに連なる衽(おくみ)部分において、それぞれ衿先から脇付近の裾に向けて斜めに褄部分を切り取った形状であることを特徴とする。
ここで、褄部分とは、衿先より下方の衽(おくみ)と前身頃の一部をなす部分である。
【0009】
上記の衿先から脇付近の裾に向けて褄部分が斜めに切り取られた前合わせの裾の左右は、
股下にあたる位置で交差していることを特徴とする。
【0010】
さらに、後身頃の背縫いに相当する部分(背の中心線)に沿って、裾から股下あたりまでのスリット(切れ込み)が形成されていることを特徴とする。
【0011】
前記前合わせの裾線と後身頃のスリットにより、袴を装着した時に袴の内股下のマチと干渉しない形状となっている。
【0012】
前記着物の袖部分において、袖口、および袖付けの下方の袂が、手先に向けて下向きに傾斜していることを特徴とする。
【0013】
前記着物の両脇には、ポケットが、帯を締める位置の少し下に設けられていることを特徴とする。
【0014】
前記着物の衿部分において、着用時に上前となる着用者から見て左側にのみ、衿(地衿)と掛け衿(共衿)の間に別素材等を挟んで縫い合わせ、装飾上の工夫を加えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の着物は、それぞれ衿先から脇付近の裾に向けて斜めに褄部分を切り取った形状であり、前合わせの裾の左右は、股下にあたる位置で交差しているため、その上から袴を着用した場合でも、前合わせ部分の生地の重なりによる摩擦力が軽減される。
【0016】
さらに、後身頃の背縫いに相当する部分(背の中心線)に沿って、裾から股下あたりまでのスリット(切れ込み)が形成されており、上記前合わせの裾の形状と合わせて、袴を装着した時に袴の内股下のマチと干渉しない形状となっているので、袴下着物として使用する際の大腿部などの可動性は、従来のものに比べ格段に優れている。
【0017】
本発明の着物は、前合わせ部分で左右の褄が切り取られ、後身頃で裾から股下あたりまでのスリット(切れ込み)が形成され、燕尾服のような装飾的な形状の裾なので、袴を装着せずに着物単体で着用することが可能になり、従来の袴下としての用途に限定されていた着物に比べ、着こなしの多様性が大幅に増すという利点がある。
【0018】
本発明の着物は、袖部分において、袖口、および袖付けの下方の袂が、手先に向けて下向きに傾斜させていることで、腕を下ろしている時に脇に溜まる袖の生地によるもたつきが軽減されて、腕の可動性を高められ、袈裟懸けや肩掛けのバッグなども持ち易くなった。さらに見た目にもすっきりとした印象が増すことで、従来よりも着姿を美しくさせる効果がある。
【0019】
本発明の着物にて、帯を締める位置の少し下の両脇に設けられたポケットは、袴の装着後も使用可能であり、袴自体にポケットを設けるのに比べ、袴の着姿も崩れないので、利便性が高い。
【0020】
本発明の着物は、衿部分において、着用時に上前となる着用者から見て左側にのみ、衿(地衿)と掛け衿(共衿)の間に別素材等を挟んで縫い込み、装飾上の工夫を加えていることにより、それを目印とした上前が明確なので、着用上の規則で迷わない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】左前身頃を重ねず、右前身頃が見える状態を示した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を
図1、
図2に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の着物の構造を表したもので、図で示した通り、衿と身頃の上半身は通常の着物と同じ構造である。
【0024】
本発明の着物の特異性の一つは裾部分にあり、左右の前身頃とそれに連なる衽(おくみ)部分において、それぞれ衿先から脇付近の裾に向けて斜めに褄部分(衿先より下方の衽と前身頃の一部)を切り取った形状が特徴である。
【0025】
図1、および
図2において、Aは前身頃を、Bは衽を表している。従来の着物では、衽の端(褄下)は衿先であるCより真下へと垂直で、前身頃と衽の水平な裾とは直角に交わっている。
【0026】
本発明の着物では、衿先Cから脇付近の裾Dに向けて斜めに褄部分(衿先より下方の衽と前身頃の一部)を切り取った形状になっている。
【0027】
そして、
図1、および
図2で示す通り、褄部分を衿先Cから裾Dに向け斜めに切り取ることで形成される、前合わせの裾の左右は、股下にあたる位置で交差している。つまり前合わせで重なる生地の面積が減るので、摩擦力が軽減されるので、下半身の可動性に優れている。
【0028】
また、
図1、および
図2において、Eは後身頃を、Fは背縫いに相当する部分(背の中心線)を表している。本発明の着物では、後身頃の背縫いに相当する部分(背の中心線)に沿って、裾から股下あたりまでのスリット(切れ込み)が形成されている。このスリット(切れ込み)と前記前合わせの特徴を合わせた全体の裾の形状は、袴を装着した時に袴の内股下のマチと干渉しないので、下半身の可動性がより高まる。
【0029】
さらに、本発明の着物は、前合わせ部分で左右の褄が切り取られ、後身頃で裾から股下あたりまでのスリット(切れ込み)が形成されることで、燕尾服のような装飾性の優れた裾の形状を持つので、袴を装着せずに着物単体で着用することが可能になり、着こなしの多様性が増すという利点がある。
【0030】
図1、および
図2において、Gは袖口を、Hは袖付けを、I(斜線部分)は袂を表している。本発明の着物は、袖部分において、袖口、および袖付けより下方の袂が、手先に向けて下向きに傾斜させている。これにより、腕を下ろした状態で脇に溜まる袖の生地によるもたつきが軽減されて、腕の可動性を高め、見た目にも着姿をすっきりとさせる効果がある。
【0031】
図1、および
図2において、両脇に破線で表記されているJは、身頃に内蔵されたポケットを表している。ポケットは、帯を締める位置の少し下の両脇に設けられ、袴の装着後も使用可能であり、袴自体にポケットを設けるのに比べ、袴の着姿も崩れないので意匠的にも優れ、利便性も高い。
【0032】
図1、および
図2において、上前側である着用者から見て左側の衿にある印Kは、衿(地衿)と掛け衿(共衿)の間に別素材等を挟んで縫い込んで、装飾上の工夫を加えた目印を表している。これにより、上前側が明確になるので、着用上の規則で迷わない。
【符号の説明】
【0033】
A 前身頃
B 衽(おくみ)
C 衿先
D 脇付近の裾
E 後身頃
F 背縫いに相当する部分(背の中心線)
G 袖口
H 袖付け
I 袂
J ポケット
K 上前側の衿(地衿)と掛け衿(共衿)の間に縫い込まれた目印
【要約】
【課題】従来の着物(袴下着物)は、上前と下前が重なる前合わせ部分の生地の摩擦力により、下半身の可動性が悪く、丈が短いだけなので、袴を着用しない着物(袴下着物)単体での着用には適さない。本発明では、可動性と利便性に優れ、多様な着こなしが出来る新たな着物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の着物は、左右の前身頃とそれに連なる衽(おくみ)部分において、それぞれ斜めに褄部分を切り取った前合わせと、後身頃の背の中心線に沿って形成されたスリットにより構成された裾を特徴とし、さらに袖の袂部分が手先に向けて下向きに傾斜している。
【選択図】
図1