特許第6159087号(P6159087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6159087
(24)【登録日】2017年6月16日
(45)【発行日】2017年7月5日
(54)【発明の名称】住戸床構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 1/04 20060101AFI20170626BHJP
   E04B 5/36 20060101ALI20170626BHJP
【FI】
   E04H1/04 C
   E04B5/36
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-1232(P2013-1232)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-133991(P2014-133991A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100067448
【弁理士】
【氏名又は名称】下坂 スミ子
(74)【代理人】
【識別番号】100129469
【弁理士】
【氏名又は名称】池山 和生
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【弁理士】
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】堀井 規男
(72)【発明者】
【氏名】入江 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】菅原 正道
【審査官】 佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−021345(JP,A)
【文献】 特開2007−291755(JP,A)
【文献】 特開2004−116113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/04
E04B 5/00−5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に配置された各住戸において水周り設備の位置を変更可能にするための住戸床構造であって、
通常の床を構成する基準スラブと、この基準スラブに対して一段低い凹領域を構成する低位スラブとを備えてなり、
上記凹領域は、上記上下の各住戸において水平方向の略同一の部位に配置された主凹部と、この主凹部から当該主凹部の外側に延びる少なくとも一つの分岐凹部とを有し、
上記主凹部は、上記水周り設備のうち、上記上下の各住戸において水平方向の位置を固定すべきものとされる騒音、振動の発生しやすい特定水周り設備のみを設置することが可能な水平方向の広がりを有しており、
上記主凹部は、上記住戸における桁行き方向の一方の側に配置され、
上記分岐凹部は、その少なくとも一つが上記住戸における桁行き方向の中央を超えて他方の側に入るように延在していると共に、上記特定水周り設備以外の上記水周り設備のための配管の設置を可能にする幅及び深さに設定されており、
上記特定水周り設備以外の上記水周り設備としては、キッチンがあることを特徴とする住戸床構造。
【請求項2】
上記低位スラブ及び上記基準スラブであって低位スラブの桁行き方向に位置する特定基準スラブは、それぞれPC鋼線を有するプレキャストコンクリートによって底面部が構成され、その各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置した上で打設されたコンクリートによって上面部が構成されていることを特徴とする請求項1に記載の住戸床構造。
【請求項3】
上記各プレキャストコンクリートは、平板部上に直線状に延在しかつ互いに並列に配置された複数の凸条部を有し、その各凸条部に対応する部分内に当該各凸条部の延在する方向に延在すべく設けられたPC鋼線を有する構成になっており、
上記特定基準スラブ側及び低位スラブ側の各プレキャストコンクリートは、上記各凸条部の延在する方向を桁行き方向に向けて設置されていると共に、当該各凸条部の端部同士が互いに上下に重なる位置となるように設置されており、
上記特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートは、上記各凸条部に隣接する上記平板部のうち、上記低位スラブ側のプレキャストコンクリートに重なる部分を取り除いた形状の切欠部を有しており、
上記鉄筋は、特定基準スラブ側及び低位スラブ側の各プレキャストコンクリートの上側において桁行き方向及び梁間方向に複数配置されており、
上記切欠部に対応する部位には、特定基準スラブ側及び低位スラブ側に位置する上記梁間方向の複数の鉄筋を囲むように形成した肋筋が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の住戸床構造。
【請求項4】
上記特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートにおける上記各凸条部に隣接する上記平板部の上側には、当該凸条部の上面に対して上側及び下側のそれぞれに桁行き方向に延在する上位第1鉄筋及び下位第1鉄筋が設けられており、
これらの上位第1鉄筋及び下位第1鉄筋は、上記切欠部に位置する上記凸条部の先端部に対応する部分において下方に屈曲し、上記肋筋における上記切欠部の間口部側において上下方向に延在する部分に沿って下方に延在するように形成され、
上記低位スラブ側のプレキャストコンクリートにおける上記各凸条部に隣接する上記平板部の上側には、当該凸条部の上面に対して上側及び下側のそれぞれに桁行き方向に延在する上位第2鉄筋及び下位第2鉄筋が設けられており、
これらの上位第2鉄筋及び下位第2鉄筋は、上記特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートにおける上記切欠部の最奥部に対応する部分において上方に屈曲し、上記肋筋における上記切欠部の最奥部側において上下方向に延在する部分に沿って上方に延在するように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の住戸床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水周り設備の位置の変更を可能にする住戸床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の住宅においては、例えば鉄筋コンクリート造の集合住宅の躯体が完成した後においても、各住戸について間取りの変更を可能にするものが提供されている。このような住戸の間取りは、配管設備を必要とする浴室、トイレ、洗面所、キッチン等の水周り設備についても位置の変更を可能にすることにより、全体としてより自由度の大きな変更が可能になる。
【0003】
水周り設備の位置変更を可能にするものとしては、通常の床面を構成するスラブと、これより一段低い位置に構成した低位スラブとを有し、この低位スラブの上面に沿うように配管を設置することにより、その低位スラブの範囲内で水周り設備の移動を可能にした住戸床構造の発明がある(例えば引用文献1)。
【0004】
この住戸床構造は、低位スラブが各住戸における桁行き方向の全幅及び梁間方向の一定の範囲に構成されたものとなっており、浴室等の水周り設備を桁行き方向にも、梁間方向にも変更することが可能になっている。これにより、各住戸における間取り変更の自由度が極めて大きなものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−180012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の住戸床構造においては、低位スラブが桁行き方向の全幅等にわたる広い範囲に設けられていることから、例えば水周り設備を桁行き方向の一方の側に設置した場合にはその桁行き方向の他方の側に低位スラブによる凹部が広い範囲に露出した状態になる。このため、例えば直床工法を採用する住戸の場合には、その凹部に、通常のスラブの上面と面一状になるような床部を構成するなどの施工が必要になる。このため、施工コストが増大するという問題があった。
【0007】
一方、浴室等については、騒音、振動などのトラブルが上下の住戸間において発生しやすいことから、そのようなトラブルを防止する上で、上下の各住戸において、水平方向における位置を合わせることが好ましい。即ち、水周り設備の中には、設置位置を自由に変更することなく、最適な位置に固定的に設置することが好ましいものもある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、固定的に設置することが好ましい水周り設備以外の水周り設備のみの移動を可能にすることで、トラブルの少ない最適な間取りを確保しながら、全体の間取りの変更の自由度の向上を図ることができ、かつ施工コストの低減を図ることのできる住戸床構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、上下に配置された各住戸において水周り設備の位置を変更可能にするための住戸床構造であって、通常の床を構成する基準スラブと、この基準スラブに対して一段低い凹領域を構成する低位スラブとを備えてなり、上記凹領域は、上記上下の各住戸において水平方向の略同一の部位に配置された主凹部と、この主凹部から当該主凹部の外側に延びる少なくとも一つの分岐凹部とを有し、上記主凹部は、上記水周り設備のうち、上記上下の各住戸において水平方向の位置を固定すべきものとされる特定水周り設備のみを設置することが可能な水平方向の広がりを有しており、上記主凹部は、上記住戸における桁行き方向の一方の側に配置され、上記分岐凹部は、その少なくとも一つが上記住戸における桁行き方向の中央を超えて他方の側に入るように延在していると共に、上記特定水周り設備以外の上記水周り設備のための配管の設置を可能にする幅及び深さに設定されており、上記特定水周り設備以外の上記水周り設備としては、キッチンがあることを特徴としている。
【0011】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、上記低位スラブ及び上記基準スラブであって低位スラブの桁行き方向に位置する特定基準スラブは、それぞれPC鋼線を有するプレキャストコンクリートによって底面部が構成され、その各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置した上で打設されたコンクリートによって上面部が構成されていることを特徴としている。
【0012】
なお、特定基準スラブは、基準スラブのうち、低位スラブの桁行き方向に位置するものである。即ち、特定基準スラブは、基準スラブと同じ高さの上面を有する。また、PC鋼線を有するプレキャストコンクリートは、PC鋼線によってプレストレストを導入した工場製作の鉄筋コンクリートである。
【0013】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、上記各プレキャストコンクリートは、平板部上に直線状に延在しかつ互いに並列に配置された複数の凸条部を有し、その各凸条部に対応する部分内に当該各凸条部の延在する方向に延在すべく設けられたPC鋼線を有する構成になっており、上記特定基準スラブ側及び低位スラブ側の各プレキャストコンクリートは、上記各凸条部の延在する方向を桁行き方向に向けて設置されていると共に、当該各凸条部の端部同士が互いに上下に重なる位置となるように設置されており、上記特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートは、上記各凸条部に隣接する上記平板部のうち、上記低位スラブ側のプレキャストコンクリートに重なる部分を取り除いた形状の切欠部を有しており、上記鉄筋は、特定基準スラブ側及び低位スラブ側の各プレキャストコンクリートの上側において桁行き方向及び梁間方向に複数配置されており、上記切欠部に対応する部位には、特定基準スラブ側及び低位スラブ側に位置する上記梁間方向の複数の鉄筋を囲むように形成した肋筋が設けられていることを特徴としている。
【0014】
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、上記特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートにおける上記各凸条部に隣接する上記平板部の上側には、当該凸条部の上面に対して上側及び下側のそれぞれに桁行き方向に延在する上位第1鉄筋及び下位第1鉄筋が設けられており、これらの上位第1鉄筋及び下位第1鉄筋は、上記切欠部に位置する上記凸条部の先端部に対応する部分において下方に屈曲し、上記肋筋における上記切欠部の間口部側において上下方向に延在する部分に沿って下方に延在するように形成され、上記低位スラブ側のプレキャストコンクリートにおける上記各凸条部に隣接する上記平板部の上側には、当該凸条部の上面に対して上側及び下側のそれぞれに桁行き方向に延在する上位第2鉄筋及び下位第2鉄筋が設けられており、これらの上位第2鉄筋及び下位第2鉄筋は、上記特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートにおける上記切欠部の最奥部に対応する部分において上方に屈曲し、上記肋筋における上記切欠部の最奥部側において上下方向に延在する部分に沿って上方に延在するように形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、低位スラブによって凹領域を構成し、凹領域を更に主凹部と分岐凹部によって構成し、主凹部は上下の各住戸における水平方向の略同一の部位に配置し、かつ水平方向の位置を固定すべき特定水周り設備のみを設置することが可能な水平方向の広がりを有するように構成しているので、その特定水周り設備が上下の各住戸において水平方向の異なった位置に配置されるのを防止することができる。即ち、騒音や振動等のトラブルの発生を極力防止することのできる最適な間取りを確保することができる。
【0016】
また、特定水周り設備以外の水周り設備については、主凹部に隣接する各位置に配置することにより、当該主凹部を利用して配管を設置することが可能になると共に、分岐凹部の延在する範囲に設置することにより、当該分岐凹部及び主凹部を利用して配管を設置することが可能になる。即ち、特定水周り設備以外の水周り設備については、種々の位置に変更することができ、これによって各住戸内における全体の間取りの変更の自由度の向上を図ることができる。
【0017】
更に、分岐凹部については、配管の設置を可能にする最小限の幅及び深さに制限することができるので、仮に直床工法を採用した場合でも、床面を平面状に構成するための工数の低減を図ることができる。即ち、施工コストを低減することができる。
【0018】
そして、主凹部が住戸における桁行き方向の一方の側に配置され、少なくとも一つ分岐凹部が住戸における桁行き方向の中央を超えて他方の側に入るように延在しているので、特定水周り設備を住戸における桁行き方向の一方の側に配置した場合には、特定水周り設備以外の水周り設備については、当該桁行き方向の他方の側に設置することができると共に、桁行き方向の一方の側における主凹部に隣接する位置にも設置することができる。例えば、浴室、トイレ及び洗濯機の設置機能を有する洗面所等の特定水周り設備を桁行き方向の一方の側の主凹部に固定的に設置した場合に、キッチン等の特定水周り設備以外の水周り設備を例えば廊下を挟んで桁行き方向の他方の側にも、桁行き方向の一方の側の主凹部に隣接する位置にも移動することができる。
【0019】
請求項に記載の発明によれば、低位スラブ及び基準スラブであって低位スラブの桁行き方向に隣接する特定基準スラブについて、それらの底面部をPC鋼線を有するプレキャストコンクリートによって構成し、その上面部を各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置した上で打設したコンクリートによって構成しているので、凹領域を有するスラブの強度の向上を図ることができる。
【0020】
従って、低位スラブと特定基準スラブの境界部に例えば小梁を設けて補強する必要がないので、その小梁等の補強部が天井面に露出するのを防止することができる。即ち、小梁等の補強部により、天井面の見栄えが悪くなったり、天井面の高さを十分に確保することができなくなるなどの問題が発生するのを防止することができる。また、各プレキャストコンクリートによって底面部を構成することにより、床仮わくが不要になるので、施工コストの低減を図ることができる。
【0021】
請求項に記載の発明によれば、各凸条部の端部同士が互いに上下に重なる位置となるように各プレキャストコンクリートを設置し、その重なる部位における特定基準スラブの各平板部に切欠部を設け、この切欠部に対応する部位に、特定基準スラブ側及び低位スラブ側に位置する梁間方向の複数の鉄筋を囲むように形成した肋筋を設けているので、低位スラブと特定基準スラブとの境界部に、梁間方向に延在する複数の鉄筋及びこれを取り巻く複数の肋筋を備えた鉄筋コンクリート製の強固な梁を構成することができる。従って、低位スラブと特定基準スラブとの境界部の強度の向上を図ることができる。
【0022】
請求項に記載の発明によれば、特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートの各平板部の上側に桁行き方向に延在する上位第1鉄筋及び下位第1鉄筋を設け、この上位第1鉄筋及び下位第1鉄筋を凸条部の先端部に対応する部分で下方に屈曲させて、肋筋における切欠部の間口部側の部分に沿って下方に延在させ、また低位スラブ側のプレキャストコンクリートの各平板部の上側に桁行き方向に延在する上位第2鉄筋及び下位第2鉄筋を設け、この上位第2鉄筋及び下位第2鉄筋を切欠部の最奥部に対応する部分で上方に屈曲させて、肋筋における切欠部の最奥部側の部分に沿って上方に延在させるように構成しているので、梁間方向の複数の鉄筋及びこれを取り巻く複数の肋筋を備えた鉄筋コンクリート製の強固な梁に対する低位スラブ及び特定基準スラブの連結強度を向上させることができる。従って、低位スラブと特定基準スラブとの境界部の強度を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施例として示した住戸床構造を各住戸について示す集合住宅の所定の階の水平断面図である。
図2】同住戸床構造を示す図であって、(a)は水周り設備を桁行き方向の一方の側及び他方の側の双方に配置した状態の間取りを示す住戸の水平断面図であり、(b)は水周り設備を桁行き方向の一方の側にのみ配置した間取りを示す住戸の水平断面図であり、(c)は基準スラブ、低位スラブ及び特定基準スラブを示す住戸の水平断面図である。
図3】同住戸床構造を示す図であって、特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートと低位スラブ側のプレキャストコンクリートとが上下に重なる部分を示す説明図である。
図4】同住戸床構造における特定基準スラブと低位スラブとの連結部を示す図であって、(a)は全ての鉄筋を配置した状態の縦断面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
図5】同住戸床構造における特定基準スラブと低位スラブとの連結部を示す図であって、(a)は各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置した状態を示す縦断面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
図6】同住戸床構造における特定基準スラブと低位スラブとの連結部を示す図であって、(a)は各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置し、かつ各プレキャストコンクリートの平板部の上側に上位第1鉄筋及び上位第2鉄筋を配置した状態を示す縦断面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
図7】同住戸床構造における特定基準スラブと低位スラブとの連結部を示す図であって、(a)は各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置し、かつ各プレキャストコンクリートの平板部の上側に下位第1鉄筋及び下位第2鉄筋を配置した状態を示す縦断面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
図8】同住戸床構造における特定基準スラブと低位スラブとの連結部を示す図であって、(a)は各プレキャストコンクリートの上側に鉄筋を配置し、かつ特定基準スラブ側のプレキャストコンクリートの切欠部に対応する部位に肋筋を配置した状態を示す縦断面図であり、(b)は(a)のB−B線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を実施するための形態を一実施例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
この実施例で示す住戸床構造1は、図1に示すように、鉄筋コンクリート造の集合住宅Aの各住戸A1の床部を構成するものである。この集合住宅Aは、少なくとも上下方向に複数の各住戸A1を備え、かつ水平方向に複数(この例では6戸)の住戸A1を隣接して備えたものとなっている。
【0026】
住戸床構造1は、鉄筋コンクリート造による集合住宅Aの躯体が完成した後において、水周り設備についても位置の変更を可能にすることで、各住戸A1における間取り変更の自由度の向上を図ったものであり、通常の床を構成する基準スラブ2と、この基準スラブ2に対して一段低い凹領域4を構成する低位スラブ3とを備えている。
【0027】
凹領域4は、図1及び図2(c)において間隔の大きなクロスハッチングで示されている部分であり、上下の各住戸A1において水平方向の略同一の部位に配置された主凹部4aと、この主凹部4aから当該主凹部4aの外側に延びる一つの分岐凹部4bとを備えている。なお、分岐凹部4bは複数有するものであってもよい。
【0028】
主凹部4aは、図2に示すように、水周り設備のうち、上下の各住戸A1において水平方向の位置を固定すべきものとされる特定水周り設備A2のみのを設置することが可能な水平方向の広がりを有しており、住戸A1における桁行き方向の一方の側の壁に沿って配置されている。この主凹部4aは、凹領域4における網点で示す分岐凹部4b以外の部分によって四角形状の広がりを有するように形成されている。
【0029】
一方、分岐凹部4bは、凹領域4における網点部によって示された部分であり、主凹部4aから住戸A1における桁行き方向の中央を超えて他方の側に入るように延在すると共に、特定水周り設備A2以外の水周り設備A3のための配管の設置を可能にする幅及び深さに設定されている。
【0030】
特定水周り設備A2は、騒音、振動の発生しやすい設備であって、上下の各住戸A1においてトラブルの生じやすいものであり、例えば図2に示す浴室A2a、トイレA2b、洗濯機の設置機能を有する洗面所A2c等が該当する。特定水周り設備A2以外の水周り設備A3は、騒音、振動が発生しにくい設備であって、上下の各住戸A1においてトラブルの生じにくいものであり、例えば図2においてシングルハッチングで示すキッチンA3aが該当する。
【0031】
上記基準スラブ2は、この基準スラブ2のうち低位スラブ3の桁行き方向に位置する部分が特定基準スラブ5となっている。この特定基準スラブ5は、図2(c)において、低位スラブ3によって構成された凹領域4を示すクロスハッチングより狭い間隔のクロスハッチングで示された部分に該当しており、その上面が基準スラブ2と面一状になっている。
【0032】
低位スラブ3及び特定基準スラブ5は、図4図8に示すように、それぞれPC鋼線C3を有するプレキャストコンクリート31、51によって底面部3a、5aが構成されている。低位スラブ3及び特定基準スラブ5の上面部60は、その各プレキャストコンクリート31、51の上側に鉄筋61、62等を配置した上で打設されたコンクリート68によってが構成されている。
【0033】
各プレキャストコンクリート31、51は、図3及び図4に示すように、平板部C1上に直線状に延在しかつ互いに並列に配置された複数の凸条部C2を有し、その各凸条部C2に対応する部分内に当該各凸条部C2の延在する方向に延在すべく設けられたPC鋼線C3を有する構成になっている。
【0034】
そして、各プレキャストコンクリート31、51は、各凸条部C2の延在する方向を桁行き方向に向けて設置されていると共に、当該各凸条部C2の端部同士が互いに上下に重なる位置に配置された状態となって設置されている。
【0035】
特定基準スラブ5側のプレキャストコンクリート51は、図3に示すように、各凸条部C2に隣接する平板部C1のうち、低位スラブ3側のプレキャストコンクリート31に重なる部分が取り除かれた形状の切欠部C1aを有している。
【0036】
上述した鉄筋61、62は、図4及び図5に示すように、特定基準スラブ5側及び低位スラブ3側の各プレキャストコンクリート31、51の上側において桁行き方向に延在する鉄筋61及び梁間方向に延在する鉄筋62として複数配置されている。特に、梁間方向の鉄筋62は、図5(a)に示すように、切欠部C1aに対応する部位に複数(この例では3本)配置されている。
【0037】
更に、切欠部C1aに対応する部位には、図4及び図8に示すように、特定基準スラブ5及び低位スラブ3における梁間方向の鉄筋62を複数囲むように四角形のループ状に形成された肋筋63が設けられている。
【0038】
また、特定基準スラブ5側のプレキャストコンクリート51における各凸条部C2に隣接する平板部C1の上側には、図6及び図7に示すように、凸条部C2の上面に対して上側及び下側のそれぞれに桁行き方向に延在する上位第1鉄筋64(図6参照)及び下位第1鉄筋65(図7参照)が設けられている。
【0039】
上位第1鉄筋64及び下位第1鉄筋65は、切欠部C1aに位置する凸条部C2の先端部に対応する部分において下方に屈曲し、肋筋63(図4及び図8参照)における切欠部C1aの間口部側において上下方向に延在する間口上下部63aに沿って下方に延在するように形成されている。
【0040】
一方、低位スラブ3側のプレキャストコンクリート31における各凸条部C2に隣接する平板部C1の上側には、図6及び図7に示すように、凸条部C2の上面に対して上側及び下側のそれぞれに桁行き方向に延在する上位第2鉄筋66(図6参照)及び下位第2鉄筋67が設けられている。
【0041】
上位第2鉄筋66及び下位第2鉄筋67は、プレキャストコンクリート51の切欠部C1aの最奥部に対応する部分において上方に屈曲し、肋筋63(図4及び図8参照)における切欠部C1aの最奥部側において上下方向に延在する最奥上下部63bに沿って上方に延在するように形成されている。
【0042】
なお、図4図8において、7はプレキャストコンクリート31上に打設されたコンクリート68を保持するための型枠である。
【0043】
上記のように構成された住戸床構造1においては、低位スラブ3によって凹領域4を構成し、その凹領域4を主凹部4aと分岐凹部4bによって構成してなり、その主凹部4aは上下の各住戸A1における水平方向の略同一の部位に配置し、かつ水平方向の位置を固定すべき特定水周り設備A2のみを設置することが可能な水平方向の広がりを有するように構成されているので、その特定水周り設備A2が上下の各住戸A1において水平方向の異なった位置に配置されるのを防止することができる。従って、上下の各住戸において、騒音や振動等のトラブルの発生を極力防止できる最適な間取りを確保することができる。
【0044】
また、特定水周り設備A2以外の水周り設備A3については、主凹部4aに隣接する各位置に配置することにより、当該主凹部4aを利用した配管の設置が可能であると共に、分岐凹部4bの延在する範囲に配置することにより、当該分岐凹部4b及び主凹部4aを利用した配管の設置が可能になる。即ち、特定水周り設備A2以外の水周り設備A3については、種々の位置に変更することができる。よって、各住戸A1内における間取りの変更の自由度の向上を図ることができる。
【0045】
更に、分岐凹部4bについては、配管の設置を可能にする最小限の幅等に制限することができるので、仮に直床工法を採用した場合でも、床面を平面状に構成するための工数の削減を図ることができる。即ち、施工コストの低減を図ることができる。
【0046】
また、主凹部4aが住戸A1における桁行き方向の一方の側に配置され、分岐凹部4bが住戸A1における桁行き方向の中央を超えて他方の側に入るように延在しているので、特定水周り設備A2は住戸A1における桁行き方向の一方の側に配置することになるが、特定水周り設備A2以外の水周り設備A3については、当該桁行き方向の他方の側に設置することができると共に、桁行き方向の一方の側における主凹部4aに隣接する位置にも設置することができる。
【0047】
即ち、図2(a)及び(b)に示すように、浴室A2a、トイレA2b、洗濯機の設置機能を有する洗面所A2c等の特定水周り設備A2を桁行き方向の一方の側の主凹部4aに固定的に設置することになるが、キッチンA3a等の特定水周り設備A2以外の水周り設備A3を例えば廊下を挟んで桁行き方向の他方の側にも、桁行き方向の一方の側における主凹部4aに隣接する位置にも移動することができる。
【0048】
また、低位スラブ3及びこれに隣接する特定基準スラブ5について、それらの底面部3a、5aのそれぞれをPC鋼線C3を有するプレキャストコンクリート31、51によって構成し、その上面部60を各プレキャストコンクリート31、51の上側に鉄筋61〜67を配置した上で打設されたコンクリート68によって構成しているので、凹領域4を有するスラブの強度の向上を図ることができる。
【0049】
従って、低位スラブ3と特定基準スラブ5の境界部に例えば小梁を設けて補強する必要がないので、その小梁等の補強部が天井面に露出することがない。即ち、小梁等の補強部により、天井面の見栄えが悪くなったり、天井面の高さを十分に確保することができなくなるなどの問題が発生するのを防止することができる。また、各プレキャストコンクリート31、51によって、床仮わくが不要になるので、施工コストの低減を図ることができる。
【0050】
更に、各凸条部C2の端部同士が互いに上下に重なる位置となるように各プレキャストコンクリート31、51を設置し、その重なる部位における特定基準スラブ5の各平板部C1に切欠部C1aを設け、この切欠部C1aに対応する部位に、特定基準スラブ5側及び低位スラブ3側に位置する梁間方向の複数の鉄筋62を囲むように形成した肋筋63を設けているので、低位スラブ3と特定基準スラブ5との境界部に、梁間方向に延在する複数の鉄筋及びこれを取り巻く複数の肋筋63を備えた鉄筋コンクリート製の強固な梁を構成することができる。従って、低位スラブ3と特定基準スラブ5との境界部の強度の向上を図ることができる。
【0051】
しかも、特定基準スラブ5側のプレキャストコンクリート51の各平板部C1の上側に桁行き方向に延在する上位第1鉄筋64及び下位第1鉄筋65を設け、この上位第1鉄筋64及び下位第1鉄筋65を凸条部C2の先端部に対応する部分で下方に屈曲させて、肋筋63における間口上下部63aに沿って下方に延在させ、また低位スラブ3側のプレキャストコンクリート31の各平板部C1の上側に桁行き方向に延在する上位第2鉄筋66及び下位第2鉄筋67を設け、この上位第2鉄筋66及び下位第2鉄筋67を切欠部C1aの最奥部で上方に屈曲させて、肋筋63における最奥上下部63bに沿って上方に延在させるように構成しているので、梁間方向の複数の鉄筋62及びこれを取り巻く複数の肋筋63を備えた鉄筋コンクリート製の強固な梁に低位スラブ3及び特定基準スラブ5を強固に連結することができる。従って、低位スラブ3と特定基準スラブ5とを一体的に形成された極めて強度の高いものにすることができる。
【0052】
なお、基準スラブ2についても、下面部をPC鋼線を有するプレキャストコンクリートで構成し、その上側に鉄筋を配置した上でコンクリートを打設することにより上面部を構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 住戸床構造
2 基準スラブ
3 低位スラブ
3a 底面部
4 凹領域
4a 主凹部
4b 分岐凹部
5 特定基準スラブ
5a 底面部
31、51 プレキャストコンクリート
60 上面部
61 桁行き方向の鉄筋(鉄筋)
62 梁間方向の鉄筋(鉄筋)
63 肋筋
63a 間口上下部
63b 最奥上下部
64 上位第1鉄筋
65 下位第1鉄筋
66 上位第2鉄筋
67 下位第2鉄筋
68 コンクリート
A1 住戸
A2 特定水周り設備
A3 特定水周り設備以外の水周り設備
C1 平板部
C1a 切欠部
C2 凸条部
C3 PC鋼線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8