【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の鉄骨コンクリート部材は、ウェブとその高さ方向両側に一体化し、前記ウェブの高さ方向に対向するフランジを有する鋼材と、前記鋼材の少なくとも前記対向するフランジ間に充填されるコンクリート、もしくはモルタルとを備え、前記対向するフランジの対向する面
に、前記ウェブより小さい高さの、板状の孔あき鋼板が前記鋼材の材軸方向に平行な方向を向いて一体化し、前記コンクリート、もしくはモルタル中に埋設されると共に、前記コンクリート、もしくはモルタルを前記ウェブとの間に挟み込んで
おり、前記対向するフランジの双方に孔あき鋼板が一体化し、前記対向するフランジに固定された両孔あき鋼板の高さ方向の先端が互いに干渉しない関係にあることを構成要件とする。
【0012】
「ウェブとその高さ方向両側に一体化するフランジを有する鋼材」とは、ウェブの高さ方向両側に下部フランジと上部フランジが接合されたH形断面(H形鋼)、またはH形断面が組み合わせられた形状等、開放形断面の他、箱形断面(角形鋼管)等、閉鎖形断面の鋼材を指す。ウェブは鋼材の幅方向に並列する場合もあり、
図18−(b)に示すようにフランジ22、23の幅方向中心部寄りで並列する場合と、(c)に示すようにフランジ22、23の幅方向両端部に位置する場合があり、後者の場合、鋼材2は箱形断面になる。いずれの形態の場合も、鋼材2は原則的に断面上の中心に関して幅方向に対称な形状をする。フランジ22、23には孔あき鋼板4が一体化することから、フランジ22、23は孔あき鋼板4の一体化後、ウェブ21の両端部に主に溶接によって接合される。
【0013】
「下部フランジと上部フランジ」は鋼材を水平な方向に向けて使用する場合の便宜的な言い方であり、鋼材は材軸を鉛直方向に向けて使用されることもある。孔あき鋼板は対向するフランジの互いに対向する面に、原則として鋼材の幅方向の中心に関して対称位置に対になって突設される。ウェブがフランジの幅方向の中心に位置する鋼材(H形鋼)の場合には、ウェブの中心線の両側に孔あき鋼板が対になって配置され、ウェブがフランジの幅方向両側に位置する鋼材(箱形)の場合には、フランジの幅方向の中心を通る、ウェブに平行な仮想の平面に関して両側に対になって配置される。但し、鋼材の断面形状は必ずしもウェブの中心線に関して線対称形状をする必要はない。結局、孔あき鋼板はウェブの高さ方向に対向するフランジの対向する面のいずれか一方に、もしくは双方に、鋼材の幅方向の中心に関して対になって固定(一体化)される。
【0014】
孔あき鋼板はその材軸方向(長さ方向)を鋼材の材軸方向(長さ方向)に平行に向けて配置され、鋼材のフランジに溶接等によって固定される。孔あき鋼板は原則的にはウェブに平行な面をなしてフランジに固定されるが、必ずしもその必要はない。「ウェブに平行な面をなす」とは、孔あき鋼板の面内方向(幅方向)がウェブの面内方向に平行な状態にあることを言う。
【0015】
「対向するフランジ間にコンクリート、もしくはモルタルが充填される」とは、鋼材の幅方向中心を通る、ウェブに平行な面を挟んだ両側において、ウェブの高さ方向に対向するフランジに挟まれた領域に、鋼材の全高に亘ってコンクリート、もしくはモルタル(以下、コンクリート等と言う)が充填されることを言う。「少なくとも対向するフランジ間」とは、
図1等に示すようにコンクリート等3が対向するフランジ22、23間にのみ充填される場合と、
図18以下に示すようにフランジ22、23を包囲し、挟み込むように充填される場合があることを言う。孔あき鋼板4はコンクリート等3中に埋設されることで、コンクリート等3に厚さ方向両面側から挟み込まれながら、鋼材2の幅方向にはコンクリート等3をウェブ21との間に挟み込む状態になる。コンクリート等3を孔あき鋼板4と共に挟み込むウェブ21は鋼材2の幅方向中心に位置する場合(H形鋼)と幅方向両側に位置する場合(箱形)がある。
【0016】
コンクリート等は孔あき鋼板をその厚さ方向両面側から挟み込むことで、孔あき鋼板の孔以外の表面において付着力を発生し、孔内において支圧力とせん断抵抗力を発揮するから、孔あき鋼板を厚さ方向両面側から挟み込む状態に対向するフランジ間に充填されればよい。よって鋼材を幅方向に見たときのコンクリート等の側面(表面)の位置はフランジの幅方向の側面(縁)の位置とは直接、関係がなく、孔あき鋼板はコンクリート等中に埋設された状態にあればよい。「コンクリート等中に埋設される」とは、孔あき鋼板の両面がコンクリート等に被覆され、両面側にコンクリート等が存在することを言う。
【0017】
孔あき鋼板4の両面側にコンクリート等3が存在することは、鋼材2を幅方向に見たときのコンクリート等3の側面の位置が、鋼材2の材軸に関して外側の孔あき鋼板4の表面より外側にあればよいことである。例えば
図1に示すように鋼材2がH形鋼の場合に、コンクリート等3の側面の位置がフランジ22、23の幅方向の側面の位置に一致している場合には、フランジ22、23の側面よりウェブ21寄りに孔あき鋼板4が配置されていればよい。孔あき鋼板4の外側の表面がフランジ22、23側面よりウェブ21寄りに位置することで、孔あき鋼板4の両面側にコンクリート等3が存在する状態になり、コンクリート等3は孔あき鋼板4を厚さ方向両面側から挟み込む状態になる。
【0018】
また鋼材2の材軸に関して孔あき鋼板4の外側の表面の位置とフランジ22、23の側面の位置が一致する場合には、
図2に示すようにコンクリート等3の幅が鋼材2の幅より大きく、コンクリート等3が鋼材2の全幅を包含している状態にあれば(請求項5)、コンクリート等3は孔あき鋼板4を厚さ方向両面から挟み込む状態になる。
【0019】
コンクリート等3はフランジ22、23の幅方向には鋼材2の全幅が完全にコンクリート等3中に埋設される程度に充填される場合(請求項5)を含め、フランジ22、23の全幅に亘って充填されることもあれば、孔あき鋼板4のフランジ幅方向の固定位置に応じ、ウェブ21からフランジ22、23の幅方向の中間部までの区間にのみ充填されることもある。この他、コンクリート等3は
図18等に示すように鋼材2に対する耐火被覆のために鋼材2の全断面を完全に被覆することもある(請求項6)。「完全に」とは、鋼材2が一部でも露出していない状態を言う。
【0020】
孔あき鋼板4の高さはウェブ21の高さより小さいことで、対向するフランジ22、23の内、一方のフランジ22(23)への孔あき鋼板4の固定状態では、その孔あき鋼板4の対向するフランジ23(22)側の側面(縁)とフランジ23(22)との間に鋼材2の高さ方向に距離が確保され、鋼材2の幅方向外側からのコンクリート等3の充填口が確保される。孔あき鋼板4のフランジ22、23への固定によるコンクリート等3との一体化効果、すなわち鋼材2とコンクリート等3とが分離しようとする力に抵抗し得る効果(能力)は、孔あき鋼板4の孔4aの配列状態から孔あき鋼板4の長さ方向(材軸方向)に生ずるため、フランジ22、23の幅方向の固定位置は問われない。
【0021】
よって孔あき鋼板4がフランジ22、23の対向する面の双方に固定される場合には、フランジ22、23が対向する方向(ウェブ21の高さ方向)に対になる孔あき鋼板4、4は必ずしも同一面内に位置する必要はない。フランジ22、23が対向する方向に対になる孔あき鋼板4、4がフランジ22、23(鋼材2)の幅方向にずれて配置されても、孔あき鋼板4のフランジ22、23への固定によるコンクリート等3との一体化効果に影響はない。各孔あき鋼板4の高さはウェブ21の高さより小さければよく、フランジ22、23が対向する方向に対になる孔あき鋼板4、4の高さの和がウェブ21の高さ未満である必要もない。
【0022】
孔あき鋼板4を包囲するコンクリート等3が鋼材2の対向するフランジ22、23間に充填されたときには、孔あき鋼板4はフランジ22、23の長さ方向に沿って固定されることで、コンクリート等3と孔あき鋼板4を孔あき鋼板4の面内方向に分離(ずれ)させようとする力に対しては、前記のように孔あき鋼板4の孔4a以外の両側の表面におけるコンクリート等3との付着力が抵抗力として発生する。加えて孔あき鋼板4の孔4a内に入り込んでいる柱状のコンクリート等3の外周面(表面)と孔4aの内周面との間に支圧力が作用する上、孔4a内の柱状コンクリート等3の、孔あき鋼板4の両表面に連続する2面(断面)にコンクリート等3のせん断抵抗力が発生する。
【0023】
結局、孔あき鋼板4は付着力と支圧力、及びせん断抵抗力によって孔あき鋼板4の面内方向の力に抵抗する能力を発揮するため、孔あき鋼板4は鋼材2の材軸方向(孔あき鋼板4の面内方向)の力に対する抵抗要素として機能する。従って孔あき鋼板4は鋼材2の材軸方向の抵抗要素になるから、いずれかのフランジ22(23)の対向するフランジ23(22)側の面に、材軸をウェブ21の材軸方向に向けて固定されていれば抵抗要素としての機能を発揮できるため、フランジ22、23の幅方向の固定位置が制約されることはない。
【0024】
孔あき鋼板4が対向するフランジ22、23の対向する面の双方に固定される場合には、前記したコンクリート等3の充填口確保の面からは、対向するフランジ22、23に固定された両孔あき鋼板4、4の高さ方向の先端(側面)が互いに干渉(衝突)しない関係にあればよく、
図6に示すように各フランジ22、23の幅方向に孔あき鋼板4を複数枚、並列させることも可能である。
【0025】
従って
図1に示すように対向するフランジ22、23の幅方向に、鋼材2の断面上の中心からの距離が等しい位置に、対向する孔あき鋼板4、4が固定される場合には、各孔あき鋼板4の高さはそれぞれの先端間に間隔が確保される程度の大きさになる。対向する孔あき鋼板4、4がフランジ22、23の幅方向にずれて配置される場合には、各孔あき鋼板4の先端とそれに対向するフランジ22(23)の内周面との間に間隔が確保される程度の大きさであればよい。
【0026】
コンクリート等3が少なくとも対向するフランジ22、23に挟まれた領域の全高に亘って充填され、孔あき鋼板4がコンクリート等3中に完全に埋設され、コンクリート等3をウェブ21との間に挟み込むことで、鉄骨コンクリート部材1は基本的には
図1、
図2に示すようにその成方向(高さ方向)の両面には鋼材2のフランジ22、23が露出し、幅方向にはコンクリート等3が露出した形になる。但し、
図18に示すようにコンクリート等3が鋼材2全体を被覆する場合(請求項6)には、フランジ22、23とウェブ21は露出しない。
【0027】
孔あき鋼板を埋設する材料としてコンクリートと並列的な関係にあるモルタルはコンクリート中に混入される粗骨材が不在であることで、例えば孔あき鋼板の孔を通じてのフランジ間への充填性がよいことから、コンクリートに代わって使用されることがある。またモルタルへの繊維混入等によりコンクリートに劣らない程度の高い圧縮強度を得ることができることからも、コンクリートに代わる材料として使用される。
【0028】
鉄骨コンクリート部材1が、少なくともフランジ22、23間の全高に亘ってコンクリート等3が充填され、幅方向に孔あき鋼板4がコンクリート等3をウェブ21との間に挟み込む形態をすることで、成方向には鋼材2の対向するフランジ22、23間にコンクリート等3が挟み込まれて拘束された状態になり、幅方向にはフランジ22、23間のコンクリート等3が孔あき鋼板4とウェブ21に挟み込まれて拘束された状態になる。
【0029】
このため、鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向の力(曲げモーメントとせん断力)に対しては、対向するフランジ22、23がコンクリート等3を拘束すると共に、孔あき鋼板4がコンクリート等3をウェブ21との間に挟み込んで鋼材2の幅方向にも拘束するため、コンクリート等3に支圧力として圧縮力を与え、圧縮力を負担させる状態にすることができる。なお、鋼材2が例えばH形鋼の場合には
図1に示すようにウェブ21に関して片側単位で、コンクリート等3が孔あき鋼板4とウェブ21に挟まれるが、
図18−(c)に示すように箱形断面の場合にはコンクリート等3は孔あき鋼板4とウェブ21とに挟まれる領域と、隣接する孔あき鋼板4、4に挟まれる領域とがある。
【0030】
孔あき鋼板4は鋼材2のフランジ22、23の対向する面に一体化することで、鋼材2のフランジ22、23と共に、あるいは鋼材2のフランジ22、23の一部として鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向の曲げモーメントを負担するが、厚さ方向両面側からコンクリート等3に挟み込まれていることで、厚さ方向の変形に対して拘束されるため、成方向の曲げモーメントに対する孔あき鋼板4の「ずれ止め」としての耐力(鋼板面に沿ったせん断破壊耐力、または孔内コンクリートの支圧破壊耐力)が向上する。また鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向のせん断力に対しては、上記のようにコンクリート等3の圧縮力の負担能力が向上し、せん断力の多くを負担することができるため、孔あき鋼板4の曲げモーメントに対する抵抗能力の向上と併せ、結果として鉄骨コンクリート部材1の曲げモーメントとせん断力に対する耐力が向上する。
【0031】
同じような状況は鉄骨コンクリート部材1に幅方向の力(曲げモーメントとせん断力)が作用したときにも生ずる。鉄骨コンクリート部材1に作用する幅方向の力に対しては、孔あき鋼板4が孔4a以外の部分においてウェブ21との間のコンクリート等3を鋼材2の幅方向に拘束し、コンクリート等3に支圧力として圧縮力を与え、圧縮力を負担させる状態にするため、鉄骨コンクリート部材1のせん断力に対する耐力が向上する。また孔あき鋼板4はウェブ21を挟んで、またはフランジ22、23の幅方向の中心を通る、ウェブ21に平行な平面の両側で対になることで、鉄骨コンクリート部材1に作用する幅方向の曲げモーメントを負担する能力を持つが、両面側からコンクリート等3、3に拘束されていることで、孔あき鋼板4の前記「ずれ止め」としての耐力が向上する。
【0032】
従って鋼材2のフランジ22、23と孔あき鋼板4は、鋼材2の断面形状に拘わらず、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面を挟んだ両側で、高さ方向に対向するフランジ22、23間に存在することで、鋼材2の幅方向に孔あき鋼板4とウェブ21とで挟まれたコンクリート等3に対し、鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向と幅方向の、曲げモーメントとせん断力に対する耐力を向上させる働きをする。孔あき鋼板4はまた、前記のように鋼材2のフランジ22、23間に充填されたコンクリート等3との分離(ずれ)を防止することで、鋼材2との一体性を強化する働きをするため、鉄骨コンクリート部材1の剛性を向上させる働きもすることになる。加えてコンクリート等3に対する拘束効果が高ければ、孔あき鋼板4のコンクリート等3との一体化効果も高まるため、コンクリート等3に対する拘束がない場合との対比では、孔あき鋼板4とコンクリート等3との一体性を確保する上で、孔あき鋼板4自体の孔4aの数を削減できる利点もある。
【0033】
ここで、鋼材2がH形や箱形等、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面に関して線対称形をしていれば、鉄骨コンクリート部材1は幅方向のいずれの(正負の)向きに作用する荷重に対しても同等の耐力と剛性を持ち、幅方向の断面性能に正負の方向性を持たない。また孔あき鋼板4が対向するフランジ22、23の双方に向き合うように一体化して(接合されて)いる場合には、鉄骨コンクリート部材1は成方向のいずれの(正負の)向きに作用する荷重に対しても同等の耐力と剛性を持ち、成方向の断面性能にも正負の方向性を持たない。鋼材2の成方向は鋼材2の強軸方向でもあり、幅方向は弱軸方向でもある。
【0034】
鉄骨コンクリート部材1が成方向(強軸方向)にも幅方向(弱軸方向)にも正負の方向性を持たないことで、単体(単独)で構造物の梁や桁等、水平材としての他、柱、杭等、鉛直材としての使用可能性を持ち、構造部材としての用途の幅が広がる。
【0035】
以上のように鉄骨コンクリート部材1がフランジ22、23間にコンクリート等3が充填され、一部のコンクリート等3が対向するフランジ22、23間に挟まれながら、ウェブ21と孔あき鋼板4との間に挟まれた形態をすることで、成方向と幅方向の力を受けたときに、孔あき鋼板4がない場合との対比ではコンクリート等3の耐力が向上する結果、鉄骨コンクリート部材1としてのせん断耐力と曲げ耐力が向上する。また鋼材2がウェブ21等、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面に関して対称形をしていれば、孔あき鋼板4の配置状態によっては断面性能に正負の方向性がない特性を持ち得る。
【0036】
このように成方向と幅方向のいずれの方向の力に対してもコンクリート等の耐力を向上させ、正負の方向性をなくせる点で、本発明の鉄骨コンクリート部材1は特許文献6、7の複合桁とは構成上、並びに性能上、相違する。本発明の鉄骨コンクリート部材1は鋼材2とコンクリート等3、及び孔あき鋼板4とで構造部材として完結するため、床版等、他の部材との組み合わせを前提にする必要性がない点においても、特許文献6、7の複合桁とは構成上、あるいは構造上、相違する。
【0037】
請求項1における「孔あき鋼板が鋼材の材軸方向に平行な方向を向いて一体化する」とは、孔あき鋼板4の材軸方向(長さ方向)が鋼材2の材軸方向(長さ方向)に平行な方向を向いた状態で、孔あき鋼板4の幅方向の端部が鋼材2のフランジ22、23に溶接等によって固定されることを言う。孔あき鋼板4は鋼材2の長さ方向に連続している場合と、
図13−(a)に示すように一部で不連続になり、鋼材2の材軸方向に断続的に配置される場合(請求項
3)がある。前者の場合、孔あき鋼板4は鋼材2の長さ方向に連続して配置されるか、連続する長さを持ち、後者の場合、鋼材2の長さ方向には複数枚の孔あき鋼板4が間隔を置いて断続的に配列することになる。
【0038】
孔あき鋼板4が鋼材2の材軸方向に断続的に配置される場合には、隣接する孔あき鋼板4、4間に隙間が存在する(間隔が空く)ため、この隙間に入り込むコンクリート等3が孔あき鋼板4の長さ方向の端面との間で支圧力を発生する。加えて孔あき鋼板4の両面と同一面の2面においてせん断抵抗力を発生するため、鋼材2とコンクリート等3を材軸方向に分離(ずれ)させようとする力に対する抵抗力が連続する場合より大きくなることが期待される。
【0039】
前記のように鋼材2のフランジ22、23と孔あき鋼板4はコンクリート等3に対し、鋼材2の成方向と幅方向の2方向から拘束効果を発揮する。但し、対向するフランジ22、23間に充填されているコンクリート等3は鋼材2の成方向には鋼材2の対向するフランジ22、23に挟まれ、幅方向にはウェブ21と孔あき鋼板4に挟まれた状態で、フランジ22、23等には接触面の付着力で接着しているだけであるから、鉄骨コンクリート部材1としての変形が進行したときに、コンクリート等3の内部のいずれかの部分に、鋼材2の変形に追従できない領域が発生する可能性が想定される。
【0040】
このような場合には、
図8に示すようにウェブ21の高さ方向に対向する各フランジ22、23に固定されている孔あき鋼板4の孔4a間に鉄筋(定着鉄筋5)を挿通させることで(請求項
4)、コンクリート等3の内部においてコンクリート等3と鉄筋の付着により鋼材2とコンクリート等3との一体性を強化し、コンクリート等3の、鋼材2の変形への追従性を高めることが考えられる。
【0041】
鋼材2を構成するウェブ21とフランジ22、23、及び孔あき鋼板4の内周面から距離を置いた内部においてコンクリート等3を鉄筋に付着させることで、コンクリート等3の鋼材2の変形への追従能力が向上するため、コンクリート等3の脆性破壊が抑制され、鉄骨コンクリート部材1としての変形能力の向上が期待される。
【0042】
孔あき鋼板4の孔4aはコンクリート等3にせん断抵抗力を付与する役目を果たす他、鋼材2の成方向を鉛直方向に向けた状態で、孔あき鋼板4の外側からコンクリート等3の充填作業をする場合に、コンクリート等3の排出口としても利用される。例えば
図13−(b)、(c)に示すように孔あき鋼板4の孔4aの、孔あき鋼板4が一体化している(上部)フランジ23側の内周面を、そのフランジ23の孔あき鋼板4側の面と面一にすることで(請求項
2)、(上部)フランジ23の、孔あき鋼板4が一体化している面(対向する(下部)フランジ22側の面)と孔あき鋼板4の孔4aの内周面を同一面にすることができる。
請求項2に記載の発明の鉄骨コンクリート部材は、ウェブとその高さ方向両側に一体化し、前記ウェブの高さ方向に対向するフランジを有する鋼材と、前記鋼材の少なくとも前記対向するフランジ間に充填されるコンクリート、もしくはモルタルとを備え、前記対向するフランジの対向する面の少なくともいずれか一方に、前記ウェブより小さい高さの、板状の孔あき鋼板が前記鋼材の材軸方向に平行な方向を向いて一体化し、前記コンクリート、もしくはモルタル中に埋設されると共に、前記コンクリート、もしくはモルタルを前記ウェブとの間に挟み込んでおり、前記孔あき鋼板の孔の、その孔あき鋼板が一体化している前記フランジ側の内周面が、そのフランジの前記孔あき鋼板側の面と面一になっていることを構成要件とする。
【0043】
この場合、
図13−(c)に示すようにフランジ23に一体化した孔あき鋼板4のフランジ23側の内周面と、その孔あき鋼板4を挟んだ両側のフランジ23の、孔あき鋼板4側の面(対向するフランジ22側の面)が面一になるため、孔あき鋼板4の、鋼材2の幅方向外側から孔あき鋼板4の内側であるウェブ21との間にコンクリート等3を充填する際に、(上部)フランジ23の下面に固定された孔あき鋼板4と(上部)フランジ23との間の隅角部付近にコンクリート等3を確実に充填させることが可能になる。
【0044】
図5に示すように対向するフランジ22、23の双方の面に孔あき鋼板4、4を溶接した鋼材2の成方向を鉛直方向に向けた状態で、孔あき鋼板4、4の外側からコンクリート等3の充填作業をするときには、
図13−(c)に示すように対向するフランジ22、23に突設された孔あき鋼板4、4間にはコンクリート等3の漏れを防止し、充填領域を区画するための堰板10が配置される。この関係で、堰板10とウェブ21との間に下部フランジ22側から上方へ向けて充填され、上昇するコンクリート等3は上部フランジ23の下面に到達したときに、孔あき鋼板4の孔4aから堰板10側へ排出される。
【0045】
このとき、上部フランジ23の下面(上部フランジ23の孔あき鋼板4側の面)が、孔あき鋼板4の孔4aの上部フランジ23側の面(孔あき鋼板4が一体化している上部フランジ23側の内周面)と面一であることで、上部フランジ23の下面に到達したコンクリート等3は上部フランジ23の下面を伝うように孔あき鋼板4の孔4aから堰板10側へ排出され、孔あき鋼板4の孔4aの両面側に均等に行き渡る。この結果、コンクリート等3の充填時に孔あき鋼板4の厚さ方向両面側と上部フランジ23との間の隅角部付近に空隙が残されることがなく、コンクリート等3は孔あき鋼板4の両面側と上部フランジ23との間の隅角部を含め、対向するフランジ22、23間に完全(密実)に充填されることになるため、コンクリート等3中への空隙の発生が確実に防止される。
【0046】
孔あき鋼板4の孔4aをコンクリート等3の排出口として利用する上では、孔あき鋼板4は
図13−(b)に示すように鋼材2の長さ方向に断続的に配置されている必要はなく、
図13−(d)に示すように連続的に配置されている場合にも、コンクリート等3を孔あき鋼板4の孔4aの両面側に均等に行き渡らせる効果は得られる。
【0047】
前記のように鋼材2は
図18−(a)〜(c)に示すようにコンクリート等3に完全に被覆され、鉄骨コンクリート部材1としての完成時にコンクリート等3中に埋設されることもある(請求項6)。この場合、鋼材2の全断面がコンクリート等3に被覆されることで、鋼材2が耐火被覆処理されるが、鋼材2の外周側のコンクリート等3との一体化を図るために、必要により
図19、
図20に示すように鋼材1の断面上の中心に関して外周側を向く面であるフランジ22、23の外周面、及び鋼材2が箱形断面である場合のウェブ21の外周面にはスタッドボルト、孔あき鋼板等のせん断力伝達部材12が突設される。
【0048】
この場合、鋼材2がコンクリート等3に完全に被覆されることで、耐火性能が確保されることに加え、鋼材2の全断面がコンクリート等3に周囲から拘束されることで、鋼材2自体の剛性と耐力が向上するため、鉄骨コンクリート部材1としての剛性と耐力も向上する。
【0049】
鋼材2がコンクリート等3に被覆される場合、コンクリート等3は
図21に示すように鋼材2の断面上の中心に関して相対的に下側の領域と上側の領域とに、または
図22に示すように外周側の領域と内周側の領域とに分割されて打設されることもある。コンクリート等3を分割して打設する場合には、工場等において先行して打設され、硬化したコンクリート等3が後から打設されるコンクリート等3の型枠を兼ねるため、現場で鉄骨コンクリート部材1を完成させる場合の、現場での支保工や型枠が簡略化され、節減される利点がある。
図23はコンクリート等3を分割して打設する場合に、先行して打設されるコンクリート等3の充填性をよくするために、例えば
図21−(c)に示す鋼材2の下部のフランジ23に多数の開口2cを形成した様子を示している。