(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明のゲル電解質前駆体の構成を見出すに当たり、本発明者らが検討した経緯を以下に説明する。
【0024】
<架橋性化合物Aを含み、架橋性化合物Bを含まない電解液aのゲル化について>
電解質を含む非水溶媒中に、架橋基であるオキシラン環を3個以上有する架橋性化合物Aのみを含み、オキシラン環を1又は2個有する架橋性化合物Bを含まない電解液aを調製した場合、この電解液aをゲル化させることは簡単であるが、ゲル中の化学架橋密度が高くなるため、硬度の高いゲルになる。硬度の高いゲル中のイオンの動きは妨げられる可能性があるため、より柔軟で化学架橋密度の低いゲルが望まれる。柔軟なゲルを形成するためには、架橋性化合物Aの濃度を低下させて、ゲル化するために必要な最低限の濃度にする方法が理論的には考えられる。しかし、この最低限の濃度を見出すことは極めて難しい。架橋性化合物Aの濃度が低すぎるとゲル化させること自体が困難になる一方、確実にゲル化させる濃度まで高めると、ゲルの硬度を所望の程度まで下げることができない。
さらに、電解液aにおいては、架橋反応が適当な時期に停止せずに長引く傾向があるため、想定を超えた高密度な架橋を形成してしまうことがある。この場合、電解質を含む溶媒(液成分)がゲルから押し出されて(排斥されて)、ゲルと液成分との2相に分離してしまうことがある。
【0025】
<架橋性化合物Aを含まず、架橋性化合物Bを含む電解液bのゲル化について>
一方、電解質を含む非水溶媒中に、架橋基であるオキシラン環を1又は2個有する架橋性化合物Bのみを含み、オキシラン環を3個以上有する架橋性化合物Aを含まない電解液bを調製した場合、この電解液bをゲル化させること自体が難しくなる。
オキシラン環を1個有する化合物を用いて電解液b−1を調製した場合、オキシラン環のカチオン開環重合により直鎖状ポリエーテルが電解液b−1中に生じる。しかし、直鎖状ポリエーテルだけで電解液b−1をゲル化させたり増粘させたりするためには、多量の前記化合物が必要となる。このように多量の架橋性化合物Bを含有させた場合、相対的に電解液b−1における電解質(イオン伝導物質)の比率が減少する。このような電解液b−1を用いた電池においては、その電池性能が明らかに低下してしまう。
また、オキシラン環を2個有する化合物を用いて電解液b−2を調製した場合、この電解液b−2をゲル化させることは可能であるが、電解液b−1の場合と同様に、多量の架橋性化合物Bを含有させることが必要となる。このような電解液b−2を用いた電池においても、その電池性能は低下してしまう。
【0026】
本発明者らは上記問題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、架橋基であるオキシラン環を3個以上有する架橋性化合物Aと、オキシラン環を1又は2個有する架橋性化合物Bとを混合することにより、適度な粘度又は硬度を有するゲルを得るために必要な架橋性化合物A及びBの濃度の調整幅が広く、ゲル化速度が調整可能であり、得られるゲルの物性(粘度又は硬度)も制御することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
以下、本発明のゲル電解質前駆体の好適な実施形態について具体的に説明する。
【0028】
《ゲル電解質前駆体》
本発明のゲル電解質前駆体の好適な実施形態は、非水系溶媒と、電解質と、オキシラン環を3個以上有する架橋性化合物Aを少なくとも1種と、オキシラン環を1又は2個有する架橋性化合物Bを少なくとも1種と、を含有する。
【0029】
<オキシラン環の酸による開環>
架橋基としてのオキシラン環は、電解液中に存在する微量な酸の触媒作用によって、カチオン開環重合し、穏やかに架橋反応が進むため、好ましい。
電解液中に存在する微量な酸としては、例えば、非水系溶媒中に不可避的に含有される微量の水と電解質とが反応した結果生じるブレンステッド酸、非水系溶媒中に溶解された電解質を加熱することにより生じるルイス酸、非水系溶媒に添加するその他の酸成分等が挙げられる。
【0030】
前記ブレンステッド酸としては、例えば、電解質として、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム等のリチウム塩が、非水系溶媒に含まれる微量の水によって加水分解されて生じるフッ化水素(フッ化水素酸)が挙げられる。
【0031】
前記ルイス酸としては、例えば、非水系溶媒に電解質として溶解された、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム等のリチウム塩が加熱されることにより生じる、五フッ化リン(PF
5)、三フッ化ホウ素(BF
3)等が挙げられる。なお、この加熱によってフッ化水素も生じる。
【0032】
電解液中に存在する微量な酸の触媒作用によって、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bのカチオン開環重合を開始させるためには、特別な処理は必要なく、非水系溶媒中に電解質と共に架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを溶解させることにより、穏やかに重合(架橋反応)を開始させることができる。また、架橋反応を促進又は加速させる方法としては、当該電解液を加熱することにより、前述のルイス酸及びブレンステッド酸の濃度を高める方法が例示できる。さらに、電解液中に、熱、光等などの刺激により酸を発生する刺激応答性酸発生剤を添加することにより、前記架橋反応を一層促進又は加速させてもよい。
【0033】
<架橋性化合物>
本明細書において、オキシラン環を3個以上有する架橋性化合物A、及びオキシラン環を1又は2個有する架橋性化合物Bの具体例を以下に示すが、本発明で用いる架橋性化合物A及び架橋性化合物Bはこれに限定されない。
架橋性化合物A及び架橋性化合物Bは、各々独立して、オキシラン環を有するモノマー単独であってもよいし、前記モノマーが重合したポリマーであってもよい。
【0034】
前記ポリマーとしては、例えば、フェノールノボラック系エポキシ樹脂が挙げられる。また、下記式(X−1)で表される、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物も例示できる。ここで例示した化合物に限らず、単一の分子内に3個以上のオキシラン環を有している化合物であれば、本実施形態の架橋性化合物Aとして用いることができる。また、単一の分子内に1又は2個のオキシラン環を有している化合物であれば、本実施形態の架橋性化合物Bとして用いることができる。
【0036】
前記式(X−1)で表される化合物が架橋性化合物Aである場合、式中、nは3以上の整数を表し、3〜10が好ましく、3〜7がより好ましく、3〜5がさらに好ましい。
前記式(X−1)で表される化合物が架橋性化合物Bである場合、式中、nは1又は2の整数を表す。
【0037】
前記式(X−1)中、Rは炭化水素基を表す。前記炭化水素基は脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。前記炭化水素基を構成する炭素原子の一部が、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子で置換されていてもよい。前記炭化水素基の炭素原子数は特に制限されないが、例えば1〜30が挙げられる。前記炭化水素基としては、例えばアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。前記アルキル基は直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記アルキル基の炭素原子数は1〜10が好ましく、前記アルケニル基の炭素原子数は2〜10が好ましい。
【0038】
架橋性化合物A及び架橋性化合物Bが有するオキシラン環は、オキシラン環を構成する酸素原子に結合する2つの炭素原子の少なくとも一方に、水素原子以外の置換基が結合していることが好ましく、前記2つの炭素原子の両方に前記置換基が結合していることがより好ましい。前記2つの炭素原子の両方に前記置換基が結合していることにより、当該オキシラン環の開環重合の反応性を高めることができる。
【0039】
前記置換基としては、例えば、1価の炭化水素基、単結合又は2価の炭化水素基からなる連結基が挙げられる。
【0040】
前記1価の炭化水素基は脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。前記1価の炭化水素基を構成する炭素原子の一部が、窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子で置換されていてもよい。前記1価の炭化水素基の炭素原子数は特に制限されないが、例えば1〜30が挙げられる。前記1価の炭化水素基としては、例えばアルキル基又はアルケニル基が挙げられる。前記アルキル基は直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。前記アルキル基の炭素原子数は1〜10が好ましく、前記アルケニル基の炭素原子数は2〜10が好ましい。また、前記置換基が複数ある場合、複数の置換基同士が結合して、当該オキシラン環を構成する酸素原子に結合する2つの炭素原子とともに環を形成していてもよい。
【0041】
前記置換基がアルキル基である場合、オキシラン環を構成する2つの炭素原子の両方に当該アルキル基が1つ以上結合した化合物、すなわちオキシラン環が2つ以上のアルキル基を置換基として有する化合物が、架橋性化合物A又は架橋性化合物Bの一例として挙げられる。前記2つ以上のアルキル基は互いに結合して環を形成していてもよい。この環を有する化合物として、シクロヘキサン環やシクロペンタン環にオキシラン環が縮環した化合物が挙げられる。
【0042】
前記置換基は、単結合又は2価の炭化水素基からなる連結基であることが好ましい。すなわち、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bは、オキシラン環を含む基を有することが好ましい。オキシラン環を含む基は、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを構成する残りの部分に結合する。
【0043】
前記2価の炭化水素基を構成する炭素原子の一部又は全部は酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子で置換されていてもよい。また、前記2価の炭化水素基が複数ある場合、これら複数の置換基が互いに結合して、当該オキシラン環を構成する酸素原子に結合する2つの炭素原子とともに環を形成していてもよい。この環は1つの結合手(他の基に結合しうる炭素原子)を有していてもよいし、2つ以上の結合手を有していてもよい。前記2価の炭化水素基は炭素数1〜10の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキレン基であることが好ましい。
【0044】
オキシラン環を含む基としては、例えば、シクロヘキセンオキシド基、エポキシ基、グリシジル基等が好適な基として挙げられる。
シクロヘキセンオキシド基は、シクロヘキセンに酸化剤を作用させることにより容易に得られ、反応性が高く、入手も容易であるため、好適である。
【0045】
本実施形態のゲル電解質前駆体は、シクロヘキセンオキシド基を3個以上有する架橋性化合物Aとして、下記一般式(A−1)及び下記一般式(A−2)で表される化合物からなる群から選択される何れか1種以上を含有することが好ましい。
これらの架橋性化合物Aを含有する本実施形態のゲル電解質前駆体がゲル化することにより、リチウムイオン二次電池の用途に適した粘度又は硬度を有し、イオン電導性に優れたゲル電解質を容易に得ることができる。
【0047】
前記式(A−1)中、a,b,c,dはそれぞれ独立に0〜2の整数を表す。前記式(A−1)のa〜dは全て、0〜1であることが好ましく、1であることがより好ましい。
前記式(A−2)中、a,bはそれぞれ独立に0〜2の整数を表す。前記式(A−2)のa及びbは、0〜1であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態のゲル電解質前駆体は、シクロヘキセンオキシド基を1又は2個有する架橋性化合物Bとして、下記式(B−1)〜(B−14)で表される化合物からなる群から選択される何れか1種以上を含有することが好ましい。下記式(B−1)〜(B−14)で表される化合物は、前記一般式(A−1)及び一般式(A−2)で表される架橋性化合物Aと組み合わせて含有することが好ましい。
これらの架橋性化合物Bを含有する本実施形態のゲル電解質前駆体がゲル化することにより、リチウムイオン二次電池の用途に適した粘度又は硬度を有し、イオン電導性に優れたゲル電解質を容易に得ることができる。
【0050】
前記一般式(B−13)中、Rは、炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を表す。
【0051】
シクロヘキセンオキシド基を有する架橋性化合物Bの他に、例えば、グリシジル基を有する架橋性化合物Bとして、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビルフェノールFジグリシジルエーテルなどの市販のエポキシ樹脂主剤が例示できる。
【0052】
本実施形態のゲル電解質前駆体を構成する架橋性化合物A及び架橋性化合物Bにおいては、グリシジルエーテル型のオキシラン環よりも、前述した置換基を2つ以上有するオキシラン環が含まれることが好ましく、シクロヘキサン環に縮環したシクロヘキセンオキシド基が含まれることがより好ましい。
これらの好適な架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを含有する本実施形態のゲル電解質前駆体がゲル化することにより、リチウムイオン二次電池の用途に適した粘度又は硬度を有し、イオン電導性に優れたゲル電解質を容易に得ることができる。
【0053】
<架橋性化合物A,Bの含有比>
本実施形態のゲル電解質前駆体において、前記架橋性化合物Aと前記架橋性化合物Bとの含有比率(A:B)は、重量比で95:5〜1:99の範囲であることが好ましく、90:10〜3:97の範囲がより好ましく、80:20〜5:95の範囲がさらに好ましい。
上記好ましい含有比の範囲のゲル電解質前駆体をゲル化することにより、リチウムイオン二次電池の用途に適した粘度又は硬度を有し、イオン電導性に優れたゲル電解質を容易に得ることができる。
【0054】
<架橋性化合物Aの濃度>
本実施形態のゲル電解質前駆体の総重量に対する、架橋性化合物Aの含有量は1重量%以上が好ましく、1.5〜10重量%がより好ましく、2〜7重量%がさらに好ましい。
【0055】
本実施形態のゲル電解質前駆体において、架橋性化合物Aの前記含有量は、通常1重量%以上であることが必要である。架橋性化合物Aを1重量%以上含有することにより、得られるゲル電解質の架橋密度を高め、ゲル電解質の粘度、硬度等の物性を容易に調整することができる。なお、本実施形態において、架橋性化合物Aを2種以上用いる場合、前記含有量は、複数種類の架橋性化合物Aの合計の含有量を意味する。
【0056】
<架橋性化合物Bの濃度>
本実施形態のゲル電解質前駆体の総重量に対する、架橋性化合物Bの含有量は5重量%以上が好ましく、6〜15重量%がより好ましく、7〜10重量%がさらに好ましい。
【0057】
本実施形態のゲル電解質前駆体において、架橋性化合物Bを5重量%以上含有することにより、得られるゲル電解質の架橋密度が高くなり過ぎることを抑制し、ゲル電解質の粘度、硬度等の物性を容易に調整することができる。通常、架橋性化合物Bを多く添加するほど、架橋密度が低くなり、比較的柔らかいゲル電解質が得られる。また、架橋性化合物Bを5重量%以上含有させることにより、架橋性化合物Aの前記含有量の上限値を高くして、架橋性化合物Aの前記含有量の調整幅を広くすることができる。また、架橋性化合物Bのうち、オキシラン環を1個有する化合物は、ゲル中における架橋基としてのオキシラン環同士の距離を延長する調整剤として機能しうるので、これを考慮して前記含有比を調整することが好ましい。なお、本実施形態において、架橋性化合物Bを2種以上用いる場合、前記含有量は、複数種類の架橋性化合物Bの合計の含有量を意味する。
【0058】
<架橋性化合物A及びBの合計重量>
本実施形態のゲル電解質前駆体の総重量に対する、架橋性化合物Aと架橋性化合物Bの合計の重量は、各化合物の種類にもよるが、1〜20重量%であることが好ましく、2〜15重量%がより好ましく、4〜10重量%がさらに好ましい。
前記合計の重量が1重量%未満であると、架橋構造の形成によるゲル化が通常困難である。一方、前記合計の重量が20重量%を超えると、ゲル電解質中で伝導されるイオン濃度又はイオン伝導度が相対的に低下する。このようなゲル電解質を備えた電池の性能は、低下してしまうことがある。
【0059】
<オキシラン環以外の架橋性官能基について>
本実施形態のゲル電解質前駆体には、オキシラン環以外のカチオン重合が可能な架橋性官能基を有する化合物が、必須成分ではない添加成分として含まれてもよい。
オキシラン環と同様にカチオン開環重合が可能な環状エーテルとしては、オキセタン環、テトラヒドロフラン環が知られている。
【0060】
オキセタン環を有する化合物としては、2官能化合物として3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン、キシリレンビスオキセタンなどが挙げられ、単官能化合物として2-エチルヘキシルオキセタン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコール) 等が挙げられる。オキセタン環を有する化合物を本実施形態のゲル電解質前駆体に添加してもよい。ただし、一般にオキセタン環は反応性が高いため、それを勘案して添加する必要がある。
【0061】
テトラヒドロフラン環もカチオン開環重合するため、本実施形態のゲル電解質前駆体に添加してもよい。ただし、テトラヒドロフラン環の天井温度が低く、重合と解離の平衡反応となり易いため、それを勘案して添加する必要がある。
このほか、環状エーテルとして1,3,5-トリオキサン等も添加可能であり、必要に応じて添加することができる。
【0062】
更に、カチオン開環重合することが可能な化合物として、β-プロピオラクトンなどのラクトン類、炭酸プロピレンなど環状炭酸エステルも挙げることができる。これらは一般に環状エーテルよりも反応性が低いため、これらを勘案して添加することができる。
【0063】
このほか、カチオン付加重合する化合物として、スチレン類、炭化水素オレフィン類、ビニルエーテル類、インデン類、ベンゾフラン類、2,3−ジヒドロフラン類など、公知の化合物を添加してもよい。
【0064】
上述したオキシラン環以外の架橋性官能基を有する化合物は、その反応性、溶解度、ゲル化反応に対する影響、電池性能への影響などを勘案して、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で添加することができる。
【0065】
<非水系溶媒>
本実施形態のゲル電解質前駆体を構成する非水系溶媒としては、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを溶解可能であり、オキシラン環による架橋反応を阻害する溶媒でなければ特に制限されず、電池の種類や用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、公知のリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる非水系溶媒が適用可能である。非水系溶媒には、前述した酸によるオキシラン環の開環反応が起きる程度の極微量の水が含まれていることが好ましい。
【0066】
具体的な非水系溶媒として、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル等の高誘電率で高沸点の炭酸エステル系溶媒が好適な溶媒として挙げられる。また、脂肪酸エステルやラクトンを前記溶媒に添加してもよい。本実施形態における非水系溶媒は1種類であってもよいし、2種以上が混合された混合溶媒であってもよい。
【0067】
<電解質>
本実施形態のゲル電解質前駆体を構成する電解質は、特に制限されず、電池の種類や用途に応じて適宜選択することができる。
本実施形態のゲル電解質前駆体をリチウムイオン二次電池の製造に用いる場合には、前記電解質はリチウムイオンを含む支持塩が適当である。具体的には、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウムなどのフッ素無機塩、リチウム−ビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウム−ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド等のイミド類等が挙げられる。
【0068】
前記電解質としては、非水系溶媒に含まれる微量の水によって加水分解されることによりブレンステッド酸を生じることが可能な電解質、又は、非水系溶媒中で加熱されることによりルイス酸を生じることが可能な電解質が好ましい。このような電解質として、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウムが、本実施形態の好適な電解質として例示できる。
【0069】
前記電解質の含有量は、本実施形態のゲル電解質前駆体の総重量に対して、1〜25重量%が好ましく、3〜20重量%がより好ましく、5〜18重量%がさらに好ましい。
上記の好適な含有量であると、オキシラン環を有する架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを穏やかに架橋させて、リチウムイオン二次電池のゲル電解質として好ましいイオン電導性及び物性を有するゲル電解質を容易に得ることができる。
【0070】
<その他の成分>
本実施形態のゲル電解質前駆体には、必要に応じて、添加剤を加えてもよい。
添加剤としては、例えば、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bが有するオキシラン環の開環重合反応を促進する目的で、無機酸、刺激応答性の酸発生剤を添加してもよい。添加濃度は使用する架橋性化合物A,Bの種類や濃度に応じて適宜調整される。
【0071】
また、その他の添加剤としては、例えば、電極と電解液(電解質)間に生じ、電極表面を安定化させるSEIと呼ばれる皮膜を形成する材料や、電解液(電解質)に難燃性を付与するための難燃剤などが挙げられる。さらに、増粘剤を添加剤として加えて、所望の粘度に調整しても構わない。
【0072】
<ゲル電解質前駆体の調製方法>
本実施形態のゲル電解質前駆体は、非水系溶媒、電解質、架橋性化合物A及び架橋性化合物B、並びに必要に応じてその他の成分を均一に混合することにより調製できる。各成分は、これらを順次添加しながら混合してもよいし、全成分を一度にまとめて混合してもよい。ただし、オキシラン環の開環重合反応を開始又は促進させる成分と架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを混合すると、ゲル化が開始又は促進することを考慮して、ゲル電解質を製造する直前(ゲル化する直前)にゲル電解質前駆体を調製することが好ましい。
【0073】
本実施形態のゲル電解質前駆体の好適な調製方法として、まず、前記非水系溶媒に所定量の電解質を溶解させた電解液を調製した後、前記電解液に所定量の架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを添加し、穏やかに撹拌して、各成分を充分に溶解させることにより、目的のゲル電解質前駆体を得る方法が挙げられる。調製したゲル電解質前駆体を構成する非水系溶媒中には、通常、不可避的に含有される水が存在するため、電解質の種類によっては、酸が自然に発生し、オキシラン環の架橋重合反応が穏やかに開始されることがある。これを考慮して、ゲル電解質を製造する直前(ゲル化する直前)にゲル電解質前駆体を調製することが好ましい。
【0074】
各成分を混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用することができる。
【0075】
本実施形態のゲル電解質前駆体を調製する際の混合温度、混合時間等の混合条件は、前記電解質の劣化を避け、オキシラン環の開環重合反応が開始又は促進されることを抑制することを考慮しつつ、適宜設定すればよい。
【0076】
例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)の熱分解は60℃程度で始まることが知られている。このため、前記電解質が熱に弱い種類のリチウム塩である場合、前記混合温度は、4〜70℃が好ましく、10〜60℃がより好ましく、15〜50℃が更に好ましく、20〜40℃が特に好ましい。また、前記混合時間は、通常、1〜30分で充分であり、1〜20分が好ましく、1〜10分が更に好ましい。
【0077】
《ゲル電解質の製造方法》
本発明のゲル電解質の製造方法の好適な実施形態は、前述のゲル電解質前駆体に、微量の酸を作用させ、前記架橋性化合物A及び前記架橋性化合物Bを架橋させることによりゲル電解質を得る方法である。
【0078】
ゲル電解質前駆体に微量の酸を作用させる方法としては、オキシラン環を穏やかに開環重合させることが可能な量の酸を作用させる方法であれば特に制限されない。例えば、ゲル電解質前駆体に微量の無機酸を添加する方法(1)、ゲル電解質前駆体に予め添加しておいた刺激応答性酸発生剤に所定の刺激を加える方法(2)、ゲル電解質前駆体を構成する非水系溶媒に含まれる微量の水と電解質とを利用して酸を発生させる方法(3)が挙げられる。
【0079】
前記方法(1)において、添加する無機酸の種類及び添加量は、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bの種類及び含有量に応じて適宜設定することができる。
【0080】
前記方法(2)において、添加する刺激応答性酸発生剤の種類及び添加量は、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bの種類及び含有量に応じて適宜設定することができる。例えば、公知の光酸発生剤、熱酸発生剤を適用することができる。
【0081】
前記方法(3)は、前述した通り、ゲル電解質前駆体中に自然に発生するフッ化水素等のブレンステッド酸又はルイス酸を利用する方法である。酸の発生を促進させるために、ゲル電解質前駆体を加熱してもよい。加熱温度としては、電解質が熱分解しない程度の比較的低い温度が好ましく、例えば40〜55℃程度が好ましい。加熱時間は特に制限されず、必要に応じて1時間〜数日間加熱することができる。
【0082】
本実施形態のゲル電解質の製造方法においては、前記方法(3)が好ましい。前記方法(3)によれば、比較的遅い架橋反応速度で穏やかにゲル化することができる。穏やかにゲル化することにより、リチウムイオン二次電池のゲル電解質として好ましいイオン電導性及び物性を有するゲル電解質を容易に得ることができる。
また、前記方法(3)によれば、ゲル電解質前駆体に別途、酸や酸発生剤を添加する必要がないため、簡便にゲル電解質を製造することができる。
【0083】
本実施形態の製造方法により得られたゲル電解質は、オキシラン環が化学的に架橋した架橋構造を有する化学ゲルである。化学ゲルは、熱が加えられても容易には崩壊しない。この特性は、リチウムイオン二次電池のゲル電解質として使用する場合に有利に働く。リチウムイオン二次電池に何らかの不具合が発生し、電解質の漏洩等が懸念される状況においては、電池が異常発熱している可能性が高い。化学ゲルではなく、物理ゲルを用いた場合、異常発熱によって加熱された場合にゲルが溶けて液状になり、電池の外へ漏洩するリスクが高い。一方、化学ゲルにおいては、このようなリスクは殆ど無い。
【0084】
本実施形態の製造方法により得られたゲル電解質は、一次電池、二次電池、燃料電池等の公知の電池に適用可能である。前記二次電池としては、例えばリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0085】
《リチウムイオン二次電池の製造方法》
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法の好適な実施形態は、前述した本発明のゲル電解質前駆体を電池容器内に注入する工程(注入工程)と、前記電池容器内に注入したゲル電解質前駆体をゲル化する工程(ゲル化工程)とを含む方法である。
【0086】
前記注入工程において使用する「電池容器」とは、広義には、リチウムイオン二次電池においてゲル電解質又は電解液を保持可能な領域(空間)を意味する。このような空間としては、例えば、互いに対向配置された正極板と負極板の間の空間が挙げられる。また、「電池容器」の狭義の意味は、電池においてゲル電解質又は電解液を保持可能な入れ物を意味する。本明細書及び特許請求の範囲において、「電池容器」の用語は、広義の意味及び狭義の意味の両方を含む。
【0087】
<注入工程>
前記注入工程において、電池容器内に前記ゲル電解質前駆体を注入する方法は特に制限されず、従来の電解液を注入するための装置及び方法が適用可能である。この際、ゲル化する前のゲル電解質前駆体の粘度を、前記注入が容易に行える程度に低く調整しておくことが好ましい。前記ゲル電解質前駆体の注入量は、電池容器の容積にもよるが、従来のリチウムイオン二次電池における電解液の注入量と同等で構わない。前記電池容器内には、あらかじめ正極、負極、セパレータ等の電池部材が配置されていることが好ましい。前記注入工程においては、前記ゲル電解質前駆体の流動性が充分に維持されることが好ましい。充分な流動性を有するゲル電解質前駆体は、電池容器内の各部材の隙間に充分に浸透し、電池性能の発揮に必要な電気化学反応が適切に行われる状態になる。ゲル電解質前駆体の注入後、次のゲル化工程を行うことが好ましい。
【0088】
<ゲル化工程>
前記ゲル化工程において、電池容器内に注入した前記ゲル電解質前駆体をゲル化する方法としては、前述したゲル電解質の製造方法のうち、方法(1)〜方法(3)の何れかを適用することが好ましい。なお、何れの方法においても、電池容器の最終的な封止は適当な時期に行えばよい。
【0089】
前記方法(1)を適用する場合、注入前に予め無機酸をゲル電解質前駆体中に添加しておいてもよいし、ゲル電解質前駆体を注入する前若しくは後に、別途、無機酸を電池容器内に注入してもよい。無機酸をゲル電解質前駆体中に均一に混合することが容易であることから、注入前に予め所定量の無機酸をゲル電解質前駆体中に添加しておく方法がより好ましい。ゲル電解質前駆体中に混合された無機酸がオキシラン環の開環重合を進めることにより、電池容器内でゲル電解質を形成することができる。
【0090】
前記方法(2)を適用する場合、注入前に予め刺激応答性酸発生剤をゲル電解質前駆体中に添加しておいてもよいし、ゲル電解質前駆体を注入する前若しくは後に、別途、刺激応答性酸発生剤を電池容器内に注入してもよい。刺激応答性酸発生剤をゲル電解質前駆体中に均一に混合することが容易であることから、注入前に予め所定量の刺激応答性酸発生剤をゲル電解質前駆体中に添加しておく方法がより好ましい。刺激応答性酸発生剤が酸を発生するための光、熱、振動等の刺激を加えて、発生した酸がオキシラン環の開環重合を進めることにより、電池容器内でゲル電解質を形成することができる。
【0091】
前記方法(3)を適用する場合、ゲル電解質前駆体中に自然に発生する酸(ブレンステッド酸又はルイス酸)の作用でオキシラン環の開環重合を進めることにより、電池容器内でゲル電解質を形成することができる。
この場合、酸の発生及び拡散を促進する目的で、電池容器内のゲル電解質前駆体を加熱したり、振動させたりする物理的な刺激を加えてもよい。ここで行う加熱処理は、電解質の熱分解を抑制するために、40〜55℃程度を目安としてなるべく低い温度又は1時間〜数日を目安としてなるべく短時間で行うことが好ましい。
【0092】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法におけるその他の工程は、特に制限されず、従来公知の方法が適用できる。
前記注入工程の前工程としては、例えば、正極、負極、セパレータなどの電池の構造要素を公知方法により電池容器内に組み込む工程が挙げられる。また、前記ゲル化工程の前工程としては、例えば、ゲル電解質前駆体の注入後に電池容器内に残存する気泡を脱気し、その後、封止(シール)する工程が挙げられる。また、前記ゲル化工程の前工程又は後工程として、必要に応じて電池の充放電を施してもよい。
【0093】
《リチウムイオン二次電池》
本発明のリチウムイオン二次電池の好適な実施形態は、本発明のゲル電解質を備えたリチウムイオン二次電池、及び、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法によって製造されたリチウムイオン二次電池である。本実施形態のリチウムイオン二次電池において、前記ゲル電解質以外の構成は、特に制限されず、従来公知のリチウムイオン二次電池の構成が適用できる。
【0094】
一般のリチウムイオン二次電池の基本構造は、正極、ゲル電解質又は電解液、セパレータ、負極を順次積み重ね、フィルムパッケージ、缶(金属製容器)等の電池容器内に設置されたものが多い。
【0095】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成として、正極、負極、ゲル電解質、電池容器、並びに必要に応じて使用するセパレータが例示できる。
前記正極としては、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、リン酸鉄リチウム等が挙げられる。
前記負極としては、例えば、グラファイト、ハードカーボン等の炭素系材料の他、チタネート、シリコン、ゲルマニウム等が挙げられる。
【0096】
前記セパレータは正極と負極が直接接触することを防ぐ部材であり、正極と負極の間に設けられる。通常、セパレータは多孔質体であり、電解液(電解質)をその孔に保持している。前記セパレータの材料としては、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなる多孔質シートが用いられる。前記セパレータとして、電池が異常発熱した場合に多孔質の孔が閉塞してイオン伝導を遮断し、それ以上の反応暴走を抑制する機能も有するセパレータを適用してもよい。
【0097】
前記電池容器としては、例えば、前記正極、セパレータ及び負極の積層体を包む樹脂フィルム(ラミネートフィルム)、金属製容器等が挙げられる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型、フィルムパッケージ型等、種々の形状が適用できる。
【0098】
本実施形態のリチウムイオン二次電池に充填されたゲル電解質の量は、従来公知のリチウムイオン二次電池における電解液又はゲル電解質と同等で構わない。
【実施例】
【0099】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0100】
[実施例1]
(ゲル電解質前駆体の製造方法)
ドライボックス内で、炭酸エチレン25vol%、炭酸ジエチル75vol%の混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶かし、電解液を得た。
架橋性化合物Aとしてのブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)εカプロラクトン変性(株式会社ダイセル製、エポリードGT−401)(前記式(A-1)で表される化合物)と、架橋性化合物Bとしての3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート (和光純薬株式会社製)前記式(B-1)で表される化合物)とを、重量比7:3で混合した混合物を、前記電解液中に5重量%となる様に加え、ゲル電解質前駆体を得た。
【0101】
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で製造したゲル電解質前駆体を用い、正極としてコバルト酸リチウム、負極として黒鉛と、セパレータとしてガラス繊維と、を用いてコインセルを製造した。具体的には、円盤状に打ち抜いた上記の正極、セパレータ、負極をこの順にSUS製の電池容器(CR2032等)内で積層し、この電池容器内に上記ゲル電解質前駆体を注入して、積層体にゲル電解質前駆体を含浸させ、電池容器内の負極の上にSUS製の蓋を載せて電池容器を封止した。その後、50℃で5日間加熱することにより、電池容器内の電解液を前記方法(3)によってゲル化することにより、ゲル電解質を備えたリチウムイオン二次電池を製造した。
【0102】
(電池性能の評価)
実施例1の電池の放電容量は、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを含有させていない前記電解液を用いて製造したリチウムイオン二次電池の放電容量とほぼ同じであった。これら両方の電池について、充放電特性を評価したところ、実施例1の電池の電圧はわずかに低くなったが、サイクル特性の低下は見られなかった。
実施例1の電池をドライボックス内で分解したところ、ゲル電解質前駆体はゲル化してゲル電解質を形成しており、電池容器を破壊してもゲル電解質は漏れ出てこなかった。
【0103】
[実施例2]
(ゲル電解質前駆体の製造方法)
架橋性化合物Aとしてのシクロヘキセン−3,4−ジカルボン酸ジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)εカプロラクトン変性(株式会社ダイセル製、エポリードGT−300)(前記式(A-2)で表される化合物)と、架橋性化合物Bとしてのε-カプロラクトン変性 3',4'-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(株式会社ダイセル製、セロキサイド2081)(前記式(B-3) で表される化合物)とを、重量比5:5で混合した混合物を、実施例1で製造した電解液中に6重量%となる様に加え、ゲル電解質前駆体を得た。
【0104】
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で製造したゲル電解質前駆体を用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0105】
(電池性能の評価)
実施例2の電池の放電容量は、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを含有させていない前記電解液を用いて製造したリチウムイオン二次電池の放電容量とほぼ同じであった。これら両方の電池について、充放電特性を評価したところ、実施例2の電池の電圧はわずかに低くなったが、サイクル特性の低下は見られなかった。
実施例2の電池をドライボックス内で分解したところ、ゲル電解質前駆体はゲル化してゲル電解質を形成しており、電池容器を破壊してもゲル電解質は漏れ出てこなかった。
【0106】
[実施例3]
(ゲル電解質前駆体の製造方法)
架橋性化合物Aとしてのブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)εカプロラクトン変性(株式会社ダイセル製、エポリードGT−401)(前記式(A-1)で表される化合物)と、架橋性化合物Bとしてのアジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)(SINASIA社製、S−28)(前記式(B-2) で表される化合物)と、架橋性化合物Bとしてのシクロヘキセンオキシド(和光純薬社製)(前記式(B-4) で表される化合物)とを、重量比3:6:1で混合した混合物を、実施例1で製造した電解液中に8重量%となる様に加え、ゲル電解質前駆体を得た。
【0107】
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で製造したゲル電解質前駆体を用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0108】
(電池性能の評価)
実施例3の電池の放電容量は、架橋性化合物A及び架橋性化合物Bを含有させていない前記電解液を用いて製造したリチウムイオン二次電池の放電容量とほぼ同じであった。これら両方の電池について、充放電特性を評価したところ、実施例3の電池の電圧はわずかに低くなったが、サイクル特性の低下は見られなかった。
実施例3の電池をドライボックス内で分解したところ、ゲル電解質前駆体はゲル化してゲル電解質を形成しており、電池容器を破壊してもゲル電解質は漏れ出てこなかった。
【0109】
[比較例1]
(ゲル電解質前駆体の製造方法)
架橋性化合物Aとしてのブタンテトラカルボン酸テトラ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)εカプロラクトン変性(株式会社ダイセル製、エポリードGT−401)(前記式A-1)を、実施例1で製造した電解液中に5重量%となる様に加え、比較例1のゲル電解質前駆体を得た。
【0110】
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で製造したゲル電解質前駆体を用い、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を製造しようとしたが、ゲル電解質前駆体がすぐにゲル化したため、電池セルへの注入が不可能であり、電池が製造できなかった。
【0111】
[比較例2]
(ゲル電解質前駆体の製造方法)
架橋性化合物Bとしてのアジピン酸ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)(前記式B-2)を、実施例1で製造した電解液中に8重量%となる様に加え、比較例2のゲル電解質前駆体を得た。
【0112】
(リチウムイオン二次電池の製造)
上記で製造したゲル電解質前駆体を用い、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池を得た。
【0113】
(電池性能の評価)
比較例2の電池の放電容量は、架橋性化合物Bを含有させていない前記電解液を用いて製造したリチウムイオン二次電池の放電容量とほぼ同じであった。これら両方の電池について、充放電特性を評価したところ、比較例2の電池の電圧はわずかに低くなったが、サイクル特性の低下は見られなかった。
比較例2の電池をドライボックス内で分解したところ、ゲル電解質前駆体はゲル化しておらず、電池容器を破壊すると液状のゲル電解質前駆体が漏れ出してきた。
【0114】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。