(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
クッション層が、ポリブチレンテレフタレート(A):0〜50質量%、およびエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)50〜100質量%の範囲で含む組成物〔但し、(A)+(B)=100質量%とする。〕からなることを特徴とする請求項3記載のプリント配線基板製造工程用多層離型フィルム。
プリント配線基板にエポキシ樹脂系接着層を介して保護フィルムを加熱・加圧して熱接着する工程において、保護フィルムと加圧板との間に請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のプリント配線基板製造工程用多層離型フィルムを介在させて加熱・加圧して熱接着を行い、熱接着後に当該プリント配線基板製造工程用多層離型フィルムを剥離する工程を含むことを特徴とするプリント配線基板の製造方法
【発明を実施するための形態】
【0010】
<ポリブチレンテレフタレート(A)>
本発明の多層離型フィルムの離型層を構成するポリブチレンテレフタレート(A)は、1.4−ブタンジオールとテレフタル酸から得られるエステルである。
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)は、好ましくは、固有粘度(IV)が1.0〜1.3、より好ましくは1.0〜1.2の範囲にある。
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)の固有粘度(IV)は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて、30℃で測定した溶液粘度から求められる。
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)は、減圧下もしくは不活性ガス流通下で200℃以上の温度で固相重合した原料を使用することが好ましい。固相重合することによりフィルム成形しやすい固有粘度に調整でき、さらに末端カルボン酸基量の減少、オリゴマーの減少が期待できる。
【0011】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)は、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸との重合体を骨格に有する限り、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とからなる、所謂、PBTと称されるポリブチレンテレフタレートであっても、ポリブチレンテレフタレートとポリエーテル、ポリエステル、あるいはポリカプロラクタムなどとのブロック共重合体であってもよい。
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)は、例えば、ポリプラスチックス社から、商品名 ジュラネックス700FP(IV:1.1)、ジュラネックス500FP(IV:0.9)、三菱エンジニアリングプラスチック社から、商品名 ノバデュラン5010CS(IV:1.1)、ノバデュラン5505S(IV:1.2)、長春社から、商品名 1100−211S(IV:1.2)として、製造・販売されている。
【0012】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)のガラス転移点と融点は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて280℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル約10mgを精秤し、窒素気流中、10℃/分の昇温速度で280℃まで昇温して熱融解曲線を得、得られた熱融解曲線から、ガラス転移点(Tg)(℃)と融点(Tm)(℃)が求められる。
【0013】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)には、本発明の目的を損なわない範囲で、慣用の添加剤などを配合することが出来る。斯かる添加剤としては、特に制限されず、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤の他、滑剤、紫外線吸収剤、触媒失活剤、結晶造核剤などが挙げられる。これらの添加剤は、重合途中または重合後に添加することが出来る。更に、本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)に、所望の性能を付与するため、難燃剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することが出来る。
【0014】
安定剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などの抗酸化剤、滑剤としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸およびそのエステルなどが挙げられる。
【0015】
結晶核剤としては、脂肪族エステル、脂肪族アミド、脂肪酸金属塩等が挙げられ、脂肪族エステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド等の脂肪酸エステル、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド等のヒドロキシ脂肪酸エステル;脂肪族アミドとしては12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスカプリル酸アミド等の脂肪族ビスアミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド;脂肪酸金属塩としては、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム等のヒドロキシ脂肪酸金属塩等が挙げられる。結晶化速度と耐熱性、感温性、さらには透明性の観点から、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、ベヘニン酸モノグリセライド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド、エチレンビスカプリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミドが好ましく、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、エチレビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミドがより好ましく、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドがさらに好ましく、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミドが特に好ましい。
【0016】
難燃剤としては、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物などが挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)には、本発明の目的を損なわない範囲で、強化充填材を配合することが出来る。強化充填材としては、特に制限されないが、例えば、板状無機充填材、セラミックビーズ、アスベスト、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムや、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維などが挙げられる。これらの強化充填材は、2種以上を組み合わせて使用することが出来る。上記の強化充填材の中では、無機充填材、特にガラス繊維が好適に使用される。
【0018】
強化充填材は、ポリブチレンテレフタレート(A)との界面密着性を向上させるため、収束剤または表面処理剤で表面処理して使用することが好ましい。収束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、アクリル系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物などの官能性化合物が挙げられる。強化充填材は、収束剤または表面処理剤により予め表面処理しておくことが出来、または、ポリブチレンテレフタレート(A)の組成物の調製の際に、収束剤または表面処理剤を添加して表面処理することも出来る。強化充填材の添加量は、ポリブチレンテレフタレート(A)100質量部に対し、通常、150質量部以下、好ましくは1〜50質量部の範囲である。
【0019】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)には、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することが出来る。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)に、更に、核剤(B)をポリブチレンテレフタレート(A)100質量部に対して、好ましくは0.01〜3質量部、より好ましくは0.01〜0.5質量部含む、さらに好ましくは0.05〜0.3質量部含むと、より剥離性に優れる剥離フィルムを得ることができる。
【0020】
本発明に係るポリブチレンテレフタレート(A)に配合して使用される核剤(B)としては、公知の有機系結晶核剤や無機系結晶核剤を用いることができる。
無機系結晶核剤としては、タルク、カオリン、モンモリロナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、シリカ、グラファイト、カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム、第2リン酸アルミニウム、第3リン酸カルシウム及びフェニルホスホネートの金属塩等を挙げることができる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていてもよい。
【0021】
有機系結晶核剤としては、フェニルホスホン酸(塩)又はその誘導体、例えば、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸ジクロライド、フェニルホスホン酸ジメチル、リン酸メラミン、ビス(p-メチルペンジリデン)ソルビトール,ビス(p-トルイリデン)ソルビトール等が好ましい。
その他の有機系結晶核剤としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエート、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ−ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレート等の有機カルボン酸金属塩、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウム等の有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)等のカルボン酸アミド、エチレン−アクリル酸又はメタクリル酸コポリマーのナトリウム塩、スチレン−無水マレイン酸コポリマーのナトリウム塩等のカルボキシル基を有する重合体のナトリウム塩又はカリウム塩(いわゆるアイオノマー)、ベンジリデンソルビトール及びその誘導体、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート等のリン化合物金属塩、及び2,2−メチルビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ナトリウム等を挙げることができる。
これら核剤の中では、ビス(4−メチルベンジリデン)ソルビトール、ナトリウム−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ステアリン酸マグネシウム、エチレン・ビスステアリン酸アミドなどが好ましい。
【0022】
<エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)>
本発明の多層離型フィルムのクッション層を構成するエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)は、エチレンと不飽和カルボン酸エステルであるメタクリル酸エステルからなる共重合体である。
本発明に係るエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)のメルトフローレート(MFR)は0.1〜20g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.5〜15g/10分であり、さらに好ましくは1〜10g/10分である。MFRが小さすぎると押出加工した時に押出機の負荷が高くなることがあり、MFRが大きすぎると押出サージングが発生することがある。なお、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)のMFRは、JIS K 7210に従い、温度190℃
、荷重21.18Nの条件で測定される。
【0023】
本発明に係るエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)は、公知の製造方法、例えば、有機過酸化物や酸素等の遊離基発生剤を使用するラジカル共重合反応等が挙げられる。ラジカル共重合反応は、通常130〜300℃の重合温度、通常40〜300MPaの重合圧力で実施される。
本発明に係るエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)におけるメタクリル酸エステルから誘導される繰り返し単位の含有量は2〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜25重量% である。当該含有量が少なすぎると、クッション性が低くなることがあり、該含有量が多すぎると、フィルムに加工する際に耐熱性が低下し、冷却ロールに巻き付く等の加工性に劣ることがある。
【0024】
本発明に係るエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)は、例えば、住友化学社から、商品名 アクリフトWD201(MFR:2g/10分、メタクリル酸メチル単量体単位含有量:10質量%)、アクリフトWD206(MFR:2g/10分、メタクリル酸メチル単量体単位含有量:20質量%)として、製造・販売されている。
本発明に係るエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)の融点は、示差走査型熱量計(DSC)を用いて160℃で5分間加熱溶融した後、液体窒素で急冷して得たサンプル約10mgを精秤し、窒素気流中、10℃/分の昇温速度で160℃まで昇温して熱融解曲線を得、得られた熱融解曲線から、融点(Tm)(℃)が求められる。
【0025】
<クッション層>
本発明の離型フィルムを使用する際に、加熱プレスの圧力を均一にかけることができ、プリント配線の凹凸に追従できる他の層としてクッション層を積層して使用することができる。このようなクッション性に優れる他の層としては、具体的には軟化温度(ビカット軟化温度)が50℃から150℃、好ましくは70℃から120℃の範囲で軟化する樹脂を含むフィルムが好ましい。樹脂の軟化温度が50℃未満であると離型フィルムの剛性が不十分となり、プレス時離型フィルムにシワが入りやすくなり、これらのシワが配線基板へ転写し不良につながる恐れがある。一方、150℃を越えると成形性が低下し、配線基板細部にボイドが発生する恐れがある。
【0026】
このような樹脂として、具体的には低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンメチルメタクリレート共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンプロピレン共重合体、エチレンブテン共重合体、プロピレンブテン共重合体などのポリオレフィン樹脂、またはこれらは単独で使用しても2種類以上が併用されても良い。
【0027】
本発明の多層離型フィルムのクッション層を形成する組成物は、ポリブチレンテレフタレート(A)からなる離型層との層間接着強度を上げる観点において、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)を含むことが好ましい。クッション層を形成する組成物は、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)のみから構成されていてもよく、前記エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)を含む樹脂組成物から構成されていてもよい。エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)を含む樹脂組成物から構成される場合、当該樹脂組成物は、更にポリブチレンテレフタレート(A)を含むことが好ましい場合がある。クッション層にポリブチレンテレフタレート(A)を含むことで、離型層との層間接着強度がより高められる場合がある。
【0028】
エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)とポリブチレンテレフタレート(A)の比率は、ポリブチレンテレフタレート(A)が0〜50質量%、好ましくは5〜45質量%、より好ましくは10〜40質量%、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)が50〜100質量%、好ましくは55〜95質量%、より好ましくは60〜90質量%の範囲にあることが好ましい〔但し、(A)+(B)=100質量%とする。〕。
ポリブチレンテレフタレート(A)の配合比率が0又は少ないと、プレス時に多層離型フィルム端面からクッション層成分が染み出しやすくなり、プレス後、多層離型フィルムを手で剥がす際にハンドリング性が低下したり、配線基板を汚染するなどの問題が生じる恐れがある。またポリブチレンテレフタレート(A)の配合比率が多いと、多層離型フィルム自体の剛性が高くなり、プレス時、カバーレイフィルムの厚みによる段差を十分に埋め込むことができず、端面のエポキシ接着剤成分の染み出しが多くなり、染み出した端子部でめっき不良が生じたりや接触不良が起きるなどの不具合が生じる恐れがある。このような観点からポリブチレンテレフタレート(A)の配合比率は0〜50質量%、好ましくは5〜45質量%、より好ましくは10〜40質量%が望ましい。
【0029】
<多層離型フィルム>
本発明の多層離型フィルムは、少なくとも一方の表面に二軸延伸された前記ポリブチレンテレフタレート(A)を含む離型層を有する多層離型フィルムであり、好ましくは離型層の複屈折ΔNxz及びΔNyzの値がいずれも1.0×10
−2〜2.0×10
−1であり、更に好ましくは5.0×10
−2〜1.8×10
−1、より好ましくは8.0×10
−2〜1.6×10
−1の範囲にある。
複屈折ΔNxz及びΔNyzの値が1.0×10
−2より低いと、ポリブチレンテレフタレートのフィルム面方向の配向性が低く、カバーレイフィルム貼り付け工程で、離型性不十分による搬送異常や基板折れ曲がり痕が生じたり、フィルム中に含まれる副生成物がフィルム表面にブリードし基板を汚染させる恐れがある。また、2.0×10
−1より高いと離型性は優れたものとなるが、延伸時にフィルムが破断しやすくなったり、厚み精度が得られ難くなるなどの生産上の問題が生じやすくなる恐れがある。
【0030】
本発明の多層離型フィルムは、離型層とクッション層が共押出されて多層シートを得た後、当該多層シートを二軸延伸することにより、当該プリント配線基板のカバーレイフィルム貼り付け工程で問題となるエポキシ接着剤層に対して優れた離型性、耐熱性、対汚染性が得られることを見出した。
優れた離型性が発現する要因はまだはっきりとは究明できていないが、延伸処理により、ポリブチレンテレフタレートの単位骨格中に含まれる極性成分カルボキシル基がフィルム面に対して平行に配向し、すなわち、フィルム表面に垂直なカルボキシル基成分が減少することでフィルム表面が疎水的になることや、フィルム中に含まれる副生成物がフィルム表面にブリードしにくくなること、延伸配向に伴ってフィルム表面の結晶化がより促進されることなどにより、対エポキシ接着剤層に対して非常に優れた離型性が得られると推測している。
【0031】
本発明の多層離型フィルムは、離型層の複屈折が所定の範囲にある二軸延伸されたポリブチレンテレフタレート(A)を含む離型層があることが必須条件であるが、クッション層は、延伸されていてもされていなくても良い。クッション層が離型層と共に共押出されて多層シートを得た後、二軸延伸したものでもよいし、またはクッション層に無延伸フィルムを用いて、公知の方法、例えばドライラミネーション法や熱融着ラミネーション法などを用いる方法や、または二軸延伸されたポリブチレンテレフタレート(A)を含む離型層を製膜しながらインラインでクッション層を押出してラミネーションする方法など、離型層とクッション層を張り合わせる方法でも良い。
【0032】
本発明の多層離型フィルムは、クッション層の両面に上記ポリブチレンテレフタレート(A)を含む離型層が積層されていてもよい。
本発明の多層離型フィルムとして、上記ポリブチレンテレフタレート(A)100質量部に対して、核剤(B)を0.01質量部以上含む組成物を用いた場合は、得られる離型フィルムは、よりエポキシ樹脂系接着剤層との剥離性に優れる離型フィルムとなる。
本発明の多層離型フィルムは、ポリブチレンテレフタレート(A)を含む離型層と組成物からなるクッション層を有するが、当該層を有する限り、他の熱可塑性樹脂からなる層を有していてもよい。
【0033】
本発明の多層離型フィルムは、上記ポリブチレンテレフタレート(A)を含むが、離型層が、他の熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を含む場合は、離型層に含まれるポリブチレンテレフタレート(A)の量は、通常、50質量%以上、好ましくは80質量%以上であり、他の熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂を含まないポリブチレンテレフタレート(A)からなる離型層であってもよい。
本発明の多層離型フィルムは、少なくとも片面、すなわち、ポリブチレンテレフタレート(A)からなる層が、離型層すなわちエポキシ樹脂系接着剤などの接着剤との接合面となる必要がある。
本発明の多層離型フィルムは、層間接着強度を上げるために、離型層とクッション層の間に接着層を設けても良い。その場合は、離型層とクッション層と接着層とを共に共押出されて多層シートを得た後、二軸延伸したものでもよいし、またはクッション層に無延伸フィルムを用いて、公知の方法、例えばドライラミネーション法や熱融着ラミネーション法などを用いて離型層とクッション層との間に接着層を設けて張り合わせる方法でも良い。
【0034】
本発明の離型フィルムは、引張速度300mm/分での180度剥離によるエポキシ樹脂系接着剤層と離型フィルム間の剥離強度が、通常、2.5N/15mm以下、好ましくは0.1〜2.0N/15mmの範囲にあるので、エポキシ樹脂系接着剤層との剥離性に優れる。
【0035】
<多層離型フィルムの製造方法>
本発明の多層離型フィルムは、種々公知のフィルムの成形方法により製造し得る。例えば、ポリブチレンテレフタレート(A)、およびポリブチレンテレフタレート(A)とエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(B)を含む組成物とを多層テンター法あるいは多層環状ダイ法を用いて、共押出成形して多層シートを得た後、当該多層シートを二軸延伸することにより製造し得る。
本発明の多層離型フィルムは、テンター法もしくはチューブラー法製膜法等の公知の方法により製造できるが、厚みムラの少ない多層離型フィルムを製造するためには、テンター法が好ましい。
テンター法による二軸延伸方法としては、通常の同時二軸延伸法や逐次二段延伸法を用いることができる。核剤などで無機添加剤が高添加されたポリブチレンテレフタレート(A)を用いる場合には、延伸時にフィルムが破断しやすくなるが、同時二軸延伸法を用いることにより、多層離型フィルム中の空隙の発生を抑えるとともに破断の発生を低減することができるので、同時二軸延伸法がより好適である。
【0036】
本発明の多層離型フィルムを製造する場合、テンター法を用いる場合には、ポリブチレンテレフタレート(A)をT−ダイを備えた押出機に供給し、220〜280℃の温度でシート状に押し出し、この押し出されたシートを室温以下に温度調節した冷却ドラム上に密着させて冷却し、得られた未延伸シートを必要に応じて縦方向(MD)に1〜1.2倍程度の予備延伸し、その後にテンターにより、ポリブチレンテレフタレート(A)のガラス転移点(Tg)以上、融点(Tm)未満の温度(℃)、例えば70〜150℃で縦方向(MD)及び横方向(TD)に、それぞれの延伸倍率が1〜5倍、好ましくは1.5〜4倍、より好ましくは2〜3倍の範囲で二軸延伸し、さらに、TDの弛緩率を数%として、80〜220℃で数秒間熱処理を施すことによって多層離型フィルムとすることができる。
【0037】
延伸後の熱処理は、得られる多層離型フィルムの寸法安定性を付与するために必要な工程であるが、その方法としては、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等の公知の方法がある。このうち、均一に精度良く加熱できることから熱風を吹き付ける方法が最適である。加熱条件としては大気中で加熱温度100〜210℃が好ましく、さらには150℃〜190℃が好ましい。加熱時間は加熱方法により適宜条件を決めればよい。
本発明の多層離型フィルムは、上記記載の製造方法で得られた多層離型フィルムを、さらに加熱処理すると離型性が向上するので好ましい。
【0038】
本発明の多層離型フィルムを加熱処理する方法は、種々公知の方法、具体的には、テンター法で成形して得たロール状の多層離型フィルムを加熱された熱風オーブンにロール巻取り方式で通す方法、または、ロール巻取り方式で通しているライン上に、IRヒーターなどのヒーターを設置して離型フィルムを加熱する方法、ロール状の離型フィルムをシート状にカットした枚葉フィルムで、熱風オーブンで加熱処理する方法、テンター法で成形したロール状の離型フィルムをロール巻取り方式で加熱したロールに接触させる方法などを例示できる。
多層離型フィルムを加熱する熱源としては特に限定されないが、遠赤外線ヒーターや短波長赤外線ヒーター、中波長赤外線ヒーター、カーボンヒーターなどが好ましい。
中でも、テンター法で成形したロール状の多層離型フィルムをロール巻取り方式で加熱したロールに接触させる方法は、加熱したロールに直接多層離型フィルムが接触するため、離型フィルム表面の熱伝達が早くて済むため、加熱処理時間が比較的短時間にできるため生産性が高い。
【0039】
本発明の多層離型フィルムは離型層の表面に、エンボス加工など公知の表面処理法により表面に凹凸を設けても良い。エンボス加工による場合、高温、高圧にて、マットロールにフィルムを通すことによって行う方法、或いはダイスから出てきたフィルムにタッチロールでエンボス冷却ロールに押し当てる方法などが利用できる。このようなエンボス加工において温度は80〜220℃、好ましくは離型層樹脂の軟化温度100〜190℃が好ましい。多層離型フィルム表面に効率よく凹凸を設ける為に、エンボスロール直前に予熱ロールを設けても良い。予熱ロール温度は、50〜180℃、好ましくは90〜150℃が好ましい。エンボス加工時の圧力は、40〜160kgf/mm
2(ゲージ圧)、好ましくは60〜130kgf/mm
2である。エンボス用のマットロールの粗さは、10点平均粗さ(Rz)0.02μm〜1mmが好ましい。離型層の表面粗さは、Rz=0.1〜45μm、好ましくは1〜30μmである。離型層の表面粗さが前記の範囲より小さいと離型フィルムが被着体に密着しやすくなり破れが生じる恐れがある。一方、前記の範囲を超えると、エンボス柄が配線基板に転写される恐れがある。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。使用した樹脂組成物等は次の通りである。
本発明の実施例及び比較例で用いたポリブチレンテレフタレート及び結晶核剤、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体を以下に示す。
【0041】
(1)ポリブチレンテレフタレート(単独重合体)(PBT)
(A−1)Tg=52℃、Tm=223℃、IV=1.1、〔ポリプラスチックス(株)製、商品名:ジュラネックス700FP〕
(A−2)Tg=54℃、Tm=227℃、IV=1.2、〔長春製、商品名:1100−211S〕
【0042】
(2)結晶核剤
(B−1)ビス(4−メチルベンジリデン)ソルビトール、Tm=260℃〔新日本理化(株)製、商品名:ゲルオールMD〕
(3)エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)
Tm=100℃、MFR(g/10min)=2、〔住友化学(株)製、商品名:アクリフトWD201〕
【0043】
〈結晶核剤マスターバッチの造粒方法〉
上記記載のポリブチレンテレフタレート:100質量部と上記記載の各結晶核剤:5質量部の組成比でブレンド後、二軸押出機を使用し、250℃のシリンダー温度で溶融混練しペレット化し、結晶核剤の濃度が5質量%である結晶核剤マスターバッチを造粒した。
【0044】
〔実施例1〜7〕
表1および表2の一部に示すようにPBT及び結晶核剤、EMMA原料を40mmφの押出機に投入し、それぞれ樹脂温度250℃程度で3層共押出し法によりキャスティングロール温度20℃程度で冷却して厚さ400μmの多層シートを製膜した。得られたシートをバッチ式二軸延伸機を用いて、75℃で1分間予熱した後、75℃で延伸速度50mm/sで縦方向に2倍、横方向に2倍にて同時二軸延伸し、続いて190℃に加熱した熱風オーブン炉にて10秒間熱セットし、厚さ100μm(層比:離型層/クッション層/副離型層=25/50/25μm)の多層離型フィルムを得た。
【0045】
〔実施例8〜9〕
表2に示すPBT及び結晶核剤、EMMA原料を用いて、実施例1と同様にして、厚さ900μmの多層シートを製膜した。延伸倍率を縦方向に3倍、横方向に3倍にした以外は実施例1と同様に行い、実施例1と同じ層比で厚さ100μmの多層離型フィルムを得た。
【0046】
〔比較例1〜2〕
表2に示すPBT及び結晶核剤、EMMA原料を用いて、延伸処理を行わないこと以外は実施例1と同様に製膜し、実施例1と同じ層比で厚さ100μmの多層離型フィルムを得た。
【0047】
(評価項目)
(1)ビカット軟化温度 (℃)
厚さ3mmに圧縮成形したものを試験片とし、ASTM D−1525に準拠(荷重:1Kg、昇温速度:2℃/min)して測定した。
(2)屈折率、複屈折
多層離型フィルムから、PBT離型層を剥がして、PBT離型層の屈折率をアッベ(abbe)屈折計DR−M2((株)アタゴ製)を用いて下記のNx、Ny、NzをJIS
K 7142に準拠して測定した。
すなわち、測定光としてD線(波長589nm)を使用して、PBT離型層の直交3方向の屈折率Nx、Ny、Nzを測定し、その測定で得られた数値から以下の屈折率、複屈折を求めた。
Nx:PBT離型層の長手方向(MD)の屈折率
Ny:PBT離型層の幅方向(TD)の屈折率
Nz:PBT離型層の厚み方向の屈折率
複屈折であるΔNxz(=Nx−Nz)及びΔNyz(=Ny−Nz)の値
【0048】
(3)引張弾性率(MPa)
多層離型フィルムの長さ方向が縦方向(MD)、幅方向が横方向(TD)となるようにして、縦方向(MD)200mm、横方向(TD)15mmの短冊状の試験片を切出し、引張り試験機を用いて、JIS K 7127に準拠して引張弾性率を測定した。
【0049】
(4)エポキシ離型性評価
図1に示すようにカバーレイフィルム(保護フィルム)2〔商品名:カバーレイCISV2535(ニッカン工業(株)製 ポリイミド層2-1厚さ:25μm、エポキシ樹脂系接着剤層2-2厚さ:35μm)〕のエポキシ樹脂系接着剤層2-2と多層離型フィルム1を同じ縦方向(MD)になるようにして重ね合わせ、更に、その外側にアルミ板とSUS板で挟みこみ(図示せず)、加熱プレス機にセットした。温度180℃、圧力4MPa、加圧時間120秒の条件で加熱プレスし、プレス圧を解放し冷却した後、カバーレイフィルム2と多層離型フィルム1が重なり合った試験片を得た。これを縦方向(MD)200mm、横方向(TD)15mmの短冊状の試験片を切出し、引張り試験機を用い、室温下、引張速度300mm/分でカバーレイフィルムを180度剥離で引張り、エポキシ樹脂系接着剤層と離型フィルム間の剥離強度を測定した。エポキシ離型性の判定は、2.5N/15mm以下が使用可能な範囲で(判定:△)、好ましくは2.0N/15mm以下(判定:○)、より好ましくは0.1〜1.0N/15mm以下(判定:◎)が望ましい。2.6N/15mm以上は剥離不良などの不具合が発生しやすくなるので、判定:×とした。
【0050】
(5)カバーレイ接着剤染み出し長さ
ポリイミド層とエポキシ樹脂系接着剤層からなるカバーレイフィルム〔ニッカン工業(株)製、商品名:CISV2535〕を用いた。このカバーレイフィルムにはプリント配線基材の端子部分に相当する窓4が打ち抜かれており、打ち抜き部の大きさは50mm×50mmである。このカバーレイフィルム2と厚さ12μmの銅箔3を重ね合わせ、その両面側を多層離型フィルム1で挟み込んだ状態で(
図2)、加熱プレス機にセットした。温度180℃、圧力4MPa、加圧時間120秒の条件で加熱プレスし、プレス板開放し冷却した後、離型フィルム1をカバーレイフィルム2が接着した銅箔3から離型させた。カバーレイフィルム窓部端面から染み出したエポキシ樹脂系接着剤の染み出し部5のエポキシ接着剤成分の長さをフィルム面上部から光学顕微鏡で観察し測定した。測定はカバーレイフィルム窓部端面4辺に対し各辺2点ずつ測定し、これらの平均値をカバーレイフィルム接着剤染み出し長さとした。
【0051】
カバーレイフィルム接着剤染み出し長さの判定は、200μm以下が使用可能な範囲で(判定:△)、好ましくは120μm以下(判定:○)、より好ましくは90μm以下(判定:◎)が望ましい。200μmを超える接着剤の染み出しがあるとめっき不良が発生しやすくなるので、判定:×とした。
【0052】
(6)多層離型フィルム端面染み出し長さ
多層離型フィルム(大きさ70mm×70mm)と厚さ12μmの銅箔(大きさ100mm×100mm)を重ね合わせ、更に、その外側にアルミ板とSUS板で挟みこみ、加熱プレス機にセットした。温度180℃、圧力4MPa、加圧時間120秒の条件で加熱プレスし、プレス圧を解放し冷却した後、多層離型フィルム端面から染み出したクッション層成分の長さをフィルム面上部から光学顕微鏡で観察し測定した。測定は多層離型フィルム4辺に対し各辺2点ずつ測定し、これらの平均値を離型フィルム端面染み出し長さとした。
多層離型フィルム端面染み出し長さの判定は、400μm以下が使用可能な範囲で(判定:△)、好ましくは330μm以下(判定:○)、より好ましくは300μm以下(判定:◎)が望ましい。400μmを超えるフィルム端面の染み出しがあるとハンドリング性が著しく低下するので、判定は×とした。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】